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第4章 絵画における日本の美術文化教育の展開

第1節 中学校における日本の美術文化教育に関する 課題

第1項 中学校学習指導要領及び解説における日本

の美術文化

 平成24年施行の中学学習指導要領では、美術の学習目標として「美術の基礎的能力を 伸ばし、美術文化についての理解を深め、豊かな情操を養う」67〕とある。2章の学生ア

ンケートから、美術文化教育が、美術科より社会科(歴史)を中心とした学習内容にな らているとの仮説から、前章で美術作家名,作品名,画像等が情報として断片化して記 憶されているのではないかと述べた。絵画教育において上記の情報だけでなく、作品の 趣や背景,他作品との関連等、見たものから感じて深めなければ、学習した内容は児童 生徒の豊かな情操にはなりえないと考える。

 平成24年度施行の「中学校学習指導要領 美術」には、「目標及び内容」が記述され ている。しかし、r美術文化」理解を深める方法として、水墨画・浮世絵といった具体的 な表現活動方法や鑑賞作品名等に関する記述はない。指導計画に関しても内容の配慮に 関しては記述しているが、具体的校指導内容に関しては、指導教員の創意工夫によって 展開しやすい様に記述していると考えられる。

 本論で述べている日本の美術文化に関しても、学習指導要領には記述内容に明確な時 代,分野は記述されていない。「〔第1学年〕2内容 B鑑賞」には「身近な地域や日本及 び諸外国の文化」とある。又、「〔第2学年及び第3学年]2内容 B鑑賞」には「ウ 日 本の美術の概括的な変遷や作品の特質を調べたり,それらの作品を鑑賞したりして,日 本の美術や伝統と文化に対する理解と愛情を深めるとともに,諸外国の美術や文化との 相違と共通性に気付き,それぞれのよさや美しさなどを味わい,美術を通じた国際理解 を深め,美術文化の継承と創造への関心を高めること」とある68〕。美術文化に関する時 代設定や具体的記述がみられない為、とりあえず日本の絵画作品を表現又は鑑賞に使え ば良いとも捉えられる。

 次に、「中学校学習指導要領解説 美術編」69〕を確認してみる。本書を確認してみても、

具体的な作家・作品名はほとんど記述が無い。「第4章 指導計画の作成と内容の取扱い」

に関して、漫画・イラストレーション・図にr鳥獣人物戯画巻」r信貴山縁起絵巻」r北 斎漫画」が挙げられているm。しかし、解説では「日本の伝統的な表現形式の一つ」と

(2)

はしているが、必ず指導しなければいけない物とは定めていない。つまり、美術文化教 育の指導計画と内容の取扱いに関しては、学習指導要領及び解説から、各美術担当教員 が各自の創意工夫によって展開するものと読み取れる。指導要領解説には他にも美術文 化に関する記述があるが、具体的な作家・作品を挙げてはいない。つまり、学習指導要 領の美術及ぴ解説のみでは、指導に関する具体的な計画や内容を作成することが難しく、

美術指導教員の持つ資質や経験によるところが大きいと考えられる。

第2項 日本の美術文化における教員の指導力

 日本の美術文化指導には教員の資質及ぴ経験によるところが大きいとしたが、実際、

指導に際しては困難な点もある。中学校美術は専門一性が強く、教員自身が専門として習 得した分野は不足なく指導できても、専門外の内容に関しては、詳しくないこともあり 得る。教員は教員免許習得前に、美術系及ぴ教育系大学の基礎課程で美術一般を学習す る。しかし、学部及び学科の授業編成によっては、講義及ぴ実習で学習していない,あ るいは実習期間が短期の為に十分に学習できていない分野もある。

 平成23年、国立教育政策研究所教育課程研究センターが、「特定の課題に関する調査

(図画工作・美術)」に関する調査結果を発表した7U。美術の調査は平成21年11月19 日〜12月17目に行われ、中学校は無作為抽出で104校にアンケートを実施している。

学校に対するアンケートも行われ、アンケート対象の中学三年美術担当教員104名にも 調査が行われた。その中に「日本の美術や伝統と文化についての授業をどのように行っ ていますか」との質問があった。回答は以下の通りである。

「特定の課題に関する調査(図画工作・美術)」『国立教育政策研究所』集計結果 表6−1学校質間紙設問1(7)

1(7)日本の美術や伝統と文化についての授業をどのように行っていますか。

1水墨画などの絵について表現の活動を行った

いいえ…89名

(85.6%)

2伝統的な工芸について表現の活動を行った

いいえ…66名

(63.5%)

(3)

3絵や彫刻について鑑賞の活動を行った

いいえ…42名

(40.4%)

4伝統的な工芸について鑑賞の活動を行った

いいえ…87名

(83,7%)

5その他(1〜4以外)

いいえ…80名

(76.9%)

(図23)「特定の課題に関する調査(図画工作・美術)」

    『国立教育政策研究所』集計結果 表6−1学校質問紙 設問1(7)

   1(7)日本の美術や伝統と文化についての授業をどのように行っていますか

 集計結果を図にしてまとめた。「5その他」は詳細が記述されていないので割愛する。

集計人数が104名の為、人数は前後するが、r1水墨画」の表現活動を実践したことの ある教員は104名中15名で、全体の14.4%しかない。r3絵や彫刻の鑑賞」を62名の 教員が行っているのに対し、r1水墨画」の15名は少なすぎるのではないかと考える。

この件は、先に述べた中学校教員の専門性の強さが、水墨画の実践に踏み込めていない 原因を生じさせていると考えられる。つまり、生徒の水墨画表現活動を行うには、自身 の専門 性の違いから「指導が困難」又は「指導に研修を必要とする」と判断した教員が 水墨画を実践していないともとれる。

