う」を用いた授業実践と調理実習の発展
Author(s) 増渕, 哲子; 佐藤, 佐織
Citation 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 69(1): 225‑240
Issue Date 2018‑08
URL http://s‑ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9917
Rights
中学校家庭科における小麦教材の研究
―テキスト「小麦の世界を広げよう」を用いた授業実践と調理実習の発展―
増渕 哲子・佐藤 佐織*
北海道教育大学札幌校家庭科教育学研究室
*札幌市立柏丘中学校
Wheat-basedTeachingMaterialsinJuniorHighSchoolHomeEconomics
―TheDevelopmentofaTeachingPracticeandCookingPracticeUsingtheText“Spreadthe WorldofWheat”―
MASUBUCHISatokoandSATOSaori*
DepartmentofHomeEconomicsEducation,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation,Sapporo,002-8502
*SapporoKashiwagaokaJuniorHighSchool,Sapporo,003-0029
概 要
今日,生産と消費の場が離れ,中学生が地域の農産物や食品の生産,製造過程を知る機会は 乏しい。北海道は小麦の一大産地であり,札幌市近郊には小麦畑が広がっている。中学校家庭 科の食生活の内容では,一日分の献立や日常食の調理を学習するが,教科書の調理実習題材を 分析したところ,主食の穀類を扱う題材が少なく,小麦については脇役の扱いであった。本論 文の前半では,小麦に関わる教科書記述を学習指導要領の改訂期ごとに比較検討した。その上 で,地域性を生かした小麦の教材化を行った。中学校家庭科用のテキスト「小麦の世界を広げ よう」を作成し,北海道内の中学校家庭科の授業でこのテキストを使用した。各種資料を用い た授業や実験,実習を通して基礎学習を行い,さらに学びを深めるために,地元産の小麦粉と 野菜を用いて,生徒が開発した創作レシピによる調理実習を行った。後半は,このようなテキ スト学習から始まり段階を踏んで応用学習へと発展させた実践の詳細を報告した。
1.緒 言
現在使用されている中学校家庭科教科書の調理実習題材は,肉,魚,野菜を扱う例が中心で,米や小麦等 穀類を扱う例がほとんど見当たらない。人間が生きていく上で必要なエネルギー源となる炭水化物を主要成
分に持つ米,小麦等の穀類は,主食として毎日,毎食摂取している食品にも拘わらず,成長期である中学生 が学習する家庭科の教科書での扱いが少ないことに問題を感じる。
農林水産省による都道府県別統計(2016年度年間生産量)1)によると,米の生産第1位は新潟県,第2位 北海道,第3位秋田県で,小麦は第1位北海道,第2位福岡県,第3位佐賀県と,どちらも北海道は高い生 産量を誇っている。中でも,寒冷地である北海道は,明治の開拓期にヨーロッパの農業を模範とし,官営の 製粉所もあったことから,米よりも小麦の生産,加工には古い歴史がある。例えば,北海道の中心都市であ る札幌市に隣接する江別市は,小麦の生産が盛んで収穫した小麦を製粉する「江別製粉所」があり,数々の 小麦粉,小麦製品が生産されているが,その認知度は決して高くない。家庭科の授業の中で,食物と地域,
歴史について学習する機会を設け,食への興味関心を高める工夫をしていくことが必要であると考える。
本論文では,はじめに中学校家庭科の教科書における小麦に関わる記述内容を分析する。第二著者の佐藤 佐織は,平成21年度に提出した本学大学院教育学研究科修士課程学位論文2)において,小麦を教材とするテ キストを作成し,その後,このテキストをベースに道内の中学校において家庭科の実践を重ねてきた。上記 に加え,その小麦に焦点を当てた実践の詳細を報告する。
2.学習指導要領と教科書の分析
⑴ 中学校学習指導要領と中学校家庭科教科書の分析方法 1)中学校学習指導要領における小麦に関わる記述の分析
1977年(昭和52年),1989年(平成元年),1998年(平成10年),2008年(平成20年)に改訂された中学校 学習指導要領における家庭科の「小麦」に関する記述内容3),4),5),6),7)を分析し,比較検討を行った。1977年 以降を分析対象としたのは,この年に改訂された中学校学習指導要領から中学校技術・家庭科の「相互乗り 入れ」が始まり,現在と同じ男女共修教材として比較検討することが可能と判断したためである。
2)中学校家庭科教科書における小麦教材の分析
1957年(昭和32年),1958年(昭和33年),1969年(昭和44年),1977年(昭和52年),1989年(平成元年),
