総 説
はじめに
人類は古くから乳酸菌を活用しその恩恵を受けてきた。
乳酸菌はヨーグルトやチーズなどの発酵乳製品をはじめ、
酒類、醸造製品、発酵豆乳、漬物、発酵肉製品、パンなど の発酵食品の製造には欠かすことが出来ない微生物であ る。乳酸菌による発酵は、これらの食品に酸味や特有の香 りを与え、特徴的に優れた味をもたらすと共に食品の長期 保存を可能にしている。また乳酸菌はビフィズス菌と共に 腸内に棲みつき、消化吸収の促進や代謝・排泄のリズムを 整えており、ヒトの健康維持に重要な影響を与えていると 考えられている。
本稿ではこの乳酸菌が作り出す香り成分に関する部分に 焦点を当て、主として発酵乳製品を題材に乳酸菌の香気生 成機構やフレーバー開発における乳酸菌の利用について紹 介する。
1.微生物により生成される香り
微生物は植物や動物、またはその代謝産物を栄養源とし て取り込み増殖し、何かしらのニオイ成分を生成してい る。体内に取り込んだ物質は酵素の作用により、主に活動
のためのエネルギー源や体の構成成分として利用している が、一方で取り込んだ物質を変換し、ニオイ成分を生成し ている。
微生物が生成するニオイ成分として、身近なものでは腐 敗臭が挙げられるが、酒や味噌などの醸造食品やヨーグル トやパンなどの発酵食品の香り(図 1)なども体感する事 ができる。微生物が生成する食品の香りは、そのいずれも が原料からは想像できない複雑な香質を有しており、我々 を惹きつけてやまない。
2.乳製品とその香り1)
微生物を利用する食品の 1 つとして乳製品を挙げること
乳酸菌が生み出す香気とその活用
江本 英司
高砂香料工業株式会社 フレーバー事業本部 フレーバー研究所
〒 254-0073 神奈川県平塚市西八幡 1-4-11
微生物の中でも、とりわけ乳酸菌は人類との付き合いが長く、これまでに人類は主として食品に乳酸菌 を活用してきた。乳酸菌は糖を消費し乳酸を生成するが、乳酸と共に様々な香り成分を生み出している。
これら香り成分はそれぞれに特有の香りを有しており、フレーバーの成分として有用である。本稿では、
乳酸菌および乳酸菌が生み出す発酵食品や醸造食品とそれらの香りについて、またミルク系フレーバーを 例にそれら香り成分を活用したフレーバー開発について紹介する。
Key words: Lactic acid bactera, fermented milk, flavor, dairy flavoring, milk flavoring
図 1.様々な発酵食品・醸造食品
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ができる。乳製品は牛乳、バター、チーズ、クリーム、ヨー グルトなど様々に存在する(図 2)が、そのうちのチーズ、
ヨーグルトなどは微生物を利用して製造される。すべての 乳製品は原乳より派生するため、当然ながら共通の香気成 分が多く存在するが、製品毎に特有の香気成分も存在して いる(図 3)。これは各々の乳製品の加工法の違いにより 生じており、この加工法の違いが各々の乳製品の特徴的風 味を生み出している3)。
乳製品としては、牛、水牛、山羊、羊、馬などを原料と したものが知られている。乳の香りはその動物が食べる飼 料からも一部移行してくることが知られている。例えば、
夏季に牧草を食べている頃の牛乳と、冬季にサイレージや 濃厚飼料を食べている時期の牛乳とでは明らかに風味の違 いがある。
絞りたての乳の香りは殆ど感じられないか、もしくは非 常に弱いものであるが、時間経過や加工していくことによ り次第に強くなっていく。例えば加工が進んだブルーチー ズの香りは特有の非常に強い香りを有している。これは乳 そのものに香りの前駆体が豊富に含まれており、自身の持
つ酵素、加熱、微生物などの作用で香りが生成され、香り の強度が強まっているからである。図 4に乳製品における 香り生成の概要を示す。
3.乳酸菌を活用した発酵食品4,5)
