屋町を事例として
著者 井口 貢, 望田 友加
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 19
号 2
ページ 147‑156
発行年 2018‑03‑01
権利 同志社大学政策学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000017001
147 Graduate School of Policy and Management, Doshisha University
概 要
本稿の目的は、滋賀県近江八幡市仲屋町にお ける実践的活動をもとに暮らしの中にある生活 文化資源の重要性が地域住民の中で内在化され る過程を明らかにすることである。
わが国における文化政策は、文化庁による文 化財保護法を中心に文化の保護と活用がひとつ の柱となっている。その政策は、保護と活用に 重点が置かれているため、その担い手である人 材の重要性については指摘されていない。しか し、こうした文化資源の保護や活用は、人々が 暮らしの中で、喜怒哀楽とともにつむぎだし継 承してきた共有の生活文化があったから初めて 成し得るものであるということを忘れてはなら ない。こうしてつむぎだされた生活の中にある 地域の文化資源を活用して、地域の自律につな がる公共政策もまたひとつの文化政策であると 考えられる。
そこで本稿では、文化政策における文化の公 共性と文化の担い手である地域住民および「よ そもの」の視点から、2016年度に実施した滋 賀県近江八幡市仲屋町における実証的研究から 考察したものである。
実証的研究の結果から、地域住民が地域資源 を内在化させていくには、「よそもの」の参加 がそのひとつ誘因として不可欠であり、それを 支援する組織の構築が必要であるということが 明らかとなった。
1
.はじめに
わが国の文化政策のひとつの柱は、文化庁を 中心として文化財保護法のもとで展開されてき た。文化財保護法は、1950年の制定以来現在ま で7回の改正が行われ、その流れの中で文化財 の保護から活用へと方向転換され、活用という 名の観光利用が推進されてきた(URL 1)。
同法では、「文化財」を「有形文化財」「無形 文化財」「民俗文化財」「記念物」「文化的景観」「伝 統的建造物群」の6つに区分し、その中では、「伝 統的建造物群保存地区の区域の全部又は一部で 我が国にとつてその価値が特に高いものを、重 要伝統的建造物群保存地区として選定」し、保 存ならびに活用に向けた施策が講じられてきた 経過にある(URL 2)。一方で、地域によっては 重要伝統的建造物群保存地区に選定されなくと も、地域資源として重要な価値を有している建 造物をはじめとした有形・無形の地域資源が存 在する。こうした地域資源は、地域の歴史や生 業を基軸とした文化形成に寄与し、人々が文化 を継承し、つむぎだされてきた暮らしそのもの である。しかし、そうした地域資源は重要な価 値があると地元住民に認識されていないことや、
一部では所有者不明の空き家が増加しコミュニ ティの衰退をも引き起こっている。また、文化 の担い手の高齢化と少子化の影響により、次世 代への継承がなされないまま放置されることも 少なくない。つまり、地域の暮らしに根差した 地域資源を保全・継承することも重要であり、
地域文化政策の実践と展望
―滋賀県近江八幡市仲屋町を事例として―
井 口 貢・望 田 友 加
1本稿では、規制の事前評価や租税特別措置等の事前評価といった事前評価における政策効果の把握についてとりあげない。
2 本稿では、政策評価法第三条における表記に依拠して、政策効果の把握という表現を用いる。しかし、「把握」の英語表記は、ʻseizeʼ ではなくʻanalyseʼとなる。その理由は、諸外国においては、政策効果は「分析」するものとして捉えられるためである(Dunn 2008:
10-13)。ただし、米国における「分析(analyze)」は、費用便益分析のみを意味する場合がある(Schick 1971)。
の文化資源を活かして、地域の福祉水準を向上 させるための公共政策である」と定義している
(井口 2011:8)。本稿においては、井口が述べ ている定義を援用するが、これらの定義に共通 しているのは、文化政策とは、公共政策である という点と、文化資源を活用して人々の生活の 質の向上につながる取組みであるといいう点で ある。したがって、文化あるいは文化資源に基 づいて展開されている公共政策であるというこ とがいえる。
