九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
CUTTER SOIL MIXING工法の設計・施工技術および二 段土留めの設計手法の確立に関する研究
佐久間, 誠也
https://doi.org/10.15017/2534421
出版情報:九州大学, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
CUTTER SOIL MIXING 工法の設計・施工技術 および二段土留めの設計手法の確立に関する研究
2019 年 7 月
九州大学大学院工学府地球資源システム工学専攻
佐久間 誠也
目 次
第1章 緒論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.1.1 山留柵から大深度・大壁厚の土留めへの変遷史・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.1.2 地中連続壁の実績と動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 1.1.3 土留め工法の選定方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 1.2 土留め・仮締切り工に関する既往の工法とその開発研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 1.2.1 土留め・仮締切り工の分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 1.2.2 各種工法の特徴と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 1.2.3 各工法の課題への展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 1.3 本研究の目的と意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 1.4 本論文の内容と構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
第2章 CSM(CUTTER SOIL MIXING)工法の設計・施工技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 2.1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 2.1.1 CSM工法導入の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 2.1.2 CSM工法の施工機械の開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 2.2 CSM工法の大深度・低空頭型機械の開発と試験施工・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 2.2.1 開発の経緯と施工機械の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 2.2.2 BCM10-CSM機による試験施工・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 2.2.3 試験施工結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 2.3 CSM工法の施工機械の開発・展開・改良・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 2.3.1 吊り下げ方式の低空頭化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 2.3.2 クアトロカッター機の狭隘地対応型への改造・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 2.3.3 硬質地盤への適用試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 2.4 CSM工法施工実績・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 2.4.1 狭隘地・低空頭型機械・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 2.4.2 硬質地盤・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 2.5 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
第3章 CSM工法のソイルセメント鋼製地中連続壁への展開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61 3.1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61 3.2 鋼製地中連続壁の築造工法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62
3.3 新たな嵌合部施工法の開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64 3.3.1 プレート付防護パイプ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64 3.3.2 試験施工の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64 3.3.3 試験施工結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 3.4 施工実績・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69 3.4.1 道路トンネルへの適用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69 3.4.2 鉄道トンネルへの適用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71 3.5 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73
