ロンウォー語における動詞の文法化にかかわる現象
澤 田 英 夫(アジア・アフリカ言語文化研究所)
Phenomena Related to Grammaticalization of Verbs in Lhaovo
S awada , Hideo
Research Institute for Languages and Cultures of Asia and Africa
Heine & Kuteva(2002) state that the process of grammaticalization involves four main interrelated mechanisms: desemanticization (or ‘semantic bleaching’), extension (or context generalization), decategorialization, and erosion (or ‘phonetic reduction’).
In my paper, I analyze cases of desemanticization from verbs in Lhaovo, a Burmish language.
I examine if these examples are true cases of grammaticalization, i.e. in how far the three other mechanisms can be identified. The following examples are treated: modifier verbs and pre-modifier verbs; subordinate marker-muNLrelated to verbmuNF‘occur, do’; quotation marker-kaLand indicator of hearsay-kaH, both related to verbkaF ‘say, make a sound’; and a further quotation marker-N
"Lrelated to verbPaNF‘think’.
Keywords:Lhaovo(Maru), Tibeto-Burman, verb, grammaticalization, desemanticization キーワード:ロンウォー(マル)語,チベット=ビルマ系言語,動詞,文法化,脱意味化
1 はじめに
2 言語の概況
3 修飾動詞・前修飾動詞 4 従属節標識-muNL
5 引用標識-kaL・伝聞を表示する小辞-kaH
6 引用標識-N
"
L
7 まとめ
参考文献
1 はじめに
世界の様々な言語における文法形式の生起と発展の事例をまとめたHeine & Kuteva(2002) では,文法化を次のように定義する。
文法化は,語彙的形式から文法的形式への,あるいは,文法的形式からより一層文法的
な形式への発展として定義される。 (p.2)
これは,過去に行われた様々な文法化に関する研究の中での最大公約数的な定義であると 言ってよい。また同書は,文法化にかかわるメカニズムとして次の4つを挙げる。
(1) (a) 脱意味化(desemanticization),あるいは「意味的無色化」(semantic bleaching)
—意味内容の損失
(b)(分布の)拡張(extension),あるいは文脈の一般化(context generalization)
—新たな環境での使用
(c) 脱範疇化(decategorialization) —語彙的または他のより文法化されていない形式に 特徴的な形態統語論的特性の損失
(d) 衰弱(erosion),あるいは「音形の縮約」(phonetic reduction) —音声的実質の損失 (p.2)
これらも,過去の研究の全てとは言わないまでも,多くの研究の中で言及されてきたもので ある。このうちHeine & Kuteva(2002)は,(a)の脱意味化が文法化において中心的な役割を果 たし,それが引き金となって(b),(c),(d)が起こると主張する。
本稿では,チベット=ビルマ系のビルマ語群に属するロンウォー語の動詞に起こった脱意味 化の例を挙げ,これらの例でHeine & Kuteva(2002)が挙げた他の3つのメカニズム(分布の 拡張・脱範疇化・音形の縮約)が働いているかどうかを検証し,文法化の事例をなすと言える かどうかを議論する。
2 言語の概況 ロンウォーLhaovo/lo
¯NF voF/は,中華人民共和国雲南省徳宏立族景頗族自治州,ミャン
マー連邦シャン州北部のナムカム・ムーツェ・クッカイ・センウィ・クンロン・ラシオ,同じ くカチン州ンマイカ川東岸のソーロー・チープェー,マリカ川西岸のスンプラブン,州都ミッ チーナーとその対岸ワインモーなどの郡に居住する民族である。(澤田1998: pp.51–52)近隣 に居住するジンポーJinghpaw・ラチッLacid(ラシLashi)・ツァイワZaiva(アツィAtsi)な どの民族などと共に,「カチン」と呼ばれる文化的集団の成員をなす。人口は,中国に約5000 人1,ミャンマーに約10万人である2。なお「ロンウォー」は自称であり,ビルマ語・ジンポー 語による名称はマルMaruである。
ロンウォーは,その居住地域の主要民族であるジンポーJingpho/Jinghpaw,およびラチッ Lacid(ラシLashi)・ツァイワZaiva(アツィAtsi)などの民族と共に,「カチンKachin」と呼 ばれる民族文化共同体を構成する。
ロンウォー語は,言語系統的にはチベット=ビルマ語派(Tibeto-Burman)ロロ=ビルマ語 支(Lolo-Burmese)ビルマ語群(Burmish)マル下位語群(Maruic)に属し,ラチッ語・ツァイワ 語・ボラ語などと近い関係にある。(Nishi1999: p.70)地域共通語であり,チベット=ビルマ 語派に属するジンポー語からは数多くの借用語を受け入れた。また,歴史的に深い関係を持つ シャン語からも直接あるいはジンポー語経由で,さらに国家公用語でビルマ語からも直接ある いはジンポー語・シャン語経由で,借用語を受け入れている。
ビルマでは(おそらくロンウォー人を景頗(ジンポー)族の下位分類としかみなさない中国 でも),政府がロンウォー語を保護しようという動きはない。しかしビルマ側の状況を見るか ぎり,若い世代もロンウォー語を継承しているため,ビルマ語などの影響により変容は免れな いとしても,当面この言語が消滅することはないと思われる。
ラテン文字によるロンウォー語正書法は,ロンウォー人のカトリック聖職者Luka Lahhung:
Hhao” Leim” (1936–)によって作られ,1968年にロンウォー言語文化委員会によって制定さ
れた。(Lhaovo Littero-Cultural Commitee1995: i)ただし,正書法の読み書きが正しくできる のが一部の教育のある人に限られるため,普及率は低い。ただし,聖書やキリスト教関連の出
1戴・徐(1992): p.3.
2A short information about Lhaovo people: p.1.
版は行われ,また不定期ながら雑誌も刊行されている。
3 修飾動詞・前修飾動詞
ロンウォー語で動詞の脱意味化が起こっていると考えられる例として,まず修飾動詞・前修 飾動詞を取り上げる。
3.1 脱意味化の観察
ビルマ語群の言語一般に見られる特徴の一つは,複数の動詞形態素が間に音形を持った標識 を介することなく列をなすという点である。ロンウォー語もその例外ではない。これを「動詞 列」と呼ぶことにする。
2つの動詞形態素からなる動詞列には,2つの種類がある。1つは2形態素が複合して1つ の複合動詞を成すものである。一例として,使役の複合動詞形成が挙げられる。
(2) lømHkhoNF-reF [人名]-ACC
kayF 市場
t˘a-yeL-no
¯NF-φ3. [禁止]-行く-[使役]-IMP ルムコンを市場へ行かせるな。
もう1つは2つの独立した動詞が動詞連続を成すものである。もっとも基本的な例は,動 詞の連続が,継起する複数の出来事を表す次のような例である。
(3) nePFkhoNF 明日
GitF-meNF 水-LOC
m˘a-paPF-TA-kauL-neNH-le
¯H . [否定]-抱える-&-渡る-IRL-[注意喚起]
(鳥がもぐらに)明日,ぼくは(お前を)抱えて川を渡らないぞ。 (「ショー婆さん」) 動詞列を含む否定の文で,否定前接辞m˘a-と禁止前接辞t˘a-がいずれも,動詞列の先頭要 素に前接されることに注意されたい。4
動詞列に含まれる動詞形態素の数は2つとは限らない。3つ以上の動詞が連続をなすことも あれば,複合動詞が動詞連続の構成要素となることもある。
2動詞の連続の後要素として現れるいくつかの動詞は,主動詞を修飾する要素として機能す る。これを修飾動詞(modifier verb)と呼ぶ。
(4) 動詞「置く」→修飾動詞[ある目的に備えて前もって動作を行う]
myiL 火
myePF 早く
matF-TA-to
¯L-kePF-φ. おこす-&-置く-[複数主体]-IMP 火を早くおこしておきなさい。 (「タンノンポー」) (5) 動詞*「近づく」5→修飾動詞[漸進的な変化の開始]
t˘aci
¯tH 少し
lauNF-TA-loF-vaH-TA. 暑い-&-来るH-[認識]-RLS 少し暑くなってきた。
3これ以降の例文に含まれる-φ, -TAについては3.2を参照。
4ちなみにビルマ語では,否定前接辞m˘a-は動詞連続の末尾の動詞に前接される。ビルマ語では否定前接辞 に先行する動詞が動詞連続の要素である可能性があるが,ロンウォー語にはその可能性はない。
(6) 動詞「入れる」→修飾動詞[動作がその場で効果的に作用する]
voFkauNL-poNL-reF 村-人々-ACC
tsaNL-TA-liH-loNH 集まる-&-来る-とき
tshamF-reF 臼-ACC ta¯u
¯F-TA-la
¯u
¯yL-TA-ke
¯PH-TA-kaH .
