要
旨
当科で経過観察中の 18 歳以上の小児期発症(中央値 9.0 歳)特発性ネフローゼ症候群患者 30 例(男女比 19: 11,中央値 20.5 歳)の現状を検討した。30 例中 29 例に 免疫抑制薬の投与歴があり,最終観察時,19 例(63%)で 投薬中であった。観察期間中,28 例に Cyclosporine A (CsA)が中央値 11 歳より 66 か月間投与され,軽度の CsA 腎症を 15 例に認めた。腎機能低下例はなかったが 高血圧を 8 例(27%)に認めた。ステロイドの副作用と思 われる低身長を 3 例(10%),肥満を 2 例(7%)で認めた が,15 歳以前にリツキシマブ(RTX)を投与された例には 認めなかった。成人期の症例において,RTX や免疫抑制 薬の積極的な導入によりステロイド副作用は少数であっ たが,半数以上で免疫抑制薬の継続を要していた。緒
言
小児の特発性ネフローゼ症候群(nephrotic syndrome: 以下,NS)は,1980 年代の報告において思春期以降には 自然治癒することが多い予後良好の疾患であると述べら れている1)2)。しかし 2000 年代以降の欧米からの報告で は,30-40%もの症例において再発が持続し成人期へ移 行(以下,transition)することが明らかになってきた3)4)。 ステロイド治療が長期に及んだ場合,肥満,成長障害, 高血圧,骨粗鬆症や二次性の糖尿病などの副作用出現は 高率となり,患者の肉体的,精神的な quality of life は著 しく低下してしまう。したがって,その頻度を減少させ るべく,Cyclosporine A(以下,CsA)を代表とする免疫抑 制薬や近年では抗 CD 20 モノクローナル抗体であるリ ツキシマブ(以下,RTX)が国内外の難治性 NS 患者に対 して積極的に使用されるようになってきている。我々も 薬剤の副作用を最小限にするように小児期早期から成人 期を見据えた上での治療戦略を立案している5)。今回 我々は,成人期に移行した小児特発性 NS の現状とステ ロイド等の治療薬による有害事象について検討したので 報告する。対象と方法
埼玉県立小児医療センター腎臓科で経過観察中の小児 期発症特発性 NS のうち,2014 年 4 月 1 日の時点で 18 歳以上の 30 例(男女比 19:11,発症年齢中央値 9.0 歳)を 対象とした。 データはすべて外来および入院診療録より収集し,最 終観察時の年齢,NS 発症時年齢,性別,最終観察時の職 業,身長,体重,最終観察時までに使用した免疫抑制薬 の種類および使用期間,最終観察時の治療内容,RTX の 使用有無,回数,RTX 使用開始時年齢,眼科所見の有無, 低身長,肥満,骨粗鬆症,CsA 腎症の有無,腎機能障害 の有無を評価した。 DNS に対し Mizoribine(以下,MZR),Cyclophosphamide (以下,CPM),CsA,Mycophenolate mofetil(以下,MMF), RTX を原則的に以下に示すプロトコールで導入した5)。 尚,MMF,RTX,高用量 MZR は保険適応外であったた め,院内倫理委員会において使用の許可を得た上で,患 者あるいは家族からの同意を取得後に使用した。 ①MZR 直近の再発時プレドニゾロン(以下,PSL)投与量が 1●原 著●
小児期発症特発性ネフローゼ症候群の成人移行症例の検討
原
太一
1, 2・藤永周一郎
1・山田 哲史
1漆原 康子
1・大友 義之
3・清水 俊明
2 (受付日:平成 27 年 9 月 24 日 採用日:平成 28 年 1 月 6 日) 1埼玉県立小児医療センター腎臓科,2順天堂大学医学部附属 順天堂医院小児科・思春期科,3順天堂大学医学部附属練馬 病院小児科 連絡著者:〒339-8551 さいたま市岩槻区馬込 2100 番地 埼玉県立小児医療センター腎臓科 藤永周一郎 E-mail: [email protected] doi.org/10.3165/jjpn.oa.2015.0078Key words: 特発性ネフローゼ症候群 / transition / シク ロスポリン / リツキシマブ
mg/kg/隔日投与未満である症例に導入とした。5 mg/kg/ 日より開始し 2 週間後に血液検査で異常(白血球減少な ど)がなければ 10 mg/kg/日(最大量 300 mg/日)に増量の 方針とした。血中濃度(内服 2 時間後:以下,C2)は 3 g/ml 以上を目標に調節した。 ②CPM 思春期以前(10 歳未満)で,直近の再発時 PSL 投与量 が 1 mg/kg/隔日投与以上である症例に導入とした。約 200 mg/kg を 12 週間で投与した。導入後は,2 週間おき に血液検査施行し白血球減少(<3000/ l)を認めるときは 回復するまで休薬とした。PSL 0.5 mg/kg/隔日以上で再 発した場合は効果不十分と考え,腎生検施行後に CsA へ変更した。 ③CsA 思春期以降(10 歳以降)または CPM 導入後も再発を繰 り返す症例に導入とした。血中濃度をトラフ値 50-100 ng/ml 分 2(食後),C2 400-500 ng/ml 分 2(食前投与), 600-700 ng/ml 分 1(食前投与)を目標に調節した6)。 CsA 導入前と 2 年間以上継続使用後に腎生検を行った。 ④MMF CsA 長期投与後も再発を繰り返す症例に導入し,トラ フ値 2-5 g/ml(最大 2 g/日 分 2)を目標に調節した。 ⑤RTX CsA あるいは MMF 使用にも関わらず SDNS から脱却 できない症例に単回投与(375 mg/m2,最大 500 mg)し た。
