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雨庭の社会実装化に向けた実践的シナリオの検討

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(1)石松一仁. 景観生態学 25(1)33 - 41.2020. 原著論文. 雨庭の社会実装化に向けた実践的シナリオの検討 石松 一仁 * 明石工業高等専門学校 都市システム工学科 〒 674-8501 兵庫県明石市魚住町西岡 679-3 Considering a practical scenario for mainstreaming rain gardens in Japan Kazuhito Ishimatsu* National Institute of Technology, Akashi College, 679-3 Nishioka, Uozumi-cho, Akashi, Hyogo, 674-8501, Japan Abstract: As a consequence of increased urbanisation, floods threaten inhabitants of various cities in Japan. Although a conventional way of treating urban flooding is to construct sewage systems, alternative approaches have to be developed because of their expense in the context of the current financial crisis. Rain gardens have recently been recommended as a best management practice for the treatment of stormwater runoff in Northern European countries, the USA, etc. While demand for rain gardens has been increasing in Japan, there is a lack of knowledge about policy planning for the development of rain gardens. This present study aims to 1) visualise a possibility for the development of rain gardens as a map and evaluate its effect in terms of storm water management in most urbanised area“Delta Zone”in Hiroshima-City, Japan, 2) discuss a method for policy planning for mainstreaming rain gardens as a kind of green infrastructure. By use of GIS technology, the areas under the conditions (elevation < 5.0 m, slope angle < 1.1 degrees and GWL < -2.0 m) were selected as potential areas for rain garden installation. Next, 1) green spaces, 2) sandy spaces, 3) car parks on the potential areas were identified because those spaces are easier to install rain gardens than building and road areas. As s result, it was indicated that“Delta Zone”could obtain a rainwater infiltration function to treat 20 mm/h stormwater event if only 10 % of those spaces turn into rain gardens. In addition, a practical scenario to mainstream rain gardens in Japan was discussed. Key Words: Rain gardens, GIS, Basic law on the water cycle, Stormwater management, Green infrastructure, Policy planning 要旨:都市化に伴う透水層(緑地や湿地など)の減少によって生態系サービスが劣化した結果,表面流水が増量するよう雨水循環経 路が改変された.そして,気候変動によるゲリラ豪雨の増加により都市型洪水が深刻化している.既存の下水道システムは老朽化問 題に直面しており,財政が逼迫している地方都市に新たに管渠を増設する費用を捻出することは困難である.欧米では雨庭と下水管 渠を複合させた雨水処理システムが,経済的合理性が高いため主流化されている.本研究は,1)広島市デルタ市街地における雨庭 の建設可能候補地を可視化し,その表面流水抑制効果を評価すること,2)雨庭の社会実装化に向けた政策課題について議論するこ とを目的とした.GIS を用いて,デルタ市街地における 1)標高 5 m 未満,2)傾斜度 1.1 未満,3)地下水位 2 m 以深の条件を雨庭 建設適地として抽出した.次に,その適地上の 1)駐車場,2)緑地,3)砂地を抽出し,それらのスペースを雨庭化した場合の表面 流水抑制量及びその雨水処理費の削減効果をシミュレートした.その結果,研究対象地において雨庭は,雨量強度 20 mm/h の豪雨を 処理することができる能力を内包していることが示唆された.本研究成果は,これからわが国で雨庭を含むグリーンインフラ政策を 推進していく上での基礎資料として幅広く活用されることが期待される. キーワード:雨庭,GIS,水循環基本法,豪雨対策,グリーンインフラ,公共政策. はじめに. を脅かす環境問題が深刻化している.不透水層の増 加は,雨水がタイムラグ無しに下水管渠に流入する. 都市化に伴う緑地の減少ならびに不透水層(コン. 状況を生み出し(Gallagher et al. 2011),そこに近年. クリート・アスファルト)の増加により,生態系サー. の異常気象による集中豪雨が重なり,既存の下水管. ビスは劣化している.その結果,生物多様性の低下. 渠だけでは雨水を処理しきれず全国各地で内水被害. だけでなく,表面流水が増量するよう雨水循環経路. が発生している.さらに,1 時間雨量強度 50 mm 以. が大きく改変され,都市型洪水といった我々の生命. 上の年間発生回数は,アメダスによる統計期間約 40. * 連絡先:[email protected]. 年で増加傾向が明瞭(信頼度水準 95%で統計的に有. 受付:2017 年 10 月 2 日/受理:2020 年 1 月 7 日. 意)に現れており(気象庁 2015) ,今後もこの傾向. - 33 -.