次に、文化の公共性とは何かという問題が生 じる。宮本は、「個人が所有している間は文化 ではない。それが公共化されることで初めて文 化としてみんながそれを保存しまた利用し、啓 発される」と述べている(宮本 2014:95)。
つまり、宮本が述べている文化の「公共化」と は(宮本 2014:95)、地域住民または地域全体 による共有化が行われて、はじめて文化に公共 性が担保されることを明らかにしている。地域 住民または地域全体による共有化とは、地域の 人々の中に眠る知恵や技術を可視化して、地域 全体で保存、利活用することである。地域の人々 の中に眠る知恵や技術は、古老や地域の年長者 から次世代へ継承される必要がある。
2. 2 地域文化政策の担い手と外部者の視点
文化政策の主体についての議論は、数多くな されてきた。根木は「文化政策は、国・地方公 共団体と一定範囲の責任を持つ社会の合法的な 代表者による文化に関わる施策の総体」として 捉えている(根木 2010:36)。つまり、文化政 策の主体は国や地方公共団体の他、独立行政法 人等の公共セクターが担うべきであるという見 解である。しかしながら、民間部門の役割につ いても一定の見解を示し、「今後は、民間部門 を協同者(パートナー)として位置づける」と 同時に、「互いに連携協力できるような枠組み を構築していくことが重要」であると、公民連 携のあり方も模索するべきと指摘している(根 木 2010:39)。一方、池上・端・福原・堀田は、「文化政策 の主体は、政府ではなくて、NPO、大学、学会、
自治体、芸術団体、企業、企業メセナなど、実 に多様にわたり、それらのネットワークこそが、
文化政策の主体」であると指摘している(池上・ 地域の自律につながる公共政策もまた地域にお
ける文化政策であると考えられる。
2012年度から同志社大学大学院総合政策科 学研究科井口研究室では、近江八幡仲す わ い屋町を中 心とした地域住民とともに地域文化の創生やコ ミュニティの蘇生について学び、文化・芸術活 動を通じて文化政策の実践を試みてきた。2016 年度は、従来の活動を発展させて文化・芸術 活動を通じて、近江八幡に住まう人々が積極的 にまちに関心を寄せ、住民自ら地域資源を発見 し、共有化を図ることができる活動の実践を試 みた。
本稿の目的は、実践的活動をもとに暮らしの 中にある生活文化資源の重要性を、地域住民が 自ら内在化させていく過程を明らかにすること である。具体的には、2016年度に実施した滋賀 県近江八幡市仲屋町でのプロジェクトからその 過程を確認する。そこでまず、文化政策におけ る地域文化政策の役割と地域文化の担い手であ る地域住民、地域文化を外部者の目線で評価し てきた「よそもの」の重要性について考察する。
次に、実証研究を行った滋賀県近江八幡仲屋町 地区周辺について地域の文化的特徴を整理した うえで、2016年度に実施したプロジェクト内容 について述べ、そのプロジェクトの参加者への ヒアリング調査をもとに考察する。
2
.文化政策における地域文化政策と担い 手の役割
本章では、文化政策及び地域文化政策につい ての見解を示し、地域文化政策の担い手である 地域住民と地域資源を評価してきた外部者の視 点について明らかにしていくこととする。
2. 1 文化政策
文化政策の定義について、後藤は、「文化を 対象領域とした公共政策である」と述べている
(後藤2001:1)。池上・端・福原・堀田は「文
化政策とは『創造環境を整備するための公共政 策であり、地域社会や都市、あるいは企業や産 業の中にある文化資源を再評価して、創造環境 の中に位置づける』」政策であるとし(池上・端・ 福原・堀田2001:12)、さらに井口は、「常在
地域文化政策の実践と展望 149
る(Urry 2011)。すなわち景色に対する評価は、
旅行者によって見いだされ、なおかつ旅行者個 人の体験と思い出といった個人の価値観に依拠 する要素と、「場所についてのイメージとテク スト」、言い換えればテレビやガイドブック等 によって伝えられる宣伝媒体によって事前に決 定される、ということができる(Urry 2011:2)。
これは、景色についての議論ではあるが、景色 を地域資源と読み替えれば、地域資源について も同じことをいうことができる。ここで一つの 疑問が生じる。それは、個人の価値観による個 人の体験や思い出とテレビやガイドブック等に よって伝えられる宣伝媒体によって、地域資源 の評価が先行して決定されるのであれば、地域 住民はその評価をどのように受け入れられてい るのかということだ。
そこで本稿では、「よそもの」が地域の文化 資源を地域住民とどのように評価をしていった のか、そしてその評価をどのように地域住民が 内在化させたのかを実証的かつ動態的に明らか にする。本稿における「よそもの」とは、外部 者である井口研究室の学生のことを指すことと する。
