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キロ粒剤〜その特徴と今後の展望〜183
は じ め に
粒剤とは名前の通り,“粒” の形状をした農薬の製剤 形である。農薬取締法では 297 〜 1,690 μ m の粒度で,
そのまま圃場に使用する製剤として定義されている。
粒剤の使用場面は,水田,畑,育苗箱等であるが,中 でも,1,000 m
2(10 a)当たりの標準処理薬量が 1 kg で ある製剤を 1 キロ粒剤としている。
本稿では 1 キロ粒剤開発の発端となった水稲用除草剤 の 1 キロ粒剤について,その歴史から処方確立の工夫な どについて報告する。
I 開 発 の 経 緯
1990 年以前は, 1,000 m
2の水田に 3 〜 4 kg を散布す る粒剤が使用されていた。しかし,農家にとって粒剤散 布は重労働であった。標準的な水田である 3,000 m2(横
30 m×縦 100 m)に粒剤を散布する際の問題点を以下
に記す。
① 動力散布機では 10 m 程度しか粒が飛ばないため,
畦畔からの散布において粒が到達しない中央部には人が 中に入って粒剤を散布しなければならなかった。
② 動力散布機の重量は約 10 kg であり,3,000 m
2の 水田に散布する場合,粒剤の重量も合わせて約 20 kg を 背負わなければならなかった。
このような問題点に対して, 1990 年に財団法人日本 植物調節剤研究協会(現公益財団法人日本植物調節剤研 究協会)および全国農業協同組合連合会より 1 キロ粒剤 の開発が提唱された(日本植物調節剤研究協会, 1995 )。
趣旨は,粒剤の散布量を従来の 3 分の 1 ( 3 キロから 1 キロ)にすることによって,以下に記す様々なメリッ トを狙ったものであった。
① 散布労力の軽減化
② 運搬,倉庫保管にかかる経費の削減
③ 製剤原材料コストの低減
上記提唱を業界側も受け入れ,水稲用除草剤の 1 キロ 粒剤の委託試験,登録作業が急ピッチで進められ,1993 年から上市された。
その後,殺虫剤,殺菌剤の分野でも水田に散布する 1 キロ粒剤が開発されている。
なお,開発時には想定していなかったが,製剤量が 3 分の 1 になることにより,製造時に使用する電力などの エネルギー量に加え,トラック輸送に使用するガソリン や軽油が減少し,環境中に排出する二酸化炭素量の削減 にも大きく貢献する結果となった。
II 1 キロ粒剤と 3 キロ粒剤の比較
1 キロ粒剤と 3 キロ粒剤の物理性および粒の写真を 表― 1 に示す。
1 キロ粒剤は水田に入らずに畦畔から動力散布機で散 布する設定で製造されており,標準的な水田(30 m ×
100 m)では粒剤を畦畔から 15 m 以上先まで飛ばさな
ければならない。したがって, 3 キロ粒剤と比較して,
粒径を太くすることにより 1 粒の重量を増やし,粒の飛 距離を長くする設計がなされている。
一方,単位面積当たりの粒数を 3 キロ粒剤と比較する と,使用量の減少で 3 分の 1 に,さらに 1 粒の重量増も 加わり, 7 分の 1 以下になっている。 1 粒でカバーしなけ ればならない面積が 7 倍以上になり,有効成分の含有量 が 3 倍になるが,その他添加物の量は増やせないことか ら 3 キロ粒剤より高度な製剤設計が必要になってくる。
III 水稲用除草剤に求められる水中溶出性
水稲用除草剤は有効成分が水中に溶出し,直接的に雑 草に接触・吸収されて効果を発現する。また,土壌表面 に吸着されて処理層を形成し,後次発生する雑草に対し て効果を発現する。
医薬製剤と同様に各有効成分に最適な溶出速度が存在 し,図― 1 の中央の溶出曲線のように水稲に影響を与え
1 キロ粒剤〜その特徴と今後の展望〜
農薬製剤・施用技術の最新動向⑪
日本農薬株式会社研究本部総合研究所 髙鳥 尚彦
(たかとり なおひこ)リレー連載
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植 物 防 疫 第
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巻 第3
号 (2017年)184
ずに雑草だけを枯らす水中濃度が求められる。
