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企業の社会的責任論における責任概念

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Academic year: 2021

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(1)企業の社会的責任論における責任概念 津 久 井 稲 緒. Ⅰ はじめに. 盛んになり,その年金運用額は 300 兆円を超え ている.. 企業の社会的責任というテーマは,古くて新. このように広範な問題を取り扱う企業の社会. しいテーマである.. 的責任を取り扱うにあたり,本稿では,企業の. 企業の社会的責任は,第二次産業革命期とそ. 社会的責任として論じられる責任という概念に. れに続く時期に,企業の経済活動と社会との相. 着目し,企業はどのような問題に対してどの程. 互関係性において,現実的・切実的な問題を契. 度までの責任をもつのか,という点を明らかに. 機として発現してきた議論である.20 世紀に. することを目的とする.. 急速に高まった企業の社会的責任に対する関心 は,企業活動がさまざまな局面で人々の生活に 多大な影響を及ぼしていることを物語ってい. Ⅱ 企業の社会的責任をとらえる二つの責任 ━役割責任と結果責任━. る.. 責任には,過去の行為に関する責任(つぐな. 現代大企業の経済力は国家に比肩できるほど. い)と,未来と他人に関する責任(責務)の二. 巨大なものになっている.企業が何を目標に,. つがある.過去の行為に関する責任とは,自ら. どのようなやり方で経済活動を遂行するのか. の行為の帰結に対する責任であり,責任の条件. が,利害関係者のみならず,国家あるいは地球. は因果性にある.未来と他人に関する責任とは,. 的な規模で人々の生活に直接・間接の影響力を. 将来なされるべき行為の決定に関する責任であ. 持つ可能性があるのである1).. り,力を持つものに課せられる2).責任という. 企業社会の到来は,経済的・社会的に明るい. 言葉は,役割と結果という二つの概念を含んだ. 将来展望を醸成すると同時に,多発し深刻化す. ものとして使われている.. る公害問題・雇用問題などの新たな解決すべき. 企業 が 対応 す べ き 課題事項 は 多数存在 す. 問題をも生じさせてきた.そして現代において. る が,こ れ ら 課題事項 を,内部社会的責任. も, 地球環境問題, コンプライアンス, 情報開示,. internal social responsibility と 外部社会的責任. 人権配慮などの問題や企業事故や不祥事といっ. external social responsibility と に 分類 す る こ. た問題で,議論されている.近年は,欧州を中. とができる3).内部社会的責任とは,従業員の. 心 に,CSR( Corporate Social Responsibility). 採用,訓練・昇進・解雇過程,物的作業条件,. を ISO の国際標準にする動きも表面化してき. 従業員の個人的生活の支持と資源の有効利用過. た.CSR を経営戦略として重視する企業も増. 程,企業利潤目標の達成,活動過程における従. 加 し,CSR 活動 に 積極的 な 企業 へ 選択投資 す. 業員への法令順守の徹底,株主への配当,財・. る SRI( Social Responsibility Investment) も. サービスの提供等のことであり,市場内部にお.

(2) 112 (464). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). ੱ⒳Ꮕ೎࡮࿾⃿ⅣႺ໧㗴࡮ᚢ੎など. 3 ᄢ᳇ᳪᨴ࡮᳓⾰ᳪỘ࡮㓹↪໧㗴 ଔᩰ቟ቯൻ࡮੤ㅢᷙ㔀࡮ᾍኂなど. 2. ᓥᬺຬߩណ↪࡮⸠✵. 1. ೑Ả⋡ᮡ࡮㈩ᒰ ⽷࡮ࠨ࡯ࡆࠬߩឭଏなど. (出所)筆者作成. 図 1 社会的責任の内容. ける企業活動に関する責任である.一方,外部. 通混雑はまったく意図しない,しかも避けられ. 社会的責任とは,大気汚染,水質汚濁,人種差. ない副産物になるのである.次に,社会自体の. 別,交通混雑,企業活動の地域社会に与えるイ. 問題から起こるものの例えとしては,アメリカ. ンパクト,雇用問題,価格安定化,慈善的貢献,. 南部の州の製鉄会社は確かに人種差別をした.. 製品や広告の問題,企業外部での研究活動の支. しかし人種差別は,同社の活動が原因になって. 持,都市再開発,麻薬の乱用,武器援助等,市. 生まれたのではない.つまり同社が起こした. 場外部社会における企業活動に関する責任であ. 「衝撃」ではない.反対に,実業界は「古い南. る.. 部」の人種問題を,工業化と経済発展の大きな. これらの内部・外部社会的責任の生じる原因. 障害になると考えてきたのである.人種差別は,. には,その組織体が社会へ与えた影響から起こ. すべての組織体が南部の社会で活動していくに. るものと,社会自体の問題から起こるものとが. は順応していかねばならない外的条件の一つで. ある 4).組織体が社会へ与えた影響から起こる. あった.. ものとしては,例えば,鉄合金工場の目的は騒. 以上を手がかりに,一企業に関わる課題事項. 音を出したり有毒ガスを出したりすることでは. を図に表してみるならば,3 つの同心円状に表. ない.顧客に役立つ高性能な金属をつくること. すことができる.(図 1). である.しかし,そうするために騒音を出し,. 企業は内部社会的責任に対応する過程におい. 熱を出し,煙を排出してしまうのである.また. て(円 1),意図せざる副産物として煙害や交. 誰も平気で交通混雑をつくりだそうと思ってい. 通混雑を引き起こすことがあり(円 2),また. ない.しかし一か所に多数の人が雇われ,同じ. 社会自体がかかえる人種差別という問題が(円. 時刻に出勤し退社せねばならない場合には,交. 3)企業に多大な影響を与える雇用問題を引き.

(3) 企業の社会的責任論における責任概念(津久井). (465) 113. 起こしている場合(円 2)や,企業の内部社会. ず,達成しようとすまいと目的的結果を得ると. 的責任の従業員の採用・訓練を困難にさせてい. ともに,求めざりし随伴的結果を生むのである.. る場合(円 1)もある.また,企業は社会自体. この求めざりし随伴的結果は,行為者や第三者. の問題である地球環境問題に対して,排気ガス. に,愉快・プラスを与える場合もあれば,不快・. の少ない車や電力消費の少ない家電製品などの. マイナスを与える場合もある.そしてまた,い. 技術開発を積極的に行っている.これは,社会. かなる随伴的結果が生ずるかについて,予測し. 自体の問題を企業の内部社会的責任に取り込ん. 予知できる場合もあれば,予測も予知も不可能. だ(円 3 →円 1 へ)と捉えることができよう.. な場合もある.随伴的結果は,目的的結果の追. 一企業に関わる課題事項を,役割責任と結果. 求から必然的に生ずるものである.この随伴的. 責任という二つの責任概念からとらえなおして. 結果の問題は,多数の人間の協働行為・組織的. みるならば,役割責任とは,円 1 の市場内部に. 行為の場合には,些細なものとして看過するこ. おける企業活動をいかに忠実・公正に取り組ん. とはできなくなる.協働行為が組織的行為とし. でいくかということであり,また,円 2 や円 3. て大きくなり,科学技術によって武装せられて. の市場外部社会における企業活動に対してどこ. くると,目的的結果は巨大なものとなり,そし. まで配慮しどこまで深く関わっていくかという ことである.企業によっては,円 2 や円 3 の問. てまた随伴的結果も巨大なものとなる6). 結果責任は,役割責任を遂行する上での負の. 題に対して人や施設や金銭や技術などを提供し. 随伴的結果や,目的的結果の未達成に対して,. 5). て対応する場合もあれば ,円 1 に取り込み挑 戦していく場合もあろう.役割責任は,市場内 部・市場外部社会における企業活動の方向や範. 責めを受けることである. Ⅲ 企業の社会的責任論の契機. 囲を決定する意思決定である.. 企業の社会的責任は,第二次産業革命期とそ. 対する結果責任とは,円 1 の市場内部におけ. れに続く時期に,企業の経済活動と社会との相. る企業活動に伴い引き起こした,円 2 の意図せ. 互関係性において,現実的・切実的な問題を契. ざる副産物に対して責めを負うことや,円 1 内. 機として発現してきた議論である.以降では,. での失敗(例えば重大な法令違反を起こした,. 企業の社会的責任論の契機となった現実的・切. 財・サービスに欠陥が見つかったなど)に対し. 実的な問題,イギリスにおける「雇用問題」7),. て責めを負うことである.. ドイツにおける「戦争責任」8),アメリカにお. 行為としての結果には,二つの結果がある.. け る「独占」「慈善活動」「科学的管理」9),日. 目的的結果と随伴的結果である.人間の行為の. 本における「公害問題」10)を概観し,それらの. 結果は,設定し追求した目的が達成せられたか. 問題が当時の社会の中でどのような問題として. どうかの結果だけにとどまらない.そこには,. 捉えられていたかを確認する.そして企業の社. 必ず目的的結果以外の随伴的結果が発生し,生. 会的責任における責任概念とはいかなるものな. 起する.人間は何等かの欲求にもとづいて目的. のかを考察する.. を設定し,その目的に対して行為する.その結 果,目的が達成できることもあれば達成できな. ⑴ 雇用問題. いこともある.これは目的的結果である.人間. イギリス企業の重大問題のひとつは,労使関. の行為の結果は,目的的結果だけではなく,同. 係が円滑でないことである.敵対的な労使関係. 時に必ず随伴的結果を生ずる.随伴的結果は目. は,戦後急に登場したのではなく,前世紀以来. 的的結果と異なり,当初から求めたものではな. の長い歴史的経緯の中で形づくられてきた11).. く,求めざりし結果である.人間の行為は,必. 18 世紀後半にイギリスで勃興した第一次産.