第4章 二段土留め壁の設計手法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74 4.1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74 4.2 一般的な土留めに関する検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75 4.2.1 解析モデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75 4.2.2 解析結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 4.3 二段土留めの特長及び適用事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79 4.3.1 特長・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79 4.3.2 適用事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79 4.4 二段土留め壁の挙動に及ぼす各種要因の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82 4.4.1 解析モデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82 4.4.2 解析結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84 4.5 二段土留め施工における土留め壁の変形抑制工の提案・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89 4.5.1 二段土留めの切梁へのプレロード導入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89 4.5.2 二段土留めへのアンカー工法の適用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89 4.6 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・94
第5章 二段土留めの技術指針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・95 5.1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・95 5.2 既存の二段土留めに関する技術指針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・96 5.3 二段土留めの技術指針に対する見解・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・98 5.3.1 二段土留めの設計に関する追記事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・98 5.3.2 二段土留めの変形抑制方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99 5.3.3 二段土留めにおけるアンカーの施工法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99 5.4 二段土留めの施工事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102 5.4.1 地下構造物の複合体構築のための二段土留め施工・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102
5.4.2 周辺環境に配慮した二段土留め施工・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102 5.4.3 土留め欠損部における二段土留め施工・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103 5.4.4 本体構造物の側壁の一部としての二段土留め施工・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・104 5.5 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・106 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・107
第6章 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110
1
第1章 緒 論
1.1 緒 言
1.1.1 山留柵から大深度・大壁厚の土留めへの変遷史
土や水を支える土留めや締切りといった技術は、古来より多くの土地や空間を生み出し てきた。日本におけるこれらの技術の歴史は古く、約2,500年前の縄文・弥生時代まで遡 ることができるとされている。その規模は小さいものの水田や畦道を造るために土留めと して木杭や板杭が多用されており、その遺構が登呂遺跡や針江浜遺跡などで発掘されてい る。古墳時代前期頃に作られた畦道の土留めの例を図1.1(写真)に示す1)。また、石垣も土 留め構造物と捉えると、多くの古墳、堀、城等にその技術と歴史が見られる。この例を図 1.2に示す2)。さらに、海外まで目をやれば、世界四大文明等の古代文明における石積みや 盛土を利用した治水、利水技術も土留め・締切り技術のルーツとなるものである。
図1.1(写真) 遺跡から出土した畦道の土留め
図1.2 石垣の内部構造
間詰め石
介石 裏栗石
地盤
根石 築石
胴木 築石
2
土留め・締切り技術にはこのように長い歴史があるが、日本において掘削工事に伴う土 木技術としてこれらの技術が急速に発展してきたのは、地下構造物の構築が必要となって きた明治時代以降であり、特に発展を遂げたのは戦後の復興期からその後の高度成長期に かけてである。また、高度成長期の後は、コストダウン・工期短縮に着目した技術や大深 度に適応できる新技術・新工法の開発が進み現在に至っている。