また,水田では多種多様な雑草が発生するため,一つ の有効成分だけでは防除できず,雑草種にあわせた有効 成分を数種組合せた混合製剤が使用されるケースがほと んどである。
この場合,一つの粒の中で有効成分ごとに異なる水中 溶出性を示す製剤が求められる。
この水中溶出速度の調整は,以下に記載する製剤処方 の選択に負うところが大きい。
IV 製 剤 処 方
1 キロ粒剤は有効成分,界面活性剤,結合剤,キャリ アー等から構成されている。有効成分以外の成分の種 類・量を調整することにより,最適な生物性能ならびに 環境や散布者への安全性を担保するようにしている(日 本農薬学会, 1997 )。
各成分の性能や役割を以下に記載するが,各成分の微 妙なバランスが生物効果などに影響を与えるため,試行 錯誤を繰り返して最適な処方を設計する必要がある
(表―2)。
1
有効成分除草剤は水に溶解して効果を発現するが,溶出速度が 適正でない場合は望むべき生物性能が得られない。例え
表−2 1キロ粒剤の処方例 成分名 配合量(重量%)
有効成分 最適薬量(通常
0.5
〜20)
界面活性剤
3
〜10
結合剤
1
〜5
キャリアー 残(通常
70
〜90)
合計
100
表−1 粒剤の物理性
1
キロ粒剤3
キロ粒剤散布量(kg/1,000 m2)
1 3
〜4
動力散布機による飛距離(m)15
以上10
粒径(mm)1.0
〜1.5 0.8
〜0.9 1
粒の重さ(mg/個) 約2.5
約1
粒数(個/g) 約400
約1,000
粒数(個/1 m2)400 3000
写真雑草に有効な最低濃度 水稲に薬害を発生させ る最低濃度
水中濃度
散布後の時間 理想的な水中濃度
図−1 水中溶出性の模式図
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キロ粒剤〜その特徴と今後の展望〜185
ば,溶出速度が遅い場合は,効果不足や効果発現の遅れ となり,溶出速度が速い場合は,薬害の発生や残効不足 が認められる。このため,最適な溶出速度になるように 処方を調整する。
有効成分が固体の場合,有効成分粒子の粒径を調節す ることが多い。水への溶出速度は,有効成分粒子の表面 積に依存するため,粒径が細かく表面積が大きい場合は 溶出速度が速く,粗い場合は溶出速度が遅くなる。回転 系粉砕機やジェット粉砕機を使用した乾式粉砕では粒径 を 5 〜 30 μ m に調整可能であり,さらに粒径を細かく したい場合は,ビーズミルなどによる湿式粉砕も取り入 れている。数種の有効成分を組合せた製剤の場合,各有 効成分の粒径を調整することによる溶出コントロールが 最も適した手法である。
なお,有効成分の溶出性を減少させる手法として,有 効成分の前処理が行われている例がある。水に溶けない パラフィンと有効成分をあらかじめ加熱混合し,有効成 分の表面をパラフィンで覆ってから添加する例(特許第 4883274 号, 2012 )や水に溶けない塩を作る成分とあらか じめ混合してから添加する例(特許第 4919662 号, 2012 ) もある。
また,溶出速度を上昇させる方法として有効成分を有 機溶媒に溶解する手法や粒の周囲に有効成分をコーティ ングする手法もある。
2
界面活性剤界面活性剤は,粒の水中での崩壊性,有効成分の水中 溶出性,製造時の造粒性をコントロールするために添加 されている。本稿では 3 項目に分けて説明するが,界面 活性剤は複数の特性を持っているため,各項目を総合的 に判断して界面活性剤を選抜している。
( 1 ) 粒の水中での挙動
粒剤は水面に散布された後,田面水中に落下して水底 に到達する。図―2 に示すが,界面活性剤の選択により,
粒の水中での崩壊性や粒の崩壊後の広がりをコントロー ルできる。
また, これに伴って, 溶出速度もコントロールされる。
図― 2a は崩壊拡展タイプと称し,粒が水中で壊れるだ けでなく,水底を広がる性質を持っている。早い溶出速 度を求められる有効成分に適している。このような性質 は水への溶出速度の遅い界面活性剤を使用すると現れる。
図―2b は崩壊タイプと称し,粒が水中で壊れるだけで 水底を広がらない。適度な溶出速度を求められる有効成 分に適している。このような性質は水に速やかに溶ける 界面活性剤を使用すると現れる。