1998年(平成10年),2008年(平成20年)改訂の学習指導要領に対応した7冊の教科書8),9),10),11),12),13),14)
の小麦教材を分析し,比較検討を行った。1958年改訂学習指導要領より,中学校では「技術・家庭科」に教 科名が変更となった。教科名変更の前後を比較するために,1957年以降に発行された教科書を分析した。教 科書は初年度検定済の版とし,1977年学習指導要領改訂版対応以降は,東京書籍株式会社から出版されたも のを取り上げ,それ以前に関しては内容に地域性が強調されていない実業之日本社,学校図書,実教出版の 教科書を取り上げた。2008年学習指導要領改訂版対応としては,2016年発行の現行教科書を取り上げた。
⑵ 中学校学習指導要領と中学校家庭科教科書の分析結果及び考察 1)中学校学習指導要領における小麦に関わる記述の分析
表1のとおり,1977年(昭和52年),1989年(平成元年)改訂学習指導要領の内容には,日常食の調理・
食品の性質とその選択の中で「小麦粉」の記述が見られた。しかし,1998年(平成10年)改訂版以降は「小 麦粉」の記述は見当たらなかった。代わりに,1998年(平成10年)改訂版,2008年(平成20年)改訂版に「魚,
肉,野菜を中心として扱い,基礎的な題材を取り上げること」の記述が見られた。1989年(平成元年)改訂 版では「米,魚,肉,牛乳,野菜,小麦粉」と食品数が一時的に増えたが,次の改訂で「魚,肉,野菜」の 3種を残し,小麦粉をはじめとする他の食品は削除された。
2)中学校家庭科教科書における小麦教材の分析
小麦粉を使用している調理実習題材を「パン類」,「麺類」,「汁物」,「魚・肉・野菜料理」,「おやつ」,「そ の他」の6項目に分類して表2にまとめた。1957年(昭和32年),1958年(昭和33年),1969年(昭和44年)
改訂学習指導要領に対応した教科書は「パン類」,「麺類」,「汁物」,「魚・肉・野菜料理」,「おやつ」の5つ にバランスよく題材が掲載されていた。しかし,1977年(昭和52年)改訂学習指導要領の対応教科書からは
「パン類」が,さらに,1989年(平成元年)改訂学習指導要領対応教科書からは「魚・肉・野菜料理」が削 除された。その後,1998年(平成10年)改訂学習指導要領の対応教科書には「魚・肉・野菜料理」が再登場 し,2008年(平成20年)改訂学習指導要領の対応教科書では食物領域と保育領域を合わせると表2すべての 分類項目を満たす内容となった。
1977年(昭和52年),1989年(平成元年)改訂学習指導要領対応教科書を機に,小麦教材は大幅に入れ替 えられた。「パン類」からはサンドイッチがなくなり,「麺類」がそれまでの煮込みうどんやひやむぎ等の和 風麺から洋風麺のスパゲッティに,「汁物」もカレーライスからシチューへと変わった。このように急激に 教材の中身が変わった背景には,後述するように履修方法と授業時数の変更が大きいが,この他にも小学校 教材との関連があると考え,1958年(昭和33年),1977年(昭和52年)改訂学習指導要領対応の小学校家庭 科の教科書2社(開隆堂・東京書籍)15),16),17),18),19),20),21),22)に掲載されている調理実習題材を調査した。
表3に示すとおり,1958年,1977年対応の両教科書にサンドイッチが実習題材として掲載され,この時期は 小中教科書の重複教材になっていた。その後,サンドイッチは小学校へ移行し,中学校の教科書からは削除 された。その一方で,「魚料理」のムニエルだけは1989年(平成元年)改訂学習指導要領対応教科書時に一 度姿を消すが再度復活し,長期間に渡る調理実習題材として掲載され続けている。
小麦を使用した題材の変遷において節目となる時期は2度ある。1度目は1977年(昭和52年)の学習指導 要領改訂時である。題材が一気に減少したこの時は,「相互乗り入れ」方式による部分的な男女共修が始ま り,男子も家庭科を学習し調理実習に参加するようになった。男子の家庭科履修により,手軽でボリューム
表1 中学校学習指導要領における小麦に関わる記述
改訂年 項目 内容
1977年
(S52年)
G 食物
[食物1]
⑶ 日常食の調理について,次の事項を指導する。
イ ルーを用いた汁物を作ることができること。
G 食物
[食物2]
⑵ 食品の性質とその選択について,次の事項を指導する。
ア 小麦粉,油脂,寒天,しょうゆ及び食酢の調理上の性質を知ること。
⑶ 日常食の調理について,次の事項を指導する。
イ 乾めんを用いた調理ができること。
オ 小麦粉を用いた菓子及び寒天を用いた寄せ物を作ることができること。
G 食物
[食物3]
⑶ 日常食の調理について,次の事項を指導する。
イ ルーを用いた汁物を作ることができること。
1989年
(H元年) H 食物
⑵ 食品の性質とその選択について,次の事項を指導する。
イ 米,魚,肉,牛乳,野菜,小麦粉の調理上の性質を知ること。
⑶ 日常食の調理について,次の事項を指導する。
イ めんを用いた調理ができること。
オ 小麦粉を用いた菓子を作ることができること。
