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中村美奈子

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Academic year: 2021

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18 FIELDPLUS 2014 01 no.11

けれども、かなり熱心にレッスンに通って いた。受験などで数年のブランクのあった 後、大学2年生の時にバリ舞踊に出会った のである。

 今から27年前のことである。「一緒に踊 りましょう」と、大学の先輩に声をかけら れたのが始まりである。当時の東京藝術大 学音楽学部楽理科には、ジャワのガムラン と舞踊のサークルはあったのだが、まだ、

バリの舞踊やバリ・ガムランのサークルは なく、彼女が、バリ島のインドネシア国立 藝術大学デンパサール校(ISI Denpasar)

への留学を終えて帰ってきた一期生だっ たのだ。そのようなわけで、踊りを習い始 め、その先輩の紹介で、バリ島の踊りの師 匠(現在の私の師匠でもある)のところに、

「フィールドワーク」と称して踊りを習いに 通うようになり、更に踊りを続けるために、

お茶の水女子大学大学院(現在の舞踊・表 現行動学コース)への進学を果たしたので あった。

文化における舞踊表現、

身体表現様式の発見

 現在では、近代的な生活様式がかなり 入り込んでしまっているが、その当時のバ リでは、毎晩、仕事終わりに、村人たちが 集会場に集って、踊りや音楽の練習を楽し むという生活様式があった。そのような環 境の中で、バリ島の子供たちは、ことばを 自然と習い覚えていくように、踊りや音楽 も自然と習い覚えていく。私も、舞踊をで

きるだけ見よう見まねで習い覚えるように 努めてみた。しかし、私の身体の中にはバ レエの基礎が染みついていて、そこから抜 け出すのにかなり時間を要した。特に重心 の位置。バレエでは、重心を上に引き上げ て体重を感じさせないように立つのである が、バリ舞踊では腰をぐっと落としてヒン ドゥースクワットのように低く構えるので ある。

 最初に習ったのは、バリの女性舞踊の基 本ともいえるレゴン・ラッサムという古典 的な踊りである。元はバリの王宮で踊られ ていた宮廷舞踊であるが、現在は、寺院 祭や舞台公演で踊られている。踊りの振り には何か意味があるのだろうか。踊りの型

(動作単元)の名前や意味をレッスンの合 間に師匠に聞いてみる。時にはわざと下手 に踊ってみて、どこをどう直されるかを試 してみたりする。そんなことをして、踊り の大切なポイントは何であるかを探る。こ こがダンサーと研究者のちがいだろうか。

 踊りの型のひとつに、キジャン・ルブッ ト・ムリンというのがある。直訳すれば「鹿 のハエはらい」である。横歩きをしながら しかめっ面をした顔の前で(ハエをはらう ような感じに)両手を交差させるという動 きだ。鹿は、ラーマーヤナ物語でも「黄金 の鹿」として登場する、バリ人にとっては 親しみのある動物である。もちろん、手で ハエをはらうのは、人間の身体動作である。

バリ舞踊では、動物の動きや、人間の日常 的な動作が多く取り入れられているが、こ 出会いは突然に

 私が主な研究課題としているのは、イン ドネシア・バリ島の舞踊であり、私自身が バリ舞踊のダンサーでもある。しかし、幸 か不幸か、バリ舞踊は私にとって初めての 舞踊体験ではない。私は、幼少期から高校 1年生までクラシックバレエを習っており、

プロで通用するようなレベルではなかった

ダンスの フィールドワーク

中村美奈子

なかむら みなこ / お茶の水女子大学

「舞踊の研究って何するんですか? 踊るんですか?」

という質問をされることがある。もともと踊ることが好きで 踊り続けたいがために研究課題にしてしまったという 研究者も、私を含め、かなりいるのではないだろうか。

踊ることも研究の一部ではあるけれど、

踊っているだけでは研究にならないのが 悩みどころである。

20年来師事しているバリ舞踊の師匠イブ・バルティ ニ(左)と筆者。バトゥカウ寺院にて(2012年9月 8日、バリ・ヒンドゥーの祭礼クニンガンの日)。

バリ島ウブドの宿から見える風 景。手前は蓮の花。田んぼとヤシ の木々のコントラストが美しい。

ラバノーテーションによ るバリ舞踊の採譜例(下 から上へと読み進む)。

2013年6月30日、バリ州芸術祭にて踊る筆者(中央奥)。

踊る  3

デンパサール ウブド バトゥカウ寺院 プサキ寺院 バトゥカウ山 アグン山 バ リ 島

イ ン ド ネ シ ア

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19 FIELDPLUS 2014 01 no.11 の舞踊の型は、そのふたつが融合している