本項では、明治時代から現在までの土留め技術の発展について振り返る。ただし、水の みを支える締切りについては、地下水を持つ地山に対する土留め技術と同様と考え、特に 区別しない。また、単に土木と建築の慣習の違いだけなので、土留めは山止めまたは山留 めと読み替えるものとする。
(1)明治・大正時代
明治の初頭までは、図1.3に示すような山留柵と呼ばれる構造が掘削工事において用い られていた 3),4)。それを記録した図書によると、山留めとは「根切脇、若クハ土手等ノ崩 壊ヲ防グタメニ設ケタル柵ヲイフ。杭、関板、腹起、蜻蛉控ナドヨリ成ル。山留めしがら みトモイフ」と記されている。設計・施工面では、この当時は設計手法も確立されておら ず、経験的な判断で安全を考慮しながら施工されていたものと思われる。一方、海外では 擁壁や土留めの設計についての基礎となる土圧理論が 17 世紀に考えられ始め、クーロン 土圧論として実用の域に達していた。また、ランキン土圧論が発表されたのは、明治時代 に入る約10年前(1856年)のことであった。
図1.3 山留柵
明治時代になってからは、徐々に土木・建築ともにヨーロッパの技術者が日本に招かれ 始め、多くの建設・建築技術が紹介される事になった。しかし、土留め技術に関しては、
現在のように地下深く掘削するような建築様式や土木構造物ではなかったので、大規模な 土留め技術はまだ不要であった。この当時の土留め工事を伴った建築構造物で、規模の大 きなもののひとつに明治29年(1896年)に完成した日本銀行があるが、掘削深さは6m 程度であり、同規模の建物の基礎工事の資料から判断すると、木製の簡単な土留めが用い られていたようである。その頃、欧米では鉄材が使われ始めており、土留めに関しても様々 な工夫が行われていた。現在のような鋼矢板の専用断面が圧延されるまで、1890年代の欧 米各国においては、図1.4(a),(b),(c)示すような I 型断面や溝型断面の鉄材を組み合わせた ものが使われていた5)。現在から見れば不経済な断面の組み合わせであることが判る。
3
図1.4 初期の鉄矢板の断面の例
その後、1900年前後になって図1.5(a),(b),(c)のような鋼矢板が圧延製造されたという記 録がある。日本において鋼矢板がいつ頃から使われ始めたかは定かではないが、明治 35 年(1902年)竣工の三井本館の土留め工事に鋼矢板が使われたという記録が中村達太郎著 の日本建築辞彙にある4)。
図1.5 20世紀初頭の鋼矢板の断面の例
大正時代に入ると、打撃式の杭打ち機が日本に導入されており、その後の土留め工法の 変遷に大きく影響を与えたものと考えられる。しかし、この時代では長さ15m程度の長尺 な米松杭が輸入され、土留め支保工用材料として利用されてはいるものの土留め壁の主部 材として適用されたという記録は無く、土留め工に技術的な発展は殆ど見られていない。
(2)昭和時代(戦前)
昭和の初期には、大正12年(1923年)に起きた関東大震災の復旧工事のため、港湾や 河川整備に鋼矢板が護岸工等の土留め部材として大量に使われた。この時期は、世界各国 の製鉄会社が鋼矢板の生産量を高めて輸出を増やし始めた時期である。また、開削土留め 工事による東京地下鉄道の浅草~上野間(現在の銀座線)が開業したのも昭和2年(1927
(a)
(c) (b)
(a)
(b)
(c)
4
年)の事である6)。図1.6(写真)、図1.7(写真)、図1.8にこの工事状況を示す7)。この工事 の調査及び設計では、ドイツ人技師のルードル・ブリスケを技術顧問に迎えて技術指導を 受けていた。掘削深さは10mほどであり、土留めはI形鋼による親杭横矢板工法が既に用 いられ、路面覆工は、I形鋼を覆工桁に用いて桁間に木材を渡して造っていた。
図1.6(写真) 銀座線親杭横矢板土留めによる掘削
図1.7(写真) 銀座線路面覆工の施工状況
図1.8 銀座線施工計画の概要
5
関東大震災の復旧工事にも多く使われた鋼矢板の輸入量は、昭和2年度から昭和5年度 までに2万t台から3万t台まで増加したが、昭和初期の大不況に入った昭和6年度には
9,000tに激減した。鋼矢板の国産化については、官営八幡製鉄所が昭和4年(1929年)
から開発を始め、昭和6年(1931年)には現在の鋼矢板に似た部材を約2,500t販売して いる。海外からの輸入はこれを機にほとんど無くなっている。
当時は、既に鋼矢板やI形鋼の普及は始まっていたものの、土木・建築とも市街地の開 削工事においては、木製土留めが主流であった。しかし、掘削深さが地下2階となる一部 の工事でスチームハンマーによって打ち込まれた鋼矢板(当時は鉄矢板と呼ばれていた)
を土留め壁とした工法が用いられ始めたのもこの頃である。国産の高価な鋼矢板が、初め て使われたであろうと言われている市街地の土留め工事は、昭和 9 年(1934 年)に着工 された三菱銀行本店増築工事である。ここでは、15mの鋼矢板が打ち殺し(埋め殺し)と して使われた記録がある。当時の地下掘削工法は、人力によるところが多かったが、現在 の開削土留め工法に見られる切梁・腹起し形式が確立していた。また、土留め工法以外の 土や水を支える工法であるニューマチックケーソンが建築の基礎工事に初めて用いられた のもこの頃で、昭和 7 年(1932 年)に大阪の伊藤万ビルで施工されている。その他、木 田式深礎工法が新工法として採用されたのもこの頃である。昭和 10 年頃には現在のプレ キャスト部材の先駆となる鉄筋コンクリート矢板が市販されるようになった。鉄筋コンク リート矢板は、主に岸壁の築造や河川の護岸工事に用いられており、市街地の土留めとし ての利用は重量が重くて施工性に難があったので普及しなかった。
第二次世界大戦(昭和14年~昭和20年)に入ると、大きな土木・建築工事は軍の仕事 以外にほとんど無く、土留め工法の更なる進展は見られなかった。ただし、土質調査や土 質力学に対する研究が進み、土や基礎に関する図書がこの頃多く刊行されている。
(3)昭和時代(戦後)
敗戦後の復興期は昭和 30 年頃まで続いたが、国土の復興に忙しく、基礎技術を戦前の 技術水準まで戻すのが精々であった。一方、この時期には将来の技術開発の基礎となる土 や基礎に関する研究がさらに進み、海外からも技術や建設機械に関する情報が多く入るよ うになった。昭和 30 年代に入ってからは、経済復興に沿って鉄鋼業が急成長を遂げ、鋼 矢板の生産量で見てみると、昭和31年から昭和36年の5年間に3万tから30万tと10 倍になっている。現在の鋼矢板の継ぎ手形状を持つ部材ができたのもこの頃である。
