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閉塞性睡眠時無呼吸症候群用口腔内装置の治療効果とその関連因子の検討

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Academic year: 2021

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(1)

( 39 )

閉塞性睡眠時無呼吸症候群用口腔内装置の治療効果とその関連因子の検討

1)北海道大学病院高次口腔医療センター顎関節治療部門,2)北海道大学大学院歯学研究院冠橋義歯補綴学教室,

3)北海道大学病院冠橋義歯補綴科

三上紗季

1)

,山口泰彦

2)

,斎藤未來

2)

,後藤田章人

1)

,櫻井泰輔

3)

,前田正名

3)

Investigation on the therapeutic effect of oral appliances on obstructive sleep apnea syndrome and

related factors

1)Department of Temporomandibular Disorders, Center for Advanced Oral Medicine, Hokkaido University Hospital, 2)Department of Crown and Bridge Prosthodontics, Graduate School of Dental Medicine, Hokkaido University,

3)Department of Crown and Bridge Prosthodontics, Hokkaido University Hospital

Saki Mikami 1), Taihiko Yamaguchi 2), Miku Saito 2), Akihito Gotouda 1), Taisuke Sakurai 3) and Masana Maeda 3)

原  著

和文抄録:閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)用口腔内装置(OA)の治療効果とその関連因子を明らかにするために,OA 治療を行った OSAS 患者の治療経過を検討した.  対象は,北海道大学病院を受診し OA 治療を受けた患者 62 名である.OA 治療前後の無呼吸低呼吸指数(AHI)の変化を重 症度別に比較し,OA の治療効果を評価した.また,治療前後の AHI の変化により,減少群と変化なし・増加群の 2 群に分類し, OA の下顎位(前方移動量,最前方位に対する前方移動量の比率,垂直的挙上量),OA の種類(一体型,分離型),治療前 AHI,性別,年齢の各因子を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った.  OA 治療前後の AHI の変化は,治療前の平均 23.2 に対し,治療後は 7.4 であり,有意に減少していた.重症群でも大幅な AHI の減少を認め,すべての重症度群で AHI は有意に減少していた.減少群と変化なし・増加群の 2 群におけるロジスティッ ク回帰分析では,最終的な説明変数として,年齢 , 前方移動量,治療前 AHI が選択され,偏回帰係数はいずれも有意であった.  すべての重症度群の OSAS 患者に対する OA 治療の有効性が示され,重症例でも OA が治療の選択肢となり得ることが示唆 された.OA の治療効果の関連因子として,年齢,OA の前方移動量,治療前 AHI が挙げられ,今後,OA の適応症や OA の 下顎位を検討するうえで,これらの条件への考慮が必要と考えられた.

キーワード:睡眠時無呼吸症候群,口腔内装置,無呼吸低呼吸指数,下顎前方移動量,咬合挙上量

Abstract:Purpose: The treatment course of patients with obstructive sleep apnea syndrome (OSAS) treated with an oral appliance (OA) was investigated to clarify the therapeutic effect of OA for OSAS and the factors related to efficacy.

Methods: The subjects were 62 patients who were treated with OA in Hokkaido University Hospital. Changes in apnea-hy-popnea index (AHI) before and after OA treatment were compared by severity of OSAS to evaluate the therapeutic effect of OA. In addition, the patients were divided into two groups: the group with decreased AHI after the treatment and the group with no change or increased AHI. Then, logistic regression analysis was performed using the following factors as ex-planatory variables: mandibular position of OA (amount of mandibular protrusion, ratio of mandibular protrusion to the most anterior position, and amount of bite raising), type of OA (one-piece mono-block or two-piece appliance), baseline AHI before treatment, sex, and age.

Results: The average AHI decreased significantly after treatment (before, 23.2; after, 7.4). A significant decrease in AHI was observed even in the severe OSAS group and AHI decreased significantly in every level of severity. Based on the logistic regression analysis in the decreased group and the no change/increased group, age, baseline AHI, and amount of mandibu-lar protrusion were selected as the final explanatory variables and the partial regression coefficients of the three variables

(2)

2 閉塞性睡眠時無呼吸症候群用口腔内装置の治療効果とその関連因子

( 40 )

Ⅰ.緒言

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome;OSAS)は,睡眠の質が低下し日中の眠気 の原因となるだけでなく,重症例では,虚血性心疾患や 脳血管障害など生命に関わる合併症を引き起こす可能性 のある疾患である1〜3).OSAS の治療法の1つに口腔内 装置(OA)治療があるが,OA 治療の適応基準は,1 時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数である無呼吸低呼吸 指数(AHI)が 20 未満で,減量や睡眠時の体位では効 果が不十分か期待できない症例,あるいは AHI が 20 以 上で持続性陽圧呼吸法(CPAP)治療の導入や継続が困 難な症例とされており4),軽症から中等症の症例のみで はなく,CPAP が使用できない場合には重症例に対して も OA の治療法が選択される場合がある. OA の種類には,大きく分けると下顎前方移動型と舌 前方保持型があるが,広く用いられているのは下顎前方 移動型の OA である.これは下顎を前方移動すること により気道の開大を図る効果を期待するものである.こ れまで,OA の下顎位に関していくつかの報告5〜7)がみ られるが,前方移動量と垂直的挙上量を詳細に分析し, さらに性別,年齢など他の要因も含めた多変量で,OA の治療効果を検討した論文は少ない.そこで本研究では, 当院において OA 治療を受けた患者の治療経過をまと め,OA の治療効果,およびその治療効果と下顎位やそ の他の関連因子との関係について検討を加えたので報告 する. Ⅱ.方法 1.対象 対象は,2007 年 1 月から 2016 年 3 月までの間に北海 道大学病院高次口腔医療センターまたは冠橋義歯補綴科 を受診した OSAS 患者で,医科専門医からの OA 治療 の依頼を受け,当院での診察で OA 使用が可能と判断 され,治療を開始し,OA 使用時の効果判定の睡眠検査 を行った 62 名(男性 39 名,女性 23 名,平均年齢 55.8 ±11.1 歳)である. 本研究は , 北海道大学病院自主臨床研究審査委員会の 承認を得て行った(承認番号 016-0126). 2.OA の種類,製作方法 OA は下顎前方移動型の上下一体型(図 1)もしくは 上下分離型(図 2)で,各症例に合わせて担当医が選択 した.製作手順は,印象採得後,歯列模型上で上下顎に それぞれ厚さ 1.5 mm もしくは 2 mm の熱可塑性シート を用いて全歯列を被覆するフレームを製作した.その後, 各患者の最大前方移動量の 50〜75 %前方位を前方移動 量の目安とし,咬合採得を行った.具体的には,ゴシッ クアーチ描記法を応用して,フレームの上下切歯部に描 記板と描記針を仮止めし,描記板に形成したディンプル により仮の顎位で静止してもらい,その位置での感覚を 確認しながら,基本的に 75 %を超えない範囲で,患者 が許容できる可及的に前方の顎位を設定した.垂直的挙 上量は,描記板と描記針の高さを調節して口唇の閉鎖の 可否を確認し決定した. 一体型は上下のフレームを即時重合レジンで固定した. 上下分離型は,咬合採得後に模型を咬合器に装着し,N KコネクターⅡ(モリタ),サイレンサー(ERCODENT), ハーブストアプライアンス(ORMCO)のいずれかのコ ネクターを用いて上下顎を連結した.上下分離型はいず れも,咬合採得時の垂直的な顎位を維持するために,上 下顎のフレームの臼歯部咬合面に咬合平面と平行にレジ ンを盛り,閉口時に均等に接触させるようにした. OA 使用開始後,初期設定の顎位で睡眠時の違和感や 顎関節,咀嚼筋の症状等が強い場合には,OA の顎位の 修正を行った.OA の継続的な使用が可能と判断した場 合には,使用開始 1 か月以上経過した後に,紹介元の医 科施設へ依頼し,効果判定の睡眠検査を行った. 3. 解析項目 1) 治療効果 OA 治療前後の睡眠検査のデータから,1時間あたり の無呼吸と低呼吸の回数である AHI の平均値を算出し た.また,治療前の AHI の値により,軽症(5 ≦AHI <15),中等症(15≦AHI<30),重症(30≦AHI)に分 類し,重症度別の治療前後の AHI の平均値を比較した.

were significant. The correlation coefficient of the regression equation was 0.60, which was significant.

Conclusion: The efficacy of OA treatment for every level of OSAS severity was demonstrated. It was suggested that OA can be a treatment option even in severe cases of OSAS. It was indicated that age, baseline AHI and amount of mandibular protrusion were factors associated with the efficacy of OA. These factors need to be taken into consideration when deter-mining the indications for OA and the mandibular position of OA.

Key words:obstructive sleep apnea syndrome, oral appliance, apnea hypopnea index, protruded position of mandible, amount of bite raising

(3)

( 41 ) (1) 治療前 AHI (2) OA の種類(上下一体型:“1”,上下分離型:“0”) (3) OA の下顎位:前方移動量(図 3) (4) OA の下顎位:最大前方位に対する前方移動量の 比率 (5) OA の下顎位:切歯部における垂直的挙上量(図 4) (6) 性別(女性:“1”,男性:“0”) (7) 年齢 なお,(5)の切歯部における垂直的挙上量のデータが 欠落していた患者が 5 名あり,その 5 名はロジスティッ ク回帰分析の対象から除外した. 統計解析には対応のある t 検定を用い,有意水準は 5 % とした. また,OA 治療前後の AHI の重症度分類の変化につ いては,重症度分類が軽症化した患者を減少群,重症度 分類に変化がないか悪化した患者を変化なし・増加群と 定義した. 2)治療効果に関連する因子 治療効果に関連する因子の多変量解析には,ロジス ティック回帰分析を用いた.OA 治療効果を目的変数と し,OA 治療後に AHI の重症度が軽症化した減少群を“1”, 変化なし・増加群を “0” の 2 値変数として扱った.説 明変数は以下の7つの因子に設定した.変数選択は変数 減少法を使用した.

