九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
SiC/0001面上0層グラフェンの成長機構に関する理論 検討
井上, 仁人
https://doi.org/10.15017/1441237
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
(別紙様式2)
ヨム日間 文 要 旨
区 分 甲 氏 名
井 上 仁 人
論文題名
SiC(OOOl)面上0層グラフェンの成長機構に関する理論検討
論 文 内 容 の 要 旨
過去半世紀以上にわたり発展してきたエレクトロニクス技術は今日の社会に必要不可欠な要素技 術となっている.日常生活における利便性の追求,産業活動の高効率化および世界規模で深刻化して いる環境問題への対応を鑑みると,今後もエレクトロニクス技術が持続的に発展することが強く望ま れるが,従来から採られてきたシリコン基板の微細加工によるアブローチが限界を迎えている昨今に おいて,シリコン材料に変わる新規電子材料が求められている.2004年に自然界での存在が確認され たグラフェンは,ポスト・シリコン材料としてエレクトロニクス分野をはじめとする様々な分野への 応用が期待されている.しかしながら,グラフェンデバイスの実用化に必須である成長手法が十分に 確立されていないのが現状である.
SiC表面熱分解法は産業応用可能なグラフェン成長手法のーっとして注目され,この手法によって 作製したグラフェンのデバイス試作が進められているが,グラフェンが本来持つ物性から期待される デバイス特性が得られていない.この原因のーっとして, SiC表面熱分解法によって成長させたグラ フェンの結晶品質が電子デバイス用途に適した水準に達していないことが挙げられる.このような背 景からグラフェンの高品質化を目的とした研究が行われているが,熱分解過程で成長するグラフェン の成長機構に関して理解が進んでいないことが体系的な取り組みを困難にしている.
本研究では,原子レベルのシミュレーションにより,実験的な観察が困難なグラフェンの成長機構 を理論的に検討する.本研究で研究対象とするのは,先行研究よってグラフェンの結晶品質を支配す ることが示唆されているものの 実験的観察が特に困難となるグラフェン成長の初期過程である.こ の過程がSiC表面上に存在する原子ステップの形状によってどのような影響を受けるかを原子レベル のシミュレーションによって検討することで,これまで理論的に議論されてこなかったSiC表面構造 がグラフェン成長機構および結晶品質に与える影響を明らかにする.
以下に,本稿の各章ごとの概要をまとめる.
1. 序論
現在のエレクトロニクス技術が抱える問題からグラフェンの必要性を示した.また,グラフェンデ バイスの実用化に向けてグラフェン成長手法が必要であることを述べ,現在研究が進められている成 長手法およびそれらの技術課題についてまとめた.さらに本研究の位置づけを明らかにし,研究対象,
問題解決に向けたアプローチを示した.
2. 計算方法
本研究で用いた理論解析手法である,強束縛(Tight‑binding)全エネルギー計算,第一原理計算,
および動的モンテカルロ(KineticMonte Carlo; kMC)計算の理論的背景および具体的な適用方法をま とめた.
3. SiC表面熱分解における表面モフォロジーとC原子の拡散過程
第3章では,SiC表面熱分解中の SiC表面モフォロジーとC原子の拡散過程がSiC(OOOl)面の傾斜方 向,言い換えればSiC(OOOl)面上に存在するステップ端の構造に依存してどのように変化するかを調べ た.その結果, SiC表面熱分解は表面上に存在するステップが優先的に分解し,後退するモード(ス テップフロー)に支配されており, C終端の[lTOO]ステ、ツプは一様に後退するものの, Si終端の[lTOO] および[1120]ステップは蛇行することがわかった.c終端の[lTOO]ステップの一様なステップフローは,
グラフェン総数の均一化に寄与するものと考えられる.また, C拡散過程についても傾斜方向に依存 した違いが見られ,[lTOO]傾斜面において[1120]傾斜面よりも大きな拡散長と異方性が見出された.こ れらの違いによって,[lTOO]ステップにおいて[1120]ステップよりもグラフェン島の面積(およびアス ペクト比)が増大すると考えられる.
4. SiC(OOO 1)面におけるグラフェン核形成過程
第4章では, SiC(OOOl)テラス面上におけるCクラスタリング(凝集)過程で現れるCクラスター の構造およびその安定性を明らかにした.また,環境相におけるC原子の安定性を見積もることで,
Cクラスタリング過程が自発的に進行する条件を求めた.理論検討の結果,テラス上におけるCクラ スタリングの初期段階で形成される, C原子6‑20個で構成されたCクラスター; C6‑20は, 5・6‑7員環 混在型Cクラスターになることがわかった.このような構造の出現は6員環のみで構成されるはずの グラフェン・シートとは異なり クラスター特有の構造であると考えられる.
5. SiC(OOOl)面上ステップにおけるグラフェン核形成過程
第5章では, SiC(OOOl)面上ステップ端(C終端の[lTOO], Si終端の[lTOO]および[1120]ステップ)に おけるCクラスタリング過程を検討した.cクラスタリング過程を追跡した結果, C終端の[lTOO]ス テップでは5‑6‑7員環混在・2次元島型Cクラスターが,またSi終端の[lTOO]および[1120]ステップで は純6員環・ 3次元占型Cクラスターが形成した.一連の考察の結果,これらのCクラスターの構造 の差異はSiCステッフ端のC吸着エネルギー,すなわち,ステッフ端の構造に起因することが示唆さ れた.この結果はSiCステップ端の構造を適切に制御することで, Cクラスタリングの初期段階から 純6員環型構造を持つCクラスターを成長させることが可能であることを示唆する.
6. 総括
本章では,本研究の結論を述べた.