乳酸菌は消費した糖の最終発酵生産物として 50% 以上 の乳酸を生成するグラム陽性の細菌の総称であり、動植物 界に幅広く分布している。形態的には球菌と桿菌に分けら れ、両者とも酸素の少ない環境を好む通性嫌気性菌で、ブ ドウ糖、乳糖、ショ糖(サッカロース)、麦芽糖(マルトー ス)など各種の糖から乳酸を生成する(表 1)。人類は昔 から食品を中心に乳酸菌を上手く活用しながら生活してき た。これらの食品が現代の発酵食品や醸造食品として我々 に親しまれている。とりわけ乳製品の製造に乳酸菌は非常 に重要である。
乳酸菌が食品工業に積極的に活用されているのは、
(1)食品の保存性を高める、(2)風味をよくする、(3)栄 養・健康効果を高める、などの理由からである6)。 ビフィズス菌に関しては、乳酸菌の定義からは、乳酸菌 には該当しない細菌であるが、乳酸菌と同じように論じら れる事が多いため、本稿では乳酸菌の仲間として記載する 事とした。
発酵食品には、ヨーグルトに代表される発酵乳やチーズ をはじめとして様々なものが存在するが、それらには様々 な種類の乳酸菌が利用されている(表 2)。品質の優れた 図 2.生乳から生まれる様々な乳製品
文献 2)より改変
図 3.主な乳製品の香気成分の一例 文献 3)より改変
図 4.乳製品フレーバーの生成概要 文献 1)より改変 表 1.乳酸菌の分類
発酵製品を確実につくるために乳酸菌の純粋培養物がス ターターとして使用されている。
ヨ ー グ ル ト と そ の 類 似 製 品 の 製 造(図 5) に は、
Lactobacillus bulgaricus(現 Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)とStreptococcus thermophilus の混合 培養が使われる。両菌種には共生関係が認められる。わが 国ではLactobacillus jugurti(現 Lactobacillus helveticus)
もしばしば利用される。これらの乳酸菌が増殖すると、快 い酸味を生じ、乳タンパク質が酸凝固して乳全体がプリン 上に固まり、好ましい感触を与える。この際使用する菌株
の種類により、製品のテクスチャーに差が生じる。ヨーグ ルトの組織はきめが細かく、滑らかなものでなければなら ないので、適切な菌株を選ぶ事が大切である。
チーズには様々な種類のものが存在する(図 6)が、そ れら製造には主に酸生成菌であるStreptococcus cremoris
(現 Lactococcus lactis subsp. cremoris)と Streptococcus lactis(現 Lactococcus lactis subsp. lactis)がスターターと して使用される。硬質チーズの場合はL. bulgaricus や S.
thermophilus を使用する。これら乳酸菌は乳糖を分解し て乳酸を生成し、pH を低下させてレンネットの凝乳作用 図 5.発酵乳(ヨーグルト)の一般的な製造工程 図 6.チーズの種類
文献 7)より改変 表 2.各種食品の加工に利用される主な乳酸菌の種類
を助ける。乳酸発酵の進行に伴い、爽やかな酸味を付与す ると共に、カード粒の結着とホエーの排出を促進する。チー ズの熟成過程(10℃前後、数週間ないし数ヶ月)において は、乳酸菌の菌体内酵素が乳成分を分解して、チーズ特有 のフレーバーが形成される。
発酵バター、サワークリーム、あるいはフレッシュ チーズ(カテージチーズなど)の製造には酸生成菌[S.
cremoris や S. lactis ]と共に Leuconostoc cremoris
(現 Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris )や Streptococcus diacetilactis(現 Lactococcus lactis subsp.