図―2c は非崩壊タイプと称し,粒は水中で壊れない。
低い溶出速度を求められる有効成分に適している。この ような性質は水に溶けにくい界面活性剤および結合剤を 使用すると現れる。
( 2 ) 有効成分の溶出性
水中への挙動だけでなく,ある種の界面活性剤は有効 成分の水中への溶解を促進する作用を持っている。ま た,その程度は有効成分によって異なるため,混合製剤 の場合の溶出性コントロールに適している場合もある。
( 3 ) 製造時の造粒性
湿式押し出し造粒による製造の場合,スクリーン通過 時の抵抗を軽減して造粒時の発熱を抑える作用を持って いる界面活性剤もあり,生産性に影響を及ぼしている。
また,融点の低い有効成分の場合は,造粒機のスクリ ーン通過時に溶融することもあり,適切な界面活性剤を 使用することが重要である。
3
結合剤1 キロ粒剤は動力散布機で散布されることが多いた め,散布中に粒が破壊されると微粉が発生し,近隣の水 田以外の圃場に飛散して,水稲以外の作物に対する薬害 発生や残留も懸念される。
これらの懸念を回避するための対応として,粒の硬度
a
崩壊拡展タイプb
崩壊タイプc
非崩壊タイプ 図−2 粒剤の水中での挙動― 50 ―
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を高める結合剤が添加されている。ただし,1 キロ粒剤 は田水中で粒が崩壊し,有効成分を溶出させる必要があ るため,粒の状態では硬く,水中で溶解する結合剤の選 択が必要になる。具体的には変性澱粉,カルボキシメチ ルセルロースやリグニンスルホン酸カルシウム等の高分 子化合物が使用されている。
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キャリアー農薬では,希釈に使用する添加物をキャリアーと称 し,粒剤の多くは天然の鉱物質を粉砕した粉体を使用し ている(日本粘土学会, 1977 )。
( 1 ) クレー
クレーは,鉱物学的にはパイロフィライトやカオリン を主成分とする粘土鉱物である。一般的に酸性を示すキ ャリアーであり,酸性側で分解する有効成分には使用で きない。
また,クレー表面の電荷により吸着する有効成分もあ り,有効成分を速やかに溶出させたい化合物に対しては 使用できない場合もある。
近年,鉱山の廃水処理や採掘後の環境保全対策等の経 費が増大し,日本国内のクレー鉱山の閉鎖が相次いでい ることから,クレーの選択には供給面からの確認も必要 である。
( 2 ) 炭酸カルシウム
鉱物学的にも炭酸カルシウムであり,日本国内では産 出量の多いキャリアーである。炭酸カルシウムは化合物 の吸着も低く,溶出性に対する影響も小さい。
ただし,塩基性のキャリアーであるため,塩基性側で 分解する有効成分には使用できない。
( 3 ) ベントナイト
ベントナイトは,鉱物学的にはモンモリロナイトを主 成分とする層状の粘土鉱物である。鉱物の層間に水が入 ることにより膨潤するため,粒の水中での崩壊を早める 作用を持っている。また,水と混合すると粘性が上がる ため,結合剤としても使用されている。
ただし,ある種の有効成分は粘土鉱物の層間に吸着す るため,使用できない場合がある。
また,クレー鉱山と同様の理由で日本国内のベントナ イト鉱山も少なくなっており,輸入品が増えてきている。
5
その他の添加剤有効成分の安定性を改善するために,安定化剤の添加 が行われることがある。pH を調整する各種塩類や抗酸 化剤の添加例もある。
また,有効成分の薬害を軽減する薬害軽減剤を添加し ている例もある。
お わ り に
1 キロ粒剤の歴史,処方の組み立てを述べてきたが,
一つの粒剤処方を決定するまでには,数十〜数百の試作 処方が存在する。外見からはわからない様々な工夫・努 力を感じていただければ幸いである。
引 用 文 献
1)
日本粘土学会 編(1966): 粘土ハンドブック,技報堂,東京,
p.785
〜796.
2)
日本農薬学会農薬製剤・施用法研究会 編(1997): 農薬製剤ガ
イド,社団法人日本植物防疫協会,東京,p.14
〜16 . 3)
日本植物調節剤研究協会 編集(1995): 植調 30
年史,財団法人日本植物調節剤研究協会,東京,p.27〜