• 検索結果がありません。

労働契約法の改正と実務への影響

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "労働契約法の改正と実務への影響"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

この原稿は 2014 年 3 月 15 日の日本生態学会広島大会で行なわ れたフォーラムでの報告をまとめたものである。 *e-mail: [email protected]

労働契約法の改正と実務への影響

篠原 信貴*

関西外国語大学 外国語学部

Revision of Labor Contract Act and its effects on actual practice affairs†

Nobutaka Shinohara*

College of Foreign Studies, Kansai Gaidai University

要旨:有期労働契約に関する平成 24 年度労働契約法改正、特に無期転換ルールとこれによって生じると懸念される雇 止めを念頭に解説し、検討を加える。無期労働契約における解約自由の修正(解雇権濫用法理)、有期労働契約におけ る期間満了の効果の修正(労働契約法 19 条)が現在の雇用終了に関する法的ルールを作り出しており、解雇はもちろ ん、一定の雇止めについても合理性・相当性が求められている。つまり、使用者にとって解雇は不可能であるが雇止め は可能であるというシンプルな構造にはなっていない。労働契約法改正により労働契約法 18 条において導入された原 則 5 年を超えて有期労働契約を反復更新している労働者に無期転換申込権を付与するという無期転換ルールは、この雇 用終了に関する法的ルールと並存して設定された。そのため、無期転換ルールの回避を意図する雇止めが生じた場合で も、当該雇止めは裁判の場においては労働契約法 19 条に基づく審査を免れることはできず、他方で無期転換後に解雇 に至った場合には解雇権濫用法理によって審査がなされる。この両審査は、雇止めの場合には雇用継続に対する合理的 な期待の有無と雇止めの合理性・相当性審査という二段階審査であるが、解雇の場合には必ず合理性・相当性審査がな されるという一段階の審査であるという点、及び合理性・相当性の中身が解雇の場合にやや厳格であるという点に差異 がある。無期転換回避のための雇止めが生じるとすれば、この差異を捉えてなされることになるが、これをどのように 評価すべきであるのかは、労働契約の内容・運用によって異なる。そこで、解雇・雇止めの適否に影響を与えうる要素 を人事管理について正社員と非正規社員(限定正社員)の視点から整理し、また雇用継続の期待に関して不更新条項の 運用がもたらす影響を分析する。 キーワード:有期労働契約、雇止め、無期転換、限定正社員、多様な正社員

Ⅰ はじめに

 平成 24 年度労働契約法の改正により、同一使用者との 間で有期労働契約を締結・更新しつつ原則 5 年を超えて 雇用されている労働者に無期転換申込権を付与すること になり(無期転換ルール)、当該 5 年のカウントが平成 25 年 4 月より開始された。有期労働契約の締結目的につ いて法的にはほぼ制限のない日本においては、現在、有 期労働契約を反復更新して働き続ける労働者が数多く存 在する。そうした労働者が今回の改正により 5 年を超え て働き続けることができなくなる、あるいは 5 年が経過 する前に使用者は雇止めをせざるを得なくなるといった 懸念や、5 年を超えると正社員化され、待遇が大きく改 善されるといった認識が見受けられるが、改正法のその ような捉え方は必ずしも正確とはいえない。そこで、本 稿では有期労働契約法制と今回の労働契約法の改正につ いて解説し、その影響について若干の検討を加えること を目的とする。

学術情報特集 1

若手研究者のキャリアパス支援

(2)

Ⅱ 問題状況

 平成 24 年度労働契約法の改正により、同法 18 条∼ 20 条が新設された。労契法 18 条は無期転換ルール(5 年ル ール)の導入であり、19 条は従来から判例法理として構 築されてきた雇止め制限法理の立法化である。また、20 条は有期労働契約における不合理な労働条件の禁止規定 となっている。法改正後、特に無期転換ルールにつき、5 年での無期転換申込権付与になじまない働き方をしてい る者がいるとの批判があり、研究者等を対象に一部例外 が設けられた。  かような法改正の背景には、非正規社員の増加と格差 問題がある。いわゆる正社員と非正規社員の二極化の問 題を解決するため、パート労働法の改正をはじめ、限定 正社員(多様な正社員)の導入や整理解雇基準の見直し などが議論されるなかでなされた改正ではあるが、今回 の改正はあくまで「有期労働契約」に関する改正であって、 正社員と非正規社員の格差問題をすべて取り扱っている わけではない。  なお、正社員と非正規社員とは法的な区分ではなく、 人事管理上の区分である。一般に正社員とは、①無期、 ②フルタイム、③直接雇用を前提に、特に大企業では④ 年功的処遇、⑤勤務地・職種限定なし、⑥時間外労働あ りの各要素を満たすものとされており、これらの要素の いくつかを欠いた者が非正規社員と区分される(厚生労 働省・望ましい働き方ビジョン)。この二極化はワーク・ ライフ・バランスの観点等から問題視され、近時、職種・ 勤務地、あるいは労働時間についての限定した働き方(限 定正社員・多様な正社員)についての議論がなされている。

Ⅲ 有期労働契約と無期労働契約

一 民法上の雇用契約  改正法を検討する上で前提となる、期間の定めと労働 契約(雇用契約)についての法的な定めの要点のみをご く簡単に確認しておきたい。  そもそも労働契約は、民法上は雇用契約として定めら れている。ただ、民法上は対等な当事者間での契約が想 定されているが、現実には労使間で交渉力・情報格差が 存在し、契約自由の原則を貫徹させることは妥当でない。 そこで、労働法の領域において、種々の労働関係法規や 判例法により、一定の修正が加えられているのである。  まず民法の規定を確認しよう。雇用契約は、期間の定 めを設ける場合(有期契約)と期間の定めを設けない場 合(無期契約)に大別される。無期契約の場合、当事者 双方は、2 週間の予告期間を置けばいつでも当該契約を 解約できる(民法 627 条)。ここでいう「いつでも」とは、 理由を問わずの意であり、「解約自由の原則」と呼ばれる。 他方、有期契約の場合、期間中は当事者双方ともやむを 得ない事由がないと解約できないとされており(民法 628 条)、「解約自由の原則」は存在しない。ただし、契 約に定められた期間が満了すれば契約の拘束力は失われ るため、満了時には自動的に解約されたのと同じ状態に なる。仮に期間満了後に引き続き労働者が就労し、使用 者がこれを知りながら異議を述べないときには、雇用契 約関係は存続するが、その契約は当事者一方の 2 週間前 表 1.(編集部注)改正労働契約法のポイントまとめ(詳しくは本文を参照されたい) 該当する法律 内容 概要 ポイント 労働契約法 18 条 無期労働契約への転換 2 つ以上の有期労働契約 * が通算 5 年 (大学教員などの場合は 10 年 **)を超 えたときに、労働者の申し込みによっ て無期労働契約に転換できる ・労働条件は無期転換後も基本的には同じ ・ 転換前と転換後で「使用者(法人など)」 が同一であることが必要 ・ 6 か月以上契約がない期間を空ければ通算 期間はリセットされる 労働契約法 19 条 雇止め制限法理 一定の場合には雇止めは認められない ・ 更新について合理的期待が認められれば、 合理性・相当性のない雇止めは無効になる ・ すでに確立されている判例法理の明文化 労働契約法 20 条 不合理な労働条件の禁止 有期労働契約と無期労働契約で不合理 な労働条件の違いを設けることを禁止 ・ 職務内容や人事管理が異なれば、これに応じて労働条件に差異を設けることは不合理 ではない ・ 通勤や食堂利用、安全管理についての差異 は基本的に許されない * 任期付ポスドク、任期付教員、特任教員などが相当する。 **TA(ティーチングアシスタント)や RA(リサーチアシスタント)などの期間はカウントされない。