(4) 114 (466). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). 業革命は,人口の増大をもたらした.イングラ. クは,完全雇用を目指して企業に社会的責任を. ンドの人口は,1700 年頃には約 500 万人であっ. 求める,計画経済的な労働組合に対して,完全. たが,1800 年には約 860 万人に,1850 年には. 雇用の無責任な実行は最大の被害を惹き起こす. 約 1670 万人に増加した.人口増加の主な原因. と指摘している.「平和の際に,単一目的が他. は大衆の結婚年齢の低下による出生率の上昇で. のすべての目的以上に絶対的に優位にあるもの. あり,これは工業化の進行による就労機会の拡. と,認められてはいけないということは,各人. 大によりもたらされたものである12).新しい商. がいま最も主要なものと認める一つの目的,即. 工業の中心地には人口が集中して,公衆衛生な. ち失業の克服という目的にさえ当てはまる.…. どの問題が生まれた.また,工場の労働条件に. 終戦直後の支配的な特徴のある状態は,戦争の. ついては児童労働を大量雇用し,徹底した規律. 特殊な必要のために数十万の男女が戦時中,高. 下で長時間労働を強いていたことが問題とされ. 賃金を獲得することのできた特殊な仕事に従事. た.こうした中,熟練工を中心とした労働者達. しているということである.多くの場合におい. は階級意識を持つようになり,労働者組合運動. て,これらの特殊産業に同数の人々を雇用する. や労働者の政治運動が開始されるようになる.. ことは不可能である.…そこで,もし労働組合. 19 世紀末から 20 世紀初頭にかけてのイギリ. が当該特定集団の賃金の引下げに抵抗して成功. スでは,3 タイプの労働組合. 13). が結成され,そ. するとすれば,ただ二つの交替的な可能性があ. れらが企業内に並存することで,労使関係が錯. るのみである.即ち強制権が利用せられるか. 綜状態. 14). となる.1 企業内に 6 組合以上存在す. (若干の人々を他の仕事へ強制的に転換させる. る 企業 の 割合 は 23%,10 組合以上 は 6% で あ. ため,またはより低い賃金に甘んぜしめるため. り, 全国組合数はアメリカの 200 以下に対して,. に選び出さなくてはならぬ),或いは戦時中に. 15). イギリスでは 500 以上を数えていた .. 獲得していた比較的高い賃金で雇用されえない. 労使交渉 の 面 で も,使用者団体 と 労働組合. 人々は失業者となり,遂には比較的低い賃金で. トップとの全国賃金率や労働時間を取り決め. 仕事を引き受けるようになるかのいずれかであ. る正規の団体交渉と並んで,労働者に密接な. る.」ハイエクは,完全雇用はやがて生産性の. 事項を交渉する,企業や工場レベルでの,い. 低下と労働人口の増加をもたらし,そのような. わ ば「非公式 の 労使交渉」が 存在 し て い る.. 計画経済はファシズムやナチズムのような独裁. 個々で は ショップ・ス チュワード と 呼 ば れ る. 社会に繋がると,指摘した.. 職場委員が活躍するが,このレベルでは交渉 がスムーズにまとまらない場合,すぐ山猫ス ト. 16). などが起きる場合が多く,操業停止理由. ⑵ 企業の戦争責任 イギリスを世界の工場たる地位に押し上げた. の 95% はこの種の事件が原因であった.. 第一次産業革命は,政府やその他の機関による. このような良好とは言えない労使関係の根. 何らかの誘導,あるいは工業化の達成を理想と. 底には, 「奴等と俺達(them and us) 」という. する強力なイデオロギーの下で推進されたわけ. 言葉に象徴されるように階級間の社会的対立. 17). ではなく,あくまで個々の企業の自発的な経済. が横たわっている.. 活動の蓄積に負うものであった.しかし,第二. ハイエクは,企業の社会的責任を否定する代. 次産業革命で誕生した新産業の展開過程は,そ. 表的論者 の 一人 で あ る.そ の 著書『隷従 へ の. れぞれの国の経済発展過程に密接に関連してい. 18). 道』 (1944) は,第 2 次大戦 で ア メ リ カ の 勝. たという特徴がある19).. 利の見通しが確実となる戦時経済から平時経済. 第 1 次大戦後 の 1920 年代,ド イ ツ は 戦後復. への転換期に書かれた.この著作の中でハイエ. 興政策の「産業合理化運動」を,民間企業を総.

(5) 企業の社会的責任論における責任概念(津久井). (467) 115. 動員して推し進めていた.その中心的な内容は. アメリカでは独占的要因を排除するために,. アメリカで発達した大量生産技術の改良導入と. 1890 年 に 世界最初 の 競争法,シャーマ ン・反. アメリカ資金の引き入れであったが,その運動. トラスト法が制定された.シャーマン・反トラ. は企業大型合併をもたらし,その結果ドイツに. スト法は 1940 年代に急速に強化され,1950 ~. は,IG ファル ベ ン 社(巨大化学企業)を 代表. 60 年代には最も厳格な競争ルールが制定され. とする大企業が誕生することとなる.. ることになる.. 1939 年に勃興した第 2 次大戦中のドイツで. 1946 年 に ド ラッカーは,著作 “CONCEPT. は,ナチ体制の戦争遂行と経済界との密接な関. OF THE CORPORATION” の中で,大企業の. 係 が 成立 し た.ナ チ ス 政権下(1933 年~)の. 独占対策として企業分割26)という方法をとる. ドイツの軍事化は,ドイツ大企業に企業経営上. シャーマン・反トラスト法を,「The “Curse of. 必要な,高度な新技術の発展と研究開発投資を. Bigness”(巨大さの呪い)」という皮肉な言葉. もたらした.またドイツ大企業にとって,軍事. を使い批判している.ドラッカーによれば,近. 予算による研究開発資金の公的供与は,研究開. 代産業は経済的な観点からは企業規模は大規模. 発設備を通じて戦後の企業競争力に直結するも. であることが社会にとって生産的である.しか. のであった20).. し大規模ゆえの問題も生じていることは事実で. こうした国家と経済界との強力な結びつきに. あり,その対処策には企業分割ではなく企業が. より展開されたドイツの経済発展は,第 2 次大. 自ら分権制を採用することが望ましいと述べて. 戦の敗戦により幕を閉じ,ドイツ大企業は戦争. いる27).. 責任を問われることになる.第 2 次大戦の敗戦. フリードマンは,独占という問題について,. 国ドイツの罪業を裁くニュルンベルク裁判にお. 次のように論じている28).. いて,ドイツの代表的な大企業(鉄鋼・軍需の. 独占には産業の独占・労働組合の独占・政府. クルップ社,フリック社,化学の IG ファルベ. の独占の三領域29)があり,一般に問題とされ. ン社)は,強制労働・人道に対する罪などで戦. ている産業の独占は,経済全体の視点から見れ. 争責任を問われ有罪となった21).. ば重要な問題ではなく30),むしろ労働組合・政 府の独占の方が問題である.しかし,規制のな. ⑶ 独 占. い私的な独占は害悪であることから,適当な政. 移民流入による人口増大,西部への人口移動. 府の政策は必要である.イギリスよりアメリカ. による都市化の進展は,アメリカ企業に全国市. が秀でているのは反トラスト法の制定にあり,. 22). 場の形成をもたらした .全国市場の成立と産. この法律には,企業も労働組合も同様に従わせ. 業革命の進展は, 企業に規模の経済を実現させ,. るべきである.. これにより企業の産出量は飛躍的に増加すると. フリードマンの主張は,独占自体は害悪であ. ともに,全国市場をめぐる熾烈な生き残り競争. るが,外部からのインセンティブによりそれは. が展開されることになった.この競争を終息さ. 抑制することができるというものである.今日. せるためにとられた手段は,競争企業をひとつ. の独占対策は,外部チェック機能の強化と重罰. の企業に合同してしまうことであった23).. を科すという方面に重心を移してはいるもの. このような産業集中. 24). が進むにつれて企業. 間の価格競争は激減し,市場価格に代わり中核. の,独占という問題そのものはいまだ姿を消す ことがない深刻な問題である.. 企業によって形成された管理価格が設定される ことになる.それは大衆の反感を買い,大企業 25). と中小企業の両極分化を生じさせた .. ⑷ 慈善活動 1900 年, カーネ ギー・ ス ティール 社 の 製.

