ラテンアメリカにおける公的育児サービス : 日本 の育児政策を参照して
著者 フロレス メンデズ ラウラ
雑誌名 東洋大学大学院紀要
巻 51
ページ 51‑73
発行年 2014
URL http://id.nii.ac.jp/1060/00007300/
要約
ラテンアメリカ諸国と日本では、女性の労働力の増加に伴う社会変化が起き、育児と仕事 の両立が問題になってきた。これに対する育児政策は、共働きの母親に保育支援を提供する ことによって、子どもの成長と労働力の確保をはかることになる。ラテンアメリカでは低所 得者のために「正規」及び公的な育児サービスがある一方で、貧困者には「非正規」及びコ ミュニティを基礎とする育児サービスが提供されているが、サービスの質の問題が大きい。
また、インフォーマルな保育支援としての祖父母や親族達からの協力はとても大切である。
日本では、保育所の設立を重視する一方、ラテンアメリカでは、幼稚園を設置することを 重点にしている。また、日本政府は、標準的なサービスと質を全国民に提供することをめざ している。
本研究では、このような日本の育児政策を参照して、ラテンアメリカ各国の公的な育児サ ービスの類型と政府の役割を明らかにすることを目的とする。
キーワード:保育所、幼稚園、公的育児サービス、保育支援
Ⅰ.はじめに
ラテンアメリカと日本では、学齢前の公的育児サービスに関するさまざまなプログラムを 実施している。本研究における「育児サービス」は、小学校就学前の0歳から6歳までの保育 と早期教育に関する育児政策を意味する。育児サービスの必要性は「社会変化」と「人口統 計」という2つの基本的な要因から説明される。
社会変化についてみると、1970年代と1980年代から女性の社会参加が女性の伝統的な役割 を変えてきた。日本とラテンアメリカでは、同じように女性の雇用は現代の社会福祉に重要 な影響を与えている。すなわち、女性労働力の増加により「女性の経済自立」や「社会と職
ラテンアメリカにおける公的育児サービス
―日本の育児政策を参照して―
福祉社会デザイン研究科社会福祉学専攻博士前期課程修了
フロレス メンデズ ラウラ
場の男女平等」に関する政策が重視されるようになった。
人口統計については、人口減少が顕著である。日本では1990年の合計特殊出生率の「1.57 ショック」で少子化が予想以上に進行していることから、1994年に目標値を高めるための子 育て支援「エンゼルプラン1」が提示されている(田中和男2008:187)。近年、ラテンアメリ カでは、チリ、アルゼンチンとブラジルが人口減少に直面している。その一方で、ラテンア メリカ諸国では貧しい家庭が多く、ストリートチルドレン・児童労働・児童の栄養不足・格 差などの貧困問題がある。また政府の対応は低所得世帯を見据えてはいるが、財政負担が重 いので制約がある。
ラテンアメリカにおける最初の育児施設はカトリック教会によって実施され、1990年代の 新自由主義により、政府が基本的な役割を果たすこととなった。各国の育児政策は、様々な 方法で保育支援を提供している。ラテンアメリカでは、育児サービスにより、公的施策への 意識が高まり、公立の保育所と幼稚園が設置されている。一般的に、そのサービスは低所得 の働く母親の子どもを対象として、コミュニティを基本する育児サービスを提供する。しか し、公的育児サービスの予算は不十分であり、質の問題がある。中所得以上の世帯は、質を 重視するため、私立の施設を利用する。その一方、インフォーマルな子育て支援として、祖 父母と親族達の援助がとても重要である。
日本では、主に保育所と幼稚園が設置されている。日本の保育所と幼稚園の歴史的背景を みると、明治期の児童救済事業から始まり、第二次世界大戦時代には孤児や浮浪児のために 保育施設が設立された。その後、1947年に「児童福祉法」と「学校教育法」が公布され、法 律は現在の保育所と幼稚園の規則を定めた。保育所は児童福祉法により、働く母親の幼児を 保育する施設である。そして、幼稚園は学校教育法による早期教育施設である。現在、少子 化社会の問題のもとで、保育所に関する政策が大きな注目を集めている。また、他の保育施 設や地域でのサポート活動が行われている。しかし、日本では、働く母親にとって育児と仕 事の両立はとても困難である。
これまでのことを踏まえ、本研究では、日本と「コロンビア・チリ・ブラジル・メキシ コ・アルゼンチン」というラテンアメリカの5カ国をとりあげ、各国の育児サービスの特徴 や政府の役割を明らかにする。
Ⅱ.研究の目的と方法
本研究ではマクロレベルの視点から、ラテンアメリカと日本における6歳未満の子どもの ための育児サービスを取り扱う。ラテンアメリカの諸国からはコロンビア・チリ・メキシ コ・アルゼンチン・ブラジルの5カ国を選択する。この5カ国はラテンアメリカで経済的に大 きく発展した国々であり、社会福祉政策への意識が高まっているからである。また、これら の国では、多様な育児サービスが進行しており、日本の育児サービスと対比することが妥当
であると思われる。
これまで、ラテンアメリカと日本の育児サービスに関する研究はあまり行われていないが、