(3)

の解約申入れにより終了する(民法 629 条)。  つまり、民法上の無期の雇用契約は必ずしも当事者が 長期雇用を前提として結んだ契約とは評価されていない。 あくまでも、当事者一方が 2 週間の予告期間を置けばい つでも解約できる契約である。この予告による解約は、 使用者からみれば解雇であるし、労働者側からみれば退 職(辞職)である。このような契約形態では相手方から いつ契約を解約されるか分からず、不安定であると契約 当事者が考えるのであれば、すなわち契約当事者が互い の持つ一方的解約権を制約しようとするのであれば、当 該契約に期間を付して、その期間内ではやむを得ない事 由がないと解約できないようにする道が用意されている のである。したがって、民法上は有期契約の方が当事者 の拘束性は高いといえる。ただし、あまりに長期の契約 を認めると、なんらかの理由により期間内に契約関係か ら離脱したいと考える当事者にとって不都合な事態も予 想される。そこで、不当な人身拘束を避けるために、期 間の上限は原則 5 年と定められた(民法 626 条)。なお、 やむを得ない事由がなければ契約を解約できないという のも、むしろ本来有期契約は当事者一方の意思では期間 中に解約できないが、やむを得ない事由(労働者の私傷 病や事業の継続が困難となる事情等)があれば、法的に 一方当事者からの解約を認めるものと読み直すとわかり やすい。 二 労働法による修正 1 無期労働契約  こうした民法上の雇用契約は、労働法上は労働契約と 呼ばれ(雇用契約と労働契約は基本的に同一のものと捉 えてよい。菅野 2013)、労働基準法等により解雇予告期 間の 30 日間への延長、就業規則による解雇事由の明示等 種々の制約が使用者に課されているが、最も大きな修正 は解雇権濫用法理(労働契約法 16 条)である。裁判所は、 民法上の解約自由の原則を貫徹することによる労働者の 不利益を考慮し、権利濫用法理を用いて客観的に合理的 な理由を欠き社会通念上相当として是認することができ ない解雇は権利の濫用として無効になるとの判例法理を 確立させ(解雇権濫用法理)、労働者の保護を図った(日 本食塩製造事件・最 2 小判昭和 52.1.31 労判 268 号 17 頁)。 現在ではこの解雇権濫用法理は労働契約法 16 条にほぼそ のまま立法化され、合理性・相当性のない解雇は権利の 濫用として無効になると定められている。なお、解雇は 使用者による労働契約の一方的解約を意味するから、解 約に合理性・相当性が求められるのは使用者のみであり、 労働者からの解約については修正がない。すなわち、民 法に定められているとおり 2 週間の予告期間を置けば、 労働者から労働契約を解約(退職)することはできる1 また、期間の定めのある労働契約においては、期間中に おいてはそもそも解約にはやむを得ない事由が必要であ り、それは解雇権濫用法理によって求められる合理性・ 相当性よりも狭いので、期間途中の解雇の場合であって も合理性・相当性の充足は問題にならない2  解雇権濫用法理によって求められる解雇の合理性・相 当性の有無についての審査は、事後的な総合考慮になら ざるを得ないから、当事者にとって予測可能性が高くな い。また、解雇にいたる事情は様々なものがあり、労働 者に起因する解雇、例えば職務規律違反や能力不足等に 基づき解雇に至るケースもあれば、使用者に起因する事 情により、典型的にはいわゆるリストラにより解雇に至 るケースもあるが、後者のような労働者側に帰責性のな い解雇については、より慎重な判断が必要であるといえ る。そこで裁判所は人員整理による解雇について、①人 員削減の必要性、②解雇回避努力義務、③被解雇者選定 の相当性、④説明・協議義務(手続きの相当性)という 四つの観点からその合理性・相当性を審査することとし た。これは整理解雇の四要件(四要素)と呼ばれる。  この四つの考慮要素の中で中核的な判断要素として位 置づけられるのは、②の解雇回避努力である。一般に使 用者は広範な人事権(指揮命令権)を保持しているから、 これを駆使して最大限解雇という結論を回避するよう努 力する必要がある。例えば配転・出向などで解雇回避が 可能であれば、そのような努力をしなければならない。 近時、限定正社員(多様な正社員)の雇用保障が議論の 対象となるのは、限定正社員の場合、使用者は一定範囲 で配転命令権に制限があるから(契約上職種・勤務地が 限定されている労働者に対しては、使用者はその限定範 囲を超えた配転命令権を保持していない)、整理解雇の場 面でも解雇回避のためにとりうる手段が制限され、その 結果、無限定の正社員に比して解雇回避努力として求め 1 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは次期以 後について、当期の前半に行うこととされている。また、6 ヶ 月以上の期間によって報酬を定めた場合には、解約申入れは 3 ヶ月前にしなければならない(民 627 条 2 項、3 項)。 2 民法 628 条の強行法規性については争いがあり、やむを得な い事由がなくとも解約可能である旨就業規則等で定めをおい た場合の効果については争いがあった(ただし、解雇権濫用 法理の適用は免れない)が、労契法 17 条 1 項が解雇について はやむを得ない事由が求められることを強行的に定めたので、 この点についての解釈問題は一応決着した。ただし、労働者 側からの中途解約を認める旨の定めの有効性についてはなお 争いがある(篠原 2006)。

