一般社団法人日本整形外科スポーツ医学会
ORTHOPAEDIC SPORTS
MEDICINE
Japanese Journal of
目 次
<第37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」>
1.緒 言
総合せき損センター整形外科 前田 健 1
<第37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」>
2. スポーツ復帰のための腰椎手術療法―内視鏡椎間板ヘルニア摘出の有用性―
Return to Sports After Minimally Invasive Endoscopic Surgery
帝京大学溝口病院整形外科 出沢 明ほか 3
<第37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」>
3. スポーツ選手の腰椎椎間板ヘルニアに対する内視鏡下後方手術の実際 Micro Endoscopic Discectomy for Lumbar Disc Herniation in Athletes
大阪市立大学整形外科 中村 博亮ほか 11
<第37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」>
4. プロスポーツ選手の腰部障害と治療
Lumbar Disorder and Treatment Associated with the Professional Athletes Engaged in Baseball and Soccer Games
JA 広島総合病院 藤本 吉範ほか 15
<第37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」>
5. 腰椎椎間板ヘルニアに対する経皮的内視鏡下髄核摘出術(PED)を施行した トップレベル運動選手の復帰
A Report of Recovery After Percutaneous Endoscopic Discectomy (PED) for Lumbar Disc Herniation in Top Level Athletes
いちはら病院
筑波大学医学医療系人間総合科学研究科 辰村 正紀ほか 22
<第37回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」>
6. 内視鏡下椎間板摘出術(MED 法)後の超早期リハビリテーション・プログラム The Very Early-Stage Rehabilitation Program After Lumbar Discectomy (MED Method)
医療法人スミヤ角谷整形外科病院リハビリテーション科 貴志 真也ほか 29
<学術プロジェクト研究助成論文>
7. 少年野球選手の肘関節痛発症に関する前向き調査
―危険因子の検討とガイドラインの検証―
Prospective Study of Elbow Pain and Verification of Guideline in Schoolchild Baseball Players
徳島大学医学部運動機能外科学 松浦 哲也ほか 38
8. スポーツによる肘離断性骨軟骨炎に対する骨軟骨柱移植術
Osteochondral Autograft Transplantation for Osteochondritis Dissecans of the Elbow in Athletes
鈴鹿回生病院整形外科 福田 亜紀ほか 44
9. 内側円板状半月板損傷の小経験
Medial Discoid Meniscus:4 Cases Report
昭和大学医学部整形外科 貴島 健ほか 48
10. 内側型野球肘患者の疼痛出現相における投球フォームの違いと理学所見について The Pitching Form and Physical Examination of Different Painful Throwing Phases in Patient with Medial Type Baseball Elbow
横浜市スポーツ医科学センター 坂田 淳ほか 55
11. ヒラメ筋肉離れ後の血腫増大により重症化したバレーボール選手の 1 例
Serious Soleus Muscle Strain due to Increasing Hematoma, A Case Report of a Volleyball Player
筑波大学整形外科 西田 雄亮ほか 63
12. 野球選手の肘内側側副靱帯損傷に対する保存的治療のスポーツ復帰
The Results of Conservative Therapy of Medial Collateral Ligament Injury in Baseball Players
日本鋼管病院スポーツ整形外科 渡邊 幹彦ほか 67
13. スポーツで受傷した上腕二頭筋長頭腱完全断裂に対し手術治療を施行した 2 例 Complete Rupture of the Long Head of Biceps Brachial Tendon Injured by Sporting Activities -Two Case Reports
北里大学北里研究所病院スポーツクリニック 齊藤 良彦ほか 72
14. スポーツ選手に発生した足舟状骨疲労骨折の手術経験
Evaluation and Operative Treatment of Tarsal Navicular Stress Fracture in Athletes
昭和大学附属豊洲病院整形外科 富田 一誠ほか 79
15. プロサッカー選手に生じた半腱様筋腱遠位部腱断裂の 1 例
Distal Semitendinosus Tendon Rupture in Professional Football Player:
A Case Report
昭和大学藤が丘病院整形外科 高木 博ほか 84
腰痛や坐骨神経痛に悩まされるスポーツ選手は多 いが,とくにトップアスリートやプロ選手になると 事態は時として深刻である.十分なパフォーマンス を発揮できない状態が続けば選手生命を脅かされる 状況になるが,かといって体にメスを入れること自 体が選手生命の終焉と考える選手も多い.彼らにと って手術は究極の最終手段であるが,不幸にして手 術を選択せざるをえなくなった場合は,いかに早く スポーツ復帰が果たせるか,また,いかに発症前の パフォーマンスを回復できるかが,とくにプロ選手 にとっては至上命題である.今回は,主に腰椎椎間 板ヘルニアの手術療法とリハビリテーションについ て,5 名の専門家に演題をいただき,大変有意義な ディスカッションが行なわれた.
帝京大学附属溝口病院整形外科の出沢先生から は,PEDの有用性について印象深い報告があった.
Love 法や MEDとは根本的に異なる PEDは,極めて 低侵襲であり,局所麻酔下に術後一泊入院で行なえ ることが示された.この低侵襲性は,とくにスポー ツ選手においては非常に魅力的となるだろう.ま た,椎間板の HIZ(high intensity zone)病変に対す るラジオ波凝縮術(Disc─Fx)についても言及があ り,スポーツ選手に生じる頑固な腰痛の治療法の 1 つとして今後期待される.
大阪市立大学整形外科の中村博亮先生からは,ス ポーツ選手に対する MEDについて,過去の文献も 踏まえた詳細な報告がなされた.入院期間は術後約1 週間であり,PEDと比べるとやや長いが,スポーツ への復帰率 76%,スポーツ復帰時期が術後 1〜 4ヵ
月と,良好な成績が示されている.
JA 広島総合病院整形外科の藤本先生は,プロ選 手らを身近に診療してこられた経験を通して,腰椎 疾患の予防と早期からの保存的治療について,専門 的な見地から報告された.プロ選手に対しては細か いリハビリプログラムが用意されているが,治療方 針を決めるうえで,とくにトレーナーとの連携の重 要性が強調された.腰椎椎間板ヘルニアに対する手 術としては,主に顕微鏡視下手術を選択している.
術後 14 〜 16 週での復帰をめざすとしているが,術 後頻回に選手と接し不安を和らげるよう努めている 姿勢が印象的であった.
筑波大学整形外科の辰村先生からは,腰椎椎間板 ヘルニアに対して PED を行ったトップレベルのス ポーツ選手 4 名の詳細な報告がなされた.4 例とも 合併症なく術後 3 〜 4 ヵ月でスポーツ復帰してお り,あらためて PED の有用性が示された.
最後に角谷整形外科病院リハビリテーション科の 貴志先生は,理学療法士の立場から MED 術後後療 法に関して興味深い報告をされた.厳密に計画され た超早期リハビリテーションにより,非コンタクト 系スポーツでは 4 〜 6 週,コンタクト系スポーツで は 8 〜 10 週での競技復帰が可能としている.その 競技復帰の早さは注目に値するだろう.さらに,遠 隔地からの患者に対して,地元でのリハビリ継続が できるよう専属トレーナーとの連携についても言及 された.
