エコ・コントロール研究の類型と展望
著者 安藤 崇
雑誌名 同志社商学
巻 65
号 6
ページ 1084‑1104
発行年 2014‑03‑15
権利 同志社大学商学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013474
エコ・コントロール研究の類型と展望
安 藤 崇
Ⅰ はじめに
Ⅱ エコ・コントロールの特徴と定義
Ⅲ 環境配慮型業績評価の実態
Ⅳ マネジメントの改善
Ⅴ 環境パフォーマンスの改善
Ⅵ 経済パフォーマンスの改善
Ⅶ 結論
Ⅰ は じ め に
地球環境問題が,21世紀のグローバル社会において喫緊の課題であると言われて久 しい。前世紀後半から個人レベル及び組織レベルにおいて様々な取り組みがなされ始め ている。本論文では,様々な組織体の中でも企業を取り上げ,その環境保全活動に対す る取り組みの一端を明らかにする。
企業が環境問題に対して継続的に取り組み,その実施した結果に基づいて次期以降の アクションにつなげるには,環境パフォーマンス指標の活用が重要である。環境パフォ ーマンス指標の活用に関してはISO化がなされており,発行から既に10年以上が経過 している。しかし,ISOは主として環境マネジメントの推進に注力しており,企業の本 来的な活動である経済活動とのかかわりに関しては知見を導出してこなかった。
本研究では企業内部で経済活動と環境保全活動の同軸での推進を目的とする,環境配 慮型業績評価について焦点を当てる。またエコ・コントロールという環境配慮型業績評 価を包含するより高次の概念が開発されている(Shaltegger and Strum(1998),Schalteg- ger and Burritt(2000),Henri and Jouneault(2010)等)。本論文はエコ・コントロール 研究の組織レベルの成果に関する先行研究を類型化することによって,到達点と今後の 課題について検討することを目的とする。本論文では成果を①マネジメントの改善,② 環境パフォーマンスの改善,③経済パフォーマンスの改善という三つの側面から整理し ている。
構成としては,次章でエコ・コントロールの先行研究を再検討し,本論文における定 義づけを行う。そしてⅢ章ではエコ・コントロールの中でも重要な位置づけがなされる 環境配慮型業績評価の実態について5社の事例を叙述している。Ⅳ〜Ⅵ章では成果に関
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する分類(マネジメントの改善,環境パフォーマンスの改善,経済パフォーマンスの改 善)ごとに先行研究を整理し,最後のⅦ節で結論と今後の当研究分野の展望を述べるこ とにする。
Ⅱ エコ・コントロールの特徴と定義
エコ・コントロールは,ドイツ語圏においてÖko-Controllingという概念で発展して きた概念である。筆者の調査した限りではShaltegger and Strum(1998),Schaltegger and Burritt(2000),Henri and Journeault(2010)がエコ・コントロールの概念を定義し解説 した主要な文献であるため,ここで再検討しておこう。まず,Shaltegger and Strum
(1998)は,エコ・コントロールは環境問題を基礎に再創作されるのではなく,財務的 なコントロールに基づくべきであると主張してい
1
る。そして,財務的なコントロールが 効率性と効果性の追求を目的としているのと同様に,エコ・コントロールも経済面・環 境面における効率性と効果性を目的としていると主張する。そして,彼らはエコ・コン トロールを本質的に①環境パフォーマンスと環境的な弱点の分析,②環境パフォーマン スの計画とコントロールのマネジメント支援,③可能な手法と改善の提案,④内部そし て外部のコミュニケーションに向ける情報の質の改善という四つの機能を持つものとし て定義している。
Schaltegger and Burritt(2000)では,エコ・コントロールを「環境マネジメントに財 務的及び戦略的コントロール手法を適用したもの」と定義し,環境マネジメントの実施 における中心的かつ具体的なアプローチとして位置付けている点に特徴がある。彼らは 先行研究をエコ・コントロールの代表的な3つのアプローチとして,①財務志向のエ コ・コントロールの手法,②エコロジー志向のエコ・コントロールの手法,③経済とエ コロジーを統合したエコ・コントロールの手法の三つに類型化し,効果的かつ効率的な 環境マネジメントの実施には,三つ目の統合されたエコ・コントロールの手法が重要で あるとしている。具体的には,①目標と方針の策定,②情報マネジメント(環境会計・
報告),③意思決定支援,④統制と実施,⑤内部及び外部コミュニケーションから構成 されるものとしている。根本的に,Schaltegger and Burritt(2000)は,Shaltegger and Strum
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1 Shaltegger and Strum(1998)は,コントロールの概念の解釈が論者によって多様であることを述べてい
る。しかし,彼らによれば,コントロールは経営者の意思決定を支援するものであり,戦略的意思決 定,オペレーティブな意思決定と情報の有用性の時間レベルが異なるとしている。戦略的意思決定は長 期の企業全体の存続を目的とし,成功の潜在能力の向上によって環境変化を先取りしようとするもので ある。これに対して,オペレーティブな意思決定は利益や収益性といった短期の目的のために資する傾 向があり,企業内のビジネス会計から少しずつ集めた情報を主に活用する。コントロールは,①情報の 供給や意思決定の支援,②計画,③統制とオペレーショナルな監査,④調整という基本的な職務を含む ものとして定義している。
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(1998)と同様,エコエフィシェンシーの向上を究極的な目標としている。そうした性 質は例えば,③の意思決定支援における活用ツールとしてのエコエフィシェンシー・ポ ートフォリオにも現れている。このマトリクスによって,製品,戦略的ビジネスユニッ ト,業種ミックスの環境面及び経済面の影響を評価することができる。これは,もちろ ん「グリーンスター」を最適とみなし,あらゆる次元をこのポジションを目指すよう動 機付けるものである。
このようにShalteggerらの研究は,企業が持続可能性を追求するならば,エコエフィ シェンシーの向上を図って,情報データベースを活用してシステム化を志向するものと している。これに対し,Henri and Journeault(2010)は,Shalteggerらの概念を踏まえ ながらも,管理会計におけるPDCAサイクルを志向している。Henri and Journeault
