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(1)

中国における市場経済化と企業活動 ― 調査資料に もとづく構造的把握を中心に ―

著者 横井 和彦

雑誌名 經濟學論叢

巻 56

号 1

ページ 53‑96

発行年 2004‑06‑20

権利 同志社大学経済学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004656

(2)

【研究ノート】

中国における市場経済化と企業活動

―調査資料にもとづく構造的把握を中心に―

横 井 和 彦

1

本稿の課題と位置づけ

筆者はこれまで,新中国建国以来経済建設の主役を担い,今日なお「国民経 済における主導的な力」(憲法第7 条)とされる国有企業の改革下での危機的な 状況とその蘇生の方向性の把握を念頭におきながら,企業管理の基本原則とし て成立し,路線対立の焦点ともなった民主化・効率化の原則と,企業活動に大 きな制約をあたえた「枠」である中央集権的計画経済体制との関連を基軸に企 業の管理・運営についてつとめて実証的に考察してきた.

すなわち,二つの基本原則とは,建国初期の経済課題( 半封建・半植民地 体 制の一掃と生産力の回復・発展)に沿った 民主改革 生産改革 という実情の なかから成立したものであり,同時に本来社会主義の理念であるべき効率的で しかも公正な経済運営や労働者主権をふまえていたので,その後今日にいたる まで一応社会主義的企業管理を体現させるための基本とされていると考えられ るものである.それが中央集権的計画経済体制下では,体制の枠内における

「民主化」=共産党の路線・方針への服従,「効率化」=指令された計画の達成 に歪曲・矮小化された.しかも「計画」重視のこの体制では,その両立はきわ めて困難であり,位置づけをめぐって路線対立が続いたのである.この民主 化・効率化を縦糸に,体制の「枠」を横糸に配して,民主化については,労働 者の,企業管理への参加など 領導制度 ともよばれる広義の管理制度と,雇 用・待遇(賃金・社会保障)の制度変遷を,一方効率化については,当初は民族

(3)

資本主義企業の批判的吸収をも念頭においた 企業化 が,体制の「枠」内で は「工場化」を余儀なくされた過程を把握してきたのである1)

そしてこのような検討をふまえて前稿では,中央集権的計画経済体制から市 場経済への転換という抜本的経済体制改革の推進過程のなかで,国営(有)企 業の伝統的な管理体制が効率化に向けてどのように変革されて,そのためにい かなる政策が展開され,またそれぞれの企業が「工場」から本来の (現代)企 業 への転換の道をいかに模索してきたかについてなど,その過程と現実にお ける成果・限界を考察していきたいと考え,その一環として 改革・開放 期 における市場経済化にともなう国営(有)企業の位置づけの変化,そしてその 成果としての企業の権限拡大とそこで追求された効率化の方向性について,主 として企業法規や制度の面から検討を試みた2)

いうまでもなく市場経済のもとでは企業の効率的管理と運営はその死活を制 する根幹である.社会主義体制においても,効率化は,企業活動のすべてを支 配する原則ではないにせよ,民主化と並んで根幹であることに変わりはないは ずである.ところが計画経済期の中国においては,企業管理の細部にわたるま で共産党と国家により統制され,個々の企業はほとんどの意志決定権をうばわ れていた.そのため 改革・開放 が本格化した1980 年代半ばにおいてさえ 中国の企業は本来の企業ではなく,「工場」にすぎないとの指摘がしばしばなさ れたのである.けれども歴史的にみれば,中国において企業を企業たらしめる 企業化 への試みがまったく存在しなかったわけではなく,建国直後の 新民 主主義経済 のもとにおいては,戦火によって疲弊した生産力を早急に回復し,

1)横井和彦,(1997a)「中国における企業管理制度の展開―その基本原則と計画経済体制」『経済

学論叢』(同志社大学)第49巻 第1号,横井和彦,(1997b)「中国企業改革における効率化と民主 管理―企業管理制度を中心に」同上,第49巻 第3号,横井和彦,(1999)「中国企業における労 働者と計画経済体制―雇用・賃金・保障を中心に」同上,第51巻 第1号,横井和彦,(2000)

「中国における国営(有)企業改革と労働者―雇用・賃金保障制度の推移を中心に」同上,第52 巻 第2号,横井和彦,(2002)「計画経済期における中国企業とその『効率化』」同上,第54巻 第 1号.

2)横井和彦,(2003)「中国における市場経済化と企業の効率化―企業環境の法的整備を中心に」

同上,第54巻 第4号.

(4)

新設された国営企業を名実ともに主導的地位に高めるために, 生産改革 =効 率化の方向として,革命前の民族資本主義企業の貴重な経験の批判的吸収とそ れとの競争をも念頭においた 企業化 が志向されたのであった.

しかしその後の方針転換による急激な中央集権的計画経済体制への移行(民 族資本主義企業の社会主義的改造と中央集権的計画経済体制の確立)によって,一定 期間存続するはずであった市場の消滅とともに 企業化 への志向は早々に流 産し,すべて国営化された企業は独立性を失い,体制の「枠」内での「工場 化」を余儀なくされた.そしてこの体制のもとで追求された「効率化」は,は げしい路線対立のなかで,いわゆる 放 (地方= 塊 への分権)と 収 (中 央= 条 への権限集中)の両極の間で揺れ動き混乱を生じたばかりではなく,

結局いずれも体制の「枠」に固執したものであって真の効率化とはほど遠く,

結局「枠」自体の崩壊を招かざるをえなかったのである.

改革・開放 政策は,企業をこの「枠」から解放し,いったん流産した 企業化 への方向を再び求める過程といえよう.すなわち1978 年末の中国共

産党第11 期中央委員会第3 回全体会議(以下,中共11 期3 中全会というように略

称)から始まる試行段階においてこそは,中央集権的計画経済体制の立て直し による企業秩序の回復,つまり「工場化」による「効率化」の回復がめざされ たものの,1984 年秋の中共12 期3 中全会における「経済体制改革に関する中 共中央の決定」を起点とする推進段階においては,工場長への権限集中による 効率化が,そして1992 年初頭のB小平によるいわゆる 南巡講話 以後の加 速・推進段階では,株式制企業を柱とした 現代企業 制度の創設による効率 化がめざされているのである.