ディスカッションでは,いくつかの有意義な議論 がなされた.まずスポーツ選手に対する手術のタイ 第 37 回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」
緒 言
前田 健
Takeshi Maeda
前田 健
〒 820─8508 飯塚市伊岐須 550─4 総合せき損センター整形外科 TEL 0948─24─7500
総合せき損センター整形外科
Department of Orthopaedic Surgery, Spinal Injuries Center
2
2 2
ミングである.これは個々の症例により異なるであ ろうが,出沢先生,藤本先生,貴志先生の 3 名は,
一般の患者に比べて早いタイミングでの手術を勧め られ,中村先生と辰村先生は一般人と概して変わり ないとした.とくに,MMT4 以下になった時点で 手術を考慮する(藤本先生),術前の有症状期間が 長すぎると術後の経過が思わしくない傾向がある
(貴志先生)などの意見が印象に残った.手術方法 は PED,MED,micro─Love 法の 3 種類の方法でな されている.低侵襲性という観点からは明らかに PEDに軍配があがるだろう.局所麻酔下で可能であ り,術後1〜2泊の入院期間で済むことは,スポーツ 選手ならずとも魅力的である.本邦ではまだなじみが 浅いが,今回の報告から,正しく手術が行なわれれ
ば,PEDは有用かつ安全であることが示された.問 題は術者にとって経験のない視野に対する不安とラー ニングカーブの長さであろうが,韓国や欧州での広が りを考慮すると,今後本邦でも PEDが普及していく ものと思われる.ただ,ヘルニア再発のリスクを避 けながら,手術侵襲の多少の違いでスポーツ復帰を 早めることができるか,というエビデンス構築は今 後の課題であろう.貴志先生が示されたように,ト ップアスリートであっても厳密なリハビリが行なわ れれば,MED でも(恐らく Love 法でも)早期のス ポーツ復帰が可能なのである.スポーツ選手に対す る手術において,術後のリハビリテーションやトレー ナーなどとの連携の重要性が再認識された.
はじめに
一般的にスポーツ選手の腰痛は椎間板ヘルニア,
椎間板症,分離症などのように腰痛を起こしている 部位によって分類するが,その原因を特定すること は困難なことが多い.スポーツ選手が求める腰痛の 治療のゴールは,一般の人と異なり非常に高いレベ
ルにある.したがって,皮膚切開のみでなくアプロ ーチ起因障害(approach related morbidity)を最小 限にして,神経根に対する影響を可及的に少なくす ることが大切である.また長期の入院はスポーツ選 手にとってトレーニングを休むことになり handy- capとなる.そこで日帰り手術(DS;Day Surgery,
Outpatient Surgery,Same Day Surgery,Ambula- tory Surgery)の体制はスポーツ選手のみならず,
第 37 回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」
スポーツ復帰のための腰椎手術療法
―内視鏡椎間板ヘルニア摘出の有用性―
Return to Sports After Minimally Invasive Endoscopic Surgery
出沢 明
Akira Dezawa
小杉 辰夫Tatsuo Kosugi
● Key words
Microendoscopic discectomy:Transforaminal discectomy:Interlaminar discectomy:
Percutaneous discectomy:Lumbar disc herniation
●要旨
スポーツマンに対し,椎間板ヘルニアの腰椎手術後の復帰のカギは,アプローチ起因障害 を可及的に減らすことである.そして日帰り手術(DS;Day Surgery,Outpatient Surgery,
Same Day Surgery,Ambulatory Surgery)により早期の社会復帰をめざす.経皮的内視鏡 椎間板ヘルニア摘出術(PELD;Percutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy)は椎間孔の 外側からアプローチする方法と椎弓の間からアプローチする方法がある.拡張器(ダイレイ ター)で腔を作り,腔を維持し 25〜30°の内視鏡と解像度の優れた VTR 画面をみながら行な う PELD 法,さらに Disc Fx 法は contained type のヘルニアに対して有用な手技である.術 後の回復や術後鎮痛薬の使用量からみて患者の満足度は高く,顕微鏡椎間板ヘルニア摘出術 や MED 法と比較してより最小手術侵襲手術手技である.低侵襲手技によるスポーツ選手に 対する日帰り手術は,21 世紀のスポーツ医療の中心となると確信している.本術式は,今 後 MED 法や顕微鏡手技に十分に変わりうるものと思われる.
3 3
出沢 明
〒 213─8507 川崎市高津区溝口 3─8─3 帝京大学溝口病院整形外科
TEL 044─844─3333
帝京大学溝口病院整形外科
Department of Orthopaedic Surgery, University Hospital, Mizonokuchi, Teikyo University
4
一般患者でも医療システムから海外では急速な進歩 を遂げている.米国では 70%が日帰り手術に移行 しているのは医療保険システムの違いによる.1983 年の medicareの入院医療の包括支払い(prospective payment system)の導入により,外来での手術に移 行する割合が多くなった.今回は内視鏡椎間板ヘル ニア摘出術(MED;Microscopic Endoscopic Discec- tomy)と経皮的内視鏡椎間板ヘルニア摘出術(PELD;
Percutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy)と Disc Fx について解説する .
MED は 1993 年に Destandau により開発され,そ の後 1997 年に Smith and Forly らにより現在のシス テムが改善された.1998 年 9 月にわが国に輸入され るが,その 1 年前にわれわれは独自の注射器のシス テムで行ってきた.PELD は 1981 年の土方らによる 経皮的髄核摘出術(PN;Percutaneous Nucleotomy)
から発展し,内視鏡が導入され,さらに髄核より後 方の椎間板ヘルニアに直接到達する手技に変化して きた.したがって MEDと比 較 する際は,現 在の transforaminal に直接椎間板ヘルニアに到達してヘル ニア摘出を行なう手技と比較しなければならない(表1).
1.PELD 法
Safety triangle zone (Bamuda triangle)
神経根の背側と上関節突起腹側と下位椎体の上縁 に囲まれた範囲である.下位レベルに移行するに従 いその範囲は狭小化する.とくに神経根の位置と後 根神経節の位置が重要になる.高齢者になるに従い 椎間板狭小化が進むと,この triangle zone の面積は 狭くなり,とりわけ高さが減少する.したがって cannula が大きくなると exiting nerve root を損傷 する危険性が増すので要注意である.
手術手技と Pitfall
麻酔法:原則として全身的影響が少なく安全性が 高い 1%リドカインによる局所浸潤麻酔で行なって
いる.患者はモニター画面をみながら手技をリアル タイムに観察でき,その病態の説明も直接できる点 で非常に有用である.またソセゴンやドルミカムに より疼痛のコントロールをする場合がある.しかし 患者によっては疼痛に非常に過敏に反応する人がお り,全身麻酔を余儀なくされる場合がある.必ずこ の手技を始めるにあたり局所麻酔で行ない,どの操 作が患者の神経根の刺激症状や疼痛が起こるのかを 認識する必要がある.最低 50 例局所麻酔で施行して から全身麻酔に移行すべきである.決していきなり 全身麻酔で行なってはならない.日帰り手術の麻酔 のガイドラインが参考となる.
われわれは局所麻酔下に可及的に椎間板ヘルニア の部位(とくに椎間孔から外側ヘルニア)にピンポイ ントで到達して,脊椎の構築構造を破綻せずにヘル ニア摘出を行なう低侵襲手技を2003年に導入した.
切開創は 6mm で皮下縫合は 1 針でいわゆるバンド エイドサージリーにより日帰り手術が可能となった.
手術器械(図 1):scope,cannula,Scope holder,
blunt obturator,Stylet,Kerrison rongeur,pitu- itary rongeur,高周波バイポーラ凝固装置,high speed bur,管流水,排水処理装置(Kaisar drape)
が必要となる.
各種アプローチについて解説する(図 2).
1)Extraforaminal approach 椎間孔外アプローチ Posterolateral approach とtransforaminal approach,
3 3
図 1 各種スコープ器具
各種 PELD の器具径が 2.5mmまでの working in- strument, bipolar coagulator, pituitary rongeur が 必要となる.
6° 25 °
表 1 MED,Disc Fx,PELD の違い
傷の大きさ 16mm 3mm 6─8mm
入院期間 7day 0 1day
麻酔 全身 局所 局所,硬膜外,(全身)
腔維持 解放 還流 還流
操作法 wonder joystick joystick
2 種類のアプローチがある.