 一方、「2伝統的な工芸」の表現活動は、104名中38名である。しかし、工芸の表現 活動には木彫や陶芸等、地域の伝統的な要素が含まれている為、旧来から実践してきた 表現活動でも、伝統的な工芸として回答したと推察する。更に、この中に特別活動や校 外学習・修学旅行等の体験活動の指導が含まれているとすれば、新たに行われた伝統的 な工芸の表現活動はもっと少ないと考えられる。「4伝統的な工芸について鑑賞の活動 を行った」教員が17名と、表現活動と鑑賞活動の実践数に差が見られるのは、工芸分野 の指導法に変化が少ない表れともとれる。

 上記の調査は、アンケート対象教員が104名と少ないので断定はできないが、集計結 果から見る限り、現行の美術教員養成及び研修制度が24年度施行の中学校学習指導要領 への移行に対応しきれておらず、現場の教員に混乱を生じさせているのではないかと者

(4)

えられる。

第2節 新教科書における日本の美術文化教育の変遷 第1項 検定毎に見られる中学校美術教科書の変遷

 前節で、学習指導要領の実態と、美術教員の専門領域の違いからくる実践の難しさに ついて考察した。しかし、実際に授業を行う際に基とするのは文部科学省で検定された 教科書になる。学習指導要領に記述されていない具体的な作品や実践例も、検定教科書 の記載内容から読み取れると考える。そこで、中学校美術教科書(平成13・17・23年検 定教科書)から「開隆堂」72),「日本文教」73〕,「光村図書」74〕の三社の掲載作品写真を 確認し、ジャンル別、時代別に分類してみた。作品写真は作品の数で判断しているため、

一枚の写真の中に数点作品が確認される場合は作品数でカウントし、共同作品,映像作品,

絵コンテ,漫画等の連続した作品は1作品としている。但し、一つの作品に対し、全景,

部分拡大等複数枚にて詳細に記載している場合は、写真枚数でカウントした。尚、平成 23年検定教科書のみ、文部科学省の検定は済んでいるものの、出版はされていない。出 版予定は平成24年の為、閲覧用に作成されたものを、兵庫県立教育研修所図書室にて閲 覧して調査していることをお断りしておく。他の教科書の年代も、文部科学省検定時の 年に合わせて記述しているので、実際の使用は平成14年度・18年度・24年度(予定)

となる。

(5)

中学美術教科書掲載作晶写真分野別作品 (1)

開隆堂

国  年代   ジャンル 平成23年

1年 團本画

洋画 版画

〜1970年 までの

デザイン

作品

家1971年 作 の作品

1曼画 彫刻・立体 工芸 建築 その 日本画 洋画 版画 デザイン 漫画 彫刻・立体 工芸 建築 その他

言十

    伝統工芸 年代不明

総計

東洋画

〜19フO年 までの  作品

版画 デザイン 彫刻・立体 工芸 建築 その他

1971年〜

の作品

2・3年

平成17年

2・3年上 2・3年丁

平成13年

1 43 44 3 10 20

0 8 8 1 1 4 6

1 10 11 2 1 2 5

2 1 3 1 2 o 3

0 o 0 O 0 0 0

O 19 19 3 4 14 21

O 17 17 O O 10 10

0 9 9 0 0 1 1

0 3 3 o O 1 1

4 110 114 10 15 42 67

1 4 5 o 3 2 5

1 2 3 4 3 O 7

1 0 1 3 O 3 6

5 14 19 3 1 1フ 21

0 O O O 6 0 6

14 8 22 8 8 7 23

2 2 4 o o 3 3

1 9 10 O O 8 8

2 12 14 6 4 10 20

2フ 51 フ8 24 25 50 99

O 25 25 4 24 o 28

1禰墾驚… ..{二2.皆 1;111葦一;臓

察灘 84 73 157 130 142 49 321 115 234 349 154 167 99 420

o 3 3 O o 3 3

3 55,書、.;・;1;・鈍一 9 17 23.:二≡=一軸

0 o 0 1 1 1 3

0 3 3 0 0 4 4

2 16 18 4 8 14 26

7 15 22 o O 13 13

6 15 21 O O 16 16

o 1 1 1 O 1 2

18 108 126 15 26 75 116 東洋画

西洋画 版画 チザイン 彫刻・立体 工芸 建築 その他

    伝統工芸 年代不明    生徒作品

餐計

16

15 11 10

15 11

1年

16

12 43 17

87 133

、・300 ・425 248 Q45一

15

4 25 61

一21・一9 2・3年上

15

39

13

30

63 132

10

12

29

.1−U8

里・3年丁

17

38

57 103

12

20

12 40 43

1一一・1・86

18

14

50

42

23

21 111 27

207 368

Q4

38

11

32 16

24 94

(図24)文部科学省検定年別 中学校美術教科書掲載作品分野別作品数(1)開隆堂

(6)

中学美術教科書掲載作品写真分野別作品数(2)