(2010)は,エコ・コントロールを「環境活動におけるパターンを維持または変更のた めに,財務的及び環境的な情報を利用する公式的な手続き及びシステム」として定義付 けている。そして具体的には,業績指標の活用,予算編成,インセンティブの提供とい う三つの要素から構成されるプロセスとして説明している。この三つの要素を含む理由 は,管理会計の領域において豊富な先行研究がいずれもなされているからとしている。
予算編成は,特に環境に関わる支出に関わる細かい目標の設定,材料のスクラップやリ サイクルされた廃棄物からの収入,環境投資等を含む。インセンティブは,環境保全活 動に向ける経営努力を指し示すための評価のプロセスにおいて環境的な基準の統合する ことに関わっている。
要するに環境会計のシステム化を志向するShalteggerらと,マネジメント・コントロ ールの延長上でエコ・コントロールを捉えるHenri and Journeaultは多少の観点の違い が見られる。本研究では,両者を包括する概念としてエコ・コントロールを定義づける ことにしたい。まず,Schalteggerらは環境経営と環境マネジメントをつなぐ手段とし て,エコ・コントロールを位置付けている。ここで環境経営は,経営者が責任を持ち,
第1図 エコ・エフィシェンシー・ポートフォリオ・マトリックス
出典:Shaltegger and Burritt(2000)
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企業活動及び製品・サービス全体を対象とし,主に金額によって評価するものである。
これに対し,環境マネジメントは,現場管理スタッフと現場オペレーターが責任を持 ち,個別の物質ごとの廃棄や排出を対象とし,物量による評価を主とするものである。
また,Henri and Journeault(2010)の主張を図示すれば,以下の第2図のようになろ う。マネジメント・コントロールのプロセスを踏まえ,彼らは①環境目標の設定,②環 境予算の策定,③実施,④環境配慮型業績評価によるチェック,⑤報酬によるインセン ティブの付与というプロセスを構築している。
以上により,本研究では,エコ・コントロールを「主としてミドルマネージャーが責 任を持ち,事業部レベルの環境負荷を対象とし,エコエフィシェンシーの向上を目的と した金額,物量両面によって評価されるマネジメントプロセス」であると定義付けた い。
また,業績評価は数々の管理会計の先行研究も重要な位置付けをしているため,環境 配慮型業績評価も定義を与えておく必要があろう。國部編著(2004)は,環境配慮型業 績評価を「事業部門などの業績評価システムの中に,環境パフォーマンス指標を組み込 むこと」として定義付けている。國部編著(2004)は,業績評価システムを企業の基幹 システムとして位置付けている。ここに,環境の要素を加味することは,環境保全活動 を 経 済 活 動 と 同 軸 で 捉 え る こ と を 意 味 し,非 常 に 重 要 で あ る。ま た,中 嶌・國 部
(2002)は,環境業績評価システムは,環境管理会計の究極の姿としても形容している。
そもそも業績評価は,分化した下位組織を全社的な目標に方向付けることを目的とし て活用されている。経営者が各事業部に設定した目標と実績を比較し,その目標の達成 度を測定し,事業部を評価するシステムのことである。ここに環境保全活動のパフォー マンスに関わる指標を導入することで,全社的な環境保全活動と経済活動の調和の取れ た推進を目指している。
ここで,エコ・コントロールと環境配慮型業績評価の関係について明らかにしておく 必要があるだろう。第2図からも明らかなように,環境配慮型業績評価は,エコ・コン トロールの一過程であり,しかもこれは重要なプロセスである。何故なら,組織構成員 はどのように評価されるかを意識しながら自身の行動をコントロールしようとする傾向
第2図 エコ・コントロールのプロセス
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があるからである。本論文では,環境配慮型業績評価を中心に議論するが,広くエコ・
コントロールを射程に入れた議論であることに注意されたい。次節では環境配慮型業績 評価について,5社のケースを2003年度(パナソニックのみ2002年度)と2009年度 に行ったインタビュー結果から,経年の比較検討をしながら,その実態と本質を明らか にしたい。
Ⅲ 環境配慮型業績評価の実
2
態
キヤノン,大阪ガス,リコー,ソニー,パナソニックについて,時系列で環境配慮型
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2 本章の内容は,安藤(2010 a)を要約したものである。インタビュー日時とインタビュワー,インタビ ュイーについては以下の表を参照のこと。なお,詳細な内容についてはそちらを参考のこと。
インタビュー日 インタビュイー インタビュワー
キヤノン 2003年11月28日 古田清人氏(グローバル環境推進本部環 境統括・技術センター環境企画部部長)
國部克彦教授(神戸大学大学院経営学 研究科)
宮嶋一樹氏(環境統括・技術センター環
境企画部環境企画課課長) 梨岡英理子氏(公認会計士)
梅山雅子氏(環境統括・技術センター環 境企画部環境企画課)
川原千明氏(神戸大学大学院経営学研 究科博士課程)
筆者 2009年8月27日 古田清人氏(環境本部環境企画センター
センター所長)
北田皓嗣氏(神戸大学大学院経営学研 究科博士課程後期課程1年)
天王寺谷達将氏(神戸大学大学院経営 学研究科博士課程前期課程2年)
筆者 大阪ガス 2003年9月12日 渡部徳博氏(環境部地球環境チームマネ
ージャー) 後藤文昭氏
鈴木康夫氏(環境部地球環境チーム課長) 牟禮恵美子氏 筆者 2009年7月30日 篠田健一氏(環境企画チーム兼企画部環
境・エネルギー政策チーム副課長)
國部克彦教授(神戸大学大学院経営学 研究科)
筆者 リコー 2003年11月28日 羽田野洋充氏(社会環境本部環境推進室
環境情報グループサブリーダー)
國部克彦教授(神戸大学大学院経営学 研究科)
梨岡英理子氏(公認会計士)
川原千明氏(神戸大学大学院経営学研 究科博士課程)
筆者
2009年8月26日 則武祐二氏(社会環境本部審査役) 北田皓嗣氏(神戸大学大学院経営学研 究科博士課程後期課程1年)
天王寺谷達将氏(神戸大学大学院経営 学研究科博士課程前期課程2年)
筆者 ソニー 2003年12月18日
鶴田健志氏(グローバル・ハブコンプラ イアンス・オフィス環境・CSR戦略グ ループ係長)
梨岡英理子氏(公認会計士)
筆者 2009年8月27日 餌取敬雄氏(環境推進部企画課統括課
長)
北田皓嗣氏(神戸大学大学院経営学研 究科博士課程後期課程1年)
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業績評価手法の変化を①目的,②対象,③評価者,④評価項目,⑤評価期間,⑥評価基 準,⑦全業績評価指標に占める環境評価項目の割合,⑧業績評価結果と報酬制度との連 携,⑨成果,⑩今後の課題についてまとめることにする。ここでこれら5社を取り上げ た理由は,当時の日本企業で経年比較して調査可能な全企業であったためである。