(6) 116 (468). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). 鋼生産量は,アメリカにおける総生産量31)の. ⑸ 科学的管理. 25% を達成していた.. 1910 年,東武鉄道の運賃値上げに対する反. アンドルー・カーネギーやロック・フェラー. 対運動の渦中,州際通商委員会の公聴会で反対. に代表される, 巨額の富を築いた経営者たちは,. 派を代表する弁護士が,テーラーの提案する管. 慈善活動に精を出すようになる.彼らは,アメ. 理方式を「科学的管理」と呼んで称賛 35)した. リカ人の大多数にとって何が最適かを知ってい. ことにより,テーラーの管理方式は,作業合理. ると信じ,平凡な人々の生活を変えるために温. 化のための工学的実験から企業を啓蒙する社会. 情主義的なやり方で,自分達の冨を使うことに. 運動へと性格を変えていくことになる36).テー. したのである.企業指導者たちからの寄付金の. ラーの科学的管理とは,組織的怠業の解消のた. 洪水の中で,慈善活動は博愛活動へと変わって. めに考案されたもので,動作研究と時間研究に. いった32).ビジネスマンは,自分の信じる価値. 37) よる課業の設定(課業管理) を行うことで,. 観を最も具現していると思うこれらの博愛活動. 高い賃金と低い労働費が達成されるというもの. を支持した.他のアメリカ人同様,ほとんどの. である.. 企業指導者達は, 勤勉さと知識の会得によって,. テーラーは「科学的管理」の 指導者 と し て,. 誰もが地位を獲得することができると思ってい. 積極的にそれを促進していったが,テーラーの. た.. 管理方式に対する抵抗は感情的反発も強まり目. 若いころ夜学に通っていたアンドルー・カー. 立つようになる.1911 年,議会はとうとうテー. ネギーは,国中に多数の図書館を建設するため. ラーの管理方式を調査する特別委員会を設け,. に多額の寄付をした.彼は,図書館こそが直接. テーラー自身も参考人として呼び出される騒ぎ. 的な施しよりもずっと,貧しい人々を助けるも. にまでなった 38).. のだと信じていた.また,同じような理由から. 科学的管理 へ の 反発 は,他 で も 見 ら れ た.. 企業指導者は,古典的学問より実際的な学問を. 1919 年 9 月 に 起 こった,主要鉄鋼会社 の ス ト. 強調した大学に寄付した.商業銀行家のジョン. ライキで,鉄鋼経営者はストライキ参加者に激. ズ・ホプキンスは,彼の名前にちなんだ大学設. しく抵抗し,彼らとの交渉を拒否した.いくつ. 立に 350 万ドルを寄贈した.リーランド・スタ. かの事件では,会社は警察を要請し,警察はス. ンフォードは,若くして死んだ彼の息子の名を. トライキ参加者の集会を暴力的に破壊した.20. つけたスタンフォード大学の創立に 2400 万ド. 世紀初頭,アメリカの大部分の企業指導者達は,. ルを寄付した.そしてロック・フェラーは,シ. 労働組合との交渉という考えを拒否し,彼らは. 33). カゴ大学の再建に 3400 万ドルを寄付した .. 組合をつぶそうとし,そしてそれはかなりの成. フリードマンは,慈善寄付問題に対して,次. 功を収めた.ビジネスマン達は,組合の代わり. のような疑問を投げかける. 「もし経営者が株. に「福祉資本主義」という考え方を奨励した.. 主のために最大の利益をあげること以外の社会. 福祉資本主義が意味しているのは,独立した労. 的責任を実際にもつとした場合,彼らはそれが. 働組合ではなく,まさにビジネス側が労働者の. 何であるかをどうやって知るのであろうか.仲. 最善の利益を守るべきだということであった.. 間うちだけで選ばれた私的個人が社会的利益の. 福祉資本主義の活動は広範囲に及んでいる.従. 何たるかを決めることができるだろうか.彼ら. 業員のための住宅・教育・医療・宗教・レクリ. は社会的利益に奉仕するために,どのくらい大. エーションに関する諸施設,利益分配計画,退. きな負担を自分たち自身または株主に負わせる. 職年金などである.福祉資本主義は,経営者の. のが正当とされるかを決めることができるであ. 観点からすると,労働コストを予測可能で合理. 34). ろうか . 」. 的なものとするための,ひとつの科学的管理方.

