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日中国交正常化における周恩来の役割に関する史的考察

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Academic year: 2022

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学位請求論文審査報告書

題目  日中国交正常化における周恩来の役割に関する史的考察

    提出者 

胡鳴(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程)

    主旨

本論文は、1972年の日中国交正常化にいたる政治・外交過程を、中国国務院総理周 恩来の果たした役割に焦点をおきながら考察した実証研究である。著者がこうした歴史 研究に取り組んだ背景には、国交正常化以来両国関係には「歴史問題」、「台湾問題」、

「領土問題」等々をめぐりさまざまな摩擦、対立が顕在化したが、こうした諸問題を未 来志向的に解決するに当たっては、戦後の両国関係とりわけ国交正常化の交渉過程およ びその合意内容という原点に戻って再検証する必要性があるとの今日的な問題意識が ある。従来、本研究課題については日中両国の研究者を中心に相当数の研究蓄積がある が、そうした中で著者は、日本側の公開史料のみでなく一般的にはきわめてアクセスが 困難な中国側の重要な原資料を利用する機会を許され、複眼的な観点から輻輳した両国 関係の実態を生き生きと再構築している。また両国側の関係当事者たちからの聞き取り 調査の成果も、文献資料とクロスチェックさせつつ効果的に活用されている。 

 

本研究の構成と概要 

本論文の目次、および各章の概要は以下のとおりである。 

  序章 

第1章  周恩来と中国の対日外交 

第2章 周恩来と建国後の対日アプローチ  第3章  国交正常化に向けた日本への働きかけ 

第4章  中国国内における対日国交正常化への環境作り  第5章  周恩来の対日外交の集大成:日中国交正常化の実現    終章  日中国交正常化における周恩来の役割の検証 

参考文献   

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序章では、戦後日中関係に関する研究史を整理、考察した上、先行研究との関連で著者 の問題関心を提示する。1972年に実現した国交正常化は、いわゆる「ニクソンショ ック」という国際政治環境の変化と日本および中国の国内政治情勢の変動というタイミ ングを的確に捉えた周恩来が、主要な政策立案者としてのみならず、実際の外交交渉に おいても主導的な役割を果たしたとの基本的な仮説が提起される。 

  第一章は、周恩来と中国の対日外交との関わりについて検証する。周恩来は1949 年中華人民共和国建国初期から中国の対日外交を直接指導し、自ら対日政策方針の立案、

対日交流活動の指導、そして日本人との人脈作りを手がけたことを具体的に明らかにす る。その上で周恩来の対日外交を支えた根底には、彼が1910年代後半の日本留学や 抗日戦争、および戦後の日中交流によって形成した日本観、日本人脈であることを指摘 する。 

  第二章は、中華人民共和国樹立後、60 年代半ばまでの対日外交政策と国交正常化に 向けての周恩来の対日アプローチの特徴およびその果たした役割について考察する。そ の中で中国の対日政策の形成過程において、中国側は周恩来の指導の下で、鳩山内閣、

池田内閣に対して、外交ルートおよび民間交流を通じ、国交回復に向けた一連のアプロ ーチをした過程を分析する。 

  第三章は、周恩来が 1970 年以降、日中国交正常化の実現に向けて、日本の経済界、野党、

社会各界および与党、そして発足直後の田中内閣に「攻勢」をかけ、対中復交に関する日 本社会の大きな潮流を作り出すその過程と手法を分析する。その中で従来の先行研究にお いて定説になっている竹入義勝・公明党委員長の「日本政府密使」説に対し、著者は疑問 を提起した上で、周恩来は逆に竹入を田中内閣に中国側の交渉原案を伝達させる「密使」

として活用したという自説を立てる。 

  第四章は、70 年代初頭の中国が置かれた国際、国内情勢を検証した上、周恩来が国交正 常化交渉に備える国内の体制作りに努め、国民に対する説得・教育キャンペーンを推進し た全体像を明らかにする。その中で著者が独自のルートで入手した未公開の政府側一次資 料や、国交正常化の過程に直接に関わった複数の中国側関係者の証言に基づいて、国交正 常化に向けた中国国内の動向およびそれに込められた周恩来の真意と目的を考察する。 

