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(1)

国際競争と会社法立法 : ドイツにおける有限会社 法の現代化および濫用に対処するための政府草案 (MoMiG)を中心に

著者 早川 勝

雑誌名 同志社法學

巻 59

号 6

ページ 1‑72

発行年 2008‑03‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011369

(2)

国際競争と会社法立法 同志社法学五九巻六号

国際競争と会社法立法

│ドイツにおける有限会社法の現代化および濫用に対処するための

政府草案︵

MoMiG

︶を中心に│

早 川   勝

  目次  Iはじめに  II会社法の競争を促した欧州裁判所判決 III  競争力の強化のための有限会社法の改正   ⑴ 有限会社の実態と有限会社改正の経緯   ⑵ 政府草案の概要 IV  競争力の強化措置としての設立手続規制の緩和

 ⑴ 本拠地の移転   ⑵  最低資本金規制の緩和と事業者会社︵有限責任︶の設立 

  ⑶ 会社設立手続の平準化   ⑷ 政府草案の評価  V結語に代えて

︵資料︶有限会社法の現代化および濫用に対処する

ための法律改正政府草案︵試訳︶

︵二四一三︶

(3)

国際競争と会社法立法 同志社法学五九巻六号

I

.はじめに   新世紀の時代精神を体現すべく日本ではじめて誕生した二〇〇五年の会社法は︑注目すべき多くの改革を盛り込んで

いる︒その一つには︑従来主として中小会社用に定められていた一九三八年制定の有限会社法を廃止して︑有限会社を

株式会社に統合し︑統一的会社法典にしたことである︒法務省の資料によれば︑二〇〇五年一一月現在で三一九万社超

の会社のうち︑一九三万社超存在している有限会社

は︑会社法の施行後︑定款変更して登記すれば︑株式会社になるこ 1︶

とができる︒そのような手続をとらない場合には︑特例有限会社として存続し︑﹁会社法の施行に伴う関係法令の整備

等に関する法律︵平成一七年法八七号︶﹂の適用を受け︑旧有限会社法の特質を備えながら存続し続けることができる︒

株式会社と有限会社の法形式が統合された理由は︑有限会社の法形式の廃止に対する経済界の根強い要望があったか明

確にされていないが︑基本法を平仮名口語体化する政府方針が商法において実現したことによるといわれている︒つま

り︑条文を現代語化するにあたり︑有限会社法と会社法とを併存させることができなかったのである

︒新会社法は︑有 2

限会社に対する旧有限会社法における最低限の規律をかなり取り除いた変則的な有限会社を株式会社の原則とする

︒し 3︶

かし︑その結果︑新会社法の株式会社は︑﹁のっぺりとした得たいの知れぬ﹃株式会社と称するもの﹄に変質したとの

指摘もある

4︶

  日本では︑早々と今世紀用に会社法が衣替えしたが︑神田教授は︑諸外国における会社法改正の背景や動向にも視野

に入れると︑会社法の改正は︑﹁競争力を高める会社法︑IT革命に対応した会社法︑資本市場の拡大に対応した会社法﹂

を目指したものであるとされる

︒たしかにこのような観点から︑他の国における会社法制の改正の現状を見渡すと︑そ 5

の方向性が一層はっきりとしてくる︒そして︑その指摘がいかに的確で︑国際的視点に立ったものであるかが明白とな ︵二四一四︶

(4)

国際競争と会社法立法 同志社法学五九巻六号 る︒膨大な条文数を備えた新会社法も︑それに適合するための準備だったのではないかと思われてくる︒  本稿は︑現在展開されているドイツの有限会社法の改正作業の現況をとりあげる︒それは︑多くの立法政策を実現しようとする改正作業を競争を高めるための会社法︵有限会社法の︶改正という観点に立って整理してみたいという問題意識に基づく︒とくに興味がもたれるのは︑有限会社の国際競争力を高める方策として︑わが国のように株式会社に統合する方向ではなく︑有限会社の法形式は維持しながら︑神田教授が指摘されるパラダイムに転換しようとしているドイツの動きである︒これは︑新会社法が選択した方向とまったく対照的な立法方向である︒このような明確な相違が︑

有限会社法の発祥地という沿革に基づくものか︑あるいは別な要因によるのかは︑比較法的な観点からは非常に興味深

いテーマであるが︑以下では︑まず︑ドイツ有限会社法の改正がいかなる背景の下で必要となったのか︑競争力の強化

という視点から簡単に整理し︑つぎに︑どのような改正を内容としているのかその概要について言及した後︑若干の検

討をし︑最後に︑それでは競争力を高めるために一体どのような措置がとられようとしているのか整理したい︒

1︶ 河本一郎=岸田雅雄=森田章=川口恭弘﹃日本の会社法︵新訂第八版︶﹄一九頁以下︵商事法務研究会・二〇〇六年︶︑神田秀樹﹃会社法

入門﹄一四頁表一︱一 ︵岩波新書二〇〇六年︶

2︶ 掲︵

1︶一八頁︒もっとも︑立法担当者によれば︑会社法規定が分散して規定され︑分かりにくかったことから︑それを解消

するためという理由が挙げられている︑相澤哲﹁会社法制定の経緯と概要﹂ジュリ一二九五号八頁以下︵二〇〇五年︶︒さらに二本立ての

場合には︑旧有限会社法のように︑会社法の規定の準用が多くなり︑規定の内容をすぐに理解できないことも指摘されている︑龍田節﹃会

社法大要﹄一四頁︵有斐閣二〇〇七年︶︒また︑新会社法には︑規制対象の経済的実質を重視することから︑それを同じくするものには同様

な規制をするという基本的な発想があるとして︑小規模閉鎖株式会社と実質を同じくする有限会社の制度が廃止されることになった︑とす

る見方がある︑岩原紳作﹁新会社法の意義と問題点総論﹂商事法務一七七五号一二頁︵二〇〇六年︶︒適切な企業形態の選択を促すとの観測

の下で行われた改正であるとされるが︑江頭憲治郎﹃株式会社法﹄三頁注

3︵有斐閣二〇〇六年︶︑今回のこのような改正自体に対する批判

︵二四一五︶

(5)

国際競争と会社法立法 同志社法学五九巻六号

もある︑稲葉威雄﹃会社法の基本を問う﹄六二頁以下︵中央経済社二〇〇六年︶

3︶ 上村達男=金児昭﹃株式会社はどこへ行くのか﹄一一三頁︵日本経済新聞社二〇〇七年︶︒これに対して︑会社法は有限会社法を基本とす

るが︑論理的には︑原則的な株式会社は取締役会設置会社であると主張する見解がある︑稲葉威雄﹁法律の分かりやすさーこれを支えるも

のとー会社法を例にとって﹂民事時報二三二号六頁︵二〇〇六年︶

4︶ 上村達男﹁新会社法の性格と会社法学のあり方﹂森淳二朗=上村達男編﹃会社法における主要論点の評価﹄八九頁︵中央経済社二〇〇六年︶

なお︑旧有限会社についての経過措置については︑﹁会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律︵整備法︶が定める︒これについ