(2) 雨庭の社会実装化に向けた実践的シナリオの検討. が続くと内水被害の拡大が懸念される.また,本来, 雨水が土壌を浸透することによって捕捉されるはず. 調査地および方法. の栄養塩や重金属が河川に流入し,下流域の生態系 に深刻な悪影響を与えている(Van-Meter et al. 2011;. 1.調査地. 浅枝 2011).全国に下水道整備が拡充し,管路延長. 本研究の調査地である広島市デルタ市街地(図 1). が約 40 万 km に達する一方で,耐用年数を超過した. は,海抜 5 m の祇園大橋付近から下流は太田川三角. 管渠も増え始めており,今後管渠の老朽化に関わる. 州であり,近世初めの広島城築城の頃,その海岸線. 問題は一層進むと予測される(桑野ほか 2010).昭. は海抜 2 m の平和大通り付近にあり,さらにその前. 和 30 〜 40 年代以降飛躍的に整備が進んできた下水. 面に干潮平地(干潟)が広がっていた.現在白神社. 管渠は,既にあるいは近い将来耐用年数を超過する. 本殿がのる花崗岩の岩盤は当時の岩礁であった.干. (桑野ほか 2010).老朽化に伴う更新の必要性が高. 潮平地は藩政・明治時代には干拓地として,大正・. まっていく中で,アセットマネジメントやストック. 昭和には埋立地として陸地化され,現在ほぼ全域が. マネジメントという言葉のもとに,現在供用中の施. 消滅している.したがって,デルタ市街地は平和大. 設を適切な維持管理と長寿命化対策を実施すること. 通りを境に自然三角州面と人工三角州面とに分けら. により,ライフサイクルコスト(LCC)を低減させ,. れる(広島市 1983) .デルタ市街地には都市機能が. 効率的な事業運営を進める取り組みがなされている. 集積しており,その一方,地盤が満潮時の海水面よ. (細井ほか 2012 ).しかしながら,人口減少が著しい. りも低いため,雨水は下水管や下水ポンプ場を経由. 地方圏では,一般に検討されている現施設の長寿命. しなければ,放流先である海や川へ排水することは. 化が必ずしも LCC の低減につながるとは限らない. できない.近年,広島市の下水道の排水整備水準を. (細井ほか 2012).また,大都市圏において老朽化し. 超過するゲリラ豪雨が発生しており,下水道施設整. た下水管渠を更新したとしても,局所的な豪雨など. 備だけで浸水被害を食い止めることは困難となって. による内水被害の根本的な解決には至らない(平賀. いる.. 2015).したがって,地方圏はもとより,大都市圏に おいても下水管渠だけに依存した雨水処理システム は限界を迎えており,不透水層を緑地に置き換える. 2.地理空間情報の収集および GIS データの作成 (1)使用ソフト. 取り組みが急務である(屋井 2015).. esri ジ ャ パ ン 社 の ArcGIS for Desktop 10.4.1 と. 欧米では,都市の限られたオープンスペースに植. ArcGIS Spatial Analyst が使用された.また,研究補. 栽された窪地を設けて,屋根や歩道,駐車場などの. 助員 2 名による Google map の空中写真の判読作業に. 不透水層を流出する雨水を引き込み貯留させて,大. は,QGIS 2.14 が使用された.. 気や地下に還す雨庭が,最も経済的な豪雨対策手法 として社会実装化されている.雨庭は,①都市型洪. (2)土地利用図. 水の軽減,②健全な雨水循環経路の再生,③植物や. 1/600 スケールに拡大表示した Google map の空中. 土壌による雨水浄化,④ヒートアイランド現象の緩. 