1998年
(H10年) A 生活の自立と衣食住 なし
2008年
(H20年) B 食生活の自立 なし
表2 中学校家庭科教科書における小麦教材の変遷
発行年 パン類 麺類 汁物 魚・肉・野菜料理 おやつ その他
1957年(S32年)対応
1957年発行 サンドウィッチ① 煮込みうどん② カレーライス① 魚のムニエル② ホットケーキ② ドーナツ②
1958年(S33年)対応 1962年発行
サンドウィッチ① トースト① ロールサンド・オープン
サンド②
煮込みうどん① ひやむぎ② マカロニグラタン③
カレーライス① シチュー② ポタージュ③
あじのムニエル① きんつば① てんぷら③
1969年(S44年)対応 1972年発行
トースト①② ロールサンドイッチ①
パン③
冷やしそば② スパゲッティソテー③
カレーライス① チャウダー①
シチュー②
ムニエル① カップケーキ③
1977年(S52年)対応
1981年発行 スパゲッティミートソース カレーライス ムニエル ホットケーキ
カップケーキ 1989年(H元年)対応
1993年発行 スパゲッティミートソース ホワイトシチュー クレープ
(カップケーキ)
1998年(H10年)対応
2002年発行 (スパゲッティミートソース) ホワイトシチュー
(カレーライス)
ムニエル
(野菜グラタン) (ぎょうざ)
2008年(H20年)対応 2016年発行
(現行)
(スパゲッティミートソース)
ドライカレー
(ホワイトシチュー)
さけのムニエル ぶた肉のしょうが焼き
(アスパラガスの肉巻き)
(いわしのかば焼き)
(魚の鍋照り焼き)
(白身魚の中華風あんかけ)
(いわしのつみれ汁)
(がめ煮)
(ぎょうざ)
ピザトースト 焼きそば 豆腐のパンケーキ
2008年(H20年)対応2016年発行・・・・・・上段:食物領域,下段:保育領域に掲載
( )内は応用・参考としての掲載
①,②,③は実施対象学年
表3 小学校家庭科の教科書における調理実習題材 学年
1958年(S33年)対応 1961年発行
1977年(S52年)対応 1980年発行
開隆堂 東京書籍 開隆堂 東京書籍
5年
野菜サラダ ゆでたまご 青菜の油いため
野菜サラダ ゆでたまご
ほうれん草のあぶらいため
野菜サラダ かたゆでたまご クラッカーサンド 白玉だんご せん茶
青菜の油いため 三食野菜の油いため
野菜サラダ ゆでたまご
ほうれんそうの油いため 野菜いため
クラッカーサンド おこのみ焼き せん茶
6年
ごはん みそしる こふきいも サンドイッチ オレンジジュース
ごはん みそしる こふきいも 目玉焼き サンドイッチ
ごはん[にぎりめし]
みそしる いりたまご
野菜入りいりたまご 目玉焼き
じゃがいもの油いため ポテトサラダ
粉ふきいも
サンドイッチ[オープン サンドイッチ]
こう茶[レモンスカッシュ]
ごはん みそしる 目玉焼き いりたまご こふきいも
じゃがいものにもの サンドイッチ
オープンサンドイッチ 紅茶
ホットレモン
[ ]内は参考としての掲載
のある題材に絞られていった時期である。2度目は1998年(平成10年)の改訂である。この改訂以降,技術・
家庭科の3年生の授業時数が,70~105時間から35時間へと大きく削減された。教科書の題材自体は1969年
(昭和44年)改訂時に戻るような内容となっているが,学習指導要領では「小麦粉の扱い」についての記述 はなくなり,「魚・肉・野菜の扱い」を残すのみとなった。扱う食品の種類の縮小化が見られ,小麦粉主体 の題材は少なく,使用する小麦粉の量も少量で小麦粉は料理の中でも脇役的存在となっている。
3.小麦テキストの作成と授業での活用
⑴ 小麦テキストの作成
地域の特産品の一つである小麦について興味関心を 持ち,小麦の産地,栄養,歴史的背景,北海道と小麦 の関係やつながり,小麦粉料理等小麦に関する知識理 解を深めるための小麦テキストを作成した。
小麦テキスト「小麦の世界を広げよう」の内容構成 は表4に示すとおり,導入に「小麦クイズ」,そして「第 1章 小麦を知ろう」,「第2章 わたしたちの地域と 小麦」の2部構成となっている。
第1章は,小麦の生産地や小麦の栄養分について,
写真,図,データを取り入れ,小麦資料集として構成 した。第1章の一部を抜粋して資料1に示す。ここで は小麦の構造から製粉の仕組みについて学習し,栄養
素の学習へとつなげていく。小麦の断面図の視覚的効果は大きいため,こうした資料を用いての学習は必要 である。
第2章では,北海道と小麦の歴史について写真資料を織り交ぜて解説し,小麦でつくる調理実習題材2種 を掲載した。調理実習題材には,北海道産の小麦粉と野菜を使った「ピザとコンソメスープ」,「手打ちうど んと野菜サラダ」を選定した。今やピザの生地,うどんの麺ともに家庭で手作りするものではなく,市販品 を購入して食べることが主流となり,ピザの生地もうどんの麺も何が原材料で,どのような工程を経てでき るかすら知らない生徒が多い。よって,この2種の調理実習題材の選定においては,①生徒にとって身近で あるが手作りよりも市販の既製品としてよく出回っているものであること,②小麦粉で初めから手作りする ものであること,③小麦粉が様々な調理工程を経て形を変えていく魅力を伝えることができるものであるこ と,④小麦粉以外の具材として北海道産の野菜を扱うことができるものであること,⑤2回の調理実習で異 なる種類の小麦粉を用いるものであること(「ピザ」では強力粉,「うどん」では中力粉を使用)を考慮した。