また、その後の土留め工法の新しい技術に繋がるソイルセメント杭工法の普及が始まっ たのも同時期である。ソイルセメント杭は、アースオーガーまたは類似の機械で地盤を削 孔する際に、オーガー等の先端からセメントミルクなどの固化材を注入しながら掘削土と 原位置で攪拌してソイルセメント杭を造成する工法である。この工法は、昭和29年(1954 年)にアメリカ合衆国オハイオ州のリーターチロ氏により発明され、同年日本おいてもそ の特許権が認められ普及が始まった。昭和40年(1965年)には、この技術を応用してソ イルセメント杭をオーバーラップさせて施工し、その杭の中に応力材として鋼材を挿入す る工法が生み出され、現在の柱列式ソイルセメント土留め壁に至っている。
さらに、安定液掘削による地中連続壁工法が日本に導入されたのも昭和30年代である。
6
地中連続壁工法はヨーロッパが発祥であり、日本にはその工法の一つであるイコス工法が 昭和34年(1959年)に導入されダムの遮水壁として採用された。この適用例を図1.9(写 真)に示す 8)。この工法は、高度成長時代の大規模な土木・建築工事に多用され、大深度、
大壁厚の土留め壁として様々なビッグプロジェクトに用いられている。
図1.9(写真) 畑薙ダム河床部止水工事
戦後の土木工事において土留め工法が多用されたのは地下鉄工事である。そこで、東京 の地下鉄工事を例に土留め工法の変遷を追ってみる。戦後の地下鉄工事は、東京の丸の内 線から始まった。丸の内線の工事は、昭和20 年代の後半から昭和30年代前半まで続き、
土留めの標準工法はI形鋼を打ち込んだ親杭横矢板工法が採用されていたが、軟弱地盤に おいては鋼矢板工法が用いられた。さらに、特殊工法として前述のイコス工法が RC(鉄 筋コンクリート)地中連続壁の構築に早くも試験的に用いられている。また、初期の頃は 支保工部材に生松丸太が使われていたが、徐々に木製尺角材に変わっている。
昭和30年代後半から40年代前半は日比谷線、東西線の建設が行われた。土留め工法は 丸の内線と同様であったが、後半はI形鋼に替わってH形鋼をせん孔・建込み方式によっ て施工されるようになった。支保工部材も木製尺角材から切梁にH形鋼、腹起しにI形鋼 が用いられるようになり、軟弱地盤において切梁プレロード工法が初めて使われたのもこ の頃である。
昭和 40 年代に入ると千代田線、有楽町線の建設が始まり、新しい工法として柱列式地 下連続壁(PIP工法)やRC地中連続壁が採用され始めた。切梁・腹起しはH形鋼に統一 され、軟弱地盤においては、切梁プレロード工法が標準化されると同時に支保工としてPC アンカー工法も施工されている。
昭和 50 年以降になると、掘削深さが徐々に深くなる路線が多くなり、大規模掘削や用 地の制約に対応できるように鋼材の大型化や機械類の輸入・開発が進み、ソイルミキシン グウォール(以後、SMW)等のソイルセメント壁、泥水固化壁及び鉄筋コンクリート地 中連続壁(以後、RC 連壁)の適用が多くなってくる。また、土留めの歯抜け部の処理に
7
適用できる薬液注入工法や高圧噴射撹拌工法等、多くの地盤改良工法が改良・開発されて きたのもこの頃である。
地下鉄工事の土留め工法の変遷を例に概説してきたが、その他、道路トンネル、上下水 道施設、エネルギー施設、諸立坑等多くの開削工事において、昭和 40 年以降平成初期頃 までは設計・施工の応用技術の開発から発展期となり、ソイルセメント系、プレキャスト 系などの新工法の開発・展開とRC連壁の大壁厚化、大深度化が進展する。このように現 代の土留め工法は非常に多岐に渡るため、解り易く分類して以下のa)~d)に纏める9)。
a) ソイルセメント系(原位置土混合攪拌)
・主な施工法;SMW工法・TRD工法・CSM工法 ・概要図(平面形);
b) プレキャスト系
・主な施工法;PC-壁体工法・H型PC杭工法
・概要図(平面形);
c) 場所打ち系
・主な施工法;鉄筋コンクリート地中連続壁工法・鋼製地中連続壁工法-Ⅰ
・概要図(平面形);
d) 鋼材系
・主な施工法;鋼矢板工法・鋼管矢板工法
・概要図(平面形);
(4)平成時代
平成に入ってからは土留め技術の成熟期となり、平成 10 年頃までは様々なプロジェク トが進行する中で施工条件に最適な工法が選定されて工事に貢献してきた。大規模な RC
ソイルセメント柱列壁
ソイルセメント等厚壁 芯材
芯材
・TRD
・CSM
・SMW
PC-壁体
H型PC杭
RC連壁
鋼製連壁-Ⅰ
鋼矢板
鋼管矢板
8
連壁の施工件数を見ても、図1.10のように平成7年(1995年)から平成11年の5年間 が最も多い 8)。それ以降は、日本経済の失速とともに大型の公共工事が激減し、民間の投 資意欲も縮小したため、各種土留め工法の実績も減少傾向をたどるようになった。また、
地中連続壁の掘削機械の海外流出も平成17年頃から顕著になり始めた。
図1.10 RC連壁の施工件数の推移
技術的な実績としては、鋼材系でハット型鋼矢板 900(平成 17 年製造・販売開始)や 連結鋼管矢板(平成 17 年研究会設立)等が、品質向上・コストダウンおよび省力化を目 指して生まれた。また、ソイルセメント系の原位置土混合撹拌工法では、等壁厚のソイル セメント壁の構築ができるTrench cutting Re-mixing Deep wall(以下、TRD)工法(平成 7年工法協会設立)やCutter Soil Mixing(以下、CSM)工法(平成16年ドイツのバウアー マシーネン社より導入)が生まれ、設計の自由度が増すと同時に深度65m、壁厚1.2mの 施工が可能となった。最近では、環境面に配慮し気泡掘削工法を従来のソイルセメント壁 工法に応用し、排泥量を低減する新しい工法も誕生している。またRC連壁では、外郭放 水路の第三立坑で最大深度140m(平成5年頃)、再開発ビルの基礎で最大壁厚3m(平成 23年頃)の実績を残している。昭和の終わり頃に開発された場所打ち系土留めの一つであ る鋼製地中連続壁も平成 12 年にはソイルセメント鋼製地中連続壁を新しく開発し、省ス ペース・薄壁化に寄与するようになった。さらに、実績は少ないがプレキャスト系の PC
-壁体も平成 23 年には技術審査証明を受け、打込み方式やソイルセメント壁への建込み 方式などの施工法の開発を進め適用範囲を広げている。
以上のように、工事量が減少していく中でも施工の効率化やコストダウンを目指して技 術開発を継続した工法は発展を遂げてきた。また、土留め工法に関する計測技術や設計・
解析手法の研究も進んでおり、各種土留めの本体利用や三次元的な解析による設計の安全 性の検証なども十分実用化の域に入ってきている。
0 20 40 60 80 100 120 140
~1979 1980~
1984
1985~
1989
1990~
1994
1995~
1999
2000~
2004
