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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 地 球環 境科学 )野 口浩史

     学位 論文題 名

ド ーノヾ ミンによる昆虫の変態、及び発育の調節に関する研究

学位論文内容の要旨

  内 部 寄 生蜂 は、 寄生 によ って 宿主 昆虫 の成 長に 著し い影響 を及 ぽす 。時 に は 、宿 主の発 育を 早め るこ ともあるが、多くの場合、寄生によって宿主の発育 は遅れ、最終的には、`全ての宿主が殺されてしまう。寄生蜂が捕食寄生者とし て 分類 される 由縁 であ る。 こうした寄生蜂による宿主昆虫の発育制御に関して は 、特 に、宿 主と して 鱗翅 目幼虫を用い、過去約20年間活発に生理・生化学的 研究がなされてきた。

  最近 、早川 は、 カリ ヤコ マユバチによって寄生された宿主アワヨトウ幼虫血 清 からJHE活 性を むガ めで 抑制 する 生理活 性ベ プチ ドを 発見し、単離・構造決 定 を行 った。 この 発育 阻害 ペプチド(Growth‑blocking peptide,GBP)と命名 さ れた 生理活 性ベ プチ ドは 、注射によってアワヨトウは勿論、他の鱗翅目幼虫 の発育をも阻害することが明らかになっている(Hayakawa and Yasuhara,1995)

。しかしながら、GBP活性発現の分子機構については、全く明らかになっていな い 。そ こで、 第1章、 第1節 では 、こ のGBPの作 用機 序を 調べた。ゴキブりにお い て、 生体ア ミン が神 経ペ プチドの分泌を促す例が報告されていたので、我々 は , ま ず 、ア ワヨ トウ 幼虫 血中 生体 アミ ンに 着目 し、 寄生に よる 影響 を調 べ た 。そ の結果 、血 中、 及び 神経節ドーバミン濃度が寄生によって有意に高まる こ と、 さらに 、こ の上 昇は 、GBPの 血中濃 度の 上昇 に起 因することが明らかに なった。また、ドーノヾミン及びドーバミンのアゴニストを未寄生幼虫に注射す る と、 顕著な 幼虫 発育 阻害 が観察された。これらの結果から、寄生によって高 められた血中のGBPは、血中及び神経節のドーバミン濃度を上昇させ、幼虫の神 経 内分 泌系に 作用 する こと によって、幼虫から蛹への正常な変態を阻止するこ と が明 らかに なっ た。 この ように寄生による蛹化の阻害にはドーバミンが重要 な 役割 を果た して いる とい う結論に至ったが、ドーバミンの合成部位や分泌機 構は全く明らかになっていない。

  第2節では、この血中ドーノヾミ.ンの合成部位及び合成のキーエンザイムの同 定を試みた。その結果、外皮中のドーバ脱炭酸化酵素(DDC)が寄生によって顕著 に活性上昇することが確認できた。さらに、この外皮DDC活性上昇に伴うドーバ ミン合成の増加、さらに、合成量増加に伴う血中への分泌が血中ドーノヾミン濃 度 上昇 を誘起 する こと を証 明した。従って、血中ドーバミンは、主に外皮から 分 泌さ れ、外 皮中 のDDCが 合成 のキ ーエン ザイ ムと なっ ていると結論した。ま た `第3節で は、 この 寄生 による外皮DDC活性の上昇が遺伝子発現レベルでの変 化によるものかを確かめた。寄生された幼虫と未寄生の幼虫の外皮DDCmRNAの発 現量を比較したところ、酵素活性同様に、寄生された幼虫の外皮の方がDDCの転 与 活性 が高い こと が示 され た。さらに、このDDC遺伝子発現上昇は、GBPによっ て 誘起 される こと を、 むガvo及 びわ ガtroで証 明し た。 従って、寄生による宿

(2)

主幼虫の血中ドーパミン濃度上昇は、以下のように説明される。寄生によって 高められた血中GBPが、外皮DDC遺伝子の転写活性を上げることによって酵素活 性上昇を誘導し、外皮のドーバミン濃度を上昇させる。そして、分泌を促すこ とによってドーノヾミンの血中濃度が高められる。以上、第1章での研究によっ て、寄生蜂による寄生に伴う昆虫の発育阻害は、GBP ‑ドーバミン系の関与によ るものであることを明らかにした。この事実を踏まえ、第2章では、GBP‑ドーバ ミン系の生理機能をより一般化させるべく、昆虫の発育停止とこの系の関係を 休眠という現象について検証した。この研究には、蛹休眠性を持ち、しかも、