ては︑山本憲光﹁有限会社法の廃止に伴う経過措置﹂商事法務一七三八号一四頁以下︵二〇〇五年︶︑大賀祥充﹃﹁特例有限会社﹂考﹄山本

為三郎編﹃新会社法の基本問題﹄三一九頁以下︵慶応大学出版会二〇〇六年︶参照︒これに対して︑非公開会社に関する規制は︑ある面で

はイギリスと類似した公開会社でない会社の立法がなされていると指摘されている︑岩原紳作︵発言︶﹁シンポジウム・新会社法の意義と問

題点﹂私法六九号一〇三頁︵二〇〇七年︶︑大野正道︵発言︶・同一〇一頁以下︒

5︶ 神田・前掲書︵注

1︶︶二〇七頁︒

II

.会社法の競争を促した欧州裁判所判決   ヨーロッパにおいて会社法の競争を促すきっかけは︑欧州裁判所の共同体法における資本の移動の自由︑開業の自由 の保障に関する一連の判決である︒それらの判決のうち︑とくに︑二〇〇三年のインスパイアー判決

は︑異なる欧州の 6

会社形式間の無制限の競争を許すインパクトを強く与えたとされる

︒政府草案理由書では︑ユーバーゼーリング判決 7︶

8︶

あげているが︑以下では︑最も強いインパクトを与えたとされるインスパイア・アート判決について触れることにする︒

  ﹁事実関係﹂インスパイア・アート社︵以下

I

社︶は二〇〇三年七月に︑イギリス法に基づいて︑イギリスのフォー

クトンに定款上の本店を有する有限私会社として設立され︑オランダに居所を有する

I

社の単独取締役は︑翌月に美術

品取引を行っていたアムステルダムに支店を開設して疑似外国籍会社であることを明記せずに登記した︒アムステルダ ︵二四一六︶

(6)

国際競争と会社法立法 同志社法学五九巻六号 ム商工会議所は︑

I

社がペーパーカンパニーでイギリスでは商業活動をせず︑専らオランダにおいて活動するものと判

断し︑疑似外国籍会社であるのでオランダの外国会社に関する法律である一九九七年に制定された﹁疑似外国籍会社法

WFBV

法︶﹂に従がい︑疑似外国籍会社であるという事実の記載が必要である︑との命令を下すことをアムステルダム

地方裁判所に求めた︒それに対して︑

I

社は︑同法が定める条件に該当しないので登記手続は具備されたものであると 反論し︑さらに︑同法の定めが資本の自由な移動を定めたEC設立条約第四三条

及び開業の自由を認めた同第四八条 9︶

10

違反すると主張した︒地方裁判所は︑

I

社が疑似外国籍会社法にいう疑似外国籍会社に当たるものと判断し︑同法が共

同体法に違反するかどうか欧州裁判所の先行判決を求めて付託した︒オランダ政府は︑同法は開業の自由に関連せず︑

補足的条件を課すものであり︑これらの条件は差別的でないと主張した︒しかし︑欧州裁判所は︑同法の定める行政上

の補足的義務を認めることができず︑EC設立条約で認められた開業の自由の行使を妨げるとして︑

I

社の主張を認め︑

次のように共同体法違反であると判断した︒

  ﹁判旨﹂EC設立条約第四三条および第四八条は︑他の加盟国の法律に従がって設立された会社が当該国で支店を開

設する自由を行使する場合には︑最低資本金及び取締役の責任に関して︑会社を設立する場合に国内会社法上定められ

た特定の条件を課する疑似外国籍会社法のような会社法と抵触する︒

  したがって︑インスパイア・アート判決によれば︑最低資本金などに関する厳しいオランダの規制を回避することだ

けを目的として︑そのような規制が厳格でないイギリスのような加盟国で会社を設立して︑当初意図していた別の加盟

国で支店を開設し事業活動することが︑共同体法が保障する支店開設の自由によって認められることになるのである

11

  二〇〇三年の欧州裁判所のインスパイアー判決以後︑EUの﹁支店開設の自由﹂に基づいて︑EU加盟国で設立され

たドイツの有限会社類似の会社が︑ドイツで企業活動を行うことが許されることになった︒ドイツ法と比較すれば︑欧

︵二四一七︶

(7)

国際競争と会社法立法 同志社法学五九巻六号

州連合の加盟国の法律は︑設立手続や有限会社の設立に当たって最低資本金に関する要件が緩やかである︒そのような

国で設立された会社とドイツの有限会社とが競争をくり拡げることになった︒このような背景の下で︑欧州連合では︑

会社形式間の競争が増大したのである︒ドイツにおいては︑有限会社が競争能力を維持し強化するために︑従来の規制

を手直しすべきかどうか検討を迫られ︑結局改正することになったのである

12

01. 1260, 2003;GmbHR 10155, I.2003; EuGH Sammlung /Meilicke167-Rs. c-2003. 9. 30. EuGHv mit, Komm. 6︶ 上田純子﹁会社法・関連立法の成果

と国際会社法﹂淺木慎一=小林量=中東正文=今井克典編浜田道代先生還暦記念﹃検証会社法﹄六三六頁以下︵信山社二〇〇七年︶

州連合における営業の自由と会社の本籍│最近の欧州司法裁判所の判例を手がかりとして│﹂社会とマネジメント一巻二号一頁以下

︵二〇〇四年︶参照︒

Riegger, Centros-Überseering-Inspire Art : Forgen für die Praxis, ZGR 2004, 510f. Wacher, Wettbewerb des GmbH-Rechts in Europa-Vergleich 7 der Rechtslage in ausgewählten Ländern, GmbHR 2005, 717.; 上田廣美﹁おける﹃開業の自由︵droit d'établissement︶﹄の原則に関する

判例の変遷インスパイア・アートInspire Art Ltd.︶事件を中心に﹂奥島孝康=宮島司編・倉澤康一郎先生古稀記念﹃商法の歴史と論理﹄

七九頁以下︵新青出版二〇〇五年︶﹁共同体法における会社法の基本問題とその課題ヨーロッパ会社と開業の自由を中心に﹂慶應

法学三号二七頁以下︵二〇〇五年︶︒チマーZimmer︶︵高橋英治訳︶﹁ヨーロッパにおける会社法の競争﹂同志社法学二三二号二一五頁以下

︵二〇〇七年︶は︑﹁デラウェア効果﹂と比較できるような傾向︑とりわけヨーロッパ大陸に存在する英国会社の法形態への移行を指摘する

Rs. C-208/00; EuGH Sammlung 2002, I.9919.Rigger, Centros-überseering-Inspire Art : Folgen für die Praxis, ZGR 8︶ 二〇〇二年一一月五日判決︵