この研究では、専門的な論文、国際機関のレポート(世界銀行、国際連合、国際通貨基金な ど)、または各国の公式出版物(担当する府省、教育省、厚生省、統計省など)を検討する。
分析の理論枠組みとしては、まず、ラテンアメリカと日本における保育サービスを記述す る。つぎに、ラテンアメリカと日本における保育サービスを対比するが、保育サービス全般 を扱うことはできないので、保育所のサービスに重点化する。
分析の視点としては、①保育施設の類型、②世帯の所得水準、③保育サービスの重点とい う変数間の関連を分析することにする。またこのようなカテゴリを用いて、「保育施設の類 型を、どのような利用者が選択するか」、また「保育施設の類型」は「世帯の所得水準」や
「サービスの重点化」とどのような関係があるかを明らかにすることを本研究の目的とする。
参照する文献は、ラテンアメリカの育児政策については、国際連合(UN2)、世界銀行
(WB3)、国際労働機構(ILO4)、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC5)、国連 社会開発研究所(UNRISD6)、米州開発銀行(IDB7)などの国際機関の資料であり、ラテン アメリカの諸国における育児サービスのデータが多い。また、具体的な育児サービスの現状 については、各国の労働省、文部省、国家女性事業局または育児政策に関する機関などの調 査や資料を参考にする。
日本の育児サービスについては、厚生労働省と文部科学省の白書・統計を参考にする。そ して、育児政策の成立、保育所、幼稚園、労働運動、働く母親、育児と仕事の両立などに関 する調査と研究資料を参照する。
Ⅲ.ラテンアメリカの公的な育児サービス
ラテンアメリカの中で、多様な育児サービスを発達させている5ヶ国を選択する。その5カ 国は、コロンビア・チリ・メキシコ・アルゼンチン・ブラジルである。この5カ国はラテン アメリカで経済的に大きく発達しており、社会福祉政策への意識が高いという理由から選択 した。
コロンビア・チリ・メキシコ・アルゼンチンはかつてスペインの植民地であった。これら の4ヵ国は、スペインから伝来した言語、宗教などは共通するが、それぞれの文化的な特性 は異なる。ブラジルはポルトガルの植民地であり、ポルトガル語を話す。また、各国の家庭 状況、貧困者と社会問題は類似している。
育児サービスについては、伝統的に保育・子育てに関するニーズは家庭内で解決すること や、子どもの保育責任は母親が担っている点も各国に共通している。ラテンアメリカでは、
伝統的に、祖父母と親族達の保育支援はとても重要である。また、余裕がある世帯は、イン フォーマルな雇用で、ベビーシッターが自宅で子どもの世話を提供する。しかし、各国の経
済が拡大するにともなって、女性の労働力が増加し、育児政策の進展と政府の役割に関する 要求が大きくなっている。
ラテンアメリカの公的な育児サービスには、「子どもの権利」と「働く母親の保育支援」
という2つの視点が設定されている。コロンビア、チリとブラジルの政府は、貧困者の子ど もに視点を当てた育児政策を推進する一方で、メキシコとアルゼンチンの場合は、働く母親 に視点を置いた保育支援を提供している。また、各国の育児政策は多様な方法で、保育と早 期教育を提供している。
保育所に比べ、政府は幼稚園を設置することに重点を置いている。その理由はまず、貧困 者の子どもは入学率が低いが、幼稚園に参加すれば、その子どもは小学校に進むことが容易 になるからである。もう1つの理由は、幼稚園が教育制度の一部で、貧困者の子どもの発育 を促進するためである。
育児政策の対象についてみると、公立の保育所と幼稚園は主に貧困者の子どもを対象とす る。しかし、公的育児サービスの予算は不十分であり、質に問題がある可能性がある。その 一方で中所得以上の子どもは私立の施設を利用する。公立の施設に比べて、私立の施設はサ ービスの質の高いことが指摘されている。
3.1 コロンビア
・保育所:1986年から「コロンビア家族福祉協会(ICBF)」が貧困者の地域に「コミュニ ティホーム(CH)」という保育施設を設置している。「コミュニティマザー」が家庭で 14人の0〜5歳の子どもの世話をする。コミュニティマザーは、ICBFから保育トレーニ ングと財政支援を受ける。サービス内容は、栄養・病気の予防・早期教育(発育発達、
早期の関わり、子どもの認知の発達、人間関係と心身の発達を助けるなど)・子育て相 談などである。しかし、保育士には専門教育がなく、貧しい家庭で育児サービスを提供 している。質の問題を解決するため、ビル内に保育所を整備することも行われている。
コロンビアの育児政策アプローチは「貧困者の子どもの発達を援助する」である。
2011年に、約70,825CHがあり、1,219,098人の子どもに保育支援を行った。低所得の0歳
〜5歳の子どもの54%はCHで育児サービスを受ける。このプログラムはコロンビアの 1,103府県のうち、1,089府県でサービスを提供している。また、コミュニティマザーは 69,000人である(ICBF 2011)。