■  

日本文教

年代 ジャンル 平成23年 平成7年 平成3年

1 2・3年上 2・3年下 1 2・3年上 2・3年下 1年 2・3年上 里・葭年丁

日本画 5 10 10 25 2 14 2 18 8 13 1 22

洋画 1 2 10 0 3 5 8 2 2 4 8

版画 1 o 6 7 0 11 1 12 0 o

デザイン 4 3 3 10 1 0 o 1 1 2 10 13

〜1970年 ワでの

@作品

漫画 0 1 1 2 0 0 O 0 0 2 0 2

彫刻・立体 2 1 13 16 3 4 4 11 2 11 2 15

工芸 6 3 3 12 2 0 0 2 0 12 0 12

建築 O 2 2 4 O 3 O 3 0 1 0 1

その他 0 0 o o 1 1 O 2 O o 0 o

19 22 45 86 9 36 12 13 50 17 80

日本画 o 0 O O 6 2 O 8 2 2 0 4

洋画 O 3 1 4 2 0 1 3 3 1 4 8

版画 1 0 1 2 15 O o 15 3 1 0 4

デザイン 17 1 5 23 34 25 6 65 5 6 3 14

1971年〜

フ作品 漫画 o 0 O o o 1 O 1 0 2 0 2

彫刻・立休 13 4 1 18 13 1 8 22 3 3 8 14

工芸 3 0 2 5 2 8 4 14 3 1 0 4

建築 0 10 2 12 0 1 9 10 1 1 4 6

その他 4 0 6 10 7 0 14 0 3 6 9

38 18 18 74 79 45 28 152 20 20 25 65

    伝統工芸年代不明

14 29 3 46 2 1 1 4 1 3 O 4

,■・ 」㌶9重」 ,1−liれ黛舘 、滋 r切 ∴」=統 ㌻鷲1l1斑∴.1佃

106 146 89 341 89 48 09 206 76 76 49 201

総計 163 186 152 501 129 109 415 109 146 91 346

東洋画 O 1 O 1 0 0 o o O O o O

西洋画1三二 9 3 27 39 9 13 11 33 22 13 22 57

版画 O 3 2 5 o 1 2 3 O 2 0 2

デザイン o 2 0 2 1 1 o 2 1 1 6 8

…1970年 ワでの

@作品 彫刻・立体 2 3 5 10 1 4 3 8 3 6 3 12

工芸 5 7 1 13 o 0 0 0 0 3 6 9

違築 0 3 6 9 O 3 0 3 O 1 1 2

その他 1 1 1 3 3 1 0 4 o 1 1 2

11 23 42 82 14 23 16 53 26 21 39 92

東洋画 0 o 3 3 1 0 O 1 O 0 1

西洋画 7 1 1 9 2 3 1 6 1 O 5 6

版画 O O 3 3 O O 0 o O 0 1

デザイン 2 10 1 13 11 1 O 12 4 3 5 12

1971年〜

フ作品 彫刻・立体 5 6 2 13 2 3 9 14 1 6 10 11

工芸 2 2 1 5 0 o o 0 o O 0 o

建築 0 1 3 4 0 0 3 3 0 0 0 0

その他 2 o 7 9 2 O O 2 1 1 2 4

18 20 21 59 18 13 38 1 10 24 4

伝統工芸 10 0 0 10 o 0 14 14 3 0 4 7

年代不明 生徒作品 O 4 4 0 0 1 6 1 o

10 0 4 14 0 0 15 15 9 1 4 14

総計 45 43 67 155 32 30 44 106 42 38 6フ 1仰

シあ組∵㌻=㍗累 三琴箔. 一、

η 78 41 21 4 01」1二2. 26 10 6

.、・・Q8昼、.卜.・v.3⑫7 。≡1、鯛0 .230,.、n3 .13 ・・ L刀、 }1」94一一≠P64

(図25)文部科学省検定年別 中学校美術教科書掲載作晶分野別作品数(2)日本書籍

(7)

中学美術教:書掲載作品写言分野別作品敦:書掲載作品写言分野別作品 (3)