⑵ 小麦テキストの授業での活用
北海道内のA中学校において,2012年4月入学の1年生を対象に2012年(平成24年)~2013年(平成25年)
の2年に渡って,著者の佐藤が小麦テキストを活用した授業を行った。
授業の冒頭で,小麦テキストの導入部分「小麦クイズ」全10問を実施し,生徒の正答率を集計し知識の傾 向を把握した。
「小麦クイズ」の全10問の問題・選択肢・正答と生徒の正答率を表5に示した。全問正解した生徒の割合 は2.1%と高くはなかった。
表4 小麦テキスト「小麦の世界を広げよう」の目次 小麦クイズ
第1章 小麦を知ろう 1 小麦の生産地 2 小麦の栄養分
3 実験 小麦粉のグルテンを取り出してみよう 第1章のまとめ ワークシート
第2章 わたしたちの地域と小麦 1 北海道と小麦
2 江別と小麦
3 北海道・江別の小麦生産 4 小麦粉でつくろう
調理実習1 ピザとコンソメスープ 調理実習2 手打ちうどんと野菜サラダ 第2章のまとめ ワークシート
資料1 小麦テキスト6頁 第1章 小麦を知ろう 2 小麦の栄養分 ① 小麦の構造
小麦の粒は主に,粉になる胚乳…84%,ふすまになる外皮…13.5%,生命の源である胚芽…2.5%の3 つからできています。胚芽の全体に占める割合は少ないですが「栄養の宝庫」だといわれています。そ こから芽が出て次の世代が生まれるので,生命の維持に必要な五大栄養素を豊富にバランス良く含んで いるほかに,ビタミンやミネラルも豊富にあります。
米は粒食,小麦は粉食というのが自然の摂理ですが,これには小麦の構造が大きく関わっています。
小麦は,ア外側は6層の強靭な外皮で覆われ,イ内側の胚乳部はもろく,ウ粒の真ん中に深い粒溝が 走っています。そのため米のように簡単に外皮を取り除くことができませんでした。そこで,試行錯誤 を繰り返し,小麦の粒を最初にいくつかの細かい片にくだき,その内側から粉をかき出すという操作を 繰り返して行う「段階式製粉方式」を確立したのです。日本では,江戸時代までは小麦をひき臼でひい てふるいにかけるという操作を繰り返していました。しかし,明治時代に入り1872年(明治5年)には,
新政府はフランスから水車式のひき臼機を輸入し札幌に官営の製粉工場を建設しました。また,1882年
(明治15年)にはアメリカからロール式製粉機を購入し,札幌に工場を建設しました。こうして日本の 製粉技術は世界レベルに達するようになっていきました。
(「小麦の話」23)参照)
図5 小麦の断面図
(財団法人製粉振興会編集・発行「小麦の話」(1989)16頁より引用)
問題別に正答率が最も高かったのは,「菓子パンの始祖である木村安兵衛が最初に生み出したパンは?」
の正答率92.7%である。正答の理由の多くは,「あんは和風で昔からありそうだから」というもので,パン の中でもあんパンは日本人の嗜好に合うイメージを持っていることがわかった。
最も正答率が低かったのは,「次の食べ物を日本人が食べ始めた歴史の古い順に並べ替えなさい。」の3.1%
で,ほとんどの生徒が誤答であった。誤答の多くは,うどんとそうめんの順が逆で,正答「②①④⑤③」に 対し誤答「①②④⑤③」と惜しい間違いであった。誤答の理由としては,「そうめんは細長くて作るのが大 変そうなので,太いうどんの方が原始的で作りやすそうだと思った」というものだった。生徒なりによく考 えた上での解答であるが,クイズの最後に小麦テキストの「小麦クイズ」解説を用いて,資料2の通りそう
表5 小麦クイズ(対象:A中学校1年生 計96人 正答率の高い順に掲載)
No. 問題と選択肢 正答 正答率
1 菓子パンの始祖である木村安兵衛が最初に生み出したパンは?
①あんパン ②クリームパン ③ジャムパン ① 92.7%
2 世界で最も小麦の生産量が多いのはどこか?
①中国 ②インド ③アメリカ ① 73.0%
3 パンを好んでよく食べたといわれる歴史上の人物は?
①織田信長 ②豊臣秀吉 ③徳川家康 ① 69.8%
4 小麦が日本に伝わったのはいつごろか?
①縄文時代 ②弥生時代 ③奈良時代 ② 67.7%
5 まんじゅうは何時代に日本に伝わってきたものか?
①平安時代 ②鎌倉時代 ③室町時代 ② 53.1%
6 メリケン粉とは,どこの国の小麦粉のことをいうのか?
①イギリス ②スペイン ③アメリカ ③ 40.6%
7 どの国から日本に小麦は伝わったのか?
①中国 ②フランス ③エジプト ① 39.6%
8 日本の学校給食でパンが食べられるようになったのはいつごろか?
①明治時代 ②大正時代 ③昭和時代 ③ 36.5%
9 日本で今現在最も小麦の生産量が多いのはどこか?
