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Financial Competency Assessment Tool(FCAT)の作 成と検討:信頼性と妥当性の検討

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(1)

Financial Competency Assessment Tool(FCAT)の作 成と検討:信頼性と妥当性の検討

著者 櫻庭, 幸恵, 熊沢, 佳子, 松田, 修

雑誌名 東京学芸大学紀要. 第1部門, 教育科学

巻 55

ページ 131‑139

発行年 2004‑02‑27

その他の言語のタイ トル

The development and examination of the

Financial Competency Assessment Tool(FACT) : a study of the reliability and validity of the FCAT

URL http://hdl.handle.net/2309/2114

(2)

1.問題と目的

アルツハイマー病をはじめとする痴呆疾患や,統合 失調症などの精神障害を有する人の,社会生活能力の 障害に対する援助の重要性が指摘されている

.

社会生 活能力の障害に対しては,自己ケア能力の向上を支援 するために,生活技能や対処行動の教育や開発に焦点 が当てられている。さらに,認知機能上の障害を見き わめ,それを補完する技能を個人が取得することが,

援助の目的とされている(5)

社会生活能力には様々な側面があるが,今日の社会 においては自己の金銭を適切に管理する能力の有無

,

自立した生活を営む上で特に重要である

.

しかし,

個人が地域で生活していく上で必要である金銭管理能 力についての研究は数少ない。

金銭管理能力には,金銭の計算といった計算能力,

日常の買い物や金融機関を利用する力から,自己の収 入や財産に関する知識,先の見通しを立て計画的に金 銭を使用する力,自分の金銭を守る力といった判断能 力までが含まれると考えられる。しかし,現在の金銭 管理能力評価は,包括的な社会生活機能の評価尺度に おいて,大まかな金銭管理能力の把握にするにとどま っている。

そこで,本研究では,個人が地域で自立した生活を 行うために必要な金銭管理能力を、詳細に把握するた めの,金銭管理能力評価尺度(Financial Competency

Assessment Tool:FCAT)を作成し,その信頼性と妥

当性を検討した。

2.対象と方法

本研究は

19

歳から

88

歳までの男女

142

人(平均年齢

54.75

歳,

SD=20.39

)を対象とし,1対1の面接形式 の調査を行った。

対象者は,健康な健常群

80

人(平均年齢

44 .00

歳,

SD=20.39

),probable ADと診断されたアルツハイマー 病群(

Alzheimer’s disease

;以下

AD

群)

33

人(平均年

78.30

歳,

SD=5.06

),統合失調症(従来の精神分裂 病)患者群(schizophrenia;以下SZ群)

20

人(平均年

58.05

歳,SD=5.77),感情障害,非定型精神病など のその他の精神疾患患者群(以下その他群)8人(平 均年齢

58.12

歳,

SD=7.88

)で構成された。表1に,群 別の平均年齢,男性,女性の人数,教育年数等人口統 計学的変数を示した。

全ての対象者に,書面に基づき研究目的を説明し,

同意を得た。

3.検査・調査内容

.

1 人口統計学的変数

.

2 

Financial Competency Assessment Tool (FCAT)

今回,筆者らは金銭管理能力を「人が自らの金銭や 財産を計画的,合理的,かつ適切な方法で管理する能 力である。」と定義した。また,金銭管理能力には,

宣言的な金銭や財産に関する知識,手続き的な金銭や 財産に関する知識,判断的な金銭や財産に関する知識

Financial Competency Assessment Tool(FCAT)の作成と検討:

信頼性と妥当性の検討

櫻庭 幸恵*・熊沢 佳子**・松田 修***

心理臨床

2003

10

31

日受理)

* 成増厚生病院リハビリテーション部(前所属 東京学芸大学大学院教育学研究科)

** 相模ヶ丘病院(前所属 東京学芸大学大学院教育学研究科)

*** 東京学芸大学(184-8501 小金井市貫井北町4-1-1)

(3)

東 京 学 芸 大 学 紀 要 第1部門 第

55

集(

2004

の3つの要素が含まれていると考えた(10)