光村図警

年代 塔с塔、・ 平成23年 平成7年 平成3年

1年 2・3年上 2・3年下 1年 2・3年上 里・o年下 1年 2・3年上 里・呂年下

日本画 13 7 9 29 2 13 3 18 4 3 6 13

洋画 O 5 2 7 4 4 O 8 1 0 12 13

版画 O 8 1 9 5 1 13 2 5 3 10

デザイン o 1 o 1 O 1 17 18 1 0 1 2

〜1970年 ワでの

@作品

漫画 0 o 1 1 o 4 o 4 0 2 o 2

彫刻・立体 10 0 1フ 1 12 2 15 1 1 4 6

工芸 4 6 4 14 O 2 9 11 2 2 1 5

建築 o 2 1 3 0 0 10 10 1 0 0 1

その他 0 o 2 2 o O o O 1 0 O 1

24 39 20 83 14 41 42 9フ・ 13 13 21 53

日本画 2 1 2 5 2 O O 2 o O o O

洋画 1 4 1 6 3 0 O 3 1 0 2 3

版画 2 o o 2 1 1 1 3 3 3 0 6

デザイン 8 28 26 62 4 o 37 41 18 4 28 50

1971年〜

フ作品 漫画 O O 2 2 1 2 o 3 O 2 o 2

彫刻・立体 9 10 26 5 2 o 7 13 6 5 24

工芸 3 1 9 13 4 0 1 5 4 3 1 8

建築 1 0 1 2 2 o 2 4 O 1 0 1

その他 4 6 3 13 7 9 9 25 O 7 1 8

30 4フ 54 131 29 14 50 93 39 26 37 102

    伝統工芸年代不明

26 16 1 43 6 0 1 7 5 5 3 13

三.併 ギ1サ機 表;l1窃 .1猟1ll」一一.;6 .勾一 .=ざ館 義柔

103 53 58 214 20 6 5 31 41 19 6フ

総計 133 100 112 345 63 61 97 221 93 58 フ1 222

東洋画 O O 1 1 o 1 O 1 0 O o o

透涛薗寧 8 19 21 ・佃 24 54 o 一1ザ裾= 11 16 42 Z一

版画 0 1 0 1 O 1 O 1 O 2 0 2

デザイン 0 0 0 0 2 O 14 16 0 O o o

〜1970年 ワでの

@作品 彫刻・立体 1 12 4 17 5 15 O 20 2 11 4 17

工芸 0 6 5 11 1 17 8 26 1 5 3 9

建築 0 1 1 8 O 6 10 16 1 1 0 2

その他 0 1 0 1 6 7 2 15 5 2 2 9

9 46 32 87 38 101 34 173 20 37 51 108

東洋画 1 0 0 1 0 1 0 1 O O o O

西洋画 O O 1 1 o 0 0 0 1 0 1 2

版画 O 0 0 0 O 1 0 1 1 o o 1

デザイン 1 1 1 3 2 o 15 17 1 3 5 9

1971年〜

フ作品 彫刻・立体 2 1 3 6 1 6 0 7 2 2 6 10

工芸 6 o 0 6 0 0 O 0 1 O 0 1

建築 0 o 1 1 O o 0 0 0 o 0 0

その他 1 o 2 3 2 4 2 8 o 1 1 2

11 2 8 2 5 12 17 34 6 6 13 25

伝銃工芸 1 o 8 10 0 3 13 11 7 6 24

年代不明 生徒作品 0 O O o 0 o 0 0 O 2 1 3

7 1 0 8 10 0 3 13 11 9 7 27

総計 27 49 40 116 53 113 54 220 37 52 71 160

76 119 103 擬, 6フ 12 60 46 26 13簿i?婁1

融 一

.1・.230ぶ乞鎚 、}庇5 t83一.1・186 、一P2i1 11コ1③

。・?U・

I5

(図26)文部科学省検定年別 中学校美術教科書掲載作品分野別作晶数(3)光村図書

(8)

 まず、図24・25・26の元になる教科書の著者だが、開隆堂・日本文教・光村図書共に 年代ごとに著者名が逢っている様に見える。これは、代表者及び筆頭に挙げられている 著者名が年代ごとに違うだけで、各社共、どの時代も執筆及び監修者は共通する者が多

く含まれている。つまり、各教科書共、この3回の教科書改訂中はほぼ同じ人物組織で 構成されたと考えられる。したがって、改訂年による変更は、執筆及び監修者が、当時 の学習指導要領や文部科学省の検定を考慮して編集した影響と考えられる。

 次に、図24・25・26を見て、時代別に確認していく。平成13年検定教科書(以後、

13年版)の大きさは、3社共にB5サイズだった。平成17年検定教科書(同、17年版)

から、開隆堂・日本書籍の2社はA4サイズに変更された。光村図書の17年版はB5サ イズである。平成23年検定教科書(同、23年版)では、3社共、教科書の大きさがA4版 サイズに変更されている。教科書の大型化に伴い、各社共に掲載作品写真の大型化と枚 数の増加がみられる。作品数の増加は各社まちまちではあるものの、3社共増加してい

る。作品のカラー化は3社とも13年版から全へ一ジ実施されており、写真画像の精密さ も増している。

 次に、各社の13年版と17年版を比較する。特徴のひとつとして、13年版と17年版 でのデザイン分野の増加が挙げられる。これは、17年版教科書から各社バリアフリーを

目的としたユニバーサルデザインに関する内容が導入された事による。各教科書により 内容の取り扱いが違うが、図25,日本書籍に顕著にみられるように、1971年以降の日本 及び諸外国のデザイン写真が増加しているのはこの為である。図24,開隆堂のデザイン 写真に変化が少ないのは、ユニバーサルデザインの作品に生徒作品を多数使用したため である。これはデザイン分野のみではなく、13年版から17年への顕著な変更として、

生徒作品の増加が挙げられる。下の図は、図24・25・26の該当箇所をまとめたものであ

る。

美術教科書(1〜3年)各社の生徒作品数(日本)

平成13年検定教科書 平成17年検定教科書 平成23年検定教科書

開隆堂 180点 293点 132点

日本文教 197点 202点 295点

光村図書÷1 54点 24点 .‡7i点、

(図27)美術教科書(1〜3年)における各社の生徒作品数(日本)

 各杜美術教科書の17年版で生徒作品が増加したのは、デザインも含めた各ジャンルの 表現活動に、参考および見本作品として使用されたためである。各教科書会社の13年版

(9)

では、見本作品Iには日本及ぴ世界の著名な作家又は作品が多く使用されていたが、17年 版より、出版社毎に写真の内容が異なってくる。

 光村図書は、17年版で日本国内外の著名な作品を増加させつつ、生徒作品を作例見本 に採用している。図27では、光村図書のみ作品数が減少している様に見えるが、これは 17年版の光村図書がB5サイズであった事と、光村図書の掲載写真が生徒の作品そのも のより、作品製作途中の経過写真を多く取り入れたことが原因である。教科書掲載写真 の分類で、製作途中の作業風景は、図24・25・26の「その他」の項目にカウントしてい る。図26で光村図書の「その他jの写真が89点から139点に増加していることかその 表れである。

 次に、開隆堂及び日本書籍だが、両社共に生徒作品を増加させつつ、著名な作品は作 品数の据え置きや大型化で対応している様に見える。特に開隆堂では、1971以降の日本 の作家や作品を大型写真で紹介する内容が見受けられる。各教科書会社が17年版で生徒 作品や現代の作家を多く取り上げるようになったのは、デジタルカメラやパソコン等,

撮影及び写真加工技術の進歩や教科書の印刷精度の向上などによる二次的要因が挙げら れる。一方で、各教科書会社の編集者が「生徒により親しみやすく、やる気を出させる 教科書」にする為に、生徒作品を増加したとも考えられる。生徒作品の増加は、教科書 に対する親近感を持たせるという形で、生徒の意欲を喚起させる事が出来ると考えたの ではないかと推察する。