写真(2016 年 9 月 1 日〜同年 11 月 10 日にアクセス). 和,⑤生物の生息空間の再生,⑥都市景観の修復(Diez. が研究補助員 2 名により判読され, 「1.堤内地緑地」,. and Clausen 2005;Hostetler 2009)などの緑地として. 「2.屋上庭園」,「3.堤外地緑地」,「4.砂地」,「5.. の機能を凝縮させた空間である.これまでに著者は,. 貯水池」, 「6.駐車場」のポリゴンが作成された.な. 海外で供用されている雨庭の事例調査を実施し,そ. お,戸建て住宅の庭や集合住宅の植え込みなどの私. の設計・管理手法を網羅的に把握している(Ishimatsu. 有地緑地は,公共緑地と比べて非常に小規模であっ. et al. 2017).同時に,実験ヤードに建設した雨庭に. たため今回は抽出されていない.また, 「6.駐車場」. てモニタリング調査を実施し,表面流水抑制量を定. は,コインパーキングのような暴露された駐車場で. 量的に評価している.. あり,立体駐車場は含まれていない.. 本研究は,1)広島市デルタ市街地における雨庭の. 「7.建築物」については,国土交通省国土地理院. 建設可能候補地を可視化し,その表面流水抑制効果. 基盤地図情報(http://fgd.gsi.go.jp/download/menu.php). を評価すること,2)雨庭の社会実装化に向けた政策. より「建築物の外周線」がダウンロードされ,その. 課題について議論することを目的とした.. 外周線によって囲まれたエリアが建築物ポリゴンと. - 34 -.

(3) 石松一仁. なった.. 上の堤内地緑地,砂地及び駐車場の面積が把握され. 「8.道路」については,国土交通省国土地理院基. た.. 盤地図情報より「道路縁」がダウンロードされ,道. ただし,本研究の抽出手法はあくまでもスクリー. 路縁に囲まれていないエリアが道路ポリゴンとなっ. ニングであり,町丁スケールなど大縮尺で雨庭の基. た.道路縁の分断が見られた一部のエリアにおいて. 本設計・実施設計へ移行する際,既存の下水管渠の. は,この手法ではポリゴンを作成することができな. 配置などその地区に応じた条件を検討し精査する必. かった.そのため,そのエリアにおいては,1/600. 要があると考えられる.加えて,標高・傾斜度と異. スケールに拡大表示した Google map の空中写真が研. なり地下水位は変動するため,取り扱いにくい要素. 究補助員により判読され,道路ポリゴンが作成され. で あ る.Helmi et al.(2019) は,McDonald(2011). た.. の雨庭建設マニュアルに従って「地下水位 0.6 m 以. なお,1 ~ 8 のいずれにも属さないエリアは「9.. 深」と設定している.地下水位が高過ぎると地震が. その他」とされた.. 発生した際に液状化現象を誘発する危険性が高ま り,逆に低過ぎると地盤沈下を引き起こす.地下水. (3)地下水位. に関する研究は発展途上であり,その土地に相応し. 全 国 電 子 地 盤 図(http://www.denshi-jiban.jp/map_. い適度な地下水位を特定することは現時点では困難. menu.htm)より,2010 年に作成され 2011 年に公開. である.. された広島市デルタ市街地及びその周辺の柱状図情 報がダウンロードされた.次に,緯度経度と地下水. (6)雨庭の表面流水抑制量の推定. 位 の 情 報 が CSV フ ァ イ ル に ま と め ら れ た. こ の. Ishimatsu et al.(2017)によって実施された雨庭の. CSV ファイルは ArcGIS for Desktop 10.4.1 で読み込. 