後側方の正中より 10〜11cm の部位から刺入し,
safety triangle zone に入る後側方アプローチ(pos- terolateral approach;後側方法)と,ほぼ体軸に対 して前額面にアプローチして椎間孔に真横から到達 する方法(transforaminal approach;経椎間孔法)
がある.
① Posterolateral approach 方法(後側方法)
腹臥位で透視下に正中より10〜15cmの長さで30〜
40°斜めに刺入してsafety triangle zoneに到達する.
椎間板の後側方より traversing nerve root(L4/5 で は L5 神経根)の除圧を行なう.比較的容易で安全 に施行可能であるが直接 subligamentous herniation のヘルニアを掴むことは難しい.局所麻酔を行な い,L1─S1 の椎間孔外よりのアプローチが可能であ るが,L5─S1 に対するアプローチでは工夫が必要と なる.腸骨翼が canulaの刺入を妨げるために,poste- rolateral から椎間孔に到達する経路は方向性が限定
される.Cannula 先端のカットする角度が異なり,
とくに L5─S1 のアプローチには L5 横突起の尾側の 骨性処置が問となる.硬膜外の血管の止血がポイン トでもある.椎間孔外と椎間孔内までのヘルニア摘 出と突出椎間板繊維輪と髄核の摘出が可能となる.
Pitfall:刺入角度がつき頭側に cannula が傾くと exiting nerve root の損傷の危険性が高くなる.ま た椎間板ヘルニアの同定がしにくくなる.
② Transforaminal approach(経椎間孔法)(図 3)
椎間孔の内部まで入り,黄色靱帯を切除して椎間 板の繊維輪後縁,後縦靱帯,硬膜管を側面より観察 しながらヘルニアを掴んでくるもので,究極の最小 侵襲手技による椎間板ヘルニア摘出術である.Sub- ligamentous,transligamentous herniation の摘出が 可能であり,sequestration によるヘルニア摘出もス コープや鉗子の開発で可能となってきた.その刺入 にはほぼ体幹の側面(5〜10°後方)からアプローチ するために,腹囲の差により刺入のポイントが若干 変わる.しかし太った人や痩せた人の差がなくアプ ローチが可能である.合併症は過度に前方に針先を 傾けたことによる腹腔内臓器損傷と,腸管を穿刺し た針先によると思われる椎間板炎が報告されてい る.また術者のレ線被曝が問題となる.また exiting nerve root(たとえば L4/5 では L4 root)への刺激と 思 わ れ る 一 過 性 の 神 経 過 敏 症 状(dysesthesia,
numbnessなど)の出現頻度が若干高い.しかし MED の術後の血腫の心配も少なく,また侵襲もはるかに MED より少なく抜糸の心配やドレーンの留置など の必要はない.ヘルニア反応膜や後縦靱帯の腹側よ り慎重に入り,椎間板ヘルニアの摘出を行なう側面 より硬膜管,traversing nerve root,後縦靱帯,反
3 3
図2 経皮的腰椎椎間板ヘルニアに対する各種アプローチ
図 3 transforaminal approach で施行するシェーマ
6
3 3
応膜,椎間板ヘルニアをみて神経根にさわらず側面 よりヘルニアを摘出する究極の手技である.しかし PN 法にレーザーを用いて医学的にも社会的にもわ が国では問題になっている.この手技は神経根周辺 での手術操作であり決してレーザーを十分に経験を つまないで用いることは薦めない.
Pitfall:直接硬膜管の側方に到達するために,ま ず黄色靱帯の処理,次に硬膜管周辺の血管の処理が 必要となる.その際に有効な止血方法は surgicell の cotton type が有用である.止血されないのに無意味 な bipolar coagulation は控えたい.
2)Interlaminal approach 経椎弓間アプローチ
(図 4)
本方法は L5─S1 の椎弓間の幅広い若年者や女性に 適応となる.黄色靱帯の切除を極めて慎重に行なう ことが必要である.Side firing laser や cannula の先 端で展開しながら神経根の外側に入り,または神経 根の腋窩部に入り椎間板に到達する経路である.神 経根や硬膜管の展開ができないためにヘルニアの位 置によって限界がある.したがって migration する ヘルニア,中心性ヘルニアについては適応外である.
また狭窄症に伴うヘルニアは操作を慎重に行ない,
硬膜管の外側から前後像の透視を確認しながら椎間 板腔に到達する.この手技は非常に PED の手技に 習熟した人が行なうべきであり,MED とはアプロ ーチが同じであるが技術的にははるかに難しいこと を認識しておくべきである.
2.MED
®(Microendoscopic surgery)法
黄色靱帯を温存する内視鏡椎間板ヘルニア切除が スポーツ選手に有用である.
適応は外側陥凹部狭窄(lateral recess stenosis,
subarticular stenosis)や内側椎間孔狭窄,中心型狭 窄や内側部椎間孔内へ及ぶヘルニアが該当する.腹 臥位で棘突起より1cm外側で16mmの切開をする.
dilator を用いて徐々に筋層を展開する.目的とする 椎弓間の上位椎弓の下縁が展開の中心となる.切除 する程度は椎間板の位置する方向と患者の前弯の程 度により異なる.透視か術前の側面フィルムで確認 しておく.ケリソンパンチ(Kerrison rongeur)を挿 入し,上位椎体の椎弓下縁を切除する.椎弓が厚く 固い場合は椎弓の下縁の一部をノミで落とし,薄く してからケリソンパンチで切除すると手技は容易で ある.椎弓の周辺の軟部組織をバイポーラで焼却 し,切除した後に黄色靱帯の起始部を鋭匙かノミで 剝離切離する.上位椎弓の外側に到達し,椎間関節 の移行部を切除する.上位の椎弓の切除の範囲は,
理論的に椎間板の傾とヘルニアの方向により決ま る.したがって L4─5─S1 は 1portal で方向を変える ことにより可能な場合がある.神経根の外側に到達 する手技は,上関節突起の内側に付着する黄色靱帯 が指標となる.特殊なスクレーパーか鋭匙で黄色靱 帯を切除する.メスで後縦靱帯を切開しヘルニアを 摘出する.神経根の肩に到達するには,椎弓根を触 知して神経根の走行を推定することがこの手技のポ イントである.
図 4 interlaminar approach と target organ に近接した場合の画像の拡大
3 3
3.Disc─FX System(図 5)
Disc─FX System は安全で迅速かつ効果的な腰椎 椎間板切除用に開発された透視下で行なう手技で,
マニュアルでの組織除去,髄核のアブレーション,
繊維輪のモデュレーションなど機能な治療オプショ ンがある.内視鏡での観察や画像保存も可能である.
適応は contained type の椎間板ヘルニアである.禁 忌は Non Contained type の椎間板ヘルニア,50%以 上の薄さになっている椎間板症,変形腰椎症である.
利点は最小侵襲で短い治療時間(20〜30 分)で回復 が早い.局所麻酔で行なえるために日帰り手術が可 能(術後 2〜3 時間で退院)である.レーザー治療と
図 5 Disc Fx の器具とバイポーラによる髄核の蒸散と繊維輪の modurationのしくみ
BIPOLAR TURBO –
BIPOLAR HEMO –
3 3
異なり,後方の脱出したヘルニアに直接椎間板の内 側から蒸散することができ,また神経に対しても安 全である.とくに contained typeで HIZ(High Inten- sity Zone)のある場合にこの手技は有用で,術後徐々 に HIZ が消失する傾向にある(図 6).
結 果
L4/5より頭位側での MED®と PELDの posterolat- eral approach(PL),transforaminal approach(TF)
の比較検討を行なった.