次章では、井口研究室が滋賀県近江八幡市仲 屋町地区で2016年度に実施・実践した「まち
×想い★にぎわいづくりプロジェクト」につ いて述べる。
3
.近江八幡市仲屋町地区の概要 3. 1 近江八幡市仲屋町地区について
近江八幡市仲屋町地区は、JR近江八幡駅か ら北に約2㎞のところに位置している。一部が 国の重要伝統的建造物群保存地区に認定され ている地区である。2015年の総務省の国勢調 査によると、地区の人口は139人で65歳以上 の人口が61名と、全体の43.8%を占めている。一方で、0歳から14歳までの義務教育世代は わずかに9名しかおらず、少子高齢化が進行し ている(URL 3)。
次に、この地区におけるまちの成り立ちを近 世にさかのぼって概観すると、豊臣秀次(1568
~1595)が叔父の秀吉(1537~1598)によっ て大名として配され開町したことに始まる。近 端・福原・堀田 2001:12)。すなわち、政府は
文化活動に対する支援制度構築に回るべきであ るということである。片山は、こうした数々の 先行研究を整理したうえで「『住民主体』とい う概念が文化政策研究における一つの大きな議 論のテーマになっている」こと、そして「地域 内のアクターを対象にしたものである」ことを 確認している(片山 2013:13)。つまり、文化 政策の主体についての議論は地域住民が主体と なるべきか否かが議論されていることが明らか となった。
ここで二つの疑問が生じる。それは、片山が 指摘しているように「地域の文化政策を住民主 体で行うための住民自体が減少」しているため、
今後のそうした地域の文化政策を半永久的に継 承できるのか、という点と、地域住民自身が地 域の文化資源を本当に再評価できるのか、とい う2点である(片山 2015:112)。
1点目の文化政策の継承についての問題は、
地域内部で図られなければならないものであ る。文化の内部での継承という意味は、文化の 地域内部での共有化である。このことは、宮本 が指摘している文化の共有化と一致する。すな わち、文化の公共性を示すものである。
2点目の地域内部での再評価の問題について は、外部の視点が必要であることが指摘でき る。そこで、近年顕著になってきたのが「よそ もの」、「わかもの」、「ばかもの」という3つの
「もの」である。この3つの「もの」のうち、「よ そもの」についての議論は、中川が「風景を最 初に発見する人間が常に旅行者である」と述べ
(中川 2008:28)、「定住者が定住地の外側に見 い出すもの」であると指摘をしている(中川 2008:30)。つまり、地域内の資源を旅行者で ある地域外の人々が発見し評価していることが わかる。
ここで、「旅行者のまなざし」について考え てみたい。アーリによると、「ある特定の景色 へのまなざしは、個人の体験や思い出によって 決定され、その枠組みは規範や様式によるもの」
であり、「場所についてのイメージとテクスト」
によるものであると述べている(Urry 2011:
2)。こうした「枠組み」は社会・文化的な背景 が投影されて観光者が、「具体的なものや実態 的な場所を『面白い、すばらしい、美しい』と 見ることよりも先に、見える」と指摘をしてい
4
.文化政策の実践―「まち×想い★に ぎわいづくりプロジェクト」の取組み
本章では、同志社大学大学院総合政策科学研 究科と近江八幡仲屋町の「まちや倶楽部」との 協働による「まち×想い★にぎわいプロジェ クト」の概要と実施過程とその取り組みについ て述べる。4. 1 概要
「まち×想い★にぎわいづくりプロジェク ト」は、文化・芸術を基軸とした地域活性化に 寄与することを目的とする活動であり、同志社 大学大学院総合政策科学研究科井口研究室と
「近江八幡まちや倶楽部」の宮村利典が協働で 取組みを行っている。その取組みの一つとして、
近江八幡市仲屋町周辺のシルバー世代と子ども たちを対象に、「書」をテーマとしたイベント を実施し展示を行った。この「書」をテーマと したイベントの名称を「まち★たんけん」とし、
このイベントの企画を「よそもの」である学生 と宮村利典が行うことにより、外部の視点から 地域資源を評価し地域住民に提示する活動を実 施した。
まず、2017年4月から9月までの期間で「ま ち★たんけん」のイベントを実施するにあた り、近江八幡市仲屋町周辺の商店へのヒアリン グなどを行い、具体的な内容を決定し、イベン トの告知を行う広報活動を展開した。その後、
10月から12月の休日にイベントを実施した。
