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<報 告>
若手放射線生物学研究会 2018 年度 専門研究会
「放射線応答・影響におけるミトコンドリアの役割」印象記
麻布大学獣医学部生化学研究室1、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機 構放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部2、
永根 大幹1,*、鈴木 基史2、佐藤 沙菜1、清水 琢音1
平成 30 年 9 月 1 日、2 日の両日に麻布大学において”放射線応答・影響におけるミトコンド リアの役割”と題した若手放射線生物学研究会の専門研究会が開催された。本年度は、講師 4 名、聴講者 37 名の 41 名が参加した。今年度の専門研究会は、麻布大学獣医学部(相模原)に おいて 筆者が世話人となり開催した。ミトコンドリアに関わる招待講演の他に、学部生・大学 院生、および若手研究者による口頭発表セッションも行われた。本稿では各講演ならびに口頭 発表セッションの概要を報告する。
はじめに:
放射線の生体における影響は個体レベルから細胞レベルまで様々であり、発がん、DNA 損傷、
アポトーシスなど、生物学のあらゆる分野を包括している。これまでの放射線生物学研究では、
核における DNA 損傷とそれに対する応答が放射線影響の中心的な役割を担うとされてきた。し かしながら近年、核以外の細胞小器官に対する生物学的影響が注目されている。特に、真核生 物に存在するミトコンドリアはエネルギー産生を担うだけではなく、アポトーシスシグナル経 路の中核ともなっている。そのため、放射線応答においてもミトコンドリアが何らかの機能を もつことは容易に想像できる。そこで本年度の専門研究会では、ミトコンドリア生物学におけ る講演とともにミトコンドリアの放射線影響に着目した特別講演を設定した。また、学生・大 学院生を対象とした学生発表および博士研究員・教員を対象とした一般発表を設定した。続く 項目では、各講演の概要を記載する。
* 〒252-5201 神奈川県相模原市中央区淵野辺1−17−71
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招待講演 1:ミトコンドリアエネルギー代謝応答から見た放射線応答と放射線増感効果
稲波修先生(北大院・獣医・放射線学教室)には、がん細胞のエネルギー代謝を利用した放 射線増感作用についてご紹介いただいた。
放射線照射によって細胞周期とミトコンドリアの分裂 Drp-1 に依存するミトコンドリアの断 片化とそれに伴う細胞当たりのミトコンドリア膜量(密度)、ミトコンドリア膜電位、酸素消費 率、および ATP 量の増加が観察されること、また、放射線照射後のこれらの変化にはミトコン ドリアの生合成ではなく、細胞内のミトコンドリア密度の上昇が関与していることをご紹介い ただいた。また、ミトコンドリア機能を阻害する新規親脂質性 triphenylphosphonium cation (TPP+) 化合物による放射線増感作用に関し最新の知見をご紹介いただいた。ミトコンドリアに おけるエネルギー代謝経路は内因性アポトーシスシグナルなど細胞死に密接に関与することか ら、ミトコンドリアを標的とした放射線増感剤の開発が期待される内容であった。
招待講演 2:ミトコンドリアの膜と mtDNA の動的な制御機構
石原孝也先生(大阪大学 理学研究科細胞生命科)はミトコンドリアの動的特性やその関連因 子の解析に関する研究に取り組まれており、本講演ではミトコンドリア膜の形態変化や mtDNA のダイナミクスに関する知見をご紹介いただいた。
ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー産生やシグナル伝達、分化・発生などに重要な機能 を示すとともに、がんや神経変性疾患、代謝関連疾患、老化などにおいてもその関与が示唆さ れている。また、ミトコンドリアは細胞内において融合と分裂を頻繁に繰り返しながら形態を 維持しており(ミトコンドリアダイナミクス) 、この形態変化がミトコンドリアの機能に影響を 与えると考えられている。ミトコンドリアダイナミクスの制御について、哺乳類では三種の GTPase 群である Mitofusion 1/2 (Mfn1/2), Optic atrophy 1 (OPA1)ならびに Dynamin-related protein 1 (Drp1)が機能している。ミトコンドリア融合では、外膜融合に関わる Mfn1/2 や内膜 融合に関わる OPA1 が中心的な役割を果たしており、ミトコンドリア内部を均一化することで機 能維持を行うと考えられている。一方で、ミトコンドリア分裂では、細胞質のダイナミン様タ ンパク質の Drp1がミトコンドリア外膜タンパク質である Mff, MiD49, MiD51(MIEF1)を受容体と してミトコンドリアに局在化して働き、細胞内でのミトコンドリアの適正な配置や、失活した ミトコンドリアの排除などの品質管理を介した細胞機能維持に重要であると考えられている。