2004, 510f. イーバーゼーリング判決は︑つぎのような事案において以下のような判断をした︒オランダで設立された

B社が︑建設契約を締結

したドイツの会社に対して︑瑕疵担保責任を追及する訴えを提起した

B社は︑訴えの提起前に︑その持分を取得するドイツの社員によっ

て管理され︑事実上の経営管理の中心をオランダからドイツに移転していた︒ドイツの国内裁判所は

B社の権利能力および当事者能力を

否定して訴えを却下した︒上告を受けたドイツ連邦通常裁判所は︑本件について条約第四三条及び第四八条の解釈について欧州裁判

所に先行判決を求めた︒欧州裁判所は︑ある加盟国の法律に基いて有効に成立した会社が︑その事実上の経営管理の中心を他の加盟国に移

転した場合に移転先の加盟国の法律によって当該会社の権利能力および当事者能力が決定されるが︑移転先の加盟国の法律によって契約 ︵二四一八︶

(8)

国際競争と会社法立法 同志社法学五九巻六号 上の責任を追及して訴えを提起できないことは条約の会社の移動の自由に反する︑とした︒この判決については︑今野浩之

おける移動の自由の原則と会社の権利能力の承認﹂国際商事法務四九六号一四六二頁以下︵二〇〇三年︶︑上田廣美﹁他の加盟国に登記を有

する会社法人の当事者能力﹂貿易と関税五一巻一〇号七一頁以下︵二〇〇三年︶の紹介と解説がある︒なお︑営業開設の自由の問題を初め

て扱ったのは盟国内のあるペーパーカンパニーが他の加盟国で支店を開設して登記することを拒否することが共同体法上の開業の

自由に反するかどうかについて判断した一九九九年三月九日のツェントロス判決︵EuGH Sammlung1999, I.1459︶である︒欧州裁判所は︑こ

の判決において︑デンマーク法の下での最低資本金規制などを回避することだけを目的として︑まず英国でペーパーカンパニーを設立して

から︑営業活動をデンマークで行うために︑その支店をデンマークで設ける場合でも︑支店の登記を拒否できないと判示した︒この判決に

ついては︑由布節子﹁セントロス社事件﹂貿易と関税四八巻四号一五六頁︵二〇〇〇年︶以下︑今野浩之おける移動の自由の原則

とペーパーカンパニーの二次的開業権﹂国際商事法務四六八号七四一頁以下︵二〇〇一年︶の紹介と解説がある︒

9︶ EC設立条約第四三条︵居住・営業の自由の確保︶は︑つぎのように定める︒

  以下に定める規定の枠内で︑いずれかの加盟国の国民の他の加盟国の領域における居住・営業の自由に対する制限は︑禁止される︒この禁

止は︑いずれかの加盟国の国民が他の加盟国の領域で設立する代理店︑支店または子会社の設立に対する制限についても適用する︒

  居住営業の自由は︑営業活動が行なわれる加盟国の法律によって同国民にのために定められる条件に従がって︑自営業者として事業を行い

かつ︑活動する権利︑ならびに︑とくに第四八条第二段の意味における会社もしくは事務所を設立し︑かつ︑経営する権利を含む︒ただし

資本に関する章の規定が適用される場合には︑その限りではない︒

10︶ EC設立条約第四八条︵会社の地位︶は︑つぎのように定める︒

  加盟国の法律に基づいて設立され︑かつ︑定款上の本拠︑中心的な経営管理部門又は主要な施設を共同体の内に有する会社あるいは事務所は

本章の規定の適用に関しては︑加盟国の国民である自然人と同様に扱う︒

  会社とは︑協同組合を含む民法又は商法に基く会社及び公法又は私法に基くその他の法人をいう︒ただし︑営利を目的としない社団は除く︒

11︶ 

7の文献のほか︑本判決を扱う論文として︑マンジュク=上田廣美︵訳︶﹁インスパイア・アート判決後における共同体法上の開業の権

利と国際会社法﹂国際商事法務五二〇号一三四二頁以下︵二〇〇五年︶池田良一会社法領域における﹃営業地選択の自由の原則﹄﹃実

質的管理機能所在地理論﹄│欧州裁判所﹃インスパイヤーアート判決﹄の内容とその会社法における意義を中心に│﹂国際商事法務

五二四号一七一頁以下︵二〇〇六年︶がある︒

︵二四一九︶

(9)

国際競争と会社法立法 同志社法学五九巻六号

12Begründung, S. 55. ︶ 

III

  競争力の強化のための有限会社法の改正   ⑴ 有限会社の実態と有限会社改正の経緯   有限会社法は︑合名会社や合資会社のように自然発生的に商人が慣用することによって発展してきたものではなく︑

ドイツで︑一九八二年四月二〇日に︑中小規模の企業が有限責任を利用できるようにするため︑机上で人為的に考案さ

れた会社形式である

︒この簡易な株式会社ともいえる会社形式は︑欧州 12

や日本で普及し︑二〇〇四年末現在では︑中小 13

規模の会社が最も頻繁に利用している会社形式で︑ドイツ経済にとってきわめて重要である

14

  ドイツ有限会社法は︑一九八〇年七月四日に比較的大きな改正がなされた︒しかし︑それからは株式法におけるよう に頻繁に繰返される細切れの改正

もなかった︒その後︑州の法務省と大臣が︑二〇〇二年一一月一四日に連邦法務省に 15

対して行った有限会社改正の必要性に関する調査を要請した︒これが︑今回の改正の最初のきっかけとなった︒連邦法

務省は︑これを契機に︑司法︑学界︑実務の専門家に対して︑企業部門における有限会社の濫用的な利用に対処するた

めの改正提案を要請した︒この国内事情に国外での事情も加わった︒それは︑すでに前章で触れた営業の自由に関する

欧州裁判所の一連の判決である︒とくに︑二〇〇三年のインスパイアー判決後はドイツの有限会社の法形式は︑共同体

法上の支店開設の自由により︑ドイツで営業活動する他の欧州連合加盟国の類似する会社形式との競争にさらされるこ

とになった︒会社の設立手続きや最低資本金に関する規制は︑ドイツよりもより緩やかであるからである︒ ︵二四二〇︶

(10)