合併症の定義
低身長は日本人標準身長の-2.5 Standard Deviation(以 下,SD)以下4),肥満は body mass index(以下,BMI)値が30 kg/m2以上4)と定義した。高血圧は最終観察時に降 圧薬を内服中であること,眼科所見は最終観察時の緑内 障・白内障の有無,骨粗鬆症は骨塩定量検査で腰椎 Z ス コア<-1.0 であって,かつ最終観察時に治療薬を内服し ていること,CsA 腎症は病理組織において慢性細動脈病 変,縞状の間質の線維化,尿細管萎縮のいずれかを呈す ること,腎機能障害は改定 MDRD 推算式,Cockcroft-Gault の式より算出しともに,estimated glomerular filtra-tion rat(以下,eGFR)<90 ml/1.73 m2/min を満たすことと 定義した。
結
果
最終観察時の年齢は中央値 20.5 歳(18.0~29.2 歳)で観 察期間は中央値 11.7 年(4.8~28.2 年)であった。職業は, 学生 22 人,社会人 7 人,無職 1 人だった。初発時のステ ロイド反応性は感受性 20 人(67%),抵抗性 10 人(33%) であった。病理組織像は,微小変化 25 例(83%),巣状分 節性糸球体硬化症 4 例(13%)腎生検未施行 1 例であっ た。観察期間中の再発回数は中央値で 10 回(1~25 回) だった。30 例中,29 例に免疫抑制薬や RTX の使用歴が あ っ た。そ の 内 訳 は CsA 28 例 (93%),MMF 23 例 (77%),MZR 12 例(40%),CPM 5 例(17%),RTX 16 例 (53%)だった。CsA は中央値 11 歳(4~14 歳)で導入さ れ総投与期間は中央値 66 か月であった。MMF は中央 値 13.5 歳(9~22 歳)で,RTX は中央値 16 歳(13~19 歳) で導入されていた。最終観察時無投薬はわずか 8 例であ り,19 例(63%)で寛解維持目的に免疫抑制薬(一部重複: MMF 13 例,MZR 5 例,CsA 2 例)が使用されていた。 合併症(図 1)については,高血圧を 8 例(27%),最終 BMI の中央値は 19.4 kg/m2で 2 例(7%)は 30 kg/m2以 上肥満を,最終身長の中央値は-0.35SD で 3 例(10%)は -2.5 SD 以下の低身長を認めた。高血圧の有無で 2 群に 分けて比較検討したところ,NS 発症年齢,CsA 投与期 間,CsA 開始年齢,最終観察時年齢,初発時経過,病理 組織,総再発回数,RTX 使用有無については,両群で有 意差を認めなかった(表 1)。次に肥満あるいは低身長を 来した群と来さなかった群と 2 群に分けて比較(表 2)し た。肥満あるいは低身長を来した群は来さなかった群と 比較して最終観察時点で有意に高年齢だった(22.3 歳 vs 19.8 歳,p=0.02)が,発症年齢や観察期間,CsA 使用・ RTX 使用有無,総再発回数,初発時経過(SSNS あるいは SRNS)については有意差を認めなかった。また肥満あ るいは低身長を呈した 5 例は,RTX 投与は全例で 15 歳 以降であった。また,眼合併症や骨粗鬆症は認めなかっ た。日児腎誌 Vol. 29 No. 1 日児腎誌 Vol. 29 No. 1
●原 著●
小児期発症特発性ネフローゼ症候群の成人移行症例の検討
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太一
1, 2・藤永周一郎
1・山田 哲史
1漆原 康子
1・大友 義之
3・清水 俊明
2 (受付日:平成 27 年 9 月 24 日 採用日:平成 28 年 1 月 6 日) 図 1 合併症の割合 CsA:Cyclosporine Aプロトコール腎生検にて CsA 腎症を 15 名(54%)に認 めたが,いずれも軽度であり腎機能低下(eGFR<90 ml/ 1.73 m2/min)の症例はなかった。
考
察
