発声指導法研究 Ⅳ : 児童への指導 ( 2)
宮 下 茂*
(平成
1 6
年3
月1 5
日受理)Thevoc a l i z i nggui deme t ho dr e s e a r c h Ⅳ:
Thevo c a l i z i nggui det ot hec hi l dr e n ( 2 )
Shi ge r uMI YASHI TA *
(ReceivedMarch15,2004)
は じめに
筆者 は 「発声指導法研究
Ⅳ :
児童 への指導 (1)」 (註 1) に於 いて,長崎市立桜町小学 校 の合唱 クラブの児童 に対す る発声指導 を通 して,児童の歌声 に対 して筆者 が何 を考 え, 言葉 を表 し,指導 を行な ったかを述べた。引 き続 き本論文 に於 いて,指導の内容 を述べて ゆ く。発声指導
1:
「喉 を開 いて声を出す」発声指導結果前 回の論文 中で述べた 「発声指導 1」 に よ り,児童は喉 を開いたまま,母音 「ア」 を発 す るようにな った。その声は,明るい響 きを感 じさせ る,息の音や雑音の混 ざっていない, 円やかな声 であ った。 しか し,天井 に向か って浮 かぶ印象 を与 える声 であ り,小 さ く, 弱 々しさを感 じる声で もあ った。 その為 ,共鳴 に よ り,声 を強 く感 じさせ るこ とを考 え, 次の発声指導 に移 ることとした。
尚,共鳴の指導 に関 しては,前述の 「お どかす真似」 に よ り,喉の位置 が下 がっている こ とが予測で きるため,そのまま喉の位置 が上 が らないように,下咽頭腔の共鳴を利用 し て,声 に力強 さを持たせ ることとした。
「喉の位置が上が らない方向をつけ,声に力強 さを持たせ る」指導 内容 についての考察
これまで述べた ように
,
「他人 を脅 かす こ とを 目的 として,発せ られ る声」 には,声楽 的な発声行為 と多 くの共通点が見 られ る。 また, この声 を発声す るこ とに よ り,
「胸郭の 内腔 が拡 がる」,
「横隔膜 が収縮 す る」,
「腹筋 が働 く」,
「咽頭腔 が開かれ る」等の確認 が取られた。
「発声指導 1」 を行 った結果,児童は以下の ような声 を発 している と,筆者 は考 えた。
1
.
「お どかす真似」 を行 うこ とに よ り,咽頭腔 を開 いた状態 で声 を発 してお り,結果 と して喉 が下 が った状態で声が発せ られている。2.発せ られた声が,明るい響 きを感 じさせ ることか ら,鼻腔 (頭部)共鳴を利用 した声 を発 している。
3.
「お どかす頁似」
を行 うこ とに よ り括抗 が生 じ,発声のための動 きが止 まってお り, 何時で も中咽頭腔 ,下咽頭腔の共鳴を利用す るこ とが可鮭であ る。以上の点か ら
,
「発声指導 1」
で発せ られた声 を基 に,喉 が下 が った状態 を変 えずに, 中咽頭腔,下咽頭腔の共鳴 を利用 し,声 に力強 さを持たせ るための発声指導 を行 うこ とを, 筆者 は考 えた。発声指導2:喉 が上が らない方向をつけ,声 に力強 さを持 たせ る
喉 が上 が らない方 向をつけ,声 に力強 さを持 たせ るための発声指導 は,以下 の手順 で 行 った。
① 「お どかす真似」 を したまま,軽 く,明 る く,母音 「ア」 を発音 させ る。
② 発せ られた母音 「ア」 をのばす。
③ 口の中 (喉 の奥) か ら胸 の中 (胸 の奥) にかけて
,