・幼稚園:1962年からコロンビア教育省は低所得世帯の子どものため、幼稚園を設置して いる。幼稚園は3〜5歳までで5歳は義務教育である。幼稚園制度は、1981年、法律24に より、幼稚園の所管が教育省となり、コロンビア家族福祉協会(ICBF)、自治体の福祉 機関と私立の幼稚園がある。コミュニティホームに対して、幼稚園の担当者には専門教 育が必要である。2011年に、45,478幼稚園があり、1,071,429人の子どもが幼稚園に参加
した(DANE8 2012)。
3.2 チリ
・保育所・幼稚園:チリの育児政策には、保育所と幼稚園の制度が混在している。保育所 と幼稚園の対象は貧困者で、施設はコミュニティを基礎とせず、公立の施設で保育・早 期教育を提供する。伝統的に、余裕のある世帯の子どもより、貧困者の子どもは社会的 機会が少ない。そのためチリでは、育児政策のアプローチは「貧困者の子どもに機会均 等を与える」である。
チリでは、2つの機関の協力で保育所と幼稚園を設置している。1つはチリの国家局保 育所担当部(JUNJI9)」であり、もう1つは「国家児童開発基金(INTEGRA10)である。
この政府の機関は保育所の所管であり、文部省と共同して幼稚園を設置する。サービス の質は高く、保護者は専門教育が必要で、0〜5歳の貧困者の子どもに均等に機会を与え ることが目的である。
チリ統計局によると、2011年に719,811人の子どもが育児施設に参加した。保育施設 の児童数の割合は、JUNJIが27%、INTEGRAが9%、自治体が18%であった。そして、
助成金を受ける私立の施設が35%、助成金を受けない私立の施設が10%であった。2011 年の参加率は、保育所が26%、幼稚園が83%だった(図1)。また、5分位(Quintile)に よる所得水準によれば、参加率の割合は類似している(チリ教育省 2012)。
3.3 アルゼンチン
・保育所:アルゼンチン政府の新自由主義(neo-liberalism)的な構造改革を推進すると いう方針によって、国民のニーズはマーケットに頼り、政府の役割は貧困者に公的扶助 を提供することとした。育児政策のアプローチについては、特に保育所に関することは
「貧困者に公的扶助の思想から保育支援を提供する」ことを基礎にして推進されている。
対象は貧困者の生後45日〜2歳の子どもである。保育所数は不十分で、サービスを提供 するのは政府の義務ではなく、自治体の判断や資金に頼っている。2011年に、生後45日
〜2歳までの子どもの7%は育児サービスを受けた。そして、アルゼンチン社会福祉省 は、「児童発達センター(CEDIS11)」を設置し、コミュニティを基礎とする家族の組合 で育児サービスを提供している。2011年におけるCEDISの保育所数は1,200であった。
・幼稚園:公立の幼稚園は、貧困者の3〜5歳の子どもを対象とし、4〜5歳の教育は義務に なる。政府は保育所ではなく、幼稚園の設置に重点を置いている。しかし、すべての子 どもに早期教育を提供することは政府の目的ではない。5歳の子どもの参加率は高いが、
5歳未満の子どもに関する幼稚園サービスは不十分である。幼稚園の所管は教育省であ る。2010年には15,033の幼稚園があり、80%は公立であった。また、3〜5歳人口の71%
は幼稚園の在園生であった(ODSA12 2012)。
3.4 メキシコ
・保育所:公的の育児サービスは2つの機関が提供している。チリとは反対に、メキシコ の制度では、2つの機関の対象、質と規制が異なる。
1つの機関は「メキシコ社会保険公社(IMSS13)」で、1973年から、社会保障に加入す るワーキングマザー(主に中産階級)の0〜3歳の子どものために保育所を設置してい る。
もう1つの機関は「社会開発省(SEDESOL14)」で、2007年から、コミュニティセン ターで社会保障に加入しないワーキングマザー(主に低所得層)の1〜3歳の子どもに保 育支援を提供している。
IMSSの保育所数は不十分で、2010年には 980,550人の子どものうち、約233,370人
(23.8%)の子どもがサービスを受けた。また、2013年にIMSSの保育所は1,416所であっ た。2011年に国内のSEDESOLによる保育所は9,255所であった。IMSSの保育所に比べ て、SEDESOLの保育所の職員・構造・設備には質の問題がある。メキシコの育児政策 アプローチは「働く母親に保育支援を提供する」となっている。
・幼稚園:地域住民の特性により、公立の幼稚園はそれぞれの学校を設置する。「標準的 な幼稚園」は一般的に早期教育施設である。しかし、メキシコでは先住民が多いので、
先住民の言葉と文化を守ると共に、インテグレーションのため「先住民の幼稚園」で2 つの言葉(スペイン語と先住民の言葉)と文化を基礎として早期教育を提供する。ま た、地方には「コミュニティの幼稚園」を設置する。その他、保育所の所管である「児 童発達センター(CENDI15)」では、入所した子どもは3歳になると、早期教育を受ける。