(7) 企業の社会的責任論における責任概念(津久井). であった39).. (469) 117. 43) るといわざるをえない」 と,この段階では体. 裁の域を出ていないことを批判している. ⑹ 公害問題. 清水は,日本の国家立法が,国民を公害から. 戦後の重化学工業の発展を中心とした日本の. 守り国民の生存権を守るという,その立場に立. 高度経済成長は,四大公害訴訟に代表される深. ちきれないのは,公害問題が独占資本の利益と. 刻な被害. 40). 41). を日本各地にもたらした .公害と. 国民の生存権との矛盾対立の結節点となってい. いうことば自体はすでに明治時代にも存在して. ることに原因があるとする.「独占資本は,国. いたが,社会的責任論の契機となったこの当時. 民の生命・生活の総体を脅かしてまで,そして. の公害は,大規模な生産活動による企業の事業. これに対する反抗をよび起してまで,国土を蚕. 形態が大気汚染や水質汚濁などを発生させると. 食しつつその最大限利潤を追求せざるをえない. いうもので,被害者の中心は企業周辺の地域住. というところにまで追いつめられているのであ. 民であった.. る.」清水は,国家立法の立場は,国民の生存. 清水は, 公害に関連するわが国の国家立法を,. 権を第一義とする立場に転換すべき44)である. 三期に分けて考察している42).. と主張している45).. まず,昭和 30 年(1955)代以前における立. 国民経済の発展・産業の発展保護という呪縛. 法は,いずれも国民経済の発展・産業の発展保. から脱け出しきれない日本の,四大公害訴訟の. 護が基調となっており,これらの法規制が真に. 結末は以下のとおり,国の法的責任には触れな. 住民の立場や環境保全のために運用されていれ. いまま決着をつけることとなった.. ば効果をあげえたかもしれないが,と断りつ. 水俣病事件は,1959 年 12 月に新日本窒素肥. つも,公害防止という観点がなかったことを指. 料 が 患者 79 名 に 対 し て 見舞金総額約 9200 万. 摘している.次に,昭和 30 年代の公害問題が. 円を支払うことで一旦決着したが,1968 年の. 社会的に注目を集めるようになってからの立法. 公害認定により患者からの補償要求が再燃し,. は, 「調和」 を基調としており, 昭和 42 年 (1967). 1973 年 3 月 に 熊本地裁 は 患者側勝訴 の 判決 を. に制定された「公害対策基本法」でも,生活環. 下した.. 境の保全と産業の健全な発展との調和を図るも. 新潟水俣病 で は,1967 年 6 月 に 昭和電工 が. の,健康と生活環境を分離するという背理をあ. 提訴 さ れ,1971 年 9 月 に 新潟地裁 は 患者側勝. えてしてまで経済発展はすべきものである,と. 訴の判決を下した.その後の未認定等をめぐる. いう姿勢があったことを指摘している.その後. 訴訟は,1996 年 5 月に和解した.. も公害の激化と国民の批判の盛り上がりは続. イタイイタイ病では,1968 年 3 月に三井金. き,政府は昭和 45 年(1970)に, いわゆる「公. 属鉱業が提訴され,1971 年 6 月に富山地裁で,. 害国会」と 宣伝 し た 臨時国会 を 開催 し,公害. 72 年 8 月 に 高裁 に お い て 患者側 が 勝訴 し た.. に関連する 6 の新立法と 8 の改正法を成立させ. その後財界からイタイイタイ病の原因は特定で. る.そこで初めて「公害対策」という観点が中. きないとする反撃が見られたが,結局カドミウ. 心に置かれ, 「調和」の考え方は削除されるこ. ム原因説が定着することで決着した.. とになるのだが,清水は「法律の字面を見ただ. 四日市 ぜ ん そ く は,1967 年 9 月 に 被告 6 社. けでは,数も多く,すべてをカバーしているか. (昭和四日市石油,三菱油化,三菱化成,三菱. のように見える」と述べながら, 「はたしてこ. モンサント化成,中部電力,石原産業)に対し. れらの公害対策法が公害の絶滅に効果を発揮し. て訴訟が起こされ,1972 年 7 月に津地裁四日. たかといえば,その後における公害現象の全面. 市支部は患者側勝訴の判決を下した.. 的な拡大と激化という事実がこれを否定してい. 平野は,企業と公害問題との関係を次のよう.

(8) 118 (470). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). に把握している46).第一に,資本主義の生産関. のような責任回避の態度は,第 64 回臨時国会. 係に付随して発生する公害現象は,資本主義企. (いわゆる「公害国会」)で公害関係諸立法が審. 業の生産工程から生ずる人為的かつ社会的災害. 議される過程において,経済団体連合会などに. である.これら災害の法的主体は企業体であ. よる強力な干渉の姿勢に象徴される.そしてま. り,加害行為は,企業の営利活動の自由に基づ. た,かの四大公害訴訟の審理過程におけるいず. く結果にほかならない.第二に,加害者は原因. れの被告会社の応対態度においても,明確なか. 企業であり,被害者の中心は,企業周辺の農民・. たちで示されていた.さらに,公害防止の過大. 漁民および労働者であり,現代では一般の市民. な費用負担は,国際競争力の強化に障害となる. にまで拡大されてきている.第三に,公害現象. という回避の主張すら行っている.かかる姿勢. は,企業の自由な営利活動に派生して,地域住. をとるのは,個別企業の見方であるだけではな. 民の生活基盤に対する直接的な安全性の破壊で. く,財界の全体意思であり,わが国の総資本の. あり,人間の生存それ自体の侵害行為であるか. 基本的態度であるといって差支えない.. ら,企業の営利活動の根拠となる権利と国民の 生命・健康を維持し,生活を営むという権利と. ⑺ 結果責任概念の拡張. の対抗関係に関する法的検討が注目されなけれ. 企業の社会的責任論の契機となった現実的・. ばならない.. 切実的な問題は,そもそも企業という存在がな. これらは,企業の経済活動が公害問題を発生. ければ生じない問題であり,組織体が社会に与. させている原因であることを明示する内容であ. える影響,いわば負の随伴的結果と見なすこと. る.従来わが国の企業規制は,社会における企. ができる.しかし,そこには特殊な戦時経済や. 業活動の役割を強調し,経済発展に寄与してい. 工業化の進行,階級間の社会的対立,軍や政府. るとか社会全体の利益に合致しているという側. との関係など,社会自体が抱えている問題や,. 面のみを偏重し,企業の公共的性格を過大に評. 現代企業の性格47)に由来する問題が存在して. 価してきた.. おり,一概にこれらの具体的な結果に対してそ. 平野は, 「自然系の連環の鎖をたちきるよう. の原因を,組織体が社会に与える影響,または. な企業の経済活動によって人間の生存基盤を保. 社会自体の問題のどちらかであると断定するこ. 障する基本的権利(生命・健康・生活環境)を. とができないことは,明らかである.. 現実に侵害する結果をもたらすことが明らかな. 従来,企業は市場内部における経済活動で目. 場合には,企業の経済活動を規制する」ことも. 的的結果の未達成に対して結果責任を問われて. 必要であると述べており, 「公害規制が現実的. きた.しかし本事例を通じて企業が責めを受け. 意義をもつのは,事前規制である点に求められ. ていた結果責任とは,目的的結果の達成・未達. る」として,これを公害規制の主要な課題であ. 成にかかわらず,負の随伴的結果に対するもの. ると主張している.. であった.過去の行為に関する責任(つぐない). 従来,企業の公害問題に対する態度は,終始. とは,自らの行為の帰結や因果性により課され. 責任回避の論理に立ってきていた.厳格な法的. るものである.しかし企業の社会的責任論の契. 規制が私的企業に実施されることは,営業活動. 機となった現実的・切実的な問題では,その原. の自由の侵害であり,無過失責任が課せられる. 因が企業だけに起因するものでなく社会自体が. のであれば,企業経営は不可能となるという主. 抱えている問題に起因するところが大きいもの. 張が,常に強調されてきた.加害企業に対する. であったとしても,企業活動に伴う負の随伴的. 地方公共団体 の 立入調査 す ら, 「企業 の 秘密」. 結果として,企業に重い結果責任を課す48)と. を理由として,拒否する態度を示してきた.こ. いうものであった..