(4)

られる範囲の縮減が生じ、解雇の有効性が認められやす くなると考えられるからである。ただし、限定された職種・ 勤務地が失われれば直ちに解雇が認められるわけではな い。整理解雇法理は四つの要素の総合考慮であるから、 限定された職種・勤務地の喪失による解雇であったとし ても、その他の考慮要素から解雇無効となる可能性は充 分にあるし、また解雇回避努力に限っても、他の部門で 労働者が足りず、当該労働者を他の部門で雇用し続ける ことが可能な状況があるなどすれば、労働者の意向を確 認して(配転命令は不可能であるから)雇用の継続を検 討するなどの措置は必要になる(山本・細川 2014;篠原 2013a)。 2 有期労働契約 ア 契約期間  有期労働契約についても民法上の原則は修正され、契 約期間の上限については原則的に 3 年が上限とされてい る(労基法 14 条)3。ただし、この規定はもともと 1 年が 上限であったものを 2003 年の労基法改正により 3 年に引 き上げられたのであり、その濫用的利用への懸念から、 改正規定について施行の状況を勘案しつつ検討を加え、 その結果に基づいて必要な措置が講じることとされ、そ の措置が講じられるまでの間は、労働者は 1 年経過後に いつでも退職できると定められた(労基法 137 条)。すな わち、現時点においては 1 年を超える期間を設定したと しても、契約期間内でありかつ 1 年経過後に解約権が制 限されるのは使用者のみであり、労働者は 1 年を超えれ ばいつでも退職できる。なお、これらの上限規制は一回 の有期労働契約の期間の制限であって、有期労働契約の 更新についての上限ではない。更新を繰り返して継続的 に雇用する期間についての制限(更新回数の上限規制等) は存在しない(詳しくは後述するが、労契法 18 条も 5 年を超える有期労働契約の反復更新を禁止する趣旨では ない)。 イ 雇止め制限法理(判例法理)  有期労働契約の締結目的については基本的には制限が ない。どのような業務であれ労働契約に期間を付すこと は可能であるし、期間の満了後に再度有期労働契約を締 結する(更新する)ことも許される4。そのため、わが国 では特に非正規社員に対し、恒常的な業務であっても有 期労働契約が締結され、これが反復更新されてきた。有 期労働契約の期間の満了は、使用者による一方的解約で あるところの解雇ではないので、たとえ反復更新した有 期労働契約であっても、その更新拒絶、いわゆる雇止め に対し労基法 16 条(解雇権濫用法理)の直接適用はない。 しかし、かような労働者にとって雇止めは継続的な雇用 の喪失を意味するので、裁判所は一定の雇止めを解雇類 似に捉え、解雇権濫用法理の類推適用という法的構成を 用いて問題解決を図ってきた。改正労基法 19 条はこの雇 止め制限における判例法理を立法化したものである。そ こで、まず従来から構築されてきた判例法理を概観する。  雇止め制限法理のリーディングケースとされているの が、東芝柳町工場事件最高裁判決(最 1 小判昭和 49.7.22 民集 28 巻 5 号 927 頁)である。同事件において裁判所は、 「本件各労働契約は、期間の満了毎に当然更新を重ねてあ たかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態 で存在していたもの」とした上で、本件雇止めは「実質 において解雇の意思表示にあたる」から、「解雇に関する 法理を類推すべき」と判示した。その後、日立メディコ 事件最高裁判決(最 1 小判昭和 61.12.4 労判 486 号 6 頁)は、 本件において契約の更新によって無期契約と実質的に異 ならない状態が生じたとはいえないが、「その雇用関係は ある程度の継続が期待されていた」ので、「契約期間満了 によって雇止めをするに当たっては、解雇に関する法理 が類推され、解雇であれば解雇権の濫用、信義則違反又 は不当労働行為などに該当して解雇無効とされるような 事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかったとする ならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関 係は従前と同様の法律関係になる」と判示した。また、 同事件では雇止めの有効性の判断基準について、期間の 3 一定の専門職に就く者や 60 歳以上の者については上限 5 年で ある。また研究職等に就くものであって任期法により 5 年を 超える契約期間を定めることも、任期中の退職の自由を保障 した上で認められている。 4 試用目的で設定された「期間」につき解約権を留保した期間 と解し、当初から無期契約が締結されていたものと判断した 判例があり(神戸広陵学園事件・最 3 小判平成 2.6.5 民集 44 巻 4 号 668 頁)、同判決の理解について争いがある。この判決 の射程によっては、試用目的で有期労働契約を用いることが 困難となるが、当事者の定めた期間が試用期間の意味である のか雇用保障期間としての期間の意味であるのか明確性に欠 ける場合には、試用期間と解するとの解釈準則が確立された ものであって、当該期間が雇用保障期間であることが明確で あれば、試用目的での有期契約の利用は許されると解するべ きであろう(篠原 2014)。また、労契法 17 条 2 項は、「使用者 は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者 を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めるこ とにより、その有期労働契約を反復して更新することのない ように配慮しなければならない」と定める。有期労働契約の 締結目的自体に対する法的介入である。ただし、ここで求め られているのは「配慮」であるので、強行性のない訓示規定 と解される。

(5)

定めのない労働者を解雇する場合とは合理的な差異があ るとし、無期である本工に対する希望退職者募集に先立 ちなされた有期の臨時工の雇止めを有効と解している。  この両判決により確立された判例法理によると、雇止 めは、まず当該有期労働契約が反復更新等により実質的 に無期状態となっているかどうか、あるいは労働者にお いて期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待する ことに合理性が認められるかどうかという第一段階の審 査に服し、実質無期状態あるいは雇用継続の合理的な期 待が認められなければ、当該雇止めは期間満了の効果に より終了する。実質無期状態あるいは雇用継続の合理的 な期待が認められると、解雇権濫用法理が類推適用され、 当該雇止めの合理性・相当性審査という第二段階の審査 に移行する。この第二段階の審査で雇止めに合理性・相 当性が認められなければ、当該契約は更新されたものと 同様の状態となり、労働者からの地位確認や賃金支払請 求が認められる。合理性・相当性が認められれば、雇止 めは有効となり、契約関係は期間満了により終了する。  裁判所が第一段階で考慮要素としているのは、業務の 恒常性、職務内容・勤務実態における正社員との同一性・ 近似性、雇用管理区分、当該労働者の更新状況、他の労 働者の更新状況、更新手続、使用者の言動等の総合考慮 であり、例えば 3 回更新すれば合理的期待を認めるとい ったような画一的な判断ではない。反復更新すら必須の 要件ではなく、試用的色彩のある有期契約で初回の更新 時に合理的期待を認めた裁判例もある(龍神タクシー(異 議)事件・大阪高判平成 3.1.16 労判 581 号 36 頁)。第二 段階での考慮要素は通常の解雇と同様であり、整理解雇 的雇止めであれば、整理解雇の四要件(四要素)が考慮 される(判例の動向について詳しくは、小宮 2010、篠原 2014)。この雇止め制限法理が明文化されたのが、改正法 19 条である。

