〔パネルディスカッション〕
流体力学教育を考える
― 企業が求めるもの,大学が提供できるもの ― Panel Discussion: A New Style of Fluid Mechanics Education
株式会社東芝 技術企画室長 有 信 睦 弘
東京大学名誉教授,工学院大学名誉教授 今 井 功
株式会社リコー 技術顧問 大 島 裕 子
株式会社風環境リサーチ 代表取締役社長 藤 井 邦 雄
東京大学大学院航空宇宙工学専攻 教授 森 下 悦 生
【司会】中央大学理工学部精密機械工学科 教授 中 山 司
【中山】今日は5人のパネリストの方々にお越し いただきまして,今の学生たちに流体力学の面白 さを伝えるにはどうしたらいいか,また現場で大 学卒業生を受け入れる方々は,大学の流体力学に 対してどういう感想をもっておられるのか,そう いうことを伺いながら,流体力学教育のあるべき 姿を考えてみたいと思います.
パネルディスカッションの進め方ですが,まず 5人のパネリストの方々に話題を提供していただ き,その話題提供の中からこちらでトピックスと 思われるものをピックアップ致しまして,それぞ れについて皆様と共にディスカッションしていき たいと思っています.どうぞよろしくお願い致し ます.
【今井】まずお話する概要をOHP(図1)でお目 にかけます.最初に,反省と希望,これは長い間,
流体力学の講義をして参りましたので,その反省 と将来に対する希望でございます.次は,教育は 相互作用であるということ.教育は教える者と聞 く者の2人が最小の単位です.決して一人で話 をするのではなくて,教える者から教わる者に話 をし,教わる者が教える者に質問をし,それに対 してまた答えるという相互関係であり,この相互 作用ということが,普通の研究とは大いに違いま す.先生の方はつい自分の知っていること,言い たいことだけを喋りますが,相手があることです
から,人を見て法を説け,つまり誰に対して話し ているかを常に念頭に置かなければなりません.
流体力学教育というのが今日の話題ですが,そ もそも流体力学教育の目標は何だろうかと考え てみますと,大きく分けて二つあると思います.
一つは,流体力学に対するファンを増やすこと,
もう一つは後継者あるいは専門家を養成するこ とです.人によってそれぞれウェイトが違うかと 思いますが,私はこの両方とも非常に重要と思い ます.流体力学に対するファン,愛好者,サポー ターを広げることは,もちろん流体力学の将来の 専門家の芽生えを作るという意味もありますが,
それとともにファンを作って流体力学に対する サポーターを増やすことが非常に重要です.これ を芸術文化と比較しますと,こちらの方は芸術の
・反省と希望
・教育と相互作用 人を見て法を説け
・流体力学の目標
(a)ファンを増やす,(b)専門家を育てる 芸術・文化との比較
・流体現象の物理イメージを豊富にし,
自分なりの 物理モデル をつくる 物理モデル 数学モデル を区別する
・大実験か,小実験か?
・最終講義(化学系大学院)での経験
図1 今井OHP
ファンを作ることに重点が置かれているのでは ないでしょうか.つまり芸術文化といいますと,
自分自身で芸術家になろうという人は非常に少 なく,それよりも芸術文化を身近に理解して,芸 術家をサポートする,あるいはサポートする層を 厚くする,これが芸術文化の向上に対して非常に 有用です.同じことが流体力学でも言えると思い ます.
次に,専門家として流体力学を実際に研究し,
あるいは応用しようという立場の人に対して,ど ういう流体力学の教育をすべきか.私は各人が流 体現象の物理イメージを豊富にして自分なりの物 理モデルを作ることが一番重要ではないかと思 います.実際研究発表などで,シミュレーション やモデル化とかいう言葉が良く使われておりま すが,このモデルというものには, 物理モデル と 数学モデル とがあること,その二つの性格 の違いを十分に認識しておく必要があります.
次に大実験か小実験かという問題です.大実 験とは非常に大規模でお金もかかるものです.例 えば,物理で言いますと,素粒子物理の研究のた めに非常に強力な加速器を作るのに相当します.
流体力学でいえば,非常に大きい風洞を作ること です.風速も非常に広い範囲で変えられ,大きい モデルあるいは実用機について実験をするのが大 規模な実験です.それに対して小規模の実験は,
教室や自宅でもできるものです.流体力学の愛好 者,あるいは研究者を育てるためには中学とか高 校で流体力学の実験をするのが重要です.この小 さい実験の類を真剣に考えておくべきだと思い ます.
最後に最終講義での経験を少し詳しく述べたい と思います.私は長年,流体力学の講義をしてき ましたが,その間だんだん考え方が変わって参り ました.
私は1936年に大学を出て,初めて流体力学を 勉強するようになりましたが,その数年後からは 大学の物理学教室で力学第二という題目の講義を やらされることになりました.
やはり最初は大学の講義というのを意識して非
常に背伸びをしたものであったと思います.これ は流体力学をやろうという,例えば高校生あたり から見ますと,流体力学はなんと干からびた難し いものなのだと拒否反応をおこすような,そうい う類の講義をしておりました.
そのうち,流体力学では一体何を教えればいい かを考えるようになり,大体中年頃から後は,流 体力学で教えるべきことは,ダランベールのパラ ドックスについて,結局自分なりにイメージが描 けるようになるのが最終的な目標であると思うよ うになりました.それで話の内容はダランベール のパラドックス,レイノルズの相似法則,これだ けは何としても学生諸君にわかって貰いたいと思 い,実は毎年の試験はその問題を必ず出すように しました.どういう問題が出るかがわかっていて も,それに対して準備をすること自体が,学生の 将来に役に立つだろうと考えたわけです.
東大を定年になり,阪大の機械工学科に参りま したが,大学院の学生諸君のお相手をするだけ で,実際の講義は,理学部の物理学科の学生に対 する流体力学の講義だけでした.それも定年に なりましてから,ここ工学院大学に移ったわけで す.以前から非常勤講師として,他の大学などで 流体力学関係の講義をしておりました.その最後 が,東京理科大学化学工学専攻の大学院の講義で す.その時はじめて私は流体力学で,こうやれば いいだろうと考えていたことを実行してみたわけ です.