2005~
2009
2010~
2012 件
数
施工時期(年)
立坑 建屋地下壁 基礎 地下タンク 開削土留め その他
6件
31件
86件 82件
27件 53件
119件
12件
9
1.1.2 地中連続壁の実績と動向
地中連続壁工法は、我が国に1959年に導入されてから60年以上が経過している。その 間の技術の進歩は時代背景と相まって急速な進歩を遂げた時代もあったが、2000年代前半 に入り公共工事の縮減の中で施工件数が大幅に少なくなっている。その中でRC連壁の本 体利用については、構造性能や止水性能が評価されると同時に、地盤や環境条件に対する 適合性も高いため、基礎や地下構造物などに多用されてきた10)。
地中連続壁基礎協会では、RC連壁(掘削深度30m以上を目安)の施工実績をゼネコン や専門業者からアンケート形式で毎年収集し、1972年から継続して整理している。協会設 立20周年記念の講演会(2000年11月)ではこれらのデータを基に村田が「地中連続壁 の歴史と最近の技術動向」と題して纏めている11)。
以下本項では、現在までのRC連壁を主とした安定液掘削工法である地中連続壁工法の 歴史の概要を簡単に整理した上で、村田が纏めた資料にさらに 12 年分のデータを追加し て再整理し、RC連壁の本体利用の変遷について解説する。
(1)地中連続壁の発展経緯
連続地中壁工法はヨーロッパが発祥であり、日本の畑薙ダム河床部止水壁工事に初めて 導入されてから半世紀の間に建設会社、また国内外の建設機械メーカーが技術開発・技術 導入を積極的に進め、数多くの建設プロジェクトに貢献してきた。RC 連壁を用いた対象 構造物としては、橋梁や煙突などの基礎、LNG・LPG タンク、上下水道施設、地下変電 所、人工島換気立坑、放水路・電力洞道等の立坑、地下鉄や道路トンネルの開削構造物等 があり、非常に多くの構造物に適用されている。最近の例としては東京スカイツリーの基 礎にも採用されている。RC連壁の適用可能な規模については、30年以上前でも既に実プ ロジェクトを睨んで壁厚3.2m、壁深度(掘削深度)170mの施工が可能とされていた12)。 現在でもこの施工規模は変わらない状況にあるが、施工機械については老朽化や海外への 流出が多く、大規模な連壁を計画する場合は、新しく掘削機械を調達することも考える必 要がある。
RC 連壁の本体利用に主に着目した上で、日本における地中連続壁工法の歴史概要を纏 めたのが表1.1である 8)。この表中の工事例には、様々な企業者の事例を示すと共に本体 利用の形態についても分かる範囲で示した。また、図1.11、図1.12に各々RC連壁(基礎 含む)の掘削深度の推移、RC連壁(基礎含む)の壁厚の推移を示す8)。
(2)地中連続壁の本体利用の変遷
RC 連壁の本体利用としては、基準類では構造壁としての本体利用が一般的であるが、
ここでは永久構造物と捉え基礎まで含めて整理する。図1.13は、RC連壁の施工件数及び 利用区分の推移の関係を示したものである8)。なお、止水壁など無筋のものは除外し、ま た工事により仮設利用と本体利用が混在した場合は0.5件ずつとして数えている。本体利 用の割合(件数)は、1984年以前においては6件と非常に少ないが、1985年以降急速に 件数が増え始め、1995年~1999年の間には約58%を本体利用が占めるようになり、その 後も2009年までその割合をほぼ継続している。
10
表 日本における地中連続壁 法 歴史概要
西 暦
(年) 発展の推移 施工法・管理機器の開発 及び掘削機の導入等
工 事 例
壁 基 礎
1959 1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
2013
・イコス工法
・OWS-SOLETANCHE工法
・アースウォール工法
・エルゼ工法
・KCC工法
・超音波溝壁測定器
・ポリマー安定液の開発
・廃液処理システムの開発
・大深度自動制御掘削機お よび管理システムの開発
・ロングウォ-ルドリル掘削機
・ハイドロフレーズ掘削機
・鉛直継手
・スライム処理機
・大型鉄筋かご吊込み機
・水上施工法
・高強度水中コンクリート
・エレクトロミル掘削機
・スーパーハイドロフレーズ掘削機
・安定液の自動管理装置
・コンクリート打設ロボット
・HBトレンチカッター掘削機
・薄型掘削機
・ハイドロミル掘削機
・変断面連壁掘削機
・鋼製地中連続壁工法
・すかし堀り掘削機
(ツインカッター式特殊掘削機)
・安定液リユースシステム
・通水性連壁
・海水堀りによる施工
(琉球石灰岩の掘削)
・海外への機械の流出
・SMX・TMX掘削機新規開発
・中部電力畑薙ダム止水壁
・営団地下鉄方南町トンネル
(本体利用:単独壁)
・アジア石油半地下式タンク
・東京地下駅
・大阪ガスLNGタンク
・東亜燃料地下タンク
・大深度掘削機による実験工事
・環8四面道立体交差 (本体利用:単独壁)
・東北新幹線上野地下駅
(本体利用:重ね壁)
・東京電力・東京ガス/LNGタンク
・地下鉄8号線月島駅
(本体利用:一体壁)
・東京ガスLNG・LPG地下タンク (本体利用)
・超大型掘削機による実験工事
・東京湾横断道路実験工事
・京葉都心線東京地下駅
(本体利用:一体壁)
・横浜市高速鉄道3号線尾上町
(本体利用:重ね壁)
・営団地下鉄後楽園駅
(本体利用:一体壁)
・首都高湾岸線並木トンネル
(本体利用:一体壁)
・東京湾横断道川崎人工島
(壁厚:2.8m)
・都営地下鉄東中野第一工区
(本体利用:一体壁)
・東京電力 新豊洲変電所 (変断面山留め壁)
・外郭放水路第3立坑
(最大深度:140m)
・伊勢佐木町地下駐車場
・那覇港道路三重城側立坑
・汐留共同通信社本社ビル
・首都高SJ22換気所
(本体利用:一体壁)
・三河島処理場ポンプ室
(本体利用)
・倉敷プロパン配管立坑
(本体利用)
・東邦ガス緑浜工場LNGタンク
(本体利用)
・上野地下駐車場(本体利用)
・小田急線地下化工事(第三工区)
(掘削土再利用泥土モルタル)
・八重洲開発北ビルⅡ期増築
(本体利用)
注)基礎はすべて永久構造物と しての本体利用である。
・首都高速道路5号線(北池袋)
・首都高速道路横羽線
・東北新幹線飯坂街道架動橋
・阪高東大阪インターチェンジ
・東北新幹線 王子南部高架橋 第一中仙道架道橋 新河岸川橋梁 笹目川橋梁
・東大阪生駒電鉄高架橋
・首都高/大黒線
・本四備讃線/北浦港橋梁
・青森ベイブリッジ
・阪高/東大阪線
・阪高/魚崎高架橋
・関東地建/幸魂大橋
・関東地建/綾瀬川橋梁
・札桝自動車道新川高架橋
・東京湾連絡橋
・大阪市尻無川新橋
・阪高新猪名川大橋
・北陸新幹線緑町高架橋
