博 士 ( 薬 科 学) 後 藤 直 也 学 位 論 文 題 名 .
Alcadein とその脳内 APP 代謝における機能の解析
学位論文内容の要旨
アルツハイマー病(以下
AD)は進行性の認知障害を伴う不可逆性の神経変性疾患である。
そ の患者数 は世界 に3000 万人 とも言わ れ、超高 齢社会を迎えつっある先進各国において そ の対策は 急務と なってい る。AD の 原因因子 のーつ として考 えられ ているアミロイド
B( 以下Al3 )は、
I型の 膜タン パク質で あるAPP からp‑secretase (以下BAC E) による膜外 の 、またそ れに続 くy‑secretase による膜 内の二 段階の切 断を受 けて産生される。この
Apは 高い 凝 集性 を持っ ており、 その凝 集体はAD に 特徴的 な病理所 見である 老人斑 の主 要 な構成成 分とな っている 。また 、Ap のオリ ゴマーは神経細胞の機能低下をもたらし、
神 経 細 胞死 を 引き起 こすとい うアミロ イドカ スケード 仮説が
AD発症の機 序とし て強く 支 持されて おり、
Apの産生メカニズム.APP の代謝メカニズムの解析が進められている。
し かしなが ら、そ の解析は 、APP を大過剰 に産生 する培養 細胞系や トランスジェニック マ ウ ス を用 い た もの が 大 多数 で あ り 、生 理的な 条件下に おいて 内在性APP の
Ap産 生的 な 代謝がど のよう に制御さ れてい るのかに ついては明らかになっていない点が多い。AD 患 者 の 大多 数 を 占め る 孤 発性 の 患 者 にお いては 、何らか の要因 に伴いAPP 代謝 がAp 産 生 側に傾斜 するこ とが発症 の原因 となって いる事が考えられる。したがって、内在性の
APP代謝が どのよ うな因子 群によ り制御さ れてい るのかを 明らかに することは、孤発性
AD発 症 機 構 の 解 明 と
AD治 療 薬 の 開 発 を 期 す る 上 で 重 要 で あ る と 考 え ら れ る 。
こ れまで に当研究室では、APP に結合する細胞内因,子としてXllL を単離・同定し、
こ れが内在 性APP のアミロ イド産 生的代謝 を抑制 すること を、ノッ クアウトマウスを用 い た 解 析に よ り 明ら か に して い る 。 さら にXllL の
APP代謝 制御にお ける機 能解析を 進 め る た めに 、
XllLの結合 分子を探 索し、
I型膜 夕ンバク 質であ る
Alcadein(以 下Alc ) を 単 離 ・同 定 した。
Alcは哺 乳類では
Alca、
Alcp、Alcy の3 種 類のファ ミリー タンバク 質 が 存 在し 、 こ れま で の 解析 か ら 、 培養 細胞系 において
Alcaは、XllL ・
APPと 共に安 定 な複合体 を形成 すること を明ら かにして いる。しかしながら、Alca が生体内において 内 在性APP の代謝 にどのように関っているのかについては、明らかになっていなかった。
そ こで私 は、Alca の生 体内に おける、
APP代 謝制御機 構に果た す役割 を明らかにする こ と を 目的 と し てAlca の
KOマ ウス を 作 製し、 その内在 性
APP代謝につ いて野 生型(以 下Wt )マウスと比較・解析を行った。
マウス 脳切片 の免疫染 色の結 果からAPP . Alca .