流体力学のエッセンスとしては,やはり一様流 中の物体に働く抵抗,一様流中の物体回りの流れ について話をするべきだと考え,その中で境界 層,境界層の剥離,境界層の不安定現象,層流か ら乱流への遷移,そしてそれが伴流領域を形作る という順に話をしました.雨粒が空気中を落下 する時の挙動についての話をするのにも,必ずし も数学を使わなくても流体現象のエッセンスは 話せるような気がしました.かなわぬ夢ですが,
もし将来流体力学の講義をすることがあれば,数 学を使わないでどこまで物理イメージでできるか をやってみたいものです.
これだけは是非申し上げたいのですが,我々が 実際の現象を研究する場合に,まず物理モデルを 作る.それからその物理モデルを定量的に研究 するために数学モデルを作る.例えば,流体の現 象に対していわゆる 流体 という物理モデルを 作って,それを定式化してナビエ・ストークスの 方程式を作る.ところが方程式そのものが出発点 であるとして研究を進めるのが,一般の流体力学 研究者がとる態度ではないでしょうか.
そうすると,例えばナビエ・ストークス方程式 を導き出す時の抽象化の段階で何か抜けてしま う.物理モデルの段階では血もあり肉もあった のに,数学モデルになると骨格だけになってしま う.そのため,数学モデルだけで扱いますと,い かにも流体力学は干からびた味もそっけもない感 じになり,これから始めようとする若い学生諸君 には魅力のないものに映るのではないでしょう か.それで物理モデルに遡って,流体現象は非常 に魅力的であることを印象づけることが一番大切 であると思います.
【藤井】我々企業におりますと,流体力学の普及 に限らず,全てに大学との人材の交流というのが 本来はもっと活発にあっていいのではないかと思 います.これは後ほどお話いたします.
先ほど今井先生のお話でのファンを作ってサ ポーターを増やすことと関係あるかと思います が,流体力学を要するに本当に面白いと思ってい ただくということでいろんな入り口があろうかと 思います.スポーツ流体力学の話も最近出てきて おりますが,遊びの中で流体の面白さに関心をも つ人々が,流体力学のファンやサポーターになる 機会はいっぱいあると思います.
私は今まではヨットを三十数年やってきました が,実は最近もっと道具がシンプルなサーフィン に挑戦し始めました.やってみて分かったのです が,サーフィン周辺には波を含めて面白い物理現 象がたくさん見受けられます.
メルクーロフの本1)では,サーフィンの原理 をシンプルに説明していますが,挿絵はサーフィ ンをしている人が戸板に乗っているような絵と
なっています.実は今,ボードを注文しています が,まずどういうことを決めていくかと言います と,その人の体重や体力に合ったボードの幅,厚 さ,長さ,全体形状などです.ボードを巧みにコ ントロールして波に乗ることが出来る豊富な知識 と技術をもつインストラクターがアドバイスし てくれます.彼らもいろいろ経験を積み重ねてい く中で彼ら独自に理論を構築しているようです.
その中には流体力学的にも興味ある言動がみられ ます.
彼は,注文主の年を聞き,やや腹が出ている私 の姿をみて,どうみても脚力がなさそうで若者の ように俊敏にボードに立ち上がることはまず無理 と診断したようで,幅広で厚みを取り,安定した 浮力を確保し,かつ,ゆったりとしたコントロー ルが可能な長めの,クラシックタイプものを作 ればあなたもできますよと進言してくれました.
そんなことで妙に納得して,サーフィンを取り敢 えずスタートしたところです.
私はウィンドサーフィンも十年程度やってき ましたが,ヨットを含めてこの種のスポーツの競 技の中心になっている人達には,勝手な推測では ありますが,流体力学の講座を正式に受けた人は 極めて少ないと思います.ただ,競技で活躍する トップアスリートたち,世界のワールドカップに 出て行くような人達というのは,本質的に風をう まく捕らえて,如何に早く走る術を実によく知っ ています.どこにどういう風があって相手のポジ ションに対してどういう位置をとれば相手の風 が乱れて遅くさせることが出きるとか,逆に相手 の気流を利用して如何に早くなるとか,さらに波 の使い方にも工夫があるようです.このような 流体力学的知識は,彼らが目にする現象を鋭い感 覚で観察し,学んだことではないかと思います.
サーフィンをやっている茶髪や,スキンヘッドの 人達が,取つきにくいイメージのある流体力学の 書籍をすすんで手に取るとは思えませんが,若者 たちも一生懸命になればなるほど,やはり波と自 分のボードやテクニックとの関係について,感覚 的であるかもしれないが,なにか理屈を一生懸命
イメージしようとしているんですね.まさに,こ ういうところに流体力学の面白さを見出すチャン スがあり,サポーター予備軍となりえるのではな いかと思います.でも如何にサポーター予備軍を サポーターに変えるかについては,流体の専門家 もなにか考えなければならないと思います.
それから,やはり流体の面白さは視覚的に具体 化しないと分からないっていうことで,近年パソ コンを利用して如何に効率よく人に伝えるかが課 題と思います.今は小中学生もパソコンに触れる 機会がありますので,自然現象で何か関心をもっ たことを,パソコンでちょっと確認することが出 来るようになってきてもいいのではないかと思 います.先ほどのサーフィンもそうですが,うま く乗ろうとする人たちは,理屈を知らないと,あ る壁をブレイクスルーできないんです.どうして もそこをブレイクスルーしたい時に,もし数式の 壁や難解な書籍に出会って,にっちもさっちもい かなくなってしまったのでは,まずいということ で,やはりパソコンを使う形でサポートしていけ ないかという気がします.
それから,瞬時に反応しなければならないテク ニックを身につけるにはとにかく繰り返し,繰り 返しそれをやっていくということです.そういう ことをやって行く中で,うまくパソコンの手助け 得て,いつの間にか,関連する流体力学にも興味 を持ってもらえる可能性があるのではないかと思 います.視覚的なものとしては,本だけではおそ らく駄目で,やはりパソコンで遊びながら,ある いはネットサーフィンしながら,流体力学の有難 さになじむことが必要じゃないかと思います.