アワヨトウと近縁種であるヨトウガを用いた。

  蛹休眠調節に関する内分泌学的研究は、古くから詳しくなされてきた。それ らの研究から、蛹休眠は脳ー前胸腺系の不活性化により誘導され、活性化によ り覚醒するということが明らかになっている。しかし、濃度や日長時間といっ た外部環境と休眠誘導を結び付けるキーサブスタンスは?という問いには全く 答えら・れない。

  そこで、第2章では、GBP ‑ドーバミン系が休眠誘導に関与しているのではな いかという仮説を立て、それを確かめた。蛹休眠をすることで知られるヨトウ カを用い、各組織中のドーバミン濃度を休眠と非休眠を運命づけられた前蛹・

蛹で比較したところ、調べた全ての組織(血液・外皮・脳・神経節)中で休眠昆 虫の方が数倍高いことがわかった。さらに、外皮のDDC活性は、寄生された場合 と同様に、休眠に運命付けられた場合にも上昇する。そして、この活性上昇は DDC遺伝子の転写活性上昇によるものであることが明らかになった。従って、こ のDDC活性上昇が外皮及び血中ドーバミン濃度上昇を誘導していることになる。

また、終齢幼虫期にL ‑DOPAを給飼し蛹体内各組織(特に血中及び中枢神経細胞 内)におけるドーパミン濃度を人為的に高めることによって、22℃の長目条件 下において蛹休眠誘導に成功した。勿論、同じ長目条件で通常の人工飼料を与 えたコント口ール蛹は、全て非休眠になった。これらの結果は、前述したGBP

・ドーバミン系の昆虫休眠誘導への直接の関与を強く示唆する結果である。

  従って、これら一連の研究は、GBP‑ドーバミン系が、昆虫生活環においてし ぱしば観察される短期・長期の発育停止を調節する主要因子であるという作業 仮説を実証した結果と位置付けられる。

(3)

学位論文審査の要旨 主 査    教 授    芦 田 正 明 副 査    教 授    木 村 正 人 副査    助教授   早川洋一

     学位論文題名

ドーパミンによる昆虫の変態、及び発育の調節に関する研究

  内部寄生蜂は、寄生によって宿主昆虫の正常な発育を阻害する。カリヤコマユバ チによって寄生された宿主アワヨトウ幼虫は、幼虫から蛹への変態が阻害される。

この寄生バチの寄生によって、発育阻害を受けた宿主アワヨトウ幼虫血液から単 離・精製された生理活性物質が、発育阻害ベプチド(growth‑blocking peptide, GBP)である。数10pmolの精製GBPを健康な未寄生アワヨトウ終齢幼虫に注射する と、体重の増加は鈍り、蛹への変態も数日間遅れる。本研究は、こうしたGBPの発 育阻害活性発現の分子機構について解析を行い、昆虫発育調節におけるGBPの生理 的意義を種々の角度から実証している。

  第1章、第1節では、このGBPの作用機序を調ぺた結果について論じている。ま ず、アワヨトウ幼虫血中生体アミンに着目し、寄生による影響を調ぺた。その結 果、血中、及び神経節ドーパミン濃度が寄生によって有意に高まること、さらに、

この上昇は、GBPの血中濃度の上昇に起因することを明らかにした。また、ドーパ ミン及びドーバミンのアゴニストの未寄生幼虫への注射実験から、ドーバミンによ る顕著な幼虫発育阻害を観察している。これらの結果から、GBPによる宿主幼虫発 育阻害現象は、GBPによって高められた血中ドーパミンが、幼虫の神経内分泌系に 作用することによって、宿主幼虫の正常な発育を阻害すると結論づけている。