 以上、17年版では、各教科書会社により掲載作品のジャンルや取り扱いに若干の違い が認められたが、23年版では、日本の美術文化が大きく取り扱われることになる。

第2項 平成23年中学校美術検定教科書における 日本の美術文化に関する記載

23年版中学校美術検定教科書では、3社共に日本の美術文化作品掲載写真の増加が見 られた。図24・25・26で該当する日本作家・作品数の詳細は次の通りである。

美術教科書(1〜3年)各社の日本作家・作品数(1970年まで)

平成13年検定教科書 平成17年検定教科書 平成23年検定教科書

開隆堂 50点 67点 114点

日本文教 80点 57点 86点

㍗第赫図講≡l111 53点 97点

(図28)美術教科書(1〜3年)各社の全ジャンル日本作品数(1970年まで)

(10)

 開隆堂や日本文教の17年版教科書から、現代作家の作品数増加が顕著に見られた為、

制作年が1970年までの作品で区切って日本作品を確認した。図28の作品ジャンルには デザイン等も含まれるため、17年版の教科書には増減が見られるものの、13年版と23 年版では明らかに日本の美術文化作品が増えている様に見える。そこで、制作年が1970 年以前の日本画及び日本作家の版画に絞って確認してみた。詳細は以下の通りである。

美術教科書(1〜3年)各社の日本画・版画作品数(1970年まで)

平成13年検定教科書 平成17年検定教科書 平成23年検定教科書

日本画 版画 目本画 版画 日本画 版画

開隆堂 18点 4点 22点 20点 5点 25点 44点 11点 55点 日本文教 22点 7点 29点 18点 12点 30点 25点 7点 32点

沸樽蘭1靴

13点 10点 18点 13点

E車舟

29点 9点

(図29)美術教科書(1〜3年)各杜の日本画・版画作品数(1970年まで)

 版画には浮世絵に使う木版多色刷り以外の物も含まれるが、各杜共に!970年以前に制 作された作品にはほとんど使用されていないので無視してよい。浮世絵肉筆画は一目本画 にカウントしている。1970年制作より以前の作晶に限定したのは、図28同様、現代美 術作家の作晶を入れないようにするためである。

 各教科書会杜共に、同本画及び目本の版画の作品掲載数が増加している。目本文教は 17年版から作品内容に合わせて一点につき拡大版等の複数枚掲載を行っている為、日本 の作品掲載数は13年から17年にかけて減少傾向であったと考えられる。開隆堂も、13 年から17年にかけて、作品点数こそわずかに増えているものの、教科書の大型化と、生 徒作品の増加、現代美術作家の掲載で、相対的には目本文教と同じく減少傾向であった と考えられる。光村図書は、13年版からジャポニスムや水墨画・やまと絵等の説明を西 洋美術と併記をされ、年表と当時の様式を補足説明する形で導入していた75)。光村図書 の17年版は、教科書の大きさが13年版と同サイズのB5版ながら、目本画と日本の版画 だけでなく、西洋美術も増加させている(図26参照)。同杜の教科書は今回の教科書改 訂前から日本・世界の美術史及ぴ作品に重点を置いて編集されていたと考えられる。

 3杜に共通した目本の美術文化作品の傾向として、国宝及び重要文化財作品の掲載及 び記述が挙げられる。開隆堂・目本文教の2杜は、掲載作品写真の横に記述している作 者名・作品名情報の他に、国宝作品には国宝,重要文化財作品には重要文化財又は重文

と明記している。光村図書には掲載作晶横に国宝・重文の記述は無いが、掲載されてい る作晶は開隆堂・目本文教とほぼ同じ国宝・重要文化財を取扱っている。これまで国宝・

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重文作品の写真は、年表に小さく掲載していた事が多かった。しかし今回は3社共、国 宝及び重要文化財の作品を大きく記載している。光村図書掲載の俵屋宗達《風神雷神図 屏風》に関しては見開き4頁を使用して紹介している76)。これらから今回の検定教科書 は日本の美術文化教育を鑑賞分野で実践する際に、教科書を使用することを前提にして 編集されていると考えられる。又、3社の教科書共に、美術館での見学を目的とした内 容を記述している事から、美術文化の鑑賞教育を教科書から美術館・博物館等へ発展さ せていこうとする意図が読み取れる。

 生徒作品も、図24・25・26に見られるように総作品数は増減しているが、水墨画等、

日本美術関係の生徒作品も増加傾向が見受けられる。

 以上の事から、3社共、17年版までの教科書編集方針を、24年度施行の新学習指導要 領に合わせて日本の美術文化教育を重視する方向へ転換したと考えられる。

第3節 日本の美術文化教育の表現活動への展開

 23年版美術教科書には、rその他」の掲載写真が各社とも増加している。その他に分 類した写真とは、17年版までは作品には直接関係のないものや、風景のスナップ写真等 が主な内訳であった。23年版でその他の写真が増加したのは、これまでの掲載写真では あまり見られなかった、作業の制作工程や工具の使い方等の資料写真が増加した為であ る。三社共、特に表現作業に関する資料が追加された。記述の掲載方法や内容は各社に より違いがあるが、日本絵画分野に関しては、3社共に水墨画の技法や筆の種類・使い 方,岩絵の具の顔料の説明や使用方法の解説,日本古来の色名等が記載されている。23 年版教科書は一見すると、美術資料集等,副読本に掲載されてきた写真内容が、教科書

に転記掲載されている様にも見える。第1章でも述べたが、戦後の美術教科書は生徒作 品を表現の見本として使う、いわゆる完成見本として編集されてきた。その為、具体的 な制作過程や工具の使用法といった資料は副読本に記述されることが多かった。しかし 23年版は、副読本に掲載されている内容を取り込み、教科書1冊で美術の授業が可能な