私も企業にいまして,流体力学の知識も必要と される開発研究をやってきました.たまたま私の 身近の建築土木分野の方は,海洋や海岸工学を専 門とする人達などは本格的に流体力学を学んでい ましたけれども,どちらかというと会社に入って から流体力学を初めてやろうという人が多かった と思います.会社は,短期間に成果を出さないと いけないところですが,幸い力学,振動学などを やってきた人達でなんとか開発研究に対応してき
ました.
新たに何か学ぶ必要が生じた場合,つてがあれ ば大学に行って,いろいろ先生にお聞きしながら やっていくことも出来ますし,有名な教科書を探 して来て学ぶ事も出来ますが,流体力学を学ぼう とする時に,もっとうまいメニューがあればいい なと思います.大学に学生として入ればいいのか もしれませんが,なかなかそうも行かない時にイ ンターネットを使ったようなコースもこれから出 てきて欲しいと思っております.
それから企業と学生との関係ですが,当然企業 は優秀な学生を取りたいのが本音です.また,学 生はいい会社に勤めたいというわけですが,学生 の時は自分がやっている勉強が何につながってい くかまだよく分からないのがほとんどで,双方探 り合う状況が必ずあると思います.大学では何か 実際のプロジェクトを担当させて研修させるよう なPBL(Problem Based Learning)というのがあ ると聞いておりますが,企業側から言えば,大学 4年くらいから修士くらいにかけて,期間が1年 程度ないと,企業の中で応用されている流体力学 の中身はわからないと思います.
それと大学と企業の関係ですが,流体力学に関 連する建築分野の学会でも大学の先生の発表され ているものと企業の発表したものとあまりにも ギャップがあって,どうもつながらないと思われ ることがあります.大学では基礎研究が主体と考 えれば,それはあって当然だと思いますが,それ はそれとしても大学と企業との人材交流というの をやる必要があると思います.
今,残念ながら企業は不景気で,リストラで人 減らししています.会社は,私のような高齢な者 に出て行って欲しいわけですけれども,残念なが ら優秀な人,本当に企業にとってこれからという 人が出て行ってしまうことが多くあります.しか も,出ていったら二度と戻って来ないということ になってしまいます.企業から大学に行ってまた 企業に戻ってくる,あるいはその逆の仕組みが,
アメリカではあるのかもしれませんが,日本では 殆ど出来ないのが実情です.パワーのある方々
が,タイムリーに行ったり来たりというのができ ないわけです.大学側に問題があるのか,企業側 にあるのかわかりませんが,人材交流の仕組みが 整備される必要があると思います.これらの問題 解決には即効的な方法というのはないと思われま すので,ある程度時間をかけて根気良くやってい くことか思います.このようなことが,広く流体 のファンを増やし,さらに流体力学に関心をもつ 専門家を増やす可能性につながるのではないかと 思います.
【大島】皆様は大学と企業の違いをお分かりだと 思います.大学での研究課題は制約はあるものの 個人の自由と考えております.それに対して企 業では,企業の目的に合った研究をする必要があ りますので,自分勝手なことするわけにはいきま せん.ただし,企業として将来的に何かの役に立 つ研究は必要です.私は当時電子写真について 物理的に少し考えてみる課題を頂いておりまし た.この他に研究所では定まった研究課題の他 に,10 %は全く好きなことをしてもよいといわ れていました.
私は企業に来て大学と違うと思ったのは,製品 を作るとは一つの技術だけではどうにもなりま せん.種々の技術をバランス良く統合し,融合さ せてはじめて良い製品が生まれます.どんなに良 い技術の集まりでも,その中の一つに不備があれ ば,良い製品とならないことは非常にはっきりと しています.頭では分かっておりましたが,設計 の現場をみて,実感したのが事実です.リコーは 主に複写機を作っている会社で,流体力学を主に 使うところの製品,例えば自動車,飛行機や船舶 などが作っているわけではありません.もちろ ん流体力学が決してゼロではないのですけれど,
製品面では全然出ておりません.しかし,ちょう ど私が移った頃から機内流が問題になってきまし た.それは,以前の複写機は大きくて,空間があ ちこちにあり,その中に紙がそろそろ通っていれ ばよかったのです.短小軽薄の時代の流れによっ て,機械の大きさが小さくなり,どんどん隙間が なくなってしまい,熱も逃げ場を失って機内温度
が上昇するので,冷却,熱設計問題というのが出 てきました.それから帯電の際に発生するオゾン や紙からの粉塵をどう始末したらよいかという問 題もおこりました.
一般に機械には冷却ファンがついており,隙間 のある大きな機械の中を風が吹きぬけて温度上 昇を抑えていました.それが,カラー化に伴い部 品数も増えて,ファンの風は何処から入り,何処 を通って,どういうふうに役に立つかを説明でき なければならない程隙間がなくなりました.私 が参りました頃から,あちこちから温度が上がる という話がポチポチ聞かれるようになりました.
そこで10 %の研究自由枠で機内流の計測装置を 作りました.ファンをつけても,流れは一様では ないことを示すため,熱線風速計などで計測して グラフを示しても,周囲の反応は良くなく,そこ でモデルをつかい可視化で示すことにしました.
その点大学と違いまして,試作工場がございます ので,こういうのを作るように頼むときれいなモ デルが出来ます.それを使って可視化し皆様に見 せましたら,「あれっ,本当に吹いていない」と 理解していただきました.それ以来,私は上手に 風を吹かして桶屋ならぬ会社が儲けようと言って おります.今では設計初段階で,冷却などの空気 の流れがどうなるかを示すシステムが作られてお ります.
それからもうひとつ,皆様がお使いになる複 写ではトナーを紙につけて像を出しております.
実は私も会社に移って初めて知ったのですが,ト ナーはいろいろの材料を混ぜてチップにし,それ を高速気流にのせて衝突板に当ててバラバラに すると粉になるという,流体力学の応用なので す.流体力学の観点から,生産効率の向上を数値 計算の方といっしょにお手伝いすることになり ました.高速気流のもの凄い音を立てて作られ ている工場に何度も足を運びました.実は,数値 計算と実験と実際の工場との協力で,実機にあわ せて数値計算の境界条件の合わせ込みをした結 果,約30パーセントくらい効率を上げることが でき,大変お褒めをいただいたものです.実は1
パーセント効率を上げると相当の金額の節約に なるそうです.この他にも私は作業環境の改善 や材料の散布などにかかわらせて頂きましたが,
どのような企業でも何らかは流体力学と関係があ ると思われます.