このように、メキシコの幼稚園制度は4つの類型に分かれている。早期教育は3〜5歳ま で全体が義務教育である。2012年には、91,253の幼稚園があり、2,283,907人の子どもが 入園した。保育所と幼稚園を比べると、政府は幼稚園を設置することに重点を置いてい る。
3.5 ブラジル
・保育所・幼稚園:ブラジルの育児政策をみると、貧困者の6歳未満の子どものための早 期教育は「子どもの権利」という政策アプローチを持つ。ブラジルの教育省は保育所と 幼稚園を管轄している。1996年の教育法により、保育所(0〜3歳)と幼稚園(4〜6歳)
を設置することは市町村の責任である。また、このようなサービスは義務ではないが、
「教育施設」という承認を得ている。他のラテンアメリカ諸国よりも、ブラジルの政府 は幼稚園を設定することに重点を置いている。公立の保育所は設備と運営に関する質が 高いが施設の数は少ない。
貧困者の母親の強い要求により、非正規の保育施設が設置されている。この保育施設 には非営利・営利の両方があり、私立・教会・コミュニティを基礎とする保育サービス
など多様な類型で設立されている。このような保育施設は、政府が運営していないが、
財政支援や給食を提供する。
保育所に対して、政府は幼稚園の設置に力を入れており、多くの幼稚園は公立であ る。しかし、6歳未満の子どものアクセスは不十分で、特に学歴が低い両親の子どもと 地方に住む子どもは入園の可能性が低い。2012年に、保育所の児童数の割合は、公立が 63.4%、私立が36.6%であり、幼稚園の場合、公立が75.6%、私立が24.4%であった(ブ ラジル国立教育研究所-INEP16 2013)。
Ⅳ.日本の育児サービス
4.1 保育所
保育所の所管行政庁は厚生労働省であり、さらに認可・認可外保育所は公立、私立保育所 ともに地方公共団体(市町村)により所管される。公立の保育所サービスの対象は働く母親 の、1歳未満から小学校就学前までの幼児である(月曜〜土曜日、1日8〜9時間)。保育所の 伝統的な目的は、「保育に欠ける」から「すべての子どもたちのウェルビーイングを保障す る」という意識に変化している(前田正子 1998:14-25)。保育実習の全体的な目標としては、
まずは保育所での生活を体験し、職員を覚え、子どもやクラスの雰囲気に慣れることが挙げ られる。また、自ら進んで保育の手伝いをすることで、保育生活への理解を深め、子どもた ちとの関係を築きながら、保育計画を立案し、実践する。
認可保育所の管理運営は自治体と私立の機関(社会福祉法人、NPOなど)である。公立 と私立は同様に、自治体が入所と利用者の負担を決める。また、入所条件は家計、家族構 成、母親の労働状況などである。主に、働く母親は認可保育所待機時に認可外保育所を利用 することが多い。このため、認可外保育施設利用者が増加している。
また、認可外保育施設は、児童福祉法に基づく都道府県知事などの認可を受けていない保 育施設のことで、このうち、①夜8時以降の保育、②宿泊を伴う保育、③一時預かりの子ど もが利用児童の半数以上、のいずれかを常時運営している施設は「ベビーホテル」と呼ばれ ている。これらの施設が、子どもを保育するのにふさわしい内容や環境を確保しているかを 確認するため、都道府県などが立ち入り検査し、指導監督を行う。対象は、少数の子供を保 育する施設など、都道府県知事に届出が義務付けられていない施設を含むすべての認可外保 育施設である。2012年に、7,739認可外保育所施設があり、前年と比べて160ヵ所が増加した。
認可外保育所数のうち、ベビーホテルは24%、その他の認可外保育施設は76%であった。入 所児童数は184,959人であり、前年と比較して、1,148人(0.6%)減少した(厚生労働省 2013)。
保育所の養護に関わるねらい及び内容は「生命の保持」に関わるものと、「情緒の安定」
に関わるものとに分けられる。また、保育所の教育に関わるねらいは、子どもが健やかに成 長し、その活動がより豊かに展開されるための発達の援助であり、「健康」、「人間関係」、「環 境」、「言葉」及び「表現」の5領域から構成される。
日本の保育政策は、1994年の「エンゼルプラン」、1999年の「新エンゼルプラン」、2001年 の「待機児童ゼロ」、2005年の「子ども・子育て応援プラン」、また2006年の「認定こども 園」と2011 年の「子ども・子育て新システム」という多様な段階で保育施設の運営が推進 されている。
前述した政策のもとで、2013年には全国で24,038の保育所があり、2012年と比べて327か 所(1.4%)増加した。保育所を利用する児童数は222万人であり、前年から42,779人増加し た。また、保育所定員は229万人である (厚生労働省 2013:図4−1)。
図4-1 保育所定員数、利用児童数及び保育所数の推移
出典:厚生労働省、2013年
保育施設を利用する児童数は、年齢が高くなると児童数が多くなる。2013年の利用児童の 割合は、0歳が5.1%、1〜2歳が32.2%であり、3歳以上の子どもは62.7%である。また、待機 児童数の年齢区別の割合は、0歳が13.3%、1〜2歳が68.7%、3歳以上は18%である(表4−