国際競争と会社法立法 同志社法学五九巻六号   連邦政府による最初の第一歩は︑二〇〇五年六月の有限会社の最低資本金の新規制のための法律案

であったが︑これ 16

は立ち消えになった︒さらに︑二〇〇五年に締結されたCDUとCSU及びSPDの連立政権協定において︑有限会社

法の包括的な現代化の試みが話し合われた︒

  連邦司法省は︑二〇〇六年五月に︑﹁有限会社法の現代化および濫用に対処するための法律︵

MoMiG

・モミック︶﹂ の参事官草案

を公表した︒さらに︑第六六ドイツ法曹大会が︑二〇〇六年九月に︑改正問題を取り上げ 17

︑その他︑ZG 18

R誌

や会社法協会 19

のような専門家によるシンポジウムで取り上げられ︑改正議論が重ねられた︒同時に︑ドイツ弁護士 20

会商法部会委員会の意見表明︑そのほか多数の意見表明がつぎつぎに公表され︑その意見は分れていたが︑決定的な拒

絶反応は見られなかったといわれている

︒連邦政府は︑これらの様々な分野の意見を踏まえて︑二〇〇七年五月二三日 21

に同法政府草案︵以下︑政府草案という

︶を公表した︒同法案では︑参事官草案の規制を実質的には参考にしているが︑ 22

多くの変更が加えられ︑またまったく新しい規制も含まれている︒関係者の見通しによると︑恐らく本年秋に成立し︑

二〇〇八年の最初の四半期には発効することが予測されている

23

12RGBl. S. 477; Roth / Altmeppen,GmbHG Konmtntar, 5 Aufl. 2005, Einleitung, Anm. 5.︶ 

13︶ ポルトガル︑オーストリア︑イングランド︑フランスルクセンブルグ︑ベルギー︑イタリア︑スペインギリシャ︑アイルランド︑オ

ランダ︑デンマーク等で採用されているとされる︑荒木和夫﹃ドイツ有限会社法解説︵改訂版︶﹄九頁︵商事法務研究会二〇〇七年︶

14︶  ドイツ商工会議所の統計によれば

︑二〇〇四年末の有限会社数は

︑七八万八二四六社である

GmbHR 2004, 1417

︶︒これに対して

二〇〇二年一二月三一日現在の株式会社の数は一万四八一四社である︑荒木・前掲︵注

13︶九頁︒なお︑出所が明確にされていないが︑理

由書では約九〇万社Begründung, S. 59. ベルツ︵神作裕之訳︶おける会社形態の競争とドイツ有限会社 ドイツ有限会社法改正に寄

せて﹂ソフトロー研究八号六六頁︵二〇〇七年︶によれば︑約一〇〇万社存在すると指摘されている︒

︵二四二一︶

(11)

国際競争と会社法立法 一〇同志社法学五九巻六号

15BGBl. I 1994 S. 1961︶ 一九九四年に小株式会社法および株式法の規制緩和のための法律︶︑一九九八年に企業分野における監督と透明化の

ための法律︵KonTraG, BGBl. I 1998 S. 786︶︑同年に無額面株式の許可法︵StückAG, BGBl. I 1998 S. 590︶︑同年に資本調達簡易化法︵BGBl. I,

S. 154︶︑二〇〇一年に記名株式及び議決権行使の簡略化のための法律NaStraG, BGBl. I 2001 S. 123︶︑二〇〇二年に株式法と貸借対照表法

の改正及び透明化と開示に関する法律︵TransPuG, BGBl. I 1994 S. 2681︶︑二〇〇五年に企業の健全化と取消権の現代化のための法律︵UMAG,

BGBl. I 2005 S. 2802︶が制定され︑株式法が部分的に改正されてきた︒詳細については︑小柿武徳﹁ドイツにおける会社法の改正動向﹂商事

法務一五六八号五八頁以下︵二〇〇〇年︶︑同・﹁ドイツにおける会社法改正の動向﹂森本滋編著﹃比較会社法研究二一世紀の会社法制を模

索して﹄五〇頁以下︵商事法務研究会二〇〇三年︶

16MiKaTraG, BR-Drucks. 619/05. ︶ 最低資本金を二万五〇〇〇ユーロ︵五条一項︶から一万ユーロに引き下げることを内容とする︒二〇〇六年

一月一日に発効すること企図されていたが︑第一五被選期間には法律にならなかった︒同法案についてはK. Schmidt,. . . ut aliquid fiat -

Von der “GmbHReform 2005” zum Referentenentwurf eines Mindestkapitalgesetzes, DB 2005, 1095; Seibert, BBGesetzgebungsreport:Entwurf eines MindestkapitalgesetztesMindeskapG - Substanzielle Absenkung des Mindeststammkapitals, BB 2005, 1061. 17Referrentenentwurf eines Gesetzes zur Modernisierung des GmbHRechts und zur Bekämpfung von MissbräuchenMiMoG, www. bmj.︶ 

de;www. rws-verlag. de

Leuering/Simon, Der Referentenentwurf zur GmbH-Reform; NJW-Spezial 2006, 315 f.;

Noack, Reform des deutschen Kapitalgesellschaftsrechts - Das Gesetz zur Modernisierung des GmbH-Rechts und zur Bekämpfung von

Missbräuchen, DB 2006, 1475 ff.; Seibert, GmbH-Reform - Der Referentenentwurf eines Gesetzes zur Modernisierung des GmbH-Rechts und zur Bekämpfung von Missbräuchen - MoMiG, ZIP 2006, 1157 ff.; Gesmann-Nuissl, Quo vadis GmbH? - zum Entwurf des Gesetzes zur Modernisierung des GmbH-Rechts und zur Bekämpfung von Missbräuchen MoMiG, WM 2006, 1756ff.; Romermann, Der Entwurf des “MoMiG” - die deutsche

Antwort auf die Limited, GmbHR 2006, 673 ff.; Schäfer, Reform des GmbHG durch das MoMiG - viel Larm um nichts?, DStR 2006, 2085ff.; Triebel/

Otte, Reform des GmbH-Rechts: MoMiG - ein vernünftiger Schritt zur Stärkung der GmbH im Wettbewerb oder Kompromiss auf halber Strecke? ,

ZIP 2006, 1321 ff. ベルツ︵Fn. 14︶ソフトロー八号六五頁以下が公表されている︒わが国の会社法と比べ︑最低資本金制度の維持や有限会社

法制の濫用防止のための法整備︵倒産法における社員貸付の劣後的扱い︑経営危機に会社役員不在の場合には社員が倒産申立て義務を負う

社員に支払いをした会社役員の損害賠償義務︑役員の欠格事由の拡大など︶を図ろうとする点で対照的であると評価されている︑岩原・︵2︶

商事法務一七七五号六頁︒ ︵二四二二︶

(12)

国際競争と会社法立法 一一同志社法学五九巻六号 18︶ 

Verhandlungen des 66. Deutsachen Juristentages, 2006, Bd. 1, Gutachten Haas;Bd. 2 Referate vonHirte, Kleindiek, J. Vetter.