XllLの三 者の共 局在が顕 著に認めら れ た大 脳 皮 質お よ び 海 馬をサン プルとし て用い 、
Wtマウス と
Alca KOマウス の膜画分 を調製 してAPP 全長お よび中 間代謝産 物(C 末端断 片:APP‑CTF) に ついてそ の存在量の 比 較を 行 っ た。 そ の 結 果、APP 全長の量 には有 意な差は 認めら れなかっ たが、
BACEに よって産生される
2つのCTF 種子種(
C99、C89 :以下、この2 つの分子種を総称してCTFp ) で有意 な差が認 められた。CTFp のうち特に
り、 こ の結 果から
Alca KOマ ウスにお いて 性が考 えられた 。
APP‑CTFp
量 増 加 の 機 序 に つ いて 、
APPが
C99
は
Apを産 生 する際の 中間代 謝産物で あ
APPのAp 産生的な代謝が亢進してしゝる可能
BACEの 活 性 が 高 い 部 位 に 集 積 し 、 積 極 的 に 切 断 を 受 け て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 そ こ で 、BACEの 活 性 が 高 い と さ れ て し ゝ る 細 胞
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内 微小 領域 であ る、
DRM(
detergent resistance membrane)お よびEndosome を生化学 的 に 分 離 し 、
APP‑CTFI3に つ い て 定量 を行 った 。そ の結 果、 これ ら の領 域に おい て
APP‑CTFp量の有意 な増加が認められ、またその傾向は対照として用いた画分では有意で は なか った 。こ のこ とか ら、
Alcaの 欠失 によ り、
BACEの活 性の高い領域に、APP の局 在が変化させられ ていることが考えられた。
一方、二段階目の 切断を担うY ‑secretase の活性に変化が生じていないか解析を行うこと を目的として、ぬ
vitro y‑secretase assayによりl‑secretase による切断効率を、最終代 謝 産物 であるAICD (APP 細胞内ドメイン)の産生効率を比較する ことで検証することに した。その結果、
AICDの量自体には有意な差があるものの、産生効率としては大きな変 化 は 認 め ら れ ず 、
y‑secretaseの 活 性 は 変 化 し て い な い と 考 え ら れ た 。 以 上の 結果から、CTFp がy‑secretase により切断を受けることで 産生されるAp の産生も 亢 進し てい る可 能性 が考 えら れた 。そこで実際にAp の主要な分 子種であるAp40 、Ap42 の 定量 を、 週齢 を追 って 行っ たと こ ろ、 どの 週齢 にお いて もWt に比較してAlca KO マ ウ ス脳 内に おけ るAp 量の 増加 が認 められた。Ap 産生量増加によ り実際に生体でAD の病 理 所見 であ るAmyloid plaque 産生 が変化するか評価するために 、家族性AD 患者に見ら れ るヒ トAPP の遺伝子変異体を導入したトランスジェニックマウ スを用い、脳内に生じ た
Amyloid plaqueの 数を 比較 する こ とと した 。12 ケ月 齢の マウス脳におけるAmyloid
plaqueの数 を算 定し たと ころ 、Alca の欠失に伴うAp 量の増加は 、Amyloid plaque 数の 有意な増加を伴う ことが確認できた
次に 生 体内 にお いて
Alcaの欠 失によりAPP ・ XllL 複合体にどのような影響がでるのか 検証 を行うために、
Alca、XllL の各単独欠損マウスおよび二重欠損マウス( 以下DKO マ ウス)におけるAPP 代謝について比較を行うことにした。
Alca
と
XllLがそ れぞ れ独 立に 、ま た、 並行 して
APPの 代謝 制御を担っているならば、
そ れ ぞ れ の 効 果 は 加 重 さ れ る こ と が 考 え ら れ る 。 し か し 結 果 と し て 、
Alca KOと
Alca/XllLの
DKOマ ウ ス の
Ap産 生 量 に 有 意 な 差 は 認 め ら れ ず 、 内 在 性
APPの
Ap産 生 的な 代 謝制 御機 構に おい て、
AlcaとXllL が 協調 的に 機能 することでAPP の代謝を抑制 していることが考えられた。
私 は、
Alcaは、
XllLがAPP をO‑secretase の活 性が 高い 領域 に移 行す るの を抑 制す る 機能を発揮するためのアンカー として機能している可能性を考えた。そこで、Alca の欠 失に よ りXllL の 局在 が変 化す る可能性について 検討を行ったが、XllL の局在には大き な変化は認められなかった。