  第五章は、国交正常化の到達点である日中共同声明が合意されるまでの政府間交渉の内 容と過程を考察する。まず、周恩来の指導の下で行われた田中訪中を迎えるための中国側 の準備過程を明らかにする。次に、日本外務省が公開した史料を基に、政府首脳会談にお ける「歴史問題」「戦争状態終結問題」「台湾問題」をめぐる交渉過程を検証し、さらに毛 沢東と田中角栄両首脳の会見を含め、政府間交渉全過程における周恩来の役割を分析する。 

  終章は、日中国交正常化における周恩来の役割とその歴史的評価、未来への含意につい て総括的な分析を行う。中華人民共和国建国後の対日外交における周恩来の役割を概括し

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た上で、周恩来の対日外交の成功点と問題点を指摘する。最後に、周恩来の対日外交が今 日の日中関係、および中国の対日外交にもたらす示唆とインプリケーションを提示する。 

 

本論文の特徴   

本研究は、日中関係史研究であるとともに周恩来研究としても位置づけられるものである、

両分野とも日中両国の研究者を中心にこれまで豊富な研究蓄積があったが、そうした先行 研究との関連の中で、著者は意欲的な仮説を設定し、両国の公的史料を駆使するとともに 関係当事者からの積極的な聞き取り調査を重ね、実証性の高い研究を行った。とりわけ  周恩来の秘書、警備室長、親族、交渉に参加した外交部の通訳、新華社記者などとのイン タービュー、あるいは日本側からは接近が容易ではない中央文献研究室、中央党校研究室 からの協力を得、その成果を取り入れた点は重要である。これらの調査を踏まえて、抜群 の知名度を持ちながらも、学術的には未解明の部分も多かった周恩来の対日関係に関わる 思想形成、具体的関与の足跡が明らかにされたことは高く評価できよう。

本論文の審査・評価

本審査委員会は、学位申請者より提出された上記論文の査読を踏まえ、2009年5月21日 午後12時半から2時間にわたり口頭審査を行った。審査の過程で提起された指摘、質問等 のうち主たる問題点は以下のとおりである。

(1) ほぼ全員の審査委員から提起された点は、日中国交正常化における「積み上げ方式」

に関わる問題であった。すなわち著者は国交正常化は、田中内閣成立直後きわめて 短期間に実現された点を重視し、これを「激変」と捉えることが的確であるとの視 点を強調したが、これに対しその視点の意義を評価しつつも、それ以前の民間交流 も含めた長期的な準備期間についても一定のクレディトを与えるべきではないか との意見が提示された。とりわけ「積み上げ方式」については広義と狭義に分けて きめ細かく考察することの必要性が指摘された。

(2) 中国の対日外交組織として、従来の研究者がほとんど解明することのなかった「大 日本組」「小日本組」についての考察は学術的にも極めて斬新である。またなかな か証言が得られにくい関係者からのヒアリング成果が随所に生かされていること は評価できる。

(3) 国交正常化の最終段階で日本とアメリカでは大きな差異があったが、この点は両国 の対外政策決定過程の特徴を踏まえてさらに深く考察すべきであろう。

(4) 公明党の竹入委員長の役割については、彼個人の判断としてではなく、組織全体と りわけ池田大作の役割との関連についても一次資料にあたって検討する必要があ ろう。

(5) 日本における当時の中国ブームについては、中国側の「攻勢」というより日本国内

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にあった「文化大革命」の熱気についても視野に入れるべきであろう。

(6) 脚注のつけ方について学術論文としては不適当な箇所が散見される。

(7) 論文題目にある「史的考察」という言葉は工夫が必要である、また参考文献の書き 方についても利用した文書館等、あるいは聞き取り調査を行った人々のリスト(当 人の許可が得られない人は除く)を掲げるとより学術論文としての体裁が整ったで あろう。

以上、本審査委員会は、胡鳴氏が提出した学位請求論文の査読およびそれを踏まえての面 接審査を総合的に判断した結果、本研究は日本ならびに中国における日中関係史研究、周 恩来研究にとって貴重な学術的貢献をなしうるものであると認め、ここに本研究論文を早 稲田大学博士(学術)に十分ふさわしいものとして満場一致で推薦する次第である。

審査委員会

主査  後藤  乾一  早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授(法学博士  慶応義塾大学)

副査  朱建栄  東洋学園大学教授(政治学博士  学習院大学)

審査委員  天児慧  早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授(社会学博士  一橋大学)

審査委員  陳肇斌  首都大学東京教授(法学博士  東京大学)

2009年5月28日

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参照

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