前にもお話しました複写機についているファン の例をもう一度申しますと,ファンは機械の側面 や後方あり,手を出すと風が吹き出しているのが わかります.ちゃんと風は出ていますが,温度は 下がらないといわれたことがあります.実は内部 にはいっぱい部品がつまっていて,通路をふさい でおりました.このようなときに,ファンをまわ すと,出ていく方向の空気をかき回しているだけ 内部の温度の高い空気は出てきません.実際に煙 で可視化してみますと,本当に中からの空気は出 てこないで,機外の空気を動かしていました.
このようなことから設計者の方々に対して,社 内の流体力学教育をすることになりました.「OA 機器における熱設計」,「流れの可視化技術」の二 つの講座を担当しております.一般的な流体力 学の話あと,今までの事例で話を進めます.かか わった問題で改善の前後をビデオにを撮ってある のを見せて,同じ轍を踏まないようにとのです.
最初は沢山の方が聴きにきましたが,この頃は行 き渡ったのか10人以下です.そこで「何のため に聴きに来ているのですか」,「どういうことを やっているのですか」という,先ほど今井先生の おっしゃった「人を見て説法を説く」方式を取り 入れております.こういうことをやったらいいで しょうとか,他の参加者の意見なども聞いていっ しょに考えることにしています.また,流れの可 視化技術では実習を加えています.これは複写機 に見立てた箱の中にファンを置いて,どういうふ うに流れるか自分の想像で図を書いてから実験 をやりますと,想像どおりの人,全く違う流れと なった人,条件をちょっと変えただけで違う流れ が出来るなどいろいろなことがわかりますので,
結構喜ばれております.
ちょっと話は変わりますが,ベルヌーイの定理 を示すのにベンチュリー管があります.実は高見
先生から,実験装置をしかも折りたたみで持って 歩けるものを作ってと依頼されました.そこで,
径の違う2本のプラスチックの小さなT字管を ゴム管でつなげて,Tの縦棒部分にゴム栓をして ガラス管を立てただけです.この両側にゴム管 をつけ,片方を水道の蛇口につなげて水を流しま す.他方のゴム管の先を上下させて水の出を調 節しますと,ガラス管にはちゃんと差が示されま す.水の流量を多くすれば差も大きくなり,めで たし,めでたしなのですが,これにはもうひとつ 付録がございます.先ほどとゴム管を反対にして 出口側を蛇口につなぎかえますとどうなるでしょ うか.同じ流量を流しても,このガラス管の示す 高さは違っております.これは圧力損失で,実は 設計をする上で非常に大切なことです.可視化 情報学会で会誌の編集をやっておりました時に,
手作り実験で学生の前でやる実験を何人かの方に 書いていただきたました5–18).編集委員がそれ ぞれに自分のアイディアも入れたらと言うことに なり,これを載せました.
さてこのように見ますと,私は教育において実 験の必要性を主張したいと思います.自分で手を 下す実験を,今の大学,高校,中学,更には小学 校でどのようにしているのでしょうか.大学では ブラックボックスである実験装置が段々増えてお ります.勿論,悪いことではないのですが,原理 のわかからないまま測定をし,データを取るだけ の実験では面白いはずがありません.実は会社で も同じことで,この頃は装置をセットしておくと データを自動的に一定時間ごとに取ってくれ,グ ラフまで書いてくれます.ところが,実験の過程 をずっと見ていると,ポンと変わるところが時々 あるのですね.それは何か理由があって変わる.
勿論自動的に計測できることを決して否定は致し ません.でも物理的に何か変わったことがあるか もしれないという疑問,そういうことを思う心が ありませんと,実際の現象の大切さ・面白さを見 過ごしてしまいます.その他にも,計算機が現在 のように速くなかった時代ですが,円柱周りのカ ルマン渦の数値計算をするのに,対称物体ですか
らポイントを少なくするために半分だけ計算を して対称にすればいいと考えれば,カルマン渦は 出ません.似たようなことが,今でも学会でない とは言えません.これは実物を知らないからで,
やはり実験というものの必要性を非常に感じてい ます.そして私は現象の不思議,その現象が実験 を通して直接何かを語りかけてくる不思議を捉え る感性,さらにそれを面白いと思う心が大切であ ると思っております.
【森下】今日の題は表計算の利用ということで,
学校で実際にやっていること2)をお話したいと 思います.表計算というものは,皆さんたぶんエ クセルとかロータスは持っておられると思いま す.これらは,科学技術計算用に非常に機能が充 実している等々ございまして,テキストもいろい ろとでております.外国では90年代の初め頃か ら,日本でも数年前から沢山科学技術用に出てお ります.で,小学生がナビエ・ストークスの方程 式が解けるようなストーリーをお話したいと思い ます.例えば二次元のナビエ・ストークスですと 30分以内に理解させることができます.
今井先生がおっしゃった数学的な難しさは一切 ありません.四則演算のみでやるという立場で す.データ処理,統計,ベッセル関数も入ってお りますし,複素数,ベクトル行列計算,常微分方 程式や偏微分方程式,最適化も自動的にやってく れます.流体力学と言いますと,単純な表計算,
複素ポテンシャルの計算,それから解析解,二番 目が逆行列を使うとパネル法とかですね,渦格子 法とか揚力線形理論,それから繰り返し計算です が,ラプラスの方程式,ポテンシャル,オイラー ナビエ・ストークス,4番目のゴールシーク・ソ ルバーですと斜め衝撃波の計算とか,テイラー・
マッコールの解,それからデータ処理が乱流の解 析とか実験データとか何でも使えますので,是非 試してみてください.
学生に出している課題の例を幾つかご紹介申し 上げます.まず今学期やっておりましたzと1/z を表計算で描きなさいという課題です.表をその まま横をx,縦をyとします.z=x+iyという
表現はz=complex(x,y)と書けば,そのまま複 素数になりますので,これを1/zと書けば,いき なり表計算上に二重湧き出しが現れます.実部を 取れば速度ポテンシャルで虚部が流れ関数という のが実際に目の前で動きます.