1 キヤノンの変化
①キヤノンにおいては目的の変化が重要である。2001年度開始以前の予定では,各 事業本部及び事業所の環境への取り組みが,どの程度進捗しているかを客観的に評価す ることを通じて,環境保全活動を推進することにある。2003年度では,それは,社内 の競争原理を駆り立てることを通じて,同社の環境マネジメントを体系化させることで ある。これは重要な変化である。元来業績評価とは事業部間の競争を誘発するシステム である。環境配慮型でもその根本原理に変わりはないはずである。環境保全活動を推進 することから,より焦点を絞って競争原理をあおることを目的としたのは,業績評価の 本来の機能を敷衍することと同義である。2009年度調査では,目的は着実なマネジメ ントをして,改善活動を促すことにある。それは幹部に対して環境に意識付けさせるこ とを通じて行う。②対象は,2003年度以前は連結本部及び事業所だったのが2009年度 調査では各事業部と変化がない。
③評価者は2001年開始以前の予定では環境技術センターであり,2003年度における 評価者は,各事業部になる。配点表を各事業部に委ねているので,その表をもとに各事 業部は自己評価を行うことになる。2009年度も業績評価者は各事業部である。自己採 点をしてもらった結果を環境本部が再チェックする。その際に環境本部は各事業部に対 して算出根拠(エビデンス)を求める。
④評価項目は2002年度以前では,製品環境と製造環境に大別されていた。2003年度 では,さらに細かく1.エネルギー消費効率,2.省資源,3.有害物質の代替,4.事
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筆者 松下電器
産業 2002年11月25日 今井伸一氏(渉外・管理チーム副参事) 國部克彦教授(神戸大学大学院経営学 研究科)
大西靖氏(神戸大学大学院経営学研究 科博士課程後期課程1年)
品部友美氏(神戸大学大学院経営学研 究科博士課程前期課程修了)
筆者
(パ ナ ソ
ニック) 2009年10月15日 大西宏氏(環境推進グループチームリー ダー)
國部克彦教授(神戸大学大学院経営学 研究科)
冨田勝己氏(環境企画グループチームリ
ーダー) 朴鏡杓准教授(香川大学経済学部)
光井雅俊氏(神戸大学大学院経営学研 究科博士課程前期課程2年)
筆者
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業所活動実績になっている。2009年度調査ではプロセス・結果両面で評価するように なっている。⑤評価期間は半年ごとと変わりはない。
⑥評価基準に関しては,2003年度では中期の環境計画からブレークダウンしてくる 目標と,環境業績評価における目標とは基本的にリンクしている。2009年度も同様で ある。⑦全業績評価指標に占める環境評価項目の割合は10% と2003年度から変化はな い。
⑧業績評価結果と報酬システムの連携であるが,2001年の準備段階では,環境配慮 型業績評価のパフォーマンスは,各本部長・事業所長の賞与に反映されることになって いる。2003年度においては業績評価結果の報酬システムへのリンクは制度的にはない が,影響を与える場合もある。2009年度調査では両者のリンクはないという。同社で は次第に業績評価結果の経済的インセンティブの果たす役割について疑問を投げかけて いるようである。
⑨環境業績評価実施の成果は,2003年度では各社の経営トップが,環境をやらなけ ればならないと意識するようになったことであり,各事業部は,環境に関して手を抜か なくなった。2009年度調査では,幹部に対して環境に意識付けることを通じて,社内 に改善活動が発展するようになった。
⑩今後の課題は,2003年度時点においては,2004年度に向けて被評価主体間での平 等感があってなおかつ差の出やすい評価項目の設定を課題にしているという。また,環 境に取り組めば取り組むほど,経営にプラスになる指標の開発も大きな課題となってい る。その開発に成功すれば,現在全業績評価指標に占める環境評価項目の割合は約10
%だが,33.3% 程度にまで引き上げることも検討する予定がある。33.3% という数値 は,財務的指標とその他の非財務的指標,および環境の指標を同等の重みがあると捉え たときの点数配分である。環境に取り組めば取り組むほど,経営にプラスになる指標の 開発において,環境会計を活用する可能性・方向性も見られる。指標に関しては,全社 的で誰が見ても分かりやすい指標にしたいという。環境業績評価手法を導入した結果,
企業全体の環境パフォーマンスはいかに変化したかについての把握についても今後の課 題である。2009年度調査における最も大きな課題は,指標として何を設定するかとい うことである。何をすれば本当に環境によいのかが分からないようだ。指標の客観性と 公平性が課題である。また,目標値の適切さも課題である。
2 大阪ガスの変化
①大阪ガスの目的は,2003年度では環境対策の推進であったが,2009年度調査では,
環境負荷の削減とコストの削減である。より経済活動と結びついた目標に移行してきて いることが分かる。②次に評価対象の変化であるが,2002年度以前では事業部を対象
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としていたが,2003年度以降では本社各部(全社)まで評価対象の範囲が拡大してい る。③そして,評価者は開始当初から企画部であり,変化はない。
④評価項目の変化に関してであるが,従来は「収益性」「成長性」「公共性」という三 つの指標で評価をしていた。しかし,1999年から「環境性」という指標を追加するこ とで,環境配慮型業績評価を開始している。その「環境性」の指標の内容が変化してい る。1999年から2002年度までは,「環境性」指標は,所属事業部内で使用したエネル ギーの使用量と紙の使用量という二つの項目から構成されていた。しかし,2003年度 からは,評価項目の見直しを行った。評価項目の見直しであるが,従来の二項目のみで は環境保全活動を示す項目として不十分であると考えた。そのため,各事業部の共通評 価項目として産業廃棄物・一般廃棄物を加え,各事業部特有の項目として,掘削土,製 造用CO2・NOx・COD,顧客先で発生するCO2を加えた。それぞれの評価対象となった 事業部は,掘削土が導管事業部,製造用CO2・NOx・CODが製造発電事業部,顧客先 で発生するCO2を評価項目に加えたのは,リビング事業部(家庭用営業部門)とエネ ルギー事業部(業務用営業部門)である。このように全社として取り組んでいきたい項 目は,共通評価項目として掲げ,事業部に特有の環境問題に対しては独自の評価指標で 対応しているのである。2009年度調査では業績評価指標は全社的にはCO2と廃棄物の 削減であり,導管事業部だけが掘削土の削減を設定している。
