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第 7 回公益財団法人公正取引協会主催平成 26 年度 独占禁止法研究会 不公正な取引 II- 中部読売 ( 不当廉売 ) 富士写真フイルム ( 拘束 )- I 不公正な取引方法としての不当廉売と拘束条件付取引 1 不公正な取引方法としての不当廉売不公正な取引方法としての不当廉売には 法定類型 (2

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第7回 公益財団法人公正取引協会主催平成26年度「独占禁止法研究会」 不公正な取引 II-中部読売(不当廉売)、富士写真フイルム(拘束)- I 不公正な取引方法としての不当廉売と拘束条件付取引 1 不公正な取引方法としての不当廉売 不公正な取引方法としての不当廉売には、法定類型(2条9項3号)と指定類型(一般 指定6項)とが含まれる。法定類型の不当廉売は、「正当な理由がないのに、商品又は役 務(以下、「商品」という。)をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供 給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」であり、 指定類型の不当廉売は、「法2条9項3号に該当する行為のほか、不当に商品又は役務を 低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。」である。 不当廉売規制の趣旨は、行為者と同等以上に効率的な事業者の事業活動を困難にするお それがある低価格を規制するところにある(不当廉売ガイドライン3(1)ア「価格・費 用基準」排除型私的独占ガイドライン)。当該商品を供給しなければ発生しない費用(可 変的性質を持つ費用又は平均回避可能費用。以下、「可変的性質を持つ費用」という。) を下回る低価格であれば、当該商品の供給が増大するにつれて損失が拡大し、行為者と同 等以上に効率的な事業者であっても、事業活動を困難にするおそれがある。したがって、 可変的性質を持つ費用を下回る価格は「供給に要する費用を著しく下回る対価」と推定さ れる。一方、効率性を反映した低価格を不当廉売として規制するべきではなく、当該商品 ・役務(以下、「商品」という。)の供給に要する費用、すなわち総販売原価以上の価格 は、行為者の効率性を反映した価格であって、低価格であっても、不当廉売として規制さ れるべきではない。一般指定6項は、法定類型の不当廉売の要件である価格・費用基準及 び継続性のいずれか又は両方を満たさない場合、すなわち、行為者が可変的性質を持つ費 用以上で総販売原価を下回る価格で供給する場合や、可変的性質を持つ費用を下回る価格 で単発的に供給する場合である(不当廉売ガイドライン4(1))。 上記の「正当な理由がないのに」又は「不当に」は、(自由)競争の減殺を意味する公 正競争阻害性のことであり、通常、競争者の排除効果が認められる場合に、公正競争阻害 性の要件が満たされる。競争者の排除効果が認められるか否かは、市場を画定した上で、 当該市場において他に代替的な取引先を容易に見つけ出すことができなくなるおそれがあ るか否かによって判断される。 仮に、不当廉売の上記要件が満たされるとしても、需給関係に対応する場合、当該商品 の販売の最盛期を過ぎた場合、競争者の低価格に対抗する場合など、独禁法1条の目的に 照らして、正当化されることがある(正当化事由。不当廉売ガイドライン3(3))。 2 不公正な取引方法としての拘束条件付取引 不公正な取引方法としての拘束条件付取引は、一般指定12項で、「法2条9項4号(再 販売価格の拘束)又は前項(排他条件付取引)に該当する行為のほか、相手方とその取引 の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件とつけて、当該相手方と 取引すること。」と定める。広義の拘束条件付取引には、再販売価格の拘束(2条9項4 号)と排他条件付取引(一般指定11項)が含まれるが、一般指定12項は、狭義の拘束

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条件付取引を定める。 再販売価格の拘束は、自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、 相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束することである(2条9項4号)。排他 条件付取引は、「不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取 引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること。」と定める(一般指定11項)。 排他条件付取引は、典型的には、メーカーが取引の相手方に競争品の取扱いを制限する 専売店契約であり、拘束条件付取引は、典型的には、メーカーが取引の相手方の販売地域 に関する制限、取引先に関する制限、小売業者の販売方法に関する制限などを行うことで ある(流通・取引慣行ガイドライン第2部第二3~5)。 