このように現在では,企業の位置づけや効率化の方向性の問題についてはほ ぼ決着し,生産の効率的な運営,すなわち生産過程そのものの改革や,経営戦 略の自主性・独自性が問われているといえよう.たとえば中国において著名な 経済学者である林毅夫(北京大学中国経済研究センター所長)も,「伝統的な社会 主義計画経済体制の改革で,どうしても避けて通れない本質的な問題とは,国

(5)

有企業の『自生能力』の問題であり,国有企業の『自生能力』の問題を解決し ない限り,私有制を含むあらゆるコーポレート・ガバナンス構造に対する改革 は無効である」と主張している.「自生能力」とは,開放された競争的な市場の なかで,正常に経営される企業が,市場から投資家に受け入れられる期待利益 率を獲得できる能力のことである3).そして従来からの「公平な競争条件の創造 こそが国有企業改革の中心とされるべき」との主張を改めて強調しているので ある.国有企業が政策的におかれている不公平な競争条件とは,①高すぎる資 本集約度,②一部の経営分野において依然として存在する価格の歪み,③従業 員福祉の重い負担,④政策を反映した深刻な余剰人員,である4)

このような国有企業の「自生能力」の問題を考察する場合,本来ならば,

党・政府の推進する路線や政策などに照らして,個々の企業のおかれた具体的 な状況にもとづかなければならないが,ひとまず本稿では,主に,対外貿易経 済合作部(日本の省庁に相当)進出口(輸出入)公平貿易局の委託研究で,中国 内外の著名な経済学者や国家統計局国民経済核算(計算)司・国際統計中心,

北京師範大学らの協力によって2003 年2 月に出版された,『2003 中国市場経 済発展報告』の第2 章(「企業の市場化」)で紹介されている調査結果,すなわち 国家経済貿易委員会政策研究室抽様(サンプリング)調査 (2001 年末締切.以 下国貿委調査)および国家統計局によって,全国の4,371 の重点企業(国家重点

企業514,中央直轄基幹産業企業181,国務院〔日本の内閣に相当〕指定の 現代企業

制度 実験100企業のうちの93社,国務院指定の国家実験企業集団の親会社121,省レ ベルの重点企業と 現代企業制度 実験企業3,000あまり)に対して行われた調査

(2001 年末実施.以下,統計局調査),および付録一(「重点業種典型企業市場化調査 統計分析」)で紹介されている, 中国市場経済発展程度課題組 による国外の対

3)林毅夫,(2002)「自生能力与改革的深層次問題」『北京大学中国経済研究中心簡報』2002年 第1

期(総第288期),二(邦訳「国有企業改革のカギとなる『自生能力』の向上」http://www.rieti.go.

jp/users/china-tr/jp/020129kaikaku.htm)

4)林毅夫・蔡C・李周〔共著〕関志雄〔監訳〕李粹蓉〔訳〕(1999)『中国の国有企業改革:市場

原理によるコーポレート・ガバナンスの構築』《充分信息与国有企業改革》)日本評論社,第5章.

(6)

中国ダンピング防止に関係する重点企業のうちの36 社に対するアンケート調査

(2001 年11 月実施.以下,サンプル企業調査)に依拠しながら5),1993 年9 月に設 立された 中国企業家調査系統 (現在は国務院発展研究中心人才中心,国務院研究 室工交司,国家経貿委企業改革司,国家統計局総合司,中国企業連合会研究部で構成)

によって毎年実施されている,企業法人代表を対象とした全国規模の組織的な アンケート調査(以下,経営者アンケート調査)の結果なども用いながら6),国有 企業を中心とした中国企業の生産=再生産活動の過程の一端を,市場経済化と のかかわりにおいて構造的にとらえてみることにしたい.

2

市場経済化の進展と企業の位置づけ7)

2. 1 試行段階

周知のように1978 年12 月の中共11 期3 中全会から1984 年秋の中共12 期 3 中全会にいたるまでの 改革・開放 の初期段階においては,改革の重点は 農村部におかれた.すなわち農業生産・経営の効率化をめざして農家請負制

( 包産到戸 包幹到戸 )が導入されて急速に普及した結果,中央集権的計画経 済体制の農村部における支柱であり,中国社会主義の象徴的存在でもあった 人民公社 は解体に追い込まれたが,農業生産および農民所得は著しく向上し た.また請負制導入によって顕在化し始めた過剰労働力を吸収する目的をも兼 ねて郷鎮企業の育成・発展がはかられ,農村部は一定の市場経済化が浸透して 目覚しい変化・発展をとげたのである.

5)北京師範大学経済与資源管理研究所著,(2003)『2003中国市場経済発展報告』中国対外経済貿

易出版社,第41 - 71頁,第306 - 322頁.

6)具体的には以下のアンケート調査を利用する.中国企業家調査系統,(2001)「企業創新:現状、

問題及対策―2001年中国企業経営者成長与発展専題調査報告」『管理世界』2001年 第4期,中 国企業家調査系統,(2002a)「企業経営者対宏観経済形勢的判断―2001年中国企業経営者問巻跟 踪調査報告」『管理世界』2002年 第1期,中国企業家調査系統,(2002b)「企業信用:現状、問題 及対策―2002年中国企業経営者成長与発展専題調査報告」2002年 第5期,中国企業家調査系統,

(2003)「中国企業家隊伍成長現状与環境評価―2003年中国企業経営者成長与発展専題調査報告」

『管理世界』2003年 第7期.

7)詳細は,横井(1997b),同(2000),同(2003)参照.

(7)

このような農村部での画期的な改革に対して,この時期の都市部の改革は,

ごく限られた範囲にとどまったが,それでも後年の本格的改革につながる市場 経済化への萌芽がすでにこの時期から始まっていた.すなわち 改革 の面で は 文化大革命 (以下 文革 )期(1966〜76年)の 下放 から都市に戻った 待業 青年への就業対策として,サービス業を中心に個人・集団所有制企業 が公認されるなど企業所有制の多様化が始まっていたのであり, 開放 の面に おいても,1980 年にその窓口として深D・厦門・珠海・汕頭に経済特区が,さ

らに1984 年には上海・天津・大連・広州など14 都市に経済技術開発区がそれ

ぞれ開設されて華僑や外資企業が進出し始めていたのである.

けれどもこれらは,当時は「共有制経済の必要かつ有益な補完物」8)として認 められたにすぎず,都市部で圧倒的な比重を占めていた国営企業は依然計画経 済体制を支える主柱として位置づけられ,なお従来の枠組みのなかに存在し続 けていた.というのもこれらの国営企業の多くは 大躍進 (1958〜60 年)から 文革 へと長年続いた激動と混乱のなかで,建国当初にめざされた効率化はも ちろん,計画経済体制の枠組みのなかでの「効率化」さえも実現できず,活力 を失っていたからである9).この時期において経済運営の主導権を取り戻したB 小平らがまず手がけなければならなかったのは,むしろ混乱した中央集権的計 画経済体制を立て直すために企業秩序の回復をはかることであったのである.

したがって都市部における改革は全体としてはなお本格化するにいたらず,試 行段階であった.

とはいえこの時期,明らかに次段階以後に展開された市場経済化への道を開く,旧来 の枠組みを超える企業改革が,試行としてではあるが大胆に推進され始めていたのも事 8)「全面開創社会主義現代化建設的新局面」(中共第12回全国代表大会,198291日)第2 項(邦訳「社会主義現代化建設の新たな局面を全面的にきりひらこう」中国経営会計研究資料叢書 編集委員会編『中国経営・経済関係資料集1949〜1992』愛知大学経営総合科学研究所,所収,

p.545,1994)

9) 文革 による「効率化」の損失については,横井(1997a)pp. 201-203,同(2002)p. 108参照.

