群論入門
山上 滋
平成
15
年4
月14
日「群論」の授業というと、代数の一部として教えられることが多いよ うですが、もっと適用範囲の広い汎用性のある概念です。群論に限らず、
代数系の本は「代数学」に片寄りすぎかも知れません。代数方程式論に由 来するという歴史的事実があるにしても、「群」という概念の重要性は、
対称性の記述のためにこそあるのであって、もっと幾何学的な視点があっ てしかるべきですし、また解析的な題材も取り上げられるべきでしょう。
群に関連する諸概念を孤立した形で列挙するのは、理解する上での妨げ になるだけでなくその応用力をも限定しかねません。
このノートでは、そういった点に配慮して、群の概念そのものよりも、
「群の作用」を中心に据えた説明を心がけました。群論の授業でつねに問 題になる剰余類の扱いについても、作用による軌道分解により導入しま す。少しは、直感的なイメージが得られるのではないかとの期待からです。
こういった目的に合った教科書がなかなか見当たらないのですが、多 少なりとも近いものとして、
• M.A. Armstrong, Groups and Symmetry, Springer-Verlag, NewYork, 1988
• 志賀浩二「群論への30講」、朝倉書店 (1989) を参考書として挙げておきます。
目 次
1 図形の対称性 2
2 変換群 5
3 群とその同型 9
4 群作用 13
5 商群 18
6 対称群 20
7 アーベル群 22
8 存在定理 24
9 自由群 25
10 軌道数公式 27
1
図形の対称性ベクトル空間の基底と座標系。物理的見方の説明と数学的形式との関係。
x=
j
xjej =
e1, . . . , en
x1
... xn
.
一次変換と行列表示について復習。
T e1, . . . , T en
=
e1, . . . , en
t11 . . . t1n t21 . . . t2n ... . .. ... tn1 . . . tnn
= (e1, . . . , en)[T].
1次変換 T と行列表示 [T] との間には、
[S+T] = [S] + [T], [λT] =λ[T], [ST] = [S][T] という関係が成り立つ。
変換と対称性の例:図形の対称性を数学的に表現する方法として、変
二等辺三角形の対称性は、二等辺以外の辺の垂直ニ等分線に関する折り 返し(これがここでの変換である)に関して「不変」であるという事実に 集約される。二等辺三角形が正三角形になると、折り返しを行いうる対 称軸の取り方が増し、対称性が高まるという直感にも合致している。こ のように対称性を考える上で重要な変換として、次のものがある。
(i) 折り返し、左右対称。鏡像と上下対称。(意識の問題?)
(ii) 回転。(カードの図柄)
(iii) 平行移動(繰り返し)と格子点。
この節では、こういった図形の対称性に密接に関係する変換について、
線型代数からの復習を行う。
回転の行列と折り返しの行列
cosθ −sinθ sinθ cosθ
,
cosθ sinθ sinθ −cosθ
.
前者は、反時計回り(左回り)に角度 θ の回転を表し、後者は、直線 xsin(θ/2) =ycos(θ/2)に関する折り返しを表す。
例 1.1. 平面上の原点のまわりの回転R,原点を通る直線 l に関する折り 返しL に対して、変換 RLR−1 は直線 Rl に関する折り返しを表す。
正方行列 T に対して、次の3条件は同値である。
(i) 直交行列である、 tT T =TtT =I.
(ii) 内積を保存する、(T x|T y) = (x|y) for x, y ∈Rn. (iii) ベクトルの長さを変えない、T x=x for x∈Rn. 問 1. このことを線型代数の教科書で復習する。
n 次の直交行列 (orthogonal matrix)全体を記号 O(n)で表す。
問 2. 2次の直交行列は、回転か折り返しのいずれかである。また、2次 の直交行列が、回転を表すか、折り返しを表すかは、行列式の値が±1 の いずれであるかで区別される。
長さを変えない変換変換としては、直交変換と平行移動を組み合せた 次のような変換もある。
x y
→T
x y
+
a b
.
このように、1次変換と平行移動を組み合せたものをアフィン変換(affine transformation)と呼ぶ。
複素数を使った表示。オイラーの公式。
z→eiθz+c z →eiθz+c.
平行移動は回転の極限である。
3次元の場合。ある座標原点を通る直線のまわりの回転は、e3 を回転 軸の方向ベクトルに一致させると、
T
e1 e2 e3
=
e1 e2 e3
cosθ −sinθ 0 sinθ cosθ 0
0 0 1
となるので、tT T =TtT =I, det(T) = 1 をみたす。
逆に、このような直交行列 T に対しては、実係数3次方程式の解とし て、実固有値 t を持つので、対応する長さ 1 の実固有ベクトル e3 をベ クトルe1, e2 を補って、正規直交基底 e1, e2, e3 を作り、これに関する T の行列表示を考えると、
a b 0 c d 0 0 0 t
の形になるので、t=±1であり、
A=
a b c d
は2次の直交行列である。したがって、
A =
cosθ −sinθ sinθ cosθ
, A=
cosθ sinθ sinθ −cosθ
のいずれかである。前者の場合は、det(T) = tdet(A) =t より、t= 1 と なって、T は e3 を軸とする回転を表す。後者の場合は、det(A) =−1 よ り t=−1であるが、A が折り返しの行列であることから、T e=e とな る固有ベクトルが存在するので、eを改めて e3 と取り直すと、前者の場 合に帰着する。
問 3. 直交行列
T =
cosθ sinθ 0 0 sinθ −cosθ 0
0 0 −1
に対して、ベクトル e は具体的にどのように取れるか。
問 4. ある平面に関する折り返し(鏡映変換)は、3次の直交行列で行列 式の値が −1であるもので表される。逆は成り立つか。
問 5. 4次の直交行列について、その幾何学的な解釈が可能かどうか調 べよ。
注意 . 直交群 O(n) の性質は、n が偶数か奇数かで大きく異なる。その 意味で、O(2)は O(3)よりも O(4)と多くの共通点を持っている。
2
変換群正三角形の対称性を考えるに、2つの折り返しの変換を続けて施して も、当然正三角形を不変性にするので、これも対称性というべきである。
実際、そのような変換は、正三角形の中心の廻りの60度の回転を表す。
集合X に対して、X からX 自身への写像をX における変換 (trans-
formation)と言う。変換に対しては逆写像という代わりに逆変換 (inverse
transformation) という言い方をする。さらに X の変換で逆変換が存在
するようなもの全体の集合を GT(X)という記号で表し、GT(X)の2つ の元の積を写像の合成によって定めると、(i)結合法則 f(gh) = (f g)h が 成り立ち、(ii) 恒等写像e は、ef =f e=f という性質を持ち、(iii)さら に、f ∈GT(X) の逆写像 f−1 は、f f−1 =f−1f =e を満たす。
一般に集合 X から自分自身への写像の集まりG で、次の性質をもつ ものを X の変換群 (transformation group) と呼ぶ。(群の一般的な定義 は次節で与える。)