「お どかす真似」 のままであ るこ とを確認 す る。「ぽ っか りと空 いた感 じがす る」等の言葉 に よ り,中咽頭腔 ,下咽頭 腔 が開かれた状態 にな るように指導 す る。④ のば した母音 「ア」 を
,
「お どかす真似の中に落 とす ように」,
「ぽ っか りと空 いた中 に落 とす ように」等の言葉 に よ り,中咽頭腔,下咽頭腔 に共鳴す るように指導 す る。(図1)
上記の指導の結果 ,児童 が発 していた母音 「ア」の音量 が増 し,声 に力強 さが感 じられ るようにな った。 その声 か ら,(喉 の開 いた声),(胸 に響 いた声),(深 い声)等 と呼ばれ る声の印象が得 られた。
しか し
,
「発声指導 1」
で得 られた明 るい声の響 きが感 じられず,強 く,暗 い声 にな っ て しまった。 その為 ,音量 を変 えずに鼻腔 (頭部)共鳴を利用 して,再び明るい声 を発声 させ るこ とを考 え,次の発声指導 に移 るこ ととした。軽 く、細 く 感 じる声
低 く、太 く 感 じる声
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】llll「お どかす真似」の 中に落とした声
(図
1)
「発声指導2
」発声イメージ「音量 を変えずに明るい声を出す」指導内容についての考察
前述の 「発声指導
2」
により,児童が発 していた母音 「ア」の音量が増 し,声に力強 さ が感 じられるようになった。 このことか ら,児童は以下の ような声を発 していると,筆者 は考 えた。1.中咽頭腔,下咽頭腔の共鳴を利用 した声を発 している。
2.
喉が下がった状態を変 えずに声を発 している。3.
軽 く,明るく,母音 「ア」を発声 し,その声をのば したまま,中咽頭腔,下咽頭腔を 共鳴させたため,鼻腔 (頭部)共鳴を利用で きる状態である。以上の点か ら
,
「発声指導2」
で発せ られた声を基に,中咽頭腔,下咽頭腔の共鳴を変 えずに,鼻腔 (頭部)共鳴を利用 し,声に明るさを感 じさせるための発声指導を行 うこと を,筆者は考 えた。発声指導
3
:音量を変えずに明るい声を出す音量を変えずに明るい声を出すための発声指導は,以下の手順で行 った。
① 「おどかす真似」を したまま,軽 く,明る く,母音 「ア」を発声 させ る。
② のば した母音 「ア」を
,
「おどかす真似の中に落 とす ように」等の言葉 と共 に発声さ せ る。③ 「上の歯の裏側を拡げ, 目と, 目の周 りを拡げる」等の言葉により,上顎 と鼻腔空間 に意識が向 くように指導する.0
④ 「おどかす真似の中に落 とした声を,上の歯の裏側にず り上げる」等の言葉 と共に発 声させる。
⑤ 「おどかす真似」の後,軽 く発 した母音 「ア」を,おどかす真似の中に落 とそうとし, す ぐに上の歯の裏側にず り上げるように発声 させる。
⑥ 上記(9を,繰 り返 し行 う。 (図2)
上記の指導の結果,児童は母音 「ア」の音量を変えずに発声 し,その声か ら明るい声の 響 きが感 じられるようになった。その結果,児童の発 した声か ら,中咽頭腔,下咽頭腔の 共鳴に鼻腔 (頭部)共鳴が加わった と考 えられた。
(図
2)
「発声指導3
」発声 イメージ発声指導
4
:母音を変化 させての発声練習「発声指導
3」
により,児童は母音 「ア」を豊かな音量 と明るい響 きのある声で発声す るようになった。そこで,児童の意識が変わ らぬように注意をしなが ら,筆者の発 した母 音を真似て発声するように指示 し,
「ア,オ,ウ」,
「ア,工,イ」,
「ア,オ,ウ,オ,ア」,「ア,工,ィ,工,ア」等,異なる母音で発声する練習を行 った。 (語例1)