(8)

実である.それは党や行政によってほぼ全面的に掌握されていた企業管理権限のいくつ かを,モデル企業を選んで企業次元に委譲し( 放権譲利 ),企業に意思決定権をあたえ て自主的に運用させることをつうじてその効率化・活性化を促そうとするものであっ た.

まず,1979 年7 月制定の国営工業企業管理にかんする5 つの規定10)によって生産・

経営,製造販売,資金支配,設備処分,物資選択買付の面で企業自主権があたえられ た.1980 年には自主権を資金面から保証する企業の利潤留保制度が導入され11),また原 材料の調達や製品販売などについての行政管理の枠を超えた企業間提携も追認された12)

さらに1981 年には指令的生産計画のノルマ超過分の市場流通が生産財についても制限

付きながら公認され13),資金留保の強化のために利潤上納ノルマの定額請負制などの導 入も認められ14), 放権譲利 の試行は進んでいたのである.

2. 2 推進段階

農村改革と都市部での試行の成果をふまえて,計画経済から市場経済への抜 本的な転換にふみ切った起点は,1984 年10 月の中共12 期3 中全会の「経済 体制改革に関する中共中央の決定」であった.すなわち改革初期には農村を中 心に大胆な変革を試みながらも,なお社会主義=計画経済というこれまでの通 念のもとで「計画経済を主とし,市場調節を従とする原則」15)を堅持し続けて きたが,この「決定」において「社会主義の根本的任務は,社会的生産力を発 展させること」であり,中国のように経済発展が遅れた国では「商品経済の十

10)「関於拡大国営工業企業経営管理自主権的若干規定」,「関於国営企業利潤留成的規定」,「関於開 征国営企業固定資産税的暫行規定」「関於提高国営工業企業固定資産折旧率和改進折旧費使用弁法 的暫行規定」「関於国営工業企業実行流動資金全額信貸的暫行規定」(国務院公布,1979713 日)

11)「国家経済委員会、財政部関於国営工業企業利潤留成試行弁法」(国務院指示転送,19801 22日)

12)「国務院関於推動経済連合的暫行規定」(国務院常務会議採択,198071日) 13)「関於工業品生産資料市場管理暫行規定」(国務院公布,198088日)

14)「関於実行工業生産経済責任制若干問題的暫行規定」(国務院公布,19811111日) 15)「全面開創社会主義現代化建設的新局面」第2 項(邦訳,中国経営会計研究資料叢書編集委員会,

前掲書,所収,p. 546)

(9)

分な発展は,社会経済発展のとびこえることのできぬ段階」であることを説い たうえで「社会主義計画経済は意識的に価値法則に依拠し,それを運用すべき もので,共有制をふまえた計画的な商品生産である」という苦しい論理ながら 市場経済化を正当化したのである16).それは「完全な市場メカニズムの調節に よる市場経済ではない」17)と強調されたものの,ここでは「商品生産」が基本 となり,つまるところ「計画」は修飾語の地位に転落し,計画と市場の関係は この段階でまったく逆転したのである.

その後この方針を基礎に国民経済の全般におよぶ改革が強力に推進されるな かで,1987 年秋の中共第13 回大会において 社会主義初級段階 論が提起さ れるにいたった.すなわちそれは「生産力の立ち遅れ,商品生産の未発達とい う条件のもとで社会主義を建設するとき,どうしても通らねばならぬ特定の段 階」であり「1950 年代に生産手段私有制の社会主義的改造を基本的に達成した ときから」数えて「少なくとも100 年もの歳月を必要とする」とされた.そし てこの段階の経済運営は「国が市場を調節し,市場が企業を誘導する」方式で 進められる「計画的商品経済という新しい体制」と規定されたのである18)

このような改革の全面的推進の目的は,もちろん長年の中央集権的計画経済 体制のもとで活力を失っていた経済の活性化であり,とくに経済建設の中軸を 担っていた国営企業を市場と競争のなかに投げ出すことによって効率化を促進 することに主眼がおかれた.それゆえこうした経済体制改革の導入・推進にと もない,国営企業の国民経済における役割も大きく変化したのである.すなわ ち「国民経済における主導的な力」19)としての位置づけこそ不変であったが,そ

16)「中共中央関於経済体制改革的決定」(中共123中全会採択,19841020日)第4項(邦 訳,中国経営会計研究資料叢書編集委員会,前掲書,所収,pp. 598-599)

17)「中共中央関於経済体制改革的決定」第4項(邦訳,中国経営会計研究資料叢書編集委員会,前 掲書,所収,p. 599)

18)「沿着有中国特色的社会主義道路前進」(中共第13回全国大会,19871025日)第4項(邦 訳,中国経営会計研究資料叢書編集委員会,前掲書,所収,p. 711,720)

19)「中華人民共和国憲法」(第5 期全人代第5 回会議採択,1982 年12 月4 日)第7 条(邦訳,竹内 実編訳『中華人民共和国憲法集』中国を知るテキスト〔1〕,蒼蒼社,所収,p. 114,1991)

(10)

れはもはや計画経済の支柱としてではなく 社会主義初級段階 にある「計画 的商品生産」の中心的担い手としての役割をあたえられたのである.

このような位置づけと新たな役割に沿うべく国営企業に対してさまざまな制 度的改革が加えられた.すなわち国営企業を「自主経営と損益自己負担の社会 主義的商品生産者および経営者」20)に変革するための改革は,中共12 期3 中全 会「決定」における「行政機構と企業の職責の分離」21)( 政企分開 )をスロー ガンに種々の企業自主権の拡大として推進された.これは一面ではすでに試行 段階において部分的にモデル企業に対してあたえられた権限の延長と全面的拡 大であった.けれどもその時期には明確な方向性はなく,基本的には従来の中 央集権的計画経済体制の枠内での活性化,「効率化」促進のために個々の企業 を対象とした試行にすぎなかったのに対して,推進段階においては「計画的商 品経済」体制への移行という戦略的な目標のもとに指令性計画や公定価格を縮 小し,国家がマクロ的経済調節に徹するといういま一つの方針の導入と並行さ せながら,1984 年に利潤上納の税金化= 利改税 を全企業に適用したのを手 始めに次々と本格的に拡大していったのである.