それから簡単な計算の例としましては,プロペ ラの効率の計算をさせて,NASAの実験と簡単な 運動量理論が非常によくあいますという例です.
つまり,表計算では実験データと計算データを同 時に並べておいて走らせますので,非常に自信を もって学生に説明することが出来ます.学生の方 も非常に自信をもって答が正しそうっていうのが 分かるんですね.それからパネル法でも逆行列を 一回ひっくり返しますので,殆どプログラムを書 かなくても係数さえ与えればよい.等角写像法と パネル法を同時に走らせて,迎角を変えながら両 方がピッタリ合いますよという話を学生にやらせ ました.彼らはウンザリしていましたけれども,
半分くらいの人は2,3日で解けるということに なります.
ラプラスの式辺りから流体の先生方に興味があ ることかもしれません.例えばポテンシャルの 計算は5分もあればできます.同じ系統で粘性 流や衝撃波の問題も,実験とシート1枚で解くこ とができます.この中には逆問題もありますし,
圧力分布を与えて翼型を求める問題などというの も割合簡単に解くことができる.圧力分布なんて いうのも表がそのまま物理空間なので,そのまま 答えが出てくる.ちょっと難しくなってオイラー 方程式なんていうのも表計算でやらせることがで きます.手順が長く非常に面倒臭くなりますけれ ども,答もよく合いますし,ヤコビアンの時間変 化を見ながら解くということもできます.
今度は実験の例です.圧力を積分すると速度が 出るということを実験でやっています.ホットワ イヤーの信号が青で,赤の圧力信号を積分すると 逆流が検出されるというこういうような実験デー タ処理にも使うことができます.これは私が特許 出願中のもので,非接触で流速を求めることがで きます.
今の自動車用のエアフロセンサーはホットフィ ルムです.これは質量流量検出なので非常によい のですが残念なことに逆流が計れない.でも圧力 を測って運動方程式を一回積分しますと,自動的 に逆流検出するということも表計算でやらせるこ とができます.
実際にいろいろな分野で,振動,流体,電磁界 解析の本などがあります.いろいろ変わった使い 方もあって,自分たちはこういうふうに使えると 説明しています.小さな設計計算とか教育用に非 常に優れていると思います.
学生向けの課題はインターネットにはってあり ます3)ので,ボタンを押すとご自身のエクセル にポンと飛んで行きますので,お宅ですぐそのま ま使っていただくことができます.
ちょっと興味を持っておりますのが,小学生か らラプラスの方程式を解かせるというふうなこ とです.まとめとしまして,自分はあまり計算の 知識がないものですから,逆にこういうことを一 生懸命考えました.計算が思ったようにできる,
アニメーションも自動ですし,それから人に伝え る時に非常に容易です.中高年の人にとっても計 算処理が非常に楽しい.それから,これは私の強 い印象ですけれども,今井先生がおっしゃった初 学者の物理的な理解促進にかなり効き目がありま す.まずこういうことだということを理解してい ただくのに非常にいい.
ラプラス方程式の差分解を実行してみます.境 界で1,表面上物体ゼロと書いてありまして,入 り口と出口は無理やり一様流にしてあります.
計算の方は始まっています.この絵と数字を見 ていただきたいのですが,私が「F9」っていう繰 り返しバーを押すと,計算が行われてラプラスの 方程式が解けたということになります.この間5 分以下で皆その場で理解します.CとかFortran とかJavaで学生にコードを教えていると,たぶ ん半日経つと思います.
揚力線理論というのを学生にやらせてますが,
テーパー比を変える,迎え角を変える,というボ タンがあります.それを使って迎え角を変える
と,揚力係数が変わっていくというようなことを 目で見て理解できます.また何故飛行機の翼端に ねじり下げがついているかというようなことを,
教官も初めて知るわけです.13回の講義で毎回 これを出して,ほとんどの学生から解答を得て おります.こういうのをプログラムでやります と,3題くらいしか学期中に出来ないんですけれ ども,表計算でこんな問題ですと,1時間くらい で解いてしまう.
外国の方からコメントがありまして,「なんだ,日 本人はMathematicaもMatlabも使えないのか,
表計算なんてやっているのか」なんて言われま した.これは実は大間違いで,これは皆さんご覧 になられたように表計算はいつも生きています.
シンボリックコンピューティングのMathematica
とMatlabは,こういうふうには動かないんです
ね.もう一回走らせないと動きませんが,表計算 はインタラクティブですので,非常にいい面があ ります.以上でございます.
【有信】東芝の有信と申します.私は直接教育に はかかわっていないのに何でこんな話をするかと いいますと,最近何年間か実は技術者の資格の話 だとか技術教育の認定の話にかかわっていまし て,大学教育に対していろんな話をしろというこ とが時々あります.
最初に大学の卒業生に対して企業の経営者は一 体どんな期待をしているかということから話を始 めたいと思います.ビジネス・ユニバーシティ・
フォーラムという私的な団体で,産学の連係をど うしようかということを考えながら,数年前に 各大企業の経営者にアンケートしましたところ,
卒業生に対してはクリエイティブで柔軟性,即応 性,幅があって集団の中で責任感と倫理観を,し かもリーダーシップを発揮できて,なおかつ協調 性があって集団行動ができると,いう学生が欲し い.本当にこんな人がいたら,あっという間に会 社の社長になってしまうんじゃないかと思います が,どうも大企業の経営者は自分の後継者を求め ているんじゃないかなという議論になったことが あります.ただこういう人物像っていうのは非常
に矛盾しているんですね.実は機械学会のJSME News Letter4)っていうのに原稿を書けと言われ て,これをこのまま英語に直してネイティブに見 せたら,こんな馬鹿な話があるわけがないと即座 に言われてしまいました.英語にすると矛盾する 話が並んでいます.
これは最近の技術者に対してよく言われている ことをまとめたんですけれども,新しい事への意 欲的取り組みに欠けるというのが典型的な評価に なっています.未知の事象に対して現象の捕らえ 方がどうも浅い.それから判断が一面的である,
応用が利かない,あるいは抽象的なものから具体 的なものを想像するのが非常に苦手になってい る.これは方式を当てはめる問題に慣れすぎてい るんじゃないか,手作り,もの作りの習慣という ことの訓練がなされていないのではないかという ような評価になっています.