本検討において最終観察時(中央値 20.5 歳)の合併症 として低身長(10%)や肥満(7%)の頻度はいずれも 10% 以下であり,白内障や緑内障は認めなかった。一方,成 人期に達していても約 60%の症例が免疫抑制薬を継続 中であることが判明した。ステロイドの副作用に関し て,Kyrieleis らの報告7)(低身長 20%,肥満 14%)や,近 年の石森らの報告8)(低身長 10%,肥満 15%)と比較して 本検討の頻度はやや低い結果だった。この理由として RTX や MMF などの免疫抑制薬を積極的に使用したこ とにより再発頻度が減少し,PSL 総投与量が減少した結 果と推察している。同様に Sato らも,RTX 治療によっ て,ステロイドが減量可能となり,肥満や成長障害が改 善することを報告9)している。また我々の検討において 低身長あるいは肥満を認めた症例は認めなかった症例と 比較して,最終観察時に有意に高年齢であった。この理 由として,ステロイド合併症を来した群は彼らが growth spurt の時期(15 歳未満)にまだ RTX が使用不可であり, ステロイド減量が不十分であったためと思われた。した がって重症例に対してはステロイドの副作用を軽減させ 表 1 高血圧の有無での比較 高血圧あり(n=8) 高血圧なし(n=20) p 値 NS 発症年齢※1(歳) 7.5(1.0-17.0) 9.0(4.0-15.0) 0.31 CsA 投与期間※1(か月) 76(57-169) 57.5(6-132) 0.06 初発時※2(SRNS/SSNS) 5/3 5/15 0.07 MGA/FSGS※2 6/2 18/2 0.31 最終観察年齢※1(歳) 20.5(18.0-29.2) 19.0(18.0-25.4) 0.49 CsA 開始年齢※1(歳) 10.0(2.0-12.0) 11.5(4.0-14.0) 0.49 総再発回数※1(回) 11.5(8-25) 10(1-24) 0.15 RTX※1(有/無) 5/3 11/9 0.52 ※1: Mann-Whitney U test ※2: Fisherʼs exact probability testNS: Nephrotic syndrome,CsA: Cyclosporine A, SRNS: steroid resistance nephrotic syndrome SSNS: steroid sensitive nephrotic syndrome MGA: minor glomerular abnormality FSGS: focal segmental glomerulosclerosis RTX: rituximab 表 2 ステロイド合併症(低身長 / 肥満)の有無での比較 合併症あり(n=5) 合併症なし(n=25) p 値 発症時年齢※1(歳) 5.0(1.0-12.0) 9.0(1.0-15.0) 0.57 最終観察時年齢※1(歳) 22.3(20.6-29.2) 19.8(18.0-23.7) 0.02 観察期間※1(年) 15.6(9.3-28.2) 11.4(4.8-20.1) 0.19 RTX 15 歳以前投与※2(有/無) 0/5 8/25 0.32 CsA 使用※2(有/無) 5/0 23/2 0.69 RTX 使用(有/無)※2 3/2 13/12 0.56 総再発回数※1(回) 10(6-18) 10(1-25) 0.27 初発時経過※2(SSNS/SRNS) 3/2 17/8 0.80 ※1: Mann-Whitney U test ※2: Fisherʼs exact probability test CsA: Cyclosporine A,RTX: rituximab SRNS: steroid resistance nephrotic syndrome SSNS: steroid sensitive nephrotic syndrome
るために早期からの RTX 導入が望ましいと思われた。 しかし現在でも RTX の長期的な有害事象,特に低年齢 児に対する影響は不明である。Kamei らは,RTX 後遅発 性好中球減少症を来した例は来さなかった例より有意に 低年齢であることを報告している(6.4 歳 vs 12.5 歳 p= 0.0009)10)。また Trujillo らは 2.5 歳の SRNS に RTX 単 回投与し,その後長期に低ガンマグロブリン血症を来し たと述べている11)。したがって既存の免疫抑制薬でコ ントロール不良な重症例以外,低年齢からの RTX 導入 は厳につつしむ必要がある。一方,本検討では高血圧の 合併が 8 例(30%)と高率であった。Vivante らは小児期 にステロイド感受性ネフローゼ症候群などの糸球体疾患 の既往のある成人は,なかった群と比較して約 2 倍高血 圧を発症することを報告している12)。本検討で高血圧 を合併した群は合併していない群と比較し CsA 投与期 間が長く,初発時 SRNS を呈した割合が高い傾向にあっ た。すなわち薬剤または疾患自体による影響が高血圧を 来す原因の一つと考えられるため,難治症例においては 成人期以降も定期の血圧測定は重要と思われた。 