1987 年には 利改税 が順調に機能しなかったため,ノルマ制の利潤上納方

式を中心とした経営請負責任制が導入された.これは改革の後退というよりは 政企分開 の原則のもとで企業への自主権の下放が一通り進んだのをうけて,

国営企業が国家と契約を結び,法や政策にしたがって自主的に企業活動を行う ことを認めた制度とみることができよう.こうした改革に即応して「計画的商 品生産」の中心的担い手としての国営企業の役割と管理運営を律する法規とし

て1988 年4 月に「全人民所有制工業企業法」(以下「企業法」)が公布され,そ

のなかで国営企業は「法により自主経営・損益自己負担・独立計算をおこなう

20)「中共中央関於経済体制改革的決定」第3項(邦訳,中国経営会計研究資料叢書編集委員会,前 掲書,所収,p. 597)

21)同上,第6項(邦訳,同上,p. 601)

(11)

社会主義商品生産および経営の単位」22)と位置づけられたのである.

2. 3 加速・深化段階

この時期は1992 年初頭のB小平の 南巡講話 から始まった.いっそう大 胆な 改革・開放 の加速・深化を提起したこの 南巡講話 は改革派の起死 回生の巻き返しであった.

当時,計画経済から市場経済への移行が進展するなかで改革の生み出す矛盾が激化し ていた.ことに価格改革によって激しいインフレにみまわれる一方で官僚・企業幹部に よる特権的地位を利用しての腐敗( 官倒 )が横行していた.こうした状況と所得格差 の拡大傾向も加わって,ついに1989 年には 六・四事件 (天安門事件)の発生という 深刻な事態を招いた.さらにソ連・東欧の体制崩壊もあって,いわゆる保守派を中心に 和平演変 (社会主義体制の平和的転覆)の懸念が強く打ち出され 改革・開放 が後退 の兆しをみせていたのである.

すなわちB小平は,推進段階をつうじて常に存在していた社会主義=計画経 済というマルクス以来の通説を「計画が多いか,それとも市場が多いかは,社 会主義と資本主義の本質的区分ではない」23)という彼独特の言い回しによって否 定して社会主義の名のもとに市場経済化をいっそう推進し徹底させることを宣 言したのである.この B小平理論 は翌1993 年秋の中共第13 回大会で 社 会主義市場経済 論として定式化された.

この理論に依拠して以後中国は対外開放の飛躍的な拡大,企業所有制のいっ そうの多様化,第三次産業の拡充を目指した産業構造の高度化,諸要素市場の

22)「中華人民共和国全民所有制工業企業法」(第7 期全人代第1 回会議採択,1988 年4 月13 日)第

2 条(邦訳,中国経営会計研究資料叢書編集委員会,前掲書,所収,p. 743)

23)「在武昌、深D、珠海、上海等地的談話要点(1992118日〜221日)B小平文選』第 3巻,人民出版社1993年版,所収,pp. 370 - 383(邦訳「武昌,深D,珠海,上海などでの談話の 要点(1992118日〜221日)『北京週報』第32巻 第6 - 7号,所収,p. 11,1994)

(12)

整備・充実など市場経済化の徹底化を進めるなかで,いわば社会主義の証とし ての国有企業の蘇生と発展をはかろうとしているのである.すなわち1992 年7 月に公布された「全人民所有制工業企業経営メカニズム転換条例」(以下「転換 条例」)において「企業を市場の要請に即応させ,企業を法に基づいて自主経 営,損益自己負担,自己発展,自己規制をする商品生産・経営単位,及び独立 して民事的権利を有し,民事的義務を負う企業法人にすること」24)が明記され,

以下の14 項目の企業自主権が改めて規定されて碓認された.

①生産・経営の意志決定権,②製品・役務の価格決定権,③製品販売権,④物資

(資材)購入権,⑤輪出入権,⑥投資の意志決定権,⑦留保資金支配権,⑧資金処分権,

⑨企業提携・吸収合併権,⑩労働雇用権,⑪人事管理権,⑫賃金・賞与配分権,⑬内 部機構設置権,⑭割り当て拒否権

さらにこれと同時に企業の独立性と権限を法的に一段と強化し、市場のもと での企業化を強調するため,従来の 国営企業 の呼称を 国有企業 と改称

して1993 年には憲法上の表記も改められた.これらの自主権の大部分はすでに

推進段階において,行政と企業,所有権と経営権の分離( 政企分開 )の方向に 沿って導入されていたものであり,企業の呼称の変更もこれまでの流れに沿っ て当然のものであったが,改革の性格とその徹底の決意を明示したものとして 画期的意義をもつものといえよう.

これらの措置をうけてさらに1993 年秋の中共14 期3 中全会での「社会主義 市場経済体制を確立するうえでの若干の問題についての中共中央の決定」にお いて「市場経済の要請に適応した,財産権のはっきりした,権利と責任が明確 な,行政と企業が切り離された,科学的管理をおこなう現代企業制度」25)の確

24)「中華人民共和国全民所有制工業企業転換経営機制条例」(国務院公布,1992723日)第2 条(邦訳,中国経営会計研究資料叢書編集委員会,前掲書,所収,p. 947)

25)「中共中央関於建立社会主義市場経済体制若干問題的決定」(中共中央採択,1993 年11 月14 日)

一(二),二(四)(邦訳『北京週報』第31 巻 第47 号,所収,p. 2,4,1993)

(13)

立が新方針として打ち出され,同年12 月に 改革・開放 の加速・深化の段 階に対応する企業法規として「公司(会社)法」が制定・施行されたのである.

1995 年の中共14 期5 中全会では重ねて対策を決定して 抓大放小 (大を掴

み,小を放つ)を原則に大中型企業の合併・企業集団化をさらに促進するととも に,小型企業については株式合作制・リース・請負・売却などの方法をつうじ て切り離しをはかった.これは従来めざされていた個々の国有企業の効率化か ら,国有企業の再編成や国有資産の重点分野への集中をつうじた国有経済セク ターの全体としての効率化への戦略転換を意味するものである.1997 年の中共 第15 回大会においては株式制の本格的な導入が公認され,国民経済における

「公有制の主体的役割」は国や集団が持ち株において支配権を握る株式企業をも 含めて果たすものとの,公有制の拡大解釈が打ち出されるにいたった26)

そしてこうした方向に沿って国有企業改革は,金融改革・行政機構改革とな らぶ三大改革と位置づけられ「3 年前後の期間を費やして,改革,再編,改造,

管理強化を通して,大多数の大・中型国有赤字企業を苦境から脱出させ,本世 紀末までに大多数の大・中型国有中堅企業において初歩的に現代企業制度を確 立するよう努める」27)との目標がかかげられた.一方で個人・私営企業など非公 有制企業は大きく成長し,その国民経済における位置づけも,1999 年の憲法改 正で「社会主義市場経済の重要な構成要素」(第11条)28)と格上された.