  第2節では、この血中ドーバミンの合成部位及び合成のキーエンザイムの同定を 試みている。その結果、外皮中のドーバ脱炭酸化酵素くDDC)が寄生によって顕著に 活性上昇することを明らかにした。さらに、この外皮DDC活性上昇に伴うドーパミ ン合成の増加、さらに、合成量増加に伴う血中への分泌が血中ドーパミン濃度上昇 を誘起することを証明した。従って、血中ドーバミンは、外皮中のDDCがキーエン ザ イ ム と な っ て 合 成 さ れ 、 外 皮 か ら 主 に 分 泌 さ れ て い る と 結 論 し た 。   また、第3節では、この寄生による外皮DDC活性の上昇が遺伝子転写レベルでの 変化によるものかを確かめている。まず、寄生された幼虫と未寄生の幼虫の外皮 DDCmRNA発現量を比較し、寄生された幼虫の外皮の方が、酵素活性同様にDDC転写活 性が高いことを示した。さらに、このDDC遺伝子発現上昇は、GBPによって誘起され ることを、in vivo及びin viとroで証明した。また、GBPによるDDC転写活性上昇の 機構には、Ca2+を介した情報伝達系が関与している可能性を示している。以上、第 1章での研究によって、寄生蜂による寄生に伴う昆虫の発育阻害は、GBP‑ドーパミ ン系の関与によるものであることを明らかにした。

  第2章では、GBP‑ドーバミン系と休眠誘導との関わりについて検証している。未 寄生幼虫の発育に伴う血中ドーバミン濃度変化の測定から、そのピークが各脱皮直

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前の 眠 の時期に同調していることを発見した。眠は、新しい表皮を合成する時 期で あり 、この 時期 の激 しい 活動 は個 体自 体に 危険 な状 態も 招き かねない。従っ て、 この 時期の昆虫は一般に、静止状態を保つことが知られている。そこで、眠を 一種 の発 育停止期間と考え、寄生による宿主発育阻害同様、GBP‑ドーバミン系が眠 の状 態を 誘導し てい るも のと 推論 した 。この仮説をさらに一般化させるべく、GBP ードーノヾミン系の 休眠 誘導への関与の可能性を検討した。この研究には、蛹休 眠 性 を 持 ち 、 し か も 、 ア ワ ヨ ト ウ と 近 縁 種 で あ る ヨ ト ウ ガ を 用 い て い る 。   蛹 休眠 調節に関する内分泌学的研究は、古くから詳しくなされてきた。それらの 研究 から 、蛹休眠は脳ー前胸腺系の不活性化により誘導され、活性化により覚醒す るとぃうことが明らかになっている.。しかし、温度や日長時間とぃった外部環境と 休眠 誘導 を結び 付け るキ ーサ ブス タン スに つい ては 、全 く分 かっ ていなかった。

  そ こで 、まず、ドーパミンが休眠誘導に関与しているのではないかとぃう仮説を 立て 、そ れを確かめている。各組織中のドーバミン濃度を休眠と非休眠を運命づけ た前 蛹・ 蛹で比較したところ、調べた全ての組織(血液・外皮・脳・神経節)中で 休眠 昆虫 の方が数倍高いことを示した。さらに、外皮ドーバミン合成のキーエンザ イム であ るDDCの活 性は 、休 眠に 運命 づけた場合に上昇する。そして、この活性上 昇 はDDC遺 伝 子 の 転 写 活 性 上 昇 に よ る も の で あ る こ と を 明 ら か に し た 。   ま た、 休眠を運命づけることによって、ヨトウガの各組織内で高まることが明ら かに なっ たドーバミンが、直接休眠誘導に関与し得るかどうかを確かめている。ま ず、 蛹体 内各組織(特に中枢神経内)におけるドーバミン濃度を人為的に高めるこ とを試みた。様々な方法を試した結果、終齢幼虫期におけるL. DOPA給飼が、最も確 実に各組織中のドーバミン濃度を高められることを示した。さらに、それらL. DOPA を給 飼し たヨトウガの70%が22℃の長目条件下において休眠状態になることを示し た。 勿論 、同じ長目条件で通常の人工飼料を与えたコントロール蛹は、全て非休眠 であ った 。これらの結果から、前述したGBP‑ドーパミン系が、昆虫休眠誘導に直接 関与していることを明らかにした。

  以 上の 結果より、GBP‑ドーバミン系が、昆虫生活環においてしばしば観察される 短期 ・長 期の発育停止を調節する主要因子であるとぃう作業仮説を実証できたと結 論づ けて いる。特に、昆虫において、ドーバミンの生理作用に関する研究は著しく 遅れ てお り、今後のより詳細な分子レベルでの解析が、昆虫神経内分泌学に新しい 1ベージを開くことが大いに期待される。

  審 査員 一同は、これらの成果を高く評価し、また申請者は研究者として誠実かつ 熱心 であ ると考 え、 大学 院課 程に おけ る研 鑽や 単位 取得 など も併 せ申請者が博士   ( 地球 環 境 科 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資格 を有 する もの と判 定し た。

参照

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