持ち上げる-&-ひっくり返す-&-入れる-RLS-[伝聞]
村人たちが集まって来たとき,(彼は)臼を持ちあげひっくり返してやったとさ。 (「虎 退治」)
(7) 動詞*「去る」6→修飾動詞[変化の完了相];動詞「始まる」→[動作の開始相]
layF-TA-loH-vaH-TA-TA 過ぎる-&-行くH-[認識]-RLS-ATTR
NoH-tsinF-meNF 5-年-LOC
ch˘e-mauH この-仕事 tsauyL-TA-Gi
¯tF-TA. 持つ-&-始まる-TA
今を去る5年前に(直訳:過ぎ去ってしまった5年に)この仕事をし始めた。
2動詞の連続の前要素として現れるいくつかの動詞も,やはり主動詞を修飾する要素として 機能する。これを前修飾動詞(pre-modifier verb)と呼ぶ。
(8) 動詞「終る」→前修飾動詞[動作の完了相]
tsoF 食べ物
m˘a-pinF-TA-tsoL-ˇsiL-φ. [否定]-終る-&-食べる-まだ-NEG まだ食事をし終っていない。
(9) 動詞「知る」→前修飾動詞[当該動作を行う能力を習得している]
ts˘onauH 子供
m˘a-paF-TA-ca
¯u
¯F-ˇsiL-φ-laPF . [否定]-知る-&-話す-まだ-NEG-[疑問] 子供はまだ話すことができないのか?
5 この語は現在では,グロスにあるように「来るH」,すなわち,移動者が発話場所かつ自らの「定位置」に移 動するという事象を表す。ロンウォー語ではloFを含む4つの動詞が,次のような直示的移動動詞の体系を なす。
着点=[−定位置] 着点=[+定位置] 着点=[−発話場所] yeL「行く」 loH「行くH」 着点=[+発話場所] liH「来る」 loF「来るH」
「定位置」は根源的には「移動者の故郷」であるが,意味的拡張によって「上方・川上・遠いところ」など も含むようになったと考えられる。(澤田2003:347)
澤田(2003)では,これら4つの動詞に次のような意味的変化が起こったと推論した。(pp.359–361)
yeL *《移動活動》(「動く」) 移動系の意味 「行くA」(本稿の「行く」) loH *《離脱・消失》(「去る」) 移動系の意味 「行くB」(本稿の「行くH」)
非移動系の意味[発話時点以降の持続][変化の完了相]
liH *《出現》(「現れる」) 移動系の意味 「来るA」(本稿の「来る」)
非移動系の意味[急激な変化の開始][他者における変化の開始]
loF
*《接近》(「近づく」)
移動系の意味 「来るB」(本稿の「来るH」)
非移動系の意味[発話時点までの持続][漸進的な変化の開始]
[自己における変化の開始]
6注5を参照。
(10) 動詞「良い」→[当該動作を行う機会を得る]
P˘ay-yoPF-reF その-時間-ACC
kukH˜nu
¯kH-HePH 動物-COM
tshoNFsuFpyuF 人類
toNL 言葉 kayF-TA-co
¯H-TA-ca
¯u
¯F-TA-TA-raH 良い-&-互いに7-&-話す-RLS-ATTR-RA
khyoF 事柄
NatF-neNH-kyaL . COPULA-IRL-[総括]
その頃は,動物と人類は互いに言葉を話すことができたことであったろう。 (「モン= ピョッ」)
3.2 脱範疇化
ロンウォー語の動詞は,次のような形態統語的特徴を示す。
1. 文や節を形成する明示的な標識に後続される。
tsauyL-neNH 持つ-IRL 持つだろう
// /
tsauyL-laNL 持つ-HORT 持ちましょう
// /
tsauyL-ˇsoNL 持つ-OPT 持ちますように
////
//
tsauyL-yaNL 持つ-[接続] 持って
// /
tsauyL-loNH 持つ-とき 持つとき 2. 現実(Realis)・否定の情報授受文(Informative sentence)を形成する空の標識-φおよび命
令文を形成する空の標識-φに後続される。
m˘a-tsauyL-φ [否定]-持つ-NEG 持たない
/ //
tsauyL-φ-HaPF 持つ-IMP-[指図] 持ちなさい
/ //
t˘a-tsauyL-φ [禁止]-持つ-IMP 持つな
3. 小辞類の一種で閉じた類をなす助動詞-ko
¯H[複数主体](現実の情報授受文と共に)・ -kePF[複数主体](それ以外の文と共に)・-vaH[話者が事象の生起を認識すると同時に それを発話する]・-shiL「まだ」・-loL「もう」に後続される。
m˘a-tsauyL-ko
¯H-φ
[否定]-持つ-[複数主体]-NEG
(複数主体が)持たない // /
tsauyL-kePF-φ-HaPF 持つ-[複数主体]-IMP-[指図]
(複数主体に)持ちなさい // /
t˘a-tsauyL-ˇsiL-φ [禁止]-持つ-まだ-IMP まだ持つな
// /
tsauyL-l˘o8-neNH 持つ-もう-IRL もう持つだろう
4. 否定前接辞m˘a-・禁止前接辞t˘a-を前接することができる。
5. 名詞化前接辞P˘a-を前接することができる。9
6. 現実・肯定の情報授受文,および,肯定・否定を問わず名詞修飾節(Attributive clause) で助動詞に後続されない場合,最終音節が次のような声調交替を被る。
7co
¯H「互いに」も前修飾動詞の一種だが,この動詞は前修飾動詞としての用法しか持たない。このような動 詞は他にもいくつかある。
8助動詞-loL「まだ」に起こる音節弱化については,3.4を参照。
9派生名詞形成のみならず,日本語の「のだ文」のような機能を果たす文で用いられる。
nuNL-ˇsoL 牛-肉
m˘a-tsoL-φ, [否定]-食べる-NEG
GoPF-ˇsoL 鶏-肉
P˘a-tsoL-TA. NPRF-食べる-RLS 牛肉を食べるのではなく,鶏肉を食べるのだ。
F→L m˘a-yuF /yuL(-raH)10 /m˘a-yuL-raH pyuF /yuL-raH pyuF 取らない /取る /取らない人 /取る人
L→H m˘a-tsauyL/tsauyH(-raH)/m˘a-tsauyH-raH pyuF/tsauyH-raH pyuF 持たない /持った /持たない人 /持った人
(H→H) m˘a-ta
¯H /ta
¯H(-raH) /m˘a-ta
¯H-raH pyuF /ta
¯H-raH pyuF 話さない /話した /話さない人 /話した人 7. 動詞連続内で,動詞が後続する場合に,上記の声調交替を被る。
yuL-vinF- / 取る-運ぶ- 持って行く
tsauyH-pya
¯NH- 持つ-満たす- 達成する