さらに同年秋には中共15 期4 中全会を開催して「国有企業改革と発展の若 干の重要問題に関する中共中央の決定」を採択し,西部大開発や債務の株式へ の転換など新基軸を織り込みながら,効率化の道を模索した.その結果,2001

年3 月の全国人民代表大会(日本の国会に相当)において「2000 年度,国有及び

26)「B小平理論の偉大な旗印を高く掲げて中国の特色をもつ社会主義を建設する事業を全面的に21 世紀に推し進めよう―中国共産党第15回全国代表大会における報告」(1997912日)第5 項(『北京週報』第35巻 第40号,p. 19,1997)

27)「政府工作報告」(第9 期全人代第1 回会議,1998 年3 月5 日)第2 項(邦訳,『北京週報』第 36 巻 第14 号,pp. 8 - 9,1998)

28)「中華人民共和国憲法改正案」(第9 期全人代第2 回会議採択,1999 年3 月15 日)第16 条(邦 訳『北京週報』第37 巻 第18 号,p. 15,1999)

(14)

国有持株工業企業は2,392 億元の利潤を達成し,これは1997 年の2.9 倍であ る.国有大・中型企業の改革及び三年間で苦境から脱出する目標は基本的に達 成された」29)と宣言されたものの,国有企業の体質改善にはまだ時間がかかると の見方が大勢である.2002 年11 月の第16 回党大会において私営企業家・資 本家の共産党への入党を意図した 三つの代表 論(共産党は,①中国の先進的 な生産力の発展要求を代表し,②その先進文化の前進方向を代表し,③なおかつそのもっ とも広範な人民の根本利益を代表しなければならない)が打ち出されたのも,国有企 業が依然非効率であり,「国民経済における主導的な力」たりえないからであろ う.こうした政策的展開を背景に,2003 年3 月,「公司法」にもとづいて出資 者の職責を履行し,財産権の機能を行使して企業の国有資産に対する監督と管理 を行い,国有資産の価値の保全と増大を確保すると同時に,企業の生産経営活動 には直接関与することなく中央政府の国有資産に対する管理をよりスムーズに進 めることを目的に,国務院に国有資産監督管理委員会が発足したのである.

3

企業環境の法的整備と企業活動

「公司法」では, 現代企業制度 としての株式制企業を積極的に創設し,そ のもとに企業の意志決定機構としての株主総会や取締役会などの組織を整備し て,そのチェックによって「株主および債権者の合法的権益」(第1 条)を保護 する体制を整えたうえで,経営者( 総経理 )に実務上の強力な権限をあたえ,

これによって経営効率化をはかろうとしている(第 1 図)30).「公司法」がかかげ た株式制企業は,すでに推進段階の初期から試行としては存在し,またこれら の企業に付与されている経営自主権もすでに「企業法」「転換条例」によってか なりの程度実施されており,個別的にみれば決してこの法律に固有のものでは なかった.けれども「公司法」の制定は,株式制企業の導入を試行ではなく一

29)「国民経済・社会発展第十次五ヵ年計画綱要に関する報告」(200135日 第9期全人代第4 回会議にて)一.邦訳,『北京週報』(インターネット版),2001No. 15(http://www.bjreview.

com.cn/ bjreview/JP/File/2001-15-file1.htm),2001.

30)「公司法」の詳細については,横井(2003)pp. 168-172 参照.

(15)

国有資産監督管理委員会 

国有資産経営公司  国有持ち株会社  集団公司・総公司  出資  経営の監督 

   

 

  A  株  株主総会 

取 締 役 会  

経 営 陣  従 業 員  受託責任  取締役 

の任免  監 査 役 会  

経営責任  経営者  の選任 

 

   

 

株主  代表 

 

   

 

 

   

1) 

2) 

1)株式制導入当初は,所有と経営の分離を,資産管理に特化した独立部署による資産管理によって実 現するという構想のもと,政府に国有資産管理局が設置されたが,1998 年の国務院機構改革によって 廃止された.その結果,実際の企業資産運営は各経営体に委託( 授権 )されるようになった.委託 の対象となった経営体は2 つに大別される.①中央政府のなかの企業所轄部門を 総公司 として企 業形態に改組したもの(国有資産経営公司・国有持ち株会社).国家株の機能を,政府あるいは政府の 配下にある経営組織が担う(例:石油産業,石油化学産業).②大企業自身が,傘下の諸企業を含め た企業グループの持ち株会社とされ,グループ内の企業についての所有者権限を委ねられたもの(集 団公司・総公司).国家株であるにもかかわらず,その所有主体は政府ではなく企業とされた.こうし た状況をうけて2003 年,再度国務院に国有資産監督管理委員会(以下,国資委)が発足した.その 目的は,「公司法」にもとづいて出資者の職責を履行し,財産権の機能を行使して企業の国有資産に対 する監督と管理を行い,国有資産の価値の保全と増大を確保すると同時に,企業の生産経営活動には 直接関与することなく中央政府の国有資産に対する管理をよりスムーズに進めることにある.最大の 特徴は,党の中央企業工作委員会が握ってきた経営陣の人事権を国資委に移管し,実力本位で経営者 を任免できるようにした点である.経営者を企業業績にもとづいて査定するとともに,年俸制やスト ック・オプション制度を導入し,信賞必罰を明確にする.経営者を交代させる場合は,公募や民営企 業などからのスカウトも検討している.国有企業は2002年末で174,000社あるが,国資委が直接監督す るのはエネルギー,通信,自動車,鉄鋼など基幹産業の主要196 社.それ以外は地方政府に設立され る同様の管理機構が監督する.

2)中国の株式は,A 株(人民元建て=国内向け)とB 株(ドル・香港ドル建て=外国人向け)に分

かれており,さらにA 株は国家に帰属する国家株,特定の法人に帰属する法人株(以上,非流通株)

と証券取引所で流通する個人株に分かれる.

第 1 図 株式制(上場)企業の管理系統

(出所)李維安,(1998)『中国のコーポレート・ガバナンス』税務経理協会,p. 180 の図6 - 1 を,木崎 翠,(2002)「中国型市場経済に関する考察―企業所有の将来像」国分良成編『グローバル化時代の中 国』日本国際問題研究所,pp. 117 - 136,唐源,(2003)「国有資産のマネージャー―国有資産監督管理 委員会」『北京週報』2003 No. 20(http://www.pekinshuho.com/2003.20/200320-jj2.htm),「中国,国有 企業を業績評価―国有資産管理委が始動」『日本経済新聞』2003 年5 月23 日などにもとづいて修正.

(16)

般化することによって資産の所有権と企業の財産権をはっきり分離し,企業の 権限と責任を法的に明文化することによって,従来の自主権付与( 放権譲利 ) 方策の限界と弊害から脱却し,それによって企業の効率的運営への道を開いた 点で画期的であった.まずその実態からみてみよう.

3. 1 公司(会社)制への改組(以下, 改制 )

上記国貿委調査によると31), 改制 した国有企業は,2001 年末には64.18%

に達し,国有株式は全株式の66.52%となった.この 改制 企業の 改制 方法は,従業員持ち株方式が38.75%,発起設立方式が31.25%,相互資本参加

方式が28.75%であった.