表面流水抑制量の検証実験結果より,雨庭 1 m2 の雨. まれ,地下水位のポイントデータが作成された.最. 水浸透量は 0.07 m3/min と推定された.また,その実. 後に,ArcGIS Spatial Analyst でこのポイントデータ. 験に用いられた雨庭の深さが約 0.5 m であったため,. はスプライン展開され,25 m メッシュにその平均値. 本研究では雨庭の深さは一様に 0.5 m と仮定された.. が格納された.. 前項の方法で抽出された雨庭建設適地の砂地と駐 車場については,総面積に 0.07 m3/min を乗じた値を 雨水浸透量,0.5 m を乗じた値を雨水貯留量と仮定し,. (4)標高と傾斜度 国土交通省国土地理院基盤地図情報(http://www.. その合計値が雨庭建設による表面流水抑制量として. gsi.go.jp/kiban/)より 5 m メッシュの数値標高モデル. 推定された.一方,堤内地緑地については,そもそ. (DEM)がダウンロードされた.次に,エコリス社. も緑地の基礎流出係数が非常に小さいため,雨庭を. の web サ イ ト(http://www.ecoris.co.jp/) よ り「 標 高. 建設しても浸透能は不変で深さ 0.5 m の窪地の創出. DEM データ変換ツール」がダウンロードされ,その. のみと仮定し,総面積に 0.5 m を乗じた雨水貯留量. ツールを用いて 5 m メッシュの DEM はラスター化. のみが雨庭建設による表面流水抑制量として推定さ. された.ラスター形式の DEM は ArcGIS for Desktop. れた.. 10.4.1 で読み込まれ,標高と傾斜度のポイントデー タへ変換された.最後に,標高と傾斜度のポイント. (7)広島市の雨水処理費用の算出. データの平均値がそれぞれ 25 m メッシュに格納さ. 広島市下水道局施設部計画調整課の協力を得て,. れた.. 雨水処理に係る維持管理単価が算出され,雨水処理 単価 88 円 /m3 が得られた.なお,処理水量実績の整 理には平成 24 ~ 27 年度の広島市下水道事業会計決. (5)雨庭の建設適地の抽出 雨庭の建設適地は,雨水が自然に溜まりやすく,. 算書,支出の整理には平成 28 ~ 31 年度の広島市下. 且つ地下水位が低いことが望ましいと考えられる.. 水道事業中期経営プラン資料編を参考資料としてそ. 本研究では,「1.標高 5 m 未満」,「2.傾斜度 1.1 未. れぞれ用いられた.表 1 にその算出手順を示す.. 満」,「3.地下水位 2 m 以深」の条件で研究対象地 をスクリーニングし,それを通過したエリアが雨庭 の建設適地として抽出された.次に,雨庭建設適地. - 35 -.

(4) 雨庭の社会実装化に向けた実践的シナリオの検討 表1 ⾬⽔処理費⽤の算出⼿順. 表 1.雨水処理費用の算出手順 【⼿順1】処理⽔量実績の整理(単位:㎥) 流⼊⽔量 (⾬⽔+汚⽔)・・・A 年間有収⽔量 (汚⽔)・・・B A-B. H27年度. H26年度. H25年度. H24年度. 合計. 160,492,260. 156,302,229. 157,942,863. 154,975,817. 629,713,169. 118,609,407. 118,288,838. 119,152,948. 119,333,032. 475,384,225. 41,882,853. 38,013,391. 38,789,915. 35,642,785 154,328,944. 【⼿順2】H24年度からH27年度の⽀出の整理(単位:万円) ⾬⽔+汚⽔ 維持管理費 減価償却費+企業債利息. 