①福岡県 ②北海道 ③佐賀県 ② 29.2%
10 次の食べ物を日本人が食べ始めた歴史の古い順に並べ替えなさい。
①うどん ②そうめん ③ラーメン ④まんじゅう ⑤パン ②①④⑤③ 3.1%
奈良時代によく食べられていたのが左図「索餅(さくべい)」と言 われるものです。これは小麦粉と米粉をねり,縄のようにねじったも ので,麦縄(むぎなわ)とも言われています。後にそうめんに発展し ていったものなので,索餅はそうめんの原型なのです。手延べ法で作 られる索餅,そうめんからよりやさしく大量に作れる切断法のうどん が生まれ,鎌倉時代にはまんじゅうが,安土桃山時代にはパンやカス テラ,明治に入るとラーメンが食べられるようになっていきました。
(「日本麺類誕生記 つるつる物語」24)参照)
資料2 小麦クイズ解説より一部抜粋
図は「日本麺類誕生記 つるつる物語」を参照し著者の佐藤が作成
第2章 わたしたちの地域と小麦 1 北海道と小麦
⑴ 北海道と洋食
日本人が昔から食べてきた伝統の和食に欠かせないのが主食の米です。しかし寒冷な気候条件を持つ 北海道で稲作農業を行うのは,明治時代の北海道開拓期では困難なことでした。そこで,北方生活では 気候条件的に不利な稲作農業を行うよりも,北海道の気候によく似たヨーロッパの農業をまねて,畑作 や牧畜を発展させ,パンおよび肉を主体とする洋食を広めていこうというのが北海道開拓使の方針と なったのです。
明治初期に北海道開拓使は食べ物の改善を計画し,パン,バター,肉,西洋野菜の普及につとめまし た。この計画は試みに終わり和食が定着しましたが,その後の北海道の食事に大きな影響を与えること となります。特に,札幌やその周辺では早くからキャベツ,玉ねぎ,肉が料理に使われ,大正時代の中 期以降(1917年頃~)になると,ライスカレー,シチュー,オムライス,コロッケなどが家庭料理とし て定着していきました。
(「伝承写真館日本の食文化1 北海道・東北1」25)参照)
写真1 かぼちゃのポタージュ 写真2 オムライス 写真3 かぼちゃサラダ
写真4 シチュー 写真5 パン 写真6 じゃがいもの塩ゆで 資料3-1 小麦テキスト12頁
(写真1~写真6は著者の佐藤が調理し撮影)
⑵ 北海道の小麦料理
小麦は,開拓使が欧米の品種を取り寄せて栽培を奨励しました。秋まき小麦は二毛作として有利なの で,畑作農家に普及しました。小麦はめん類,パンなどの食材にもなるもので,その後の北海道の食生 活に大きな影響を及ぼすこととなりました。小麦の栽培が食生活に影響を及ぼすとはいっても,ただち にというわけではありませんでした。小麦を使ってうどんを作って食べても,そばを越えるほどではあ りませんでしたし,讃岐うどんのような名物になることもありませんでした。パンとなるとその普及は 第二次大戦後,学校給食にパンが使用されてからのことです。
⑶ 第二次世界大戦と食習慣
第二次世界大戦の末期になると,食糧難が進み,米,馬鈴薯,雑穀類が不足しました。そんな中,栄 養価が高く栽培のしやすいかぼちゃの栽培が各家庭の庭や空き地で行われました。この時代,北海道民 の食事は馬鈴薯やかぼちゃの塩煮,汁に小麦の団子を入れたすいとん,わずかな米に大根,にんじんな どを入れて炊いた雑炊,馬鈴薯やかぼちゃを使った代用パンなどでした。
⑷ 戦後の学校給食
戦後は食糧事情が非常に悪く,米が不足し,人々は着物や貴金属と米,野菜を交換しようと農村に殺 到しました。そんな中,戦後の極端な食糧難に対応するため,ユニセフを中心とした援助物資による学 校給食が北海道でも1947年(昭和22年)から始まりました。しかし初期の給食は脱脂ミルクと缶詰の ジュースなど飲み物を中心とした補助給食でした。その後,1951年(昭和26年)にはアメリカの援助に よって,パン,牛乳,おかずの完全給食が実施されるようになりました。
(「伝承写真館日本の食文化1 北海道・東北1」25)参照)
写真7 家庭用オーブン 写真8 家庭用パン焼きがま
(写真7,写真8は北海道開拓記念館にて著者の佐藤が撮影)
資料3-2 小麦テキスト13頁
めんは索餅24)から派生したものだと解説したところ生徒は納得していた。
小麦と歴史を織り交ぜた問題が多かったこともあり,抵抗感なくクイズ学習に取り組み,小麦の世界に興 味を持つきっかけともなったようである。
「日本の学校給食でパンが食べられるようになったのはいつごろか?」についても正答率は36.5%と低い 傾向にあったことからも,日本の歴史と食文化についての学習機会もないため,こうした内容の学習を取り 入れていくことが生徒の食への関心にもつながっていくものと考える。また,予想以上に正答率が低かった のは,「日本で今現在最も小麦の生産量が多いのはどこか?」で,29.2%と3割に満たない数値となった。
誤答の理由としては,「北海道のような寒冷地で小麦がそんなに穫れるとは思わなかった」,「身近で小麦の 畑を見たことがない」,「知らない」等が多かった。
この結果を踏まえて小麦テキストを活用し,生徒の理解の不十分な内容を中心に,「明治時代の北海道と 洋食」,「北海道と小麦料理」,「第二次世界大戦と食習慣」,「戦後の学校給食」について学習した。資料3-
1,3-2に示すように,写真資料をテキストに多用して,当時の生活をイメージしやすくする工夫も行っ た。生徒からは「北海道での小麦の普及や歴史についてわかってとてもためになった」,「洋食がどのように して広がったのか,その時期が知れてよかった」等の反応が多かった。