この定義に基づき,既存の社会生活機能(11)や道具 的日常生活動作能力(

Instrumental Activity of Daily

Living:IADL)評価尺度

(4)を参考に,上述の3つの要

素が含まれる金銭管理能力を測定するツールとして,

Financial Competency Assessment Toolを作成した。

FCAT

では,6領域の能力が評価され(①基本的金 銭スキル,②金銭概念,③金融機関の利用,④物品購 入,⑤金銭的判断,⑥収支の把握),各領域得点と,

合計得点を算出し,全体的なプロフィールを把握でき るようになっている。

領域1の「基本的金銭スキル」には,硬貨や紙幣の 呼称や価値の判断,硬貨と紙幣と用いた計算,文章題 の四則演算に関する課題が含まれている。

領域2の「金銭概念」には,銀行,年金など知識に 関する課題が含まれている。

領域3の「金融機関の利用」では,引き出し用紙へ の必要事項の記入や,自動現金預払機(ATM)の使 用が正確にできるかを評価する。これらは,手続き的 な知識の評価にあたるため,できるかぎり,現実の場 面に即したものとなるよう工夫した。引き出し用紙の 記入では,実際に銀行で使用されている引き出し用紙 に類似した用紙を作成し用いた。自動現金預払機の使 用では,パーソナルコンピューターで模擬画面を作成 し用いた。

領域4の「物品購入」では,検査者が販売員になっ て,対象者に特定の物品を購入するように教示する。

ここでは,対象者が,用意された金銭を用いて,指示 された物品を,正確に代金を支払い,購入できるかを 評価する。

領域5の「金銭的判断」は,ある状況を呈示し,そ のような状況下でどのようにするかを問うものである。

具体的には,家電の買い換えやローンの計画の際,ま た,詐欺の危険の抽出や借金を申し込まれた際に,合 理的な判断ができるか否か等を評価する。ここでは,

言語的な記憶力の影響をできるかぎり除外し,金銭的 な判断を評価するために,設問はボードに印刷して教 示した。

領域6の「収支の把握」では,対象者が自らの収入

や定期的な支出額,収入源などを,どの程度把握して いるかが評価される。

FCAT

の作成の際に参考にした既存の尺度とその内 容を以下に記す。

アメリカ合衆国で作成された精神障害者のIADLを 評価するKohlman Evaluation of Living Skills (KELS)(8

12)を参考にした。

KELS

には収入源や月々の生活費の 内訳を問うような項目と,検査場面での対象者のパフ ォーマンスに基づいて評価する項目によって評価され るものである。(1)物品購入の際のお金の使用,(2)収 入の獲得と維持,

(3)

食費の予算,

(4)

月々の収入の予 算,(5)銀行の利用,(6)請求書の支払いの6つのリビ ングスキルが含まれている。

また,アメリカ合衆国で作成されたアルツハイマー 病患者の金銭や財産の管理能力を評価する,

Financial Capacity Instrument (FCI)

(9)を参考にした。FCIには,

基本的な金銭スキル,経済的な概念の知識,現金取り 引き,小切手帳の管理,銀行の決算報告の管理,経済 的判断,請求書の支払い,個人的な財産知識の8領域 が含まれている。

これらの尺度には,小切手帳の使用や,銀行の決算 報告などアメリカ合衆国での金銭管理に関する一般的 な行為が含まれていたので,日本の文化的背景,社会 的背景に適合するよう,独自に作成した。また,個人 の収支の把握については,横浜生活あんしんセンター で使用されている簡易能力判定シート(17)を参考にし た。

.

3 行動観察式金銭管理能力評価尺度

(Observational Rating of Financial Competency;

ORFC)

今回,上述のように,筆者らは,金銭管理能力を,

「人が自らの金銭や財産を計画的,合理的,かつ適切 な方法で管理する能力」と定義した。そして,既存の 社 会 機 能 評 価 尺 度(1 1)や 道 具 的 日 常 生 活 動 作 能 力

(Instrumental Activity of Daily Living

IADL

)評価尺度

(4)などを参考に,金銭管理能力を第3者が評価する行 動観察式金銭管理能力評価尺度(ORFC)を作成した。

これは,

10

項目からなり,金銭の計算から,日常の 買い物,金融機関の利用,印鑑や通帳の保管,公共料 表1 対象者の説明

平均年齢(歳)

(SD)

男性(人) 女性(人) 平均教育年数

(SD)

全対象者(N=142)

54.75 (20.39) 74 68 12.65 (3.12)

健常群(N=81)

44.00 (18.95) 33 48 13.88 (2.84)

AD群(N=33) 78.30

0(5.06)

15 18 10.50 (2.97)

SZ群(N=20) 58.05

0(5.77)

19

01

11.42 (2.27)