スポーツ選手症例数は MED®が 66 例,PELD は
58 例,Disc Fx は 6 例 で あ る. 術 後 の 症 状 改 善 Macnab による改善率を図に示す(図 7).一応のス ポーツ復帰は MED®が平均 35 日,PELD は 14 日,
Disc Fx は 8 日であった.
考 察
1.PELD 手技の pit fall
PELDは exiting nerve root の損傷をいかに防ぐか である.正確に safety triangle zone に到達して椎間 孔内に靱帯,黄色靱帯を確認して処理をする.その 際に不用意な bipolar といえども電気凝固は慎重に 行ない exiting nerve rootの ganglionを刺激しないこ とである.また椎間孔内の処置が終了して traversing nerve root を確認し後縦靱帯,椎間板ヘルニアの反 応膜を同定して側面から正確な処置を行なうことが 大切である.
MED®はきちんとしたランドマークにより,現 在処理を行っている部位がどこで,椎弓をどの程度 切除をする必要があるか確認する.そのためにも椎 弓根の頭位側を神経根プローブで確認することをす すめる.また神経根を同定してからヘルニアの処置 を行なう.その際にすぐにパンチなどで掴む操作は 非常に危険であり,押し出すイメージの操作が安全 な操作であることを心がける.骨切除が多くなるに 従い,術後の血腫が起きやすくなるのでドレーン留 置に心がける.
図 6 HIZ
26歳プロアイスホッケー(Sリーグ)
図 7 成績
excellent
3 3 3
2.黄色靱帯温存する内視鏡椎間板ヘルニア切除
本手技の目的は,従来の確立された手技の顕微鏡 視下椎間板切除術法に多様性を求めた手技の開発で あり,立体感覚(認識)が欠如しているために,顕微 鏡に変換して初めて神経根と黄色靱帯の鑑別が可能 であった症例もあり,内視鏡の解像度に大きく影響 されることは否めない.また米国で始まった Smith and Foley らによる内視鏡ヘルニア摘出術も,実際 に側方から常に透視化でコントロールを行ない,深 度と高位を確認しているのが実際である.Casper の 開創器を用いる方法や小筋鉤で脊柱起立筋を展開し て行なう方法と比較すると,脊柱起立筋を棘突起か ら剝離(detach)する必要はなく,多裂筋の輝度変化 が少なく最小侵襲手技と思われる.とくに脊柱管内 片側に寄ったヘルニアは内側黄色靱帯や内側の椎弓 を温存し,外側の一部のみ切除し神経根に接触しな い方法が可能となった.今後は顕微鏡と内視鏡がと もに発展していくためにも,両者の利点欠点を見極 めてその術者とその手術の環境設備に最も適した手 技を選択するべきと考える.そして明るく拡大され た視野のもとで正確な手技の習得が必要となろう.3.スポーツ復帰と日帰り手術
スポーツ選手の腰痛治療は,患者の満足度は非ス ポーツ選手とまったく異なる.高いレベルの回復を 求めるために背筋への損傷,神経根操作の最小手術 侵襲が求められる.また自然治癒力を求めた保存療 法はトレーニングの障害となっていると,早期の現 場復帰を求め,確実な非侵襲的治療を求める人が多 い.医療の質を高め,医療の評価する体制からの日 帰り手術の特性は,患者の早期社会復帰に伴う総医 療費の抑制があげられる.そして手技が単純化され DPC にはじまる医療の標準化が図られる.また効率 性を追求し,手術前後の外来医療,在宅医療など医 療関連機関のネットワーク体制の拡充など,21 世紀 の人により優しい医療という課題の実現で先鞭をつ ける可能性を秘めている手技である.医療の効率性,
標準化,技術や質の向上といった観点で,日帰り手 術は啓蒙推進するうえで有用な位置づけとなろう.
とくにわが国では少子高齢化社会と核家族化が進み DS の需要は高まりをみせるであろう.すみやかな質 の高い,合併症のない低侵襲手技により術後のケア
が在宅でも可能となる.軽微な術後疼痛と高い整容 性などにより患者の身体的,経済的,精神的,時間 的負担を軽減して高度な QOL の獲得にあたる.
結 語
スポーツマンに対し,椎間板ヘルニアの腰椎手術 後の復帰のカギはアプローチ起因障害を可及的に減 らすことである.拡張器(ダイレイター)で腔を作り,
腔を維持し 25〜30°の内視鏡と解像度の優れた VTR 画面をみながら行なう PELD 法,さらに Disc Fx 法 は contained type のヘルニアに対して有用な手技で ある.低侵襲手技によるスポーツ選手に対する日帰 り手術は,21 世紀のスポーツ医療の中心となると確 信している.
文 献
1) Kafadar A et al:Percutaneous endoscopic transforaminal lumbar discectomy:a critical appraisal. Minim Invasive Neurosurg, 49:74─
79, 2006.
2) Ruetten S et al:An extreme lateral access for the surgery of lumbar disc herniations in- side the spinal canal using the full─endoscopic uniportal transforaminal approach─technique and prospective results of 463 patients. Spine, 30:2570─2578, 2005.
3) Yang SC et al:Transforaminal epidural ste- roid injection for discectomy candidates:an outcome study with a minimum of two─year follow─up. Chang Gung Med J, 29:93─99, 2006.
4) Choi G et al:Percutaneous endoscopic inter- laminar discectomy for intracanalicular disc herniations at L5─S1 using a rigid working channel endoscope. Neurosurgery, 58(1 Sup- pl):ONS59─68, 2006; discussion ONS59─68.
5) Marotta N et al:A novel minimally invasive presacral approach and instrumentation tech- nique for anterior L5─S1 intervertebral discec- tomy and fusion:technical description and
3 3 4
case presentations. Neurosurg Focus, 20:E9, 2006.
6) Schwender JD et al:Minimally invasive transforaminal lumbar interbody fusion
(TLIF):technical feasibility and initial re- sults. J Spinal Disord Tech, 18:S1─S6, 2005.
7) Tsou PM et al:Posterolateral transforaminal selective endoscopic discectomy and thermal annuloplasty for chronic lumbar discogenic pain:a minimal access visualized intradiscal surgical procedure. Spine J, 4:564─573, 2004.
8) Yeung AT et al:In─vivo endoscopic visualiza- tion of patho─anatomy in painful degenerative conditions of the lumbar spine. Surg Technol Int, 15:243─256, 2006.
9) Salehi SA et al:Transforaminal lumbar inter- body fusion:surgical technique and results in 24 patients. Neurosurgery, 54:368─374, 2004;
discussion 374.
10) 出沢 明ほか:脊椎内視鏡の歴史と現状と展望
〜内視鏡前方固定術から内視鏡椎間板ヘルニア
日帰り手術まで〜.脊椎脊髄ジャーナル,17:
620─625, 2004.
11) 出沢 明ほか:スポーツの日帰り手術—経皮的 内視鏡椎間板ヘルニア摘出 PELD(Percutane- ous Endoscopic Lumbar Discectomy).臨スポ ーツ医,23:1337─1344, 2006.
12) 出沢 明:日帰り手術内視鏡椎間板ヘルニア摘 出.臨スポーツ医,23:276─280, 2006.
13) Dezawa A et al:New minimally invasive dis- cectomy technique through the interlaminar space using a percutaneous endoscope. Asian Journal of Endoscopic Surgery, 4:94─98, 2011.
14) Sasaoka R et al:Takaoka Objective assess- ment of reduced invasiveness in MED. Com- pared with conventional one─level laminotomy.
Eur Spine J, 15:577─582, 2006.
15) Hoogland T et al:Transforaminal posterolat- eral endoscopic discectomy with or without the ombination of a low─dose chymopapain:a prospective randomized study in 280 consecu- tive cases. Spine, 31:E890─897, 2006.