ように編集されている様に見える。

 編集方針の変更ともとれる教科書の内容変更には、様々な理由が考えられる。

 1,平成14年以降の美術授業時間数減に対応して記述内容を削減した。

 2,時間数減から、教員の制作説明を簡略化する為に写真内容を掲載した。

 3,生徒の作業内容の徹底と事故防止の観点から、作業内容を写真掲載した。

 4,小規模校の専門外の美術授業担当者に対応する為、専門知識が少なくても授業突    践が可能な内容にした。

 5,副読本等の保護者負担を削減する為に、教科書に副読本的な内容を掲載した。

(12)

 どの理由に関しても、中学校美術の現状から考えるとあり得るが、日本の美術文化教 育の観点から考察すると、別の理由が考えられる。23年版からの編集方針の転換とも考 えられる内容の変化は、平成18年12月22日の教育基本法改正で、第1章第2条に「伝 統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と国土を愛するとともに、他国を尊 重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」77〕が規定された事による。こ のことが日本の美術文化教育にも影響を与えている。平成24年施行の学習指導要領では、

日本の美術文化教育は!〜3年の鑑賞活動で実践する事を記述している78)。しかし、3社 の23年版教科書を見る限り、日本の美術文化教育に関する記述が鑑賞活動だけでなく表 現活動でも実践できる様に記述がされている。23年版の美術教科書は、3社共、国宝,

重要文化財の掲載や大型図版の掲載等、日本美術文化の鑑賞活動を深めるような構成に 見える。しかし、各社の美術教科書の制作資料の増加は、水墨画や日本画顔料での作品 制作,伝統色による絵画制作等、表現分野での活動に関する記述が多数掲載されている。

上記の事から、新学習指導要領が告示された平成20年から23年までの間に、文部科学 省は、日本の美術文化作品を重視し、鑑賞活動だけではなく表現活動で実践できるよう

に各社教科書の教科書検定を実施したとも考えられる。学習指導要領は10年毎に改訂さ れるが、改訂には時間がかかる為、新学習指導要領が施行される際には教育課題が時代

と共に変化し、指導要領施行時の教育課題に対応していない内容になる場合がある。今 回の23年版教科青が、20年告知の学習指導要領よりさらに踏み込んで日本の美術文化 教育を重視しているのには、将来的に鑑賞活動だけでなく表現活動での日本の美術文化 教育を展開しようとする意図が読み取れる。

 23年版の教科書は、掲載写真が大きいため、鑑賞活動の教材としても使用しやすいと 考えられる。しかし、教科書のみに依る鑑賞教育は、従来の社会(歴史)教育と同様に 作家名・作品名等の情報提供の場になり、知識の暗記に傾倒し作品の関連性に欠落を生

じる場合が考えられる。鑑賞教育で、生徒が日本の美術文化のよさや美しさを感じとり 味わう活動にするには、授業で学習した内容を美術館・博物館等で反復学習し、体験学 習として追体験させる必要があると考えるが、校外学習や美術館・博物館の職員派遣学 習には学校の立地条件や時間的な問題もある為、困難さが伴うと考えられる。

 そこで、鑑賞教育と表現活動を並行して行い、鑑賞教育で得た知識を表現活動で体験 する事により、知識と体験を一体化させて深めることが出来ると考えられる。

 まず、実践方法だが、前提として小・中学校の連携を密にしておくことが挙げられる。

2章の学生アンケートで、学生は美術文化の鑑賞を知識教育と考える者が多く、社会(歴 史)と併用して高学年での学習を充実させる意見が多かった(図17参照)。しかしこれ は逆に、学生が知育教育としての鑑賞しか受けてこなかったことを意味する。そこで、

ここでは、アンケート回答にもあった「発達段階に応じた日本美術文化学習を行う」事 を前提に論じる。

(13)

小学校の日本美術分野(表現)について教材プラン(案)を考えた。

小学校 日本美術文化(表現)教材プラン(案)

当該学年 目標 表現活動内容

第3学年 自分の感覚や感動を 日本の伝統色学習

及び 通して、形や色,組み ・外にある自然物(葉っぱ等)を収集し、水彩絵の 第4学年 合わせなどの感じを 具で画面に色の再現し、自分で色名を考えて色見

とらえる 本カードを作る。

日本の伝統色学習

・日本の伝統色(浅葱色・朽葉色,等)を混色着色 してカードにし、校舎敷地内の自然物で同じ色を 探してみる。校内に自然が少ない場合はあらかじ め写真を用意し選ばせる。

墨に触れる

・筆(書写用又は日本画用)を使って、墨流しや墨 の濃淡をつくり、画面に模様をつくる。

又は、指で絵を描いてみる いろいろな紙に触れる

・いろいろな厚みや色の和紙をちぎったり、しわを 入れてみたりして、貼り付けて絵にしていく。

第5学年

自分の感覚や感動 水墨画

及び を通して、形や色、動 ・筆を使って、ぼかしやにじみを使いながら水墨画 第6学年 きや奥行などの を描く,又は模写する。

造形的な特徴をとら 日本の伝統色を使った描画

える。 ・日本の伝統色を再現した水彩絵の具を使い、水彩 画を描く。

・素材は和紙、又はそれに近い材質の物(障子紙等)

を使う。

(図30)小学校 日本美術文化(表現)教材プラン(案)

 まず小学校段階では、表現活動として、日本の色や紙・墨等,様々な素材の物に触れ ておくことが重要である。使用する画材には、日本の画材も含めつつ、身近なものから 選択したい。入手が容易ならば、地元で生産されている物も含める方が良いと考えられ