⑤評価期間は2003年度以前は1年だったのが,2009年度調査では四半期になってい る。⑥評価基準は,2002年度以前は各事業部の目標値であり,各事業部はその達成率 で評価されることになる。2003年度の共通評価項目の一つは,CO2と廃棄物(産業廃 棄物・一般廃棄物)の評価項目である。産業廃棄物・一般廃棄物は,CO2削減量と合わ せて評価されることになる。各々に関する指標をまず作成し,次に物量単位で目標値を 定める。そして今度はそれぞれに関して貨幣ベースで目標を設定することになる。最終 的に業績評価基準として活用されるのは合計金額での目標値である。共通評価項目のも う一つは,コピー用紙使用枚数の削減である。一人当たりのコピー用紙使用枚数によっ て目標値に対する達成率で評価される。事業部特有の評価項目として,掘削土,製造用 CO2・NOx・COD,顧客先で発生するCO2がある。目標設定の過程はまず,環境部が方 針を決めて,前年度の実績によって目標値を決定することになっている。また,2005 年度の目標(中期環境目標)に沿うようにも,目標設定を行なっている。2009年度調 査では,目標値に対する評価が行われていた。
⑦全業績評価指標に占める「環境性」指標の割合は,2002年度までは1% 程度であ る。2003年度からは環境は最大でプラスマイナス2.5点に引き上げられた上,特定事業 部が高い達成度を示した場合は0.5点のさらなるプラス評価がなされることに決定し た。2009年度調査では,評価方法は目標を達成すれば加点するというもので,減点は
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基本的にない。各環境評価項目の全環境評価項目に占める割合は,2003年までがエネ ルギーに関する指標が75%,紙の使用量に関する指標が25% である。2003年からが全 事業部共通項目として,事業所から発生するCO2抑制量と廃棄物を合わせてプラスマ イナス2.25点である。全事業部共通項目のコピー用紙使用枚数削減率はプラスマイナ ス0.25点である。製造・発電事業部では,製造所でのCO2, NOx, COD 抑制が0〜0.5点 である。導管事業部ではガス工事掘削土の最終処分量が0〜0.5点である。営業部門は お客様先でのCO2削減として,0〜0.5点が割り当てられている。
⑧業績評価結果と報酬制度との連携に関しては,2003年度調査から変化はない。組 織長レベルの評価に反映される。⑨環境配慮型業績評価の成果であるが,2002年以前 はエアコンの設定温度が2−3度夏場は高め,冬場は低めに設定したりしていた。2003 年度は,同社全体のCO2削減量は1999年度より減少している。さらに,従業員の環境 保全活動に対する意識の高まりにも貢献した。ゴミの分別や昼休みに電気を消すなどの 行動,大阪事業部などでは,夜の7時か8時になれば電気が消え,残業している人の仕 事場所だけ電気が付くようになっている。2009年度調査では,組織全体の(環境に対 する取り組みの)意識が変わった。もちろん,環境負荷も断然と減り,コスト面でも絶 大な効果があった。実施はCO2の削減にも寄与した。後トップ層の会議の中で,環境 という話題が出る機会が増えた。⑩今後の課題は,2003年度調査では,全業績評価指 標に占める環境評価項目の割合をあげていたが,2009年度調査では社外向けの総体的 な指標を内部活用することとなっている。
3 リコーの変化
①2002年度以前では,当活動の評価基準を明確にすることを目的として,当手法が 導入・実施された。しかし,2009年度調査では,立てた目標が確実に達成されるよう にインセンティブを与えることと変化している。ちなみに2003年度は戦略的目標管理 制度(その一部として環境配慮型業績評価が位置づけられる)の実施の目的として,環 境経営の推進を掲げている。
②次に,業績評価対象であるが,2000年以前はあらゆる部門に対して,特定数・特 定環境評価項目の設定が義務付けられているわけではない。しかし,2001年度は,リ コー本社だけでなく生産関連会社をも環境配慮型業績評価の対象に含めた。だが,2009 年度調査では,業績評価の対象は,事業部及び本社組織であるとされている。
③評価者は総合経営企画室で2003年度調査以来変化はない。④評価項目であるが,
2002年度以前は各部門によって重視する項目が異なっている。2003年度は中期経営計 画と業績評価の目標はリンクするようになった。2009年度調査では,評価項目の設定 においては,環境行動計画がベースとなる。最近はその傾向がより強まっている。
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⑤評価期間に関しては2007年度以前が半年毎だったのが,2008年以降では一年毎に なっている。その理由は,環境施策を講じたとしても半年では効果が出ないという反省 があったからである。
⑥さらに評価基準であるが,2002年度以前では目標達成率を基準に行われる。2003 年度では,目標をどう設定するかは,事業部が考案し,各事業部が社長に相談して決定 する。2009年度調査では,目標値の設定においては,環境行動計画がベースとなる。
近年その傾向がより強まっている。目標値は,まず部門が作る。その後総合経営企画室 が事前に判断して,役員会議にかける。そこで部門が説明し,中身の妥当性を専務以上 が最終的に決定する。
⑦全業績評価指標に占める環境評価項目の割合は2002年度以前では,各部門約10%
弱の配分となっている。2003年度では,それは各部門の平均値を取れば10% 弱であ る。2009年度調査によれば,全業績評価指標に占める環境評価項目の割合は,決まっ ていないという。
⑧業績評価結果と報酬制度との関わりについては,従来,部門業績と個人賞与との連 動の程度は低かった。しかし,1999年の戦略的目標管理制度の導入を機に,部門の業 績評価が個人の報酬にある程度反映されるようになった。報酬に反映される対象は,課 長代理以上の職務に従事している人々である。各人の部門業績に対する責任の大きさと 貢献度の観点から,賞与額が決定される仕組みとなっている。2009年度調査では賞与
の8% に環境配慮型業績評価結果(財務や非財務の指標も含めた全体)が反映される。
そして戦略マップの変更が適宜なされている。戦略マップの位置づけが変化している。
2002年度までは行動の指針として重視されていたのが,2009年度調査では,社内の情 報伝達用に使用するだけであり,戦略的に重要なものではないとされていた。
目標達成の難易度であるが,2003年度では目標を達成するのは容易ではない。環境 業績評価の基になる中期行動計画の中に含まれる環境行動計画は,元来かなり高めに設 定している。2009年度調査では目標の90% 達成は困難であることが分った。目標設定 の過程であるが,2003年度では環境行動計画自体は,中期が始まる前にかなり部門と 調整して作っている。部門が設定してくる目標値はそれ程高くない。それだと適切なレ ベルにはならないということで,整合・調整しながらある程度社会環境本部の望む目標 値をたてている。そのため,各部門にとっては環境行動計画の達成がかなり厳しいもの になる。2009年度調査では,目標値の設定においては,環境行動計画がベースとなる。
