日本の科学技術は何を目指すか
化学生物総合管理 第1巻第1号(2005.1) 1-2頁 受理日:2004年11月18日
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【巻頭言】
日本の科学技術は何を目指すか
黒川 清 日本学術会議会長
私たちホモサピエンスは500万年前に出現した唯一の生き残ったホモ。1 5万年の歴史、1万年前の農耕、数千年前に出現したいくつかの文明を経て、
西洋のルネッサンス以後の科学と技術の進歩、さらに産業革命をへて20世紀 のはじめには世界をすっかり変貌させた。しかし、20世紀の100年は、人 間の生活と世界のありように想像もできないほどの変化をもたらした。ローマ 時代の出生時余命25歳は20世紀はじめになって西欧や日本ではようやく4 0歳に到達し、その100年後には80歳となる。100年前のアインスタイ
ンの「
E=mc2
」は40年後に原子爆弾の開発を可能にし、今の日本の電力の30%が原子力となる。100年前のライト兄弟の10秒、40メートルの初飛 行の66年後にアポロ計画で人は月に到達した。いまや、東京からニューヨー クまで10時間で飛ぶ。医学もすっかり変わり、地球人口はこの100年で1 6億から64億に達した。交通と情報手段の急速な進歩は世界を狭くし、衛星 テレビ、インターネット等を通じた瞬時に情報を共有させる事も可能にし、経 済もグローバルな世界となる。これらの科学技術の進歩の背景には世界規模戦 争が20世紀の100年ほぼ持続していた事があることを忘れてはならない。
だからこそ大量の国家投資が行われたのである。
このような20世紀を振り返ると、21世紀の課題は何か、が見えてくる。
それは(1)地球人口はさらに増え、2050年には90億に達すると予測さ れること;(2)それに伴う生活圏の拡大、そしてエネルギー、食料、水等の需 要の急増、廃棄物等の増加等による地球の環境問題と温暖化;そして(3)南 北の格差の拡大、であろう。科学技術はこれらの課題にどう貢献できるか。地 球人口の80%は低開発と開発途上国にあり、先進国のような生活を求めるし、
余りの不公平さに不満は募る。
20世紀の後半は冷戦と日米安保枠の中で経済成長を遂げた日本の21世紀 の課題は何か。地球人口の60%を擁し成長するアジアでの、「グローバル化」
時代の日本の課題である。21世紀のパラダイムは何かをみんなが模索し、ヨ ーロッパは統一を模索している。近代日本の歴史を振り返れば、日本の課題は アジアでの信頼の構築であろう。経済だけではない、国の品格の問題である。
アジアで信頼されない日本がユーロやアメリカ大陸から信頼されるだろうか。
どんな人と付き合いたいかを考えれば理解できるというものであろう。
日本の科学技術は何を目指すか
化学生物総合管理 第1巻第1号(2005.1) 1-2頁 受理日:2004年11月18日
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では、国の目標をどこに置くのか。2050年というところだろう。そこへ の道へのいくつかの課題を考えたうえで、2020年をめざす行程を戦略的に 考える。そこへ到る3段階の5カ年計画を描く、ベンチマークできる。到達点 と時間を設定する。科学技術も例外ではない。これが国家の戦略的政策の立案 というものである。2050年に還暦を迎える人たちは既に14歳、50歳を 迎える人たちは既に4歳。この年代がこれから10年に受ける教育を想像して もらいたい。科学も科学技術もすべては「人」次第なのである。
なぜ2020年か?これから15年後である。では振り返って15年前には 何があったのか?ベルリンの壁が落ちたのだ。そのあと2年でソ連邦が消滅し た。天安門事件があった。そして今の中国はどうか。日経は最高の3万9千円。
そして翌年には2万円台へ。15年後にはGDPの140%の借金を負う国家 となった。15年後への目標設定はリアルなのである。しかも世界は今まで以 上に早く、ダイナミックに動いていく。
国の目標が見えれば、教育も、人材の育成も、科学技術も、この目標への「方 策」、「手段」である事が理解できよう。地球環境への科学技術の創造なのであ る。経済とも背反しない。持続可能な地球人類社会の構築へ貢献する科学技術 なのである。科学も、バイオも、ITも、ナノも、化学も、すべては環境へと 収斂する。それでなければ企業も生き残れない。国の存在は薄い。人も生き生 きとしない。将来の地球世代への責任を果たそうという日本こそが目指す国家 像ではあるまいか。そう、持続可能な地球人類社会を構築しようとする人たち を輩出する国、品格のある国。人をひきつける「ソフトパワー」の構築である。