第74巻 第4号,2015(487〜490) 487
視 点
小児医療政策に関して一言
衛藤義勝1・2)
わが国は現在少子化が急激に進行している。国は 図1のような少子化対策を打ち出しているが,少子化 には歯止めがかからない。今年度の子どもの特殊出生 率は1.42で多少維持しているが,2014年度の子ども出 生数は100万人で,次年度以降100万人を切る勢いであ る。少子化対策には総合的な女性,母子に対する対策 が必要であり,また未婚男子,女子も増えていること は,子育てのすばらしさ,家庭のすばらしさを実感し ない限り,また社会全体の幸福度を上げない限り,人 口増加は期待できない。
また年々男女の生涯未婚率は増えており,男性は 24%,女性15%も生涯未婚である。これは社会的な 原因は何に起因するか,これも解決すべき問題であ
る(図2)。
未婚化が単に人口の老齢化ばかりではない。経済的 側面がかなり大きく,男性は家庭を維持できるほどの 収入がないことにも起因する。
私は15年前に日本小児科学会会長を4年間やらせて 頂き,既に当時少子化対策は国の重要課題として取り 上げられていた。私は小児科学会で既に10項目の重点 課題を挙げて小児医療政策に取り組んできたが,その 後会長を辞し,11年前に日本小児医療政策研究会を立 ち上げ,厚生大臣を初め,少子化,小児医療対策に精 通した国会議員に参加して頂き,国を挙げての母子医 療政策を進めていくことを目的に活動を続けてきた。
そこで,わが国の小児医療政策の重点項目としては以
下10の課題を挙げて,このうち問題点を幾つか提言し
たい。
1)少子化対策一子育ての経済的支援働く女性の環 境整備
2)子どもの貧困化一片親の支援体制,経済的支援 3)小児医療提供体制一小児救急体制の整備,地域で の母子救急体制整備
4)子どもの心の問題一現場体制の整備 5)虐待防止,不登校の防止
6)子どもの難病患者への支援体制の整備一経済的,
環境整備
7)子どもの健康,福祉の増進一予防接種自己負担ゼ ロ,子どもの医療費ゼロ作戦
8)保育環境の充実,待機児童ゼロ作戦一こども園の 増設(保育所,幼稚園統合)
9)小児科医のQOL向上(小児科医不足に対する対
策)
10)母子保健の充実のための母子保健省の設立 重点項目10項目のうち特に最近問題になるのは,わ が国の子どもの貧困化である。現在貧困率はデンマー
クが1位で一番少ないが,日本はOECD内で19位で あり韓国より貧困率が高い(図3)。年々貧困率は上 昇傾向にある。厚生労働省の調査では2014年の「子ど もの貧困率」は16.7%となっており,約6人に1人が 貧困状態である。毎年その数は増えている。貧困率と は,18歳以下の子どものうち,一般的な水準の半分に
AProposal for Pediatric Politics Yoshikatsu ETo
1)一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療研究センター長 2)東京慈恵会医科大学名誉教授
別刷請求先:衛藤義勝 一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療研究センター 〒215−0026神奈川県川崎市麻生区古沢都古255新百合ケ丘総合病院内 Tel:044−322−9991 Fax:044−966−Ol33
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488 小児保健研究
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2011.729 少子化社会対質会栖決定 子ども・子育て新システムに関する 中聞とりまとめについて
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図1 わが国の少子化対策の歴史
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(注)生涯未婚率とは,50歳時点で一度も結婚をしたことのな い人の割合であり,2010年までは「人口統計資料集(2012 年版)」,2015年以降は「日本の世帯の将来推計」より,
45〜49歳の未婚率と50〜54歳の未婚率の平均である。
図2 生涯未婚率の推移
も満たない水準で暮らしている子どもたちがどれだけ いるのかということを指している。国際的に見ても子 どもの貧困率は日本はワースト9位であり,米国に次 いで世界2位である。ここ数年で社会格差が増え,貧 困率は上昇傾向にある。子どもの貧困率 上昇 の根 本的な要因は,非正規雇用などの低所得層の拡大だと 考えられる。しかも,女性よりも男性の雇用問題だと 考えられる。また離婚率の増加でシングルマザーの増 加が子どもの貧困率をさらに上げている。母子世帯の 平均年収はわずか181万円であることも,貧困率に拍 車をかけている。このような貧困率の増加により子ど
もの学力の低下,子どもへの虐待,不登校,子どもの 不良化,中学生などの援助交際薬物中毒,十代の出
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(1)子どもの貧困率