「まち★たんけん」というイベントは、商店街 の店主に話を聴いたり、まちの説明をしたりし ながらイベント参加者と井口研究室の学生が一 緒にまちを歩いた後、印象に残ったことについ て「書」に表現してもらうものであった。その 成果を12月から2月にかけて「近江八幡まち や倶楽部」の1階ロビーにて展示を行ったもの である。
次に、イベント参加者を近江八幡仲屋町のシ ルバー世代と子ども達にした理由とテーマ選 江八幡というまちは、「豊臣秀次が、八幡山に
城を築いた時の城下町」として誕生した(近江 八幡市郷土史会編 2002:4)のである。本能寺 の変後、安土城が廃城となったことにより、安 土城下の住民を移転させたことで、城下町とし て発展していくことになった。その後、楽市楽 座政策が推進され、各地から多くの商人たちが 集結してきたのである(近江八幡郷土史会編)。
現在も残るその地名から根拠のひとつをみるこ とができる。仲す わ い屋町という地名の由来は、「仲 買人が住み、商いでスワイを取る人」が住んで いたことによる(近江八幡市郷土史会編2002:5)。
近江八幡郷土史会編によれば、「スワイ=すあい、
売買の仲介をして利をとること。また、その利
(仲介料)やそれを生業とする人」とあり、仲屋 町地区は仲買人達を集めた地区であったことが 分かる(近江八幡市郷土史会編2002:5)。つま り、商人が集まって形成された地区であるとい える。
3. 2 仲屋町地区と伝統的建造物保存地区 の関係性
重要伝統的建造物群保存地区に認定されてい るエリアを地図で確認すると、認定地区は八幡 堀1と日牟礼八幡宮2を中心とした地区、新町 地区と仲屋町地区のほぼ真ん中を通る太線で囲 まれていることが分かる。前項で、仲屋町地区 とは「仲買人が住み、商いでスワイを取る人住 んでいた」ことから名付けられた町であること が確認できている。
前項で確認できたように同地区は少子高齢化 が進行していることから、地域の歴史や伝統を 次世代につむいでいくことが今後難しくなって いくものと考えられる。そこで、同志社大学大 学院総合政策科学研究科井口研究室では「まち
×想い★にぎわいづくりプロジェクト」と題 し、次章に示すプロジェクトを実施した。
1 八幡掘りは、かつて城があった内堀であり、まちを東西に横切る形で形成されており、両端は、琵琶湖に通じている。1969年から70
年にかけて八幡掘りを埋め立てて駐車場にする計画があったが、八幡掘りを守り後世に伝えていこうという活動が行われ、今日ではま ちを象徴するものとなっている(井口 1998)。
2 八幡山を背に鎮座し、古くから近江商人の信仰を集めている神社である(URL 4)。
地域文化政策の実践と展望 151
4. 2 イベント実施までの過程
イベント実施までに至るまで、まず会計・企 画・広報の3つの運営部門を組織し、各部門の 進捗状況を同志社大学大学院総合政策科学研究 科井口研究室のメンバー(以下、メンバーとす る)全員で共有しつつ実行した。
4. 2. 1 企画部門
企画部門では実際イベントとして行う「ま ち★たんけん」の実施企画を具現化する作業 を行っていった。具体的には、「まち★たんけ ん」のイベント参加者と仲屋町地区の商店主と の世代間の交流を実現させるため、一軒ずつ商 店を訪問し、商店主から商店の歴史や街への思 いをヒアリングのうえ、イベントへの協力依 頼を行った。結果、金物店、骨董品店、数珠・
ビーズ店の3商店、黒電話やラジオといった昭 和の家電製品を多数保有している元家電品商 店1軒、および近江八幡市の地場産業である八 幡瓦の技術や職人の思いを後世に伝えるために 1995年に開設された市立「かわらミュージア ム」4の5軒から協力を得ることができた。
なお、協力依頼に際しては、参加対象者が幼 稚園から小学校低学年の児童であることを勘案 のうえ、そうした子どもたちの歩く速さで「近 江八幡まちや倶楽部」から約1時間の散策範囲 に設定した。
次に、書や水彩のワークショップの内容を具 体化していった。ここでは、会計部門と緊密に 連携しながら、予算の範囲内で、可能な限り参 加する子どもたちが町の印象を自由に楽しみな がら表現できるよう、必要な備品を調達した。
また、備品調達と並行しワークショップを実施 する「まちや倶楽部」2階のイベントスペース についても、参加する子どもたちや保護者が楽 しくかつ安全に参加してもらうことができる空 間づくりに配慮をした。
定、実施エリアについて述べる。
4. 1. 1 対象者選定理由