Ⅳ 改正法の内容

一 労働契約法19条 1 労働契約法19条の法的構造  労働契約法 19 条は上述した判例法理を概ねそのまま条 文化したもので、第一段階の審査に該当するのが同条 1 号及び 2 号該当性である。1 号はその雇止めが解雇と社 会通念上同視できること、2 号は労働者が更新について 合理的な期待を持つことを求めており、それぞれ東芝柳 町工場事件、日立メディコ事件で示された解雇権濫用法 理の類推適用の可否の判断基準である。同条 1 号 2 号の 関係についてみると、1号は反復継続を要件としているが、 2 号ではその文言がないため、初回の契約更新時の雇止 めは 1 号に該当せず 2 号のみが問題となること、反復更 新した有期労働契約があり雇止めが解雇と社会通念上同 視できる状況では、更新について労働者が合理的期待を 持ちうるであろうことから、2 号は 1 号の状態を包含し ていると考えられる。そのため、第一段階の審査におい て実質的に問題になるのは 2 号該当性の有無(合理的な 更新の期待の有無)である。  なお、1 号に該当すると、第二段階の審査においてよ り厳しい審査基準に服することになるとの見解もあり、 この立場によると 1 号 2 号の区別は重要な問題となる(山 川 2012;池田 2014)。しかし、1 号に該当する事実、例 えば反復更新の手続きの形骸化等が生じている場合には、 その事実が第二段階の審査においても考慮され、結果と して第二段階で審査が厳しくなったように見えるに過ぎ ないのであって、1 号 2 号該当性の区別には法的にはさ ほど意味はないと捉えるべきだろう。過去の判例などを みても、明確に審査基準を違えているような事案は見受 けられない。  1 号 2 号該当性が認められると、第二段階の審査に移 行するが、これを定めているのが 19 条本文である。そこ では、労働者が期間満了日ないし満了後遅滞なく有期労 働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者の更 新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当 であると認められないときには、使用者は、従前の有期 労働契約の内容である労働契約と同一の労働条件で当該 申込みを承諾したものとみなすと定められている。「みな す」とは法的に反証不能を意味するので、労働者の申込 みに対し使用者が承諾しないと主張することは許されず、 結果として申込みによって(雇止めに合理性・相当性が なければ)契約が更新される。 2 労働者による更新申込み  従来の判例法理と比べると、違法な雇止めの効果が労 働者の申込みに対する使用者の承諾みなしとなっており、 そのため労働者の申込みが要件化されている点が目を引 く。従来の判例法理では、解雇権濫用法理の類推適用で あったので、申込みと承諾という構成をとっていなかっ た。しかし、解雇権濫用法理の類推適用という法的構成 には、本来期間満了という当事者の期間設定の合意から 生じる効果に対し、権利濫用法理を用いることの理論的 問題や、違法とされた雇止めの効果から契約締結を導く 法的根拠について論争があった5。19 条は申込みと承諾

(6)

という法的構成を採用し、これらの課題の解決を図った ものである。そのため、新たに申込みを要件としている のは、特に雇止めを違法とするために判例法理とは異な るハードルを労働者に課すことを意図するものではない。 行政解釈(平成 24.8.10 基発 0810 第 2 号)は、労働者に よる何らかの反対の意思表示が使用者に伝わればよいと、 申込みの要件をかなり緩やかに捉えており、従来の判例 法理との齟齬の解消を図っている。  雇止めが違法とされた後の労働条件等は従前と同一で ある。同一の賃金、同一の契約期間で更新されるのであ って、無期化するわけではない。雇止めが違法とされ、 契約が更新されても当該契約にも期間が付されているか ら、いずれ当該期間の満了という状況は到来する。そこ で再度雇止めがなされ紛争が生じれば、新たな状況の下 で 19 条に照らして当該雇止めの有効性が判断される。  この労働契約法 19 条は、第一段階、第二段階ともに総 合考慮となっているため、予測可能性に乏しいという問 題点を孕んでいる。第二段階の問題は解雇一般の問題で もあり、上述した整理解雇法理により考慮要素の明確化 が試みられ、これが雇止めにも用いられる。雇止め特有 の問題としては、第一段階の審査につき、労働者の雇用 継続に対する合理的期待はいつどのように生じるのか、 一旦生じた期待が消滅することはありうるかといった点 で議論がある(篠原 2012)。特に改正法と関連性の強い 不更新条項については後述する(Ⅴ二)。 二 労働契約法18条 1 労働契約法18条の法的構造  労働契約法 18 条は新設されたルールであり、これまで の判例法理(同法 19 条)が違法な雇止めに対し、有期労 働契約のままで更新させてきたのとは異なっている。同 条第 1 項の内容は、以下の通りである。同一の使用者と の間で締結された 2 以上の有期労働契約の期間を通算し た期間(通算契約期間)が 5 年を超える労働者が、当該 使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期 間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から 労務が提供される期間の定めのない労働契約の申込みを したときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみな される。この場合において、当該申込みに係る期間の定 めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結し ている有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働 条件(別段の定めがある部分を除く)となる。  同条の趣旨は、有期労働契約が反復更新され長期間に わたる場合に、雇止めの不安によって労働者の正当な権 利行使が抑制される(有給取得等)こと等の問題に対し、 無期転換により雇用の安定を図ることにあるとされてい る(基発 0810 第 2 号、山川 2014)。 2「同一の使用者」  無期転換申込権の発生に必要な要件として、「同一の使 用者」との労働契約関係が必要である。同一の使用者性は、 労働契約を締結する法律上の主体が同一であることで満 たされるので、事業場単位ではなく、法人あるいは事業 主単位で判断される。ただし、使用者が無期転換申込権 の発生を免れる意図をもって、派遣形態や請負形態を偽 装して、勤務実態が変わらないにもかかわらず労働契約 の当事者を形式的に他の使用者に切り替えた場合は、法 の潜脱として通算契約期間の計算上「同一の使用者」と の労働契約が継続していると解される(基発 0810 第 2 号)。 派遣労働者の場合は、派遣元事業主と労働者との契約に ついて、通算契約期間が計算される。  事業組織の変動による使用者の変更の場合については、 合併や会社分割等で労働契約が包括承継される場合には、 包括承継によって従前の使用者との間の有期労働契約で の就労状況も含めて新たな使用者が引き継ぐことになる ので、通算契約期間も合算される。これに対して事業譲 渡の場合には、契約によって承継の有無が定まる特定承 継であるので、当然に通算契約期間が合算されるとはい えない。とはいえ、譲渡会社と譲受会社との間で実質的 同一性が認められるようなケースでは同一の使用者性が 肯定されるものと思われる(山川 2014)。 3 通算契約期間  無期転換申込権が付与されるためには、2 つ以上の有 期労働契約の通算期間が 5 年を超える必要があるので、 一定の事業の完了に必要な期間を定めるものとして 5 年 を超える有期労働契約を締結していたとしても、契約開 始から 5 年の超過によって無期転換申込権は発生しない。 もちろん、5 年を超える有期労働契約の期間満了後に当 該契約を更新すれば、その時点で要件を満たすので、更 新後の期間中に無期転換申込権を行使できるものと解さ 5 解雇権濫用法理は文字通り解雇権が権利濫用法理によって無 効になるわけであるが、雇止めの場合にはそもそも使用者は 権利行使をしているわけではないから、解雇権濫用法理の類 推適用という法的構成が妥当かどうかという議論や、雇止め を違法と評価したとしてもその効果として損害賠償請求の認 容を超えて雇止め後に労働者の地位確認請求を認めるために は、新契約締結を法的に認めるための使用者の契約締結意思 等の法的根拠が必要であるとの議論があった(詳しくは、安 枝 1990)。