はじめに
腰椎椎間板ヘルニア症例に対する手術的治療にお いては,脊柱管内に突出したヘルニア塊を摘出するこ と自体は,神経の周囲環境を整備するという目的に合 致した操作である.しかし,より表層の構造である皮 膚や筋膜あるいは筋肉という解剖学的構造について は,症状発現因子でないにも関わらず,ヘルニア摘出 の経路であるという理由により,その切離を余儀なく
される.スポーツ選手ではこの不必要な切開を必要最 小限にとどめる努力が必要になる.この目的にあった 方法として,顕微鏡下手術と内視鏡下手術があり,
いずれも術野を観察する視点と光源が,術者自身の 頭部よりも目標に近いために皮膚切開を小さくするこ とができる.とくに内視鏡下手術は,この両者が創内 にはいるため,より小皮切による手術的加療が可能 で,スポーツ選手に対してはより好ましい.本法の実 際およびわれわれが経験したスポーツ選手の手術例 についてその手術成績を報告する.
第 37 回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」
スポーツ選手の腰椎椎間板ヘルニアに対する 内視鏡下後方手術の実際
Micro Endoscopic Discectomy for Lumbar Disc Herniation in Athletes
中村 博亮1)
Hiroaki Nakamura
金田 国一2)Kunikazu Kaneda
吉田 玄2)Gen Yoshida
寺井 秀富1)Hidetomi Terai
島田 永和2)Nagakazu Shimada
● Key words
Lumbar disc herniation:Micro Endoscopic Discectomy:Athlete
●要旨
われわれはスポーツ選手の腰椎椎間板ヘルニア手術適応症例に Micro Endoscopic Discec- tomy(以下 MED)を施行してきた.対象症例は 21 例で,年齢は平均 18.2 歳,罹患椎間は L3
/4 間 1 例,L4/5 間 12 例,L5/S 間 8 例であった.スポーツレベルはすべて学生スポーツのレ
ベルで,サッカー,バレーボールが最も多かった.JOA スコアーは術前平均 13.4 点が術後 27.4 点に改善し,その改善率は平均 89.8%であった.また 21 例中,18 例が元のスポーツレベ ルへ復帰し,その復帰率は 86%,復帰までの期間は平均 3.0 ヵ月であった.スポーツ選手に 対するMED後の予後は良好で,スポーツ復帰に支障をきたすものではないことが判明した.1
中村博亮
〒 545─8585 大阪市阿倍野区旭町 1─4─3 大阪市立大学整形外科
TEL 06─6645─3851
1)大阪市立大学整形外科
Department of Orthopaedic Surgery, Osaka City University Graduate School of Medicine
2)島田病院整形外科
Department of Orthopaedic Surgery, Shimada Hospital
1
手術方法と症例
1.内視鏡下後方手術の実際
実際の手術手技について解説する.術者は患者の ヘルニア優位側に立ち,モニター画面と正対して,
画面をみながら手術操作を進める.
まず手術椎間を手術用透視装置(イメージ)正面画 像で同定し,この部位に約2cmの皮膚切開を加える.
筋膜切開の後,直径が徐々に太くなるダイレーター を使用して,順次これを動かしながらかぶせていく ことで,筋層間を拡大する.その後円筒形のレトラ クターを設置し,この中に直径 3mm あるいは 4mm の内視鏡を挿入して,この内視鏡によって映し出さ れる術野画像をモニター画面上で観察しながら手術 操作を進める.椎弓間開窓および神経根周囲の操作 は通常のヘルニア摘出と同様で,頭尾側の椎弓付着 部から黄色靱帯を剝離した後摘出し,神経根を愛護 的に内側によけた後,ヘルニア塊を摘出する.
2.症例
スポーツ選手に対する手術症例は 21 例で,年齢は 14 歳から 22 歳,平均 18.2 歳,罹患椎間は L3/4 間 1
例,L4/5 間 12 例,L5/S 間 8 例であった.手術症例 のスポーツレベルはすべて学生スポーツのレベルで,
競技種目については種々存在し,サッカー,バレー ボールが最も多かった(表 1).
スポーツ選手の術前経過を検討すると,発症から 手術までは平均 4.3 ヵ月,硬膜外ブロックの回数は 2.8 回であった.
結 果
手術中に確認できたヘルニアのタイプは表 2 に示 すごとくで,subligamentous extrusion が最も多く なっていた(表 2).JOA スコアーは術前平均 13.4 点 が術後 27.4 点に改善し,その改善率は平均 89.8%で あった.術後の入院期間は平均 7 日間で,元のスポ ーツへの復帰率は 85.7%,復帰までに要した期間は 術後 1 から 4ヵ月平均 3.0ヵ月であった.術後療法と しては,術翌日離床のあと,2 日後からは積極的に 筋力トレーニングを取り入れ,2 ヵ月後にはスポー ツ部分復帰,3 ヵ月後には完全復帰をめざした.
考 察
1. スポーツ選手に対する手術的治療の妥当性につ いて
Hsuら 1)は,342 名のプロスポーツ選手の治療成績 について報告している.226 名に手術的治療がなさ れ元のスポーツへの復帰率は 81%であった.また
1
表 1 手術的治療を施行したスポーツ選手の競技種目 競技種目
武道 球技 その他
合気道 1 サッカー 4 スキー 1
剣道 1 バレーボール 3 陸上 1
柔道 1 硬式野球 2 レーシングカート 1
ソフトボール 1
バスケット 1
バトミントン 1
ラグビー 1
フラッグフットボール 1
硬式テニス 1
表 2 術中所見によるヘルニアの型分類
Type No.
Subligamentous ex. 13
Transligamentous ex. 7
Sequestration 1
Weistroffer ら 2)の報告では症例数は少ないものの,
手術的治療を行なった症例群において元のスポーツ レベルへの復帰率がより高かったと報告している.
また岩本ら 3)は review 論文で,microdiscectomy 後のスポーツ復帰率が,保存的治療に比較してより 高かったと報告している.ほかにもプロスポーツ選 手に対する手術的治療後の良好なスポーツ復帰率を 報告している論文が散見される 4,5).これらの報告か ら,スポーツ選手に対する手術的治療はスポーツ復 帰に障害となるものではないことが判断できる.
2. スポーツ選手に対する低侵襲手術の有意性につ いて
松永ら 6)の報告では,いわゆる Love法に比較して,
Percutaneous Disectomy のほうが,復帰率はより良 好で,復帰までの期間も短いことが報告されている.
Love 法後のスポーツ復帰率について過去の報告を 参照すると,40%から 80%,平均 72%,期間も 2.7 ヵ月から 6.0 ヵ月であった 7〜13).MED についての報 告を参照すると,貴志らの報告 14)ではスポーツへの 復帰は 2 ヵ月以内で,その比率は 80%,われわれの 今回の検討では 3ヵ月,86%で,MEDにおいてより 復帰率が高く,復帰までの期間も短いことがわかる.
スポーツ選手に対する手術的治療の侵襲はより少 ないことが好ましいが,腰椎後方手術の手術侵襲に ついて検討した報告は少ない.われわれの研究デー タ 15)では,MED,Microdiscectomy,Open lamino- tomy の 3 種類の術式を比較すると,術翌日の CRP は MED と microdiscectomy においてともに,open 例と比較して有意にその値が低値を示していた.手 術後の血中インターロイキン値を経時的に測定した 結果では 24 時間後のデータにおいて,MED におけ るインターロイキン値は microdiscectomy と比較し て優位に低値を示しており,その低侵襲性が確認さ れた.