その結果,児童は母音の変化を意識することな く発声 し,すべての母音に明るさと力強 さを感 じられるようにな り,その発音 も明確になった。
続けて,言葉 による発声練習を開始 した。
(語例
1
)母音を変化 させての発声練習児 童
児 童
児 童
児 童
ア オ ウ
ア エ イ
発声指導
5
:言葉による発声練習ここでは,児童の練習 している 「七つの子」 (野 口雨情作詞)の一部 を利用 した練習を 行 った。指導は以下の手順で行 った。
① 筆者の発 した言葉を真似 るように指示する。
② 言葉の一昔一昔を,同じ高 さで,はっきりと聞 こえるように
,
「か, ら,す」,
「なぜ,な く,の」等,あ らか じめ聞かせる。
③ 筆者 と児童 とで,交互に言葉を発 してい く。 (語例
2)
上記の指導の結果,児童は 「七つの子」の詞を,すべての母音に明るさと力強さを感 じ られ る,明瞭な発音で発声するようにな った。その昔は,歌 と言葉の区別の付 かない,
「歌いなが ら話す感覚」 として捉 えられたが,音程 として捉 えられるもq)ではなかった。
そこで
,
「七つの子」の旋律を斉唱する歌唱練習を,試みることとした。(語例
2
)言葉による発声練習歌唱練習
:
「七つの子」の斉唱これまでの発声指導 により,児童は母音の変化を意識することな く発声 し,すべての母 音に明るさと力強さを感 じられるようにな り,その発音 も明確になっていた。それは,中 咽頭腔,下咽頭腔の共鳴 と鼻腔 (頭部)共鳴が共に存在する声であると,筆者は考 えた。
そして,その声は 「七つの子」の詞に於いて も変わ らず,すべての母音に明るさと力強さ を感 じられる,明瞭な発音であった。
その結果を受けて
,
「七つの子」 (本居長世作曲)の旋律を斉唱する歌唱練習を行 った。しかし,児童の歌唱は筆者の予想を裏切 るものであ り, これまでの発声指導によって得 られた,明るさや力強さ,発音の明確 さは聞かれなかった。
その原因は,児童の歌唱する様子を観察することにより発見で きた。
児童は指揮者の合図で歌唱 していたが,全員がそろって
4
拍 目 (歌い出しの 1粕前)で肩 を大 き く上下 させていた。これは,指揮者の振 りに合わせて,肩 を上下 に動 か しなが ら, 胸 呼吸 を行 っているこ とを意味 してい る。 これまでに述 べた ように
,
「他人 を脅 かす こ と を 目的 として発せ られ る声」や 「お どかす真似」は,腹式呼吸 と結びった発声行為 であ る。その為,児童の持 つ歌唱の為 の呼吸行為 とこれまでの発声指導 との結びつ きがな く,その 結果 , これまでの発声指導 と歌唱が結びつかなか った と考 え られた。
そ こで,歌唱の為の呼吸を指導す ることに よ り, これまでの発声指導 と歌唱 とを結びつ け ることとした。
呼吸指導(D
これまでに述べた ように
,
「他人 を脅 かす こ とを 目的 として発せ られ る声」や 「お どか す真似」 に於 いて,
「肺 内部 の容積の拡大」,
「腹筋の働 き」等の動 きか確認 で きるこ とか ら, これ らの行動 を基 に呼吸指導 が可能である と,筆者 は考 える。その為 ,以下の手順 に よ り,呼吸指導 を行 った。① 児童 に 「他人 を脅 かす こ とを 目的 として発せ られ る声」 を発声 させ る。
② 声 を出す為 に,無意識の うちに呼吸が取 られていることを確認 す る。
③ 呼吸が取 られ る際,肩 を上下 させていない こ とを確認 す る。
④ これ らの呼吸の動 きが
,