その他の精神疾患群(N=8)

58.12

0(7.88) 07 01

11.38 (2.39)

(4)

金の支払い,資産の管理などについての項目が含まれ ている。

ORFCの併存的妥当性の検討のために,外的基準と

して包括的質問「金銭や財産の管理を自分でできる」

を加えた。

以上の

12

項目に対して,対象者の日常の金銭や財産 管理の様子を,健常群には本人に,AD群には主たる 介護者,SZ群,その他の群には病院職員に回答を求 めた。回答は,「1.助言や援助があっても全く出来 ない」,「2.助言や援助があってもほとんどできない」,

「3.助言や援助があっても,あまりできない」,「4.

助言や援助がなくても,ある程度できる」,「5.助言 や援助がなくても十分できる」,「9.記載された事柄 を行う機会がない」,の6件法であった。回答された 1から5までを加算し,合計点が高いほど,日常生活 で金銭管理ができていると判断される。また,記載さ れた行為を行う機会がない場合は,その行為をできる かできないか不明であると考え,合計点に加算しない こととした。

参考にした既存の評価尺度,項目を以下に記す。

わが国で作成された精神障害者社会生活評価尺度

LSMI/life Assessment Scale for the Mentally Ill

(6)の,

日常生活の領域から,以下の4項目を参考にした。金 融機関(必要に応じて,郵便局や銀行を自分で問題な く利用できる),社会資源の中の買い物(必要なもの を適当な店を選んで,自分で探して買うことができる),

大切なものの管理(財布や印鑑など大切なものを滅多 に無くしたり,忘れたりしない),金銭管理の自己管 理(金銭の計算と計画的な使用ができる)の項目を参 考にした。日本版

Life Skills Profile (LSP)

(3)からは,身 辺整理の中の1項目(必要なときには収入に合わせて 予算を立て,生活できますか)を参考にした。

また,痴呆性高齢者を対象に我が国で作成された,

社会生活機能評価尺度(11)の経済活動の下位尺度から 以下の4項目を参考にした。土地や建物の権利書等の 不動産や財産の管理についての項目,請求書の支払い についての項目,金融機関での用事(振り込み,引き 出し,預貯金等)についての項目,食料や雑貨など,

日常品の買い物についての項目を参考にした。

3.4 Mini-Mental State Examination (MMSE)

60

歳以上の対象者の痴呆のスクリーニングには,日 本版

MMSE

(14)を用いた。

MMSE

は簡便な認知機能検 査である(2)。第1問から5問までが言語性テスト,第 6問から第

11

問までが動作性テストとなっており,全

11

項目で構成されている。最高得点は

30

点で,

23/24

をカットオフ値とするとき最も痴呆の検出力が高いと

いわれている(14)

MMSE

の合計点が

20

点以下のもの は,痴呆,せん妄,分裂病様感情障害の可能性が高い としている(2)

MMSEは国際的に広く使用されており,わが国でも

痴呆のスクリーニング及び重症度の評価尺度として用 いられている。しかし,

MMSE

の得点は加齢と教育年 数の影響を受けるという研究報告があり(1.15.16),8年 以下の教育歴と

60

歳以上の高齢者への検査結果は得点

23

点以下であっても解釈に注意が必要であると指摘 されている(7)

4.結 果

.

1 

ORFC

の信頼性と妥当性

ORFCの信頼性係数は,Cronbachの係数により算出し

た。全項目のCronbachのα係数はα=.90であった。次 に,

ORFC

の妥当性を検討するために,

ORFC

の合計 得点と外的基準である包括的質問との相関係数を算出 し た 。 そ の 結 果 ,

ORFC合 計 得 点 と 包 括 的 質 問 の Spearmanの相関係数は, 0.72

(p<0.01)と有意であっ た。

.

2 

FCAT

の信頼性と妥当性

.

.

1 

FCAT

の信頼性 4.2.1.1 内的整合性

表2に示すように,領域2の「金銭概念」でα

=.52

領域5の「金銭的判断」でα

=.72

であったが,その他 の領域及び合計得点では.80以上の高いα係数が得ら れた。

.

.

.

2 評価者間一致率

表3に示すように,

FCAT

の各課題に対する

Cohen

のκ係数は.81

1.00

であった。

4.2.2 FCATの妥当性

.

.

.