(7)

れる。  この通算契約期間の算出に関し、労契法 18 条 2 項はク ーリング期間についての定めを設けている。ある有期労 働契約と次の有期労働契約との間に無契約期間(空白期 間)が存在する場合、その期間が一定以上であれば従前 の契約期間を通算しない(リセットする)ことが許され るのであるが、その期間をクーリング期間という。クー リング期間を認めないと、同一企業において従前に有期 で雇用していた労働者を相当期間経過後に再雇用した場 合に従前の雇用期間を通算することになるため、早期に 無期転換申込権が発生してしまう。不安定雇用を避ける という趣旨にそぐわないし、同一企業での再雇用が阻害 される事態も考えられる。かといって安易にクーリング 期間を認めては法の潜脱が生じかねない。そこで、労契 法 18 条 2 項は、クーリング期間を原則 6 ヶ月とした。6 ヶ月以上の期間を空ければ、同一の使用者が再雇用した としても従前の期間は通算対象とならない。また、空白 期間前の契約期間が 1 年未満である場合(複数の有期労 働契約がある場合にはその全ての契約期間を通算する) には、その 2 分の 1 を基準に計算される。  例えば、1 年契約の場合には 6 ヶ月未満の無契約期間 はクーリング期間として認められないので、1 年契約の 更新を繰り返す中で、6 ヶ月未満の無契約期間が数度含 まれていたとしても、当該無契約期間はクーリング期間 とはならない。また、1 年契約の更新が 4 回なされた場 合の最終契約満了時(最初の契約を 1 年目契約と呼称す れば、5 年目契約の満了時)では、5 年を「超えて」いな いので、やはり無期転換申込権は発生しない。この状態で、 契約更新がなされると、つまり 5 回目の契約更新がなさ れると無期転換申込権は発生し、その期間内に労働者が 申込みをすれば、当該契約期間(6 年目契約)の満了時 以降、無期契約となる。  通算契約期間のカウントは平成 25 年 4 月 1 日以降に開 始した労働契約からである。したがって、無期転換申込 権の発生は最短でも平成 30 年 4 月以降となる。 4 5年ルールの特例  また、5 年ルールの例外も設定された。労契法 18 条の 成立時点では業種による例外などは設けられていなかっ たが、特に研究職や高度専門職に就く者に対して、5 年 の無期転換申込権発生は雇用機会・キャリア形成の面で 悪影響を及ぼすとの批判があった。また、高年齢者雇用 安定法等により定年後継続雇用する労働者に対する無期 転換申込権についての問題も指摘された。そこでいわゆ る研究開発強化法、大学教員任期法において、大学の教 員(あるいは大学共同利用機関等の職員で専ら研究・教 育に従事する者)については無期転換申込権付与までの 期間が 10 年に伸張された。また、大学在学中の TA,RA 等の職務に就いていた期間は通算対象期間から除外され た6。同様に、「専門的知識等を有する有期雇用労働者等 に関する特別措置法」により、事業主が計画を作成し、 厚生労働大臣の認定を受けることにより、高度の専門知 識を持つ労働者で年収 1075 万円以上の者については、一 定の期間内に完了することが予定されている業務につく 期間(上限 10 年)、定年後引き続き雇用される労働者に ついては定年後引き続き雇用されている期間、労契法 18 条の特例として、無期転換申込権が発生しないこととな った。 5 適用範囲  労契法 18 条は 19 条の適用を排除していない。すなわち、 無期転換申込権が発生するまでの期間である 5 年内(特 例の下で 10 年内)での雇止めを適法化するものではない。 5 年内についてはあくまで労契法 19 条が規律しており、 上述したように労働者にとって更新に合理的期待が認め られれば、たとえ初回の更新時であっても雇止めに合理 性・相当性が求められることはありうる。他方、18 条は 5 年を超える有期労働契約の反復更新を禁止するもので はなく、あくまで労働者に無期転換申込権を付与するに 過ぎないので、労働者が申込権を行使しなければ、5 年 を超えて有期労働契約を反復更新することは可能である。 5 年を超えて反復更新された有期労働契約の雇止めで紛 争が発生した場合にも、19 条の雇止め制限法理にしたが って処理されることになる。その意味で、18 条と 19 条 は二重に有期労働契約を規律していることになる。無期 転換後に解雇がなされれば、もちろん労契法 16 条(解雇 権濫用法理)が直接適用され、当該解雇には合理性・相 当性が求められる。 6 労働条件  無期転換申込権を行使すると期間満了日以後の労働契 約は無期化するが、労契法 18 条はあくまで契約期間につ いてのルールであるから、賃金や労働時間等は基本的に 従前と同様であり、無期転換申込権行使の前後で労働条 6 研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化 及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員 等の任期に関する法律の一部を改正する法律の公布について (http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1344854.htm)。

