グローバル処理傾向と表情・人物認知 [ PDF
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(2) 判断に与える影響も大域優先性が高ければ小さくなる か全く見られないと考えられる。 方法 実験参加者. 大学生 164 名が実験に参加した。分析対. 象になったのはこのうちの 127 名(男性 43 名,女性 84 名,平均年齢 19.1 歳)であった。 課題. (a)複合数字抹消検査,(b)表情と人物の選択的. 注意課題を使用した。 (a)複合数字抹消検査は 5 ページから成る筆記用具で解 答できる検査用紙であり,刺激図形の種類によって 4 つの課題に分けられていた。刺激図形は局所文字によ. 課題 4 は 4 表情のいずれかを示す男性 4 名の顔画像が. って構成された大域文字であり,課題は刺激図形の局. 提示され,それぞれの男性に当てはまる記号を選択肢. 所文字あるいは大域文字を判断するというものであっ. から選ぶ表情変化条件であった。. た(図 1)。課題 1 の刺激図形はドットから構成された数. 手続き. 字であり,大域文字が 3 か 6 の図形を選択する局所統. 表情と人物の選択的注意課題の順で行われた。課題ご. 制条件であった。課題 2 の刺激図形は局所文字と大域. とに検査用紙を配布し,実験参加者は筆記用具で実験. 文字で一致しない数字であり,大域文字が 3 か 6 の図. 者の指示に従って用紙に記入するように教示した。複. 形を選択する局所変化条件であった。課題 3 の刺激図. 合数字抹消検査の 1 課題あたりの検査時間は 30 秒で合. 形は数字が縦横に 5×5 で並べられており,局所文字が. った。課題ごとに大域文字あるいは局所文字に 3 か 6. 3 か 6 の図形を選択する大域統制条件であった。課題 4. の数字が見られる刺激図形の上に筆記用具で斜線を入. の刺激図形は局所文字と大域文字が一致しない大域変. れるように教示した。課題開始の合図と同時に解答を. 化条件であった。検査用紙 1 ページに 1 課題となって. 始め,終了の合図と同時に筆記用具を置くように求め. おり,それぞれの課題に刺激図形が 128 個提示され,. た。各課題に提示された刺激図形の上段から順番に選. そのうちの 64 個が正答であった。. 択するように指示し,制限時間内に出来るだけ速く正. (b)表情と人物の選択的注意課題は筆記用具で解答を. 確に遂行するように教示した。表情と人物の選択的注. 記入する課題用紙であり,表情を判断する表情課題(課. 意課題の 1 課題あたりの検査時間は練習試行も本試行. 題 1,2)と人物を判断する人物課題(課題 3,4)から構. も 30 秒であり,人物学習の時のみ実験参加者全員が学. 成されていた。課題用紙に喜び・怒り・驚き・悲しみ. 習を終えたのを確認してから次の課題に移った。課題. の 4 表情を示す日本人男性 4 名の顔写真が刺激画像と. ごとに上から順番に顔画像を判断して該当箇所に筆記. して提示された。課題ごとに練習試行と本試行を行い,. 用具でチェックマークを記していくように指示し,制. 練習試行では 16 枚,本試行では 32 枚の顔画像が提示. 限時間内に出来るだけ速く正確に遂行するように教示. された。それぞれの課題で練習試行 1 ページ,本試行 1. した。最後に課題用紙を回収して実験を終了した。. 実験は集団で実施され,複合数字抹消検査,. ページであった。課題 1 は 4 表情のいずれかの表情を した男性 1 名の顔画像が提示され,男性がどの表情を. 結果. 示しているかを選択肢の中から選ぶ人物統制条件であ. 大域優先性得点. 個人ごとに複合数字抹消検査の各課. った。課題 2 は 4 表情のいずれかを示す男性 4 名の顔. 題の正答数を求め大域優先性得点を算出した。算出式. 画像が提示され,男性が示す表情を選択肢の中から選. は,. ぶ人物変化条件であった。人物課題の前に人物学習を. (課題 3 正答数-課題 4 正答数)/課題 3 正答数. 行い,無表情の男性 4 名の顔画像と A,B,C,D の記号の. -(課題 1 正答数-課題 2 正答数)/課題 1 正答数. 組み合わせを覚えた。以後の人物課題では刺激画像と. であった。大域優先性得点の平均値は-0.25 であった。. 同時に人物学習に用いられた顔画像と記号の組み合わ. 表情判断・人物判断成績. せの表が提示されていた。課題 3 は喜びの表情をした. 題の各課題の達成数と正答数を求め,個人ごとに人物. 男性 4 名の顔画像が提示され,それぞれの男性に当て. 干渉率,表情干渉率,正答率,達成率を算出した。人. はまる記号を選択肢から選ぶ表情統制条件であった。. 物干渉率の算出式は,. 2. 表情と人物の選択的注意課.