1)。他の年齢に比べて、一番多い割合は1〜2歳であり、育休後に継続して就業する母親が多 くなると、保育サービスの要求が高くなるということが分かる。
表4-1 年齢区分別の保育所利用児童と待機児童の割合、2013年
出典:厚生労働省、2013年
日本では、年々保育所の利用率が高くなる。全体の利用率をみると、2006年(平成18)に は29.6%であり、2010年(平成22)には32.2%、2013年(平成25)は35%であった。また、3 歳未満の児童の利用率を見ると、2006年には19.6%であり、2010年には22.8%、2013年には 26.2%であった。
待機児童数について、2007年には待機児童数が最低になり、17,926人であった。その後、
2010年には最高の26,275人になった。この後、待機児童率は低下し、2013年には22,741人で あった (図4−2)。
図4-2 保育所の利用率と待機児童数の変更
出典:厚生労働省、2013年
4.2 幼稚園
幼稚園は学校の1つに分類され、文部科学省の管轄で、対象は満3歳から小学校就学前まで の幼児である(月曜〜金曜日、4時間)。幼稚園の目的は、「幼稚園は幼児を保育し、適当な 環境を与えて、その心身の発達を助長する」と定められている。教育の内容は健康・人間関 係・環境・言葉・表現などを学ぶ、などである。文部科学省が管轄する一方で、設置者の区 分により、公立幼稚園の所管は教育委員会、私立幼稚園の所管は地方公共団体となる(須永 進 2007)。
少子化社会が幼稚園制度に影響を与えて、幼稚園数や園児数が低下している(図4−2)。
日本では、多くの幼稚園は私立であり、事業の継続のために、保育時間延長の圧力をかけら れている。 2012年には13,170の幼稚園があり、国立が0.4%、公立が37.3%、私立が61.3%で あった。
図4-3 幼稚園数の状況
出典:文部科学省、2013年
園児数の低下という動向がある一方で、2012年の園児数は1,604,225人であり、前年により も8,055人増加している。年齢区分別の園児数を見ると、3歳児は27.6%、4歳児は35.3%、5 歳児は37.1%であった。教員数は低下し、2012年には110,836人になった(文部科学省 2013)。
多様化する保護者や地域のニーズに応えていくために、2006 年 10 月、幼稚園と保育所の 両機能を併せ持つ「認定こども園」が創設された。認定こども園には、地域の実情に応じて 多様なタイプが認められることになった。就学前の子どもには幼児教育と保育を提供する機 能があり、地域における子育て支援を行う。2012年には531ヵ所の認定子ども園があり、公 立は54%、私立は46%であった(文部科学省 2013)。
現在、政府は幼稚園と保育所の一体化の実現を具体的に射程に入れて検討を進めている
(田中 正浩 2011)。2013年4月26日の内閣府「子ども・子育て会議の第1回」では保育所と幼 稚園制度の改革が提案され、現行制度の利用手続きと新たな制度の利用手続きの変更が示さ れた(図4−2)。
図4-2 保育所と幼稚園の利用手続き方法:現行・新たな制度
出所:内閣府「子ども・子育て新システム健康会議作業グループ」
Ⅴ ラテンアメリカと日本の保育サービスの比較
つぎに、ラテンアメリカと日本における育児サービスについて、①保育施設の類型 ②世 帯の所得水準、 ③保育サービスの重点との関係を考察する。また、施設が援助する対象を選 択する方法を明らかにする(図2−1)。
図2-1 分析の理論枠組み表
5.1 世帯の所得水準による保育施設の類型
まず、世帯の所得水準により、保育施設の類型を分析する。一般的に、「コミュニティサ ービス」「公立の施設」「私立の施設」という3つのサービス類型がある。
コミュニティサービスについて、ラテンアメリカでは地域の協力を得て非正規の施設が設 置され、対象は最低所得の世帯である。主に、地域の人々にはサービスの運営と提供の責任 があり、政府の役割は小さい。政府は担当者に財政援助やトレーニングを提供することが多 い。しかし、政府の予算が少ないため、質の問題が大きい。コロンビアのコミュニティホー ム、メキシコのSEDESOL、アルゼンチンとブラジルの非正規の保育施設はコミュニティを 基礎としている。それらの4カ国のうち、ブラジル政府は、非正規の保育施設に関する役割 が一番小さい。
これに対して日本では、コミュニティサービスについての政府の役割が大きく、ラテンア メリカに比べてサービスの質が高い。また、日本では、多くのコミュニティサービスにおけ る自治体の役割が大きい。これには、地域子育て支援センター、家族サポートなどが含まれ ている。そして、文京区の事例では、道を歩く子ども達を守るためのボランティア活動が行 われている。
公立の施設についてみると、ラテンアメリカでは、政府が設置する保育施設は正規の施設 である。非正規の施設に比べて、正規施設の質は高いが入所の可能性は少ない。また、正規 施設であることにより、予算、規則と運営に関する責任が高い非正規の施設と同様に、対象 者は貧困者であるが、最低の所得水準の世帯ではない。その理由は、多くの正規の施設は、