対象者を選定した理由は、シルバー世代が持 つまちの記憶を次世代に伝えるということが重 要であると考えたからである。これは前章で概 観した通り、仲屋町地区では少子高齢化が進行 しており、仲屋町地区が持つ歴史性や伝統を次 世代に継承することができなくなる可能性を予 見したためである。また、シルバー世代が子ど もたちと交流をすることによって、まちの資源 についての新たな発見や創造につながりうる可 能性があることも想定された。
4. 1. 2 テーマ選定の理由
次にテーマを「書」とした理由は、近江八幡 まちや倶楽部がダウン症の書家、金沢祥子(1985
~)の個展を常設展示していたこと、同地区 内に滋賀県社会福祉事業団によって2004年に 開設された「ボーダーレスアートミュージアム
NO−MA」3があることにより、イベントで体
験したことを有形のものとして表現したもらう ことで、記録と記憶に残る活動にしたいと考え たからである。
4. 1. 3 実施エリア
実施エリアの選定に当たっては、対象者が小 学生を中心とした子どもたちであることから、
小学生が歩いても身体的に負担のかからないエ リア選定とし、まちや倶楽部を中心として半径 約1㎞にとどめることにした。なお、まちの資 源を発見することが重要であるとの認識から、
コース作成にあたっては八幡掘や安土桃山時代 の町割り、江戸時代や昭和の建造物が存在する 旧市街地が中心となるよう配慮をした。
3 「ボーダーレスアートミュージアムNO−MA」は、重要伝統的建造物群保存地区にある町家を改装し、障害者の表現活動の作品とアーティ ストの作品を展示したミュージアムである(URL 5)。
4 江戸時代から昭和にかけて八幡掘り周辺には、「八幡瓦」という瓦の製造が盛んであった。この「八幡瓦」の歴史や特徴などを展示し
たミュージアムが「かわらミュージアム」である(URL 6)。
働先のひとつである公益財団法人淡海文化財団 淡海ネットワークセンター5や京都新聞社か らの取材を受け、イベントについての紹介を依 頼した。その他、近江八幡市中間支援センター が運営するコミュニティラジオを通じイベント 開催告知の機会を得たためこうしたメディアの 活用を行うとともに、3回実施したイベント終 了直後にもホームページやフェイスブックに当 日の様子を掲載、より広範囲な宣伝活動を行っ た。
4. 2. 2 広報部門
広報部門では、2016年6月に本イベントの ホームページ、フェイスブックを作成しイベン ト実施日確定以前における広報に努めるととも に、イベント実施日確定以後、チラシを作成の うえ近江八幡市の協力の下(広報紙で公示)、9 月中旬から市内の公共施設や学童保育施設、八 幡小学校、近江八幡市中間支援センター、市内 の商店等に配布し宣伝活動を行った。また、ホー ムページやチラシによる宣伝活動以外にも、協
5 淡海ネットワークセンターは地域や社会の課題に対して自主的な活動に対して支援を行っているところである(URL 7)。
表 1 打ち合わせ・イベント内容の検討
表 2 近江八幡での活動記録
実施内容をもとに筆者作成
実施内容をもとに筆者作成
地域文化政策の実践と展望 153
コース」の2つを設定し、それぞれに分かれて 散策して頂くようにした。それぞれ、「みずコー ス」は仲屋町の商店街から八幡掘沿いを散策す るコース、「まちコース」は仲屋町から池田町を 通り、小幡町までの商店街を歩くコースである。
それぞれの散策途中、参加者はメンバーが事前 に参加を依頼した商店街の店主や、かわらミュー ジアムの館長から、街やお店の歴史に関する話 を聞き、地元の住民や商店主との交流の時間を もった。交流の時間においては、店主や館長か らのお話を聞くだけではなく、簡単なクイズの 出題や、商品を実際に参加者が触るといった、
各店舗から自主的な工夫を賜り、参加の子ども 達の好奇心を刺激する交流のひとときとなった。
また、散策の途上においても、随行スタッフが 参加の子ども達や保護者の方々に積極的に旧市 街地の特徴について語ることに努めた。
4. 4 展示
4回にわたったイベント終了後、2016年12月 25日から2017年2月28日の間、「まち★たんけん」
において子ども達が制作した作品を「まちや倶 楽部」の1階において展示した。イベントの参 加者をはじめ、賛同した商店主、「まちや倶楽部」
の来館者に、作品を通して、子どもたちが感じ た旧市街地の魅力を広く知ってもらう機会となっ た。
また、展示会初日はクリスマス・歳末(これに ついては、井口研究室の学部生が参加協力した)
ということもあり、多くの地域住民に来場しても らうことを目的に、仲屋町の「あきんど道商店街」
が主催する歳末セールイベントの開催日に設定 した。また、展示会場である「まちや倶楽部」は、