次に 、
XllLとAPP の 安定 的な 相互 作 用に はAlca が 必要 であ り、Alca の欠失によりXllL とAPP の結 合割 合が 変化 する 可能 性 を考 えた 。そ こで 、XllL から共役免疫沈降法によ り共 沈 され てく るAPP の 量に つい て 比較 を行 った 。そ の結 果、Alca の欠失によりXllL か ら 共 沈 さ れ て く る
APP量 に は 減 少 が 認 め ら れ 、 結 合 割 合 の 減 少 が 示 唆 さ れ た 。 以 上 の こ と か ら 、
Alcaと
XllLは 、
APPと 三 者 の 安 定 な 複 合体 を 形成 する こと でAPP の代謝を制御している可能性が 考えられた。
以上 の結 果か ら、
Alca.APP .XllL の 三者 による安定的な複合体形成 が、生体内にお ける内在性APP のAp 産生的な代謝機構に重要な役割を担っていることが示唆 された。こ の 結 果 は 、 孤 発 性
ADの 発 症 メ カ ニ ズ ム に 、新 たな 可能 性を 提示 する もの であ る 。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Alcadein とその脳内 APP 代謝における機能の解析
博 士学 位論文 審査等 の結 果につ いて( 報告)
ア ル ツ ハ イ マ ー 病(AD)は 認 知 機 能 の 失 行 を 伴 う 進 行 性 の 神 経 変 性 疾 患 で あ り 、60才 以 上 の 有 病 率 は2% を 超 え る 。 超 高齢 化 社 会 を 迎え て い る 日 本の み な ら ず 、 社会 状 況 ・ 衛 生環 境 の 改 善 によ り 平 均 寿 命 が急 速 に 延 び っっ あ る 人 類 社会 全 体 に と って 、 克 服 す べ き重 要 な 疾 患 のー つ で あ る 。家 族 性ADの 解 析 か ら そ の 病 理 の 解 明 が 進 み 、 ア ミ 口 イ ド 前 駆 体 夕 ン バ ク 質(APP)か ら 生 成 さ れ 、 高 い 凝 集 性 と 細 胞 毒 性 を 持 つAロ ベ プ チ ド の 増 加 がAD発 症 の 引 き 金 と な る 、と い う ア ミ 口 イド カ ス ケ ー ド 仮 説 が 提 唱 ・ 支 持 さ れ て い る 。 し か し な がら 、ABベ プチ ド を 大 量 に産 生 す る 細 胞 系・ モ デ ル マ ウ ス を 用 い た 解 析 が 精 力 的 に な さ れ て い る 一方 で 、 孤 発 性ADが 発 症 する 通 常 の 脳 組 織に お い て 、 そ の 本来 の 基 質 で ある 内 在 性APPの ア ミ ロ イド 産 生 的 代 謝が ど の よ う に制 御され ている のか、
に つ い て の 解 析 と 知 見 は 極め て 乏 し い 。こ う し た 中 に あっ て 、APPと そ の 細 胞質 領 域 を 介 し て結 合 す る 足 場 夕 ン パ ク 質X11Lは 、 そ の 欠 失 に よ り 内 在 性APPの ア ミ 口 イ ド 産 生 的 代 謝 が 昂進 す る こ と か ら 、 こ の 制 御 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る と 考 え ら れ て い る 。 し か し な が ら 、XllLはAPPを 含 む 複 数 の 因 子群 と 相 互 作 用す る と と も に、 ダ イ ナ ミ ック な 細 胞 内 動 態を と る こ と から 、 ど の よ うに APPの ア ミ 口 イ ド 産 生 的 代 謝 を 帯 卿 す る の か に つ い て は 不 明 な 点 が 多 く 残 さ れ て い た 。 本 論 文 に お い て 、 著 者 は 、 進 化 上 高度 に 保 存 さ れたI型 膜 夕 ンバ ク 質Alcadeinフ ァ ミ リ ー 分子 群 に 着 目 し た 。 こ れ ま で の 解 析 か らAlcade血 は 、 そ の 細 胞内 ド メ イ ン を介 し てX11Lと 直 接 結 合す る こ と 、APP.X111アA]cadejnの3者tま 複合体 を形成 する こと、 カぢ示 されて いた 。しか しなが ら、こ の 3者 複 合 体 の 形 成 が 生 体 内 に お け るAPPの ア ミ 口 イ ド 産 生 的 代 謝 制 御 に お い て ど の よ う な 意 義 を も つ の か は 不 明 で あ っ た 。 