19Beiträge vom , ZGR 2007, 168f. Eidenmueller, Bayer, Bork, Kleindiek︶  20Die GmbHReform in der DiskussionBeiträgen von Behrens, Hommelhoff, Joost, ︶ 二〇〇六年一一月三日に﹁﹂というテーマで開催された︑

Lutter, Priester, K. Schmidt, Wachter, Zöllner.

21Noack, Der Regierungsentwurf des MoMiGdie Reform des GmbHRechts geht in die Ende, DB 2007, 1396. ︶  22Regierungsentwurf eines Gesetzes zur Modernisierung des GmbHRechts und zur Bekämpfung von MissbräuchenMiMoG , www. gmbhr. ︶ 

de/volltext. htm, BR-Dr 354/07, ZIP 2007, Beilage zu Heft 23, S. 3f.

23Bundesministerium der Justiz, Reformen für Gründer - Das MoMiG, 23. Mai 2007, http:www. bmj. bund. de;, Der Regierungsentwurf des Seibert︶  MoMiG und die haftungsbeschränkte Unternehmergesellschaft, GmbHR 2007, S. 678.; derselber., Close Corporations-Reforming Private Company

Law: European and international Perspectives, EBOR 2007, 83f.

⑵ 政府草案の概要

  政府草案は︑参事官草案に基礎を置きながらも︑その内容を改正すると共にまったく新しい内容も提案している︒そ の目的と改正の方向を︑法務大臣ツィプリース︵

Zypries

︶が次のように簡明にわかりやすくまとめている︒﹁新有限

会社法は︑企業家のアイデアを迅速かつ簡単に実行に移すために︑発起人と投資家に必要な法的枠組みを提供する︒有

限会社は︑明らかに容易にかつ早く設立できるようになる︒同時に︑定評と成果のあるこの企業形式を国際競争に適合

できるようになる︒既存のデメリットは埋め合わせ︑メリットはそのまま活かしてゆく︒経営危機の場合や倒産の場合

に債権者をより良く保護する︒有限会社は︑中小の企業にとっては近代的でスラリとした法形式になる

︒﹂それでは︑ 24

︵二四二三︶

(13)

国際競争と会社法立法 一二同志社法学五九巻六号

政府草案にはどのような内容が盛り込まれているのか︑政府草案理由書や法務省が公表しているプレス・リリースによ

りながら︑次章でその概要について触れることにする︒

1

.設立の迅速化   改正法の核心は︑企業の設立の容易化と迅速化にある︒それによって︑有限会社法の競争力が高められる︒これに関

連した規制については後述する︒有限会社の最低資本金は︑規制を全廃するのではなく︑引き下げを行い︑同時に最低

資本金の規制を受けない﹁事業者会社︵有限責任︶︵

Unternehmergesellschaft

UB

︶ ︵

haftungsbeschränkt

︶︶という有

限会社の変種を導入し︑いわば二頭立ての有限会社を目指す︒最低資本金の規制も競争力と密接な関連性があるので︑

後述することにして︑つぎに︑政府草案の資本拠出の簡易化と持分を安全に譲渡する制度についてみることにする︒

⒜ 資本拠出の簡易化と持分の譲渡

  ①社員は︑個々に︑その資本金の額を決定し︑そのことによって必要性と資金調達の可能性によりよく適合する会社 を設立できる︒現行法上は︑出資額︵

Stammeinlage

︶は︑最低一〇〇ユーロで︑五〇で割り切れる額でなければなら

なかった︵現行法第五条一項︑第三項第二文︶︒しかし︑政府草案は︑各持分は︑最低限︑一ユーロの金額で表示しな

ければならないとする︵第五条二項︶︒これにより︑既存の持分は︑将来︑簡単に細分化することができる︒

  ②ドイツの有限会社は︑持分単一主義に基づいており︑これは︑持分複数主義の下にあったわが国の有限会社と異な ︵二四二四︶

(14)

国際競争と会社法立法 一三同志社法学五九巻六号 る︒各社員の持分は︑一個で︑社員によりその分量を異にする︒持分の分割は︑持分の譲渡と相続の場合に限られる︵現

行法第一七条第六項第一文︶︒持分の併合は︑基本出資が完全に払い込まれ︑複数の持分の間に権利と義務に相違がな

い場合に︑総会決議によって行われる

︒これに対して︑政府草案は︑持分の柔軟化を企図し︑持分の分割︑併合を簡単 25

に行うことができるようにし︑持分の一部もしくは複数の持分を第三者に譲渡できるようにする︵政府草案第一五条︑

以下条文数のみ示す︒︶︒

  ③形式的に現金出資が合意されかつ給付されても︑会社が︑経済的にみて︑財産︵

Sachwert

︶を保有すことになる 場合には︑隠れた現物出資とされ︑これについて判例法が形成されている

︒判例によれば︑会社の倒産の際に︑隠れた 26

現物出資をした社員は︑その出資を二倍給付しなければならない︒したがって︑このような厳しい結果に対して批判が

集中していた︒そこで︑政府草案は︑隠れた現物出資について法律で規制を設けてその法律関係を明確にし︑法的安定

性を図っている︒つまり︑社員は︑隠れた現物出資をもって自己の義務を会社に対して履行することができる︒しかし︑

社員は︑隠れた現物出資の価値が引き受けた現金出資額に達していることを証明しなければならない︒社員が証明でき

ない場合には︑その差額を現金で払い込む︵第九条︶︒

⒝ 登記の迅速化

  ①二〇〇七年に発効した電磁式商業登記簿と協同組合登記簿ならびに企業登記簿に関する法律︵EHUG

︶は︑会社 27

の登記手続を迅速化している︒それによれば︑有限会社の設立登記に必要な書類は︑原則として︑登記裁判所に電磁式

で提出すればよい︒政府草案は︑さらに︑手工業︑レストラン業又は建設業など営業許可が必要な分野において︑登記

︵二四二五︶

(15)