・白鳥大橋 2P、5P
・小田急電鉄野川橋梁
・新交通ゆりかもめ高架橋
・第2東海自動車道
・名古屋JRセントラルタワーズ基礎
・北陸新幹線北陸道BV
・JR利府高架橋
・小田急電鉄連続立体交差
・名古屋高速新名西橋
・JR仙台北部道路道路橋
・県道高速名古屋朝日線古城
・県道高速名古屋新川新橋
・中村橋架替え
・日立製作所エレベーター塔基礎
・東京スカイツリー基礎
・大手町1-6計画基礎
・環2・Ⅲ街区基礎
(最大壁厚:3.0m)
・浜岡原発防波壁基礎
基礎利用(本体利用)
技術導入・開発から発展段階 仮設利用 本体利用
設計施工の応用技術開発から発展期大深度・大壁厚の実証期 技術の成熟期
表1.1 日本における地中連続壁工法の歴史概要
11
0 20 40 60 80 100 120 140 160
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015
掘削深度(m)
施工時期(年)
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015
壁厚(m)
施工時期(年)
図1.11 RC連壁(基礎含む)の掘削深度の推移
図1.12 RC連壁(基礎含む)の壁厚の推移
5
26 29 46 56.5
35.5
12 6
1 5
24 40
77.5
46.5
19 0 6
20 40 60 80 100 120 140 160
~1979 1980~
1984 1985~
1989 1990~
1994 1995~
1999 2000~
2004 2005~
2009 2010~
2012 件
数
施工時期(年)
本体利用219件(51%) 仮設利用213件(49%)
82件
12件 134件
53件
6件
31件 31件
86件
図1.13 RC連壁の施工件数及び利用区分の推移
12
図1.14は、RC連壁の用途の推移を示している8)。1984年までは立坑及び地下タンクが 工事の主流を占めていたが、1985年代に入ると基礎や開削土留めに加え建築建屋の地下壁 にもRC連壁の適用が見られるようになった。また、1995年~2004年には地下鉄や道路 トンネルのプロジェクトが増えたため、開削土留め工事への適用が半分程度を占める状況 であった。
図1.15には、RC連壁の用途及び利用区分を示す8)。用途で一番多いのは立坑であり、
本体利用はその内の42%を占めている。なお、立坑の大半は、シールドトンネルの発進・
到達用である。次は、開削土留めであり本体利用の割合は62%と比較的高い。その背景に は、本体利用の設計の考え方が基準類に纏められてきたと同時に、経済的観点や用地の制 限といった都市土木特有の背景があったものと推察される。本体利用を行うことで建設コ ストが下がるとは言い難いが、市街地等では用地も含めた総コストで有利になることが多 いためであろう。地下タンクの実績においては、タンクの用途や構造上の問題により仮設 利用が86%となっている。基礎の実績では、地中連続壁基礎として設計法が確立されてい るので、本体利用が85%を占めている。また、建築の建屋地下壁においては、(財)日本建 築センターの評定制度の後押しでRC連壁の本体利用が進められたため、86%が本体利用 である。
以上のように、RC 連壁の本体利用は、過去より大型プロジェクトの進行に伴い設計手 法、掘削機械、安定液、継手方式、コンクリートなどについて研究・技術開発が進められ、
実際の工事に適用されてきた。連壁技術の成熟期に入り、2005年以降現在までRC連壁工 事の施工件数は低迷しているが、近年、大型プロジェクトの話題も聞こえ始め、大規模な RC連壁の検討も始まっている13)。
0 20 40 60 80 100 120 140
~1979 1980~
1984 1985~
1989 1990~
1994 1995~
1999 2000~
2004 2005~
2009 2010~
2012 件
数
施 工 時 期 (年)
立坑 建屋地下壁 基礎 地下タンク 開削土留め その他
6 31
86 82
27 53
119
12
図1.14 RC連壁の用途の推移
13 (3) 地中連続壁の施工機械の変遷
地中連続壁の掘削機械は、バケット式掘削機、回転式掘削機および衝撃式掘削機に大別 される。バケット式には懸垂式クラムシェルとロッド式クラムシェルの2種類、回転式に は垂直多軸回転ビットと水平多軸回転カッターの2種類、そして衝撃式にはイコスビット がある。本体利用の変遷には掘削機械は直接的な関係には無いが、水平多軸回転カッター の導入によりカッティング継手が可能となり、RC 連壁の普及が進んだことは間接的に本 体利用の件数増に寄与している14)。
これらの中で、現在では垂直多軸回転ビットは製造が中止されており、2005年以降の使 用実績が無く、衝撃式のイコスビットも殆ど使われなくなっている。一方、水平多軸回転 カッターは、1978年にソレタンシュ社(フランス)からHF(ハイドロフレーズ)掘削機 が導入され、1985年には国産のEM(エレクトロミル)掘削機が生まれた。その後、1988 年にバウアーマシーネン社(ドイツ)からBC(バウアーカッター)掘削機、1991年にキ ャサグランデ社(イタリア)から FD(ハイドロミル)掘削機がそれぞれ輸入され、水平 多軸回転カッターの充実が見られた。図1.16にRC連壁の掘削機械の推移を示すが8)、1990 年以降大深度のRC連壁の殆どはその掘削性能の高さから水平多軸回転カッターが主流に なっている。また、バケット掘削機は岩塊・玉石を含む礫地盤や比較的浅い掘削では今も 活躍している15)。
地中連続壁基礎協会の調査によると、1998年7月末において水平多軸回転カッターは78 台、バケット式は161台、垂直多軸ビット(BW)は35台と非常に多くの機械があったが、
歴史概要で述べた通り2005年以降かなりの台数が海外に流出してしまうとともに、老朽化 により廃棄されてしまったものも多い。2019年現在、ベースマシンを含む稼動可能な機械 の台数を正確に把握することは難しいが、整備が必要な機械も入れて水平多軸回転カッタ ーは大小合わせて30台程度、バケット式は20台程度となっている。
一方、海外では日本から流出した機械の活躍が報告されている。実際に多くのRC連壁工 図1.15 RC連壁の用途および利用区分
14
事が進行中であり、日本企業が参画しているベトナムやインドネシアにおける地下鉄プロ ジェクトにおいても、RC連壁の本体利用による駅舎の構築が施工されている。
1.1.3 土留め工法の選定方法