汚⽔. ⾬⽔. 3,880,905. 2,527,559. 1,353,346. 12,472,716. 6,441,396. 6,031,320. 【⼿順3】まとめ(単位:円/㎥) 維持管理費. 減価償却費+企業債利息. 汚⽔処理単価. 53. 135. ⾬⽔処理単価. 88. 391. 備考 有収⽔量・・・下⽔処理場で処理した全汚⽔量のうち,下⽔道使⽤料徴収の対象となる⽔量 減価償却費・・・時間の経過により固定資産価値の減少分に相当する⾦額を費⽤として計上したもの 企業債利息・・・下⽔処理施設の建設事業費などの財源として発⾏した地⽅債の利息. 表2 土地利用状況の内訳. 表 2.土地利用状況の内訳. 結 果 分類名. 全体の 27.5%を占める「その他」は,南部に位置す. 駐車場 不透水層 建築物 道路 屋上庭園 堤内地緑地 透水層 貯水池 砂地 その他. るウォーターフロント地区における工場敷地内の道. 合計. 1.GIS による解析結果 (1)土地利用状況 作成した土地利用図(図 2)の内訳を表 2 に示す.. 割合(%) 10.9 29.6 18.1 0.1 10.2 0.3 3.3 27.5. 27.5. 3459.6. 100.0. 100.0. 23.9. -. -. (参考)堤外地緑地. 路や駐車場,高架橋,広島西飛行場の滑走路などの 不透水層が大半を占める.そのため,デルタ市街地. 面積(ha) 375.7 1023.7 627.4 3.3 353.1 10.2 115.2 951.0. 58.6. 13.9. (4)雨庭の建設適地の抽出. の不透水層の割合は,75%を上回っている可能性が. 図 6 に雨庭の建設適地の分布状況を示す.研究対. 高いことが分かった.. 象地の南北に計 995.7 ha 分布していることが確認され た.次に,土地利用状況図(図 2)と雨庭の建設適地 (図 6)を重ね合わせ, 雨庭の建設適地の「堤内地緑地」. (2)地下水位 図 3 に 25 m メッシュに格納された地下水位を示 す.平和大通りより以北の自然三角州面の方が以南. 「砂地」 「駐車場」が抽出され,それぞれ 44.5 ha,42.5 ha,133.5 ha であることが確認された(表 3) .. の人工三角州面よりも地下水位が低く,特に最北端 の横川地区において地下水位が低いことが確認され. 2.雨庭の表面流水抑制量. た.また,南東に位置する大きな堤内地緑地である. 雨庭建設適地上の堤内地緑地,砂地,駐車場に雨. 黄金山の地下水位が低いことが確認された.. 庭を建設した場合の雨水処理ポテンシャルと経済効 果の推定結果を表 4,5,6 に示す.これらの経済効. (3)標高と傾斜度. 果は,従来の雨水処理方法によってかかる処理費用. 図 4 に 25 m メッシュに格納された標高,図 5 に. を雨庭によって削減できることを示唆している.雨. 25 m メッシュに格納された傾斜度をそれぞれ示す.. 庭化率 100%を達成することは現実的に難しいと考. 黄金山,比治山,元宇品,江波山を除き,標高の低. えられるが,10%であれば創意工夫次第で達成でき. い平地が広がっていることが確認された.また,傾. る可能性は高いと考えられる.そこで,仮に堤内地. 斜度 1 度未満の平地が広がっており,典型的なデル. 緑地,砂地,駐車場をそれぞれ 10%雨庭にした場合,. タ地形であることが確認された.. 表面流水抑制量は 849,450 m3/h と推定され,デルタ 市街地にて 20 mm/h の降雨イベントが発生した場合 に対応できることが示唆された(表 7).. - 36 -.