8. 動詞連続内で,先行する動詞がある場合,その動詞に上記の声調交替を引き起こす。11 khyinL-yuF-
選ぶ-取る- 選び取る
cf. khyinF- / 選ぶ
kaukL-tsauyL- 拾う-持つ- 拾って持つ
cf. kaukF 拾う
筆者は,声調交替を引き起こす抽象的な要素TAを立て,これが現実・肯定の情報授受文 の文標識(-TARLS)・名詞修飾要素の標識(-TAAT T R)および動詞連続内での動詞の等位接続子
(-TA&)として機能するという分析を取る(Sawada2005)。また,名詞修飾節を,名詞修飾要素
の標識-TAAT T R が現実の情報授受文を取って形成されると考える。そうすると,上記6.に示
した動詞yuF の4つの形式は,次のように分析される。
m˘a-yuF -φ m˘a-yuF -φ -TA -raH pyuF [否定]-取る-NEG [否定]-取る-NEG-ATTR-RA 人 取らない 取らない人
yuF-TA (-raH) yuF-TA -TA12 -raH pyuF 取る-RLS (-RA) 取る-RLS -ATTR-RA 人 取る 取る人
この立場を取ると,上記6., 7., 8.はそれぞれ次のように言い換えることができる。
6’. 現実・肯定の情報授受文の文標識-TARLS に後続される。13
10-raHは現実・肯定の名詞修飾節・文の末尾に現れる小辞である。現実・肯定の名詞修飾節においては節と主 要部名詞の間の明示的な繋辞(linker)として,音形を持たない標識である-TAをサポートする。現実・肯定 の文においては,-raHは文の格式性(formality)の高さを示す。名詞修飾節における機能が本来のもので,
声調交替の存在を仲介として,現実・肯定の文へもその分布を拡張したものと思われる。(Sawada2005)
11例文(2)のような複合動詞形成の場合には,7.も8.も起こらない。
12TAは直前の音節に対してしか働かず,従ってTAの連続の効果は単一のTAのそれと異ならない。
136.の後半部,すなわち
肯定・否定を問わず名詞修飾節において,最終音節が声調交替を被る。
という言明は,次のように言い換えられることになる。
情報授受文の文標識-TARLS(現実・肯定)/-φNEG(現実・否定)/-neNH(非現実Irrealis)は,名詞修飾 要素の標識-TAAT T Rに後続される。
これはもはや,動詞に関する言明ではない。
7’. 動詞連続中で,後の動詞と等位接続子-TA&を介して接続される。
8’. 動詞連続中で,前の動詞と等位接続子-TA&を介して接続される。
1., 2., 3., 6’.は,動詞連続の最後の要素となり得る動詞が示す特徴である。修飾動詞はこ
れらの特徴を示すが,動詞連続の最後の要素となり得ない前修飾動詞はこれらの特徴を示さ ない。
4., 5.は,動詞連続の最初の要素となり得る動詞が示す特徴である。前修飾動詞はこれらの
特徴を示すが,動詞連続の最初の要素となり得ない修飾動詞はこれらの特徴を示さない。
7’.は末尾要素となり得ない動詞に見られる特徴である。全ての前修飾動詞はこの特徴を示 すが,修飾動詞がこの特徴を示すかどうかは,その後に修飾動詞が立つことができるかどうか によって異なる。
8’.は1番目の要素となり得ない動詞に見られる特徴である。全ての修飾動詞はこの特徴を 示すが,前修飾動詞がこの特徴を示すかどうかは,その前に前修飾動詞が立つことができるか どうかによって異なる。
主動詞の場合も含めて上記の点をまとめると,次のようになる。
(11) 1. 2. 3. 6’. 4. 5. 7’. 8’.
明示的 −φNEG, 助動 -TARLS m˘a-, P˘a- -TA& -TA&
標識が −φI MP 詞が が t˘a-が が が が 後続 が後続 後続 後続 前接 前接 後続 先行
主動詞 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
修飾動詞 ○ ○ ○ ○ × × (○) ○ 前修飾動詞 × × × × ○ ○ ○ (○)
修飾動詞・前修飾動詞とも,上記1.–8’.の特徴の全てを備えてはいない。しかしこれは動詞 連続内におけるこれらの動詞の位置によるものである。上記の特徴のあるものを欠くことが 直ちに脱範疇化を起こしていることを示すとは言えない。14
3.3 分布の拡張
修飾動詞・前修飾動詞とも,動詞連続内の要素の特殊なケースであり,その分布は動詞連続 内に限られる。それゆえ,これらは分布の拡張の事例には当たらない。
3.4 音形の縮約
ロンウォー語には前接辞P˘a-, m˘a-, t˘a-などに代表される弱音節(weak syllable)があり,ま た音節弱化の現象も見られる。音節弱化が義務的に見られるのは,次の2つの場合である。
1. 数名詞(numeral noun)taF「1」が類別名詞(classifier noun)や位取りの数名詞(digit numeral noun)と結合する場合
pyu 人
t˘a-yaukF / 1-CLFR
t˘a-yoF 1-百
2. 助動詞が明示的な文・節の標識あるいは他の助動詞に先行する場合
14ついでながら,助動詞は1., 2., 6’., 5.を満たし,複数の助動詞が共起する場合に末尾に来る-ko
¯H・-kePF[複 数主体]以外は3.も満たす。
naF-ˇs˘ı-neNH 居る-まだ-IRL
(複数の人が)まだいるだろう // /
naF-ˇs˘ı-kePF-φ
居る-まだ-[複数主体]-IMP
(複数の人に)まだいなさい // / m˘a-naF-l˘o-ko
¯H-φ
[否定]-居る-もう-[複数主体]-NEG
(複数の人が)もういない
// /
naF-ˇs˘ı-v˘a-ko
¯H-TA
居る-まだ-[認識]-[複数主体]-RLS
(複数の人が)まだいた
上記2つの音節弱化が起こる環境に共通するのは,複合的構造の非末尾要素であるという 点である。
目下の現象に目を向けると,動詞連続の非末尾要素であることが明らかな前修飾動詞には,
この種の音節弱化が起こる例はない。また,修飾動詞に別の修飾動詞が後続すれば,前の修飾 動詞は非末尾要素となるわけだが,この場合にも音節弱化は起こらない。
4 従属節標識-muNL
次に取り上げる例は,継起の意味の従属節を形成する標識-muNLである。これは,動詞 muNFが脱意味化したものと考えられる。
(12) tsaNF 太鼓
pePF-muNL 打つ-[継起]
tsamF 豊作の踊り
koH-TA-TA 踊る-RLS-ATTR
P˘a-ko
¯H-TA.