国際競争と会社法立法 一四同志社法学五九巻六号

手続をさらに迅速化できるように配慮している︒つまり︑そのような会社は︑会社登記の際に現行手続きのように国の

認可書︵現行法第八条第一項第六号

︶を添付する必要がなくなるからである︒ 28

  ②現行法によれば︑一人会社を設立する場合には︑資本金の全額を出資し︑金銭出資の未払込部分について担保を設

定しなければ登記申請できないとされ︵現行法第七条第二項第三文︶︑持分が一人の社員に帰属して一人会社になる場

合には︑社員は金銭出資を三カ月以内に全額払込み︑会社に対して未払込金額について担保を設定しなければならない

︵現行法第一九条第四項︶︒政府草案は︑このような制限を廃止する︒それによって︑一人会社の設立も︑また登記後に

一人会社になることも容易になる︒

  ③政府草案は︑設立の検査において︑資本が正規に拠出されたかどうか重大な疑いがある場合にだけ︑登記裁判所が

払込証明書またはその他の証明書の提示を要求できることを明文をもって定める︵第八条第二項第三文︶︒さらに︑現

物出資の場合には︑著しい過大評価の存否についてのみ登記裁判所が検査する︵第九条c第一項第二文︶︒このように︑

設立検査は︑株式会社の法状況に準じて︑極端な場合にだけ行われる︒

2

.法形式としての有限会社の魅力の向上   有限会社の法形式が魅力あるものとする一連の措置は︑設立の場合に限られるのではなく︑市場で活動する企業とし

ても講じられる︒法形式の競争におけるドイツ有限会社の不利が埋め合わせられる︒ ︵二四二六︶

(16)

国際競争と会社法立法 一五同志社法学五九巻六号 ⒜ 持分の透明化の向上   政府草案は︑社員名簿に登録された者を社員とみなす︵第一六条一項︶︒これは︑株式法上の株主名簿を手本にして

いる︒取引の相手方は︑会社の背後者を完全にかつ簡単に捉えることができる︒新入社員は︑社員名簿への登録請求権

をもつ︒持分所有者の構造が透明になれば︑金銭の浄化のような濫用の防止に役立つ︒これによって築かれたドイツ有

限会社に対する信頼は︑取引の機会に対しても有利に働く︒

⒞ 持分の善意取得

  持分の柔軟化により︑有限会社の持分の譲渡が簡易化されることは既に触れた︒しかし︑現行法上︑持分譲渡の場合

には︑持分が譲渡人以外の者に所属している場合には︑持分の取得者がその場合の危険を負担している︒そこで︑政府

草案は︑持分を取得した者は︑社員名簿に登録された者が真正の社員であることを信頼できるようにする︒商業登記簿

に提出される社員名簿の価値が高められるので︑善意取得について連結点となる︒持分の完璧な証明は︑非常に費用が

かかっていたが︑これが不要となり︑その結果︑法的安定性がえられ︑さらに︑透明化のための費用を節減できる︒社

員名簿に不実な登記が三年を越えない期間異議なく継続する場合には︑社員名簿の内容が︑取得者に対しては︑真実と

みなされる︒不実が︑真の権利者に帰すことができる登記が三年を超えない期間継続する場合についても準用する︵第

一六条三項︶︒これにより法的安定性が高められ︑取引費用が軽減される︒古い有限会社の持分の譲渡が容易になる︒

︵二四二七︶

(17)

国際競争と会社法立法 一六同志社法学五九巻六号

⒟ 資本の維持

  現行法第三〇条に関する最近の連邦通所裁判所の判決

は︑準備金もしくは繰越利益でなく有限会社の拘束された財産 29

の負担でなされる社員への信用の付与は︑社員に対する返還請求権が個々の場合に完全に価値があるときも︑禁止され

た会社財産の支払いと評価しなければならない︑と判示する︒政府草案は︑この判決が実務における法的安定性を害す

るものと判断して︑一般的規定を設けて︑会社財産を会計上考慮する方法︵

bilanziellen

Betrachtung

︶に戻る︒計算

には︑貸借対照表上の原則が適用される︒完全に等価の返還請求権によって充当されている給付の場合には︑資産の交

換が行われている︒社員に対する債権の事後に予測できない不都合な展開は︑もはや貸借対照表上の価値減少は事後に

なって禁止された支払いに導くものではない

︒会社の社員に対する給付は︑資産の提供がある場合︑つまり︑社員に対 30

する会社の返還請求権がその支払いを完全な価値で充当する場合には︑会社財産の禁止された払戻しと評価されない

︵第三〇条第一項第二文︶︒請求できたのに債権をそのまま放置していた場合に︑業務執行者は︑注意義務違反になるこ

とがありうる︒また︑事後の価値減少によって︑資本金が減少した場合に関する第四九条第三項による損失届出義務が

生じることがありうる︒このような規制に準じた規制が︑資本拠出の分野でも行われる︒

⒠ 自己資本の補充に関する規制の緩和

  現行法は︑自己資本貸付に関する規制︵現行法第三二条a︑第三二条b︶を設けているが︑判例も積み重なり︑非常

に複雑になってきた︒社員が会社に付与した貸付金は︑もし資本として扱われる場合には︑倒産の際には︑その返済が ︵二四二八︶

(18)

国際競争と会社法立法 一七同志社法学五九巻六号 他の債権に劣後することになる︒健全な有限会社の機関と社員には︑単純で明確な法的枠組みが準備されるべきである

31

資本補充規制は︑非常に簡単になり︑明確になる︒倒産法の規定が改正され︑現行法第三〇条に関する判例法は廃棄さ

れる︵第三〇条第一項第三文︶︒さらに︑有限会社法上︑資本を補充する社員貸付と通常の社員貸付との区別をやめて︑

従来の問題は倒産法において規制する

32

3

.経営危機における有限会社の濫用をなくすための措置   政府草案は︑有限会社の利用を便宜にするための措置を講じるが︑他方で︑有限会社の法形式と関係する経営危機に

おける濫用に対処するための措置を講じる︒有限会社の法形式の濫用が目立つのは︑所謂﹁企業の埋葬屋︵

Firmenbestatter

︶ ﹂

といわれる濫用である︒つまり︑業務執行者を解任したり︑営業所を閉鎖したために経営がかたむいているにもかかわ

らず︑有限会社を正規の破産や清算をさせないようにするのである︒そうなれば︑損害を蒙る債権者が増大し︑また蒙

る損害もますます大きくなる

︒このような経済的危機における有限会社の整理屋を介した濫用に対しては︑政府草案は︑ 33

大別して︑二つの方向で措置を講じる︒まず︑そのような場合に︑有限会社への訴状の送達が簡易化される︒つぎに︑

会社の管理者の行方が不明で︵

Führungslosigkeit

︶倒産の機が熟している場合に︑社員も破産を申立てる義務を負う︒

さらに︑業務執行者は︑社員に対する支払いが会社の支払い不能をもたらしたにちがいない場合には︑返済義務を負う︒

また︑社員に対する貸付法を新たに規制する︒以下で︑具体的な対策をもう少し詳しくみることにする︒

  ①会社に対する権利追求が促進される︒そのためには︑債権者が誰に対して自己の請求権を行使するのかわかってい

ることが前提となる︒それ故︑商業登記簿には国内の営業所の住所も記載する︵商法第一三条第一項︑第二項等の改正︶︒

︵二四二九︶

(19)