(14)

る。特に素材の違いは、手触りや見た目等、これまでに児童が使用したものとは異なる 物も含まれるので、慣れない児童もいるものとして教員側で配慮しておく。

 次に、日本の画材に触れてみるという点で、内容的には小学校中学年からの指導を重 点的に考えた。他の課題との併用、例えば生活の授業等と合同で行うのであれぱ、小学 校低学年からの取り組みでもいいと考える。特に日本の伝統色は、中学校で色相環と同 時に習うより、体験的に見て触れて学習したほうが、中学での活動に効果的に活用でき ると考える。

 次に高学年だが、中学年より専門的な内容にし、鑑賞教材に合わせた表現を実践でき るように取り組めばよいと考える。但し、平成22年検定図画工作教科書では、水墨画等 の導入がすでに記述されている79〕。水墨画に関しては、教科書の内容と合わせて実践す れば良いのではないかと考える。

 次に社会(歴史)との教科間連携だが、平成22年検定社会教科書で、茶道等と共に水 墨画の体験学習も掲載されている舳。両教科で共同実践すれば指導がしやすくなるので はないかと考える。

 次に中学美術との連携に際してだが、以下の事に配慮する。

  !,図画工作・美術に関して中学校への小学校実践課題の引き継ぎを行う。

  2,小学校の間に筆,特に毛筆に慣れておく。

  3,小中各校で公開授業を行い、お互いの交流を深めておく。

 課題内容の重複を避け、お互いの交流を深めて美術を実践するのには、上記の事が必 要と考える。特に、筆に関しては、児童生徒が普段、穂先の柔らかい筆記用具をほとん ど使わない為、取扱いには慣れが必要である。第1章でも述べた臨画による毛筆画を取 り入れても良いが、水墨画の課題を実践するならば、専門的な運筆法の学習はしなくて も、練習的な意味も含めて実践しておけれぱと考える。

 次に中学校の日本美術分野(表現)について考察してみた。

日本の美術文化における表現活動として、いくつかの教材プランを挙げていくと、以下 の通りになる。

中学校 日本美術文化(表現)教材プラン(案)

当該学年 目標 表現活動内容 関連美術作品

中学 対象を見つめ感じ取る 毛筆を使った人物クロッキー 《鳥獣人物戯画 1年 力や表現の技能を身に ・筆の筆致に慣れる (甲巻)》

着ける ・筆ペンでの代用も可

筆による《鳥獣人物戯画(甲巻)》

の模写(臨画的要素も取り入れる)

・写すことにより作者の筆致を体 感ずる

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中学 材料や用具の特性など グループ制作による浮世絵版画制 葛飾北斎

1年 から制作の順序などを 《富嶽三十六景》

考えながら見通しを持 ・数人のグループで彫師・摺師を 歌川広重

って表現するカをつけ 分担して制作し、浮世絵制作体 《東海道五十三次》

験を行う 《名所江戸百景》

形や色彩などの表し方 絹本・和紙を使った水彩画 菱川師宣

を身に付け、意図に応 ・材質の違いを体感し、完成後 《見返り美人図》

じて材料や用具の活か 掛け軸等に表装する し方を考える。

中学 対象を深く見つめ、感 墨を使った水墨画の描画(風景画 雪舟

2年 じ取るカや表現の技能 等)又は模写 《秋冬山水図》

を一層高める。 ・運筆法を学習しより細密な表現

を行う

中学 目的や条件を元に美的 金属箔(スチール箔等)表面にア 俵屋宗達

2・3 感覚を働かせて、形や クリル絵の具を使っての描画 《風神雷神図屏風》

色彩,図柄,材料など ・材質感の違いを体感しつつ構成, 尾形光琳

を構成し表現する。 描画を行う 《紅白梅図屏風》

中学 対象を深く見つめ感じ アクリル絵の具を使った岩絵の具 東山魁夷《道》,他 3年 取った事を元に、主題 体験

を生み出し、想像力を ・岩絵の具と膠の代わりに、アク 働かせて表現の構想を リル絵の具(日本の伝統色)と 練り、描画していく。 メディウムを使い、日本画を制

作する

・絵の具は身近なものから作るこ とも行う。

・モチーフは風景写真等から考え

(図31)中学校 日本美術文化(表現)教材プラン(案)

 まず、r毛筆を使った人物クロッキー」だが、授業開始10分程度を使い、クロッキー を行う。モデルは生徒が授業ごとに変わり、必ず一回行うことを義務づけておく。その 際に、筆を使って人物クロッキーを行う。すべてのクロッキーを毛筆にするのではなく いろいろな描画材の中に毛筆を行う事にする。最初は筆に慣れる為、簡単なものを筆で

(16)

書いて練習しておき、その後で人物に入れば良い。筆は携帯するのは不便なので、人数 分そろうのであれば、矢立を用意するという方法もある。最近では、筆に近い感触を再 現する筆ペンもあるので、携行しやすいことを考慮し使用するのも良いと考える。

 次に、「筆による《鳥獣人物戯画(甲巻)》の模写」である。鑑賞の際、絵巻物は実物 を手に取って見ることがほとんど不可能に近い。そこで、絵の筆致に焦点を当て、《鳥獣 戯画絵巻》の申から自分で面白そうなシーンを筆で実際に描いてみる。授業の前段階と

