博 士 ( 医 学 ) 河 合 朋 昭
学 位 論 文 題 名
エダラボン(ラジカット°)は類洞内皮細胞を
保護することにより、酸化ストレスから肝臓を保護する 学位論文内容の要旨
(背 景)肝 の移植や 切除に 伴う阻血 再灌流傷 害は解 決すべき 課題で あり、そ の機序 解 明の ための 研究が行 われて きたが、 臨床で使 用でき る方法は 確立さ れてない 。酸化 ス トレ スは阻 血再灌流 傷害の 一因であ り、移植 片機能 不全の原 因とな る。抗酸 化治療 は 阻血 再灌流 による酸 化傷害 に対する 治療法と して期 待されて いる。 エダラボ ン(ラ ジ カッ ト@) は脳梗塞 急性期 の治療に 臨床使用 されて いるラジ カルス カベンジ ャーで あ る。 エダラ ポンは心 や腎の 阻血再灌 流障害を 軽減す る。また 、冷保 存再灌流 、温阻 血 再灌 流によ る肝実質 の酸化 障害を軽 減する。 しかし 、エダラ ポンが 肝を構成 する各 細 胞種、特に非実質細胞に及ぽす効果は明らかではない。
(目 的)肝 温阻血再 灌流傷 害におけ るエダラ ボンの 効果を個 体、臓 器レベル で明ら か にす る。ま た、肝を 構成す る各細胞 種の酸化 ストレ ス感受性 、抗酸 化能、お よびェ ダ ラポンの細胞保護効果を明らかにする。
(材料 と方法)in vi・vo実験では ラット の70%部分 肝温阻 血再灌流モデルを用い、90 分の 温阻血 を施し、 再灌流 した。治 療群には ェダラ ポンを阻 血開始 前に30分問 持続投 与(3mg/kg/30分 )し、 再灌流の30分前から同量のエダラポン(3mg/kg/60分)を持 続投与した。コントロール群には生理食塩水を同様に投与した。(評価項目)一週生存、
血清A【円活性、.総胆汁酸濃度、過酸化脂質(MDA十4・HNE)、抗酸化能(GSH/GSSH)。
泣vitro実験では ラット 肝より肝 細胞、類 洞内皮 、クッバ ー、および星細胞を単離培養 し、 各細胞 に過酸化 水素(10および100ロM)を添 加して酸 化スト レスに曝 露し、 エダ ラボ ン(10,50,100ルM) の傷害抑 制効果 を評価し た。細胞 傷害度 を%LDHで、DNAの 酸化 傷害を8.hydroxy.deoxyguanosineの免疫染 色で、 ミトコン ドリア障 害を口 ーダ ミン123の 螢 光 強 度で 評 価 した 。各細 胞種の 培養液に 過酸化水 素を添 加し、過 酸化水 素濃度を経時的に測定し、その消去能を評価した。
(結 果)invivo実 験にお いてラッ ト70%部 分肝温阻 血再灌流 後の一 週生存率 は、コ ン トール群で37.5%、エダラポン投与群で87.5%であった。再灌流後のA【」T活性および 総 胆汁 酸 濃 度の 上 昇 、 阻血 終 了 直後 お よ び再 灌 流 後に お け るGSH′GSSGの低 下 、 過 酸化脂 質の増加はいずれもェダラポン投与によって軽減された。invitro実験において、
100ロMの 過 酸 化 水 素 を120分 間 負荷 し た 際の %LDHは 肝 細胞 、 星 細 胞、 ク ッ バー 細 胞、類洞内皮細胞でそれぞれ6.2土2.7%、26.6土7.O%、87.9土3.0%、90.O土1.8%であ っ た。10ロMの 過 酸 化水 素 で は類 洞 内 皮細 胞 の みが 傷 害 され た 。 各細 胞 に100ロMの 過酸 化水素 を添加し 、60分後 の残存過 酸化水 素は類洞 内皮細胞 で高値 であった のに対 し、 クッパ ー細胞、 星細胞 では低値 であった 。肝細 胞では添 加後15分 より過酸 化水素 は検 出でき なかった 。過酸 化水素に よる類洞 内皮細 胞の酸化 傷害に 対し、エ ダラボ ン は 用量 依 存 的に 傷 害 を 抑制 し た 。ま た 類 洞内 皮 細 胞のDNAの 酸 化 傷害 、 ミ ト コン ド
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リア障害もェダラポンで抑制された。力夕ラーゼ、デフウロキサミンはクッバー細胞、
星 細 胞 の 酸 化 傷 害 を 抑 制 し た が 、 エ ダ ラ ポ ン は 抑 制 し な か っ た 。
(考察)肝構成細胞の過酸化水素消去能は細胞種によって異なり、肝細胞の抗酸化能 は非実質細胞に比べて高かった。類洞内皮細胞は最も抗酸化能が低く、他の細胞種で は傷害がおこらない程度の酸化ストレスでも傷害された。類洞内皮細胞は早期の、軽 度の酸化ストレスによっても傷害され、肝の酸化傷害のトリガーになることを示唆し ていた。
本実験ではェダラポンが肝温阻血再灌流傷害を軽減し、生存率を改善した。またエ ダラポンが類洞内皮細胞の酸化傷害を軽減した。力夕ラーゼやデフェロキサミンはク ッバー細胞、星細胞の酸化傷害を軽減したが、エダラボンは傷害を軽減しなかった。
過酸化水素がラジカル種に変化しておこる直接傷害はェダラポンによって軽減できる が、過酸化水素による細胞内情報伝達の変化(NF‑kBの活性化など)はエダラポンでは 阻害できないと考えられた。抗酸化療法以外の治療の併用効果を検証することも今後 の重要な検討課題である。