1 

ORFC

を外的基準とした基準関連妥当性 表4に示すように,すべての領域得点及び合計得点 において,ORFCの合計得点と有意な正の相関がみと められた(p<.01)。

表2 FCATの信頼性の検討(n=136)

領域 下位尺度

(Cronbachのα係数)

領域1 「基本的金銭スキル」

0.87

領域2 「金銭概念」

0.52

領域3 「金融機関の利用」

0.83

領域4 「物品購入」

0.88

領域5 「金銭的判断」

0.72

領域6 「収支の把握」

0.91

合計得点

0.94

(5)

東 京 学 芸 大 学 紀 要 第1部門 第

55

集(

2004

.

.

.

2 スクリーニング検査としての妥当性 表5に示すように,ORFCの包括的質問項目「金銭 や財産の管理を自分でできる」への回答を外的基準と し,

20/21

をカットオフ値に設定すると,感度は

.82

特異度は.88であった。

.

3 

FCAT

の記述統計 4.3.1 FCATの得点分布

各群のFCATの各領域,合計得点,標準偏差、最大 値,中央値,最頻値は,表6に示した。

.

.

2 

FCAT

の通過率

全対象者と健常者の各課題の通過率は,表7に示す 通りである。

.

.

3 人口統計学的変数との関係

表8に示す通り,FCAT得点各領域及び総合得点と 年齢,教育年数との有意な相関が認められた(p<0.01)。

表3 FCAT項目の評価者間一致率(n=136)

領域 課題 項目内容

課題1a 「これはいくらですか」

課題1b①「これ(千円)とこれ(百円)でどちらの金額が大きいですか」

課題1b②「その差はいくらですか」

課題1b③「これ(千円)はこれ(百円)の何倍ですか」

課題1c①「これは全部でいくらになりますか」

課題1c②「ここから合計で1240円選んでください。」

課題1d①「週に1度,1500円で外食をするとしたら,1ヶ月でいくらの支出になりますか。」

課題1d②「月の収入が20万円あります。水道光熱費が1万円,電話代が5千円,家賃が6万4千円か かるとします。残りはいくらになりますか。」

課題1d③「1週間2万円で生活するためには,1日平均いくら位使うことができますか?」

課題2a 借金「これはどういう意味ですか」

課題2b 年金「これはどういう意味ですか」

課題2c 銀行「何をするところですか。」

課題3a 「この通帳と印鑑をご自分のものだとしてください。暗証番号はここに書いてある番号だと します。これら(印鑑,通帳,暗証番号を書いた紙,ボールペン)を使って,私を銀行の窓 口係だと思って,5万円引き出してください。」

課題3b 「これを銀行のATMだと思って,2万円引き出してください。カードや通帳を入れた後に,

ここの画面のどこを押しますか」

課題4a 「私をスーパーのレジの店員さんだと思って,財布の中のお金(3969円)で,これ(ペット ボトル)を買って下さい。」

課題4b 「財布の中のお金(3969円)で,これらを(ペットボトル,飴,歯磨き粉)買って下さい。」

課題5a 「電化製品や家具など,物を買いかえる時の基準はなんですか。どのような点を考慮して

(考えて)買いますか。」

課題5b 「車を買うときにローンを組むことになりました。あなたならどのように組みますか。」

課題5c 「友人にお金を貸してほしいと頼まれました。あなたならどうしますか。」

課題5d 「「無料で商品を差し上げますので,すぐ近くの会場までぜひいらして下さい。」と,家に訪 ねてきた人に言われました。あなたならどうしますか。」

課題5e 「訪問販売で商品を買ったすぐ後に,やはりその商品が必要ないものだと思いました。あな たならどうしますか。」

課題6a 一ヶ月の収入と支出の把握について

課題6b 「普段,お金の管理はご自分でなさっていますか」

課題6c 「買い物をするときに,計算や支払いで上手くいかないことや,困ることはありますか」

課題6d 「お金のやりくりが上手くいかないことや,困っていることがありますか」

課題6e 「なにか,お金のやりくりで工夫していることはありますか」

κ係数

0.97 1.00 0.96 0.99 0.91 1.00 1.00

1.00 1.00 0.95 0.81 0.94

0.97 0.96

1.00 1.00

1.00 0.90 0.98 0.95

0.98 1.00 0.97 0.98 0.92 0.93

領域1

「基本的 金銭スキル」

領域2

「金銭概念」

領域3

「金融機関 の利用」

領域4

「物品購入」

領域5

「金銭的判断」

領域6

「収支の把握」

表4 FCAT妥当性の検討(N=136)