3.スポーツ復帰までの術後療法について
術後の後療法については,術後早期からの exercise program が,機能性の維持,疼痛の改善,機能性の 向上に有効であるという報告がなされている 16,17). しかしスポーツ選手に限った報告は少ない.スポー ツ選手に対する腰椎手術後の予後特殊性を考えると,
術後に筋力あるいは持久力の低下を可能な限り最小 限に抑えるために,すみやかにトレーニングを開始 することが重要である.貴志ら 14)は,椎間板ヘルニ アの鏡視下手術後のリハビリテーションプログラム を具体的に解説しており,麻殖生ら 18)は術後早期か らのアスレチックリハビリテーションの実行を推奨 している.エビデンスの少ない領域であり,今後信 頼性の高いエビデンスの構築が望まれる.
文 献
1) Hsu WK et al:The professional athlete spine initiative:Outcomes after lumbar disc hernia- tion in 342 elite professional athletes. Spine J, 11:180─186, 2011.
2) Weistroffer JK et al:Return─to─play rates in national football league linemen after treat- ment for lumbar disk herniation. Am I Sports Med, 39:632─636, 2011.
3) Iwamoto J et al:The return to Sports activity after conservative treatment or surgical treat- ment in athletes with lumbar disc herniation.
Am J Phys Med rehabil, 89:1030─1035, 2010.
4) Hsu WL:Performance─baed outcomes follow- ing lumbar discectomy in Professional athletes in the National Football league. Spine, 35:
1247─1251, 2010.
5) Anakwenze OA et al:Athletic performance outcomes following lumbar discectomy in pro- fessional basketball players. Spine, 35:825─
828, 2010.
6) Matsunaga S et al:Comparison of operative results of lumbar disc herniation in manuial lanors and athletes. Spine 1993, 2222─2226, 1993.
7) 伊藤淳二ほか:腰椎椎間板ヘルニア手術後のス ポーツ復帰からみた手術法の選択.臨スポーツ 医,17:201─206, 2000.
8) 長谷川和寿ほか:スポーツが誘因と考えられた 小児腰椎椎間板ヘルニアの追跡調査.日整会ス ポーツ医会誌,7:210─215, 1988.
9) 阿部総一郎ほか:腰部スポーツ障害における手
1
14
1
術的治療の検討.臨スポーツ医,7:210─216, 1990.
10) 富永積生ほか:発育期スポーツによる腰痛症例 の分析と予後.島根中病医誌,17:170─183, 1990.
11) 付岡 正ほか:スポーツ選手の Love 法の術後 調査.整スポ会誌,18:17─21, 1998.
12) 米澤元實ほか:Love 法を用いた手術療法.臨 スポーツ医,10:1305─1309, 1993.
13) 高橋光彦ほか:腰椎椎間板ヘルニア術後のスポ ーツ復帰の比較検討.経皮的髄 核摘出術と LOVE 法の比較.整スポ会誌,17:35─41, 1997.
14) 貴志真也ほか:特集 スポーツ外傷の最新の知 見と治療.スポーツ選手の椎間板ヘルニアに対 する鏡視下リハビリテーション.整・災外,46:
1201─1209, 2003.
15) Sasaoka R et al:Objective assessment of re- duced incvasiveness in MED. compared with conventional one─level laminotomy. Eur Spine J, 15:577─582, 2006.
16) Dolan P et al:Can exerecise therapy improve the outocme of micrpdiscectomy. Spine, 25:
1523─1532, 2005.
17) Ostelo RW et al:Rehabilitation after lumbar disc surgery:an update cochrane review.
Spine, 34:1839─1848, 2009.
18) 麻殖生和博ほか:特集:スポーツ外傷・障害身 障実戦マニュアル.Ⅱ.部位別疾患 腰椎椎間 板ヘルニア.MB Orthop, 23:81─86, 2010.
第 37 回日本整形外科スポーツ医学会学術集会「スポーツ復帰のための腰椎手術療法」
プロスポーツ選手の腰部障害と治療
Lumbar Disorder and Treatment Associated with the Professional Athletes Engaged in Baseball and Soccer Games
藤本 吉範1〜3)
Yoshinori Fujimoto
宇治郷 諭4)Satoshi Ujigo
奥田 晃章5)Teruaki Okuda
石井 雅也6)Masaya Ishii
吉崎 健7)Ken Yoshizaki
● Key word
プロ野球,J リーグ,腰痛,保存療法
Professional baseball:Japan professional football league:Low back pain:Conservative treatment
●要旨
プロスポーツ選手にとって腰痛は代表的な体幹機能の障害である.不適切な治療は他部位 の障害を惹起し,パフォーマンスの低下を招来する可能性がある.プロスポーツ選手の腰痛 管理に最も重要なことは腰部障害の予防,早期発見と治療である.コアエクササイズを中心 としたアスレティックリハビリテーションは,腰部障害の防止,プレーパフォーマンスの向 上,さらには選手寿命の延長につながる重要な腰痛のプライマリケアと考えられる.また,
チームドクターおよびトレーナーの機能的な連携が重要であり,選手個人の腰部障害に対す る教育と自覚のもとにエクササイズの積極的な励行が重要であることはいうまでもない.
1
藤本吉範
〒 738─8503 廿日市市地御前 1─3─3 JA 広島総合病院
TEL 0829─36─3111
1)JA 広島総合病院
JA Hiroshima General Hospital
2)広島東洋カープ・サンフレッチェ広島チームドクター
Medical Doctor for HIROSHIMA TOYO CARP and SANFRECCE HIROSHIMA 3)中国地区・広島県サッカー協会理事
Director, Hiroshima Foot Ball Association 4)JA 広島総合病院整形外科
Department of Orthopaedic Surgery, Hiroshima General Hospital 5)奥田整形外科皮膚科医院
Okuda Orthopaedic Dermatological Clinic
6)広島東洋カープ・トレーナー部 1 軍チーフトレーナー Chief Trainer of the Major Team, HIROSHIMA TOYO CARP 7)サンフレッチェ広島・チーフアスレティックトレーナー
Chief Athletic Trainer, SANFRECCE HIROSHIMA
16
はじめに
スポーツ選手の体幹機能は,プレーのパフォーマ ンスを維持,向上させるための主軸を担っている.
腰痛は代表的な体幹機能の障害であり,不適切な治 療によってほかの部位にも障害を惹起し,さらなる パフォーマンスの低下を招来する可能性がある.し かしながら,スポーツ選手の腰部障害に関するまと まった報告は少なく,腰痛の実践的治療法に関する 情報も乏しい.
筆者らは広島東洋カープ,サンフレッチェ広島の 選手に対する年間を通じた医学的サポートを行なっ ている.重症例には外科的治療の介入が必要である が,最も重要なことは腰部障害の予防,早期発見と 治療である.本稿ではプロスポーツ選手の腰部障害 に対するプライマリケアについて述べる.
腰痛に対するプライマリケア
1.プレー中止の判断
プロスポーツ選手は試合での貢献度と結果ですべ てが評価される.このため,選手は多少の腰痛があ っても練習を続け,腰痛が増悪した時点で初めてト レーナーに申告することが少なくない.
選手が「プレーができる」と言えば治療を行ないな がらプレーを継続させる.しかし,プレーの質が明 らかに低下した場合,選手と話し合ったうえでプレ ーを中止させる.説明の内容は,医学的な根拠に基 づくデータを示し選手の十分な了解を得なければな らない.筆者らのプレー中止の判断基準は,神経症 状が出現した場合,下肢伸展挙上テストにおいてプ レーに支障をきたす制限を認める場合,腰椎可動域 の制限,オーバーヘッドスクワットによる連鎖運動 能力の低下で判断している.