再販売価格の「拘束」と拘束条件付取引の「拘束」とは同一であり、必ずしも当該制限 に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず、それに従わない場合に経 済上なんらかの不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていることである (第一次育児用粉ミルク再販売価格の拘束(和光堂)事件最判昭和50・7・10審決集 22・173、判時781・21①事件)。排他条件付取引の「条件」も前記「拘束」と 同じことを意味する。 再販売価格の拘束の「正当な理由がないのに」、排他条件付取引と拘束条件付取引の「不 当に」は、いずれも、競争の減殺を意味する公正競争阻害性のことであり、競争の回避効 果又は競争者の排除効果が認められる場合に、公正競争阻害性の要件が満たされる。 競争の回避効果も競争者の排除効果も、本来、市場を画定した上で、当該市場において 競争の回避効果又は競争者の排除効果が認められるか否かによって判断されるはずであ る。 排他条件付取引については、市場を画定した上で、当該市場における有力なメーカーが 競争品の取扱い制限を行い、これによって新規参入や既存の競争者にとって代替的な流通 経路を容易に確保することができなくなるおそれがある場合には、不公正な取引方法に該 当し、違法となる(流通・取引慣行ガイドライン第2部第二2(2))。しかし、再販売 価格の拘束及び拘束条件付取引の典型例である販売地域、取引先、販売方法等の制限につ いては、市場の画定を要することなく、専ら当該商品の価格が維持されるおそれがあるか 否かによって判断されている(流通・取引慣行ガイドライン第2部第二3~5、第一次育 児用粉ミルク事件最判昭和50・7・10(11)審決集22・173、判時781・2 1)。 II 中部読売事件東京高決(高民集28・2・174、判時776・30、判タ322・ 126) 1 事案の概要 昭和50年3月25日、中部読売新聞社は、東海3県(愛知、三重、岐阜)を販売地域 とする中部読売新聞の発行を開始した。中部読売新聞は、中部読売新聞社が独自に編集製 作する紙面はごく一部にすぎず、ほとんどは読売新聞社との業務提携関係(読売新聞の記 載内容のファクシミリ送信や漢字テレタイプ送信を受けた紙面の製作)に依存していたほ か、収入面でも紙面上の広告枠のうち月間2400段を読売新聞社が一括して購入する等 の関係があった。このような関係を前提として、中部読売新聞社は、発行開始からおおむ

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ね6か月後の販売目標数を50万部に設定し、販売価格を1か月1部当たり500円とし た。 これに対し、公取委は、中部読売新聞社が読売新聞社との業務提携関係に依存せずに独 立して新聞を発行・販売するとして損益計算した場合に利益が零となる本件新聞の販売価 格は、低く見積もっても1か月1部当たり812円であるから、販売価格を1か月1部当 たり500円とするのは、不公正な取引方法の旧一般指定の5が定める「不当に低い対価 をもって、物資、資金その他の経済上の利益を供給し」た場合に該当し、不公正な取引方 法を禁止する独禁法19条に違反する疑いがあり、これが継続されると、従来の新聞の購 読をやめ中部読売新聞に切り替える顧客が続出して東海3県における新聞販売の公正な競 争秩序が侵害されることは明らかであるとして、東京高裁に、緊急停止命令を求めて申立 を行った。 2 検討 本件当時、不公正な取引方法の一般指定5は、不当廉売について、「不当に低い対価を もって、物資、資金その他の経済上の利益を供給する」ことと定めていた。そこで、不当 に低い対価=不当廉売とは何かが問われ、本件の東京高決は、不当廉売とは原価を下回る 価格をいい、経済上通常有すべき費目によって算定されるべき原価であると判示してい る。公取委も基本的に同じ考え方を採用していた。ここでいう原価とは、全体として損益 なく零となる総販売原価のことであるとみられる。したがって、不当廉売とは、総販売原 価を下回る価格のことであると捉えていることになる。 しかし、今日では、不当廉売は、法定類型(2条9項3号)と指定類型(一般指定6項) に分かれて規定され、法定類型の不当廉売は、「正当な理由がないのに、商品又は役務(以 下、「商品」という。)をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給する ことであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」であり、指定類 型の不当廉売は、「法2条9項3号に該当する行為のほか、不当に商品又は役務を低い対 価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。」である。そして、 法定類型の不当廉売を課徴金賦課の対象としている。 今日では、不当廉売の目的は、基本的に、行為者と同等に効率的な事業者の事業活動を 困難にさせるおそれがあるような廉売を規制するところにあるとされ、したがって、法定 類型、指定類型のいずれの不当廉売であっても、少なくとも、総販売原価を下回る価格で あることが前提となる。