領域 下位尺度

ORFC得点とFCAT得点の

相関(Speamanの順位相関)

領域1 「基本的金銭スキル」

0.58**

領域2 「金銭概念」

0.62**

領域3 「金融機関の利用」

0.64**

領域4 「物品購入」

0.65**

領域5 「金銭的判断」

0.58**

領域6 「収支の把握」

0.63**

合計得点

0.66**

*p<0.05, **p<0.01

表5 包括的質問項目を外的基準としたカットオフ値の設定

カットオフ値 感 度 特異度

18/19 0.76 0.92

19/20 0.79 0.90

20/21 0.82 0.88

21/22 0.82 0.85

22/23 0.82 0.82

(6)

表9に示す通り,男性と女性でFCATの各領域及び 合計得点に有意な差はなかった。

5.考 察

5.1 ORFCの信頼性と妥当性の検討 5.1.1 ORFCの信頼性

ORFC

の信頼性について,内的整合性を検討した結 果,高い内的整合性を持つ単一次元尺度であることが 確認された。

5.1.2 ORFCの妥当性

ORFC

の妥当性について,包括的質問項目を外的基 準とし,併存的妥当性を検討した結果,1%水準で有 意な相関があった。相関係数の値を見る限り,ORFC

は十分な妥当性をもつ尺度と考えられる。

5.2 FCATの信頼性と妥当性の検討 5.2.1 FCATの信頼性

FCAT

の信頼性の指標として,各領域と合計得点の 内的整合性と,各課題の評定者間一致率を検討した。

内的整合性については,領域2の「金銭概念」にお いて,α係数が

0.52

と高いものではなかった。これは,

金銭に関する概念の知識を問う領域2では,難易度が 異なる課題が3問含まれており(表8参照),内的整 合性が期待されない領域であったためであると考えら れる。その他の領域,および合計得点では,十分な内 的整合性が示された。

評定者間一致率については,いずれの課題において も十分な結果を得ることができた。今回の検討では,

表6 FCAT合計,領域得点の得点分布

平均

(SD)

最小値

(min)

最大値

(max)

中央値

(med)

最頻値

(mode)