(5) 石松一仁. 表3 雨庭の建設適地とその土地利用状況 表 3.雨庭の建設適地とその土地利用状況. 雨庭の 建設適地上の 建設適地上の 建設適地上の 建設適地(ha) 堤内地緑地(ha) 砂地(ha) 駐車場(ha) 995.7 44.5 42.5 133.5 表4 雨庭建設適地上の堤内地緑地の雨水処理ポテンシャル 表 4.雨庭建設適地上の堤内地緑地の雨水処理ポテンシャル. 雨庭化率 100% 50% 10%. 雨水処理 3 ポテンシャル(m /h) 222,500 111,250 22,250. 経済効果(円) 19,580,000 9,790,000 1,958,000. 表5 雨庭建設適地上の砂地の雨水処理ポテンシャル 表 5.雨庭建設適地上の砂地の雨水処理ポテンシャル. 雨庭化率 100% 50% 10%. 雨水処理 ポテンシャル(m3/h) 1,997,500 998,750 199,750. 経済効果(円) 175,780,000 87,890,000 17,578,000. 表6 雨庭建設適地上の駐車場の雨水処理ポテンシャル 表 6.雨庭建設適地上の駐車場の雨水処理ポテンシャル. 雨庭化率 100% 50% 10%. 雨水処理 3 ポテンシャル(m /h) 6,274,500 3,137,250 627,450. 経済効果(円) 552,156,000 276,078,000 55,215,600. 表7 雨量強度別の降雨量と雨水処理費 表 7.雨量強度別の降雨量と雨水処理費. 雨量強度 80mm/h 50mm/h 20mm/h. デルタ市街地における 3 1時間降雨量(m ) (注)貯水池と河川は除く 2,759,520 1,724,700 689,880. 考 察. 雨水処理費(円) 242,837,760 151,773,600 60,709,440. 2.雨庭と水循環基本法 近年,気候変動による極端な降水現象,棚田の放. 1.雨庭の建設適地. 置または畑地化,森林荒廃による水源涵養機能の低. 平和大通りより以北エリアでは,地下に埋設され. 下,都市域における不透水層の増加などが水循環に. ているライフラインに注意を払えば,雨庭を問題な. 変化を生じさせ,豪雨による土砂災害と外水・内水. く建設できると考えられる.. 氾濫,渇水頻度の増加,汽水・海岸域における水質. 一方,その以南エリアについては,埋立事業が実施. 汚濁など生命の源である水によって国民の生活が脅. された際に用いられた埋立材料に関する調査が必要で. かされている.そこで,わが国の経済社会の健全な. あると考えられる.その理由は,埋立材料に環境汚染. 発展及び国民生活の安定向上に寄与することを目的. 物質が含まれている場合,雨庭建設による雨水浸透量. とした水循環基本法が 2014 年 7 月 1 日に施行され,. の増加により,沿岸海域にその環境汚染物質が溶出す. 内閣に水循環政策本部が設置されている.一方, 「コ. る可能性が懸念されるためである.デルタ市街地の沿. ンパクトシティ・プラス・ネットワーク」が国の方. 岸海域は海面養殖業が非常に盛んであり,特に牡蠣養. 針として打ち出され,2014 年に立地適正化計画制度. 殖は全国的に知られている.埋立地の汚染物質が沿岸. が創設され,土地利用の最適化を目的とした国家プ. 海域に溶出した場合,牡蠣の体内にその汚染物質が蓄. ロジェクトが始動した.加えて,地域に賦存する生. 積され,地場産業に損害を与えることが懸念されるた. 態系をグリーンインフラとして位置付け,それを活. め,埋立地における雨庭の建設の可否については,更. 用して防災・減災を図る概念(Eco-DRR)が国土形. なる検討を重ねる必要がある.. 成計画及び国土利用計画に盛り込まれた.今後,生. - 37 -.

(6) 雨庭の社会実装化に向けた実践的シナリオの検討. 図1 調査地と50-80mm/hの豪⾬発⽣時における浸⽔ハザードマップ(広島市 2014) 50-80 mm/h の豪雨発生時における浸水ハザー 図 1.調査地と ドマップ(広島市 2014). 図 2.調査地の土地利用状況図 図2 調査地の⼟地利⽤状況図. 横川地区. 平和⼤通り. ⽐治⼭. ⻩⾦⼭. ⻩⾦⼭. 江波⼭ 元宇品. 図3 25mメッシュに格納された地下⽔位. 図 3.25 m メッシュに格納された地下水位. メッシュに格納された標高 図 4.25図4m25mメッシュに格納された標⾼. - 38 -.