(3) 表 1 大域優先性得点と人物と表情の選択的注意課題の相関係数. 表情と人物の選択的注意課題 人物統制条件. 大域優先性得点. 人物変化条件. 表情統制条件. 表情変化条件. 達成率. 正答率. 達成率. 正答率. 達成率. 正答率. 達成率. 正答率. -.138. -.124. -.246 **. -.051. .028. .200 **. .044. -.077. 人物干渉率. .136. 表情干渉率. .076. * p<.05, ** p<.01. (課題 1 正答数-課題 2 正答数)/課題 1 正答数. 情報が人物情報に先行して処理された可能性がある。. であり,表情干渉率の算出式は,. しかし人物判断課題において表情変化の有無に関わら. (課題 3 正答数-課題 4 正答数)/課題 3 正答数. ず達成率には大域優先性得点との相関がなく,顔画像. であった。また各課題の達成数を全項目数 32 で割った. の視覚的情報処理そのものは大域優先性の個人差と無. ものを達成率,正答数を達成数で割ったものを達成率. 関係に行われていると考えられる。視覚的情報処理量. とした。. に差が見られないという点で,表情情報の干渉を受け. 相関分析. 大域優先性得点と人物干渉率,表情干渉率,. た場合の人物判断では大域優先性が無効化する可能性. 表情と人物の選択的注意課題の各課題の達成率と正答. がある。表情情報が人物判断における大域優先性を損. 率の間の相関関係を調べる為に相関分析(Pearson の積. なったとすれば,大域優先性が高いほど表情情報と人. 率関数)を行った(表 1)。大域優先性得点と人物干渉率,. 物情報の識別処理がより困難になると言える。表情干. 表情干渉率との間に相関は示されなかった。大域優先. 渉率と大域優先性得点の間には相関関係がなかった。. 性得点と,表情と人物の選択的注意課題の人物変化条. 人物判断で表情情報の干渉の影響には大域優先性の個. 件の達成率との間に負の相関(r =-.246, p <.01),表. 人差は関係しない。しかし人物判断の正確さにおいて. 情 統 制 条 件 の 正 答 率 と の間 に 正 の 相 関 (r =.200, p. 表情情報が大域優先性に対して負の影響を与えること. <.01)が示された。. は明らかである。表情情報と人物情報の識別に大域優 先性がどのように関わっているのか,その処理メカニ 考察. ズムを検討する必要がある。次に表情課題の人物変化. 本研究の目的は視覚的情報処理の大域優先性と人物. 条件の達成率と大域優先性得点との間に負の相関が見. 認知・表情認知の間にどのような関係性があるのか明. られた。すなわち大域優先性が高いほど表情情報が人. らかにすることであった。まず顔画像の人物に該当す. 物情報から受ける干渉が大きく,表情情報処理量が減. る記号を選択する人物判断課題では,大域優先性得点. ったと考えられる。一方で人物統制条件の達成率と大. と表情統制条件の正答率との間に正の相関が示された。. 域優先性得点の間には相関関係がなかったことから,. この結果は Darling et al.(2009)の実験結果に一致し. 局所優先性の強い個人ほど表情情報処理を遂行しやす. ている。表情統制条件では全ての顔画像の表情が統一. かった訳ではないと考えられる。むしろ人物情報処理. されていて,人物判断に表情情報の干渉がなかったと. に大域優先性が強く働く為に大域優先性が高いほど人. 考えられる。一方で顔画像の表情が変化した表情変化. 物情報が表情情報に与える干渉が大きくなり,人物変. 条件では人物判断に表情情報の干渉があった為に,大. 化条件の達成率に負の影響を与えたのだと考えられる。. 域優先性との相関関係は見られなかった。このことか. ただし人物変化条件の正答率に大域優先性の影響は見. ら人物判断の正確さに対しては表情情報の影響がある. られず,大域優先性が人物情報処理に大きく負荷をか. と考えられる。人物判断課題では表情統制条件が人物. けたとしても表情判断の正確さを損なってはいない。. 情報処理のみに従事出来たのに対して,表情変化条件. 人物干渉率と大域優先性得点にも相関がなく,大域優. では人物情報処理以前に顔画像に含まれる表情情報と. 先性に関係なく人物情報が表情情報処理の正確さに与. 人物情報との識別処理過程があったと思われる。篠. える影響に違いはなかったと考えられる。しかし単純. 崎・米村・杉浦(2009)の表情に非注意的な人物識別課. に大域優先性が高いほど人物情報処理は正確さとは別. 題を行った結果によれば,表情の種類によって人物識. に負荷がかかると想定すると,人物判断で達成率と大. 別時間に差が出ることが分かっている。すなわち表情. 域優先性得点の間に負の相関があると予想することが. 3.