日本小児腎臓科医へのアンケート結果において,小児 腎臓科医の半数以上は,小児期発症 NS の transition のタ イミングが 20 歳以降と遅く,約 3 分の 1 は内科医へ紹 介していないと解答している13)。小児特発性 NS 患者の 小児科から内科への transition を困難にさせている原因 として,SDNS の管理において,小児期はステロイドに よる成長障害を防ぐ目的で免疫抑制薬を成人期より早期 に使用する傾向にある。一方,成人は成長障害を考慮し なくてよいが免疫抑制薬の高額な医療費が問題になるた めステロイド中心の治療になりがちである。しかし平成 27 年 7 月から指定難病にネフローゼ症候群が追加され 成人期でも免疫抑制薬が費用的な面からは使用しやすく なったため,小児期と成人期の治療方針のギャップが縮 まることが期待される。
結
論
①小児期発症 NS 患者は,積極的な免疫抑制薬や RTX 導入によって成人期に移行してもステロイド薬の副作 用は少数となっている。 ②成人期になっても小児科医がこれらの患者を継続加療 している現状がある。 ③小児科から内科へ円滑な transition を進めるために, ステロイド薬や免疫抑制薬などの治療方針について両 者で議論する必要がある。 本 論 文 の 主 旨 の 一 部 を 第 117 回 日 本 小 児 科 学 会 (2014 年 4 月,名古屋)で発表した。 「日本小児腎臓病学会の定める利益相反に関する開示 事項はありません。」 文 献1) Trompeter RS, Lloyd BW, Hicks J, White RH, Cameron JS: Long-term outcome for children with minimal-change nephrotic syndrome. Lancet 1985; 16: 368-370.
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Long-term outcomes in childhood-onset idiopathic nephrotic syndrome: experience in a single center Taichi Hara1,2, Shuichiro Fujinaga1, Akihumi Yamada1,
Yasuko Urusihara1, Yoshiyuki Ootomo3, Toshiaki Shimizu2 1Department of Nephrology, Saitama Childrenʼs Hospital
2Department of Pediatrics, Juntendo University
3Department of Pediatrics, Juntendo University Nerima Medical Center
We retrospectively analyzed the long-term outcomes in 30 patients (median age, 20.5 years) with idiopathic nephrotic syndrome from childhood to adulthood at Saitama Childrenʼs Medical Center. Of them, 29 patients had received various immunosuppressive agents or rituximab (RTX) treatment. Twenty-eight patients had received cyclosporine (CsA) for a median of 66 months and mild CsA-induced nephrotoxicity developed in 15 of the 28 patients. At the last follow up, hypertension was diagnosed in 8 (27%), short stature in 3 (10%), and obesity in 2 (7%) patients. Five patients who had treated with RTX at the age of 15 years or earlier did not developed steroid complications. Our data suggest that early initiation of CsA or RTX treatment may prevent many patients from the development of steroid toxicity, although half of them still received immunosuppressive agents in adulthood.
Key words: idiopathic nephrotic syndrome, steroid toxicity, immunosuppressive agents