小麦テキストの中の調理実習題材例に,北海道産の小麦粉と野菜を用いた題材「ピザとコンソメスープ」,
「手打ちうどんと野菜サラダ」を取り入れた。この二つの題材を調理実習で実施したが,生徒の反応は良好 だった。小麦粉からまったく違う形態の料理ができることに驚きや感動を味わうとともに,北海道産小麦の 美味しさを実感しながら,小麦粉の性質と特徴,調理性,調理技能等を学び,地域の農産物への興味・関心 を持つ生徒が増加した。
「ピザとコンソメスープ」,「手打ちうどんと野菜サラダ」の調理実習後,さらに地域の農産物の学習を深 めるために,「北海道産の小麦粉と野菜」を用いた創作レシピをつくり,実際に調理する「創作調理実習」
の実践を行うこととした。その実践内容を次に紹介する。
4.生徒の実践
⑴ 創作調理実習 1)創作レシピの作成
「北海道産の小麦粉と野菜」を使った創作レシピ作成にあたって,一人1枚の調理実習レポートづくりを 行った。レポートには,食事作りのテーマ,レシピ名,材料・分量,用具,つくり方,調べたことを記入す る。レシピには小麦粉と野菜を使用し,主食ともう1品の合計2品とすることを条件とした。生徒が実際に 作成したレポートの例を資料4に示す。
資料4のレポートは,材料・分量,作り方を詳細に記入し,小麦粉の他に使用する主な野菜として「ほう れんそう」をあげ,品種について調べたことも記入していた。
1班5~6人構成とし,各自が作成した資料4のレポートを持ち寄り,班内でレポート発表を行った。各 班では,班員のレポートの中から小麦粉を使った主食1品,野菜を使った副菜もしくは汁物1品の計2品を 選定した。各班から出された創作レシピ題材の一部を表6に示す。班内で調理実習に向けて必要な材料・分 量,用具,作り方,作業分担等についての最終確認を行い,班長は購入食品一覧表を教師に提出した。
2)創作調理実習をもとにした創作レシピの修正と発表
班長が提出した購入食品一覧表をもとに,農家の直売所にて北海道産の野菜全品をそろえた。各班で作成
資料4 生徒の調理実習レポート例
したレシピ及び計画書をもとに調理実習の作業を進め,各班記録係の生徒が調理作業と同時進行で記録写真 の撮影も行った。調理実習では,どの班も地元産の小麦粉と新鮮な野菜の味を活かしたアイディアあふれた 美味しい料理を作っていた。
調理実習終了後,生徒は事前に作成したレポート,レシピ及び計画書,記録写真をもとに,パソコンの Word文書にて創作レシピを作成した。作成に向けて,生徒は学校の調理実習で課題となった点を改善する ために,各家庭でもう一度調理を行い,家族に食べてもらって感想を聞き,さらにレシピに改善が必要な点 を修正し,レシピの完成度を高めていった。クラス毎に完成した創作レシピの発表会を行い,レシピの交流 をすることによって学び合いを深めることもできた。生徒が作成した創作レシピの一部を資料5-1,資料 5-2,資料6-1,資料6-2に示す。
資料6-1,資料6-2の創作レシピを作成した班は,まんじゅうの生地作りや生地であんを包む工程に おいて,苦戦を強いられていたが,自分たちの経験を活かして,作り方を丁寧に記している。材料だけでは なく,使用する用具まで記している点もレシピとしての完成度を高めている。肉まんの中身のあんの具材と 調味料のバランスも良く,「市販の肉まんよりも美味しい」と評価が高かった。また,まんじゅうの中身は 豚ひき肉,しいたけ,たまねぎ,たけのこ,ねぎ,しょうが等の肉まんのたねに限らず,小豆のあんを入れ たあんまんや,人参,ベーコン,ケチャップ,チーズ等を入れたピザまんにも応用が可能である。具材や味 のアレンジがきき,生徒の調理の幅が広がるレシピといえる点が魅力である。
これらの創作レシピの発表,交流を通して,生徒は自分たちの班の創作レシピだけではなく,他班の創作 レシピについても学んだ。レシピづくりを通して,材料・分量,作り方だけではなく,北海道産・地元産の 食品について調べ食物と地域についてさらに理解を深めることができた。また,必要な情報を収集し整理す
表6 各班から出された創作レシピより一部抜粋
NO. 創作レシピ 北海道産小麦粉
の種類 北海道産の主な使用野菜
1 かぼちゃ蒸しパンと野菜ロール 薄力粉 かぼちゃ,レタス,きゅうり,とうもろ こし,赤かぶ,アスパラガス
2 あっさり優しいうどんと和風ゴマドレサ
ラダ 中力粉 長ねぎ,三つ葉,大根,人参,レタス,きゅ
うり,水菜
3 肉まんとフルーツポンチ 中力粉 玉ねぎ,長ねぎ,たけのこ,しいたけ 4 パンケーキのポテトソースがけとかぼ
ちゃスープ 薄力粉 じゃがいも,かぼちゃ
5 あっさり野菜クレープと具だくさんロー
ルキャベツ 薄力粉 きゅうり,レタス,キャベツ,じゃがいも,
しいたけ,トマト 6 かぼちゃのパンケーキと大根とじゃがい
ものスープ 薄力粉 かぼちゃ,大根,じゃがいも
7 ミートソーススパゲッティとオニオント
マトスープ 強力粉 トマト,玉ねぎ,にんにく,人参
8 グリーンスタミナまんじゅうととうもろ
コンソメスープ 強力粉 にら,長ねぎ,アスパラガス,とうもろ
こし,玉ねぎ,人参 9 きゅうりとツナマヨのクレープと緑の野
菜たっぷりスープ 薄力粉 きゅうり,ブロッコリー,アスパラガス,