そ こ で 著 者 はAka岫1の3種 の フ ァ ミ リ ー 分 子 のう ち 、 神 経 系に お い て 強 く 発 現 し て お り 、 解 析 の進 ん で い るA1cade泣aに つ い て、 そ の ノ ッ クア ウ ト マ ウ ス を用 い て 解 析 を 進 め た 。APP X11L, 此a岫laが 同 一 の 神 経 細 胞に 発 現 さ れ てい る こ と 、 ノ ック ア ウ ト マ ウス に お い てAlcademaのmRNAお よ び タ ン バ ク 質 の 発 現 が 消 失 し て い る こ と を 確 認 後 、 遺 伝 的 パ ッ ク グ ラ ウ ン ド を パ ッ ク ク 口 ス に よ りC57BL6に そ ろ え たcangenicマ ウ ス を 用い て 、 脳 内 の内 在 性APP と 、 そ の 代 謝 産 物 量 を 解 析 し た 。 そ の 結 果 、Alcade血aの 欠 失 に よ り内 在 性APPの 代 謝 産 物 のう ち CTFロ の 存 在 量 と こ れ よ り 産 生 さ れ るAロ ベ プ チ ド 量 と が 選 択的 に 増 加 し てい る こ と を 見出 し た 。 次 い で 、 こ こ で 見 ら れ た ア ミ 口 イ ド 産 生 的 代 謝 の 昂進 が 、ADの典 型 的 な 病 理所 見 で あ るanlyloid
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融 雄
治 之
章 利
貴
本 原
木 々
山 木
鈴 佐
授 授
授 師
教
准 教
教 講
査 査
査 査
主 副
副 副
plaqueの 産 生 増 を も た ら す か 検 証 し た 。 マ ウ スAPPよ り 産 生 さ れ るAロ ベ プ チ ド に はamylod plaqueの 形 成 能 が な い た め 、 ヒ トAPPを 適 量 発 現 す る ト ラ ン ス ジェ ニ ッ ク マ ウス と 女 覿 さ せて 解 析 をお こ な っ た とこ ろ 、A]cadeinaの 欠失 によりamy】oidpla(lue数カ 轍に増 カロ するこ とが明 らか と な っ た 。 さ ら に 、 此ademaの 欠 失 に よ る ア ミ 口 イ ド 産 生 的 代 謝 の 昂 進 が 、X11Lの 欠 失 に よ る も の と ど の よ う に 連 関 し て い る の か を 解 析 す る た め に 、X11LとAkadejnaの 二 重 欠 失マ ウ ス を 作 製 し、 そ の ア ミ 口イ ド 産 生 的 代謝 産 物 量 を 比 較し た 。 そ の 結果 、 二 重 欠 失マ ウ ス にお けるア ミロイ ド 産 生 的 代謝 の 昂 進 程 度はAlcade血Q単 独変 異 と 同 等 であ り 、 そ の 表現 形 に 加 重 性は 認 め ら れ な か っ た こ と か ら 、Alcade血aの 欠 失 に よ る ア ミ 口 イ ド 産 生 的 代 謝 の 昂進 はX11Lの 欠 失 に よ る昂 進 と 同 じ 経 路 で 生 じ て い る こ と が 強 く 示 唆 さ れ た 。 ま た 、 觚ade血aの 欠 失 マ ウ ス に お いて はX11Lと 免 疫 共 沈 さ れ るAPP量 に 有 意 な 減 少 が 認 め ら れ る こ と を 見 出 し た 。 著 者 の こ れ ら の 知 見 は APPIX111,Alcadejnの3者 複 合 体 の 安 定 な 形 成 が 、 生 理 的 条 件 下 に お け るAPPの ア ミロ イ ド 産 生 的 代謝 の 抑 制 に 重要 な 役 割 を 果た し て い る こ とを 示 す も の であ る 。
こ の よ う に 、 著 者 は 、 主 と し て マ ウ ス 個 体 を 用 い た 生 化 学 的 ・ 遺 伝 学 的 解 析 に よ り 、 APPlXnIアAlcadejmの3者 複 合 体 形 成 が 生 理 的 条 件 下 に お け る 脳 内APPの ア ミ ロ イ ド 産 生 的 代 謝 の 制御 に 重 要 な 役割 を 担 っ て いる こ と を 明 ら かに し た 。 著 者の 論 文 は 、 孤発 性 ア ルツ ハイマ ー病の 発 症機 構 を 明 ら かに し て い く 上に お い て 新 た な洞 察 を 与 え るも の で あ り 、医 薬 科 学分 野にお ける生 命 科学 の 進 展 に 大き く 貢 献 す るも の で あ る 。
よ っ て 、 北 海道 大 学 大 学 院生 命 科 学 院 医薬 科 学 コ ー ス博 士 後 期 課 程 を修 了 す る 著者は 、北 海道大 学 博士 ( 薬 科 学 )の 学 位 を 授 与さ れ る 資 格 カ ミあ る も の と 認め る 。
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