最近はその傾向がより強まっている。98年ごろは環境行動計画もそれほど細かくなか ったので,業績評価と連動していなかった。環境行動計画の中の項目の中からトップと 部門トップの間の話し合いによって項目を決める。その調整は総合経営企画室が行う。
目標値は,まず部門が作る。その後総合経営企画室が事前に判断して,役員会議にかけ
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る。そこで部門が説明し,中身の妥当性を専務以上が最終的に決定する。
⑨環境配慮型業績評価の成果であるが,2003年度では,部門の環境保全活動に関す る意識が高まったということもあげられる。各部門は社会環境本部が考えつかないよう な,業務と関連した環境保全活動も考案・展開している。2009年度調査では立てた目 標が確実に達成されるようにインセンティブを与えることができているという。⑩今後 の課題は,2003年度は部門・全社レベルの環境経営指標の開発及び,社会的責任とは 何かを明らかにすることであるが,2009年度調査では高い目標を掲げることと変化し ている。
4 ソニーの変化
①2003年度の運用の目的は環境保全活動を進展させていくことであった。しかし,
2009年度調査では目的は一つ目が絶対値評価におけるパフォーマンスを上げることで ある。二つ目が,環境施策による削減である。より目的が具体的になってきたことに注 意する必要がある。絶対値評価による向上と環境施策による削減は,前者が売上高減少 による環境負荷低減も含めるのに対し,後者は環境対策をすることによる環境負荷削減 を指す。
②2002年以前では評価対象となるのは,社内の5つのカンパニーであった。2003年 度では全ユニットではない。2009年度調査では,業績評価の対象は各事業所・事業部 である。
③2002年度以前における評価はまず,各カンパニーが,独自に活動に対する自己評 価を行なう。それに対して,本社社会環境部が再検討を加え,最終的な評点が決定する という。2003年度の環境業績評価の評価主体は環境部である。2009年度調査では経営 企画部に移行している。
④評価項目は,2002年度以前は1.製品の環境配慮2.事業プロセスでの環境配慮3.
環境技術開発4.環境経営・教育・情報開示である。前二者を環境パフォーマンスイン デックス(EPI),後二者を環境マネジメントインデックス(EMI)によって測定する。2003 年度以降における環境評価項目は中期環境計画に関連させている。2003年度では評価 項目の内容は,GM(グリーンマネジメント)2005という中期目標に関連する。2009 年度調査では業績評価尺度のEPI(環境パフォーマンスインデックス)とEMI(環境マ ネジメントインデックス)という区分は,現在では名前こそ残っていないが,そういう 配慮はしている。2003年度以降,中期環境計画と関連して評価項目が設定されるよう になっている。
⑤評価期間は一年間と2003年度調査から変化はない。⑥2002年以前では,評価基準 は基準値の取り方によって,三つに分類することが出来る(高田,2001)。一つは,時
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系列比較である。同一のカンパニーで,昨年の環境パフォーマンスと比較し,その向上 度を測定・評価するといったものである。二つめは,目標値に対する比較である。例え ば,同社は,2001年に「Green Management 2005」という,環境行動計画を策定した。
当計画は,基本的に企業全体で達成すべき活動内容とその目標とすべき水準が示されて いる。各カンパニーが,当計画から活動内容を分担した場合,その目標値が業績評価の 基準になる場合がある。三つめは,類似性による比較である。同業他社の類似製品等と の比較において,業績評価を行なおうとするものである。これは,前二者の業績評価に よる欠点を補う役割を果たすだろう。それは,時系列や目標値との比較は,あくまで一 企業内において独自に設定した基準による評価だからである(高田,2001)。
以上,三つの業績評価方法のなかでも,対前年度比の比較で評価する一つ目の評価方 法が中心となる(経済産業省,2002)。それに,二つ目の「Green Management 2005」の 達成度評価を加味している。特に,製品の環境評価については,同業他社に対するベン チマーキングを踏まえた,三つ目の評価方法が採用されるという。
2003年度においては環境業績評価の評価基準値は,中期目標GM 2005がベースとな っている。2009年度調査においては環境事業計画(一ヵ年の全社が展開する環境保全 活動に関する計画)に基づいて目標値が設定される。なお,環境事業計画は三ヵ年の環 境保全活動に関わる活動方針である中期指針に基づいて策定される。⑦全業績評価指標
は2000年ではEVA(全体の5割弱を占める),事業計画目標の達成度,品質,環境,
研究,知的財産である。2003年度では全業績評価指標に占める環境業績評価指標の占 める割合は,約10% である。2009年度調査でも10% 程度である。但し,この割合は 会社全体の方針によって毎年変わる。加減点に入れられる場合もある。
⑧業績評価によるパフォーマンスは,手法開始当時から課長以上の年収に反映される ようになった(川野,2001)。2003年度では,業績評価結果は課長以上の年収に反映さ れる。マネジャー以上で上の階層になればなるほど,業績連動の幅は大きくなる。
⑨なお,多田(2002)は,2000年度環境配慮型業績評価を実施した効果として,以 下の点を指摘している。カンパニーごとに,環境活動のパフォーマンス状況は依然とし て多様であるが,それぞれのマネジメント層に対する意識改革につながったという。
2003年度では環境業績評価の実施の効果として,各ユニットの環境保全活動に対する 取り組みが以前に比べて真剣になったことを指摘している。2009年度調査では環境負 荷は下がっていた。
⑩今後の課題については,2003年度が環境業績評価指標の全業績評価指標に占める 割合は,10% 程度であるので,企業構成員の行動に対するインパクトが他の指標に比 べてさほどないかもしれないということであった。環境災害などを起こした部門は,減 点幅を大きくするなどの対策を考えている。環境業績評価の課題は,データの正確性と
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収集の迅速性である。こうした点は,2009年度調査では解決していた。2009年度調査 では環境に社内的に注目が当たっているので,10% だから効果が小さいのではないか という点は気にならなくなった。データの正確性と迅速性も改善した。それによって,
当時は行っていなかった四半期レビューが可能となった。2009年度調査における課題 は,他の部門も共通に利用する箇所の割り当てをどうするかということである。例えば 廊下の電気はどの部署に割り当てるか。どういう風にラインごとに共通部分の環境負荷 を割り振るかが今後の課題である。
5 パナソニック(松下電器産業)の変化