国際競争と会社法立法 一八同志社法学五九巻六号

登記された住所への訴状の送達が事実上不可能な場合には︑法人に対して︑国内における公的送達を利用する可能性が

改善される︵商法第一五条a︶︒費用と送達の問題に直面していた有限会社の債権者には非常に重要な規制緩和となる︒

  ②社員は︑会社を管理する者がいなくなった場合には︑支払い不能及び債務超過において倒産を申し立てる義務を負

う︒会社に業務執行者がいない場合には︑各社員が︑業務執行者に代わって倒産を申し立てる︒ただし︑倒産事由また

は管理者の不存在を知らない場合には︑社員にはこのような義務はない︒倒産法の改正によって︑業務執行者が地下に

潜っても倒産申立て義務を回避することはできなくなる

34

  ③社員が会社を丸裸にするために補助金を給付し︑その結果︑会社に支払い不能をもたらした業務執行者は︑義務

を課されるべきである︒それを可能にするように︑支払い禁止に関する現行法第六四条はわずかばかり拡大される︒

  ④業務執行者の資格剥奪事由︵第六条第二項第三文︶が拡大され︑倒産の引延ばしに基づく罪などにも及ぶことにな

る︵刑法第二六五条b︑第二六六条もしくは二六六条aの改正︶︒経済刑法の中核的規定に違反したものは︑もはや社

員に選任されることはできない︒これは︑外国における比較できる犯罪にも適用される︒

24Bundesministerium der Justiz, Fn. 23 http:www. bmj. bund. de︶ 

25︶ これについての詳細は︑荒木・前掲書︵注

13︶六二頁以下参照︒

26︶ 隠れた現物出資に関する判例の複雑な展開を簡潔に分析する労作として︑久保寛展﹃ドイツにおける隠れた現物出資規制﹄一二五頁以下︵成

文堂二〇〇五年︶

27BGBl. I 2006 S. 2553. ︶ 

28︶ 現行法上許認可が必要である業種については︑荒木・前掲書︵注・

13︶二四頁以下参照︒

29, BGHZ f. 371, 2004DB72 S. 15701/171IIZR2003. 11. 24BGH-Urteil vom ︶  ︵二四三〇︶

(20)

国際競争と会社法立法 一九同志社法学五九巻六号

30Begründung, S. 93f. ︶ 

31Begründung, S. 95. ︶ 

32︶ 倒産法第一三五条︵社員貸付︶は︑次のように改正される︒

第一項第三九条一項五号の意味における社員の貸付金返済請求権またはこれと同等の債権について行った次の法律行為は取り消すことが

できる︒

⑴行為が倒産手続開始の申立ての前かもしくは申立て後一〇年内に行われた場合には︑担保の提供

⑵行為が倒産手続開始の申立ての前かもしくは申立て後一年内に行われた場合には︑免除の付与

第二項社員が債権のために担保を設定するか又は保証人として責任を負う場合は︑会社が第三者に第三九条第一項第五号の意味における貸

付金の返還請求権又はこれと同等の請求権について︑第一項第二号で掲げた期間内に弁済した法律行為は取り消すことができる︒

33︶ 経済的危機に陥った有限会社の倒産もしくは清算から救う﹁企業の埋葬屋﹂を利用すると︑業務執行者が解任され︑営業所が閉鎖され︑

社の住所地が転々と変更されるため︑裁判所の訴状が送達できなくなって︑弁済を受けられない会社債権者は︑結局泣き寝入りすることに

なる︒

34︶ 倒産法第一五条法人および法人格のない会社における申立義務︶は︑次のように定める︒

第一項 法人が支払不能又は債務超過になった場合には︑その代表機関の構成員または清算人は︑遅滞なく遅くとも︑支払不能又は債務超

過の発生後三週間内に倒産の申立てをしなければならない︒自然人が無限責任社員でない法人格のない会社における会社の代理権限のある

社員の機関の代理人又は清算人も同様とする︒ただし︑自然人が無限責任社員である他の会社が無限責任社員である場合には︑その限りで

はない︒

第二項第一項第二文の意味における会社の場合は︑会社の代理権限を有する社員の機関の代理人が︑自然人が社員でない会社であるか︑は︑

会社をこの方法で継続するときは︑第一項を準用する︒

第三項有限会社の業務執行者がいない場合には︵有限会社法第三五条第一項第二文︶︑各社員も申立て義務を負い︑株式会社の取締役がいな

い場合︵株式法第七八条第一項第二文︶︑又は協同組合の理事がいない場合︵協同組合法第二四条第一項第二文︶には︑各監査役員が申し立

て義務を負う︒ただし︑右に掲げた者が支払不能と債務超過又は執行者がいなくなったことを知らない場合には︑この限りではない︒

第四項 第一項第一文︑第二文又は第二項もしくは第三項に違反して︑倒産の申立てをしなかった者︑正確に申立しなかった者又は適時に申

︵二四三一︶

(21)

国際競争と会社法立法 二〇同志社法学五九巻六号

立しなかった者は︑三年内の自由刑又は罰金に処する︒

第五項行為者が第四項の場合に過失に基づいて行為した場合には︑一年内の自由刑又は罰金に処する︒

IV

  競争力の強化措置としての設立手続規制の緩和   以下では︑政府草案の改正提案を︑会社法の競争力を高めるという観点に基いて

︑大まかな意味においてまとめ︑そ 35

れに対する学説などの反応を分析することにする︒

⑴本拠地の移転

  ドイツにおける欧州連合加盟国の外国会社は︑Ⅱで言及したように︑二〇〇二年のイーバーゼー判決や二〇〇三年 のインスパイアー判決に基いて︑その本拠地︵

V erwaltungssitz

︶をドイツに移すことが許されている︒逆にドイツの有

限会社会社は︑この可能性を利用することができない︒なぜなら︑原則として︑会社が事業所を有する場所︑又は経営

もしくは管理が行われる場所を会社の住所として定款に定めなければならないからである︵有限会社法第四条a第一

項︑第二項

︶︒そのことは︑他の欧州連合加盟国と比べて︑ドイツには競争上不利に働く︒したがって︑外国の会社と 36

同じ条件が︑経営の中枢部門︵

Hauptverwaltung, central management and control

︶をもって定款で定めた住所と関係 ない場所で開業する可能性がドイツの会社にも設けられる必要がある︵

level playing field

︶︒そこで︑政府草案は︑こ

れに関する有限会社法および株式法上の規定を削除して︑ドイツの会社が定款上の住所と必ずしも合致しない本拠地を ︵二四三二︶

(22)