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図3 相対的貧困率の国際比較(2000年代半ば)
産などさまざまな社会問題を引き起こしている。この ように日本における貧困率の増加は今後社会での大き なひずみとしてさまざまな問題を引き起こしている。
このような状況下小児科医はこの非常に重要でか つ,大きな社会問題の根源をどのように改善し,取り 組む必要があるか,単に小児科医だけの力ではどうし ようもない問題である。行政,政治家,教師,保健師,
心理士,医師などが連携すると同時に,貧困家庭への 経済的,教育的支援,母子家庭への支援,非正規職か ら正規社員の雇用形態の確保等経済的な社会構造の改 革が必要である。現在政府は子どもの貧困率を改善す るための幾つかの施策も進めているが,改善の気配は なく,逆に増加傾向にある。子どもの貧困率を改善す ることは,すなわちわが国の構造改革にある。少子化 対策とも密接に関係する。格差の是正,母子家庭の支 援,正規社員雇用の推進学校教育現場での改革,学 校一保健師一心理士一医師一行政一政治家との連携体
制の整備,社会での子どもを大切にする運動,社会理 念の確立などさまざまな対応が必要であろう。特に経 済対策が,より安定し,健康な社会作りに貢献する。
その中で小児科医が日常どのように貧困家庭の子ども たちを支援できるか,健全に発展する社会の構築に向 け,大きな国民運動として盛り上げる必要があり,小 児医療政策の重要課題である。
ところで全国で日本小児科学会に加入している小児 科医は約2万人で毎年少しずつ増えているが,開業医 の先生が増えて,病院小児科医は減少傾向にあり,そ のため,小児救急体制は厳しい状況にある。また小児 科医の全国分布では地方での小児科医はとりわけ少な い。このような状況で,どのような小児救急体制を維 持し,構築するかは各自治体が小児医療を集約化する うえで更に普遍性のある体制構築が必要である。小児 科医のQOL向上も含め重要な課題である。図4にみ
られるように全国小児科医の分布であるが,県により Presented by Medical*Online
490
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図4 小児科医の10万人(15歳以下人口)の各県の分布
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口実施 出典:厚生労働省資料
注:本資料に記載した地図は,わが国の領土を網羅的に記した ものではない。
図5 #8000の全国展開状況
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図6 子どもの虐待件数の増加
小児保健研究
かなり小児科医の人口当たりの分布は異なり,地区別 でかなり差がある。たとえば人口10万人当たりの小児 科医数は岩手県が一番少なく徳島県が一番多い。
15年以上前から日本小児科学会が中心に子どもの救 急の電話相談を開始し,#8000として全国的に広がり,
非常に役立っているがまだ深夜帯で施行されていない 県が多い。これも改善事項であるが(図5)電話相談 はけっこう現場では役立っている。
次に母子医療の問題で注目すべき問題は子どもの虐 待である。毎日のように子どもに対する虐待死などが 報道され,杜会問題となっている。政府は本気でこの 問題に取り組んでいるのかなと思うことが多い。虐待 の基本的要因には,①保護者の問題(夫婦不和,経済 環境その他),②子育て放棄の心理的問題,③環境 因子,④子どもの障害など多様である。
この10年間で6倍近く確実に毎年増加している
(図6)。毎年100名弱の子どもが虐待により死亡して いる。虐待者の半分は実母が多く,実父は1/4程度で,
やはり母親の精神状態が大きく影響している。虐待を 感知する機構相談など社会の相互扶助の体制が未然 に虐待を防止できる。特に小児科医は日常診療の中で 子どもに対する虐待を早く認知すると同時に,医学生 に対する教育現場あるいは救急医療現場での虐待を見 抜く医師の教育,更には行政との連携を深める体制が 重要で絶えず声を大きくして,社会での認知を進めて いく必要がある。
最後に子どもに関わる10の政策提言をしているが,
このうちこれらの子どもに関連する問題を行政一医療 従事者一子ども・家族一学校と連携した社会体制の構 築,またそれを支える社会環境の整備経済的支援な
どが重要である。社会のひずみは必ず子どもへのしわ 寄せとして現れる。アフリカ,アジアの子どもたちの 貧しさは戦争,疫病に多くは起因する。健全な社会,
幸福な社会,豊かな社会環境作りが子どもを幸福にし,
安心して子どもを産める環境となる。短絡的な施策で は少子化対策は成功しない。政府は少子化対策を過去 20年続けてきたが効果は少ない。さてわれわれ小児科 医はどのような取り組みをするか。地道に行政一学校 と協力して進めると同時に社会を動かし,行政を動か し,国を動かすための情熱が必要。個人の発想を通じ て社会を動かす仕組みを知れば道は少しずつ開けると 信じたい。
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