①目的は2009年度中に2006年度比でCO2を30万トン削減することである。これを 目的として,環境配慮型業績評価を導入している。すでに2008年度に51万トン削減し ているが,これを2009年度末時点で維持できるかが問題なのである。インタビュー時 点では達成できる見込みである。②業績評価対象は,2002年度が松下電器産業本社に おける社内分社と関係会社であった。2009年度調査では14のドメイン企業と対象が変 化している。
③2002年調査では,評価者は分社・関係会社の社長もしくは環境担当役員であった が,環境本部に変更となっている。④業績評価の項目は,2002年度では「グリーンプ ロダクツの新たな挑戦」,「クリーンファクトリーの新たな挑戦」を設定した。2009年 度調査でもこの項目は存在しているという。ただ,グリーンプロダクツの定義は毎年変 わるという。CF度も2002年と2009年で調査では若干異なっている。それは地球温暖 化防止という項目である。CO2の削減の重要性から追加したのであろう。
⑤⑥評価期間は1年であり,評価基準は目標値である。これらに変化はない。⑦全業 績評価指標に占める環境評価項目の割合であるが,2002年度調査では1割だったのが,
2009年度調査では,非公開となっている。
⑧業績評価結果と報酬システムとの連動についてであるが,2002年度では社内分 社・関係会社の総合パフォーマンス得点は,完月社員と呼ばれる管理職社員(課長職以 上のカンパニー内での企業構成員)の,月給ではなく賞与に反映される仕組みとなって いる。しかし,完月社員の賞与額は,部門業績のみによって決定されるのではない。完 月社員の賞与は,個人業績反映部分と部門業績反映部分から構成されるのである。給与 反映型の業績評価は2003年度から始めたが,一年で一旦終了している。そして2008年 からCO2の減らし方で年間の従業員賃金額が変わるパフォーマンス連動型賃金を開始 した。
⑨成果であるが2002年度調査では社内分社・関係会社のマネジメント層に対する意 識改革を指摘することが出来る。2009年度調査では,CO2の削減効果があったという
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ことである。⑩2002年度の課題は,環境パフォーマンスの向上と,人事評価システム と環境配慮型業績評価システムの連携である。これは2009年度の調査においてはほぼ 克服している。CO2の排出量は目標を2006年度比で30万トン削減することとしている が,現状では達成できそうである。2008年からCO2の減らし方で年間の従業員賃金額 が変わる業績連動型賃金を開始したことからも分かるように,報酬システムと業績評価 システムとは連動している。しかし,人事評価システムにまで業績評価結果は連動して いない。
6 5社の手法変化の意義とその原因
以上のケース中で構造的な変化と構造内での変化に区分することが出来る。構造的な 変化はパナソニックとキヤノンである(参照第3図)。パナソニックは最も注目すべき 変化である。同社は2007年10月にエコアイディア戦略を実施し,従来の経営スタイル を一変した。とりわけ,CO2排出量によって年間の賃金額が変わるCO2排出量連動型 賃金を実施した。リコーやソニーも業績連動型賃金制度を導入している。しかし,目標 はシンプルなものの方がよいのである。それは,人間の認知形態がそれ程複雑なものを 複雑なまま認識するようには出来ていない点と,環境保全活動は通常の事業活動におい てまだまだ十分に認識されていないからである。同社の社員は「CO2を出し過ぎると給 料が減る」と認識するであろう。そうすると,日常業務を進める上でも,どこかCO2
を出していないか意識するようになる。これが,多様な環境保全活動の総体として給与 が変動するとなれば話は別である。日常の業務活動において,具体的に何をどうすれば よいか明確に意識しにくい。やはり理解しやすい単純な目標が最もよいのである。
次に注目すべき変化はキヤノンである。同社は試行錯誤を繰り返し,同社に適合的な システムを構築した。それは評価的インセンティブ重視型の環境配慮型業績評価システ ムである。そのシステムの運用が示唆するのは,業績評価は精緻化したシステムの構築 が重要なのではなく,マネジメントを着実に行なっていくことが重要であるということ である。
第3図 事例企業における重要な変化の種類と内容
変化の種類 内容
キヤノン 構造自体の変化 評価から改善活動重視へ移行 大阪ガス 構造内の変化 指標作りにおける試行錯誤
リコー 構造内の変化 手法改善からマネジメント重視へ移行 ソニー 構造内の変化 課題の着実な克服
パナソニック 構造自体の変化 エコアイディア戦略によるCO2排出量 連動型賃金の実施
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パナソニックとキヤノンの変化には質の大きな違いがある。一貫したシステム構築に よって従業員にインセンティブを与えようとするパナソニックと,着実な業績評価マネ ジメントによって環境保全活動を推進していこうとするキヤノンはいずれがよいという ものではない。自社に適合的なシステムの構築とマネジメントの実施が重要である。
大阪ガスの特徴は,評価指標作りにおける試行錯誤に意義があると考える。当初はす ぐに発想できる環境負荷二項目を対象としていたが,次第に自社の環境負荷,特に各事 業部特有の環境問題を抱えていることが明らかとなり,複雑な指標体系にした。しか し,さらに改良を加え,シンプルな評価項目とした。これは,マネジメントにおける揺 らぎである。しかし,こうした取り組みの過程は,自社に適合的な業績評価システムと は何かを問い続けるものであり,決して方向性を失っているのではない。むしろ,伊 丹・加護野(1993)が指摘するように,企業成長とはジレンマへの対応の連続であり,
その揺れ動きこそが成長の中心的テーマなのである。むしろ,同社における最も大きな 課題は,業績評価システムを環境保全活動の最低限のレベルを確保するために活用して いる点であろう。
リコーは業績連動型賃金に移行していっている点と,目的が手法それ自体からマネジ メントを目的に重点が移行している点が特徴的である。これは管理会計における流れが 様々な手法と同じくしている。ABCはABMに,BSCはBSCマネジメントに発展を 見せているように,手法の精緻化よりマネジメントに議論が拡張されるようになってき ている。これはいくら計算構造を精密化しても,それを組織の中でどのような目的によ って,どのように活用するかによって全くその効果が異なってくるからである。また,
同社の目標値は90% 未満の達成だと,0点というのは少し厳しすぎるのではないだろ うか。他の企業においては目標達成率に応じた配点が多い。そのために高い目標を事業 部が掲げたがらないという逆機能がもたらされている。
ソニーは業績連動型賃金を導入している点と評価項目のEMI の評価項目の内容及び,
今後の課題を着実にクリアしていって効果的なマネジメントを行なっている点が特徴で ある。