lactis)が用いられる。Leuc. cremoris や S. diacetilactis は 乳中のクエン酸を分解して発酵乳の特徴的な香り成分であ るジアセチルを生成する。
セミドライまたはドライ発酵ソーセージの製造におい て、練り肉の熟成期間を短縮する目的で、Lactobacillus plantarum や Pediococcus cerevisiae(現 Lactobacillus dextrinicus)をスターターとして添加することが次第に
普及しつつある。食肉では乳酸菌が利用できる炭水化物の 含量が低いため、適量の糖を加えて発酵の度合を調整する。
乳酸菌により適度な酸味と特有のぴりっとした味を生じる と共に、肉タンパク質の変性により発酵ソーセージ独特の しまりあるテクスチャーが得られる。また乳酸菌は有害微 生物の増殖を阻止して、製造工程の安全性を確保し、また 貯蔵性を高める効果がある。
豆乳の発酵には、S. thermophilus 、Lactobacilllus acidophilus のほか、Leuc. mesenteroides、L. delbrueckii、
L. plantarum も用いられる。乳酸発酵により、大豆臭が 消え、香りとテクスチャーが改善され、また保存性も向 上する。ピーナッツミルクやキャッサバの発酵にもL.
plantarum や L. acidophilus などが利用される。
良 質 の 塩 づ け キ ャ ベ ツ の 発 酵 に お い て はLeuc.
mesenteroides が最も重要である。また、きゅうり、にん じん、オリーブなどのピクルスの香り生成にL. plantarum などが利用される。一部のワインはリンゴ酸と酒石酸が多 く、特有の強い酸味を有するが、Leuconostoc oenos (現 Oenococcus oeni)や Lactobacillus hilgardii を作用させる
事によりリンゴ酸を乳酸に変えて酸味を和らげる(マロラ クティック発酵)。
ラ イ 麦 か ら つ く る サ ワ ー ブ レ ッ ド の パ ン 種 に は、
Lactobacillus casei(現 Lactobacillus paracasei)や非定型 的な中温性ホモ乳酸桿菌の使用が香りの面から不可欠であ る。サンフランシスコサワーブレッドではLactobacillus sanfrancisco(現 Lactobacillus sanfranciscensis)の利用が
奨められている。
また乳酸菌はソーダクラッカーの製造工程でも重要で ある。均一で優れた香りを有する製品を作るため、ソー ダ ク ラ ッ カ ー の 生 地 にL. plantarum、L. delbrueckii、
Lactobacillus leichmannii(現 L. delbrueckii subsp. lactis)
の純粋培養物を添加すると、発酵工程を大幅に短縮する事
ができる。
4.乳酸菌が生み出す香り6,8)
発酵乳は世界各地で様々なものが作られているが、通常 は乳に乳酸菌等の微生物を加えて発酵させたものを発酵乳 と呼んでいる(表 3)。発酵乳といえば日本ではヨーグル トが最も一般的である。牛乳は約 4.5% の乳糖を含有する が、乳酸発酵によってその 1/3 が減少し 3% 程度になる。
乳に加えた乳酸菌は自身が有するラクターゼによって乳糖 をブドウ糖とガラクトースに分解する。これらはピルビン 酸を経て乳酸に変化する。乳酸が生成しすぎると乳酸菌の 生育が止まるので乳糖は完全に消費されない。普通乳酸は 0.85 ~ 1.2% 生成される。また、少量の生成物としてカル ボニル化合物(アセトアルデヒド、ジアセチル、アセトイ ン、メチルケトンなど)や有機酸(酢酸、ギ酸、カプロン酸、
酪酸、プロピオン酸、イソ吉草酸など)などの香り成分や エタノールがある。これらの成分は乳酸菌の種類によって、
生成量が異なる。
発酵乳の香り成分とその香調、香りへの関与、由来物 質を表 4に示す。香り成分は主としてL. bulgaricus と S.