総販売原価以上の価格であれば、行為者の効率性を反映した価格 であり、行為者と同等に効率的な事業者の事業活動を困難にさせるおそれがないからであ る。しかし、今日では、本件の東京高決や公取委のように、総販売原価を下回る価格であ ることが直ちに不当廉売と判断されるわけではない。 法定類型の不当廉売は、供給に要する費用=総販売原価を著しく下回る対価で継続して 供給することを要件としている。供給に要する費用には、廉売対象商品を供給しなければ 発生しない費用(これを、以下、「可変的性質を持つ費用」という。)とそれ以外の費用 とがあるが、可変的性質を持つ費用でさえ回収できないような低い価格を設定すれば、廉 売対象商品の供給が増大するにつれて損失が拡大することとなるため、行為者と同等以上 に効率的な事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある。したがって、可変的性質を持

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つ費用を下回る価格は供給に要する費用を著しく下回る対価であると推定される。指定類 型の不当廉売は、総販売原価を下回るが可変的性質を持つ費用以上の価格の場合、又は可 変的性質を持つ費用を下回る価格で単発的に供給する場合である。本件であれば、可変的 性質を持つ費用は、新聞原価(製作経費と材料費)に販売経費の一部を加えた費用という ことになり、これを下回る価格であれば、法定類型の不当廉売に該当することになりそう である。また、この可変的性質を持つ費用以上の価格であっても総販売原価(新聞原価、 販売経費、一般管理費)を下回る価格であれば、行為者の意図・目的、廉売の効果、市場 全体の状況等からみて、競争者の排除効果が認められる場合には、不当廉売に該当するこ ともあり得る。特に、新聞原価及び販売経費を下回っているか否かが考慮される(不当廉 売ガイドライン4(1)(2))。 本件では、東京高決も公取委も、不当廉売の基準となる原価の計算においては、業務提 携関係など特殊な事情を排し、一般の独立した事業者としての原価を計算するべきである としている。もっとも、本件では、実際には、業務提携関係にある読売新聞社の原価に置 き換えて算定しただけであり、一般の独立の事業者の原価として算定したわけではない、 と批判されている。しかし、より重要なことは、他社との業務提携関係を前提として原価 を計算することがなぜ許されないのかという問題がある。 本件の実質は、読売新聞社の地域による差別対価であるといってよいが、実質的に同一 の新聞についての地域による差別対価はそれ自体で直ちに不公正な取引方法に該当すると する特殊指定があったために、これを回避するために、読売新聞社とは法律的に独立した (資本的にも人的にも独立した)中部読売新聞社が設立され、読売新聞と実質的に同一内 容の中部読売新聞を読売新聞より低価格で発行・販売したことが不当廉売として不公正な 取引方法に該当するかが問題とされたのである。しかし、新聞の公器性を根拠として、新 聞の差別対価それ自体を不公正な取引方法とする特殊指定に合理性があるのかが問われる べきである。本来、地域による差別的な低価格が差別対価として不公正な取引方法に該当 するか否かは、当該低価格が不当廉売と同一の基準によって判断されるべきであるという ことになる。読売新聞社による東京地区での読売新聞より低価格での東海3県での読売新 聞の販売が不当廉売と同一の基準に該当するか否かを検討するに当たっては、本件で問題 とされた別会社との業務提携関係という「特殊の事情」を排する必要はなくなるはずであ る。むしろ、同一社内でのファクシミリ送信や漢字テレタイプ送信という技術革新を利用 したコスト削減が評価され、不当廉売の基準には該当しないものとみられる。不当廉売と 同一の基準により判断されるべき差別的な低価格との関係で問題とならないことを、不当 廉売との関係で問題とすることは合理的であろうか。 本件の東京高決は、不公正な取引方法として不当廉売に該当するか否かを判断するに当 たっては、その原価を形成する要因が、その企業努力によるものでなく、当該事業者の場合 にのみ妥当する特殊な事情によるものであるときは、これを考慮の外におき、そのような 事情のない一般の独立の事業者が自らの責任において、その規模の企業を維持するため経 済上通常計上すべき費目を基準としなければならないと判示する。そして、その根拠・理 由として、(i)巨大な資力を有する事業者が一定期間採算を度外視する圧倒的な廉価で自己 の商品を販売し、あるいは、(ii)ある事業者が一の業種による利益を投入して他の業種につ き圧倒的な廉価で商品を提供する等により、当該市場において競争上優位に立とうとする