こうした中でも,大きく二つの類型を見出すことが出来る。安藤(2004)でも述べた ように,環境配慮型業績評価システムは一種のインセンティブ・システムである。企業 の配分するインセンティブの種類がキヤノンとその他の企業では大きく異なる。キヤノ ンは,経済的な報酬を動機付けとして,環境保全活動を推進してはいない。業績評価を することそれ自体がインセンティブを与えることになっているのである。これは,伊 丹・加護野(1993)における評価的インセンティブである。評価的インセンティブは,
人々が企業の中での行動を組織が何らかの形で評価すること自体が持つインセンティブ である。人は尊厳欲求を持っている。これを満たそうとするのが評価的インセンティブ
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である。それに対して,リコー・ソニー・パナソニックは物質的インセンティブを重視 したシステム作りをしている。リコー・ソニーは業績連動型賃金を導入し,特にパナソ ニックはCO2排出量連動型賃金を導入している。物質的インセンティブは,人間の物 質的な欲求を中心においたインセンティブである。いわゆるモノやカネを人々に分け与 えることによって,インセンティブを与えようとするのである。
環境報告書の分析によれば,キヤノンはキヤノン(2009)においてこれまで掲げてい たファクター2と呼ばれる具体的な環境項目における数値目標に関する記載が一切なく なってしまった。これに対しリコー,パナソニック,ソニーはいずれの年度の環境報告 書を分析しても取り組むべき環境項目とその目標値が記載されていた。これは,キヤノ ンが他社ほど具体的な数値の公表やその達成に関するコミットメントを重視していない からではないだろうか。キヤノンの環境マネジメントの目的は,事業部間の取り組みの 競争を促進し,改善活動を促進するというマネジメント・サイクルを重視している。こ れに対して,リコー・パナソニック・ソニーは企業外部に数値目標を公表し,それを達 成するために事業部間で競争をもたらすことに成功している。つまり,キヤノンの環境 配慮型業績評価は内部管理向けの手法であり,その他の企業(リコー・パナソニック・
ソニー)の環境配慮型業績評価は外部公表用の情報開示ツールとリンクしているという 根本的な違いを見出すことが出来た。
次章以降では,本章で明らかにされた環境配慮型業績評価つまり,エコ・コントロー ルの一端に基づいて,そのコントロールがもたらす組織的成果を明らかにしていく。
Ⅳ マネジメントの改善
本章ではエコ・コントロールの組織レベルの成果として,マネジメントにおける改善 活動を先行研究をもとに具体的に挙げて,再検討していきたい。本来,エコ・コントロ ールの目的は,期首に立てた環境経営目標を実現することを目的としているが,副次的 な効果として,様々なマネジメント上の効果が出ているのである。
第一にエコ・コントロールの実施の意義は,組織全体やそれを構成する個人に対し て,環境保全活動に対するモチベーションを高める効果があると言われる。Epstein
(1996)は,業績評価を企業組織におけるインフラストラクチャーとして位置付け,
個々の従業員やマネジャー等の行動変革に重要な機能を果たしていると指摘している。
そして企業が環境パフォーマンスを向上させ,市場における環境リーダーシップを発揮 し続けるために,以下の二つの取り組みが重要であるとしている。一つは,組織内の従 業員を動員することである。そのために集中的な教育プログラムや,内部環境監査が有 効であろうとしている。そして,二つ目は,環境パフォーマンス指標を業績評価システ
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ムに導入することである。彼は,特にこの重要性を指摘し,導入の意義を以下のように まとめている。まず,環境責任に対するCEOの声明が,より確実なものになるという ことである。次に,業績評価結果を事業部・工場等の企業内部における組織単位や,従 業員個人の給与・報酬に結びつけることは,より,それらの主体に対するモチベーショ ンを高めうるとしている。
また,國部(2004)は,環境保全活動が,業績評価制度で評価されなければ,企業構 成員の環境保全活動に対する動機付けは限定されると主張している。業績評価制度は,
いわば企業が自らのマネジャーや従業員に対するシグナルである。シグナルに環境のサ インがあれば,企業構成員は従来正当な企業活動としてはみなされてこなかった環境保 全活動をそうではないと認知するであろう。さらに,業績評価結果が報酬制度と結びつ いた場合,さらにその効果は高まるものと考えられる。環境パフォーマンスの高い事業 部の事業部長やそこに所属する従業員の金銭的報酬やその他のインセンティブが高まっ た場合,マネジャーや従業員はより労働意欲を喚起するであろう。
第二に,エコ・コントロールは,意思決定において環境と経済の双方を考慮するよう 促すという。Schaltegger and Burritt(2000)は,環境配慮型のバランスト・スコアカー ドの意義や可能性について言及している。バランスト・スコアカードは,1990年代前 半にアメリカで開発された経営管理手法であり,基本的に「財務の視点」,「顧客の視 点」,「社内ビジネス・プロセスの視点」,「学習と成長の視点」から構成されている。こ のいずれかの視点に環境の要素を組み込むことは,財務パフォーマンスと環境パフォー マンスに関する相対的な比重の意思決定をマネジャーに強いるという。また國 部
(2002)は,環境保全活動のみを追及するシステムを「環境保全活動システム」,企業の 経済活動を促進するシステムを「経済活動システム」と呼び,この両社が有機的に統合 されたシステムを「環境経営システム」と位置付けている。そして,環境保全活動と経 済活動は別個に実施されるのではなく,環境経営として統合される必要を説いている。
そうでなければ,企業が環境保全活動を自主的に進めることが困難になってしまうとい う。そして,具体的な環境経営システムの推進ツールとして環境会計や環境業績評価の 重要性を指摘している。
第三に國部編著(2004)は,環境配慮型業績評価を環境問題の重要性を事業部門トッ プに認識させ,環境パフォーマンスの向上に努力させ,その成果に報いるシステムであ るとしている。つまり,環境配慮型業績評価は,企業が環境保全活動を促進するための インセンティブ・システムであるとしている。また,安藤(2004)は,環境配慮型業績 評価の目的を,従業員の環境保全活動に対するモチベーションを高めることと,環境保 全活動と経済活動を調和させるということの二つを指摘した。そして,これらの目的を 遂行するための具体的な手段として,インセンティブ・システムを位置付けている。こ
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こでのインセンティブ・システムは,人々の協働意欲を引き出すためのシステムとして 理解することができる。
第四に,環境配慮型業績評価の実施は,組織構成員の行動変革に結び付く場合があ る。Epstein(1996)は,従業員が企業の環境目標に対していかに動機づけられるかを問 題提起している。まず,業績評価が企業組織におけるインフラストラクチャーとして,