thermophilus の代謝によって生成し、乳糖の変換とある 程度の脂肪分解およびアミノ酸の変換が供給源である。乳 酸発酵により生成する香り成分としては、従来ジアセチル とアセトインが主要成分であるとされてきたが、現在では その他のカルボニル化合物も、主要な香り成分として重要 であるといわれている。ジアセチルはシャープな甘さを 伴ったバター様の香り、アセトインはクリーミーな甘さ を伴ったバターを想起させる香り、アセトアルデヒドは シャープなヨーグルトのトップに寄与する香り、メチルケ トン類は分子量に応じて多少の差はあるものの、ややメタ リックでかつクリーミーなコクを想起させる香りを有して いる。ジアセチルとアセトインの生成経路としては、乳糖 からの経路とクエン酸からの経路に大別される。
乳酸菌の乳酸生成により乳の凝固がおきる。凝固は pH5.3 で始まり、カゼインの等電点である pH4.6 で終了す る。この pH でカゼインに結合している塩類は遊離する。
発酵乳の凝固タンパク質はカゼインと変性ホエータンパク 質の共沈物である。この凝固物は脂肪球を包み込んだ半固 形状のゲルを形成している。
タンパク質はプロテアーゼによりポリペプチドに変化 し、これにペプチダーゼが作用してアミノ酸に変化する。
乳糖の変化量に比較してわずかであるが、アミノ酸は最終 製品の味に大きな影響を及ぼしている。
ジアセチルおよびアセトイン生成の確認については、
Kandler 11)がLeuconostoc 属の菌を用いてトレーサー実験 を行い、その生成経路を解明した。また Collins12)はジア セチルおよびアセトインの生成量を多くするには、微生物 細胞物質の合成に用いられる余剰のピルビン酸が必須であ
ると報告している。さらに Kandler は、ピルビン酸を全 く含まないグルコースのみの培地では、アセトインの生成 は認められないが、ピルビン酸のみでは生成が認められ、
またグルコースとピルビン酸を含む培地では、グルコース 量が少なくピルビン酸量が多いとアセトインの生成が認め られると報告している(図 7)14)。
Lindasy 15)らによると、バタースターター中における良 好な風味は、ジアセチルとアセトアルデヒドの比率が、4.7
~ 3.2 対 1 が最も良い風味を呈し、それ以上になると刺激 臭となり、それ以下になると青臭(Green Flavor)を呈す ると報告している。ヨーグルトについては、アセトインと アセトアルデヒドの比率が約 2.8 ~ 1 の時、最もヨーグル トらしい優れた風味を呈する。アセトアルデヒドの生成は、
ほとんどの乳酸菌で認められており、図 7に示す通りピル ビン酸が脱炭酸されて生成される以外にタンパク質、核酸、
脂肪からも生成される13)。
5.フレーバー開発における乳酸菌の活用3)
フレーバー開発における乳酸菌の活用の中でも大きなも 表 3.発酵乳に用いられる微生物
図 7.乳酸菌によるアセトアルデヒド、ジアセチル、アセトインの生成 文献 13)より改変 表 4.発酵乳の主な香り成分と香調、香りへの関与、由来物質
のとして乳酸菌を利用したミルク系フレーバーの開発が挙 げられる。すでに弊社においても顧客の本物志向に対応し た、デイリー系フレーバー素材シリーズを開発し上市して いる。
ミルク系フレーバーは牛乳、加工乳、更にバター、チー ズ、クリーム、ヨーグルトなどの 2 次加工品までを含めた 乳製品のもつ特徴的な香気を有するフレーバーである。そ れらは用途によりミルク、バター、チーズ、クリーム、ヨー グルトフレーバー等に分類され、水溶性香料、油溶性香料、
乳化香料、粉末香料とその用途に応じて様々な形態がある。
これらは乳製品のもつ天然のミルクらしさを付与、強化し、
なめらかさ、こく味を与え嗜好性をアップさせる。また異 臭や加工臭をマスキングしておいしさを増すこと並びに一 定の品質確保を目的にも使用される。昨今ではコスト面や カロリーオフコンセプトから、製品中から乳原料を削減す る際、不足するミルク感やクリーミーな風味を補足する目 的でも使用される。
ミルク系フレーバーは合成香料や、乳原料から物理的方 法や酵素処理などによって得られる素材を調合することに より得られる。一般にミルク系香料の調合に当たっては、
目的とする乳製品の香気特性を把握した上で最も適切な素 材を選択し、その量的バランスを決定することが重要で ある。