同様に,国有中小企業については,全国のそれの81.4%が 改制 した.そ のうち株式合作制と合資形式によるものが51%占めた.国有大型企業について は,親会社の登記が国有である国有企業集団1,725 のうち,親会社が公司制で あるのは,2000 年には,1,265 集団で,73.33%を占めた.さらにそのうち,非 国有独資(その他の有限責任公司あるいは株式有限公司)が507 集団で,40.08%を 占めたのである.2001 年には同様に,1,772 集団のうち,親会社が公司制であ

るのは1,269 集団で,71.61%,非国有独資は468 集団で,36.88%を占めた

(第 1  表).上場企業については,1992 年には上場企業は53 社で,すべて国家 資本支配企業であった.それが2000 年には,上場企業総数1,086 社のうち,国 家株のない,あるいは少数の企業が458 社で,42.17%を占めたのである.その うち国家株が撤退した企業が50 社,4.60%であった.2001 年には同じく1,159 社のうち,国家株のない,あるいは少数の企業は415 社で,35.81%,国家株が 撤退した企業は55 社で4.75%を占めている(第 2 表).

一方,上記統計局調査によると32),調査重点企業のうち 改制 を実行した

のは 3,322 社で,76%に達している.そのうち国有独資公司が 866 社で,

31)本節の国貿委調査の数値は,北京師範大学経済与資源管理研究所,(2003)pp. 57 - 58による.

32)本節の統計局調査の数値は,北京師範大学経済与資源管理研究所,(2003)pp. 63 - 64 による.

(17)

26.07%,その他の有限責任公司が1,098 社で,33.05%,株式有限公司が1,191 社で,35.05%であった. 改制 企業のうち非国有独資公司が占める割合は

73.93%である.企業別にみると,国家重点企業は514 社で77.2%,中央直轄

重要基幹産業企業は181 社で21%,国務院指定の 現代企業制度 実験100

企業は93 社で82.2%,国務院指定の国家実験企業集団の親会社は121 社で

52.1%,省レベルの重点企業は1,955 社で80.2%,同じく省レベルの 現代企

業制度 実験企業は2,222 社で83.2%であった.2001 年,この 改制 した

3,322 社の資本金は 11,437 億元であり,そのうち国家資本は 7,383 億元で,

総 数  従来型の  公司制企業 

国有企業  国有独資  公司 

その他の有  限責任公司 

株式有限  公司  2000

2001

1,725

(100)

1,772

(100)

460

(26.67)

503

(28.39)

1,265

(73.33)

1,269

(71.61)

758

(59.92)

801

(63.12)

249

(19.68)

253

(19.94)

258

(20.40)

215

(16.94)

第 1 表 国有企業集団親会社における企業制度(2000・2001年) 

(単位:集団,%)

(出所)北京師範大学経済与資源管理研究所,(2003)p.58.

第 2 表 上場企業における国家資本支配(2000・2001年) 

注)株式構成を(国家株を除く)A株,国家株,その他株に分け,国家株が,過半数を  占める企業を国家絶対資本支配企業,最多数を占める企業を国家相対資本支配企業, 

(国家株を除く)A株とその他株が多数を占める企業を国家一般投資企業とした.

(出所)北京師範大学経済与資源管理研究所,(2003)p.58.

上場企業総数  無国家株企業     うち国家株撤退  国家一般投資企業  国家絶対資本支配企業  国家相対資本支配企業 

1,086 347 50 111 333 295

100.00 31.95 4.60 10.22 30.67 27.16

1,159 294 55 121 367 377

100.00 25.37 4.75 10.44 31.67 32.53 企業数(社)  比重(%)  企業数(社)  比重(%) 

2000 2001

(18)

64.55%を占めている.集団・法人資本,個人資本,外国人資本を含むその他資

本は4,054 億元で,35.45%を占めている.

サンプル企業調査33)では,サンプル企業36 社のうち,31 社が公司制を実施 し,そのすべてに取締役会と監査役会がある.

経営者アンケート調査では34),2002 年8 〜11 月時点で, 改制 をつうじた 財産権の明確化が,38.3%の経営者が完全に達成されたと認識し,37.4%の経 営者が基本的に達成されたと認識している.大企業より,中・小企業の経営者 の方が完全に達成されたとの認識が高く,国有企業ではなお半数近くが未達成 と認識している(第 3 表).

もっとも国有企業の場合,それが株式制企業を中心とする公司制企業に転化 全体 

東部地区企業  中部地区企業  西部地区企業  大企業  中企業  小企業  国有企業  私営企業  株式有限公司  有限責任公司  外資・華人企業 

38.3 43.2 31.8 35.2 29.0 39.1 42.6 11.8 72.0 42.4 51.0 64.7

37.4 36.8 39.2 37.2 43.7 37.2 33.9 39.9 25.4 43.6 36.9 28.6

24.3 20.0 29.0 27.6 27.3 23.7 23.5 48.3 2.6 14.0 12.1 6.7 完全達成  基本的に達成  未達成 

(出所)中国企業家調査系統,(2002c)p.101.

第 3 表  改革・開放 以来の企業における財産権明確化の状況(2002 年) 

〔経営者アンケート調査〕  (単位:%) 

33)本節のサンプル企業調査の数値は,北京師範大学経済与資源管理研究所,(2003)p. 306による.

34)中国企業家調査系統,(2002c)p.101.

(19)

し,民間の資本を一部導入したとしても,大半の財産権が最終的に国家に属す る限り,かつての主管行政部門から改組して成立した持ち株会社から国家を代 表して派遣される役員の企業への発言力は依然強大であり,したがって完全な 民営化が実現しない限り,国家の不当な干渉・介入はなくならず,効率化は実 現しない,との見解も成り立つ.けれども筆者は必ずしもその立場をとらない.

というのは,かつての完全な国家統制下の企業形態に比べて,民間や従業員か らの資本の導入によって国家の地位が相対化されるのは,一歩前進であるばか りではなく,「公司法」の制定趣旨に沿う限り,国家派遣の幹部といえども企業 の発展と企業財産権の維持・増殖に第一義的な責任を負っているからである.

したがって,国有企業から転化した公司制企業が今後厳しい市場競争に耐え 現代企業 として効率化を推進・達成できるかどうかは,まさしく「自生能 力」の問題といえよう.以下,実際の企業活動の一端を,調査結果をもとにみ てみよう.