(8)

件を変更する場合には、18 条にいう別段の定めが必要と なる。別段の定めには、就業規則の他、個別合意や労働 協約がある。  個別合意による場合、労働者が無期化後に従前の労働 条件を変更することに真に同意している限りは、変更が 可能である。もちろん、無期転換申込権の行使は労働者 の権利であるから、無期転換申込権を行使するなら賃金 を引き下げる等の使用者の提案に労働者が同意を余儀な くされたという状況があれば、有効な合意は認められな い。また、無期転換後に労働者を拘束することになる就 業規則の最低基準効(労契法 12 条)によって、就業規則 を下回るような個別合意は無効である。  労働協約による場合、すなわち無期転換後の労働者が 労働組合の組合員であり、当該労働者に適用される労働 協約がある場合には、特定の労働者を殊更不利益に取り 扱うことを意図するなど特段の事情のない限りは、労働 協約の規範的効力は原則的に当該労働者に及ぶことにな る(朝日火災海上保険(石堂)事件・最 1 小判平成 9.3.27 労判 713 号 27 頁)。そのため、従前の労働条件が引き下 げられる事態も生じうる。  一般的に想定されるのは就業規則による場合である。 無期転換後、当該無期転換した労働者を適用範囲とする 就業規則が存在する場合、転換後の労働者の労働条件が 当該就業規則に拘束される要件について労契法 7 条の合 理性を要するか、10 条の合理性を要するかについて争い がある。7 条に定める合理性は労働契約締結時、すなわ ち従前になんら労働条件の定めがない場合の合理性であ り、これが認められる範囲はかなり広い。これに対して、 10 条の合理性は従前に就業規則で労働条件が定まってお り、これを変更する際の合理性であるから、従前の労働 条件と新たな労働条件との比較も合理性判断に含まれる ため、7 条に比して認められる範囲が狭い。この点は、 本来無期転換された労働者の労働条件が従前と同一であ り、純然たる新規雇用ではないことを考慮すると、10 条 の合理性を用いて判断すべきである。したがって、10 条 の合理性(変更の必要性、労働者の受ける不利益等の総 合考慮)を満たす限りで、新就業規則によって従来の労 働条件を引き下げることも可能であるといえよう(池田 2014)。  なお、同一事業場に就業規則が複数存在する場合、ど の労働者にどの就業規則が適用されるのかは就業規則の 定めの解釈問題となる。そのため、仮に、ある事業場に 無期契約を締結している労働者を適用範囲とする就業規 則と、有期契約を締結している労働者を適用範囲とする 就業規則が存在する場合、無期転換申込権の行使をした 労働者の労働契約は無期労働契約となるので、無期契約 を締結している労働者に対する就業規則の適用範囲に入 る。そうすると、無期労働契約者を適用範囲とする就業 規則の効力により、転換後の労働条件は当該就業規則の 定めによることになる。この結論は、無期契約者を対象 とする就業規則が正社員を、有期契約者を対象とする就 業規則が非正規社員を念頭においているような場合には、 無期転換申込権行使後の労働条件が正社員と同様になる ということを意味する。無期転換後の労働者の労働条件 を他の無期契約の労働者(正社員)と異なるものにした いのであれば、例えば有期労働契約を締結している労働 者は職種・勤務地の限定があり、処遇や人事管理も異な っており、これに応じて賃金も定められていて、無期転 換後もそのような人事管理を維持することを意図するの であれば、無期転換後の労働者を適用範囲とする就業規 則を別途作成するか、あるいは就業規則の適用範囲を無 期・有期で区分せず、正社員等その地位に着目して区分 する必要がある。無期であれば正社員、有期であれば非 正規社員という区分は法的には決して自明ではない。 三 労働契約法20条  労契法 20 条は、有期労働契約と無期労働契約を締結し ている労働者の間で労働条件が異なるときは、その差異 は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、 当該職務の内容及び配置の変更その他の事情を考慮して、 不合理と認められるものであってはならないと定める。  行政解釈によると、対象となる労働条件は教育訓練や 福利厚生を含めて一切の労働条件であり、特に通勤、食 堂の利用、安全管理などについて労働条件を違えること は、特段の事情がない限りは、合理的なものとは認めら れない。また、定年後の再雇用において有期労働契約を 締結する際には、定年の前後で職務内容や人事管理が変 わることが一般的であることからすれば、特段の事情が ない限りは不合理とは判断されない。  要するに、有期であることが唯一の理由である差別は 明確に禁じられているが、職務内容・人事管理等の違い があれば、これに応じて異なった取扱いをしても、20 条 は直ちにこれを違法とするものではない。どの程度まで 異なった取扱いが許容されるかの判断は最終的には裁判 所に委ねられることになるが、通達が示しているように 通勤や食堂の利用、安全衛生等は有期と無期とで待遇を 異にする合理的な根拠に乏しく、たとえ職務内容・人事 管理が異なっているとしても、許されないといえよう。

(9)

 ところで、この規定は有期労働契約を締結している者 を対象にしており、無期労働契約を締結している者を保 護していない。したがって、有期であることを理由とす る待遇の向上、例えば使用者としては有期で雇用したい が、労働者が雇用の安定等を求めて無期を望む場合に、 有期であればより高い賃金を支払うという措置(有期プ レミアム)をとることを違法にするものではないと考え られる。