プレー中止を指示した場合,選手には復帰見込み 期間と治療内容を説明する.リハビリテーション中 は選手の意欲を引き出し,計画どおりに治療を進め ることが大切である.仮に治療が長期に及べば,症 状は改善しても選手はチーム内でのポジションを失 うことになったり,大事な試合に間に合わなくなっ たりすることもあるため,保存的治療にこだわるこ
となく外科的治療の介入も考慮しなければならない.
2.安静
従来,急性腰痛症に対する治療の主体は安静とさ れてきた.しかし,数々の無作為コントロール試験 によって長期の安静に明らかな医学的根拠がないこ とがわかってきた 1).Deyo らは,長期の安静は筋肉 の萎縮,心肺機能の低下,骨塩量の低下,血栓症の 危険性などを引き起こすと報告し,神経障害のない 急性腰痛患者には長期間の安静よりも 2 日程度の安 静を推奨している 2).また,複数の腰痛治療ガイド ラインを検討した Koes らの報告でも,急性腰痛に は長期のベッド上安静を避けることが推奨されてい る 3).
筆者らも急性腰痛を発症した選手には安静期間は 最小限とし,アスレティックリハビリテーションを 積極的に行なっている.
3.薬物療法
1)内服薬厚生労働省が作成した腰痛症の治療指針では,薬 物療法として非ステロイド性消炎鎮痛薬,筋弛緩薬,
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロ トロピン ®)が推奨されている 4).
非ステロイド性消炎鎮痛薬(Non─Steroidal Anti─
Inflammatory Drugs:NSAIDs)は,急性腰痛症に 対する医学的根拠は証明されているが,慢性腰痛に 対 す る 十 分 な 医 学 的 根 拠 は 得 ら れ て い な い 5). NSAIDs の副作用として,長期内服による胃潰瘍だ けでなく,創傷治癒の初期反応である白血球の遊走 を阻害し,筋,靱帯,腱,軟骨の治癒過程を遅延さ せることが報告されている 6).多量の NSAIDs の服 用はプロスタグランディン合成を阻害することで急 性腎不全を生じることがある.
筆者らは,“ ジクロフェナクナトリウム ” や “ ロキ ソプロファンナトリウム ” などの NSAIDs を使用し ている.これらの薬剤は,腰痛発症後の急性期もし くは痛みがあるときに頓用で内服することが多い.
2)注射
疼痛誘発部位(トリガーポイント)に局所麻酔剤と ステロイド剤を注射する局所ブロック,仙骨裂孔か らの硬膜外ブロック,坐骨神経ブロック,神経根(造
影)ブロックなどがある.神経根ブロックについて は,薬剤注入による除痛効果をもとに責任高位の診 断ができる.しかし,EBM 上の腰痛に対する注射 療法の効果はいまだ明確ではない 7).
腰椎椎間板ヘルニアの場合,安静,NSAIDs,硬 膜外ブロック,神経根ブロックなどの保存的加療を 数週間行なうことで多くは軽快する.一般的に膀胱 直腸障害や下肢筋力低下などの麻痺症状を呈す症例 や上記保存治療に抵抗する症例は手術適応と考えら れ,プロスポーツ選手も同様と考えている.当施設 では椎間板ヘルニアなど根性疼痛を有するプロスポ ーツ選手を加療する機会が多い.下肢痛によりプレ ーの質が低下する場合,神経根ブロックによる除痛 効果によりプレーに復帰できることも多く,プロス ポーツ選手にとって非常に有用な治療と考える.た だし,効果のない場合にはいたずらに保存治療にこ だわらず手術に踏み切るタイミングも重要である.
3)ドーピング
トップアスリートへの投薬は,ドーピング違反に あたらないか考慮されなければならない.NSAIDs の 1 つであるジクロフェナクナトリウムや貼布薬で あるケトプロフェンは禁止薬物には該当しないが,
副腎皮質ホルモンであるデキサメサゾンは禁止薬物 に該当するため,その使用に注意する必要がある 8)
(表 1).世界アンチドーピング機構(World Anti─
Doping Agency:WADA)が,国際レベルのスポー ツにおけるドーピング行為を監視している.故意の ドーピングがある一方で,ドーピング目的で使用す るつもりがなくても,市販の風邪薬や栄養ドリンク,
漢方薬などを服用しただけでドーピング陽性になる ことがある.知識,情報不足による「うっかりドー ピング」を防止するためには,ドーピングの知識の ある医師,薬剤師に相談するよう選手に指導する必 要がある.
筆者らは選手が服用しているすべての薬剤,サプ リメントはチーム・トレーナーに報告させており,
ドーピングに関しては厳密に管理している.緊急で ほかの医療機関を受診するときは,禁止薬物のリス トを選手に携帯させたり,場合によってはチームド クターが当該医療機関の医師と直接連絡を取って対 応している.
4.装具療法
装具療法は,局所の安静,腰椎の運動制限,筋力 補助などの目的で使用される.装具は大別して,体 幹装具(軟性および硬性)と腰部固定帯(腰痛帯)の 2 つがある.いずれも,発症後間もない急性期がよい 適応である.一方で装具療法の効果に関して,結果 は一致していない.使用装具,使用期間等を明確に した文献もなく,現在のところ腰痛症に対する装具 療法の有効性は証明されていない.
プロスポーツの現場では,競技種目,トレーナー の考えにより装具の使用状況は異なってくる.プロ 野球選手では腰部固定帯単独,もしくはキネシオテ ープという伸縮性のあるテープと併用しており,プ ロサッカー選手ではアスレティックリハビリテーシ ョンによる体幹筋力強化が主体で,装具は用いてい ない.
1
表 1 注意すべき禁止物質 常に禁止されている物質
S1.蛋白同化薬
男性化ステロイド薬:筋肉増強作用
例:メチルテストステロン(一部の強精剤に含まれる)
S2.ペプチドホルモン,成長因子および関連物質 例:成長ホルモン
エリスロポエチン(造血作用)
インスリン(血糖降下作用)
S3.ベータ 2 作用薬 例:喘息吸入薬 S4.ホルモン拮抗薬と調節薬 S5.利尿薬とほかの隠蔽薬
禁止薬物を用いていることを隠蔽する作用のある薬 例:利尿薬
プロベネシド(痛風治療薬)
競技会時に禁止される物質 S6.興奮薬
例:エフェドリン,メチルエフェドリン
(一部の鎮咳薬,総合感冒薬,漢方薬,サプリメント などに含まれる)
エチレフリン(低血圧治療薬)
ストリキニーネ(一部の胃腸薬に含まれる)
S7.麻薬
S8.カンナビノイド S9.糖質コルチコイド
例:デキサメタゾン,プレドニゾロン
(経口使用,静脈内使用,筋肉内使用は禁止)
18
5.理学療法
1)物理療法わが国では神経症状を有さない腰痛に対して牽引 療法,温熱療法などが処方されていることが多い.
牽引療法の効果には,筋攣縮の緩和,腰椎前弯の減 少,心理的効果などがある.本療法の目的は脊柱を 牽引することではなく,牽引による腰椎局所の安静 や間歇牽引による局所マッサージ効果にある.Clarke らのレビューによれば,腰痛症に対する牽引療法は 急性期,慢性期を問わず,その効果を否定されてい た 9).温熱療法に関しては,表在温熱療法の効果に 対するエビデンスが French らによって,後述する 運動療法と組み合わせることで疼痛,機能を改善さ せうるとした報告がある 10).