NPRF-[複数主体]-RLS
(彼らは)太鼓を打って,豊作の踊りを踊るのである。
(13) m˘a-paF-muNL ない-知る-[継起]
tsoL-TA-hu
¯kH-TA. 食べる-&-会う-RLS 知らずに食べてしまった。
4.1 動詞muNFの意味と用法
動詞muNFは,出来事・動作を問わず動的事象全般を表す動詞である。出来事を表す場合 は「なる」という意味を表し,動作を表す場合は「する」という意味を表す。
(14) pe
¯H 何
m˘a-muNF-φ. [否定]-なる-NEG 何も起こらない。
(15) mauH 仕事
ka¯tH-TA-reF15 する-RLS-ACC
k˘alo
¯L-tsaL よく-[限定]
m˘a-paF-TA-ka
¯tH-yaukF16-reF [否定]-知る-&-する-人-ACC taNFnoNHphoH
[人名]
No¯PH-ta
¯u
¯yL 鳥-罠
khyoH 仕掛ける
t˘a-muNF-kePF-φ-kaL
[禁止]-なる-[複数主体]-IMP-QUOT lo¯NFvoF-GiF
[民族名]-PLR
toNLkhyoL 言い伝え
coPF-TA-loH-TA-TA ある-&-行くH-RLS-ATTR
na¯u
¯NF . あと
仕事を上手にすることができない人に,「『タンノンポーの鳥罠仕掛け』をするな」とい う,ロンウォー人の言い伝えができてしまった。 (「タンノンポー」)
15対格標識-reFには,時を表す名詞句や現実の情報授受文を取って,出来事の起こる時を表す用法がある。
16yaukF はyaukFkayF「男子」などの複合名詞の要素や,人にかかわる類別名詞として用いられる。ex.
t˘a-yaukF「1-人」 また,この例のように,動詞句を取って複合名詞句を作ることもある。
「なる」の意味を表す動詞としては,pøH「(事物が)生じる,(出来事が)起こる,…にな る」の方がよく用いられる。
(16) GukFˇsinL-khyoH ネズミジラミ-PER
noFpukL-P˘acaLcaL 病気-各種
kyayF 非常に
pøH-TA-raH . 生じる-RLS-RA ネズミジラミが媒介となって様々な病気が生じるのだ。
(17) lauNFpyitF-kyøF-meNF [地名]-岩場-LOC
my˘ı-la
¯kF 火-燃える
la¯kF-TA-TA 燃える-RLS-ATTR
ruF-HaF こと-TOP m˘a-kayF-TA-pøH-TA.
[否定]-良い-&-生じる-RLS
ラウンピィッ川17岸の岩場が火事になることは,あり得ない。 (「貧乏人の子供」) (18) phyitH-ˇsoH
婆さん-[人名]
ne¯NL-ka
¯u
¯kH 胡麻-皮
fePH-TA-khyoH-TA-ke
¯PH-TA-TA 掛ける-&-落とす-&-入れる-RLS-ATTR
r˘u-meNH こと-ABL ch˘e-ruL
この-よう
pøH-TA-loF-TA-TA 生じる-&-来るH-RLS-ATTR
ruF こと
NatF-TA. COPULA-RLS
ショー婆さんが胡麻の皮を捨てたことから,このようになったのだ。 (「ショー婆 さん」)
また,「する」の意味を表す動詞としては,ka
¯tH「(ものを)作る,(物事を)する」の方が よく用いられる。
(19) yaukFkayF-nauH-GeF 男子-子供-PLR
kyanF 籠
paF-TA-ka
¯tH-TA-TA 知る-&-作る-RLS-ATTR
P˘a-ko
¯H-TA.18
NPRF-[複数主体]-RLS 男の子たちは,籠を作ることができるのだ。
(20) t˘a-nePF-paF-reF 1-CLFR-日-ACC
mukL-thoPH-tauNFkyauNF-t˘a-yaukF 天-上-[種族名]-1-CLFR
ˇsitF-yaNL 死ぬ-[接続] k˘apanFkoH-pø
¯F 葬礼の踊り-祭り
ka¯tH-ko
¯H-TA-kaH . する-[複数主体]-TA-[伝聞]
ある日,天上のタウンキャウン族の1人が亡くなり,(タウンキャウン族たちは)葬礼 の踊りを執り行ったとさ。 (「人が死ぬ訳」)
(21) l˘ahauNLl˘apo
¯NL-nauH-ca
¯mF-HaF [種族名]-子供-PLR-TOP
kyøFsoF 神
ka¯tH-TA-to
¯L-TA-TA-raH 作る-&-置く-RLS-ATTR-RA mukL-myitF-y˘osoPH-reF
天-地-万象-ACC
P˘atu
¯kHP˘aGuyF あべこべ
ka¯tH-TA-pye
¯PH-pyitL-TA-kaH . する-&-投げる-与える-RLS-[伝聞]
ラハウン=ラポン(森羅万象に混乱をもたらす種族)の子たちは,神の作った天地世界 をあべこべにしてしまったとさ。 (「ラハウン=ラポン」)
17カチン州を流れるエーヤーワディー(イラワジ)川の2大支流の一つ,マリ川(ジンポー語ではM˘ali hka)。
18名詞前接辞P˘a-は動詞だけでなく助動詞にも前接され,その場合,直前の動詞は声調交替形を取る。筆者は この構造を,名詞化した助動詞と名詞修飾節からなる擬似名詞修飾構造であると考えている。なお,名詞化 前接辞を伴った助動詞の後に-TARLS を仮定するのは,この環境で助動詞-ˇsiL「まだ」と-loL「もう」が交 替形を取るためである。
(22) pe
¯H 何
m˘a-ka
¯tH-φ. [否定]-する-NEG 何もしない。
pøH とka
¯tH という2つの動詞が,具体的な事物の出現((16),(19))・イベントの成立
((17),(20))・名詞が表す事態への変化((18),(21))のいずれの成立にかかわる意味も表すこと のできる生産的な動詞であるのに対し,muNF は(15)のように代動詞として用いられるか,
(14)のように慣用表現として用いられるかのどちらかであることが多い。
動詞muNF は,従属節標識-yaNLと結合して用いられることが多い。(23),(24)はそれぞれ 疑問名詞pe
¯H「何」・指示名詞PayF「それ」を取る例,(25)はruF「もの,こと」による名 詞化節を取る例,(26)は起格標識-meNH によって形成される格句19を取る例である。
(23) pe
¯H 何
muNF-yaNL なる-[接続]
NoF-reF 私-ACC
ch˘e-ruL この-よう
paL-myitL-TA-PiF . 知る-問う-RLS-[疑問]
どうして私にこのように尋ねるのか?(そんなこと尋ねるまでもないことだ。) (24) PayF
その
muNF-yaNL なる-[接続]
v˘okauNL-meNF 町-LOC
tsukL-lauLtePH-GeF-reF 名家の-大人-PLR-ACC l˘o-ta
¯H-TA-kyo
¯L-ko
¯H-TA-kaH .