社会保障との連携があるからである。最低所得水準の世帯は、非正規雇用の人が多く、社会 保障に加入できない。これに属するのは、メキシコ、アルゼンチンとブラジルである。これ に対して、チリでは、公立の保育施設で、最低所得水準の子どもに質の高い保育サービスを 提供している。
ラテンアメリカと反対に、日本では、公立の施設は世帯の所得水準によって対象を決めて いない。日本政府は、標準的なサービスの型と質を全国民に提供している。また、全国民は コミュニティサービスを利用できる。
私立の施設についてみると、ラテンアメリカでは、公立のサービスより、私立のサービス の質が高い。中所得以上の世帯はサービスを信頼して高い費用を払う。ラテンアメリカと同 様に、日本でも私立の施設の利用負担が重いので、多くの利用者は中所得以上の世帯であ る。しかしラテンアメリカと反対に、日本では公立のサービスの質が高い (図5−1)。
図5-1 世帯の所得水準による保育施設の類型
出典:筆者作成
5.2 保育施設の選択方法と保育施設の類型
利用者を選択方法については、「母親の職業の有無」と「家庭の所得水準」が大きな関係 があるいえる。コロンビアとチリでは、家庭の所得水準との関連でサービスの利用者を選択 するので、低所得の世帯しか公立の保育サービスを利用することができない。また、多くの 母親は、保育援助を受けた後就職することになる。異なるのは、コロンビアでは非正規の保 育所がある一方、チリでは正規の保育施設を設置していることである。
また、メキシコ、アルゼンチンとブラジルでは、家庭の所得水準と、母親の労働状況との 関連で保育施設のタイプを設定している。この3カ国では、仕事を持つ貧困者の母親に保育 援助を提供する。特に、メキシコには最も多様な保育施設のタイプがある。メキシコの保育 所は、IMSSの保育所は正規の施設であり、正規雇用の母親を対象とする。その母親は低所 得でなく、中流の下層階級の働く母親が多いと考えられる。低所得の働く母親のため、
SEDESOLは非正規の施設を設立している。
日本では、母親の労働状況の関連で保育施設の利用者を決める。類似点としては、メキシ コ、アルゼンチン、ブラジルと同様に、保育援助を利用するためには、母親は仕事をしなけ ればならないことである。そして、チリと同様に、多くの住民に、質が高いサービスが提供 されている。ラテンアメリカと異なるのは、日本では全体の所得水準に関わらず標準的なサ ービスを提供することである。また、認可外保育所の利用者についても、多くの母親は仕事 をしている(図5−2)。
図5-2 保育施設の選択方法と保育施設の類型
出典:筆者作成
5.3 保育サービスの重点と保育施設の類型
保育サービスの重点について、①子どもと②母親のための、サービスの目標を次に示す。
子どもの立場からみると、一般的な保育サービスの内容は、食糧・健康・安全・早期教育で ある。日本では、認可保育所の統制により、このような基本的な機能を認めている。また、
母親の立場からは、一般的に仕事の有無に関わらず母親に保育援助を提供している。
① 子どものため保育サービスの内容
・食糧:ラテンアメリカでは、子どもは「食糧」を受けるという大事な理由から、貧困者 の両親は子どもを保育所に入所させる。日本の保育所でも、子どもが「食糧」を受ける が、前述したラテンアメリカの貧困者の両親のような状況はあまりないと考えられる。
・健康:ラテンアメリカでは、貧困者の子どもは、保健診療を受けることが難しい。この ため、保育所に入所した子どもの「健康」については、医療関係者が子どもに健康診査 や接種を行う。日本では、「健康」の活動については、建物と子どもの衛生を守るため に、高い衛生基準を満たす必要がある。
・安全:育児政策の大事な目的は、子どもに安全な場所を与えるということである。しか し、ラテンアメリカでは、政府が十分に役割を果たさず、非正規の保育施設の環境は安 全ではない。日本、チリと他の国の正規の保育施設は「安全」に関する衛生基準を満た す必要がある。しかし、メキシコのIMSS保育所では正規の施設でも死亡事故が起きて いる。
・早期教育:チリと日本では、早期教育は保育サービスの主目標である。サービスの質が 高くなると、食糧・健康・安全という基礎的な機能と共に、早期教育を提供するように なる。コロンビアと共に他の国の非正規の保育施設ではインフォーマルに早期教育を提 供するが、多くの保育士は学歴が低いので、早期教育の目標を満足させることがない。
また、メキシコ、アルゼンチンとブラジルの正規施設では、法律により早期教育はサー ビスの主目標である。しかし、保育施設は少ないので多くの子どもに影響を与えない。
② 母親のための保育サービスの内容
・保育援助:日本、アルゼンチン、メキシコとブラジルでは、働く母親に保育援助をして いる。それに対して、コロンビアとチリでは、入所に関する条件には柔軟性がある。コ ロンビアとチリでは、子どもが保育所に入所すると、母親は就職・勉強などの活動する ことができるという理念がある。しかし保育施設を利用するためには、母親は仕事をし ていることが必要ではない。