一方,学生は大学教育を一体どう思っている のだろうということで,会社に入って2年目と5 年目の社員に,大企業何社かにアンケートしまし た.そうすると,大学教育全般についてはまあま あ満足している.一般教育についてもまあそこそ こかなっていう感じです.ただ社会人文系につ いては半々,語学教育は殆ど役に立っていない.
専門教育はまあそこそこ役に立っているようだと こんなような感じなんです.実は「学生」といっ ても修士課程を修了した人がかなりの比率を占 めていましたけれども,一番印象に残っていて役 立っているのは卒業研究とか修士論文を書く時の 研究室での共同作業,人と人とのインタラクショ ンであって,その中で自分なりに考えたり教えた り教えられたり,こういう部分が非常に役に立っ た,印象に残っているし役立ったと思っていると いう結果が得られています.
では,アメリカと比較してみたらどうか.例え ば日本の大学のカリキュラムはどういうふうに変 化しましたかというのを,電気系のカリキュラム で97年と75年を比較したものです.これを見 ていただくと,共通科目の時間数が減っていると いうのと,電気系の中でいわゆるハイテク分野の
科目の時間数が増えているというのはお分かりい ただけると思います.自然なことだと思います.
実験演習については,この間殆ど何も変わってい ない.これをアメリカの大学と比較してみると,
共通科目についてはアメリカの大学の方が時間数 が多そうで,いわゆるハイテクの今注目されてい る分野については当然アメリカの方の時間数が多 い.ただ一番気になるのは実験演習という部分に ついて,アメリカの大学の方が東大と比較してみ ても倍以上に時間はかけているようです.
アメリカの学生は日本の学生に比べて相当厳し い学生生活を送っていますが,それが時間数によく 現れているという気がします.例えば日本技術者 教育認定機構JABEE(Japan Accreditation Board for Engineering Education)の分野別評価基準を 英訳する時に,教師というのをどう訳そうかとい ろいろ悩んで,instructorって訳しているんです.
これはアメリカに合わせるのにinstructorって言 うのが一番いいと.
教育と言う中でアメリカで教育という時に一 番よく使われるのはtrainingであって,education ではない.教育認定について卒業生に対して社会 の要求水準という言い方をすると,ある種の要求 水準を満たすような知識能力を身につけさせると いうのを一生懸命やっているのがアメリカの教育 らしい.日本の教育についてはカリキュラムの調 査というのを3年ほど前に通産省にお金を貰って やったことがありますけれども,どうもやはり学 問にこだわっていて,体系的な学問がきちっと教 えなければいけない,こういう強迫観念に捉われ ているというか非常にきちんとしたカリキュラム になっているわけです.教えるということに非常 に重点が置かれているような印象を受けます.こ れはもう当然ですけれども,アメリカの大学では 学生はCustomerであってCustomer Satisfaction とは何であるかという観点で学生に接している のに対して,日本の大学ではそこがちょっと気に なっています.
ここでちょっと話題を変えて,入社後,会社に 入った人はどんな仕事についていますかっていう
ことを見てみましょう.これは東芝の例ですが,
最初に入って大体10年くらいは殆ど自分の専門 を生かす職種についています.しかし,20年経 つともう殆どの人が専門分野を十分に生かさない 職業についています.従って,大学時代の専門教 育というのは非常に重要だし,それは20年以後 の仕事のやり方に大きく影響を与えるということ をよく考える必要があると思います.
実際に会社の中ではどういう観点で人材開発 をやっているかと言うと,要は自らが事を積極的 に処すことができて,そのために必要な知識をき ちっと持っていて,あるいはそれを自分で獲得で きてという方法でいけるのです.例えばこんな教 育体系を作っています.先ほどの例で挙げました ように,最初のうちは専門科目というか専門性が 非常に重要ですので,担当者ベースではそういう ふうに教育し,だんだん年を取るに従ってマネー ジャー教育が主体になるようにしています.
企業教育も今とても大変だと思うのは,今の技 術革新の早さに企業の内部で教師を集めて教育を することではとても追いつかなくなっています.
結局新しいものをきちんと役立つ格好で教えるた めには,具体的なケースに対して具体的な答を与 えるという事から一般的なケースに対して一般的 な答えを教える形に体系化されていなければ役に 立たないので,この部分はやはり大学に期待をし なければいけない.それからもうひとつ,新しく 進んでいる技術者資格への対応と言いましょう か,学生に対する教育の仕方についてもちょっと 考えなければいけないかなと思います.
もう一度戻って,会社の中で流体工学をやって いる部門の人たち(部長クラスなんで多少偏って いるかもしれません)に大学の流体工学教育にど んな期待をするかを聞いてみました.多少言葉は 違うのですけれども,結局最初に挙げました最近 の技術者はっていうことに対する裏返しの話に なるんです.自分で問題を見つけ出して解決する ために,知識として流体力学を持っているのでは なく,それが使える知識になっていて欲しい.そ れが使えるためには,やはり基礎的な学力があっ
て洞察力がある程度鍛えられていて欲しいよう です.
現在技術者資格の相互認証と言う事が一方で 進んでいます.これはいろんな言い方がされて いますけれども,基本的にはGATTがWTOに 改称された時に,GATS(General Agreement on Trade in Services)といって,人の提供するサー ビスに対する非関税障壁をできるだけ取り除き ましょうというものです.その一つとして各国 が持っている様々な職業資格(例えば弁護士,医 者など)をできるだけ相互認証しましょうという ことで,技術者資格についても各国の相互認証の 動きが出ています.特に日本はAPECを中心に APEC Engineerの形で技術者資格を相互認証す ることで話が進んでいます.その時に基本的に重 要なのは,ある種のエンジニアリング課程の修了 というのがエンジニアの条件にされていますし,
継続的な能力開発の実施が条件になっています.
その過程の条件になっている修了のレベルを,ま た相互に決めなければいけないので認定機関が必 要になって,日本に認定機構ができて,それがま た相互に認定というレベルで,技術者資格ではな くて教育の認定というレベルで相互に認め合いま しょうという,非常に錯綜した構造で物事が進ん でいます.