(結語)エダラポンは肝温阻血再灌流障害を軽減した。またェダラポンは肝構成細胞 の中で最も酸化ストレス感受性が高い類洞内皮細胞を保護し、肝の酸化傷害を軽減す ることが示された。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
エダラボン(ラジカット°)は類洞内皮細胞を
保護することにより、酸化ストレスから肝臓を保護する
肝阻 血 再 灌流 障 害 は解 決 す べ き重 要 な課題で あるが 臨床で使 用可能な 制御法 は確立 され ていな い。酸化 ストレス は阻血 再灌流障 害の一 因であり 、抗酸 化治療は阻血再灌流 障害 の治療 法として 期待され ている 。エダラ ポン( ラジカッ ト@) は脳梗塞急性期の治 療に 臨床使 用されて いるラジ カルス カベンジ ャーで ある。申 請者は ラットの70%部分肝 温阻 血再灌 流モデル を用い、エダラポンが肝温阻血再灌流後の生存率を改善させること、
阻 血 再灌 流 による 血清AI」
T
や総 胆汁酸 濃度の上 昇、肝 組織脂質 過酸化の 増加お よび抗 酸 化 能(GSH7GSSG
比 ) の 低 下 を 抑 制 す る こと を 示 した 。 申 請者 は ま た、 肝 構 成細 胞 であ る実質 細胞、星 細胞、類洞内皮細胞、クッバー細胞をラット肝よりそれぞれ単離し、細胞 種によ って抗酸 化能が異 なるこ とを示し た上で 、類洞内 皮細胞 が最も酸化ストレス 感 受 性が 高 い 細胞 種 で あり 、 他 の 細胞 種が障 害を受け ない低 濃度のH202で障害を 受け るこ と、エ ダラポン が容量依 存的に 類洞内皮 細胞の 酸化障害 を軽減 することを明らかに した。
公開発表後、副査簡井教授より
1
)inVivo
における肝実質細胞障害の原因2)阻血再灌流 障害における類洞内皮細胞障害の形態3)肝移植治療においてエダラボンをどのように臨床 応用するか、の質問があった。それに対して、1)肝阻血再灌流では初めに最も酸化ストレス 感受性の高い類洞内皮細胞に障害が生じ、微小循環障害から肝実質細胞障害が生じる2)肝阻 血再灌流によって類洞内皮細胞はapoptosisに至ることが報告されている。今回の実験では 単 離 培養 し た 類洞 内 皮 細胞 にH202
で 酸 化障 害 を 誘導 し た が予 備 実験 で行っ たTUNEL染 色で は陰性 であり、necrosis
に至っ たと思わ れる3)エダラボンを臓器保存液に添加する こと が考え られるが 投与する タイミ ングにつ いては 更なる検 討を要 する、などの回答が あった。次いで、主査浅香教授から1) in vivoの実験モデルにおける死因2
)細胞種ごとに 障害程度が異なる理由3)in vivo
とin vitroにおいて肝実質細胞障害の程度が異なる理由ー 2711
博
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正 裕
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授
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主
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4
)エダラボンのラジカル消去作用以外の効果、についての質問があった。それに対して、1
)腹水を伴う肝不全で組織学的には実質細胞はnecrosis
であった2
)肝構成細胞は細胞種ご とに抗酸化能が異なることが障害程度の違いを引き起こしたと考えられる3) in vit roでは 個々の細胞種に対する障害の要因を酸化ストレスのみに単純化しているが、in vivoでは血 液成分の 関与や細胞問の相互作用があり、様々なchemicalmediatorが複雑に働いて細胞障 害を修飾している4)工ダラポンがTNFーa
やIL
−1などの炎症性サイトカインの産生を抑制す ることが報告されており、細胞障害抑制機序のーっとして考えられる、などの回答があった。なお、副 査藤堂教授からは、本実験が肝阻血再灌流障害の機序と制御法を明らかにする第 一歩となるものである、との発言があった。
本研究 は、エダ ラボンが 類洞内 皮細胞を 保護し 、肝の酸 化障害を軽減することを示し た 報 告 で あ り 、 エ ダ ラ ポ ン の 肝 移 植 医 療 に お け る 臨 床 応 用 が 期 待 さ れ る 。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や単位取得なども併 せ申 請 者 が博 士 ( 医学 ) の 学 位を 受 け るの に 充 分な 資 格 を有 す る もの と 判 定し た 。
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