領域1

8.78 (0.47) 7.00 9.00 9.00 9.00

領域2

4.00 (0.91) 2.00 5.00 4.00 4.00

領域3

3.80 (0.55) 2.00 4.00 4.00 4.00

領域4

4.00 (0.00) 4.00 4.00 4.00 4.00

領域5

7.73 (1.29) 4.00 10.00 8.00 8.00

領域6

4.89 (0.32) 4.00 5.00 5.00 5.00

合計得点

32.20 (1.96) 27.00 36.00 32.00 32.00

領域1

7.83 (1.32) 5.00 9.00 8.00 9.00

領域2

3.80 (0.90) 2.00 5.00 4.00 4.00

領域3

2.49 (1.50) 0.00 4.00 3.00 4.00

領域4

4.00 (0.00) 4.00 4.00 4.00 4.00

領域5

6.06 (1.91) 2.00 10.00 6.00 7.00

領域6

4.71 (0.67) 3.00 5.00 5.00 5.00

合計得点

27.94 (3.80) 18.00 34.00 28.00 28.00

領域1

4.25 (1.36) 0.00 9.00 5.00 5.00

領域2

2.35 (1.19) 0.00 4.00 3.00 3.00

領域3

0.32 (1.69) 0.00 4.00 0.00 0.00

領域4

2.06 (0.71) 0.00 4.00 2.00 4.00

領域5

2.65 (2.51) 0.00 8.00 3.00 3.00

領域6

1.65 (1.91) 0.00 5.00 1.00 0.00

合計得点

12.45 (7.25) 0.00 31.00 11.00 9.00

領域1

6.10 (2.17) 2.00 9.00 7.00 7.00

領域2

2.75 (0.85) 2.00 5.00 3.00 2.00

領域3

1.10 (1.55) 0.00 4.00 0.00 0.00

領域4

3.35 (1.14) 0.00 4.00 4.00 4.00

領域5

3.55 (1.85) 0.00 9.00 4.00 4.00

領域6

4.40 (0.94) 2.00 5.00 5.00 5.00

合計得点

20.45 (6.10) 8.00 32.00 22.00 22.00

領域1

7.88 (1.36) 6.00 9.00 8.50 9.00

領域2

3.62 (1.19) 2.00 5.00 4.00 4.00

領域3

1.63 (1.69) 0.00 4.00 1.50 0.00

領域4

3.75 (0.71) 2.00 4.00 4.00 4.00

領域5

5.38 (2.51) 2.00 9.00 4.50 4.00

領域6

3.75 (1.91) 0.00 5.00 5.00 5.00

合計得点

25.00 (7.25) 13.00 35.00 26.50 13.00

註)領域1「基本的金銭スキル 領域4「物品購入」

領域2「金銭概念」 領域5「金銭的判断」

領域3「金融機関の利用」 領域6「収支の把握」

19〜49歳群 (N=45)

50〜79歳群 (N=35)

AD群 (N=31)

SZ群 (N=20)

その他の 精神疾患群

(N=8)

(7)

東 京 学 芸 大 学 紀 要 第1部門 第

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集(

2004

内的整合性と評定者間一致率を信頼性の指標として用 いたが,今後,経過を追う際や,介入効果の検討を行 なうために,再検査法による信頼性の検討を行う必要 があると考えられる。

5.2.2 FCATの妥当性

ORFCを外的基準とした基準関連妥当性の検討をし

た結果,全ての領域得点および合計得点において,

1%水準で有意な正の相関が認められ,十分な妥当性 が確かめられた。

表7 全対象者と健常群のFCAT各課題の通過率

領域 通過率(%) 通過率(%)

全対象者

(m=139)

健常群

(n=80)

課題1a

87.10 100.00

課題1b①

97.80 100.00

課題1b②

91.40 100.00

課題1b③

86.30 96.30

課題1c①

74.10 93.80

課題1c②

89.20 98.80

課題1d①

71.90 90.00

課題1d②

58.30 78.80

課題1d③

53.20 78.80

課題2a

92.10 97.50

課題2b

1点以上 77.70 91.25

2点 33.80 51.30

課題2c

1点以上 95.68 98.75

2点 38.30 52.50

課題3a

1点以上 58.99 87.50

2点 51.10 76.30

課題3b

1点以上 56.12 81.25

2点 51.80 77.50

課題4a

1点以上 89.93 100.00

2点 87.80 100.00

課題4b

1点以上 86.33 100.00

2点 82.00 100.00

課題5a

1点以上 86.33 98.75

2点 24.50 35.00

課題5b

1点以上 61.15 88.75

2点 34.50 52.50

課題5c

1点以上 77.70 88.75

2点 27.30 40.00

課題5d

1点以上 74.82 83.75

2点 55.40 71.30

課題5e

1点以上 66.91 86.25

2点 35.30 55.00

課題6a

78.30 92.50

課題6b

88.30 100.00

課題6c

79.60 100.00

課題6d

82.50 100.00

課題6e

72.30 88.60

領域1

「基本的 金銭スキル」

領域2

「金銭概念」

領域3

「金融機関の利用」

領域4

「物品購入」

領域5

「金銭的判断」

領域6

「収支の把握」

表8 対象者でのFCAT得点と年齢と教育年数との相関(Spearmanの順位相関)

年齢(n=139) 教育年数(n=135) 領域1「基本的金銭スキル」 −0.70

** 0.50 **

領域2「金銭概念」 −0.45

** 0.47 **

領域3「金融機関の利用」 −0.71

** 0.60 **

領域4「物品購入」 −0.48

** 0.31 **

領域5「金銭的判断」 −0.68

** 0.47 **

領域6「収支の把握」 −0.53

** 0.30 **

合計得点 −0.77

** 0.57 **

*p<0.05, **p<0.01

(8)

ORFCの包括的質問項目を外的基準としたスクリー

ニング検査としての妥当性の検討を行った結果,合計

得点の

20/21

をカットオフ値に設定すると,十分な感

度と特異度が認められ,スクリーニング検査としての 十分な妥当性が確かめられた。

.

3 

FCAT

の記述統計

.

.