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場合、当該事業者にしてはその全体の収支の上では損失はないとしても、この対抗を受け る他の競争事業者の被る損害は甚大であり、公正な競争秩序が阻害されることは明らかで、 独禁法は、このような競争手段を不公正なものとして禁止するのでなければ無意味に帰す るから、これを不当対価としてとらえるのであって、その際基準となるべきものは、あく まで、経済上通常要すべき費目によって算定されるべき原価でなければならないことを考 えれば、おのずから明らかであると判示している。しかし、その意味するところは必ずし も明らかではない。(i)、(ii)ともに、当該商品の廉価が不当廉売の基準に該当するか否か を判断すればよいのであり、特段、特殊の事情を考慮する必要のある場合ではない。他社 との業務提携関係の構築によるコスト削減も企業努力によるものと評価することができる のではないのか。 また、本件の中部読売新聞の進出は、東海3県における全国紙の寡占状況に風穴を開け るという意味において、競争促進効果が評価されるべきものでもあった。 III 富士写真フイルム事件(勧告審決昭和56・5・11審決集28・10) 1 事案の概要 富士写真フイルムは、医療用 X 線フィルム(以下、「X 線フィルム」という。)の製造 業者であり、昭和55年において国内の販売額の約53%を占め、X 線フィルムの事業分 野において卓越した地位にあった。他方、富士エックスレイは、富士写真フイルムの完全 子会社であり、富士写真フイルムが国内で販売する X 線フィルムのすべてを取り扱う販売 業者である。富士エックスレイは、X 線フィルムの取引先販売業者について、取引額等に より、専門特約店、準特約店等の区分を設けているところ、準特約店等に対する販売価格 は、一部を除き専門特約店のそれより高いものになっており、富士写真フイルムの国内に おける X 線フィルムの総販売額の約9割は、専門特約店6社によって取り扱われている。 また、専門特約店、準特約店等は、その取り扱う富士写真フイルムの X 線フィルムの大部 分を直接需要者に販売している。 富士写真フイルムは、従来、専門特約店の間で、(i)専門特約店が X 線フィルムの取引に ついて、富士写真フイルムの製品と同一又は同種の製品を富士写真フイルム以外の第三者 と取引しようとするときは、あらかじめ、富士写真フイルムの了解を得る、(ii)専門特約 店が、富士写真フイルムの製品を販売する地域は、別に定めた地域とする旨を定めた販売 特約店基本契約書を締結し、同契約に基づいて、専門特約店に X 線フィルムを販売してい た。 富士写真フイルムは、完全子会社の富士エックスレイの設立に伴い、同社と富士エック スレイ及び専門特約店の三者間で、富士エックスレイを富士写真フイルムの X 線フィルム の総販売代理店とし、富士エックスレイが販売特約店基本契約書上の富士写真フイルムの 地位を承継する旨の三者間契約を締結した。次いで、富士写真フイルムは、富士エックス レイとの間で、総販売代理店基本契約を締結し、同契約に基づく取引契約書おいて、(i) 専門特約店及び準特約店の小売価格は、本契約で定めるとおりとする、(ii)富士エックス レイは、X 線フィルムの価格を維持するよう努力する旨を定めている。 富士エックスレイは、前記三者間契約及び総販売代理店基本契約により、専門特約店と の間で、X 線フィルムの取引に関し、専門特約店取引契約書を締結し、同契約において、 (i)専門特約店が X 線フィルムを販売する地域は、本契約で定めるとおりとする、(ii)専門

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特約店は、富士エックスレイが定める小売価格をもって需要者に販売する、(iii)専門特約 店は、X 線フィルムの価格を維持するよう努力する、(iv)専門特約店が本契約又は前記三 者間契約に違反したとき、富士エックスレイは、催告をしないで本契約を解除することが できる旨を定め、また、同社は、準特約店との間で、取引契約書を締結し、上記(ii)~(iv) と同旨の条項を定め、おおむね同条項が実施されている。 2 検討 本件当時の不公正な取引方法の一般指定8は、「正当な理由がないのに、相手方とこれ に物資、資金その他の経済上の利益を供給する者との取引、もしくは相手方とこれから物 資、資金その他の経済上の利益の供給を受ける者との取引または相手方とその競争者との 関係を拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」と定めていた。本件は、メー カーの流通業者に対する垂直的制限のうち、取扱商品、販売地域、販売価格の各制限が不 公正な取引方法として拘束条件付取引に該当するか否かが問題とされた事案であった。 本件では、富士写真フイルムが、完全子会社の富士エックスレイを X 線フィルムの国内 における総販売代理店とし、富士エックスレイをして、取引先の専門特約店との間で、(i) 競合品を取扱う場合には、あらかじめ、富士写真フイルムの了解を得させる、(ii)あらか じめ定めた販売地域に限定させる、(iii)あらかじめ定めた小売価格を維持させるとともに、 (iv)専門特約店がこれら(i)、(ii)、(iii)に違反した場合には、催告なしに契約を解除する契 約を締結させていた。また、取引先の準特約店との間においても、上記(ii)、(iii)、(iv)と 同旨の契約を締結させていた。