(9) 企業の社会的責任論における責任概念(津久井). (471) 119. 以上のことから,企業の社会的責任論におけ. り,図 1 で表すならば,企業の結果責任の範囲. る責任概念とは, 企業活動の結果責任の範囲を,. は円 1 内か,あるいは円 1 外の円 2 円 3 まで広. 目的的結果の未達成から負の随伴的結果にまで. げるのか,ということである.今日では企業の. 拡張したものであると解釈することができる.. 社会的責任という考え方は所与とされ,その是. Ⅳ 企業の社会的責任研究. 非を改めて問う議論は少なくなっているが,企 業の社会的責任研究の初期においては,企業の. 企業ないし経営者の社会的責任の論議は,経. 社会的責任そのものに対する是非の議論が中心. 営学およびそれに近い学問分野での論議に限定. であった.. しても,欧米の場合,20 世紀の比較的早い時期. 企業 の 社会的責任肯定論 は 広範囲 に わ た り. に既に出現している.そして欧米,とりわけ米. 存在 す る.Davis(1960)は,企業 の 社会的. 国では,20 世紀半ばまでに,社会的責任論はそ. 責 任 肯 定 論 を,① 長 期 的 自 己 利 益 論 Long-. の萌芽期を経過し,更なる展開のための基盤を. run Self-interest ② パ ブ リ ッ ク・ イ メ ー. 固めるに至るとともに,20 世紀中葉以降,内容. ジ 論 Public Image ③ 企 業 活 力 維 持 論 . 49). と方法の面で急激な発展を見た .Frederick. Viability of Business ④ 政 府 規 制 回 避 論 . (1986)は米国における企業の社会的責任研究. Avoidance of Government Regulation ⑤ 社. を,CSR1,CSR2,CSR3 な る 3 つ の 類 型 に. 会 文 化 規 範 論 Sociocultural Norms ⑥ 株 主. よって 説明 し て い る50).1950~70 年代中期 の. 利益論 Stockholder Interest ⑦試行論 Let. 「CSR1:Corporate Social Responsibility(企業. Business Try ⑧ 資 源 所 有 論 Business Has. の社会的責任) 」における研究では,企業の社. the Resources ⑨問題 の 利潤 へ の 転換論 . 会的責任 を め ぐ る 肯定・否定論争 が 展開 さ れ. Problem Can Become Profits ⑩予防優先論 . た.企業の社会的責任を肯定する論者は,企業. Prevention is Better than Curing の よ う に 分. 行動を支配する諸規範がどこか間違っており,. 類し,企業の社会的責任を肯定する論拠として,. 経済的権力と社会的責任が不調和であることを. 企業は多元的社会における権力中枢のひとつで. 感じていた.1970 年代~現代に続く「CSR2:. あり,権力に見合う責任を課さねばならない. Corporate Social Responsiveness(企業 の 社会. 「権力―責任均衡(The Power‐Responsibility. 的応答性) 」における研究では,諸種の社会的. 51) Equation) 」を導き出した.. 圧力(social pressure)や 社会的要求(social. 対する,企業の社会的責任否定論は,株式会. demands)に効果的に反応するための方法に集. 社の観点からの批判,自由経済の観点からの批. 中してなされている.また 1980 年代~現代に. 判に整理することができる52).. 続 く「 CSR3:Corporate Social Rectitude(企. 株式会社 の 観点 か ら の 批判 と し て は,以下. 業の社会的正当性) 」における研究では,道徳. の 2 点に集約することができる.①企業は法制. 的正しさ,経営倫理という概念を企業行動に導. 度的に所有者・株主のものであり,利益は所有. 入する視点で研究が進められている.. 者・株主に帰属する.その利益を経営者が勝手 に他の用途に使用することは許されない.②経. ⑴ CSR1:結果責任概念の拡張. 営者はあくまでも経営のプロフェッショナルで. CSR1 で分類された 1950 ~ 70 年代中期の企. あり,経営以外の領域に関しては他の専門家に. 業の社会的責任研究は,主に企業の社会的責任. 委ねるべきである.. をめぐる肯定・否定論争が展開された.これは. また,自由経済の観点からの批判としては,. 前述の企業の社会的責任論の契機における結果. 以下の 3 点が挙げられる.①社会的責任として. 責任概念を広げるか広げないかという論争であ. 要求されている公益活動は,本来,政府など公.

(10) 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). 120 (472). 的機関が行うべきものであった.その公益活動. 害を減少させるべきであることが社会文化規範. を行うことにより,政府・国家権力の介入を招. として形成された場合,企業はこの問題を配慮. き,企業の自由な活動が拘束されかねない.②. せざるを得なくなる.. ただで享受できると思えても,社会的貢献活動. 結局のところ企業の社会的責任否定論は,肯. の費用は結局価格に転嫁される.それは市場の. 定論の対極に位置しながら肯定論の反面教師と. もつメカニズムを阻害し,消費者に不利益を与. なって,社会的責任論の展開に貢献してきた55).. えることになる.③寄付などという,個人の価. こうして企業の社会的責任の肯定は,結果責任. 値観に関することは,あくまで個人によりなさ. の概念を負の随伴的結果にまで拡張した.. れるべきことである.経営者が恣意的に寄付の. だが,結果責任が問われたときには,すでに. 対象を選定することは,企業による文化・教. 取り返しのつかない場合がある.例えば,公害. 育・福祉などの支配につながりかねない.. を含む環境問題は,絶対的不可逆的損失をふく. 企業は独立の社会体系として,または全体社. んでおり,補償原理は不十分にしか働かない56).. 会体系の下位体系としてのいずれかによって位. 絶対的不可逆的損失とは,①人間の健康障害お. 53). 置づけられる .このように考えたとき,企業. よび死亡,②自然の再生条件が困難で復旧不能. の社会的責任否定論は,企業は法と市場メカニ. な破壊,③復元不能な文化財,街並みや景観の. ズムを制約条件として収益性の追求に徹すれば. 損傷などを指す.このような絶対的不可逆的損. よ い と い う,伝統的・古典的企業観54)に 立脚. 失については,事後的に金銭賠償をしても原状. していると捉えることができる.企業が置かれ. 回復はできない.自然の中には人工林のような. ている現実社会はオープン・システムである.. 形で復旧可能なものもあるし,埋立地を海浜に. 社会との関係なしには存在しえない企業が,全. 戻すことも技術的には可能である.しかし,再. 体社会体系への配慮を全く無視した活動を行う. 生するには長い時間と巨大な費用がかかり,. ことはできないことは明白である.現実に企業. 完全な生態系の再生に至ってはかなり困難で. や経営者は,個人の市民活動同様,様々な社会. ある 57).. 文化的制約条件のもとで活動を行っている.企. したがって,役割責任による未然防止が重要. 業に多大な影響力を有する社会文化的制約条件. となる.開発にあたっては環境アセスメントが. を軽視することなく,絶えずそれらへの適応や. 行われ,事前のアセスメントの結果,絶対的不. 働きかけを行っている. 社会文化的制約条件は,. 可逆的損失が予測される場合には,計画の中止. それらが安定的である場合にはほとんど意識さ. や変更といった意思決定が必要となる.少しで. れず,第二義的・潜在的なものと見なされてい. も疑わしい場合には,潔い大胆な計画変更など,. るが,もし社会文化規範に変化が生じたり,不. 深い洞察力が要求される.. 安定化したりすれば,企業や経営者も,その変. 企業の社会的責任を肯定し結果責任の概念を. 化に応じた行動様式の変更を求められる.この. 負の随伴的結果にまで広げたことで,次には絶. ような状態では,社会文化的制約条件は,他の. 対的不可逆的損失をふくんだ負の随伴的結果を. 諸制約条件と同様の効果を有することになる.. もたらさないよう,未然防止という観点から企. 企業は,社会文化規範を唯一の基準として意思. 業に対する役割責任への期待が高まることにな. 決定しているのではないが,企業の目的が利潤. る.企業は役割責任の高まりにどのように対応. 極大の追求であることが社会一般の福祉に合致. していくのかが,次の課題となったのである.. していることが受容され,社会文化規範として も確立されていれば,社会的責任を企業行動に. ⑵ CSR2:役割責任概念の拡大. 反映させる必要はない.しかし,たとえば,公. 1970 年代以降の CSR2 に分類された研究は,.