小松菜 10 野菜たっぷりカラフルピザと野菜たっぷ
り満腹スープ 強力粉 ほうれんそう,玉ねぎ,ピーマン,じゃ
がいも
レシピNo.7 ミートソーススパゲッティは手打ち麺を使用
資料5-2 表6 No.1創作レシピ
(写真は生徒が撮影)
野菜ロールのレシピ
[作り方]
1)生ハムを広げて塩,こしょうを振る。
2)1)に適当にちぎったレタスをのせる。
3)いろいろな具材をのせて,クルクル巻く。
4)つまようじをとめて完成。
・生ハムで巻くときに一枚で巻くと生ハムが破れてしまい,うまく包むことができないので,二枚重ね て巻くときれいに出来上がります。
・中に入れる具材は自分の好みで入れるといいです。スティック状にして小さく切ると巻きやすいです。
・生ハムじゃなくハムやベーコンで巻いてもおいしく作れます。《ハムやベーコンの方が厚いので巻き やすいと思います。》
[材料・分量]
食品名 分量(6人分)
生ハム 12枚
レタス 6~9枚
きゅうり 1本
コーン 1缶
アスパラ 3本
塩,こしょう 少々 ● 盛り付け 料理は見た目も大事なので・・・
↑このようにきれいに並べるとおいしそうに見えます かぼちゃ蒸しパンのレシピ
[作り方]
1.かぼちゃの種をとりのぞき,一口大に切りなべに入れる。
2.かぼちゃがひたるぐらいまで水をいれわかす。
3.耐熱容器にグラシンカップをいれておく。
4.蒸しきに湯をはり強火にしておく。
5.ボウルに薄力粉とベーキングパウダー,砂糖をいれて泡だて 器でまぜる。
6.「かぼちゃ50g」と「5」「牛乳」「サラダ油」「たまご」を加 えて均一になるまで混ぜる。
7.「6」の生地を「3」のカップにいれる。
8.強火で10~15分蒸す。竹串をさして何もついてこなければ完 成。
資料5-1 表6 No.1創作レシピ
(写真は生徒が撮影)
[材料・分量]
食品名 分量(6人分)
薄力粉 100g
ベーキングパウダー 小さじ1
砂糖 70g
かぼちゃ 50g
牛乳 50g
サラダ油 大さじ1
たまご 1個
資料6-1 表6 No.3創作レシピ
(写真は生徒が撮影)
肉まんとフルーツポンチ
簡単でちょっとした軽食にピッタリな食事!!
★肉まん〔一人分〕
★フルーツポンチ〔一人分〕
材料・分量
皮 小麦粉〔中力粉〕 50g ベーキングパウダー 2g 水 25g 砂糖 6g 塩 粉の0.5%
具 豚ひき肉 40g しょうが 1g しいたけ 0.5g 塩 1g たまねぎ 10g 醤油 2㏄
たけのこ 14g ごま油 2㏄
ねぎ 2g 打ち粉 少々
材料・分量
みかん缶 小1缶 パイン缶 小1缶 モモ缶 小1缶
水 フルーツがひたひたになるく らい
グラニュー糖 大さじ1 〔砂糖〕
用具 ボール×3,軽量カップ・スプーン,まな板〔木〕,
包丁,めん棒〔木〕,おとしぶた,あみ,ざる,
蒸し器,おたま,さいばし,計り,冷蔵庫
資料6-2 表6 No.3創作レシピ 肉まんの作り方
① 小麦粉とベーキングパウダーを混ぜる。
② 水に砂糖,塩を溶かし,①に少しずつ加え,混ぜ合わせ耳たぶくらいの柔らかさにし,6等分する。
③ しいたけ,玉ねぎ,竹の子をみじん切りにして,塩,醤油,ごま油を合わせておく。
④ 豚ひき肉と③を合わせて,粘りが出るまでこね6等分する。
⑤ ②で6等分した生地に打ち粉をつけて伸ばす。
⑥ ④を⑤の生地で包む。
(上下の皮を持って軽くつまみ,左右の皮も持ってきて軽くつまむ)
⑦ 15分ほど蒸す。
⑧ 完成。
(写真は生徒が撮影)
る力,課題を見つけて改善するための工夫をして修正する力,学習したことをWord文書にまとめて発表す る力を身に付けることもできた。
⑵ 小麦テキストの改良
小麦テキストには調理実習題材として「ピザとコンソメスープ」,「手打ちうどんと野菜サラダ」の2種の みを掲載したが,小麦の美味しさをより実感し調理の幅を広げるために,生徒が作成した創作レシピの中か ら新たに採用することとした。
新たに採用することにした創作レシピは,先に示した資料5-2,資料6-1,資料6-2の「野菜ロー ル」と「肉まん」である。採用の理由は,①調理実習の試食,創作レシピの発表,交流の際に生徒間で好評 であったことと,②すでに小麦教材テキストに掲載している「ピザとコンソメスープ」,「手打ちうどんと野 菜サラダ」にはない調理工程が含まれていることである。ピザは生地をこねる,発酵させる,のばす,焼く の工程,手打ちうどんは生地をこねる,のばす,切る,ゆでるの工程であることに対し,肉まんは生地をこ ねる,発酵させる,具材を包む,蒸すという工程である。具材を包むという新たな作業と加熱方法に蒸すが 加わることで,調理の幅が広がる題材になる。また,野菜ロールは野菜のアレンジが可能で,生ハム,ハム,
ベーコン等で巻いて手軽に作ることができる。彩りもきれいで,野菜をたくさん摂取しやすいレシピである。
資料5-1,資料6-1に示した「かぼちゃ蒸しパン」と「フルーツポンチ」も,生徒には好評なレシピで あったが採用しなかった理由は,近年増えている食物アレルギーの原因食品である「卵」,「牛乳」,「果物」
が含まれているからである。しかし,「かぼちゃ蒸しパン」は北海道産の小麦粉とかぼちゃを使用した魅力 的なレシピであるので,今後,「卵」,「牛乳」不使用でも美味しく作れる「かぼちゃ蒸しパン」レシピの開 発に取り組み,将来的に小麦テキストの中に取り入れていきたい。