そして、この結果、(a)専門特約店は専ら富士写真フイルム の X 線フィルムを取り扱っている、(b)富士エックスレイは専門特約店及び準特約店の X 線フィルムの販売地域を国内の大部分の地域において競合しないように定め、専門特約店 及び準特約店はおおむね当該定められた販売地域内で X 線フィルムを販売している、(c) 富士エックスレイは専門特約店及び準特約店に対し富士写真フイルムが定めた X 線フィル ムの小売価格を通知し、専門特約店及び準特約店はこれを基準として用いていたというの である。 本件での法令の適用は、このような認定事実に対し、富士写真フイルムについては、富 士エックスレイに対し、その取引先販売業者(専門特約店と準特約店)に販売価格を維持 させる条件をつけて同社と取引しているとし、富士エックスレイについては、X 線フィル ムの販売に当たり、その取引先販売業者に対し、その取扱商品、販売地域及び販売価格を 拘束する条件をつけて当該販売業者と取引しているものであって、いずれも、不公正な取 引方法の一般指定8の拘束条件付取引に該当するものとしている。 本件での違反主体は、富士写真フイルムとその完全子会社である富士エックスレイの2 社となっている。日本法の下では、法人格が別であれば、別異に取り上げるのが一般的な 取扱いであり、本件での取扱いもこれに従っているようにみえる。しかし、本件では、富 士写真フイルムがすべてを取り仕切っており、富士写真フイルムのみを違反主体とするの が本件の実質に適合するように考えられる。そうすることによって、排除措置を命ずる上 でも不都合はないように思われる。流通・取引慣行ガイドラインの「(付)親子会社間の 取引」2では、親子会社間の取引が実質的に同一企業内の行為に準ずると認められる場合 において、例えば、子会社が取引先事業者の販売価格を拘束していることが親子会社間の

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契約又は親会社の指示により行われている等、親会社が子会社の取引先である第三者の事 業活動を制限する場合には、親会社の行為は不公正な取引方法により規制の対象となる、 としている。 また、本件での競合品の取扱い制限については、なぜ、排他条件付取引を定める一般指 定7(「相手方が、正当な理由がないのに、自己の競争者に物資、資金その他の経済上の 利益を供給しないこと、または相手方が、正当な理由がないのに、自己の競争者から物資、 資金その他の経済上の利益の供給を受けないことを条件として、当該相手方と取引するこ と」)を適用しなかったのか、必ずしも明らかではない。今日であれば、競合品の取扱い 制限は排他条件付取引を定める一般指定11項が適用されたものと思われる。拘束条件付 取引を定める一般指定12項は、「・・・前項に該当する行為のほか、相手方とその取引 の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と 取引すること」と定めているからである。もっとも、本件で排他条件付取引を含めて拘束 条件付取引としたのは、本件行為全体の公正競争阻害性の求め方に基づくものではないか とも思われる。すなわち、排他条件付取引の公正競争阻害性の要件は、通常、競争者の排 除効果が認められる場合に満たされる。しかし、本件では、全体として、小売価格維持と いう価格競争の回避効果が認められることから、公正競争阻害性の要件が満たされると評 価し、したがって、本件行為全体を拘束条件付取引に該当すると評価したのではないかと もみられる。 なお、本件は、販売地域の制限が不公正な取引方法の拘束条件付取引に該当するとされ た初めての事件であった。販売地域の制限によって、小売価格維持という価格競争の回避 効果が認められることから、公正競争阻害性の要件が満たされ、拘束条件付取引に該当す るとされたものとみられる。本件の販売地域の制限が、流通・取引慣行ガイドラインにい う厳格な地域制限なのか(厳格な地域制限については、市場における有力なメーカーによ って行われ、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合には、不公正な 取引方法に該当し、違法となる(一般指定12項(拘束条件付取引)とされる。)、地域 外顧客への販売制限なのか(地域外顧客への販売制限については、これによって当該商品 の価格が維持されるおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一 般指定12項とされる。)、あるいはそれ以外であるのかは、必ずしも明らかではない。 その後も、販売地域の制限が不公正な取引方法の拘束条件付取引に該当するとされ事案は ないようにみえる。 富士写真フイルムは、本件当時、国内の X 線フィルム市場において約55%を占め、卓 越した地位にあった。したがって、本件は、富士写真フイルムが、富士エックスレイを通 じて、取引先の専門特約店及び準特約店の取扱商品、販売価格、販売地域に係る事業活動 を支配することにより、国内の X 線フィルム市場において価格をある程度自由に左右する ことができる状態をもたらし、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとい う要件も満たし、支配型私的独占に該当していたのではないかとみられる。

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