最近の土留め・山留め工法は、多種多様な土留め・山留め壁の開発や大規模化、本体利 用等の複雑化によって、単純な選定フローに基づいて工法を選定することが難しくなって きている。特に、ソイルセメント系の土留め・山留め壁は、類似工法が多く具体的な工法 まで絞り込むために、試設計や詳細なコスト比較まで行うケースも多い。また、大口径や 等壁厚のソイルセメント壁の開発により、従来であればRC連壁や泥水(安定液)固化壁 が選定される大規模な土留め工事においても、コスト的に優位な大口径ソイルセメント柱 列壁や等壁厚ソイルセメント壁が採用される場合が認められる。一方、小規模から中規模 の土留め工法の選定において煩雑さは少ないが、地盤条件の悪い箇所で施工する場合や埋 設物及び構造物に近接して施工する場合等において、トラブルも多いため、計画段階から 技術者の適正なフォローが必要である。また、施工中から施工後まで周辺環境に対する配 慮の重要性が高まっており、単純な選定フローに頼った工法選定では不十分である。
以下に、これらの現状を踏まえて基本的な土留め・山留め工法の選定フローを示すとと もに、実際の工法選定に至る過程上の留意点について論述する。
(1)土留め・山留め工法選定の全体フロー
土留め・山留め工法の選定フローは、発注者が定める各種の指針・基準類や市販の土木・
建築関連の技術図書に様々なパターンが示されている16)。勿論、完璧な選定フロー等存在 せず、設計・施工条件の的確な把握と各種の調査結果をもとに既存の選定フローや工法選 定表を参考にしながら、各担当技術者が各工事に見合った具体的な工法選定を行う必要が ある。以下に、土木工事仮設計画ガイドブック(1)のフロー図を一部修正して図 1.17 に示 し17)、この図に従って一般的な工法選定の全体フローの説明と留意点を述べる。すなわち、
図1.16 RC連壁の掘削機械の推移
15
土留め・山留め工法の選定が、予備選定(1次選定)から2次選定を経て最終的にその形 式が決定される手順である。
まず、本体構造物の形状寸法、位置及び掘削深さを定めると伴に、土層構成や地下水の 有無について確認する。特に、地下水については単に自然地下水位のみではなく、各滞水 層の間隙水圧まで把握しておくことが望ましい。しかし、予備選定の段階では地質調査デ ータや地下水に関する情報も少ない場合が多く、また採用する工法によって設計に必要な 情報が異なる。なお、予備選定のフローには、前述の情報が少ない場合においても、図1.18 に一例を示すように、ある程度工法の目安が付けられるように考えられたものがある17)。
図1.17 土留め・山留め工法選定の全体フロー
16
予備選定において工法が数工法に絞り込まれた後、2 次選定へと進むが、工事の規模や 地質条件、周辺構造物、環境条件などによって工法が絞りきれず単純に2次選定を工法の 最終選定とできないことも多い。仮に、2 次選定を最終選定とすれば、定性的な比較のみ ならず定量的な比較が必要となる。その場合には、各種調査結果をもとに設計条件を明確 にした上で具体的な土留め・山留め形式の形状寸法を予備設計や概略設計を行って定め、
加えて施工性、経済性、安全性、環境面などを総合的に比較検討し、工法を特定した上で 詳細設計へと進む。
(2)土留め・山留め工法の予備選定(1次選定)
予備選定(1 次選定)は、あくまでも施工可能な工法を絞り込む予備選定のためのもの であり、掘削規模、切梁やグラウンドアンカー設置の可能性、地下水の有無を基本に機械 的に選定フローを作成したものである。しかし、軟弱地盤においては掘削深さが3m以浅 でも自立式では根入れ部分の安定性が確保できない場合も多い。また、最近では近接施工 における土留め・山留め壁の変位制限から壁体の剛性を大きくする場合もあるので、与え
図1.18 土留め・山留め工法の予備選定(1次選定)のフローの一例
17
られた制約条件と土留め・山留めの掘削規模に応じて工学的に判断する必要がある。この 他、各種の補助工法との組合せについても留意する必要がある。例えば、親杭横矢板は地 下水の処理が不必要な場合の工法であるが、薬液注入工法や地下水低下工法との組合せに よっては選定可能な工法となる。また、掘削地盤側を地盤改良することによって受動側の 地盤反力係数を大きくし、壁体の剛性を上げることなく経済的な工法選定ができることも ある。
一方、施工面からは固い砂礫地盤や玉石層等の特殊な地盤条件にでは、土留め・山留め 壁の施工が打ち込み、圧入、攪拌・混合といった通常の方法では困難となる事もある。こ のような場合には、ウォータージェットや先行削孔の併用、CD(サーキュレーションドリ ル)工法等によって一度対象地盤を砂に置き換える等の対応を取る。
以上のように、予備選定(1次選定)では、前掲図1.18で示したような予備選定フロー を参照にして施工可能な工法の候補を絞り込み、2次選定へと作業を進める。
(3)各種調査と2次選定
2 次選定においては、予備選定で絞り込んだ工法に対して下記①~③のような各条件の もとで細部の評価を行う。場合によっては、前述した補助工法との組合せも視野に入れ、
再度予備選定で漏れた工法の可能性について確認する必要がある。
① 土留め・山留め壁の止水性
② 土留め・山留め壁の施工方法(打ち込み方式、圧入方式、建て込み方式、攪拌・混 合方式、場所打ちコンクリート方式等、加えて施工面の補助工法を留意)
③ 補助工法との組合せ(地下水低下工法,各種地盤改良工法等)
これら①~③の調査・検討結果から得られた情報を基にした2次選定に必要な各種調査 について以下に概説する。先ず、各工法の選定の目安となる主な土留め・山留め工法の一 般的な判定表を表1.2に示す18)。
a) 地盤調査
地盤調査は、土質調査と地下水調査が重要となる。特に地下水調査の結果からは、地下 水の有無によって土留め・山留め壁の開水性と遮水性の判断の基準となる。また、掘削床 付け面以浅に地下水が無くとも掘削床付け面以深に被圧滞水層がある場合には、盤ぶくれ に対する検討が必要となる。この場合、根入れ部には遮水性が要求され、経済性から根入 れ長さを不透水層まで延ばす場合においては、壁体の形式を遮水タイプとする対策、ある いは地盤改良による対策が必要となる。
今述べた盤ぶくれ対策とも関連するが、最近では地下水環境の保全が設計にも要求され ることが多く、地下水流を遮断するような長い開削構造物の場合は、特に仮設土留め・山 留めも含めて将来的に地下水の分布や流れに影響を及ぼさないような対策を求められる。
このため、地下水の流向・流速調査を実施するケースも多い。図1.19に通水方式による地 下水保全対策のイメージを示す19)。
土質調査は、軟弱粘性土地盤において特に注意が必要である。粘性土地盤では、土留め・
