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構造主義と圏論 久木田 水生

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Academic year: 2021

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構造主義と圏論

久木田  水生 京都大学

圏論は,位相的構造や代数的構造などの様々な数学的構造を記述し研究するための 有用な道具であることが示されてきた.さらに論理結合子や量化子などの論理的な概 念,要素の帰属関係や部分集合関係などの集合論の概念もまた圏論の中で構造的にと らえられ,再構成できることが明らかになった.その成功が非常に顕著であったため,

圏論学者たちは圏論が集合論に代わって「数学を理解するための概念的枠組み」を提 供しうる,と主張してきた.特にスティーヴ・アウディは,数学的構造の概念を明ら かにするために,哲学者は圏論を利用するべきだ,と主張する.

  一方で,構造主義を提唱する哲学者,あるいはその他の数学に従事する哲学者たち は,圏論をそれほど熱狂的に歓迎してはいない.多くの哲学者は単純に圏論を無視し ている.ジェフリー・ヘルマンは,数学的構造主義の枠組みとして圏論を利用すると いう考えに対して,強く反対を表明している.ヘルマンの反論の根拠は,一言でいえ ば,集合の場合とは異なって,私たちはそもそも圏が何者であるかを知らない,とい うことである.この反論に答えてアウディは,ヘルマンが伝統的な「基礎付け主義」

に固執して,数学的実践の本質的な特徴を見逃している,と主張する.その特徴とは,

数学の公理が「図式的」かつ「トップ・ダウン的」であり,数学においては公理が適 用される対象がそもそも何か,それが存在するのか否か,あるいはそれがどのように 構成されるのか,等々は問題にならないということである.しかしこのようなアウデ ィの主張は哲学者にとって満足のいくものではないだろう.なぜならばそれは,数学 とは結局のところ何についての研究なのか,数学の主題的対象は何か,数学的言明の 意味は何かといった哲学的疑問に,少なくとも彼らが適切であると考える仕方では,

答えを与えないからである.

  数学の哲学においては伝統的に,数学の言語に対する意味理論は,べナセラフの言 う,日常言語の「指示的なreferential」断片に対する意味理論と同質的なものである べきだと考えられてきた.この想定を「指示性の想定」と呼ぶことにしよう.指示性 の想定は数学の哲学における伝統的な議論において,ほとんど常に当然のように受け 入れられてきた.そしてそれゆえに私たちは,数学に現れる名前がどのような対象を 指示しているのか,数学の言明はどのような事態を意味しているのか,数学的真理と は何か,等々の問題に直面しなければならなかったのである.そしてこれらの問題に 対する十分な答えは,しばしば神秘的で超越的な存在論と認識論を帰結として持つこ とになった.これが「べナセラフのジレンマ」と呼ばれる問題である.

  このジレンマから抜け出す一つの方法は,私たちの言語の指示的ではない断片に注 目することである.多くの哲学者は,日常言語の「哲学的に重要な断片」は指示的で あると考えている.そしてそれゆえに数学の言語もまた同様の意味理論を与えられる

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べきだと考えている.しかし実際には日常言語は非指示的な用法で溢れている.たと えば「命令する」「約束する」などの遂行的言語行為は非指示的である.

  本発表で私たちは数学の実践を遂行的言語行為として解釈することを提案する.こ の解釈には次のような利点がある.(1)数学的実践の出発点は定義と公理である.そし てある概念を定義する,あるいはある公理を要請するということは明らかに指示的で はなく,遂行的である.従ってこの解釈は数学の実践と整合的である.(2)命令や規則 などは本質的に不特定の対象への言及を含み,かつトップ・ダウン的である.従って この解釈は,数学がなぜアウディの言う「図式的」かつ「トップ・ダウン的」な特徴 を持ちうるのかを説明する.

参考文献

Awodey, S. “Structure in mathematics and logic”, Philosophia Mathematica, 4 (3), 209—237, 1996.

Awodey, S. “An answer to Hellman's question: “Does category theory provide a framework for mathematical structuralism?”, Philosophia Mathematica, 12 (1), 54—64, 2004.

Benacerraf, P. “Mathematical truth”, in Benacerraf, P. and Putnam, H. (eds.), Philosophy of Mathematics: Selected Readings, Cambridge: Cambridge University Press, 2nd edition, 403—420, 1983.

Hellman, G. “Does category theory provide a framework for mathematical structuralism?”, Philosophia Mathematica 11 (3), 2003.

参照

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