(11) 企業の社会的責任論における責任概念(津久井). (473) 121.   Σ     Τ     Υ     Φ     Χ  .  ೑Ảᭂᄢൻ  ␠ળ⋡ᮡࠍ฽  ೑Ả⋡ᮡߣ␠ળ ೑Ả⋡ᮡࠍ⠨ᘦ  ␠ળ⋡ᮡ ࠎߛ೑Ả⋡ᮡ  ⋡ᮡߩ⺞๺   ߒߚ␠ળ⋡ᮡ (出所)対木(1979)p. 60. 図 2 利潤目標と社会目標の段階. 企業に対する急速に拡大する要求をいかに認識. に社会的責任ある活動を求める,もともとは社. し対応していくのか,というものである.現実. 会変革的なツールとして誕生した投資方法であ. 問題として,広範な諸種の社会的要求(social. る.特 に 90 年代後半以降,SRI の 市場 は 急速. demands)や 社会的圧力(social pressure)に. に拡大している.こうした SRI 市場は,新し. 対して, 無限定に対応していくことはできない.. い企業価値の評価基準である SP を,市場に取. 企業の利潤目標と社会目標を 5 段階に分類し考. り込み支援する仕組みと考えられている.. えた場合,企業の社会的責任否定論は第 1 段階. EP を Y 軸,SP を X 軸として逆 U 字型を描. と結びつき,肯定論は第 2 段階~第 4 段階のい. く SP・EP 相関は,長期的には環境主体の期待. ずれとも結びつく.企業が理念として第 5 段階. する SP が時間・時代の推移とともに拡大し高. をどのように考えるのか,現実に企業はどの段. 度化することを受けて,少なくとも右方向へシ. 階を採用するか,ということが検討すべき問題. フトすることを示唆している61).(図 3). となるのである58). (図 2). Carroll(1979)は,社会的課題事項 が 何 で. 70 年代 の 企業 の 社会的責任 を 正当化 す る. あるかが企業 SP の重要な局面であるのに,そ. 根拠 は「啓発 さ れ た 自己利益」で あった.社. れらについての合意がまったく存在しないこと. 会にとって良いことをすれば,いずれは企業. を指摘している62).企業の社会的責任活動とは. にとってプラスになるという発想である.こ. 何か,社会的課題事項が何であるかの合意が得. うし た 発想 に 基 づいて,企業の社会的責任研. られないままに,SRI なども含めた市場内での. 究においては,企業の果たす社会的責任の遂. 企業活動の評価は,結局企業の内部社会的責任. 行度 で あ る SP(Social Performance)の 把握. を増大させることになる.すなわち,図 1 にお. と,企業の獲得する収益を表す EP(Economic. ける円 1 の面積の拡大である.円 1 の拡大は役. Performance)と SP との相関を求める研究が. 割責任 の 増大 で あ り,そ れ は 結果責任 の 増大. かなりの数で行われてきた59).. をも意味している.結果には目的的結果と随伴. 企業の社会的責任が収益性と結びつくかどう. 的結果の二つがあり,度重なる企業不祥事とい. かは,市場 が 企業の社会的責任を評価するか. う現実は,目的的結果の達成が困難なことを物. どうかに依存する.もし市場が企業の社会的. 語っている.品質管理の問題や個人情報の漏洩. 責任を評価しないなら,それへの取り組みは単. といった企業不祥事は,目的的結果の未達成で. なるコストであり,余裕のある企業あるいは社. ある.企業活動に関連する法制度ひとつをとっ. 会的ミッション性の強い企業のみが対応可能と. てみても厳しさは年々強まっており,企業の社. 60). いうことになる .SRI(Socially Responsible. 会的責任はコンプライアンス対応であると言い. Investment)は,企業 へ の 投資 の 基準 に,経. 切る企業が現れるのも,現実問題として目的的. 済的な指標と共に社会的な指標も考慮し,企業. 結果の達成がいかに困難になっているかの表れ.

(12) 122 (474). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). (出所)森本(1994)P. 315. 図 3 長期動態的な「均衝的社会責任」. といえよう.また「権力─責任均衝法則」に従. る種の欠点に焦点を合わせ,保守主義者はその. えば,円 1 の面積の拡大は,必然的に円 2 の面. 他の点に焦点を合わせたが,様々な事件の根本. 積,すなわち随伴的結果の巨大化をも伴う.絶. にある問題──経営者の責任の範囲と性格──. 対的不可逆的損失を含んだ負の随伴的結果をも. にしだいに注意が向けられるようになった.企. たらさないよう,未然防止という観点から高. 業を批判する人,企業を擁護する人がともに,. まった役割責任への期待は,皮肉にも目的的結. より基本的な問題──経営者は誰に対してどん. 果の未達成や負の随伴的結果といった結果責任. な責任を負っているのか.そもそも企業の目的. の増大をもたらすことを示唆している.. はいったい何なのか──に取り組み始めた63).. 企業の社会的責任論の勃興期においては,円. 80 年代以降 の CSR3 で 分類 さ れ た 研究 の 目. 1 の境界内か外かという,結果責任がその論点. 的は,企業行動に関わる意思決定過程に倫理的. であったが, 今日では円 1 の面積の拡大という,. 考慮を組み込むことである.企業は衣食住など. 役割責任を拡大する(それは万一の場合には必. の主要な欲求を満たすばかりか,多様な種類の. 然的に結果責任も拡大する)方向で議論されて. ヘアー・スプレイ,電動ナイフ,若年層を狙っ. いると解釈することができる.. たタバコ,過激なゲームソフト,多様な機能を 付加した電話などの二次的欲求を創造してい. ⑶ CSR3:役割責任概念の再考. る.それらは果たして望ましいことなのか,そ. 70 年代に社会の関心を集めた企業による不. れらは地球環境をただ悪化させているだけでは. 正行為リストのトップにきたのは,政治キャン. ないか,それらの財や欲求がなければ,人間生. ペーンに対する違法な寄付と外国政府高官に対. 活は本当に貧しくなるのか64).企業の提供する. する贈賄であった.しかし批判はそれよりも,. 財・サービスに関する価値の変化も含めて,収. 環境汚染,人種差別,性的差別,労働者と消費. 益性,効率性,競争性,成長性などの従来の企. 者の安全の無視,不適切な経営,詐欺的行為,. 業行動 に 対 す る 社会 の 価値転換65)は,企業倫. 利害の対立,株主無視などの多数の経営の失策. 理の制度化を迫ることとなった.. に向けられた.自由主義者は企業制度が持つあ. 企業倫理を制度化するためには,2 つのアプ.

(13) 企業の社会的責任論における責任概念(津久井). (475) 123. ローチがある.コンプライアンス型アプローチ. 守る,ということが機能していなければならな. と,誠実型アプローチである66).. いこと,などの理由から,すべての社会的課題. コンプライアンス型アプローチは連邦量刑ガ. 事項の解決を法制化だけに委ねることは現実的. イドライン67)の制定といった制度的な支援を. ではない.公害基本法の成立過程をみても,公. 受けながら,90 年代に広がったアプローチで. 害が国家の経済成長を抑制してでもなくすべき. ある.. ものであること,公害は企業活動から排出され. 思い返せば,多くの社会的課題事項は,かな. た 有害物質 に 起因 す る と い う 科学的証明,と. り予想可能な経過をたどっている.一般的にそ. いった新たな社会文化的規範が形成される過程. の当時は,その問題は思いもよらないものだっ. を経なければ,成されえないものであった.. たり,想像もつかないものだったりするもので. 一方の誠実型アプローチは,外部強制的制度. ある.しかし,そのことに対する関心・期待・. 化には限界があることから,基準原則に従った. 要望が高まり持続すれば,最終的には法制化さ. 自己規制に焦点を当てている.多元的で重層的. れることになる.その結果,その課題事項に対. なグローバル社会の文脈を総合的にカバーする. 応することは「新しい標準(new standards) 」. ためには,一国内における法体系を前提とした. となり,その社会的課題事項はその時点で課題. コンプライアンス型では対応しきれないという. 68). 事項ではなくなる .. ものである.今日の社会的責任を求める声は,. 公害問題は,長期間にわたる議論を経て,昭 69). 会社に新しい役割を担えといっているのではな. 和 42 年(1967) 「公害対策基本法 」という法. く,むしろ既存の役割を新しい方法で遂行せよ. 制化による新しい標準がつくられた.公害を引. といっている72).. き起こした当該企業は結果責任を責められ,そ. コンプライアンス型アプローチは過去に対す. の後,当該企業とその他の企業は,公害対策基. る役割責任,誠実型アプローチは未来に対する. 本法という役割責任を担ったのである.公害問. 役割責任と解釈することができよう.. 題は公害対策基本法という新しい標準となり,. このことは,図 1 における円 1 の面積の拡大. 円 2 から円 1 へ移動した.. ではなく,円 1 の内容の見直し73),すなわち役. 今日 で は,賠償責任 と メーカー保証 と い う. 割責任の再考といえる.役割責任の再考では,. 品質管理をめぐる法制度化の進展が目覚まし. 拡大を続けてきた円 1 の縮小といった判断が下. 70). い .分譲マンション・ホテルの耐震強度偽装. される可能性を持っている.それは円 2 円 3 の. 問題(物件販売:ヒューザー,民間確認検査機. 縮小へもつながることになろう.. 関:イーホーム ズ,施工:木村建設,1 級建築 士:姉歯)に つ い て は,国土交通省 は 2009 年. Ⅴ 結びにかえて. 度をめどに「欠陥住宅補償」の制度化を進めて. 本論では,企業はどのような問題に対してど. いる.松下電器産業(株)の温風暖房機による. の程度までの責任があるのかということについ. 一酸化炭素中毒事故,パロマ工業(株)のガス. て,役割責任と結果責任という観点から考察し. 瞬間湯沸器よる一酸化炭素中毒事故への社会的. てきた.本論における考察結果は,以下の 3 点. な関心の高さは 2006 年 11 月の臨時国会で「消. に要約できる.. 71). 費生活用製品安全法」の改正法. を成立させた.. 第一に,企業の社会的責任という考え方は,. しかし,一般的に社会的課題事項が法制化さ. 結果責任という観点から生じた議論であった.. れるには時間がかかること,またすべてが法令. 旧来考えられていた企業の結果責任とは目的的. に反映されるとは限らないこと,たとえ法制化. 結果のことを指し示していたが,企業の社会的. されたからといってそれらを適切に守らせる,. 責任論における結果責任概念では,負の随伴的.