「お どかす真似」 と同 じ行動 であ ることを確認 す る。⑤ 「お どかす真似」 によって呼吸が取 られてい るこ とを確認 し,歌唱の為の呼吸を行 う 代わ りに
,
「お どかす真似」 をす るこ とを指示す る。⑥ 上記の呼吸に よって歌 い出す練習を行 う。
上記の呼吸指導の結果,半数近 くの児童 が肩 を上下 させ るこ とな く 「七 つの子」の旋律 を斉唱す るようにな った。 その斉唱は, この 日の初めに聞かれた もの とは異な り,すべて の母音 に明るさ と力強 さを感 じられ る,明瞭な歌唱であ った。
しか し,残 された児童 は,なお肩 を上下 させて しまい,筆者の望む歌唱 とはな らなかっ た。 その原因は,歌 お うとす る意識 が強す ぎる と感 じられ,意識 を歌唱 とは異な る行動 に 向け る必要 があ る と考 え られた。
そ こで,体の動 きを利用 した呼吸を,併せて行 うこととした。
呼吸指導②
前 回の論文 で述べたが,今回指導 を受 けた児童 は
,
「腹筋 を使 って歌唱す るこ と」 を学 び,
「腹筋練習」 を行 っていたが,歌 唱時の姿勢 に注 目してみ る と,歌唱の前後 ,最 中に 直立 したままで動 きが見 られず,姿勢 を保 つ為 に腹筋 を活用 し,呼吸の為の利用がされて いない と考 え られた。 この ことか ら,直立 で きない状態 を作 り出 し,姿勢 を保 とうと働 く 腹筋 と,呼吸行為 とを結びつけ ることを考 え,以下の呼吸指導 を行 った。① 足 を前後 に離 して立ち,重心 を後 ろの足 に乗せ るようにす る。
② 重心を前の足に乗せ るように移動する。
③ ①,② を繰 り返 し,重心の移動 によって体を前後 に揺 らす練習をさせ る。 (図
3)
④ 重心を前の足に移動 させなが ら
,
「お どかす真似」を して,その状態で動 きを止める。⑤ 「お どかす真似」を止めなが ら,垂心を後 ろの足に戻す。 (図
4)
上記の呼吸指導の結果,全ての児童が肩 を上下 させ ることな く呼吸を行 うようになった。
そのまま斉唱を行 うと,すべての母音 に明るさ と力強 さを感 じられる,明瞭な歌唱であっ た。
(図
3
)重心の移動によ り体を前後に揺 らす練習(図
4
)重心の移動 しながらの 「おどかす真似」の練習終わ りに
前回及び今回の 「発声指導法研究
Ⅳ
」では,筆者が行なった,児童に対する発声指導の 内容を述べて きた。その指導は筆者に とって初めての経験であ り,指導内容について,筆 者 自身,多 くを考 える横会 となった。児童の理解を得 られる表現を考 え
,
「他人を脅かす ことを 目的 として発せ られる声」や「おどかす真似」を用いて指導を行 った結果,児童 も呼吸法を理解 し,その呼吸により, 明るさ と力強さを感 じられる,明瞭な歌唱を行 うことが出来 るとの確証を得た。
今回の指導結果は,筆者の予想を上回 り,発声指導を繰 り返す ことにより,中高校生か と思える,大 き く,響 きを感 じさせる歌声を出す児童 も現れた。 しか し,その大 きな歌声 は,周 りの児童の歌声 に馴染まず,残念なが らその児童は,周 りの声に合わせるために歌 声を戻 して しまった。
また,体を前後に揺 らしなが らの呼吸か ら,体を揺 らすイメージに切 り替 え,小 さな体 重移動のみを行 うことを指導 しようとした際,筆者が 「体を動 かさない
. 」
と一言発 した ために,それまでの呼吸行為が全て失われるという失敗 もあった。筆者は,今回の指導経験を基に,更なる児童への指導を試みる所存である。
註 釈
(註 1)宮下茂 「発声指導法研究Ⅳ :児童への指導 (1)