1 

FCAT

の得点分布

FCATは独自に作成され,本研究は第一報にあたる

ので,群別に得点分布を算出した。今後,異なったサ ンプルでも同様の得点分布であるのか,さらなる研究 が求められる。

5.3.2 FCATの通過率

FCATは独自に作成されたものなので,全対象者と

健常群の通過率を算出した。

領域4の「物品購入」,領域6の「収支の把握」,領 域1の「基本的金銭スキル」に含まれる硬貨と紙幣の 名称と価値,硬貨と紙幣の計算は,健常群および,全 対象者の通過率が高く,比較的容易な課題であるとこ とが示唆された。

領域3の「金融機関の利用」,領域5の「金銭的判 断」は,通過率は高くなく,比較的難易度の高い課題 であることが示唆された。

これらのことから,硬貨や紙幣の名称や価値の理解,

硬貨と紙幣の計算や,日用品の買い物,自己の収支の 把握は,比較的容易な行為であると考えられる。

.

4 人口統計学的変数との関係

全対象者で,年齢および教育年数とFCATの成績に 有意な相関があったことから,FCATは年齢と教育年 数の影響を受けやすい評価尺度であるといえる。高齢 者と教育年数の短い対象者への施行の際には,結果の 解釈には注意が必要であろう。

男性と女性で,FCATの成績に性差は認められなか った。FACTは性別の影響を受けない尺度であるとい える。

6.本研究の限界と今後の課題

本研究では,信頼性の検討において,再評価信頼性 の検討は行っていない。しかし,経過や介入効果の検 討をするためには,再検査法による信頼性の検討を行 う必要があると考えられる。

以上のような限界はあるものの,今回筆者らが独自 に作成した,FCATの十分な信頼性と妥当性が確認さ れた。高齢者や精神障害者が地域で安定した生活を送 るために,金銭管理能力の評価は,重要なものになる と考えられる。今後も対象を広げ,信頼性と妥当性を 検討することが望まれる。

7.結 論

本研究の結果,FCATの概ね満足のいく信頼性と妥 当性が確認された。また,

ORFC

の信頼性,妥当性も 確認された。今後,対象を広げ,再評価法による信頼 性を含めた信頼性と妥当性を検討することが望まれる。

8.引用文献

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(IADL).知的機能検査の手引き,1999:95-98.

5.International Association of Psychosocial Rehabilitation

Services (IAPSRS) : Practice Guidelines for the Psychiatric Rehabilitation of Person with Severe and Persistent Mental

表9 男性(n=73) と女性(n=66) でFCAT得点の比較(Wilcoxonの符号付き順位和検定)

FCAT領域得点(SD)

男性(n=74) 女性(n=66)

Z

領域1「基本的金銭スキル」

6.95 (2.48) 7.26 (2.23) 0.54

領域2「金銭概念」

3.33 (1.17) 3.44 (1.18) 0.70

領域3「金融機関の利用」

1.93 (1.82) 2.45 (1.72) 1.60

領域4「物品購入」

3.32 (1.35) 3.62 (1.11) 1.80

領域5「金銭的判断」

5.07 (2.58) 5.85 (2.72) 1.83

領域6「収支の把握」

3.93 (1.69) 4.09 (1.67) 0.78

合計得点

24.52 (9.18) 26.61 (9.04) 1.53

**p<0.01 *p<0.05

(9)

東 京 学 芸 大 学 紀 要 第1部門 第

55

集(

2004

Illness in Managed Care Environment. Approved by Executive Committee of IAPSRS, 1997; Sept9(野中猛翻

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(10)

The development and examination of the Financial Competency Assessment Tool (FACT) : a study of the reliability and validity of the FCAT

Yukie SAKURABA*, Yoshiko KUMAZAWA**, Osamu MATSUDA***

Department of Psychology

We examined the reliability and validity of the Financial Competency Assessment Tool (FCAT) which we developed to evaluate the levels of financial competency of patients with mental disorders (ie, Alzheimer's disease and schizophrenia) The subjects of this study were 142 (mean age = 54.75, sd = 20.39, 19 to 88 years old) persons, including 33 patients with Alzheimer's disease, 20 patients with schizophrenia, 8 patients with other mental disorders, and 80 persons without mental disorder. Values of the internal consistency reliability and inter- rater reliability of the FCAT were sufficient The patient's score of FACT was significantly associated with an observation of the patient's caregiver. These findings indicated that the reliability and validity of the FCAT were satisfactory.

Key words: financial competency, psychological assessment, Alzheimer’s disease, schizophrenia

* Department of Rehabilitation, Narimasu Kosei Hospital (formerly belonged to graduate school of Tokyo Gakugei University)

** Department of Psychology, Sagamigaoka Hospital (formerly belonged to graduate school of Tokyo Gakugei University)

*** Department of Psychology, Faculty of Education, Tokyo Gakugei University

参照

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