して、生徒が筆に慣れているか確認する為に、第1章で述べた臨画の手本等を使用して も良いと考える。描画材は和紙と墨に筆が良いが、絵巻の動物描写を体験するのなら、

筆以外の画材は特に選ばない。筆使いを体験する事が目的なので、絵の具等でも良いと

考える。

 次に、rグループ制作による浮世絵版画制作」である。木版多色刷りは手間がかかる為、

一人で行うには時間がかかる場合がある。今回は浮世絵制作同様、4〜5名のグループで 各自、絵師,彫師,摺師と役割を分担して作業する。又は、グループ内全員が彫師にな って版木を分担して彫り、彫り終了後、摺師になって分担して版を摺るという体験を行

う。絵師は班内で一人に考案してもらうか、負担を考えて既成の絵柄又は版木を教員側 で用意しておくという方法もある。版木があればある程度の量が摺れるので、共同制作 ではあるが各自1枚は持ち帰ることが出来る。時間的に可能であればグループ内で交代

して版元役になり、色を各自に指示してオリジナルカラー版を摺ることも可能である。

作品をつないで連にして共同作品として展示すれば、美術の時間以外での作業が可能に なると考えられる。

 次に、「絹本・和紙を使った水彩画」である。これは各自で図案を用意し、普段描画に 使わない和紙や絹本に水彩画で彩色する。にじみ防止等の下地作りをどうするかが課題 になるが、材質の違いを体感し、完成後掛け軸等に表装することで、室内装飾としての 絵画作品になる点を指導したい。

 次に、「墨を使.った水墨画の描画(風景画等)又は模写」である。自分の身の回りにあ る風景を水墨画で表現するとどうなるかを実際に表現する。風景の場合、本来なら風景 現場で描くのが良いが、場所等困難であれば、デジタルカメラを併用し、撮影したカラ ー又は白黒写真を元に制作する。

 次に、「金属箔(スチール箔等)表面にアクリル絵の具を使っての描画」である。学校 教材の中にあるステ]ルやアルミの箔を厚紙等に貼り付け、上から透明アクリル絵の具 や不透明アクリル絵の具を使い描画していく。金属の光沢と、アクリル絵の具の色の変 化を生かし、材質感の違いを体感しつつ構成,描画を行う。

 次に、「アクリル絵の具を使った岩絵の具体験」である。日本画の岩絵の具は取り扱い が難しいので、アクリル絵の具にサンドマチエール等を混ぜて岩絵の具風にし、描画し ていく。事前に絵の具の顔料になるものを探し、加工してアクリル絵の具のメディウム

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に混ぜて絵の具をつくるのも面白いかと考える。作品の題材は各自で探しておき、題材 に合わせて構成する。表面のマチエールを楽しみながら描けるように制作していく。

 これら表現活動の実践を行うには検証が必要であるが、日本の美術文化を深める為に、

鑑賞活動の延長として前記のような表現活動を行えば、既成の教材からより近いものを 教員が選択することになるので、教員の負担も少なく実現できるのではないかと考える。

この場合、表現活動の題材は鑑賞教材から得られるので、基本的に日本の美術文化に関 する内容であれば、その題材又は素材に近いものを使うことで実践可能である。表現活 動に入る前に関連する鑑賞教育を導入する事により、鑑賞した際に得た知識や感覚を体 感として身につける事が出来ると考えられる。社会(歴史)で学習した絵画作品を鑑賞 教材に使えば、指導上更に効果的に実践できる。社会科と美術科の教員で教科間連携を 行い、社会の時間を利用して、日本の美術文化作品の授業を行う方法もある。

 第2章のアンケートで、学生たちは「日本の美」の画題を花鳥風月から来るものと考 えている者が多かった。それならば、地域に合わせた自然の物や特産品等、地元で安価 に入手できるものから教材開発をしていけばよい。もし困難な場合はアクリル絵の具等、

代用可能なものから進めていけばよいと考える。日本画の描画材には岩絵の具や金箔等 高価なものがあるので、教材としては不向きなものもあるが、アクリル絵の具やメディ

ウム,スチール箔等、代用が可能なものを確認して使用すれば良い。特にアクリル絵の 具は、乾燥時間の短さと絵の具の種類の多さ、描画材を選ばない多様性から、日本画の 岩絵の具の代わりになるのではないかと考えられる。アクリル絵の具はメディウムやサ

ンドマチエール等と混ぜ合わせることにより、独特のマチエールを作り出せる。メディ ウムや混合物を調整する事で、岩絵の具に近いマチエールや表現技法が可能だと考えら れる。メディウム等は他の絵の具に比べて高価だが、今後アクリル絵の具が普及すれば 価格的な問題も解決できるのではないかと考えられる。

 日本の美術は、絵画等のジャンルに関係なく、素材の表面に現れる特徴、すなわち色 や画面表面の表面性を重視する傾向が見られる。墨絵には墨の濃淡と下地との光沢の違 い,日本画には岩絵の具の独特の粒子感と光沢,漆には独特の透明感と色の深み,とい った画面の具合にある。江戸時代末期、日本の絵師や研究家が西洋絵画を取り込もうと 模索したのは、科学的に分析され体系化された構図や対象物の捉え方でだけではなく、

白国の絵画には無い、油絵具の植物油独特の材質的表面性に魅了されたと考えられる。

 日本の美術文化が表面の色や表面性にこだわることが特徴だとすれば、絵画表現に使 用する表面性を工夫した教材開発を行えば、既存の日本の伝統美術に近いものとの接点 が浮かび上がってくる。日本の美術文化を鑑賞からではなく表現活動から模索するのは、

生徒により多くの素材に触れ、体験から日本の美術文化に対する興味関心を喚起させる 為と考える。

 明治中期、岡倉覚三とフェノロサが新しい日本美術を模索し探求したが、教育界には

参照

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After graduating from the Medical Department of Tokyo Imperial University, he was engaged as one of the specialists in a full-fledged survey of living conditions of workers

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