日本の技術者教育の認定基準で何を考えていま すかということで,基本的に知識とそれらを応用 できる能力ということにポイントが置かれてい ます.
従って,知識を知識として教えるだけでは基本 的には技術者を育てていることにはならないの が一番基本的な考え方になっていて,ここで相互 に認定の認証もやろうとしています.基本的には 最初に今井先生がおっしゃった「人を見て法を説 け」という事にもつながるんですけれども,人を 見て法を説く時に,人を見て法を説くよりは,も う一段,人を何とか法を説けるようにして欲しい というのが私たちの期待です.
自分でも流体力学の勉強をして本当に流体力学 を勉強して良かったなという気がしてます.特
に流体力学の中にはいろんな要素が入っていて,
何か問題にぶつかると,例えば一次元,二次元,
三次元で現れ方が違うし取り扱いが変わってくる んだっていう問題だとか,例えば元々楕円型の方 程式のものが,ある場合には放物型になって,あ る場合には双曲型になったり,そういう全く現象 として違う取り扱いの問題ができたりする.ある いは,同じ連続体でも流体の構造体が練成すると 基本的な練成の構造が変わってきてしまうとか,
非常に魅力的に様々な現象が現れてきます.
そういうところの面白さが分かるレベルまで教 えるにはどうしたらいいかというのが問題かなと 思っていますし,これはちょっと難しい話ですけ れども,最新の成果をできるだけ,やはり学問と して体系化してということを是非やって欲しいな と思っています.それから,やはり問題解決のト レーニングということに重点をおいて,流体力学 というのは本当に教えるのは難しいというのが私 の実感です.
【中山】5人のパネリストの方に話題提供をお願 い致しましたけれども,提供していただきました 話題に関して,ご質問があればここでお受けした いと思います.
【質問】東大吉澤です.実は25年ぐらい前に,流 体力学会の前身であります流体力学懇談会でもこ の種の会が開かれたと記憶しております.その趣 旨は学生さんの学力低下ではなく,流体力学をや る人が減っているのではないかという危惧から,
流体力学の教育をどうすべきかというものだった と思います.
その時の論調が今日とよく似ていて,流体力学 は数学を多く使ってむずかしい科目であるという ことが基調にあったと思います.流体力学は数学 を多く使いますが,電磁気学,熱力学,工学の材 料力学等も相当数学を使うと思います.流体力学 の教育で困る点があるのは,流体力学で数学をた くさん使うことより,理工学の基礎的科目の教育 に共通した問題ではないでしょうか.本日の会の 考え方の出発点としてこの点に関しましてご意見 をいただければありがたく思います.
【今井】流体力学が一般の関心を呼ばないのは単 に数式に頼りすぎるからではなくて,例えば他の 材料力学や電気関係に比べますと,私には良くわ かりませんが,材料力学が流体力学に比べてずっ と面白いでしょうか.面白くないという点では同 じでしょうね.(笑)つまり,流体力学というの はやはり物理現象,それから当然工学方面に応用 されるわけですから,物理現象の基本であること は,いつの時代でも同じだと思うのです.
この 流体力学を考える という趣意書の中で 読んだのですが,例えば力学は電気,波に続いて 最後に教えられることになっている.これは非常 に嘆かわしいことだと.これは私も同感です.実 は力学や流体力学は電気や波よりも前に来るべき ものです.つまり,実際現象の本質というのは,
やはり一番古いだけあって力学が基礎で,力学が わからなければ全ての物理現象は理解できない.
ところが,今では力学は運動方程式を解くことだ というような教え方になっている.私は力学の エッセンスは運動量保存の法則だと思うのです.
近頃,私は岩波の『科学』に連載19)で力学と電 磁気学を書いているのですが,例えばいわゆる連 続体力学の場合でも,やはり運動量保存の法則が 基礎であって, 力 とは運動量を吸収すること だと強調しています.
応力というのもやはり非常に教えにくかった し,学生諸君も応力は良くわからないということ でした.今考えてみますと,私自身もよくわかっ ていなかった.現在では応力は,要するに 運動 量の流れ であると説明します.例えば応力を説 明するのに,物体の中にある面を仮想してその両 側の及ぼしあう力によって応力を説明していま す.この考え方自身が実は応力を理解しにくくし ているのではないでしょうか.簡単に,運動量が 流れている状態が応力であるといえばよい.運動 量の流れが強い場所がいわゆる応力集中の点で す.要するに運動量なるものが本質的であって,
それを吸収したり放出する場合に力が働くとい い,流れている場合に,物体は応力状態にあると いう.その概念さえ掴めれば,ある意味で力学は
よくわかったといえると思うのです.それを理解 するだけなら,必ずしも数式を使う必要はありま せん.
そういう意味で,まず自然現象については運動 量とエネルギーの保存,それから力学では質量の 保存をしっかり頭に刻み付けておく必要があり ます.次にそれを数式で表す.例えば運動量保 存の法則を式で表せば,質点の場合には常微分方 程式,つまりニュートンの方程式になるし,流体 の場合にはナビエ・ストークスの方程式になる.
このように数式で表せば定量的に扱い易くなる し,結果も明確になる.その意味で,数学はやは りやらなければなりませんよと学生に教える.た だし,それに先立ってそもそも流体の運動という のは何かというイメージを持つことが大切です.
そのためには,そんなに難しい実験装置を使わ なくてもやれることはいくらでもあるわけです.
例えば,揚力の理論ですが,風呂に入った時にプ ラスチックか何かの丸い棒を回転させながら湯 の中で放してやると,まっすぐ下に落ちないで斜 めに落ちて行きます.これは揚力の非常に簡単 な例です.それから今日もお話がありましたが,
例えばコーヒー茶碗の中での水の運動,例えば渦 ができるとか,あるいは茶かすが茶碗の底の真中 に集まるとか.これは境界層の現象です.そんな に大袈裟な実験ではなく,自分でスプーンを動か して,流れを観察するだけです.これこそ流体現 象のイメージを身につけることだと思います.