プロスポーツの現場では,疼痛をコントロールす るための治療として経皮的電気神経刺激(transcuta- neous electrical nerve stimulation:TENS),ホット パック,超音波,鍼治療なども行なっている.関節 の可動域制限を認めた場合にはモビライゼーション を併用することもある.各関節の可動域向上のため に問題点である短縮した筋肉のストレッチングや拮 抗筋の強化,代償行為によってオーバーワークにな っている補助筋肉のマッサージを行なっている.ま た,ストレッチポール,スティックを用いた筋膜リ リース(myofascial release)などを実行し,筋緊張 をとるようにしている.さらにリラックスしてきた 筋肉に対しては神経筋コントロールを再教育するた めに,主導筋の収縮と拮抗筋のストレッチングを応 用した自動的個別化ストレッチング(active isolated stretch)で機能回復を行なっている.
2)運動療法
運動療法に関して,Hayden らは急性腰痛症に対 する運動療法には効果はないが,慢性腰痛症に対し て効果があるとしており,有効性を結論づけている.
Rainvilleらは中等度の腰痛患者に対して脊椎柔軟性,
傍脊柱筋,心血管系の持久力を改善し,腰痛に対す る過度の不安を和らげることによる除痛効果がある と報告している.
運動療法は,一般的に発症早期(3〜7日)の急性期 には適応外である.しかし,プロスポーツの現場で は早期よりアスレティックリハビリテーションを行 なっている.痛みの原因になっていると考えられる
筋スパスムをとる目的で,痛みの許容範囲内で動か し,早期機能回復につなげている.実際には体幹部,
下肢の関節のストレッチングやモビライゼーション,
コアエクササイズなどが行なわれている.体幹筋は,
運動方向のコントロールの役割を担う表層筋と腰椎 の分節的安定性に寄与する深層筋に分けられる.コ アエクササイズにより深層筋を優先的に鍛えること で体幹・骨盤の安定化を図っている(図 1).
プロスポーツ選手の腰部障害
1.広島東洋カープ
2000〜2005 年の 6 年間における腰部障害発生件数 は 86 件であった.腰痛の誘因は投球練習が 17 件と高 頻度であり,ポジション別腰痛発症頻度は,投手が 30 件と最も頻度が高かった.投手は頻回の投球動作 による腰椎への回旋負荷が大きく,椎弓根疲労骨折 などの腰部障害の発生頻度が高いものと考える.MRI は X 線検査で異常を認める以前に椎弓根周囲の骨髄 浮腫として初期変化をとらえることができるため,
腰部障害の初期診断と初期治療に非常に有用である
(図 2).
28 件(33%)は短期間の休養で復帰可能であった が,58 件(67%)は復帰までにアスレティックリハ ビリテーションが必要であった.なお,腰椎椎間板 ヘルニアによる運動麻痺の合併 2 選手,慢性的腰部 神経根障害1選手には顕微鏡下腰椎手術を行なった.
2.サンフレッチェ広島
2003 年〜2009 年の 7 年間におけるサンフレッチェ 広島のトップ・ユース選手の腰部障害発生件数は 24 件,年間 3〜4 件であった.多くは一過性の腰痛であ ったが,腰椎椎間板ヘルニアによる下肢運動麻痺を 合併した 2 選手に顕微鏡下腰椎手術を行なった.
腰椎手術後のアスレティックリハビリテーション
1. プロ野球選手のアスレティックリハビリテーショ ン・プロトコール
手術後翌日より歩行を開始し術後 2 週で退院とな る.退院後は中周波(electrical muscle stimulation:
EMS)を使用し腰椎に負担をかけず大腿四頭筋の強
化を開始する.術後 5 週より腹筋の等尺性収縮,下 肢の徒手抵抗運動,肩内在筋筋力強化を行なう.同 時に体幹・下肢を中心に固有受容性神経筋促通法
(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF)
を開始する.術後 8 週よりプール内での運動,ジョ ギング,股関節周囲筋力強化とストレッチングなど を開始する.術後 9 週より 50〜60%の力で走る快調 走を開始,ジョギングからスプリントに徐々に移行 する.また,スピードや瞬発力などの運動能力を向 上させるためにアジリティ・トレーニングを開始す る.この時期より,バッティングや投球に不可欠で ある体幹の捻り動作を徐々に開始する.術後 10 週よ りバットやボールを使ったティー打撃を開始する.
さらに,プライオメトリックトレーニングで下半身 を重点的に強化する.術後 11 週より守備練習に参加 し,術後 12 週よりフリー打撃を開始する.この時期 より上肢のプライオメトリックトレーニングを開始 し,ティー打撃を 200 球に増やす.術後 16 週より合 同練習に参加させる.
2. J リーグ選手のアスレティックリハビリテーショ ン・プロトコール
術翌日より歩行を開始し,術後2週で退院となる.
退院後は毎日 1 時間のプール内歩行を開始する.神 経筋コントロールの回復,体全体の安定感を高める コアエクササイズによる体幹筋力の強化を行なう.
elbow-toe hand-knee( )
back bridge( ) side bridge( )
図 1 コアエクササイズ
※スポーツと腰痛−メカニズムとマネジメント 金原出版より抜粋
全身筋肉の運動連鎖コントロール(Total kinetic chain control)の向上によって術後の腰痛緩和と柔軟性を 改善させる.術後 5 週より,持久力改善のために歩 行負荷増強,股関節周囲筋の筋力訓練を開始する.
術後 6 週よりジョギングと歩行をミックスしたもの を開始し,術後 7 週より Cybex Orthotron を用いた 等張性運動により,大腿部の筋力強化を開始する.
術後 8 週よりジョギングを開始し,プライオメトリ ックトレーニングを行ない筋力の改善を図る.また,
ラダートレーニングを開始する.術後 12 週よりアジ リティートレーニングを開始し,術後 14 週で練習に 合流する.
腰部障害の予防,早期発見
1.腰部メディカルチェック
サンフレッチェ広島の選手は,リーグおよびカッ プ戦に出場するトップ 選手 28 名(19〜35 歳,平均 25 歳),育成組織であるユース選手 35 名(広島県立 吉田高校 1〜3 年生),ジュニアユース選手 50 名(中 学 1〜3 年生)より構成されている.腰部メディカル チェックをトップ選手は入団時と毎年シーズン開始 前,ユース選手には高校入学時と毎年新学期前に行 なっている.メディカルチェックの内容は,指尖床
間距離,下肢伸展挙上テストなどのタイトネステス トを主体として行なっている.阿部らは,タイトネ ス陽性のスポーツ選手は腰痛の発生率が高く,注意 すべきと報告している 11).腰部タイトネスが持続す る選手には,MRIによる腰椎の精査を行なっている.
入学時のメディカルチェックで,ユース選手の 31%
に腰椎分離を認めたが,腰痛のため長期の練習離脱 を来たした選手はいなかった 12).
2.最重要課題は腰部障害の予防,早期発見
腰部障害の予防のためには,コーチングスタッフ とトレーナーによる選手のフィジカル・コンディシ ョンに関する密な情報交換が重要である.練習前に は個々の選手に適した運動負荷を調整し,練習後に はプール,低負荷のランニング等のリカバリートレ ーニングを行ない障害を予防する必要がある.また,定期的にトレーナーが全選手の柔軟性,関節,姿勢,
神経筋のコントロールを評価し,選手自身に問題点 を認識させ改善を指導している.
腰部障害の初期症状は,選手の「腰が重い,張る,
硬い」等の非特異的自覚症状として出現する.他覚 的には姿勢異常(アッパークロス症候群:姿勢異常 の 1 つで,肩の挙上および前方突出,肩甲骨の外旋 と外転,前方へ突き出された頭部など,いわゆる猫 図 2 椎弓根骨髄浮腫
20 歳,男性.プロ野球選手.投球練習中に腰痛が出現.投球動作,体幹回旋時に腰痛が持続.単 純 X 線 (a.),MRI T1 強調像 (b.) では明らかな異常を認めない.MRI T2 脂肪抑制像 (c.) で左側 L4 椎弓根の高信号領域を認める (矢印).