来るH-話す-&-聞かせる-[複数主体]-RLS-[伝聞]
それで,(彼らは)町で名家の大人たちに話して聞かせたとさ。
(25) P˘ay-no
¯H この-程度
soPHhaH 便宜
GoH-TA-TA 得る-RLS-ATTR
ruF こと
muNF-yaNL なる-[接続]
˜no¯NLna
¯u
¯NH 私たち(Incl.) ta¯u
¯NFpyuF-GeF-reL カチン人-PLR-[付加]
myoNL-reF 馬-ACC
˜naNH-tsaL 確かだ-[限定] paF-TA-myu
¯NF-chaL-TA-raH-HoH . 知る-&-飼う-必要だ-RLS-RA-[感嘆]
これほど便利なので,我々カチン族たちも馬をきちんと飼育することができる必要が ある。
(26) yoNL 彼
pamF-phyoL-meNH 山-頂き-ABL
muNF-yaNL なる-[接続]
voF-khyoF 村-ALL
loF-TA-raH . 来るH-RLS-RA 彼は山の頂から町に戻って来た。
ロンウォー語の動詞の基本形,すなわち声調交替を被らない形は,そのままで「Vもの」「V こと」という意味の派生名詞として用いることができるので,次の2例は派生名詞20を取る代 動詞と接続の従属節標識-yaNLの組み合わせの例とみなすことができる。
(27) tsaNF 太鼓
pePF 打つ
muNF-yaNL なる-[接続]
tsamF 豊作の踊り
koH-TA-TA 踊る-RLS-ATTR
P˘a-ko
¯H-TA.
NPRF-[複数主体]-RLS
(彼らは)太鼓を打って,豊作の踊りを踊るのである。(直訳:「太鼓打ちをして」)
19名詞句+格標識からなる句単位に対して筆者が導入した術語である。動詞句+文標識を「文」,動詞句+節 標識を「節」と呼ぶように,格標識によって形成される文法単位にも固有の名称が必要であると考えたのが,
この術語を導入した所以である。この点からすると,「格標識」を「格句標識」と呼び替えた方が一貫性があ るかもしれない。
20(27)の場合には,派生名詞を主要部とする複合名詞句。
(28) m˘a-paF ない-知る
muNF-yaNL なる-[接続]
tsoL-TA-hu
¯kH-TA. 食べる-&-会う-RLS
知らずに食べてしまった。(直訳:「知らないことになって」)
これらの例のmuNF-yaNLはmuNLと交替可能である。
(29) pe
¯H-muNL 何-[継起]
NoF-reF 私-ACC
ch˘e-ruL この-よう
paL-myitL-TA-PiF . 知る-問う-RLS-[疑問]
どうして私にこのように尋ねるのか?(そんなこと尋ねるまでもないことだ。) (「虎退 治」)cf.(23)
(30) P˘ay-muNL その-[継起]
v˘okauNL-meNF 町-LOC
tsukL-lauLtePH-GeF-reF 名家の-大人-PLR-ACC l˘o-ta
¯H-TA-kyo
¯L-ko
¯H-TA-kaH .
来るH-話す-&-聞かせる-[複数主体]-RLS-[伝聞]
それで,(彼らは)町で名家の大人たちに話して聞かせたとさ。 (「貧乏人の子供」) cf.(24)
(31) P˘ay-no
¯H この-程度
soPHhaH 便宜
GoH-TA-TA 得る-RLS-ATTR
ruF-muNL こと-[継起]
˜no¯NLna
¯u
¯NH 私たち(Incl.) ta¯u
¯NFpyuF-GeF-reL カチン人-PLR-[付加]
myoNL-reF 馬-ACC
˜naNH-tsaL 確かだ-[限定] paF-TA-myu
¯NF-chaL-TA-raH-HoH . 知る-&-飼う-必要だ-RLS-RA-[感嘆]
これほど便利なので,我々カチン族たちも馬をきちんと飼育することができる必要があ る。cf.(25)
(32) yoNL 彼
pamF-phyoL-meNH-muNL 山-頂き-ABL-[継起]
voF-khyoF 村-ALL
loF-TA-raH . 来るH-RLS-RA 彼は山の頂から町に戻って来た。cf.(26)
そして,(27),(28)に対応するのが,本節の考察の対象となる(12),(13)である。
4.2 脱範疇化
-muNLが,3.2に挙げた性質のうち1., 2., 3., 4., 5., 8’.を持たないことは明白である。また,
この形式はもはやL以外の声調を取ることがないため,6’., 7’.も保っているとは言えない。
4.3 分布の拡張
従属節標識-muNLが動詞muNF の声調交替形に由来することは否定できない。前項でも 述べたように,筆者は声調交替を引き起こす三つの抽象的要素-TARLS・-TAAT T R・-TA&を立 てる。声調交替形であるmuNLは,次のどれかの実現した形である。
• -muNL-TARLS
• -muNL-TARLS-TAAT T R
• -muNL-TA&
分布の拡張の有無を言及する前に,まず従属節標識-muNLがこの3つのうちどれに由来す るものなのかを考察する必要がある。
まず,muNF-TARLS-TAAT T Rが従属節標識-muNLの来源であるとは考えられない。-muNL
が名詞に直接先行することがないわけではないが,その場合でも-muNLの導く従属節が名詞 を修飾することはないからである。
また,muNF-TARLS も-muNLの来源ではあり得ない。もしそうであるとすれば,主節のい かんにかかわらず,この節の表す内容は現実のものでなければならないはずである。しかしこ れには明らかな反例がある。主節が命令文である次の例では,発話時点で「太鼓を打つ」とい う事象は現実に起こっていない。
(33) tsaNF 太鼓
pePF-muNL 打つ-[継起]
tsamF 豊作の踊り
koH-kePF-φ. 踊る-[複数主体]-φ
(複数の聞き手に対して)太鼓を打って,豊作の踊りを踊れ。
同じことはmuNF-yaNLについても当てはまる。
(34) tsaNF 太鼓
pePF 打つ
muNF-yaNL なる-[接続]
tsamF 豊作の踊り
koH-kePF-φ. 踊る-[複数主体]-φ
(複数の聞き手に対して)太鼓を打って,豊作の踊りを踊れ。
そうすると,-muNLの来源として一番妥当なのはmuNF-TA&ということになる。動詞連
続内で-TA&が担う機能は前後の動詞の接続であり,しかも声調交替形を取る動詞はその表す
事象が現実のものであるという含意を持たないからである。
通常-TA&が起こるのは動詞連続の内部であるから,従属節標識-muNLにおいて分布の拡
張が起こったと言うことができる。
4.4 音形の縮約
3.4で述べたように,音節弱化は複合的構造の非末尾要素に起こる。末尾要素(厳密には,
末尾要素の最終音節)には,音節弱化は通例起こらない。
ロンウォー語に限らずビルマ諸語では,文や節の(明示的な)標識はそれが取る動詞句に後 続する。そして,これらの標識は通例弱化しない。従属節の標識として機能する-muNLもこ の例に漏れない。
5 引用標識-kaL・伝聞を表示する小辞-kaH
次に,動詞kaLからの脱意味化と考えられる2つの形式について考察する。
引用標識-kaLは,ものの名前から複数の文に到るまで,あらゆる発話内容に後続する。
-kaLによって導かれる引用句は様々なタイプの発話の動詞と共に,また,発話の動詞を主動 詞としない文の中で挿入的に用いられる。
(35) yoNL 彼
pyitF-yoPFGukF-meNF 4-時-LOC
loF-neNH-kaL 来るH-IRL-QUOT
toNLthaNH 約束
pyitL-TA. 与える-RLS 彼は4時に来ると約束した。
(36) yoNL 彼
NoF-reF 私-ACC
loF-neNH-PiF-kaL 来るH-IRL-[疑問]-QUOT
myitL-TA. 問う-RLS 彼は私に来るかと尋ねた。
(37) yoNL-HaF 彼-TOP
NoF-reF 私-ACC
cheL-tu
¯NHpa
¯u
¯kH この-本
Ne¯PH-φ-HaPF-kaL 読む-IMP-[指示]-QUOT
mo¯F-TA. 話す-RLS 彼は私にこの本を読みなさいと指示した。
(38) yoNL-HaF 彼-TOP
NoF-reF 私-ACC
ch˘e-khyoH ここ-PER
t˘a-loF-φ-kaL
[禁止]-来るH-IMP-QUOT
ta¯mH-TA-raH . 禁じる-RLS-RA 彼は私に,ここを通って来てはいけないと禁じた。
(39) laL-kaL 弩-QUOT
ta¯H-TA-naF-TA-raH . 話す-&-居る-RLS-RA
「弩」と言っている。
(40) PayL-l˘akhaL-reF その-犬-ACC
l˘ata
¯u
¯kH-kaL [犬の名]-QUOT
ma¯NH-TA-TA 名づける-RLS-ATTR
P˘a-ko
¯H-TA.