点で興味深い。

舞踊を採譜して分析する

 舞踊人類学の古典的な論文に、言語学的 分析を手法とした研究がある。そこで、筆 者も、バリ舞踊の言語学的な分析を試み、

踊りの型をとりあえず「単語」としてとら え(厳密には、形態素レベルの型もあるの だが)、舞踊の「文法」や「構造」をあき らかにしてみたいと考えた。音楽学では、

こういう時には、楽譜に採譜して、時間芸 術である音楽を紙の上に固定して、全体を 見渡して分析する。同じように、舞踊学で も、舞踊の動きを舞踊譜に記譜して分析す ることができるのだ。

 ルドルフ・ラバンが1920年代に考案し たラバノーテーション(Labanotation)

という記譜法がある。ハンガリー生まれの ドイツ人舞踊家であり、建築や幾何学の専 門知識もあったラバンは、第一次世界大戦 による男性労働者不足を補うために女性に 工場労働をさせるプログラム作成を政府に 命じられて、身体動作を分析するこの記譜 法を考案したと言われている。第二次世界 大戦中にイギリスに亡命したため、現在は、

イギリスにラバンセンターという舞踊専門 機関がある。ラバノーテーションは、西洋 舞踊の記譜法として発展した歴史もあり、

やはり西洋の舞踊を知っている方が理解し やすい記譜法である。そのため今度は、私 のバレエ経験が大いに役立ち、バレエの動

きとの比較を通してバリの舞踊を記譜して いくことができた。

 上肢の動きが多い東洋の舞踊には向かな いのに、この記譜法を採用した理由は、や はり、その汎用性にある。民族音楽学の場 合も便宜的に西洋の五線譜に記譜したり するように、民族舞踊学にとっても、ラバ ノーテーションは、その舞踊を多くの人に 理解してもらうための共通語として役立っ ている。記譜して見て分かったことは、「単 語」の連結のパターンがあること。それは、

踊っているときにもある程度分かっていた ことではあったが、客観的に提示するため には、記譜する必要があったのだ。

コンピュータでとらえられるものと、

とらえられないもの

 もっと詳しく舞踊の動きを分析してみた い。舞踊譜が読めない人にもバリ舞踊のこ とをもっと知ってほしい。そのようなとき に、情報学の研究者の方々から、モーショ ンキャプチャという三次元運動解析装置を 用いた舞踊研究の共同研究に誘っていただ いた。「そんなものでダンスの研究ができ るはずがない」と同業者に数年間にわたっ て言われ続けたけれども、15年余り経って みると、情報技術は目覚ましく発展した。

今では、スポーツの運動解析はもちろんの こと、ダンスの研究にも、モーションキャ プチャは頻繁に使われるようになってきた のである。

 この装置を用いることにより、動きの角

速度や加速度を計算するという数値的な分 析のほか、腕の動きの軌跡や重心位置の移 動を三次元の画面に表示させたりして、視 覚的に舞踊を分析することも可能になっ た。

 ただ、問題もあった。たとえば、常にか すかに指が揺れているのがバリ舞踊の特徴 であり、これは、体内に巡っている内的エ ネルギーの現れとして、とても重要な動き である。しかし、その動きが意図的であろ うとなかろうと、微細な手指動作は「誤差」

として補正されてしまって数値として現れ なかったのだ。(つまり、キャプチャした画 面上では指は揺れていないことになってい る。)しかし、これらの微細な動きをすべて 拾っていては解析装置として成り立たない ので、そもそも、これはコンピュータに解 析を求めるべきことではないのだろう。

身体というセンサー

 舞踊を舞踊で説明できれば一番いい。し かし、それでは通じないので言葉で説明し てみる。だが、言葉で動きを説明すると、

とても「ぶ厚い記述」になってしまう。だ から、記号化してみる。少しわかりやすく なる。客観性を持たせるために、コンピュー タで動きを数値化して、シミュレーション してみる。しかし、いずれの場合でも、踊 るときの身体感覚がないと、正確な分析は できないのではないかと思う。そして、研 究では抜け落ちてしまう満たされない思い は、踊って伝えるしかないのである。

光学式モーションキャプチャによる舞踊動作の撮影風景(身体に付けた マーカの動きを取得する)。

モーションキャプチャで取得したデータ による舞踊動作の三次元表示(アグム⇒

ウクル⇒スルーデットの軌跡を表示)。

バリ芸術祭の一場面。のんびりした雰囲気の中で行われる。

参照

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