宿泊施設を運営しており、展示スペースは玄関 ロビーにあたることから、作品やイベント実施時 の風景写真を来館者が通る導線上に展示する工 夫を行った。
5
.プロジェクトの実施結果と考察
前章では、近江八幡仲屋町地区を中心に井口 研究室の学生が地域資源を発掘し、その地域資 源を地域住民に提示する活動について述べた。本章では、その活動であるイベントの実施結果
4. 3 実施当日
「まち×想い★にぎわいづくりプロジェク ト」の柱は、「まち★たんけん」というイベン トであり、2016年10月23日、10月30日、11 月20日、12月11日の計4回実施し、秋から 初冬にかけての旧市街地の風景や生活文化を参 加者に体験してもらった。本項ではその概要と 当日の参加者と商店主との交流状況について述 べる。
4. 3. 1 イベント概要
「まち★たんけん」は、はじめに近江八幡市 近隣の子どもたちやその保護者に、探検隊とし て旧市街地をまちや倶楽部を中心として1時間 程度散策してもらい、まちや倶楽部に戻って頂 いた後、参加者が散策した街の印象を自由に 表現することを目的とした描画と書のワーク ショップを行うものであった。なお、各回のワー クショップ後半では、1枚の模造紙の上に参加 者全員で寄せ書きをするとともに、各回のワー クショップ終了時には参加者全員で写真撮影を 行い、参加の記念とした。また、参加して頂い た保護者には、メッセージカードをメンバーか ら渡したうえでイベントの感想を記入してもら い、後述する展示会で展示を行った。
4. 3. 2 イベント実施当日の運営体制
当日の運営体制は、全体調整を行う担当者の 下、会場設営、散策ルートの確認及びイベント の趣旨に賛同した商店主への挨拶、参加者との 連絡調整、受付、イベントの司会、散策時の随 行、撮影、ワークショップ時の補助といった業 務をメンバーで分担のうえ、円滑な運営ができ るように努めた。また、イベント開始時の説明 や、ワークショップ実施時には特に参加してい る子どもたちにスタッフメンバーが声をかけ、初対面の参加者同士の緊張を解き、できるだけ リラックスした雰囲気を醸成できるよう配慮し た。
4. 3. 3 散策コースについて
前項の散策コースは「みずコース」と「まち
立八幡小学校内で話題になっていたことから、
参加申し込みをしたという参加者がいたことか らわかるとおり、口コミを通じて参加人員が増 加したことが分かる。いずれの増加要因も参加 した人やイベント見学者からの口コミが、参加 人員増加の要因となっている。
5. 2 参加者の居住地域との関連性
上記の参加者のうち、10月23日に実施した 回は仲屋町周辺地区以外の地区に居住する世帯 が中心であったが、前項の通り、商店街の会長 からの紹介をうけ、11月の実施回からは仲屋 町周辺地区の商店主世帯や、建物保存活動に携 わる世帯からの参加が散見されるようになり、回を重ねるたびに仲屋町地区周辺の住民の参加 や地域と主体的に関わりを持つ住民の参加が主 体となっていった。ヒアリング調査では具体的 な住所は聞いていないため、全体の参加者のう ち仲屋町周辺地区の参加者比率を示すことがで きないが、各回のイベント開始時に行う説明時 に商店主同士での会話がなされていたため、仲 屋町周辺地区の商店主の参加が多くみられるよ うになってきたことが推測できる。
5. 3 参加者へのヒアリング調査の結果
次に、参加者へのヒアリング調査を行ったう ち聞き取りができた参加保護者から以下のよう な回答が得られた。10月23日に参加した40代の女性は、「知っ ているようで知らないまちを探検できてよかっ たです。なかなかお店の方と話をする機会もな く、新たな発見ができました。」と述べている。
また、10月30日に参加した40代の男性は、「参 加してよかったです。我が町の歴史、文化に子 どもたちと触れることができ、再発見もあり、
とその考察を行う。具体的には、参加者ヒアリ ング調査に基づき、よそものによる地域資源の 発見が、地域住民にどのような効果が生まれ、
地域住民の共有化が図られたかについて明らか にする。
5. 1. 1 全体の参加者数について
4回にわたるイベントの実施の結果、参加人 数は次第に増加していったが、回を重ねるごと にイベントを実施している仲屋町地区周辺の商 店主や、建物保存活動に携わる世帯が参加する ようになっていった。ここでは、その変化につ いて述べる。4回のイベントの参加人数は、表 3のように、1回目の10月23日は、子ども6名、
保護者3名の合計9名であり、2回目の10月 30日は、子ども7名、保護者3名の合計10名、
3回目の11月20日は、子ども4名、保護者6 名の合計10名、そして4回目の12月11日は、