要するに流体力学というのは,何と言っても自 然現象の根本です.もしこれに興味がないなら,
それは自然現象に興味がないことになるぞと,学 生を説得する.それで説得する材料としては,や はり身の回りの現象とか,あるいはテレビの天気 予報の台風とか気圧配置,雲が出来るなどは確か に見てすぐわかるわけです.もう一つ強調したい のは,心眼でものを見ることです.つまり,ただ 目に映る,肉眼で見る,だけではなくて,いろん な映像を見た時に,心眼によってその本質を想像 するというようなことです.
【中山】最近の高校数学に証明問題が無くなって
しまったそうです.そのため,今の学生は覚えた 公式を使って問題を解くことはできるけれども,
幾つかの公式を組み合わせて思考を展開していく とか,あるいは推論していく訓練が,それこそト レーニングができていません.
私が学生の頃は,高校で1変数関数のテイラー 級数というのは習ったんですが,今は高校のカリ キュラムからはずされております.大学へ入らな いとテイラー級数というのは一切出てきません.
ところが,流体力学の入門書を見ますと,未だに 連続の方程式とかそれから実質微分の計算など にテイラー級数が出てきます.1年生で習ってま だ消化が十分にできていないところで,2年生に なっていきなり高度なテイラー級数の応用が出て きてしまい,彼らは相当なカルチャーショックを 受けているのではないかと思います.そういう大 学入学前に知っていて欲しいと思うものが大学に 持ち越されてしまっています.
もう一つは論理的な思考をする訓練が全く出来 ていません.そういうところで流体力学という のが一番痛手をこうむっているのではないかと いうことで,このような企画を考えてみました.
材料力学でも熱力学でも同じような問題が指摘さ れているのではないかと思います.
【橋本】平成13年度から実施される新学習指導 要領の物理カリキュラムが変わる予定です.そ こでは力学が一番最後に教えられることになっ ています.私は旧制の高校の力学というのは一 番最後の3年で教えられました.それまでに物 理やってきているという前提があったわけです.
そういう意味では,中学校の教育から変えないと いけないのではないかと思います.
やはり流体力学というのはいろんなところで出 てきているわけです.昔の文学作品などを見まし ても,波の話や気象現象の話がちゃんと入ってい ます.そういうのを復活させないといけないん じゃないか.例えば,荒城の月など小学校の唱歌 から廃止しようとか,五七五という体系の中で自 然現象を覚えるとか.今の歌謡曲のような,非常 に難しいような言葉で覚えさせるよりも,分かり
易いような言葉で,小学校の時代からそういうこ とをやらせる.お料理の番組などでもちゃんと流 体力学入っているわけですから,基本的には流体 というものに対する理解が深まってくると思いま す.そういう意味でも小学校の時代からもう少し 環境も工夫していかなければならないと思ってい る次第です.
【中山】まずお客様である学生を満足させるよう な流体力学の教育を行うにはどうしたらいいのか ということと,企業が受け入れて満足するような 卒業生を生み出すにはどうしたらいいのか,その 二つの線で考えて見たいと思います.
学生を満足させる流体力学というのはやはり学 生が流体力学は面白いと言えるようなものでなけ ればいけないと思います.先ほどのパネリストの 方々のお話を伺っておりますと,やはり現象を見 ることが重要であるというお話がございました.
そこで,大島様にお伺いします.流体実験を教 育の中に実践する場合に,今の大学のカリキュラ ムですと,学生実験の中で流体実験のコマを増や すということはかなり難しいと思います.そうす ると,授業をしながら目の前で実験をしてみせる ということが重要になってくるように思います が,その点で何かお考えがありましたら,お聞か せいただけないでしょうか.
【大島】先ほど速度と圧力が相互に関係している ことを示す,ベンチュリー管のお話をいたしまし た.実はその元とは,東海大学の谷田先生が学生 に講義の際に教師実験をなさっていて項目を見せ てくださったのです.いろいろ学問的・流体的に も面白い話題がいっぱいありましたので,可視化 学会誌の可視化情報に書いて下さいとお願いし,
3回に分けて連載としました.その一つとして私 が書いたものです.
流体力学というと勿論研究の面では非常に大き な装置,風洞などが必要ですが,やはり面白いな と思う心というのは,コップの中では学問的では ないかもしれませんが,そのコップをレコードプ レーヤーのターンテーブルの上にのせるだけで 随分いろんなことができます.私は先生方がそ
のような現象を面白いと思う心も大事だと思い ます.ただし,大学の先生はなさりたいと思って も,やはり15回の時間の中で実験をするのは大 変です.また何人かの学生は面白いと思って見 ますが,ちょっと見せたくらいでは皆が面白いと 思わないでしょう.講義後装置をおいておき,興 味のある学生は自由に触れるようにして2回に1 回くらい,最後の10分くらいを見せるのでは如 何でしょうか.実は今でもお茶の水大学で時々話 をしておりますが,学生は非常に熱心に見てくれ ます.準備に時間もかかりますが,それを先生方 がなさらないのではないでしょうか.またいく ら実験をしても,それを全部の学生が面白いと思 い,その方を向いてくれるとは限りません.ただ 一人でも二人でも面白いと興味をもってくれたら よいと思います.
【中山】流体力学を教えていらっしゃる方は,皆 さん授業中にちょっとした実験をやってみたいと 思ってらっしゃると思いますが,日本には研究用 の実験の手引書というのは出版されていますが,
残念なことに教育用の実験の手引書というのは あまりありません.可視化情報学会の学会誌に,
毎回先生方が書かれた記事が載っているのはあり ましたけど.
【大島】谷田先生が3回,昨日技術賞受賞の木村 先生が4回,山下先生が2回とシリーズで掲載 し,その間に「試してみました」「私のアイディア」
として私も含め何件かの投稿ものせました5–18). 皆様喜んでくださり,好評でした.
【中山】今度は森下先生にお伺いします.先生の 考案されたエクセルによる流体力学は,どういう 授業の中でなさっているんでしょうか.
【森下】全部,講義を表計算でやっております.
【中山】流体力学の講義で使われているのですか.
【森下】各テーマに対して,表計算をつけた講義 ノートと例題をインターネットにはっています.
【中山】学生の反応はどうでしょう.
【森下】学生には無理やり食べさせています(笑). 13回レポート出させまして,13回の講義で.か なりキツかった様です.昔だったら多分学位論文