Ⅴ 無期転換申込権発生前の雇止め

一 労働契約法18条の影響  以上のように、平成 24 年度労働契約法改正は、有期契 約について従来からの判例法理を明文化するとともに(19 条)、無期転換ルールを設定し(18 条)、有期を理由とす る不合理な労働条件を禁止(20 条)するものである。こ のうち、特に実務上懸念が示されているのが、18 条によ る無期転換申込権の発生を回避するためになされる雇止 めである。  使用者が無期転換申込権の発生を回避することを考え るとすれば、通算契約期間が平成 25 年 4 月 1 日からカウ ントされるので、平成 30 年 3 月末に雇止めが多発しそう である。しかし、それ以前から影響が生じることも考え られる。仮に平成 25 年から 3 年契約を締結しているとす れば、同契約を更新すると 2 回目の契約途中に無期転換 申込権が発生するので、使用者にこれを防ぐという意図 があれば、そもそも 3 年契約を更新しないか、期間を 1 ∼ 2 年に変更して更新するかもしれない。また、上述し たように、5 年以内での雇止めにも労契法 19 条の適用は あるので、例えば通算で 5 年に到達する直前に雇止めを 行ったとしても、そのような雇止めが裁判上違法とされ、 当該契約は更新したものとみなされる可能性がある。そ うすると裁判所により地位確認がなされた途端に労働者 に無期転換申込権が発生する。そこで、雇止め時に紛争 が発生することを念頭において、さらに以前の時点で、 例えば通算契約期間が 3 年、4 年の段階で無期転換申込 権の発生を意識した雇止めがなされることも考えられな いではない。  このように無期転換申込権の発生を回避しようとして 使用者が雇止めを行うとしても、その有効性は労契法 19 条により審査される(Ⅳ二 5)。ただ、仮に使用者が無期 転換申込権の発生を避けるために雇止めを行うとすれば、 その理由は第二段階において雇止めの合理性・相当性を 基礎付けるとは考えにくい。そこで、かような雇止めに おいて主たる争点となるのは第一段階の更新の合理的期 待の有無(19 条 1 号 2 号該当性)となる。こうした雇止 めでは、使用者としてはある程度事前に更新しない意思 を固めることができるから、労働者の雇用継続への期待 を排除するため、更新についての態度を使用者があらか じめ表明しておくケースが増加すると思われる。いわゆ る不更新条項の問題である。 二 不更新条項(更新回数の上限設定)  有期労働契約の更新に関して当事者が期間満了前に何 らかの取り決めをすることがあるが、その取り決めがあ ってなお雇止めに紛争が生じた場合、その取り決めは法 的にどのように評価すべきであろうか。典型的には、初 回の有期労働契約を締結時に「更新は最大で 4 回」等と 明示して契約を締結するとか(更新回数の上限設定)、反 復継続している有期労働契約の更新時に、「次回の契約更 新は行わない」旨定める条項を契約書に挿入すること(不 更新条項)等が考えられる。特に不更新条項は、労働者 がこれに同意しない時点で雇止めされることを危惧し、 同意せざるを得ない状況に追い込まれている可能性があ り、 安 易 に そ の 効 力 を 認 め る こ と が で き な い( 篠 原 2013b)。  過去の裁判例をみると、更新回数の上限を設定し、か つこれを厳格に運用している限りは、当該上限でなされ た雇止めは有効と判断されやすい。当初から更新の上限 が設定されている以上は、これを超えて更新されると労 働者が期待することは、合理的ではないということであ ろう。もっとも、当初設定した更新回数の上限自体が更 新されたり、他の労働者が更新回数の上限を超えて雇用 継続している等、更新回数の上限が厳格に運用されてい ない実態があれば、雇用継続に対する合理的な期待が認 められうる(篠原 2013b)。  これに対し、不更新条項の場合には裁判所の判断は割 れており、合意解約と捉える立場、労契法 19 条の 1 号 2 号該当性を否定する要素(第一段階での考慮要素)と捉 える立場(第一段階)、19 条本文の合理性・相当性判断 の中での考慮要素(第二段階での考慮要素)と捉える立 場がある(篠原 2013b)。不更新条項は解約についての合 意であると捉える立場に立つと、合意の効果として契約 の拘束力が失われるという帰結になる。すなわち、労働 者の真意性については慎重な判断を要するとしても、真 に合意をもって不更新条項を設定すれば、労契法 19 条の 第一段階の審査が発生せず、雇止めは有効ということに なる。しかし、そもそも有期労働契約における期間の定

(10)

めとは、期間内の拘束と満了時の解放についての合意を 意味しているのであって、不更新条項が解約についての 合意だとすると、当事者は期間を定めながらなお満了時 点で解約することを当該期間設定時に合意したことにな るが、これでは契約関係からの離脱を二重に合意してい ることになってしまう。不更新条項は契約期間が存在し て初めて意味のある合意なのであるから、そこで優先さ れるべきは期間の合意である。そして、その期間の合意 があってもなお、労契法 19 条は満了時に雇止めが違法と 評価されうることを定めているのである。  したがって、不更新条項は、事実行為としての期間満 了の効果の確認あるいは更新に関する使用者の意向とそ れに対する労働者の了解に過ぎず、不更新条項は労契法 19 条を排除するものではないが、雇止め制限法理の 19 条 1 号 2 号該当性(第一段階)において更新の合理的期 待の減殺要素となると解すべきである。その他に合理的 期待が認められるような事情がなければ、例えば更新の 都度不更新条項が設定されている等して不更新条項それ 自体が形骸化しているとか、使用者の言動が不更新条項 があってもなお更新の期待を抱かせるに充分であるとか いった事情がなければ、更新の合理的期待が認められず、 19 条 1 号 2 号該当性が否定され、雇止めが有効となろう。 仮に不更新条項があっても、その他の要素等から更新の 合理的な期待が認められれば、19 条本文の合理性・相当 性審査(第二段階)に入るが、この段階では、不更新条 項があってもなお更新の期待が減殺されるまでに至らな かったということになるから、一応雇止めの手続きの妥 当性の一考慮要素にはなりうるとしても、不更新条項の 存在を過度に評価すべきではあるまい。したがって、一 般的には不更新条項は第一段階の考慮要素と位置付ける べきであろう。