(4) 可能だが,実験結果から人物判断課題の表情統制条件. められるだろう。また制限時間内に多くの判断を行う. の達成率と大域優先性得点との間に相関関係は見られ. ように求めていたので個々の顔画像を注視する時間が. なかった。ゆえに大域優先性が高いから人物情報処理. 短かったと思われる。顔画像の提示方法に関して同時. に余分に負荷がかかったというよりも,顔画像の人物. 判断と継時判断のどちらが適当か求める指標の内容に. 情報と表情情報の識別処理にかかった時間に個人差が. よって変更する必要があるかもしれない。本研究では. あったと思われる。要するに顔画像から人物情報を取. 視覚的情報処理傾向と顔認知との関係性を,大域優先. り除く際に,大域優先性が高いほど時間がかかる。表. 性と人物認知・表情認知の観点から検討してきた。実. 情情報の干渉を受けた人物判断では大域優先性に関わ. 験結果からは大域優先性と人物認知との間の関係性が. らず顔情報処理量が維持されたのに対して人物情報処. 認められ,表情認知に関しては大域優先性と局所優先. 理の正確さが損なわれた。一方の人物情報の干渉を受. 性とどちらがより重要なのか実験方法の再検討を加え. けた表情判断では人物情報処理の正確さが維持された. ての今後の研究が求められる。. 代わりに顔情報処理の遂行が妨げられた。これらの結 果から,人物認知と表情認知の処理メカニズムが異な. 主要引用文献. ることがわかる。表情情報と人物情報の処理傾向に加. 番場あやの・上村保子(2007). 基本 6 表情認知におけ. えて表情認知と人物認知の相互関係性についても更な. る注視部位の基礎的検討-FACS に基づいた日本人表. る検討が必要である。また表情判断や人物判断の達成. 情刺激を用いて-. 数については判断の正確さが表情情報あるいは人物情. 究科紀要, 16, 73-84.. 昭和女子大学大学院生活機構研. 報の処理に特化できるのと違い,顔情報から表情情報. Bruce, V., & Young, A. (1986). Understanding face. と人物情報を識別する処理工程を含む為にどちらかの. recognition. British Journal of Psychology, 77,. 処理に特化できない。先行研究では反応時間が用いら. 305-327.. れているが,視覚的情報を判断するという性質の研究. Darling, S., Martin, D., Hellmann, J. H., & Memon,. では判断の正確さと速度との違いを明確化することが. A. (2009). Some witness are better than others.. 重要である。最後に全体的な視覚的情報処理傾向につ. Personality. いて,分析対象者の大域優先性得点の平均値を求めた. 369-373.. ところ全体的にマイナスの傾向があることがわかった。. and. Individual. Difference ,. 47,. 小松佐穂子・箱田裕司(2009). 表情と人物の選択的注. すなわち分析対象者のほとんどが大域優先性とは逆の. 意課題と EI. 視覚的情報処理傾向を持っていた。視覚的情報処理の. 683.. 日本心理学会第 73 回大会発表論文集,. 大域優先性が見られなかったのは本研究の課題による. Macrae, C. N., & Lewis, H. L. (2002). Do I Know You?. ものか,それとも環境や性差といった分析対象者自身. Processing Orientation and Face Recognition.. の特性によるものであるのかは不明である。本研究で. Psychological Science, 13, 194-196.. は大域優先性の個人差を扱っているので視覚的情報処. Martin, S., & Macrae, C. N. (2010). Processing style. 理傾向の影響を調べるという目的に対して支障はなか. and. ったと思われる。だが今後の視覚的情報処理の研究に. inversion effect. Visual Cognition, 18, 161-170.. とって大域優先性あるいは局所優先性に影響する要因. person. Navon,. D.. recognition: (1977).. Forest. Exploring Before. the Trees:. face The. が何であるのかを明らかにすることは有意義であろう。. Precedence of Global Features in Visual Perception.. また表情判断・人物判断に用いた顔画像は実物の顔に. Cognitive Psychology, 9, 353-383.. 比べて非常に小さく,顔の特徴部位が見えづらかった. 篠崎健育・米村恵一・杉浦彰彦(2009).. 可能性がある。番場・上村(2007)は顔を口や鼻といっ. 相互作用を考慮した顔認知モデル. た特徴部分の総和としてではなく,まとまりのある全. 会論文誌, J92-A, 397-402.. 表情認知との. 電子情報通信学. 体すなわちゲシュタルトとして捉えることについて言. Song, Y., & Hakoda, Y. (2011). The Relationship. 及している。表情をゲシュタルト的に判断していると. between Grobal/local Processing and Cognitive. 考えるならば表情判断の成績と大域優先性との間に正. Flexibility. Tsukuba International Conference on. の相関が見られた可能性もある。表情判断には局所優. Memory. Poster presentation, Gakushuin University,. 先性があるのかゲシュタルト的に捉えるものなのかを. 6-8th.. 検討する為にも,提示する顔画像の大きさを調整が求. 4.
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