ミルク系フレーバーは各種の食品分野に対し 0.01 ~ 0.2% 程度使用され、チーズ、チーズ菓子、クリーム、サ ラダドレッシング、ミルクチョコレート、乳飲料、乳酸菌 飲料、ヨーグルト、アイスクリーム、シャーベット、マー ガリン、菓子・パン類など様々な食品に幅広く応用されて いる。
ミルク系フレーバーおいて、特にナチュラル感があり、
より完成度の高いフレーバーを開発していくためには天然 のミルク系フレーバー素材が必要不可欠となる。乳製品を 原料とする天然素材には蒸留や抽出操作などの物理的手法 により得られるフレーバー素材、加熱処理することによっ
て得られる加熱調理フレーバー素材、生化学的手法(微生 物・酵素反応)を用いて得られる微生物・酵素フレーバー 素材がある。中でも微生物・酵素フレーバー素材は乳製品 が持つナチュラル感やボリューム感を付与するために非常 に重要であり欠かせない素材である16)。
微生物・酵素フレーバー素材はリパーゼやプロテアーゼ などの酵素を使用する場合や微生物であれば主に乳酸菌の 作用による場合、あるいはそれらを組み合わせる事により 開発されている。
酵素を利用した反応は、極めて温和な条件で行われるの で食品加工やフレーバーの製造において、原料が元々有し ている天然の微妙な風味を損なわない点で有用である。乳 製品にリパーゼを作用させたものは遊離脂肪酸由来の乳脂 肪感を感じさせる特有の香気を有する。同じリパーゼとい う酵素であっても給源が異なればその諸性質が異なり、作 用最適 pH、作用最適温度、pH 安定性、熱安定性が異な る。これらにより、生成してくる香気バランスも変化する
(図 8)。そのため工業的に酵素を応用する場合、目的に合 致した酵素の選択や酵素反応条件の最適化が非常に重要に なる。また乳製品にプロテアーゼを作用させたものは、タ ンパク質を分解しアミノ酸やペプチドを生成することから 乳の味に寄与しており、これもミルク系フレーバー素材と して使用されている。
乳原料に乳酸菌を作用させて生成する各種のカルボニル 化合物(アセトアルデヒド、ジアセチル、アセトイン、メ チルケトンなど)や有機酸(酢酸、ギ酸、カプロン酸、酪 酸、プロピオン酸、イソ吉草酸など)およびエタノール等 は、それぞれが有用なヨーグルトのフレーバー成分になる
(図 9)。
酵素や乳酸菌を利用したミルク系フレーバー素材よりも 更に自然でかつ複雑な乳風味の付与のために酵素処理と乳 酸発酵を併用したミルク系フレーバー素材も開発されてい る。この場合、乳原料の選択も重要であるが、更には適切 な乳酸菌と酵素の選択および適切な発酵条件と反応条件の
図 9.乳製品を乳酸発酵させた際の GC クロマトグラム 文献 3)より改変 図 8.給源の異なるリパーゼによる遊離脂肪酸組成の差異
文献 3)より改変
選択も鍵となる。
特徴的なフレーバーは原料として用いる乳の種類や酵素 や乳酸菌の種類およびそれらの反応条件や発酵条件の組み 合わせの違いにより生成するが、成分的に大差はなく、成 分の量的バランスによりフレーバーの特徴が出る。そのた め、乳の種類、酵素や乳酸菌の種類およびその反応条件や 発酵条件の組み合わせの最適化は非常に重要になる。
乳酸菌を使用したミルク系フレーバー素材の例として は、乳製品を主成分とする培地をプロテアーゼで処理した ものに、ジアセチル生産能の高い乳酸菌を選択して培養し て得たものや生クリームを主成分とした培地に選抜した香
気強度が強い乳酸菌を接種し培養して得たもの、また特徴 的な風味を生産する乳酸菌を選抜し、脱脂粉乳溶液に接種 して培養したものなどがある。現在では、利用する乳酸菌、
酵素の組み合わせにより様々な特徴的風味を有した素材が ある(図 10)。
おわりに
微生物と人類の付き合いは長く、その中でも食品と密接 に関係してきた乳酸菌は人類の食生活に非常に重要な役割 を果たしてきた。一般的な感覚では、乳酸菌といえば、ヨー グルトなどの発酵乳製品だけに利用されていると思われが ちだが、実際は様々な醸造食品、発酵食品に乳酸菌が利用 されている。
本稿では、乳酸菌を活用した食品と乳酸菌が生成する香 りおよびそれらを活用したミルク系フレーバーについて紹 介したが、ミルク系フレーバー以外においても酒類のフ レーバー、味噌、醤油類のフレーバーなどにも、乳酸菌や 酵素を選択し、プロセスを調整することにより、すぐれた 食品フレーバーを作り出すことも可能である。
乳酸菌は様々な香り成分を生成する能力を有しており、
それらを効率的に活用する事により、より有用なフレー バーをつくり出す事も可能ではないかと考えられる。