5 .おわりに
創作レシピづくりの過程において,小麦粉を用いることを必須条件としていたが,当初「大福」を主食に 考えてきた生徒がいた。「大福」の原材料はもち米だが,生徒は小麦粉からできると思っていた。生産と消 費の場が離れた今,専ら消費者の立場にある生徒の多くは,普段自分たちが食べているものがどのような材 料からどのような過程で作られているのかを知らず,関心もなく,考えたこともない。家庭科では,地域で 生産されている農産物を知り,加工,消費までの流れを相互に関連付けながら理解を深め,原材料と加工食 品がリンクするような食についての総合的な学習を展開していくことが必要であると考える。
本論文では,中学校家庭科では主食である穀類の扱いが少ないことを指摘し,北海道で高い生産量を誇り,
なおかつ歴史的にも重要な位置を占めた小麦の教材化の試みを報告した。小麦粉は種類によって性質や適す る料理が異なり,調理方法によって変幻自在に形を変える特異な,かつ魅力的な食品である。それゆえに,
原材料と加工食品とを結びつけていくための家庭科の教材としては最適である。
「ピザとコンソメスープ」,「手打ちうどんと野菜サラダ」,「創作レシピ」と3回の調理実習を終えた生徒 たちは,「小麦粉」からつくり出す「手づくりのよさ」,「本当の美味しさ」,そして,「つくることの大変さ」
に気づくこともできた。目指すべきは,自分ではつくれないから市販品を買う,もしくは自分でつくるより も市販品を買って食べた方が美味しいという中学生の「常識」を覆すことができる調理実習の実践である。
つくり手の苦労を知ることで,感謝の気持ちのみならず,自ら実践する意志を育てたい。また,食べ物を粗 末にしない,残さない,ゴミを減らそうとする行動が環境学習にもつながるものと考える。家庭科の調理実 習の題材は,このような広がりを持つべきである。
また,「創作レシピ」の作成,調理を通して,生徒は小麦粉だけではなく地域で生産されている野菜につ いても関心を向け,理解を深めることができた。小麦粉の調理においては,小麦粉を単独で扱うことはほぼ なく,野菜等他の食品と組み合わせるため,「小麦」という一つの地域農産物から調理実習を通じて他の地 域の農産物にも目を向けることができた。その点においても,学習の幅を広げることができる「小麦」教材 の持つ意義は大きい。
創作レシピのように生徒から出されたアイディアを教材に取り入れることで,生徒の視点に立った授業を 展開することができた。そして,中学生が考案した教材を扱うことが,来年,再来年と後々の後輩たちにも よい刺激となり,学ぶ意欲にもつながっていくことが期待できる。
食と地域を結びつけ,食への関心を高める総合学習として,そして,知識・技能の向上と「手づくりの良 さ」,「本当の美味しさ」を学習することができる家庭科の教材開発を今後もさらに進めていく。
付記 本論文は,第二著者の佐藤が北海道教育大学大学院教育学研究科修士課程に提出した平成22年度学位 論文の一部を,第一著者,第二著者が再分析し,その後の佐藤の実践を加えて再構成したものである。
【引用文献】
1)農林水産省.「農林水産統計」.農林水産省大臣官房統計部.2017
2)佐藤佐織.「中学校家庭科における小麦教材の研究-食物学習テキスト『小麦の世界を広げよう』の開発-」北海道教育 大学大学院教育学研究科修士課程学位論文.2010
3)国立教育研究所内戦後教育改革資料研究会.「文部省学習指導要領15家庭科・職業家庭科編」.日本図書.1980 4)文部省.「中学校指導書 技術・家庭編」.開隆堂.1978
5)文部省.「中学校指導書 技術・家庭編」.開隆堂.1989
6)文部省.「中学校学習指導要領(平成10年12月)解説-技術・家庭編-」.東京書籍.1999 7)文部科学省.「中学校学習指導要領解説 技術・家庭編」.教育図書.2008
8)河原春作.「標準女子 職業・家庭」.実業之日本社.1957 9)山本キク他.「中学校技術・家庭」.学校図書.1962
10)羽仁説子,馬場信雄他.「技術・家庭 女子」.実教出版.1972
11)石毛フミ子,馬場信雄,林雅子他.「新しい技術・家庭」.東京書籍.1981
12)石田晴久,中馬敏隆,阿部明子,渋川祥子他.「新しい技術・家庭」.東京書籍.1993 13)石田晴久,渋川祥子,加藤幸一他.「新しい技術・家庭 家庭分野」.東京書籍.2002
14)佐藤文子,金子佳子他.「新編 新しい技術・家庭 家庭分野 自立と共生を目指して」.東京書籍.2016 15)武田一郎他.「小学家庭5年」.開隆堂.1961
16)武田一郎他.「小学家庭6年」.開隆堂.1961 17)海後宗臣他.「新しい家庭科5年」.東京書籍.1961 18)海後宗臣他.「新しい家庭科6年」.東京書籍.1961 19)斎藤健次郎他.「小学校家庭科5」.開隆堂.1980 20)斎藤健次郎他.「小学校家庭科6」.開隆堂.1980 21)林雅子他.「新しい家庭5」.東京書籍.1980 22)林雅子他.「新しい家庭6」.東京書籍.1980 23)財団法人製粉振興会編集・発行.「小麦の話」.1989
24)伊藤汎.「日本麺類誕生記 つるつる物語」.築地書館.1987
25)農文協.「伝承写真館日本の食文化1 北海道・東北1」.農山漁村文化協会.2006
(増渕 哲子 札幌校教授)
(佐藤 佐織 札幌市立柏丘中学校教諭)