3. 2 企業管理(コーポレート・ガバナンス)

国貿委調査によると35), 改制 国有企業のうち92.8%の企業は,その管理機 構が合理的,あるいは比較的合理的で,市場の要求と企業の現実に即して構築 されていると認識している.統計局調査では36), 改制 重点企業3,322 社のう

ち3,118 社,すなわち93.9%が(これはすべての重点企業の71.36%にあたる),出

資者が,職責を履行して財産権の機能を行使し,企業の国有資産に対する監督 と管理を行い,国有資産の価値の保全と増大を確保すると同時に,企業の生産 経営活動には直接関与せず,中央政府の国有資産に対する管理をよりスムーズ に進める制度を完成させているという.すなわち1,987 社が株主会を創立して いて, 改制 中非国有独資公司数の80.9%を占めている.3,196 社は取締役会 を創立して, 改制 企業の96.21%を占めている.2,786 社は監査役会を創立

35)本節の国貿委調査の数値は,北京師範大学経済与資源管理研究所,(2003)pp. 59 - 60 による.

36)本節の統計局調査の数値は,北京師範大学経済与資源管理研究所,(2003)pp. 63 - 64 による.

(20)

して, 改制 企業の83.87%を占めている. 新三会 (株主会・取締役会・監査 役会)を完全に整備しているのはすべての 改制 重点企業の80.9%に相当す る.

3. 2. 1 経営者( 総経理 など)の選定

経営者( 総経理 )の任命方法については,国貿委調査では, 改制 国有企 業のうち,経営者が非政府任命あるいは市場をつうじた招聘(取締役会の任命,

職員労働者代表大会〔 以下, 代表大会〕 の選挙などを含む)である企業の割合は

89.8%に達している.未 改制 企業においても76.4%が市場をつうじて招聘

している.両者を合わせると,経営者を,市場をつうじて招聘している割合は

86.3%である.1993 年にはこの割合は3.4%であり,1993〜2001 年の間に,年

平均49.82%上昇した(第 4 表).

統計局調査では, 改制 重点企業3,322 社の 総経理 (社長に相当)のう ち,取締役会( 董事会 )からの任命が1,876 名で,56.47%,企業主管部門か らの任命が447 名で,13.46%,行政部門が指名して取締役会から任命されてい るのが538 名で,16.2%,代表大会選挙によって選ばれて上級機関から任命さ れているのが59 名で,1.78%,人材市場をつうじて招聘されているのが22 名 で,0.66%,上級機関から任命されているのが339 名で,10.2%,をそれぞれ 占めている.これらのうち,取締役会の任命や代表大会選挙,あるいは外部か らの招聘などによる自主的・競争的選定が58.91%を占めており,その割合は,

すべての重点企業の44.77%となる.

サンプル企業調査では37),公司制を実施している31 社の 董事長 (会長に相 当)の選定については,12 社は最大株主によって,7 社は取締役会の選挙,1 社は株主総会の選挙,2 社は企業の任命,2 社は合弁双方の合意による委任で あった.この5 つの方法は市場方式に属していて,公司制企業31 社の77.42%

を占めている.7 社は政府任命で22.58%を占めている.ただしこの7 社はすべ

37)本節のサンプル企業調査の数値は,北京師範大学経済与資源管理研究所,(2003)p. 306 - 308

よる.

(21)

て国有独資公司である.

36 社の 総経理 の選定については,27 社は取締役会の任命,2 社は代表

取締役の指名で株主の手続きを経て決定,2 社は企業集団が任命,1 社は最大 資産所有者の担当である.この4 つの方法は市場方式に属していて,36 社の

88.89%を占めている.4 社は政府任命で,11.11%を占めている.この4 社は未

改制 の国有企業である.公司制企業31 社において, 董事長 と 総経理 の兼任についてみると,25 社は兼任しておらず,80.65%を占めている.6 社は 兼任しており,19.35%を占める.

さらに経営者アンケート調査によると38),2002 年時点でなお組織から任命さ れる割合が高い.とくに中・西部の企業は東部の企業より,大企業は中・小企 業より,国有企業は非国有企業より,46 歳以上の者は45 歳以下の者より,そ れぞれその割合が高い(第 5 表).

3. 2. 2 企業意思決定

企業意思決定については,国貿委調査では, 改制 前には,71.3%の企業が 集団意思決定型であり,22.1%の企業が集権型,6.6%の企業が分権型であっ た.それが 改制 後は,集団意思決定型の企業が55.8%に,集権型の企業が

18.6%にそれぞれ減り,分権型の企業が24.8%に増加した.87.8%の企業は,

改制 前後を比較して, 改制 後の意思決定の科学性(客観性)が一定程度 経営者を市場をつうじ 

て招聘している企業1) 

1993 1994 1995 1997 2000 2001

3.4 6.6 28.7 47.9 76.62)  86.3

第 4 表 国有企業において経営者を市場をつうじて招聘している企業の割合 

(1993〜2001年)  (単位:%)

1)政府による任免方式ではない場合も含む.

2)1997〜2001年の年平均値より推計.

(出所)北京師範大学経済与資源管理研究所,(2003)p.59.

38)中国企業家調査系統,(2003)p. 114.

(22)

高まった,あるいは大幅に高まったと認識している.89.4%の企業は独自に意 思決定の方法を決定しているので,89.4%の企業は意思決定の自主権を持って いるともいえる.これとは別に10.6%の企業が政府の関与あるいは指導のもと に意思決定をしている.1993 年には,意思決定の自主権を有する企業の割合は

54.9%であったが,1993〜2001 年の間に,年平均6.28%上昇した(第 6 表).

さらに2001 年までに,80%以上の国有企業が大体において上記14 項目の企

全体  東部地区企業  中部地区企業  西部地区企業  大企業  中企業  小企業  国有企業    大型    中型    小型  私営企業  株式有限公司  有限責任公司  外資系企業  35歳以下 36〜45歳 46〜55歳 56歳以上

組織任命  市場をつう  じた選択 

組織任命と市 

場選択の結合  自己創業  職員労働者 

選挙  その他  2002

45.9 41.6 49.7 50.5 66.2 44.4 36.2 90.0 93.4 90.8 85.2 2.6 30.8 23.2 30.3 29.5 38.0 50.6 50.4

56.4 53.1 60.4 59.6 74.0 55.6 40.7 88.1 91.5 87.7 82.4 4.2 42.1 35.1 37.5 36.4 51.5 61.5 59.0

3.3 3.9 2.3 3.3 3.3 3.7 2.8 0.3 0.4 0.4 0.4 3.5 4.2 4.2 15.2 5.5 5.0 2.4 2.7

2.3 2.9 1.2 1.8 2.1 2.2 2.5 0.5 5.5 0.4 0.9 3.3 2.8 2.1 11.2 5.5 2.3 1.8 2.3

11.1 11.5 10.1 11.3 13.5 11.3 9.6 6.3 5.6 6.1 7.7 2.6 22.4 12.9 14.1 10.3 11.6 11.1 10.8

12.9 13.5 13.0 11.5 13.1 13.5 11.8 7.5 0.7 8.0 10.3 4.2 22.1 17.6 18.1 15.0 14.3 12.1 11.2