次の表を見ると、日本とチリの現状は似ている。そして、他のラテンアメリカの国では、
正規・非正規により、サービスの目標が異なる(表5−1)。
表5-1 保育サービスの重点により保育施設の類型
出典:筆者作成
Ⅳ.考察
本研究でとり上げた6カ国のうち、日本とチリの例を見ると、経済成長と共に保育ニーズ は家庭内やマーケットで満足できない場合に、政府の役割が増加している。ブラジルの経済 成長は、人間の開発、生活状況の改善、貧困の減少とイコールではない。アルゼンチンの近 年の経済危機は社会福祉の政策に否定的な影響を与えるだろう。また、コロンビア政府はコ スト安のストラテジーを選んだ。コミュニティの活動とエンパワメントはとても大切なこと ではあるが、政府の役割とのバランスが必要である。
また、幼稚園についてみると、コロンビアとチリでは、保育所と同様に、幼稚園の利用者 も所得水準で決めている。幼稚園については母親の職業の有無は関係がない。また、メキシ コでは、多様な幼稚園の類型によって貧困者に早期教育を提供している。幼稚園の利用につ いては、母親の職業の有無は関係がない。
次に、日本とラテンアメリカの公的な育児サービスに関する考察を次に示す。
①ラテンアメリカ
ア)育児サービスに関すること
・一般的に、0歳から3歳の子どものために、保育サービスを拡大することが必要である。
・非正規の施設と、正規の施設を設置することが重要である。
・政府の役割によって、保育サービスに関する予算と質の問題を解決する必要がある。
・保育所と幼稚園の運営と教育課程に関する指針は、継続的に修正することが必要であ る。
・質の高い育児サービスの供給には、行政の強力なコミットメントが求められる。
エ)保育士に関すること
・保育士、先生と施設の長には専門教育が必要である。
・多くの保育士はボランティアや非正規雇用で保育サービスを提供している。政府は保育 士に正規雇用の権利を与えるべきである。
イ)利用者に関すること
・保育施設の参加率を上げるため、保育サービスの対象者に、子どもの入所・入園に関す る便益を教えることが必要である。
・ラテンアメリカでは、育児サービスが対象とする貧困者の母親の勤務機会は低い。多く の貧困者は非正規雇用で、社会保障、育休など正規雇用の持つ権利がない。各国の政府 は非正規に関する勤務政策を改正することが必要である。
② 日本
・日本では、入所に関する規制と必要条件が厳しい。現状の育児政策は「保育に欠ける」
から「すべての子どもたちのウェルビーイングを保障する」という意識に変化しており、
利用者の選択方法に関する規制を変更する必要があるだろう。
・3歳未満の入所率を上げることが必要である。
・利用者のニーズを満足するため、保育サービスは柔軟な戦略を取ることが必要である。
・長時間で保育サービスを提供することが現在のニーズである。
・幼稚園に関する政府の役割と住民の意識が強化されることが必要と思う。
・育休・残業・子育てに関する組織文化の厳しさは、母親と父親と共に、柔軟になったほ うが良い。
Ⅶ.おわりに
日本とラテンアメリカでは、女性の労働力の増加に伴って子どもの成長に関する政策が頻 繁に出されている。育児政策は、働く母親に保育支援を提供する目的があるとともに、子ど もの成長に注目している。
大きな社会的・経済的格差を持つラテンアメリカでは、政府からの保育援助は貧困者の家 庭を対象としており、育児サービスの拡大のおかげで、子どもの死亡率と栄養不足率が低下 している。また、早期教育に関する意識が高まっている。
保育施設に入所・入園する子どもは小学校への進学可能性が高まりと学校の成績が向上す る。特にチリの実践は他のラテンアメリカの国にとって学ぶべき点が多くある。
非正規の保育サービスには質の問題がある一方で、貧困者の子どもに重要な援助を提供し ている。そして、地域の立場からは、コミュニティで子どもを守るという意識が高まるだろ
う。幼稚園については、政府が貧困者の子どもの参加率を上げるために努力をしている。し かし、地域住民の所得により、公共投資の規模は異なり格差が大きい。
日本では、少子化社会の問題があり、出生率と母親の継続就業率を上げるための努力がな されている。しかし、働く母親の保育ニーズを満たすことは難しい。日本では、保育施設に 関する政府の役割が高く、サービスの安全性と質は信頼できる。現状の育児政策は働く母親 に重点を置いているが、すべての子どもの発達を保障するという意識は着目すべき点だと思 う。また、公立の幼稚園数が少ないことも特徴的である。近年、幼稚園と保育所の機能を一 体化する「幼保一元化」が掲げられた。
ラテンアメリカと日本における育児サービスについて一般的な類似点をみると、保育施設 を利用する多くの母親は仕事をしていることがあげられる。また、子どもの年齢が高くなる と入所率と入園率が高くなる。異なる点としては、日本に比べてラテンアメリカの政府は、