(14) 124 (476). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). 結果にまで拡張したものであった.企業の社会. を講じる,などがあげられる.しかし,今日世. 的責任論において,企業はどの程度までの責. 界中の経営者が自覚し始めていることは,マス. 任があるのかという問に対して答えるならば,. コミや,政府や,また,社会問題に目を光らせ. 万一負の随伴的結果が生じた際には,その責任. ている非政府団体によって,経営者も企業も厳. は企業にある,ということがいえる.. しく監視されているという事実である74).. 第二に,企業の社会的責任という考え方が肯. 現在,多くのコンサルティング会社が,不祥. 定された後は,役割責任という観点から研究が. 事対応につき,様々なサービスを企業側に提供. 進められていた.役割責任の研究は,結果責任. している.コンサルティング会社としては,さ. という観点を過少視すると,役割責任の範囲の. らに踏み込んだアドバイスを提供したいと考え. 増大を指向することとなり,それは結果責任の. ているかもしれないが,企業側にあっては,そ. 増大につながり,さらには負の随伴的結果が生. こまで要求しないことが多い.このため,サー. じた際には絶対的不可逆的損失の生じる危険性 の拡大をもはらんでいた.役割責任は,結果責 任を加味した上で検討されるべきものなのであ る.. ビスの中心は「どのような謝罪文ならよいか」 「雛型はないか」「どれくらいの紙面を割けばよ いか」「自社 HP 上の詫文はどのようなものか」 「HP 上の謝罪文はどれくらいの期間掲載すれ. 第三に,企業の社会的責任論において,企業. ばよいか」といった表面的なものにとどまりが. に今求められているのは,役割責任の範囲の拡. ちだ75).表面的な事態の沈静化,事態の収拾ば. 大ではなく,役割責任の再考であった.それは. かりに企業は注力しているように見受けられ. 既存の役割責任の質的変化を意味している.企. る.. 業はどのような問題に対して責任があるのかと. 企業の社会的責任論では,役割責任の再考が,. いう問に答えるとき,社会的課題事項が何であ. いま求められている.これは,結果責任におい. るかの合意は存在していない.例えば,究極的. ても,その果たし方に誠実さが求められている. な社会的課題事項は,地球環境問題であると言. と考えることができるのではないだろうか.. うことはたやすいことである.しかし,多元的 で重層的なグローバル社会の文脈を総合的にカ バーするための法体系が存在しないことと同 様,すべての国における社会的課題事項を,順 序づけて並べることは到底できない.企業の社 会的責任論において言えることは,企業は既存 の役割を見直しその目的的結果に対して責任を 果たすことが求められているが,役割の見直し の際にはその随伴的結果にまで考慮することが 求められている,ということである. 本論では以上のように,役割責任と結果責任 という観点で,社会的責任論における責任概念 を整理してきた.最後に,結果責任という観点 から,若干の考察を述べる. 結果責任が企業に問われたときの責任のとり 方について, 謝罪する, 辞任する, 法で裁かれる, マスコミによる企業批判を受ける,再発防止策. 注 1)三戸浩,池内秀己,勝部伸夫(2006 新版補訂版) 『企業論』有斐閣アルマ,pp. 100─108. 2)Hans Jonas (1979) DAS PRINZIP VERANTWORTUNG. Versuch einer Ethik fur die technologische Zivilisation. Frankfurt/M.:Insel. (加藤尚武監訳(2000) 『責任 と い う 原理─科 学技術文明のための倫理学の試み─』東信堂 , pp. 139─240.) 3)Steiner, G. A. (1975)Business and society , second ed., Random House, p. 158. 4)Drucker, P. F. (1974) Management : Tasks, Responsibilities, Practices, Harper & Row, p. 327. (野田一夫,村上恒夫監訳(1974) 『マネジメン ト (上)─課題・責任・実践』ダイヤモンド社, pp. 536─538.) 5)企業と NPO がコラボレーションを組み社会 的課題の解決を図る事例など. 6)三戸公(1994) 『随伴的結果─管理の革命』文.

(15) 企業の社会的責任論における責任概念(津久井). 眞堂,p. 9. 三戸公(1997) 『現代の学としての経営学』文眞堂, pp. 99─102, 126─152. 7)第一次産業革命において世界経済のトップに 君臨していたイギリスは,第二次産業革命では ドイツやアメリカに遅れをとり相対的地位が急 速に低下する.旧産業の衰退と次を担う新産業 への乗り遅れは,イギリスに深刻な雇用問題を もたらした. 8)ヨーロッパ諸国の中で新産業における注目す べき発展を遂げたのはドイツである.ドイツで は,第 1 次大戦勃発(1914 年)か ら 第 2 次大 戦終結(1945 年)ま で の 期間,テ ク ノ ロ ジー と計画を軸とする中央集権的な経済システムの 運営により,自動車や化学工業のような新興産 業は国防政策と結びつき,多国籍企業の参入も 伴って本格的な発展を遂げた. 9)1776 年 の 独立宣言 に よ り 建国 さ れ た ア メ リ カ 合衆国 は,南北戦争 ま で は 全就業者数 の 半 数近くを農業従事者が占める農業国であった. しかし南北戦争で政治的統一を果たした後は, 年 4% 以上の高成長を続け,特に製造業の躍進 はめざましく,その生産指数は,1870 年から 1900 年までにほぼ 4 倍にまで達している.19 世紀後半にアメリカに出現した巨大企業は,そ の規模の巨大さにおいて,それまでの企業とは 決定的に性格が異なるものであった.例えば, 1892 年に鉄鋼王アンドルー・カーネギーによっ て設立された,カーネギー・スティール社の産 出量は,1900 年頃までにはイギリス全土の鉄 鋼総産出量の 2 分の 1 を上まわる規模に達して いた.また,ロック・フェラーに率いられた, スタンダード・オイル社は,世界の 4 分の 1 近 くの石油をわずか 3 つの製油所で精製してい た. 10)1945 年 の 第 2 次大戦 で 敗戦国 と なった 日本 経済 が,本格的 な 復興過程 に 入って い く の は 1950 年代後半 の こ と で あ る.敗戦後,日本企 業の活動は沈滞化しており,敗戦直後には多く の製造業は残っていた資材を使って,鍋や釜な どのいわゆる民生品の生産に転じ,細々と生産 を維持するだけであった.特に大企業は,財閥 解体と独禁政策によって厳しい制約を課せられ ていたため,その動きはなお一層鈍くならざる を え な かった.高度経済成長 の 始点 と さ れ る 1955 年,日本は GATT への加盟を認められ, 1 人あたり GNP は第 2 次大戦前の水準に到達 した.日本は自由主義圏の世界経済システムの 一員として迎えられ,戦後復興の時代が終わっ た の で あ る.し か し,そ の 後 の 1955 年 か ら 1973 年の日本の高度成長時代においては,徐々 に公害が社会問題となっていく. 11)鈴木良隆 , 安部悦生 , 米倉誠一郎(1987) 『経. (477) 125. 営史』有斐閣 , p. 183. 12)経営史学会編(2005) 『外国経営史の基礎知識』 有斐閣,pp. 138─139. 13) 「同職組合(craft union) :特定の技術を基盤 に,ある程度の熟練を修得した者によって構 成 さ れ た 熟練工 の 組合」 , 「一般組合(general union) :半熟練・未熟練工を中心に結成された 組合」 , 「産業別組合(industrial union) :鉄道 組合のようにある産業内の労働者をほとんど含 む組合」 14)既得権 を 最重視 す る 制限的労働慣行 が 行 わ れ, 「過 剰 人 員 配 置(over manning) 」 や組 合間 で 職域 を 争 う「境界争 い(demarcation dispute) 」 ,未熟練工 に よって 熟練工 の 仕事 を 代替 し よ う と す る「技能 の 水増 し(skill dilution) 」等,労使関係には様々な難問が山積 みされていた. 15)1968 年調 べ , 鈴木良隆 , 安部悦生 , 米倉誠一 郎 , 前掲書,p. 184. 16)労働組合員の一部が,本部の承認を得ないで 行うストライキ. 17)フ ラ ン ス で も,少数 の 経営者 と 多数 の 貧 困 な 労働者 と い う 分裂 が 生 じ「社会的貧困 (pauperisme) 」の問題が顕在化している. 「社 会的貧困」の 問題 は 19 世紀後半 に 国家介入 を 通じてようやく動き始め,1891 年に労働局の 設立,1910 年に労働者・農民年金法が成立した. 18)Hayek, F. A., (1944) The Road to Serfdom, University of Chicago Press(一 谷 藤 一 郎 訳 (1979) 『隷従への道』東京創元社) 19)経営史学会編(2005)前掲書,pp. 158─159. 20)経営史学会編(2005)前掲書,pp. 300─305. 21)当時の裁判ではドイツ企業 3 社が有罪判決を 受けるに終わったが,1998~2000 年にはドイ ツに進出したアメリカ企業をも含めて,再度戦 争責任が問われた. 22)ヨーロッパや日本の工業化が貿易や海外市場 を意識した輸出依存型の発展をしてきたのに対 して,アメリカの工業化は内需中心に発展した ことが特徴である. 23)経営史学会編(2005)前掲書,pp. 36─39. 24)同業種による水平的合併期は 1898~1902 年, 原材料・部品調達部門・販売部門の垂直的統合 期は 1926~1929 年,異業種によるコングロマ リット合併は 1950 年代後半~1967 年に顕著に 見られた. 25)経営史学会編(2005)前掲書,pp. 68─69. 26)1970 年代にシャーマン・反トラスト法はハー バード学派からシカゴ学派への一大転換が図ら れた. 競争ルールにおいて有効な対策とは, ハー バード学派は企業分割をすることであるが,シ カゴ学派はカルテルの認定を容易にすること (外部チェック機能の強化)と重罰を科すこと.