個々の従業員やマネジャー等の行動変革に重要な機能を果たしている点を指摘してい る。例えば,こうした理論的研究を実証的に検証したものとして安藤(2010 b)があ る。これは,パナソニックとキヤノンの環境配慮型業績評価に関する事例研究である が,パナソニックでは環境配慮型業績評価をCO2削減のためのツールとして活用し,
目標の1年前倒しでの達成に成功している。また,キヤノンは,環境配慮型業績評価を マネジャーらに環境を意識づける手段として活用し,社内に改善活動を展開させること に成功している。
第五に,環境配慮型業績評価は,組織構成員の意識改革に寄与する可能性がある。こ の点に関しては多くの実証的な先行研究が立証している。例えば,産業環境管理協会
(2004)は,キヤノンやリコーなどが環境配慮型業績評価を導入することにより,以前 より環境保全活動への取り組みが真剣になった こ と を 指 摘 し て い る。ま た,安 藤
(2003)や安藤(2010 a)でも同様の効果をインタビュー調査によって確認している。
その他の様々な効果として,國部(2004)の研究が興味深い調査結果を提示してい る。この研究は,IGES関西研究センターのプロジェクトの一環として,東証一部上場 企業を対象に行った2003年4月の実態調査を取りまとめたものであり,環境管理会計 の日本企業への普及と効果に関する状況を検討している。國部は,他の環境管理会計手 法に比べて,環境業績評価は様々な効果を有意にあげており,それを当手法の有する環 境保全活動全般に対するモチベーション効果であると解釈している。詳しい効果につい ては以下の第1表を参照されたい。
第4図 環境会計・環境業績評価による 環境保全活動と経済活動の結合
出典:國部(2002)
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Ⅴ 環境パフォーマンスの改善
エコ・コントロールの実施が,環境パフォーマンスの改善に影響を与えるといった研 究結果も確認できる。まず,Henri and Journeault(2010)は,カナダの製造企業303社 から収集したサーベイデータに基づき,環境パフォーマンス指標を用いたエコ・コント ロールが環境パフォーマンスや経済パフォーマンスに及ぼす影響について分析を行って いる。結果として以下の二つの点が明らかにされている。第一に,エコ・コントロール は経済パフォーマンスに直接の影響を及ぼすことはないが,環境パフォーマンスを高め ることに寄与する。第二に,エコ・コントロールは,①環境エクスポージャーが高く,
②社会による可視性が高く,③環境問題とのかかわりが高く,④企業規模の大きい文脈 において,環境パフォーマンスの向上を通じて,間接的に経済的パフォーマンスを向上 させる。
また,安藤(2010 a)では,パナソニックが環境配慮型業績評価の実施によってCO2
を30万トン削減した事例や,ソニーの独自のABC管理と併用の結果環境負荷を削減 した事例などを報告している。
Ⅵ 経済パフォーマンスの改善
環境業績評価を中心としたエコ・コントロールの実施が,経済パフォーマンスの向上 に結び付いたという研究結果は限定的である。しかし,麹谷(2005)は,コクヨのBSC
第1表 環境配慮型業績評価の内部効果
環境保全面での効果 環境配慮型業績評価導入企業 環境配慮型業績評価未導入企業
環境負荷の削減 3.24* 2.94
環境保全コストやエネルギー費の削減 3.06 3.01 環境保全コスト対環境保全効果の改善 3.18* 2.87 原材料等マテリアルコストの削減 2.75** 2.26
効果的な環境配慮型設備投資の実施 3.13 2.78
環境配慮型製品の開発 3.12** 2.46
環境リスクの低減 3.12** 2.74
環境部門への予算の獲得 2.29 2.33
企業経営の戦略的な意思決定への活用 3.12* 2.70
業績評価の改善 3.06** 2.12
注:**は1% 水準で有意,*は5% 水準で有意(両側検定)
出典:國部(2004)
同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
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を用いた環境配慮型業績評価の実施が廃棄物の削減やエコプロダクツ率の向上を通じて 経費の削減や売上,利益に貢献し始めているという事例を報告している。また,安藤
(2010 a)では,大阪ガスの事例を取り上げ,コスト削減に環境配慮型業績評価が寄与 していると報告している。
Ⅶ 結 論
本論文の目的は,エコ・コントロールの組織レベルの成果に関する先行研究を類型化 することによって,到達点と今後の課題について検討することであった。エコ・コント ロールのプロセスの解明は企業が持続可能な組織に向けて動き始める際に,組織的・社 会的な意義を持つと言える。その全貌を明らかにする起点として,エコ・コントロール の中でも重要な一プロセスである環境配慮型業績評価がもたらす組織レベルの成果につ いて,先行研究を再検討した。本論文では成果を①マネジメントの改善,②環境パフォ ーマンスの改善,③経済パフォーマンスの改善という三つの側面から整理した。
エコ・コントロールの実施はマネジメントの改善に関しては,理論的根拠やケース研 究,サーベイ研究による裏付けがなされているだけでなく,多様な効果をもたらすこと が明らかにされた。つまり,インセンティブ・システムとしてのエコ・コントロール は,マネジャーや従業員の意識的側面に環境への配慮を訴えかけ,その結果様々な行動 変革に結び付いていることが明らかとなった。また,環境パフォーマンスの改善に関し ても実証研究,ケース研究により,その効果が確認できた。
しかし,インセンティブ・システムの構築がどのようにしてモチベーションの向上,
ひいては取り組みの活性化につながったのかについては明らかになっていない。今後こ うした点について検討していくことは重要である。
さらに経済的パフォーマンスの改善については,Henri and Journeault(2010)の研究 も積極的な成果を導出してこなかった。いくらかのケース研究がもたらす成果は,いず れも無駄を省くことでコスト削減につながったというロジックである。
しかし,「環境経営」を標榜する企業が増加する一方で,単に無駄の削減がコスト削 減につながっているという結果で十分なのであろうか。そう呼ぶからには,企業が戦略 的に環境問題に取り組むことによって,新たな利益を創出している事実が重要であろ う。例えば,大西・國部(2010)によれば,リコーは新製品でも中古製品でもない,新 たなリサイクル製品市場の開発に成功した。リコーは,製品の壊れた部品のみを取り換 えることによって,新品よりも低コスト,中古製品よりも高品質のRC機の販売におい て,2006年度には約1万5千台の販売を達成して,リサイクル事業部の収支は黒字に 転換したのである。
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