(7) 石松一仁. 図6 ⾬庭の建設適地の分布状況 (標⾼5m未満,傾斜度1.1未満,地下⽔位2m以深). 図5 25mメッシュに格納された傾斜度. 図 5.25 m メッシュに格納された傾斜度. 図 6.雨庭の建設適地の分布状況(標高 5 m 未満,傾斜度 1.1 未満,地下水位 2 m 以深). 産年齢人口の減少や超高齢化が進展し,自治体の財. てきたが,残念ながらその成果は限定的である.そ. 政はさらに厳しい状況になるため,既存の社会資本. の原因の一つとして,環境経済学の観点からの分析. をすべて更新することは難しく,従来の土木構造物. が不十分であったため,自治体や地域住民が税金を. と比べ,特にランニングコストの観点から経済性が. 投入してまで,都市緑地を創出する意義を見出せな. 高いとされる雨庭に代表されるグリーンインフラの. かったことが挙げられる.実社会は,生態学ベース. 社会実装がわが国でも進展すると考えられる.. ではなく,経済学ベースで意思決定がなされている. 高度経済成長期の人口増加に伴い,自然災害に対. ことを念頭に置く必要がある.本研究では,後者の. して脆弱な土地にまで居住地が拡大し,生態系が内. 観点からの雨庭へのアプローチを雨水処理費用削減. 包する水循環システムと戦前に建設された土木構造. 効果を推定する形で試みた.今後,雨庭の社会実装. 物だけでは水需要の増大や自然災害に十分に対応で. 化に関する政策を検討する際,本研究により得られ. きなくなり,土木構造物の積極的建設を主軸とする. た知見が科学的根拠の一つとして機能することが期. 社会資本整備が全国的に展開された.しかしながら,. 待される.. 気候変動の影響による豪雨災害の激甚化に対して,. 表面流水抑制に特化した雨庭は,従来型の下水管. 土木構造物だけでは物理的・経済的・環境的に対応. 渠(グレーインフラ)よりも安価に建設することが. できないことが現在では共通認識となっている.こ. でき,下水道整備費の大幅削減に寄与することがで. の問題を解決するためには,自然原理に基づき土地. きる(Penniman et al. 2013).さらに,雨庭はランニ. 利用の最適化を図り,水循環系を再生することがブ. ングコスト(維持管理費用)の低さと自然環境修復. レークスルーであると考えられ,雨庭は,本法に従っ. な ど の 多 機 能 性 も 内 包 し て い る.O’ Sullivan et. て都市づくりを展開する際に不可欠な雨水処理技術. al.(2015)は,従来型の下水管渠と雨庭のライフサ. として存在感が増すと考えられる.. イクルアセスメントを実施し,雨庭の優位性を確認 している.アメリカの各都市では,都市緑地が経済. 3.雨庭の社会実装化へのアプローチ. 的に評価され,2000 年代初頭から急速に雨庭の社会. 都市緑化推進を図る研究者は,都市緑地の機能を. 実装化が進展している.Helmi et al.(2019)はベルギー. 生態系サービスとして定義し,それを自治体や地域. のブリュッセルの住宅地域において,既存の下水道. 住民に説明することで今日まで都市緑地創出を試み. 網と地形を考慮して新たに雨庭を建設した場合の費. - 39 -.

(8) 雨庭の社会実装化に向けた実践的シナリオの検討. 用便益分析を展開し,経済性の高い雨庭の建設計画. rain garden flow and pollutant treatment. Water, Air,. 手法のモデルを開発している.. and Soil Pollution 167: 123-138.. 今後,わが国では,雨庭を建設することによって. Gallagher, M. T., Snodgrass, J. W., Ownby, D. R., Brand,. 下水道整備費の削減と同時に生態系サービスの質の. A. B., Casey, R. E. and Lev, S. 2011. Watershed-scale. 向上を図り,それにより浮いた税金を福祉など暮ら. analysis of pollutant distributions in stormwater. しに直結する事業に充当できる,といったロジック. management ponds. Urban Ecosystems 14: 469-484.. で,自治体や地域住民へ働きかけることが必要であ. 平賀達也.2015.流域という視点から都市の再生を 考える.日本緑化工学会誌 40(3): 493-496.. ると考えられる.都市域におけるグレーインフラの 維持管理・更新費用分析は既往研究が土木工学分野. 広島市.1983.広島新史-地理編-.広島市,広島.. に存在しているが(小瀬木ほか 2010),残念ながら. 細井由彦・増田貴則・赤尾聡史・灘英樹・高田大資.. グリーンインフラの概念が欠落している.土木工学. 2012.人口減少が進む小規模自治体における下水. と造園学の領域を横断する研究が不可欠であり,景. 道の長寿命化及び更新政策.土木学会論文集 G(環. 観生態学が担う役割は極めて大きいと考えられる.. 境)68(7): 681-690. Helmi, N. R., Verbeiren, B., Mijic, A., Griensven, A. V. and Bausens, W. 2019. Developing a modeling tool to. まとめ. allocate Low Impact Development practices in a cost 鎌田(2018)はグリーンインフラを「人々に,便. optimized method. Journal of Hydrology 573: 98-108.. 