また、ミトコンドリアの形態変化と mtDNA のダイナミクスの関連についても触れられた。mtDNA
の変異および機能発現不全は呼吸活性を低下させ、ミトコンドリア病などの疾患の原因となる
ことが知られている。mtDNA は核様体と呼ばれる構造を形成するが、この核様体がミトコンドリ
アの融合促進に伴い多数集合して巨大化する様子や、ミトバルブと呼ばれる大きく膨らんだミ
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トコンドリアが出現することを示された。さらに、このような核様体の変化により、内膜クリ ステの構造異常やアポトーシス進行の遅延が促されることも示された。
本講演を通して、ミトコンドリアダイナミクス、また、その制御機構や生理機能への影響に 関する見識を深めることができた。特に mtDNA 分布との関連についての紹介は新鮮で印象深く、
さらなる分子機構の解明について興味をひかれる内容だった。
招待講演 3:マイクロビーム X 線照射後のミトコンドリア活性変化のライブセル観察
横谷明徳先生(量研・量子ビーム・放射場生体分子科学)は、マイクロビーム X 線を用いて 細胞の放射線応答の詳細をあきらかにする研究に従事されており、その最新の知見についてご 紹介頂いた。
放射線を照射された細胞では、DNA 損傷と共に細胞内小器官(オルガネラ)にまで影響が生じ ることが知られている。横谷先生は多種多様なオルガネラの中でもミトコンドリアの放射線応 答に着目して研究を行われている。マイクロビーム X 線を細胞質または核のみに照射し、それ をライブセルで観察する特異的な技術を用いることで、これまでの細胞全体への照射だけでは 解明できなかった DNA 損傷が起因となってミトコンドリア量が増加し、ATP 産生量を増加させる ことをあきらかにされた。また、これらの知見と共に近年開発が進んでいる量子ナノセンシン グ技術の応用などにも触れられ、量子物理学と生物学の融合という新たな学問分野の誕生を垣 間見ることが出来た。
招待講演 4:
⼩林純也先生 (京都⼤学⼤学院 ⽣命科学研究科) は低線量率放射線被ばくが生物に与える影 響に関する研究に従事されており、今回の講演では、γ線低線量率放射線被ばく時の活性酸素 種 (ROS) 産⽣とミトコンドリア影響との関係、さらに酸化ストレス応答の⽣体影響への可能性 についてご講演いただいた。
放射線はゲノム DNA に損傷を引き起こすとともに、細胞内の ROS 増加を誘引することが知ら れている。これまでの放射線影響研究では高線量において検討されており、DNA 損傷量が多いこ とから、産生される ROS よりも DNA 損傷応答が主軸となって細胞運命を決定するとされてきた。
しかし、低線量率被ばくでは、DNA 損傷がわずかとなるため DNA 損傷応答の影響が減少し、ROS
による酸化ストレスの影響が相対的に高まると考えられる。そこで、ヒト正常繊維芽細胞およ
び骨肉腫由来細胞株を用い、低線量率または高線量率照射時の ROS 産生について検討したとこ
ろ、低線量率照射された正常繊維芽細胞でのみ、ROS の産生上昇がみられ、高線量率照射および
骨肉腫由来細胞では認められなかった。また、この正常繊芽細胞の ROS 蓄積に伴い、ミトコン
ドリア量の増加とミトコンドリア関連因子の減少が見られ、ミトコンドリアへの影響がミトコ
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ンドリア ROS の漏えい・細胞内蓄積につながることが示唆された。さらに、低線量率照射の DNA 損傷応答への影響を評価するために行った低線量率照射後の急照射では、ATM 活性化の抑制 が見られた。以上に示した低線量特異的な ROS により生じる放射線影響が発がん等の生体影響 につながりうることが示唆された。
小林先生の講演を拝聴し、線量率効果とは独立した低線量率照射の与える生物学的効果は非 常に興味深いものであった。また、福島原子力発電所事故以降、低線量・低線量率被ばくにお いて重要な影響は発がんであることから、社会的な関心は一層高まっており、今後さらなる発 展が期待されるのではないかと感じた。
口頭発表セッション:
口頭発表セッションでは、学部生・大学院生による発表が 13 題、一般演者による発表が 5 題 行われた。その内容は細胞の放射線応答に関する研究や放射線誘発がんの遺伝学的・病理学的 解析を行った研究、DNA 損傷応答の詳細について解析を行った研究など、多岐にわたる研究課題 の発表が行われた。質疑応答では、活発な議論が展開され、発表者と聴講者の双方にとって有 意義な時間であった。また、一般発表最終演題では日本保健物理学会若手研究会の紹介が行わ れ、今後の若手放射線生物学研究会との連携について大いに期待の出来る内容であった。なお、
若手放射線生物学研究会学生会員を対象とした平成 30 年若手放射線生物学研究会優秀発表賞に は、森山ひとみさん(首都大学東京大学院人間健康科学研究科)の「ガンマ線誘発ラット乳が んにおける全エクソソーム解析を用いたゲノム変異探索」が選出された。
おわりに: