7 月 9 日講義参考資料
• 次回は7月17日(火)です.
• 次回講義中に授業アンケートを行うのでインターネットにア クセスできる端末がある人は持ってきてください.
• 左に太い線(←)が引っ張ってある箇所は 発展的内容, そ れ以外は 基礎的内容 です.
• このノートはホームページ
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/˜shimizu/LectLC2018.html
(google検索:「清水達郎」+「RIMS」+「線形代数」)から
ダウンロードできます.
11 .同値関係と商空間
f :V1→V2を線型写像とする.kerf ⊂V1はV1の線形部分空 間であった.f :V1/kerf →Im(f)⊂V2を,
f([x]) =f(x)
で定める.
定理11.1. f は矛盾なく定義されていて,しかも線形同型写像で
ある.このf をf が誘導する写像という.
Proof. (前半:矛盾なく定義されていること) [x] = [x′]とする とx−x′∈kerf よりf(x−x′) = 0.よって,
f([x]) =f(x) =f(x)−f(x−x′) =f(x−(x−x′)) =f(x′) =f([x′]).
よってf([x])は[x]の代表の取り方に寄らない.
(後半1:線形写像であること) f(a[x]+b[y]) =f([ax+by]) = f(ax+by) =af(x) +bf(y) =af([x]) +bf([y]).
(後半2:同型写像であること) 全単射であることを言えば よい.
全射性:任意のy∈Im(f)に対しx∈V1が存在しf(x) =yを 満たす.よってf([x]) =f(x) =y.
単射性: 単射であることを示す.f([x]) = 0とすると,f([x]) = f(x) = 0よりx∈kerf.よって[x] = [0].([0]はV1/kerfの零 元である).
12 .体
これまで線形空間はQ上,R上,C上などを考えてきたが,こ れらは体と呼ばれる演算付き集合の例である.線形代数はもっと 一般の体に対して展開できる.
定義12.1. 集合Kに加法+ :K×K→Kと乗法·:K×K→K が定義され,以下を満たすとき体(field)という.
(1) 任意のa, b∈Kに対しa+b=b+a,
(2) 任意のa, b, c∈Kに対しa+ (b+c) = (a+b) +c,
(3) (零元の存在) 0 ∈ K が存在し,任意の a ∈ K に対し
a+ 0 = 0 +a=a,
(4) 任意のa∈Kに対し−a∈Kがただ一つ存在しa+(−a) = (−a) +a= 0,
(5) 任意のa, b∈Kに対しab=ba, (6) 任意のa, b, c∈Kに対しa(bc) = (ab)c,
(7) (単位元の存在) 0 と異なる元1 ∈ K が存在し,任意の
a∈Kに対しa1 = 1a=a,
(8) 任意の0 ̸= a ∈ K に対しa−1 ∈ K がただ一つ存在し aa−1=a−1a= 1,
(9) 任意のa, b, c∈Kに対しa(b+c) =ab+ac.
例えばR,Q,Cは体であるが,Mn(C)は体ではない(行列の積 は可換ではないし,一般に乗法に関する逆元を持たない).Zは
±1以外の0でない元が乗法に関する逆元を持たないため体では ない.
例. 自然数nに対し部分集合nZ⊂Zを nZ={nm|m∈Z}
で定め,同値関係 ∼n を a ∼n b ⇔ a−b ∈ nZで定める.
Z/nZ=Z/∼nにはZの加法と乗法がそのまま移植される:
[a] + [b] = [a+b],[a][b] = [ab].
命題 12.2. pが素数のとき,Z/pZは体である.
Proof. 条件の(8)以外は明らか.(8)を示す.a∈ Z, a̸∈pZに 対し[a][b] = [1]となるb∈Zが存在することを示せばよい.写像 ma :Z/pZ→Z/pZをma([b]) = [ab]で定める.maは単射であ る.実際,[ab] = [ab′]とすると[a(b−b′)] = [0]であるが,pが素 数でa̸∈pZであるからb−b′∈pZである.よって[b] = [b′].
Z/pZは有限集合なので単射ma は全射でもある.よって特に ma([b]) = [a][b] = [1]となるb∈Zが存在する.
例えばZ/2Zは集合としてはZ/2Z={0,1}で,演算は 0 + 0 = 0,0 + 1 = 1 + 0 = 1,1 + 1 = 0,
0·0 = 0,0·1 = 1·0 = 0,1·1 = 1
となる.Z/2Zでは[1] = [−1]であるため,加法と減法は同じ演 算になる.Z/2Zは,何かの例を考えたり,問題を簡単にしたい ときにしばしば用いられる.
例. M2(Z/2Z)には24= 16個の行列が属していて,例えば ( 1 1
0 1
) ( 0 1 1 1
)
=
( 1 0 1 1
)
である.
13 .双対空間
Kを体とする.K上の線形空間V, W に対し L(V, W) ={f :V →W |f は線形写像} とおく.
補題 13.1. f, g∈L(V, W),a∈Kに対し
(af+g)(x) =af(x) +g(x), ∀x∈V
によって加法とスカラー倍を定めると,L(V, W)はK上の線形 空間である.
零写像0∈L(V, W)を任意のx∈V に対して0(x) = 0として 定める.0は線形空間L(V, W)の零元である.
例. (1) L(Kn, Km)∼=Mm,n(K).
(2) 線形同型φ : L(K, V) →∼= V が,φ(f) = f(1)で与えら れる.
定義13.2. 線形空間V に対し,L(V, K)をV の双対空間といい,
記号V∗=L(V, K)で書く.
以降V は有限次元線形空間とする.(前回までの講義でも断り 無く線形空間は有限次元であったが,今回は特に有限次元を仮定 した議論を多用するのであえて強調しておく)
V の基底x1, . . . , xnに対し,x∗1, . . . , x∗n ∈V∗を,
x∗i(xj) =δij
で定める.∑
jajxj∈V に対し,
x∗i(∑
j
ajxj) =ai
である.
命題 13.3. x∗1, . . . , x∗nはV∗の基底である.
Proof. V∗を生成すること:
任意のf ∈V∗と任意の∑
iaixi∈V に対し,
f(∑
i
aixi) =∑
i
aif(xi) = (∑
i
f(xi)x∗i)(∑
i
aixi)
なのでf =∑
if(xi)x∗i である.よってf ∈ ⟨x∗1, . . . , x∗n⟩であり,
V∗=⟨x∗1, . . . , x∗n⟩. 一次独立であること:
∑
iaix∗i = 0とすると任意のjに対してaj = (∑
iaix∗i)(xj) = 0.
x∗1, . . . , x∗nをx1, . . . , xnの双対基底という.φx:V →V∗ を φx(∑
i
aixi) =∑
i
aix∗i
で定めると,φxは線形同型写像である.この線形同型写像は基底 x={x1, . . . , xn}の取り方に依存するように見える.実際依存す ることが知られている.
V∗の双対空間(V∗)∗を簡単の為V∗∗と書く.V ∼=V∗, V∗∼= V∗∗であるからV ∼=V∗∗であるが,この同型は実は基底の取り 方に依らない『自然な』ものである:
定理 13.4. φ:V →V∗∗,φ(x) = (f 7→f(x))とおくと,V の 任意の基底x1, . . . , xnに対しφ(xi) =x∗∗i (= (x∗i)∗)が成り立つ.
特にφは線形同型写像である.
Proof. 任意のjに対してφ(xi)(x∗j) =x∗j(xi) =δij=x∗∗i (x∗j)で ある.よってφ(xi) =x∗∗i .
V =L(K, V) 双対←→ V∗=L(V, K)
注意. φ : V → V∗∗ の定義に基底は用いていないので,φは基 底に寄らない『自然な』線形同型である.他方V とV∗の間には
『自然な』同型は存在しない.
注意. V が無限次元のときは定理13.3,13.4は成立しない.
【例】1変数多項式のなす線形空間 K[x] ={
∑n
i=0
aixi| ∀n≥0,∀ai∈K}
は基底1, x, x2, . . .を持つがその双対1∗, x∗,(x2)∗, . . .はK[x]∗の 生成系になっていない.例えばK[x]∗ ∋f, f(∑
iaixi) = ∑
iai は1∗, x∗, . . .の線形結合では表せない.
実はV が無限次元のとき,定理13.3,13.4の写像に限らず,一 般にV ̸∼=V∗, V ̸∼=V∗∗であることが知られている.
【例】Z/2Z[x]と,Nの有限部分集合全体からなる集合との間 に全単射がある.一方(Z/2Z[x])∗とNの部分集合全体からなる 集合との間に全単射がある.Nの有限部分集合全体の集合と部分 集合全体の集合の間には全単射が存在しないことが知られている.
前回講義した対称双一次形式の一般化である双一次形式を導入 しておく.V, W をK上の有限次元線形空間とする.
定義 13.5. b : V ×W → K が双一次形式であるとは,任意の v ∈V, w∈W に対しb(·, w) :V →K, b(v,·) :W →Kが線形 写像であるときをいう.
定義を言い換えれば,双一次形式b:V ×W →Kは2つの線 形写像を与える:
lb:V →W∗, lb(v) =b(v,·), rb:W →V∗, rb(w) =b(·, w).
定義 13.6. 双一次形式b : V ×W → K が非退化であるとは,
lb, rbが共に単射であるときをいう.
V, W は有限次元で,dimV = dimV∗,dimW = dimW∗なの で次が従う.
命題13.7. K上の有限次元線形空間V, Wの間に非退化双一次形
式b:V ×W →Kが存在するとき,lb:V →W∗, rb:W →V∗ は線形同型である.
この命題の応用を2つ述べる.
応用1
補題 13.8. e:V ×V∗ →Kをe(x, f) =e(x)で定めるとき,e は非退化双一次形式である.
Proof. le:V →V∗∗が単射であること: le(x) = (f 7→ f(x)) = 0∈V∗∗とすると,任意のf ∈V∗についてf(x) = 0である.こ こからx= 0が従う(各自確かめよ).
re:V∗→V∗が単射であること: re(f) = (e(·, f) :V →R) = f である.
系13.9. (基底に依らない)『自然な』線形同型V ∼=V∗∗がある.
応用2
補題 13.10. R上の有限次元線形空間V 上の対称双一次形式
b:V ×V →Rが非退化(=対応する対称行列が正則)であれば,
bは双一次形式としても非退化である.
Proof. V の基底をひとつ取りRnと同一視しておく.bは適当な
正則対称行列Sによって
b(x, y) =xTSy
と書かれる.lb : Rn →(Rn)∗ は,lb(x)(y) =xTSy, x, y∈Rn で与えられる.あるxに対しlb(x) = 0とすると,任意のyに対 しlb(x)(y) = xTSy = 0である.yとして特にy = S−1xを取 ると,
0 =lb(x)(S−1x) =xTx=∥x∥2.
よってx= 0.したがってlbは単射である.rbが単射なのも同様 に示される.
系 13.11. V を有限次元実内積空間とすると,V とV∗の『自然 な』同型が以下で与えられる:
V 7→V∗, x7→(y7→(y, x)).
つまり,内積があると線形同型V ∼= V∗ が自然に得られる.
よって任意の線形写像f :V →Rは『V のある一つの元との内積 をとる写像』として実現される:
定理 13.12 (Rieszの表現定理). V を有限次元実内積空間とす る.任意のf ∈V∗に対し元af ∈V がただ一つ存在し
∀x∈V, f(x) = (x, af) を満たす.
練習問題 線形空間P2 ={a0+a1x+a2x2 | ai ∈R} に内積 (·,·)を次で定義する(これが内積であることは各自確かめよ.):
(f, g) =
∫
[−1,1]
f(x)g(x)dx.
E∈P2∗をE(f) =f(0)で定義するとき,E(g) = (g, fE)が任意 のgに対して満たされるようなfE∈P2を求めよ.
次回:授業アンケート,行列の指数関数,その他補足