NPRF-[複数主体]-RLS その犬をラタウッと名づけたのだ。
(41) myoNL-tsheNF-reF 馬-髪-ACC
ta¯NL-ta
¯u
¯yL 弦楽器-弦
ka¯tH-neNH-kaL 作る-IRL-[引用]
kyayF 非常に
la¯u
¯NH-PoF-TA-TA いつも-好む-RLS-ATTR P˘a-ko
¯H-TA.
NPRF-[複数主体]-RLS
馬のたてがみを,楽器の弦を作るために(といって),永く非常に好んできたのだ。
同じくkaLに関連づけられる-kaH は,文などの発話内容に後続し,その文のソースが伝 聞であることを表示する。前節ですでにいくつか例が挙がっているが,さらに例を挙げる。
(42) tsoL-namF 食べる-種類
ˇsaukH-phoL 飲む-させるもの
m˘a-vinF-φ-reF [否定]-担う-NEG-ACC
khyauNF-khukF-meNF 洞窟-中-LOC
pe¯H 何 m˘a-coPF-φ
[否定]-ある-NEG
NatF-TA-raH-kaH. COPULA-RLS-RA-[伝聞]
食べ物飲み物を持っていかないと,洞窟の中には何もないのだそうだ。 (「ピュー人の 洞窟」)
(43) nePFmoHpaF 明日
loF-neNH-kaH. 来るH-IRL-[伝聞] 明日来るんだって。
(44) P˘ay-meNF そこ-LOC
tauL-TA-GuH-φ-HaPF-kaH. 掘る-&-見る-IMP-[指示]-[伝聞] そこを掘ってみろ,だってさ。
(45) N˘a-myi
¯H 私の-母
mo¯-TA-reF 話す-RLS-ACC
l˘a˜na
¯u
¯L-reF 猫-ACC
veNL 腹
kyiL-ˇsoPH 満腹だ-まで t˘a-tso
¯L-kePF-φ-kaH.
[禁止]-食べさせる-[複数主体]-IMP-[伝聞]
お母さんが言うことには,猫におなかが一杯になるまで食べさせてはいけません,とさ。
5.1 動詞kaLの意味と用法
動詞kaLは,文・ものや人の名前さらには擬音語など様々な要素を取って,それが発話・発 声・発音されることを表す。
(46) pe
¯H 何
kaLkaL 言うRDPL
cheL-myiFGeL-nauH この-女性-子供
yauNH-TA-raH . 美しい-RLS-RA 何のかんの言っても,この娘は美しい。
(47) lømHkhoNF [人名]
kaL-TA-TA-raH 言う-RLS-ATTR-RA
pyuF 人 ルムコンという(名前の)人
(48) ta
¯u
¯NFmaNL カチン州
kaL-TA-TA 言う-RLS-ATTR
ruF もの
khayL-meNF . どこ-LOC カチン州というのは,どこか?
(49) ya
¯mF-sakH 家-新しいもの
myoNH-ˇsoPH 永く-まで
kaNL-ˇsoNL 堅固だ-OPT
kaL-TA-reF 言う-RLS-ACC
myiFkhukH-HePH 煙-COM
ya¯mF 家
tsanH-TA-TA 燻す-RLS-ATTR
P˘a-ko
¯H-TA.
NPRF-[複数主体]-RLS
新しい家が永く堅固であるように,煙で家を燻すのだ。(直訳:「あるようにというとき には」)
(50) pe
¯H-muNL 何-[継起]
kaL-TA-reF 言う-RLS-ACC
GukFˇsinL-khyoH ネズミジラミ-PER
noFpukL-P˘acaLcaL 病気-各種
kyayF 非常に pøH-TA-raH .
生じる-RLS-RA
なぜかというと,ネズミジラミが媒介となって様々な病気が生じるのだ。
(51) ˇsaPFˇsaPF [擬音語]
kaL-TA-raH . 言う-RLS-RA シャーシャーと音を出す。
(52) ta
¯H-TA-reF 話す-RLS-ACC
PeNFPeNF はいはい
kaL-TA-raH . 言う-RLS-RA 話せばはいはいと言う。
(53) yoNL 彼
ch˘e-ruL この-よう
kaL-TA-raH . 言う-RLS-RA 彼はこう言った。
kaLの表す意味においては,話し手による発話の行為よりはむしろ,発話内容そのものの提 示に重点が置かれる。通常の発話の動詞であるta
¯H「話す」やmo
¯F「言う」と比べて,動詞 kaLが動作者の項を主語として取ることは皆無でないにしても非常に少ないということは,こ のことの傍証であると考えられよう。
5.2 脱範疇化
引用標識-kaLは3.2に挙げた動詞の形態統語的特徴1.–5., 8’.の全てを持たない。声調もL に固定されているため,特徴6’., 7.も持たない。
伝聞表示の-kaH についてもいちおう同様のことは観察されるが,こちらの方は脱範疇化し ているということに関していささか疑問の余地を残す。これについては5.3で述べる。
5.3 分布の拡張
この2つの事例で興味深いのは,声調交替を被ったかどうかの違いが,機能の違いに対応し ているという点である。
引用標識は動詞kaLの基本形に関連づけられる。基本形はそれ自体で派生名詞としてふる まい,複合名詞形成の入力として用いられたり,あるいは先行する補語や修飾する要素を取っ た複合名詞句を形成し,次の例に見られるように動詞の補語として用いられたりする。21
(54) [ kyanF-meNF 籠-LOC
ts˘oka
¯kH 握り飯
ke¯PH-TA-to
¯L] 入れる-&-置く
m˘a-kayL-φ. [否定]-良い-NEG 籠に握り飯を入れておくのはよくない。
引用標識-kaLが,動詞kaL-からの派生名詞「(と)いうこと」に由来するというのは十分 あり得ることである。
派生名詞として用いられる動詞の基本形は,通常動詞の要求する項として用いられる。そう
すると,(40),(41)の挿入引用句の場合に分布の拡張が起こっていると言うことができる。
一方,伝聞表示の-kaLは,文の末尾に立つことからみてkaLが現実・肯定の情報授受文の 標識-TARLS を伴った形に由来するものと考えられる。人から伝え聞いた時点で,その人によ る発話行為「言う」は現実のものとなっているわけだから,意味的にも整合性がある。
伝聞表示の-kaH において分布の拡張が見られるかどうかは,かなり微妙な問題である。発 話内容に直接後続し,間に他の要素の介在を許さないという点では動詞kaLも小辞-kaH も 変わりない。また,伝聞表示の-kaH と直前要素との間にはポーズが置かれないが,同じこと は動詞-kaH にも当てはまる。以上のことから,伝聞表示の-kaH は,単に-kaL-TARLS の脱 意味化したものに留まるという可能性は捨て切れない。後者であった場合には,脱範疇化も起 こっていないことになる。
5.4 音形の縮約
4.4におけると同様,いずれにおいても音形の縮約は見られない。