保育所よりも幼稚園を設置することに重点を置いていることがあげられる。また、ラテンア メリカでは貧困者のために公立の施設(正規)とコミュニティに基礎する施設(非正規)が 設立されている。それに対して、日本では、全ての所得層の人が公立とコミュニティサービ スを利用することができる。
日本では経済成長の結果、政府は全国民に質の高いサービスを提供することができる。し かし、ラテンアメリカでは、多くの国で経済成長は人間開発を伴っていない。少ない予算 で、多くの人々に良いサービスを提供することはラテンアメリカにとっての挑戦である。日 本の育児政策で注目すべき点はサービスの質である。
注
1 エンゼルプランは子育てと仕事の両立を支援するための育児給付や保育の多様化、地域での 子育て支援センターの拡充を謳っている。
2 United Nations 3 World Bank
4 International Labor Organization
5 Economic Commission for Latin America and the Caribbean 6 United Nations Research Institute for Social Development 7 Inter-American Development Bank
8 DANE: National Administrative Department of Statistics of Colombia.
9 JUNJI: National Board for Child-Care Centers
10 INTEGRA: National Foundation for the Integral Development of the Child 11 CEDIS: Childhood Development Centers
12 ODSA: Observatory of Argentine Social Debt
13 IMSS: Mexican Institute of Social Security 14 SEDESOL: Secretariat of Social Development 15 CENDI: Centers of Childhood Development
16 INEP: National Insitute of Studies and Educational Researches of Brazil.
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Summary
In Latin America and Japan, social changes and increasing female labor force participation are causing difficulties in combining work with child rearing. Many Latin American countries have established childcare policies to provide support to working parents, as well as to increase female participation in the job market. Middle to high-income households use private childcare services. Public services are often divided in: i) “Public Childcare Centers”
to target low-income families; and ii) “Community-based Childcare Services” to target the poorest households. In addition, childcare support from grandparents or housekeeper makes a strong impact regarding to work and child rearing coexistence. In contrast, the Japanese government provides standardized high-quality public services to target the needs of all income households. Japan focus on establishing nursery schools, while in Latin America kindergartens are prioritized. After an overview of childcare policies in Japan, this research analyzes the types of childcare services that are being established in Latin American countries, and the governmentʼs role in providing these services.