Ⅵ おわりに

 最後に、改正法の評価と無期転換申込権発生前の雇止 めについて若干付言する。  本改正によって追加された労働契約法 18 ∼ 20 条まで のルールは、基本的に適切な方向性を示すものであると いえる。19 条の明文化及び 20 条の不合理な労働条件の 禁止は、やや従来の判例法理との整合性などで留意を要 する点がないではないが、今後解釈論を進展させること で解決できる7。18 条の無期転換ルールについても、出 口規制である雇止め制限法理(19 条)を生かしつつ、労 働者が望まない形での長期にわたる有期労働契約の反復 更新を規制しているものであって、妥当なルールである と考える。無期転換付与までの 5 年という期間は、同様 のルールを定めている諸外国に比してやや長期であるが (外国の状況については、荒木 2013、櫻庭 2014a1.1)、無 期転換申込権付与までの期間も 19 条がカバーしているこ とを考えれば、大きな問題はない。むしろ、5 年という 期間が短すぎるという批判があり、この批判は上述した 5 年経過前の雇止めを懸念しているものと思われる。  ただ、ここまで見てきたとおり、無期転換ルールはあ くまで有期・無期という期間についてのものであって、 無期転換後の労働条件は基本的に同一である(Ⅳ二 6)。 したがって、使用者にとって過度に負担が増えるような ことになるとは考えられない。無期になると解雇できな くなる(有期であれば雇止めできる)との反論が考えら れるが、これも無期転換申込権が付与されるほどの期間 反復更新して有期労働契約を締結しており、それが恒常 的業務であってそもそも期間設定すべき合理的理由がな い(雇止めの可能性を留保する目的のための期間設定で ある)という状況であれば、従来から雇止め制限法理に よって更新の合理的期待が認められ、雇止めに合理性・ 相当性が求められていた可能性がある(Ⅲ二 2 イ、Ⅳ一)。 もちろん、雇止めの合理性・相当性と解雇の際の合理性・ 相当性はやや異なるが(Ⅲ二 2 イ)、解雇の場合に求めら れる合理性・相当性も、必ずしも一定のものではない。  人事管理として、無期の正社員、有期の非正規社員と いう雇用管理区分がある状況を想定すると、有期の非正 規社員は一般に職種や勤務地が限定されているであろう から、非正規社員が無期転換申込権を行使しても、無期 転換後も労働条件が同一である以上、別段の定めによっ て労働条件を変更しない限り、職種・勤務地についての 限定合意が認められることになる(Ⅳ二 6)。そうすると、 無期転換後の労働者に対する解雇の問題は、無期ではあ るが職種や勤務地限定のある労働者、すなわち、いわゆ る限定正社員に対する解雇の問題となるが、整理解雇の 際に職種・勤務地限定合意などがあると、解雇回避努力 義務の範囲が縮減されるので、実質的に解雇しやすい状 況が生じ、限定正社員に対する整理解雇は、無限定のい わゆる正社員に比して緩やかな基準で審査されることに なる(Ⅲ二 1)。使用者の懸念が、非正規社員を無期化す ると、当該非正規社員に割り当てていた仕事が失われた ときに解雇できなくなるという趣旨のものであれば、有 期であっても雇止め制限法理の適用があること、無期で 7 詳細な議論については、篠原 2014、大木 2014、原 2014、櫻庭 2014b、荒木ほか 2014 などを参照。

(11)

あっても限定された働き方をさせているのであれば、無 限定の正社員に比して解雇回避努力が縮減されうるとい うことは指摘しておきたい。もしも、使用者が無期転換 後に職種・勤務地限定合意を排除し、無限定な働き方を させるのであれば、当然解雇権濫用法理によって、使用 者の持つ広範な人事権を駆使して解雇回避努力をなすこ とが求められることになるが、そのような労働者はまさ しく「正社員」なのであって、その解雇に正社員に対す る解雇としての合理性・相当性が求められることは当然 のことである。無期転換申込権はあくまで期間について の定めであって、人事管理や処遇についての定めではな いことに留意されたい。したがって、5 年という期間が 短すぎるという批判はあまり適当でないように思われる。 使用者が、解雇規制を免れ、たとえ雇止め規制に服する としても少しでも労働者との契約関係から離脱しやすい 法形式として有期労働契約を選択しており、これを長期 に利用し続けたいがゆえに無期転換申込権発生までの期 間が 5 年では短いという認識を持っているとすれば、そ のような姿勢は強行法規たる労働法の性格上一般的には 許容すべきでない。非正規社員に対する解雇規制の緩和 の主張等、解雇規制それ自体を問題視することは理解で きるが、それはまた別の話である。

引用文献

荒木 尚志, 菅野 和夫, 山川 隆一 (2014) 詳説 労働契約法 (第2版). 弘文堂, 東京 荒木 尚志 (2013) 有期労働契約法制の立法政策. (菅野和夫 先生古稀記念) 労働法学の展望, 163-189. 有斐閣, 東京 原 昌登 (2014) 労働契約法18条. (荒木尚志 編著) 有期雇用 法制ベーシックス, 51-68. 有斐閣, 東京 池田 悠 (2014) 労働契約法19条. (荒木尚志 編著) 有期雇用 法制ベーシックス, 69-99. 有斐閣, 東京 小宮 文人 (2010) 雇用終了の法理. 信山社, 東京 厚生労働省, 望ましい働き方ビジョン, http://www.mhlw. go.jp/stf/houdou/2r98520000025zr0.html 大木 正俊 (2014) 均等・均衡待遇. (大内伸哉 編著) 有期労 働契約の法理と政策, 74-90. 弘文堂, 東京 櫻庭 涼子 (2014a) EU指令. (大内伸哉 編著) 有期労働契約 の法理と政策, 104-125. 弘文堂, 東京 櫻庭 涼子 (2014b) 労働契約法20条. (荒木尚志 編著) 有期雇 用法制ベーシックス, 100-118. 有斐閣, 東京 篠原 信貴 (2006) 有期労働契約の中途解約と雇止めをめぐ る一考察. 季労, 212:143-169 篠原 信貴 (2012) 有期労働契約の雇止め, 季労, 238:117-130 篠原 信貴 (2013a) 「多様な正社員」に対する雇用保障. 日 労研, 636:26-36 篠原 信貴 (2013b) 不更新条項とその解釈. 季労, 242:32-44 篠原 信貴 (2014) 雇止め制限. (大内伸哉 編著) 有期労働契 約の法理と政策, 24-63. 弘文堂, 東京 菅野 和夫 (2013) 労働法 (第10版), 84, 弘文堂, 東京 山川 隆一 (2012) (西谷 敏ほか 編) 新基本コンメンタール 労働基準法・労働契約法, 423-429. 日本評論社, 東京 山川 和義 (2014) 無期契約への転換. (大内伸哉 編著) 有期 労働契約の法理と政策, 64-73. 弘文堂, 東京 山本 陽太, 細川 良 (2014) 多様な正社員に関する解雇判例 の分析. 労働政策研究・研修機構, (http://www.jil.go.jp/) 安枝 英訷 (1990) 短期労働契約の更新と雇止め法理. 季労, 157:93-108

参照

関連したドキュメント

「課題を解決し,目標達成のために自分たちで考

絡み目を平面に射影し,線が交差しているところに上下 の情報をつけたものを絡み目の 図式 という..

このため、都は2021年度に「都政とICTをつなぎ、課題解決を 図る人材」として新たに ICT職

このように、このWの姿を捉えることを通して、「子どもが生き、自ら願いを形成し実現しよう

   遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば

学校の PC などにソフトのインストールを禁じていることがある そのため絵本を内蔵した iPad

基準の電力は,原則として次のいずれかを基準として決定するも

を負担すべきものとされている。 しかしこの態度は,ストラスプール協定が 採用しなかったところである。