6 引用標識-N
"
L 最後に,-kaLと同様に引用標識として働く-N
"
Lについて考察する。
(55) moNLpyoPL-HaF [人名]-TOP
moNLloL-reF [虎の名]-ACC
ch˘e-ruL-N
"
L この-よう-QUOT
ta¯H-TA-kaH . 話す-RLS-[伝聞] モン=ピョッはモン=ローに,こう言ったとさ。 (「モン=ピョッ」)
21(15)のtaNFnoNHphoH ngo
¯PH-ta
¯u
¯yL khyoH「タンノンポーが鳥の罠を仕掛けること」もおそらく類似の 例であるが,khyoHの基本形がH を持つので,声調の面からこのことを立証することはできない。
(56) P˘aloNH22 そのとき
moNLloL-HaF [虎の名]-TOP
kyoL-TA-kyaukF-muNL 聞く-&-恐れる-[継起]
NoF 私 lauNH-TA-coPF-TA-le
¯H 隠れる-&-いる-RLS-[注意喚起]
t˘a-kømF-φ-le
¯H-N
"
L
[禁止]-投げつける-IMP-[注意喚起]-QUOT tamF-TA-ta
¯H-TA-kaH . 返る-&-言う-RLS-[伝聞]
そのときモン=ローは(それを)聞いて恐れ,「私が隠れているよ,(槍を)投げつけな いでくれよ」と答えたとさ。 (「モン=ピョッ」)
(57) s˘ayoF-khyoF 森-ALL
yeL-yaNL 行く-[接続]
pukFkauNF-meNF 丘-LOC
No¯PH-ta
¯u
¯yL 鳥-罠 y˘e-khyoH-φ-HaPF-N
"
L
行く-仕掛ける-φ-[指示]-QUOT P˘a-mo
¯F-TA-reF NPRF-話す-RLS-ACC
pe¯H-muNL 何-[継起] ya¯mF-khauNF-toNF-meNF
家-屋根-上-LOC
ta¯u
¯yL 罠
loF-TA-khyoH-TA-PiF . 来るH-&-仕掛ける-RLS-[疑問]
森に行って丘に鳥の罠を仕掛けなさいと言ったのに,どうして家の屋根の上に罠を仕掛 けるんだい? (「タンノンポー」)
(58) P˘aloNH そのとき
moNLloL-HaF [虎の名]-TOP
khy˘o-yeNF-meNH 道-付近-ABL
mo¯NL-taNL-reF 柴-束-ACC choNL-TA-vinF-TA-liH-φ-HaPF
従う-&-運ぶ-&-来る-IMP-[指示] NoF 私
hi¯tH-khyoF 先-ALL
suL-TA-naF-neNH-N
"
L 歩く-&-居る-IRL-QUOT moNLpyoPL-reF
[人名]-ACC
ta¯H-choPH-TA-kaH . 話す-残す-RLS-[伝聞]
そのときモン=ローは,「道端の柴の束を持って来てくれ,ぼくは先に歩いている」と,
モン=ピョッに言い置いたとさ。 (「モン=ピョッ」) (59) myiHthoNF
夜
cøH-loNH 到る-とき
taNFnoNHmyi
¯H-HaF [人名]-TOP
yoNL-tsoL-GiF-reF 彼女-息子-大きい-ACC
myiL 火 matF-TA-to
¯L-kePF-φ
おこす-&-置く-[複数主体]-IMP
niH-phoH あなた-父
kyoPF-TA-loF-neNH-N
"
L 寒い-&-来るH-IRL-QUOT mo¯F-TA-kaH .
話す-RLS-[伝聞]
夜になると,タンノンミィーは上の息子に「火をおこしておきなさい,お前の父さんが 寒がっているだろう」と言ったとさ。 (「タンノンポー」)
(60) layF-TA-loH-vaH-TA-TA
過ぎる-&-行くH-[認識]-RLS-ATTR
tsinFlamL-NoH-yoF-khoF-reF 年-5-百-約-ACC
lauNFpyitF-GitF-paFvoNF-te
¯PH-khyoF [地名]-川-西-側-ALL
ts˘akhauNL-khoNFmoHGeNF-N
"
L [氏族名]-[人名]-QUOT
maNF-TA-TA-raH 名を持つ-RLS-ATTR-RA
lauLkayF-t˘a-yaukF 勇者-1-CLFR
naF-TA-kaH . 居る-RLS-[伝聞]
今を去る500年前,ラウンピィッ川の西岸に,ツァカウン=コンモーゲンという名の勇 者がいたとさ。 (「虎退治」)
22P˘ay-loNH「その-とき」の縮約したもの。
(61) P˘aloNH そのとき
taNFnoNHmyi
¯H-TAyaNF [人名]-INST
tshePH 大鹿 m˘a-la
¯u
¯NL-TA-myiH-TA-PiF-N
"
L
[否定]-徘徊する-&-捉まる-RLS-[疑問]-QUOT
myitL-TA-kaH . 問う-RLS-[伝聞]
そのときタンノンミィーが,「大鹿が罠にかかっていないか」と問うたとさ。 (「大鹿 の罠」)
(62) t˘a-nePL-paF-reF 1-CLFR-日-ACC
P˘ay-ˇsitH-tsoL-HaF その-2-若者-TOP
s˘ayoF-khyoF 森-ALL
No¯PH-ta
¯u
¯yF 鳥-罠
khyoH-N
"
L 仕掛ける-QUOT leNH-TA-loH-ko
¯H-TA-kaH .
回る-&-行くH-[複数主体]-RLS-[伝聞]
ある日,その2人の若者は,鳥の罠を仕掛けようと,森に出掛けて行った。 (「貧乏人 の子供」)
(63) P˘ay-loNH その-とき
chukHtsoLnauH-HaF 貧乏人の子供-TOP
myitF-meNF-HaF 地面-LOC-TOP
v˘oGuL [鳥名] m˘a-kayF-TA-myiH-PaNF-φ
[否定]-良い-&-捉まる-当たる-NEG
mukL-meNF-reL 空-LOC-[付加]
ˇs˘ochitH 鹿 m˘a-kayF-TA-myiH-PaNF-φ-N
"
L
[否定]-良い-&-捉まる-当たる-NEG-QUOT
tsukLnauH-HePH 名家の子供-COM
ˇs˘ochitH-reF 鹿-ACC co¯H-TA-la
¯tH-ko
¯H-TA-kaH .
互いに-&-奪う-[複数主体]-RLS-[伝聞]
そのとき,貧乏人の子供は,「地面にヴォクー鳥が捉まっているはずはないし,空に鹿 が捉まっているはずもない」と言って,名家の子供と鹿を奪い合ったとさ。 (「貧乏人 の子供」)
6.1 もととなる動詞の候補
引用標識-gaLにとっての動詞gaLに当たる動詞を-N
"
Lに対して求めるならば,まずN
"
Fが 候補に挙がる。
N
"
F が文の主動詞として用いられる例はあまり見られない。次の例はロンウォー語訳新約聖 書から見つけ出した例である。
(64) laFpa
¯F-reF 使徒-ACC
y˘e-GuH-neNH 行く-見る-IRL
N
"
F-ko¯H-TA-PiF .