参加者13名、保護者6名の合計19名の参加で あった。
5. 1. 2 参加者増加の要因
この増加の要因としては次の2点があげられ る。1点目は商店街の会長からの紹介、2点目 は参加者からの紹介である。1点目については、
商店街の会長が第1回目の10月23日の開催時 にイベントを見学しており、この結果、会長か ら商店街関係者への周知が図られるとともに、
商店主の参加も散見された。たしかに、会長か らの紹介というのは、地域間での圧力が働いた という見方もできるが、本稿では、商店街関係 者のヒエラルキーについて、一切考慮していな いため、あくまで会長個人の人脈が活かされた ものであると考えられる。したがって、参加者 の増加の要因の一つでるといえる。2点目は市
開催日 10月23日 10月30日 11月20日 12月11日 計
参加人数(子) 6名 7名 4名 13名 30名
参加人数(保護者) 3名 3名 6名 6名 18名
合計(人) 9名 10名 10名 19名 48名
表 3 イベントの参加人数
参加人数をもとに筆者作成
地域文化政策の実践と展望 155
と述べていることからも確認できるのではない だろうか。
最後に、建築の保存活動に携わる参加者や、
市内で工作ワークショップを主催する参加者か ら、「今後も活動に協力したい」との申し出が あったことから、自らが担当している活動が外 部からの評価を得て、その役割を認識されたた めに活動意欲が向上し「今後も活動に協力した い」という発言になったものと考えられる。
以上のことから、よそものである地域資源の 発掘が、「まち★たんけん」というイベントを 通して、地域の生活文化資源を再認識し、商店 街や参加者間での呼びかけにより、地域内での 共有化につながる動きがみられ、地域内におけ る活動意欲が高まったことが明らかとなった。
6
.おわりに
本稿の目的は、実践的活動をもとに暮らしの 中にある生活文化資源の重要性が、地域住民の 中で内在化されていく過程を明らかにすること であった。実証的研究の結果から明らかになっ たことは、地域住民が生活地域文化資源を自己 の中で内在化させていくには、「よそもの」の 参加が、誘因として不可欠であるということで ある。さらに、「よそもの」が地域資源を再評 価し、地域住民と共有することが必要であると いうことである。なお、その共有化の過程で、「よ そもの」と地域住民との間の紐帯となり得るよ うな組織体が必要であるということが明らかと なった。
そして、その課題は、組織体が継続的に活動 できる人材と運営資金をいかに獲得するかとい うことである。課題を解決するためには、文化 資源をもとにして資金を生み出す仕組みを構築 することである。例えば、古民家再生などによ り、古民家を宿泊施設として活用し、その得ら れた資金を地域内で循環させる仕組みを構築す ることなどが考えられる。こうした地域内で循 環させる仕組みを構築することにより、地域活 性化も促進されるとともに、地域文化への関心 の高まりや地域文化資源に対する認識も深まり さらなる地域創生に繋がるものでると考えられ る。
最後に、2016年度の実証的研究については、
非常に有意義な時間でした。」としている。そ して、同じ10月30日に参加した男性は、「い ろんな近江八幡の歴史を目で見ながら教えても らえて、印象に残ってよかったです。」と話した。
11月20日に参加した男性は、「子どもの年齢
(ターゲット)はずばりだったと思います。年 長から低学年は『自分の町にあるお店を知ろう』
ということを学ぶ機会もあり、年長の頃から文 学にも興味が出る年齢層なので、子どもが何よ りも楽しんで学べていたのがよく伝わってきま した。残念ながら地元民ではありませんでした が、そうではなくてもあのように街を歩けるの は本当に貴重な体験だったと思います。」と述 べている。11月20日に参加した30代の男性 は、「近場ほど知らないことが多いと感じまし た。小学生の頃、よく歩いた道を、大人になっ て久々に我が子と歩き新鮮な気分でした。大人 の方がこうしたイベントに慣れておらず、あた ふたしてしまいましたが、子どもの方は街歩き もワークショップも自由に楽しんでくれた様子 でした。」としている。
これらのアンケート結果から共通点として指 摘できることは、地域住民(一部地元ではない 方もいるが)が自らの町の歴史や文化を再発見 しているという点である。すなわち、地域住民 が地域資源を、本プロジェクトを通じて再発見 しているということである。
5. 4 実施結果の考察
本節では、プロジェクト実施結果について考 察する。