(16) 126 (478). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). であった.この当時は,大企業=寡占=反社会 的→企業分割せよ,というハーバード学派の図 式が強力な時代であった.村上政博(2005) 『独 占禁止法』岩波新書 27)Drucker,P. F., (1946) Concept of The Corporation, John Day Company, pp. 209─229. 28)Milton Friedman(1962)CAPITALISM AND FREEDOM, Chicago Univ. Press(熊谷尚夫 , 西 山千明 , 白井孝昌共訳(昭 51 再版)『資本主義 と自由』マグロウヒル好学社,pp. 136─154. ) 29)労働組合の独占とは,労働組合を通じて行わ れる特定職種・産業の賃金引き上げを指してお り,これは,必然的にその職種・産業の雇用量 を減少させ,他の職種・産業の賃金を押し下げ ることにつながるため,労働組合は労働者の組 織というよりも,産業をカルテル化するサービ ス業である.政府の独占とは,連邦政府が巨額 の国防・宇宙開発・研究費予算を擁して,多数 企業・産業全体の生産物に対する実質上唯一の 買い手になっていること,州際通商委員会が鉄 道からトラック運輸・その他の輸送手段へと独 占的取り決めを確立・支持・実施していること, 連邦通信委員会はラジオとテレビを監督下に置 き,連邦動力委員会は州間取引によって移動す る石油・ガスを監督下に置き,民間航空局は航 空会社を監督し,連邦銀行局は銀行の利子率を 設定し,テキサス鉄道委員会は油井の稼働日数 を制限し生産制限を実施している(資源保存を 名目としているが実際は価格統制目的で行われ ている)ことをいう.また,免許制度も州レベ ルで政府が作り出し支持しているものであり政 府が自ら作り出す取り決めによって,産業界を 独占している. 30)産業の独占を重大視するのは間違っていると す る 理由 を 4 点挙 げ て い る.第一 に,絶対規 模と相対規模の混同(経済成長に伴い企業の絶 対規模は大きくなり,企業が市場の中でより大 きな割合を占めるようになったと解されている が,実際には市場がそれよりももっと急成長し てきたかもしれない)である.第二に,独占の 方が競争よりも報道価値がありより多くの注意 を引く(人々が挙げる主要産業は自動車産業で あり,卸産業を挙げる人はいない.電信電話産 業より家事労働は重要な産業)からである.第 三に,大企業対小企業の重要性を強調しすぎる 一般的な偏見と傾向がある.第四に,我々社会 の特徴は工業的性格にあるとの誤った考え(製 造業部門の産出高・雇用は経済の 1/4 を占める にすぎない)にある. 31)ア メ リ カ の 製 鋼 量 は,1870 年 7 万 ト ン, 1890 年 400 万トン,1900 年 1200 万トン,1920 年 4700 万トン,世界の 6 割を占めるに至る. 32)すなわち,貧しい人々の難儀の救済というよ. り,アメリカ全体の生活水準を高めることが慈 善活動の目的となっていった. 33)Blackford, M. G. and Kerr, K. A. 著,川 辺 信 雄監訳(1988) 『アメリカ経営史』ミネルヴァ 書房,pp. 176─177. 34)Milton Friedman, 熊谷尚夫 , 西山千明 , 白井 孝昌共訳 , 前掲書,p. 152. 35)その発言は, 「テーラーの管理方式の適用に よって,わが国の鉄道業務から一日 100 万ドル の節約を期待できる」というセンセーショナル な内容であった. 36)北野利信編著(1977) 『経営学説入門』有斐閣 , pp. 2─9. 37)平均的工員は所定時間内に完了すべきものと して,すぐれた工員にとって一日の仕事として 適当な規定の課業を毎日与えられるとき,彼自 身にも使用者にも最大の満足をもたらすような 仕事をするであろう.それによって工員は,明 確な標準を与えられるから,一日を通じて自分 の進捗状況を測定でき,また達成から大きな満 足をおぼえるであろう. 38)F. W. テーラー , 上野陽一編訳(1969) 『科学 的管理法』産業能率短期大学出版部 39)Blackford, M. G. and Kerr, K. A. 著,川 辺 信 雄監訳,前掲書,pp. 283─288. 40)四大公害とは,水俣病,新潟水俣病,イタイ イタイ病,四日市喘息.その他にも,東京牛込 柳町の鉛公害事件,東京杉並区の光化学スモッ グ,静岡県田子ノ浦市のヘドロ公害などが顕在 化した. 41)経営史学会編(2004) 『日本経営史の基礎知識』 有斐閣 , pp. 336─337. 42)清水誠「公害問題における生存権の思想と財 産権 の 思想─公害 に 対 す る 立法的対応 の 一考 察」高柳信一,藤田勇編(1973) 『資本主義法 の形成と展開 3 企業と営業の自由』東京大 学出版会 , pp. 356─364. 43)清水誠著,高柳信一,藤田勇編(1973) ,前掲書, p. 363. 44)しかし,国家立法の力の及ぶところには限 界がある.「同じ問題が別の側面において惹起 す る の は,独占資本 が こ の 国内的矛盾 を 回避 して海外に利潤創出の場を求め,それに伴っ て公害を生み出していくという問題であろう. pp. 385─386. 」 45)清水誠著 , 高柳信一,藤田勇編(1973) ,同上書, pp. 384─386. 46)平野克明「営業 の 自由 と 企業規制―財産権 と 生存権 と の 対抗関係 を 中心 と し て」高柳信 一 , 藤田勇編(1973)『資本主義法 の 形成 と 展 開 3 企業 と 営業 の 自由』東京大学出版会, pp. 387─423. 47)現代企業の性格とは,株式会社形態,規模の.

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