山留め壁の変形による掘削背面地盤の沈下や地下水の低下による地盤の圧密沈下が顕著に 認められ、周辺に与える影響が大きい。このように、土質条件に対する評価が土留め・山
18
留め壁の種類、支保工形式、根入れ長などを決める大きな要因となるからである。
b) 周辺構造物の調査
周辺構造物には近接する家屋や構造物、地下埋設物などが挙げられる。特に、土留め・
山留め壁背面の沈下や水平方向への移動は、これらの周辺構造物に影響を与えるため、壁 体には遮水性や変形を抑制するための剛性が求められる。また、施工法の面からも低振動、
低騒音工法が要求される場合、地盤条件や周辺構造物が工法選定の制約条件となることに 表1.2 主な土留め・山留め工法の一般的な判定表
図1.19 通水方式による地下水保全対策のイメージ
19 留意する必要がある。
c) その他の調査
市街地で行う土留め・山留め工事において必要なその他の調査条件を①~③に挙げる。
① 管理者(道路、鉄道、上下水道、ガス、電気、NTT等)
② 現場周辺の住民に対する生活環境面
③ 交通規制、道路占有、空頭制限等の施工箇所空間
大型の機械やプラント設備が必要な土留め・山留め工法を選定する場合には、①や③は 大きな制約条件となる。また、②の条件は、工事を進めて行く上で非常に重要な要素であ り、振動・騒音に対する配慮はもとより、臭気、排水、汚泥の飛散、重機類の転倒に対す る安全等、考慮するべき事項が多数ある。
(4)予備設計及び詳細設計
土留め・山留め工法の選定には、壁体や支保工形式を決定する段階において設計の裏付 けが必要不可欠である。図1.20に設計のフローを示す20)。工法の 2次選定の段階で行う 予備設計においては、少なくとも土留め・山留め壁の長さを決定する上で、土圧バランス によるつり合い根入れ長さの計算に加え、同図に示したボイリング、ヒービング、盤ぶく れ等の掘削底面の安定に関する概略の検討が必要である。また、最近では市販の計算ソフ トを使ってパーソナルコンピューターで一連の設計ができるため、概略検討とは言え根入 れ長さの検討から土留め・山留め壁や支保工の部材計算まで設計を行ってしまう場合も多 い。しかし、2 次選定のステップで設計計算を幾通りも行うことはあまり意味が無く、設 計条件や各種調査に基づく合理的な工法選定の絞り込みを十分に行うべきである。
(5)ソイルセメント系の土留め・山留め工法
ソイルセメント系の土留め・山留め壁は、従来SMW等のソイルセメント柱列壁が主な 工法であったが、最近では、経済性、品質、施工性、環境面を考慮した類似の各種工法が 次々と生み出され、この分野の技術者ですらこれらの工法に対する理解が進んでいない状 況にある。従って、明確なフローとはなっていないので、工法の分類と工法名の紹介に留 める。図 1.21にソイルセメント系土留め・山留め壁の分類例を示す 21)。ただし、この図 には本研究の課題とした原位置混合撹拌工法に属するCSM 工法は比較的新しい工法なの で含まれていない。CSM工法については第2章で詳しく論説する。
(6)土留め・山留め工法選定の纏め
土留め・山留め工法の選定は、前述してきたように壁体の種類や施工方法、支保工形式 の比較、そして様々な設計・施工条件に基づいた総合的な検討に基づいて決定されるもの である。これらの作業は、工学的な判断はもとより、安全性、経済性、社会環境に対する 責任が求められ、選定フローの各ステップにおいて技術者の資質も問われる。また、開削 工事における土留め・山留め工法の技術開発に材料や施工法に進歩や改善が見られても、
工法選定フローにおける留意点は、将来においても普遍的であるものと考えている。
20
図1.20 土留め・山留め工法の設計フロー
21
図1.21 ソイルセメント系の土留め・山留め壁の分類
22
1.2 土留め・仮締切り工に関する既往の工法とその開発研究
1.2.1 土留め・仮締切り工の分類
最近の土留め・仮締め切り工法における新工法の開発は一時期に比べ少なくなったが、
コスト縮減や工程短縮を目的とした従来工法の工夫・改良と、ソイルセメント系土留めの 大規模化及び本体利用が注目される。特に、等厚式ソイルセメント系の土留め工法では、
応力材に本体利用可能な剛性の高い鋼材や、プレキャストの部材を建て込んだ土留めが採 用されるケースが見られるようになってきた。また、仮締め切りに関しては、連結鋼管矢 板工法に見るように、止水性の向上や従来型の鋼管矢板と比較して鋼材の縮減と工期の短 縮が期待できる工法が開発されている。現在、土留め・仮締め切りに関する施工可能な工 法は非常に多いため、個々の工法名ではなく、壁体材料や施工法の切り口で纏めた工法分 類を図1.22に示す。なお、この図は文献22)を加筆・修正したものである。
壁体材料 築造方法 平面形状 施工機械,掘削・攪拌方法等
土留め・ コンクリート(場所打ち) 置換工法 等厚 連壁用掘削機械
仮締め切り工法
柱列 アースオーガ方式
ロータリービット方式
ソイルセメント 置換工法 等厚 連壁用掘削機械
(応力材併用工法を含む)
柱列 オーガ攪拌方式
ロータリービット攪拌方式
原位置土混合攪拌工法 等厚 カッターチェーン攪拌方式 オーガ攪拌方式 回転カッター攪拌方式
柱列 オーガ攪拌方式
安定液固化または泥土モルタル等 置換工法 等厚 連壁用掘削機械
(応力材併用工法を含む) 原位置固化工法 自硬性安定液工法
鋼矢板 振動方式
圧入方式
鋼管矢板 振動方式
圧入方式 打撃方式
コンクリート(既製) 中掘方式
オーガ併用圧入方式 原位置土混合攪拌工法 ソイルセメント内建込み方式
地盤改良系 深層混合処理工法 柱列 機械攪拌方式
高圧噴射方式 機械攪拌併用高圧噴射方式
図1.22 壁体材料・施工方法などによる土留め・仮締切り工法の分類
23
本節では、これらの現状を踏まえて最近の土留め・仮締め切り工法から代表的な工法を 選定し、その特徴と課題について論評する。
1.2.2 各種工法の特徴と課題
数多くある土留め・仮締め切り工法の中から研究が進んでいる工法を中心に、ソイルセ メント系、プレキャスト系、場所打ち系、鋼材系と言った切り口で整理した工法の概要を 表1.3に示す22)。ここで、ソイルセメント系では、柱列式地下連続壁として代表的なSMW 工法、等厚式地下連続壁としては、応力材との組み合わせが容易なTRD工法およびCSM 工法を取り挙げる。また、プレキャスト系では工程短縮に有利な PC-壁体工法および H 型PC杭工法を、場所打ち系ではRC連壁と鋼製地中連続壁工法-Ⅰ(以下、鋼製連壁-
Ⅰ)を、そして鋼材系では鋼矢板工法と鋼管矢板工法をそれぞれ取り挙げる。
表1.3 土留め・仮締切り工法の概要