乳酸菌を利用した食品はヘルシーなイメージがある食品 が多い。これは乳酸菌そのものの人類に対する有益性や乳 酸菌が生産する物質の健康への貢献などの風味以外の側面 からの研究成果によるところが大きい。これからも乳酸 菌に関する様々な研究が進み、これと共に更なる健康イ メージの上昇、更なる乳酸菌の活用の場が広がる事が期待 される。
参 考 文 献
1) 蟹沢恒好:香り,フレグランスジャーナル社,p63-66(2010)
2) 齋藤忠夫(監修):牛乳・乳製品の知識,社団法人 日本酪農 乳業協会,p42(2012)
3) 高砂香料工業株式会社:乳業製品の開発に寄与する食品素材・
添加物,乳業ジャーナル,6月号 78-81(2012)
4) 森地敏樹:乳酸菌の特性と利用,New Food Industry,28(2),
1-5(1986)
5) Smith JL and Palumbo SA:Microorganisms as food additives J. Food Prot., 44, 936-955 (1981)
6) 木原浩:酵素・微生物によるフレーバーの生成,New Food Industry,26(8),2-3(1984)
7) 齋藤忠夫(監修):牛乳・乳製品の知識,社団法人 日本酪農 乳業協会,p44(2012)
8) 野口洋介:牛乳・乳製品の知識,第 3 刷,幸書房 p70-78(2002)
9) 野口洋介:食生活研究,11,(5),11(1990)
10) Rasic, J. L. et al:“Youghurt”, Fermented Fresh Milk Products , vol. 1, Technical Dairy Publishing Hovse, Copenhagen, Denmark (1978)
11) Kandler, O.:Stoffwechsel der Säureweckerorganismen, milchwissenschaft, 16, 523-581 (1961)
12) Collins, EB.:Biosynthesis of flavor compounds by microorganisms J. Dairy Sci., 55, 1022-1028 (1972)
13) 乳酸菌研究集談会:乳酸菌の科学と技術,p197-205(1996)
14) 町原等夫:発酵乳製品の風味について,香料,114,75-77(1976)
15) Lindsay, R. C., et al:Green flavor defect in lactic starter cultures J. Dairy Sci., 48, 863-869 (1965)
16) 丸田賢彦:ミルクフレーバーについて,高砂香料時報,152,
6-9(2004)
17) 松原均:冷菓・デザート食品用フレーバーの開発動向,ジャ
パンフードサイエンス,48(5),25(2009)
図 10.天然ミルク系デイリー素材の製造工程の一例 文献 17)より改変
Flavors produced by lactic acid bacteria and those utilization
Eiji Emoto
TAKASAGO INTERNATIONAL CORPORATION Flavor Division
1-4-11 Nishiyawata, Hiratsuka City Kanagawa 254-0073, Japan
Abstract
The humans have a deep relation with lactic acid bacteria for a long time. Mainly, the humans utilize lactic acid bacteria on food manufacture until today. Lactic acid bacteria metabolize sugar to lactic acid and produce various flavoring materials at the same time. These flavoring materials have unique characteristics with each other and are useful to various kinds of food as flavorings. In this report, milk flavorings are introduced as an example of development of flavorings by utilization of lactic acid bacteria.