国際競争と会社法立法 二一同志社法学五九巻六号 選択できるようにする︒これには︑外国の子会社を有限会社の形式で統率するドイツのコンツェルンには魅力となる︒

⑵ 最低資本金規制の緩和と事業者会社︵有限責任︶の設立

  最低資本金に関する規定は︑実務の実際の要求に適合するように新たに提案されている︒これは︑Ⅲで触れた欧州裁

判所の判決とヨーロッパにおける会社形式の競争の激化の結果である︒ドイツ有限会社の競争能力は︑他の欧州連合加

盟国と比較して︑維持し強化されるべきである︒しかし︑既存の長所は放棄されてはならない︒それ故︑政府草案は︑

最低資本金を引き下げる︵﹁通常の有限会社﹂︶︒これは︑実務界の要求にあわせたものである︒他方で︑有限会社の最

低資本金の廃止に対する圧力は︑有限会社の変種である﹁︵有限責任︶事業会社﹂の創設︵五条a︶に結実する

37

⒜ 最低資本金の引き下げ

  一ポンドで会社を設立できるイギリスのような有限責任私会社と比べると最低資本金規制が適用されるドイツ有限会

社は︑競争上不利である︒欧州連合の加盟国では︑設立の要件が厳格ではなく︑ドイツよりも最低資本金の額が少ない

国がある︒最低資本金の額が少なければ︑会社の設立が容易となる︒

  政府草案は︑最低資本金が合理的な﹁信頼基準︵

Seriositätsschwelle

︶﹂であるとしており︑有限会社の最低資本金に

ついては︑規制を全廃するのではなく︑最低資本金を二万五〇〇〇ユーロから一万ユーロに引き下げる︵第五条第一項︶︒

この額は︑欧州連合加盟国との比較においても適切な範囲にあるとされる︒

︵二四三三︶

(23)

国際競争と会社法立法 二二同志社法学五九巻六号

  多額の資本が必要な会社は︑現行法の下での最低資本金二万五〇〇〇ユーロでも少なすぎるのがその実情である︒し

かし︑将来は︑設立の段階ですでに資本金を調達することが考えられる︒十分な自己資本を持つ有限会社は︑個人補償

なしに銀行から融資を受けることができる

38

⒝ 事業者会社︵有限責任︶

  イギリスの有限責任私会社との競争にドイツの有限会社が生き残ることができるかという深刻な懸念は︑中小企業の

ために有限会社と異なる別の法形式の会社または有限会社の下位形式の会社がドイツに必要かという白熱した議論を呼

び起こした︒最低資本金二万五〇〇〇ユーロ︵第五条第一項︶を下回る資本金で設立が新たに認められるという事業者

会社は︑政府草案においてはじめて提案されたものである︵第五条a︶︒それは︑事業者会社は︑その長い議論の末の﹁資

本金が不要である﹂とする立法者の回答であった

︒それには︑事業者会社︵有限責任︶もしくは︵有限責任︶事業者会 39

社という特別な名称が付される︒この会社専用の規定として正面から定めるのは一カ条だけであるが︑正真正銘の有限

会社であり︑それ以外には直接に有限会社法が適用される︒新たな法形式を設ける場合には︑高額な規制費用がかかり︑

法的安定性が崩され︑法律取引において高い取引費用が必要になることが懸念されたからである︒さらに︑規制の強化

やもっと官僚主義的になることが見込まれる︒政府草案によれば︑完全な制度の取替え︑つまり責任資本制度の廃止は

必要ない︒それが有限会社を明らかに魅力あるものにし︑かつ競争能力を備えさせると考えるからである

40

  実は︑事業者会社の構想自体は︑二〇〇七年にCDU・CSUに所属するゲープ︵

Gehb

︶連邦議会議員が公表した 七五カ条からなる﹁事業者会社法案︵UGG︶﹂に由来している

︒同案は︑事業者会社の債権者の高いリスクに対して︑ 41 ︵二四三四︶

(24)

国際競争と会社法立法 二三同志社法学五九巻六号 営業文書に表示する事項の拡大︑厳格な配当制限︑過少資本に基く責任などについて規制を設ける︒さらに︑会社財産を他の財産と混同した者︑会社の財産状況を偽った者︑会社の責任制限を誠実に反して債権者の不利益に使用した者又は無限責任を負うとの印象を第三者に抱かせた者に債権者に対する責任を負わせる︒同法案は︑もともと︑有限会社と異なる新たな会社の法形式であって︑有限会社﹁事業者会社︱有限会社︱株式会社﹂へと発展するものとして構想され︑

中企業向けの有限会社に対して︑小規模企業の市場を新たに創設することを企図していた︒その提案は︑有限会社法に

おいて規制することを目指していた︒政府草案は︑その構想を取り入れて︑それをなんとか短縮して改正法に組み入れ

たものである︒政府草案が︑有限会社と別の独自の法形式として創設することに踏み切らなかった理由は︑まず︑企図

された目的を達成するためにはその必要がなかったこと及び規制のために費用が必要になるためであると説明されてい

︒それでは︑事業者会社︵有限責任︶は︑どのような特徴をもっているのか︑つぎに︑具体的にみることにする︒ 42

  事業者会社︵有限責任︶の設立︒  事業者会社︵有限責任︶は︑現金出資によってのみ設立され︑現物出資は認めら れない︵第五条a第二項︶︒事業者会社︵有限責任︶の資本金額は︑発起人が自由に定めることができる

︒事業者会社︵有 43

限責任︶は︑理屈の上では︑一ユーロ以上の額であれば︑設立に際して︑その資本金額を任意に定めることができる︒

しかし︑資本金一ユーロの会社は債務超過になり︑登記の時から破産が避けられないことになろう︒したがって︑この

点については﹁人々の思慮分別が期待される﹂のである

︒任意に決定された資本金額が完全に払い込まれた場合に初め 44

て登記申請することができる︵第五条a条同項︶︒

名称   ︒

事業者会社

︵有限責任︶は

︑有限会社の名称を使用することは許されない

︒その場合

︑﹁

事業者会社

Unternehmergesellschaft

︶又はその省略名︵UG︶﹂を使用し︑それに必ず﹁有限責任︵

haftungsbeschränkt

︶ ﹂

と い

う文字を付加しなければならない︵第五条a第一項︶︒一般公衆を僅かな設立資本しかもたない会社であることについ

︵二四三五︶

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