24.5 28.4 21.7 19.1 9.1 24.0 33.6 0.7 0.6 0.6 0.7 86.3 20.2 34.6 34.4 45.2 1.8 19.6 19.6

16.1 0.2 10.8 12.3 5.9 15.9 26.2 0.9 0.4 1.1 0.9 84.2 12.9 23.0 24.8 31.6 19.9 11.9 15.4

13.2 12.4 14.3 14.1 6.0 13.9 16.7 2.5 1.5 2.1 5.3 3.1 19.1 21.7 2.0 6.8 11.8 14.7 13.3

10.5 8.2 13.2 13.1 3.1 11.0 17.0 2.7

− 2.7 5.5 2.8 16.3 19.5 2.4 10.3 10.2 10.9 9.8

2.0 2.2 1.9 1.7 1.9 2.7 1.1 0.2

− 

−  0.7 1.8 3.3 3.4 4.0 2.7 1.8 1.6 3.2

1.8 2.1 1.4 1.7 1.8 1.8 1.8 0.3 0.4 0.1

−  1.4 3.8 2.7 6.0 1.2 1.8 1.8 2.3 2000 2002 2000 2002 2000 2002 2000 2002 2000 2002 2000 第 5 表 企業経営者の職位獲得方法(2000・2002年) 

〔経営者アンケート調査〕  (単位:%)

(出所)中国企業家調査系統,(2003)p.114.

(23)

業自主権を実行して経営をしている.すなわち 改制 した1,994 の企業集団

の 93.4%は投資の自主権を実行し,74.5%は対外的な保証の自主権があり,

72.5%は製品を輸出入する自主権があり,53.9%は対外請負と労務協力の自主 権がある.

統計局調査によると,圧倒的多数の企業の経営者は経営管理の権限と企業の 高級管理人員の人事権をもち,自主的に任免している.すなわち 改制 重点

企業の98.89%にあたる3,285 社の経営者が会社の生産経営の管理を主宰し,取

締役会を組織してその決議を実施している. 改制 重点企業の99.1%にあた

る3,292 社の経営者は年度計画と投資計画を策定して経営することができる.

改制 重点企業の90.79%にあたる3,016 社の経営者は 副総経理 (副社 長)や財務責任者の任免権をもっている. 改制 重点企業では経営者が自主経 営管理権限をもつ割合は 96.26%で,これはすべての重点企業の73.16%にあた る.さらに各機関の職権行使の情況は,1,927 社の株主総会は経営方針と投資 計画を決定することができ,1,851 社の株主総会は取締役を決定し,替えるこ とができ,関連取締役の報酬の事項を決定する.1,951 社の株主総会は取締役 会の報告を審議して許可することができる.3,153 社の取締役会は経営計画と投 資計画を決定することができる.2,714 社の監査役会は財務を検査することがで きる.2,698 社の監査役会が 董事 , 経理 に対して,職務実行時における 法律,法規あるいは会社の規約への背信行為の監査を行う.

改制 重点企業の内部管理機構の職権実行率は82.46%である. 改制 重 点企業の労働・人事・分配を自主的に決定している企業の割合は83.73%に達

意思決定の自主権を  有する企業の割合 

1993 1994 1995 1997 2000 2001

54.9 65.8 76.4 82.4 87.6* 89.4

第 6 表 国有企業において意思決定の自主権を有する企業の割合(1993〜2001年) 

(単位:%)

*2000年の値は1997〜2001年の年平均値より推計.

(出所)第 4 表と同じ.

(24)

していて,全重点企業の63.63%に相当する.

サンプル企業調査では,投資項目の意思決定についての34 社の回答からみて みると,27 社は自主的に決定,1 社は規約によって株主総会が決定,2 社は企 業集団が決定とそれぞれ回答した.この3 つの方式は企業が完全に自主権を有 していて自主的に意思決定をしており,88.24%を占めている.2 社は政府が権 限を授け,一定の範囲内で自主的に決定と回答した.このような方式は自主的 な意思決定に近く,5.88%を占めている.その他に2 社は政府関与が存在して いると回答し,その比率は5.88%になる.

買収・合併の意思決定については,13 社が回答.そのうち10 社は自主的に 意思決定していると回答して76.92%を占めている.3 社は政府関与が存在して いると回答,23.08%を占めている(第 7 表).

生産における意思決定については,36 社すべてが回答した.35 社は自主的 に意思決定をしていると回答,1 社は企業集団が意思決定していると回答した が,この企業は企業集団の子会社であるため,実際には36 社すべてが自主的に 意思決定をしている.

製品価格の意思決定については,36 社すべてが回答している.35 社は自主 的に価格を決めていて,97.22%を占めている.1 社は一部の製品(軍用品)は 政府が価格を決め, その他( 民用品)は自主的に価格を決めていると回答,

2.78%を占めている.

製品販売の意思決定についても,36 社すべてが回答,35 社は自主的に販売 企業数(社)  割合(%) 

投資項目決定 

吸収・合併決定 

完全自主決定  基本的自主決定  政府関与  自主決定  政府関与 

30 2 2 10 3

88.24 5.88 5.88 76.92 23.08 第 7 表 サンプル企業の投資意思決定(2002年) 

(出所)北京師範大学経済与資源管理研究所,(2003)p.317.

(25)

していて,97.22%を占める.1 社については,一部の製品(軍用品)は政府が 手配し,その他(民用品)は自主的に販売していて,2.78%である(第 8 表).

企業 改制 の際の意思決定については,29 社が回答している.20 社は自 主的に決定,2 社は企業集団の許可をつうじて決定と回答し,この2 つの方式 は企業が自主的に 改制 を決めたといえ,75.86%を占めている.7 社は政府 関与が存在していると回答し,24.14%を占めている.

経営者アンケート調査では39),52.6%の経営者が自主経営権を完全に実行で きると認識していて,41.1%の経営者が基本的に実行できると認識している.

そのうち国有企業の自主権完全実行の割合が28.8%と,その他の所有制企業の

それより26%以上少ない(第 9 表).

3. 2. 3 経営者報酬制度

経営者の報酬については,国貿委調査では, 改制 国有企業のうち,53.5%

の企業は貢献と業績に連結する報酬制度を採用し,21.7%の企業は,年俸制を 採用している.統計局調査では, 改制 重点企業のうち1,474 社が経営者の年 俸制度を実行している.689 社が経営者持ち株制やストック・オプションを試

企業数(社)  割合(%) 

生産決定 

価格決定 

販売決定 

自主決定  政府関与  自主決定  部分的自主決定  政府関与  自主決定  部分的自主決定  政府関与 

36 0 35 1 0 35 1 0

100 0 97.22 2.78 0 97.22 2.78 0

(出所)第 7 表と同じ. 

第 8 表 サンプル企業の意思決定(2002年) 

39)中国企業家調査系統,(2002c)p.102.

参照

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