いう-[複数主体]-RLS-[疑問]
(あなたがたは)使徒を見に行くというのか?(新約聖書マタイ福音書第11章第9節)
よく見られるのは,声調交替形で対格標識-reFを伴うケースである。(66)のように名詞化 接辞のP˘a-も伴う事例もある。
(65) paL-kauNF 日-身体
ta¯u
¯F-TA-TA 等しい-RLS-ATTR
PauL とき
liH-kePF-φ
来る-[複数主体]-IMP N
"
F-TA-reF いう-RLS-ACC pe¯H-muNL
何-[継起]
paFvoNFtsoH-reF 夕方-ACC
liH-ko
¯H-TA-PiF .
来る-[複数主体]-RLS-[疑問]
(お前たちは)正午に来いといったのに,どうして夕方に来たのか。 (「貧乏人の子供」)
(66) tshoNFsuFpyuF-GeF 人類-PLR
m˘a-ˇsitF-φ [否定]-死ぬ-NEG
P˘a-N
"
F-TA-reF NPRF-いう-RLS-ACC
kyayF 非常に ˇsitF-nukF-k˘e-na
¯u
¯NF . 死ぬ-欲する-[複数主体]-あと
人類は不死であるのに,非常に死にたくなってしまったのだ。23(「人が死ぬ訳」) また,名詞修飾節の主動詞となることもある。
(67) k˘ane
¯NH 昔
t˘a-la
¯NF 1-回
taNFnoNHphoH [人名]
N
"
F-TA-TA いう-RLS-ATTR
ruF24-t˘a-yaukF もの-1-人 naF-TA-kaH .
居る-RLS-[伝聞]
昔タンノンポーという一人の人物がいたとさ。 (「タンノンポー」) (68) ta
¯u
¯NFpyuL-ya
¯mF カチン-家
P˘ala
¯pH 全て
N
"
F-neNH-meNF いう-IRL-LOC
GoPF 鶏 khauF-TA-to
¯L-paF-TA-TA
飼う-&-置く-知る-TA-TANPRF-[複数主体]-RLS P˘a-ko
¯H-TA.
カチンの家々全てで,鶏を飼っておく習慣があるといってよいのだ。(直訳:カチンの 家全てというであろうもので,鶏を飼っておく習慣があるのだ。)
さらに次の例では,-N
"
Fの基本形がyaukF「人」と複合して,複合名詞句「…という人」を 形成している。
(69) chukHmoHmyi
¯H-HaF 未亡人-TOP
ts˘akhauNL-khoNFmoHGeNF [氏族名]-[人名]
ta¯H-TA-TA-raH 言う-RLS-ATTR-RA
toNL-reF 言葉-ACC v˘otsukLphoH
村長
khyeNFchinH [人名]
N
"
F-yaukF-reF いう-人-ACC
y˘e-ta
¯H-TA-kyo
¯L-TA-kaH . 行く-言う-&-聞かせる-RLS-[伝聞] 未亡人はツァカウン=コンモーゲンの言った言葉を村長のキェンチンという人のところ に行って聞かせたとさ。 (「虎退治」)
実は,もう一つ候補がある。それは動詞PaNFである。この動詞は「(籤などに)当たる;
(籤などで…に)当たる」の意味に用いられるほか,coF-PaNF「正しい-正当だ」・tauF-PaNF
「同じだ-正当だ」・NatF-PaNF「[コピュラ]-正当だ」のような対複合動詞(paired compound
verb)を形成する。また,V-PaNF「Vすることが正当だ;Vすべきだ」のような複合動詞も形
成する。さらに,文や複合名詞句を取って「考える」「思う」の意味を表す。
(70) Na
¯nHti
¯tF-HaF [人名]-TOP
yaNLkuNL-m˘achitH-te
¯kFkaFtuL-meNF [地名]-薬-大学-LOC
y˘e-toPF-neNH 行く-上る-IRL
PaNF-TA-pyaukF-vaH-TA.
考える-&-無くなる-[認識]-RLS
23元来不死であった人間が,天上のタウンキャウン族の葬礼の踊りを見た帰りに動物の死体を拾い,これをま つって葬礼の踊りをしているのを,タウンキャウン族の一人が見て言った言葉。
24ruF「もの・こと」は人間以外の生物・無生物・あるいは出来事そのものを指すことが多いが,この例のよ うに人間を指す例もある。
ンガンティッは,ヤンゴン医科大学に進学しようと考えを固めていた。
(71) P˘ay-thoNF その-後
yeFsuF-HaF イエス-TOP
tukFnoL-paF-reF 休息-日-ACC
kaukF-yoF-khyoH 穀物-畑-PER suL-TA-layF-TA-loH
歩く-&-過ぎる-&-行くH
PaNF-TA-raH . 思う-RLS-RA
そしてイエスは,安息日に畑を通って歩いて行こうとした。(新約聖書マルコ福音書2 章23節)
ただし,「考える」「思う」の意味を表す動詞としては,co
¯Fやジンポー語からの借用語であ るmyitF の方がよく用いられる。25
(72) NoF-HaF 私-TOP
yoNL 彼
ya¯mF-meNF 家-LOC
naF-TA-N
"L 居る-RLS-QUOT
co¯F-TA. 思う-RLS 私は彼が家にいると思う。
(73) NoF-HaF 私-TOP
yoNL 彼
liH-neNH-N
"L 来る-IRL-QUOT
myitF-TA. 思う-RLS 私は彼が来ると思う。
なお,PaNF,co
¯F,myitFが引用標識として用いられる例は確認されていない。
6.2 音形の縮約 まず最初に,-N
"
Lの持つ特異な音形について語らなければならない。
-N
"
Lは,ロンウォー語におそらく2つしかない成音節子音の形態素である。26この(成音節)
子音は動詞PaNFの末子音と同一の子音であり,しかもPaNF の頭子音は声門閉鎖音である。
引用標識にせよ,動詞にせよ,(-)N
"
LないしはN
"
F がPaNFの縮約に由来すると考えることは 不自然ではない。
6.3 脱範疇化と分布の拡張 引用標識-N
"
Lと動詞N
"
F,そして動詞PaNFという3つの形式の間でどのような変化が起 こったのかについては,次の2通りの可能性がある。
1. 動詞PaNF > 動詞N
"
F > 引用標識-N
"
L
(縮約) (脱意味化・脱範疇化)
2. 動詞PaNF > 引用標識-N
"
L > 動詞N
"
F
(脱意味化・脱範疇化・縮約) (脱範疇化の逆)27
1.を採った場合に問題となるのは,動詞PaNF >N
"
Fの変化である。前述のとおり成音節子 音の形態素はロンウォー語の中でも非常に例が少ないものであり,この非常に例の少ない形 式への縮約が起こったとすれば,相応の理由がなければならないはずである。仮に動詞PaNF
25(73)のように,借用語であっても声調交替を被る点は注目に値する。
26もう一つは,m
"L「はい」(肯定の返事)。
27Willis (ms.)の‘category reanalysis from grammtical (preposition, pronoun, article etc.) to (more) lexical (noun, verb, adjective)’