利な暮らし,安全,良い環境,活力を提供する生態. Hostetler, M. 2009. Conserving biodiversity in subdivision. 系と,その運用・維持管理システム」,もしくは「生. development. 71-80. University of Florida, Gainesville.. 態系が,安全・安心に生活してゆく上で必要な公共. Ishimatsu, K., Ito, K., Mitani, Y., Tanaka, Y., Sugahara, T.. 財・資本であることを認識し,維持管理のためのコ. and Naka, Y. 2017. Use of rain gardens for stormwater. ストを支払いながら資本(=自然資本)としての生. management in urban design and planning. Landscape. 態系を運用することで,持続的にサービスを得てゆ. and Ecological Engineering 13(1): 205-212.. く仕組み」と定義している.雨庭は都市域における. 鎌田磨人.2018.生態系への投資がなぜ必要なのか? グリーン・パワー 470: 26-29.. グリーンインフラの代表的な事例であり,自治体や 地域住民に対してグリーンインフラに関する情報を. 気象庁.2015.アメダスで見た短時間強雨発生回数. 発信していく上で大変扱いやすく,説明しやすいた. の 長 期 変 化 に つ い て http://www.jma.go.jp/jma/. め,グリーンインフラ政策推進の原動力として機能. kishou/info/heavyraintrend.html(2015 年 12 月 1 日. する可能性を内包している.. アクセス). 今後の課題として,雨庭の社会的意義をより強固. 桑野玲子・堀井俊考・山内慶太・小橋秀俊.2010.. なものとするために,下水道整備費の削減効果を経. 老朽下水管損傷部からの土砂流出に伴う地盤内空. 済学の視点からシミュレートすることが挙げられ. 洞・ゆるみ形成過程に関する検討.地盤工学ジャー. る.. ナル 5(2): 349-361. McDonald, D. 2011. Locating and Planning a Rain Garden, Seattle Public Utilities [on-line]. Available at:. 謝 辞. https://depts.washington.edu/uwbg/docs/stormwater/4 本研究は,平成 28 年度国土政策関係研究支援事業. Locating_PlanningRainGardens.pdf. Accessed 17 Jul. の助成を受け実施された.国土交通省国土政策局の. 2019. 関係者の皆さまに御礼申し上げます.. 屋井裕幸.2015.日本における豪雨対策のこれまで とこれから.日本緑化工学会誌 40(3): 486-488. O’ Sullivan, A. D., Wicke, D., Hengen, T. J. and. 引用文献. Sieverding, H. L. 2015. Life Cycle Assessment modelling of stormwater treatment systems. Journal of. 浅枝隆.2011.図説生態系の環境.98pp.朝倉書店,. Environmental Management 149: 236-244.. 東京. Dietz, M. E. and Clausen, J. C. 2005. A field evaluation of. 小瀬木祐二・戸川卓哉・鈴木祐大・加藤博和・林良嗣.. - 40 -.

(9) 石松一仁. 2010.大都市圏スケールでのインフラ維持管理・ 更新費用の将来推計手法の開発.土木計画学研究・ 論文集 27(2): 305-312. Penniman, D. C., Hostetler, M., Borisova, T. and Acomb, G. 2013. Capital cost comparisons between low impact development (LID) and conventional stormwater management. systems. in. Florida.. Suburban. Sustainability 1(2), Article 1. Available at: http:// scholarcom mons.usf.edu/subsust/vol1/iss2/1. Accessed 15 Feb 2015 Van-Meter, R. J., Swan, C. M. and Snodgrass, J. W. 2011. Salinisation alters ecosystem structure in urban stormwater detention ponds. Urban Ecosystems 14: 723-736.. - 41 -.

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