まず、地域住民が地域資源を再認識できてい るのかという点については、前項の参加者ヒア リング調査の結果からもわかる通り、確かに再 認識に繋がっているということができる。
次に、この再認識をもたらすことになったイ ベントに、仲屋町周辺地区の商店主が次第に参 加するようになっていったことから、地域住民 に対して「自らのまちの再認識を通した新たな 自己の確認」が創出され始めているものと考え られる。これは、「まちや倶楽部」にいて起業 活動に携わっている方がこのプロジェクトに参 加した感想について、「地域に生まれ育ってい ながら、あそこまでディープに探索したのは初 めてで、発見の連続でした。楽しかったです。」
【URL】
1. 文化庁(2014)「平成24年度文化遺産を活かした観光振興・
地域活性化事業」文化庁ホームページ(2017年8月23日閲 覧、http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/joseishien/chiiki_
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2. 総 務 省(2014)「文 化 財 保 護 法」総 務 省 ホ ー ム ペ ー ジ
(2017年8月23日 閲 覧、http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/
S25HO214.html)。
3. 総務省(2015)「平成27年国勢調査小地域集計25滋賀県 人 口等基本集計に関する集計 男女別人口及び世帯数―町丁・
字等」総務省ホームページ(2017年8月23日取得、http://
www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tcl assID=000001082867&cycleCode=0&requestSender=search)。
4. 日 牟 礼 八 幡 宮(2002)「御 由 緒」日 牟 礼 八 幡 宮 ホ ー ム ペ ー ジ(2017年8月23日 閲 覧、http://www5d.biglobe.
ne.jp/~him8man/)。
5. ボーダーレスアートミュージアムNO−MA(2017)「NO−
MAについて」ボーダーレスアートミュージアムNO−MA ホームページ(2017年8月23日閲覧、http://www.no-ma.jp/
about/index.html)。
6. 近江八幡市立かわらミュージアム(2004)「近江八幡市立
かわらミュージアム」協業組合八幡瓦製作所ホームページ
(2017年8月23日閲覧、http://www.80000.jp/kawaramuseum/s_
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7. 淡海ネットワークセンター(2017)「センター概要」公益
社団法人淡海文化財団淡海ネットワークセンターホーム ペ ー ジ(2017年8月23日 閲 覧、http://www.ohmi-net.com/
category/1478793.html)。
近江八幡まちや倶楽部、近江八幡市、中心市街 地の商店街と地域住民、淡海ネットワークセン ターおよび、同志社大学政策学部・総合政策科 学研究科の活動支援、協力があった。こうした 活動支援や協力のもと、実証的取組みが実施で きた。結果として、地域の生活文化資源の共有 化と活動意欲の向上がみられたという発芽の段 階である。今後、段階的に発展させていくこと で、持続的な地域社会形成につながっていくこ とを検証していく必要がある。そのためには、
地域内でネットワークを形成して活動を行って いくことと地域の自律につながる地域文化政策 における理論的分析をしていくことが不可欠で ある。
参考文献
【日本語文献】
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池上惇・端信行・福原義春・堀田力(2001)「文化政策とは?−
文化政策とは、地域固有の創造環境をつくりだすこと」池上惇・ 端信行・福原義春・堀田力(編)『文化政策入門』1-13、丸善 ライブラリー。
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NPO法人観光力推進ネットワーク・関西日本観光研究学会関 西支部(編)『地域創造のための観光マネジメント講座』18- 29、学芸出版社。
【英語文献】
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2014、加太宏邦訳『観光のまなざし〔増補改訂版〕』法政大学 出版局。)