図1. OAの種類(上下一体型)

図 1 OA の種類(上下一体型)

図3. OAの下顎位の模式図 (前方移動量)

最大

前方位

前方移動量(mm)

閉口位

OAの下顎位

図 3 OA の下顎位の模式図(前方移動量)

垂直的挙上量(mm)

閉口位

OAの下顎位

図4. OAの下顎位の模式図 (垂直的挙上量)

図 4 OA の下顎位の模式図(垂直的挙上量)

NKコネクターⅡ(モリタ)

ハーブストアプライアンス(ORMCO)

サイレンサー(ERCODENT)

図2. OAの種類(上下分離型)

図 2 OA の種類(上下分離型)

(4)

4 閉塞性睡眠時無呼吸症候群用口腔内装置の治療効果とその関連因子 ( 42 ) Ⅲ.結果 1.治療効果 OA 治療前の AHI の平均値は 23.2±14.1 に対し,OA 治療後は 7.4±7.8 であり,有意に減少していた(図 5). 重症度別でみると,重症(18 名)では,治療前の AHI は 42.6±6.5 に対し,治療後の AHI は 8.3±8.9 と大幅な 減少を認めた.重症群を個別にみても,すべての症例で 治療後に AHI の値は減少し,18 名中 9 名で,AHI は 5 未満まで減少していた(図 6).中等症(19 名)では, 治療前 21.7±4.4,治療後 10.1±9.7,軽症(25 名)では, 治療前 10.3±2.9,治療後 4.6±3.5 であった.重症度別に 分けた場合でも,すべての重症度において AHI の減少 が有意であることが示された(図 6). AHI の重症度分類の変化については,OA 治療後に AHI の重症度が軽症化した減少群は 48 名,AHI の重症 度に変化がないか悪化した変化なし・増加群は 14 名で あった(図 7). 2.治療効果に関連する因子 垂直的挙上量のデータ欠落の 5 名を除いた 57 名(減 少群 43 名,増加群 14 名)のロジスティック回帰分析に 用いた各因子の値を図 8 に示す.OA の顎位については, 減少群 43 名の平均値は,前方移動量が 7.1±1.4 mm, 最大前方位に対する前方移動量の比率が 64.4±9.6 %, 垂直的挙上量が 6.6±1.3 mm であり,変化なし・増加群 14 名 で は そ れ ぞ れ,6.4±1.4 mm,64.6±6.6 %,6.4± 1.4 mm であった. OA の治療効果を目的変数とするロジスティック回帰 分析で,最終的に説明変数として選択されたのは,年齢, OA の前方移動量,治療前 AHI の 3 因子であった.回 帰式の相関係数は 0.60 であり,有意な相関が得られた (p=0.001).年齢,OA の前方移動量,治療前 AHI の 3 つの因子のオッズ比(p 値)は,それぞれ 0.91(p=0.032), 1.89(p=0.034),1.09(p=0.021)でいずれも有意であっ た(表 1). Ⅳ.考察 閉塞性睡眠時無呼吸症に対する口腔内装置について は,これまで一定の効果が示されて来ており,日本睡眠 歯科学会の「閉塞性睡眠時無呼吸症に対する口腔内装置 に関する診療ガイドライン(2017 年改訂版)8)」でも,

-5

0

5

10

15

20

25

30

35

40

OA治療前

OA治療後

図5. OA治療前後のAHIの変化 (n=62)

* : p<0.05

図 5 OA 治療前後の AHI の変化 (n=62)         * : p<0.05

0

10

20

30

40

50

60

70

0

10

20

30

40

50

60

70

重症

中等症

軽症

* * *

OA治療前 OA治療後

OA治療前 OA治療後

OA治療前

n=18

n=19

n=25

図6. 重症度別OA治療前後のAHIの変化 (* : p<0.05)

OA治療後

0

10

20

30

40

50

60

70

図 6 重症度別 OA 治療前後の AHI の変化(* : p<0.05)

(5)

全身咬合 2020,26(2),1─9 5 ( 43 ) 0 10 20 30 40 50 60 70 0 10 20 30 40 50 60 70

OA治療前 OA治療後

OA治療前 OA治療後

減少群

変化なし・増加群

図7. OA治療前後のAHIの重症度分類の変化 (n=62)

48名

14名

20201015修正後

(図7全体)

図 7 OA 治療前後の AHI の重症度分類の変化(n=62) 0 10 20 30 40 50 60 70 0 10 20 30 40 50 60 70 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 7.1±1.4mm (6) 性別 (7) 年齢 前方移動量 最大前方位に対 する前方移動量 の比率 (3) OAの下顎位 垂直的挙上量

61.9±11.5歳

変化なし・増加群

11.1mm 最大前方位

64.4±9.6%

64.6±6.6%

前方移動量 (mm) (mm) (mm)

減少群

(2) OAの種類 (1) 治療前AHI (4) OAの下顎位 (5) OAの下顎位 男性:27名(63%) 女性:16名(37%) 男性:8名(57%) 女性:6名(43%)

OA治療前 OA治療後 OA治療前 OA治療後

上下一体型:30名(70%) 上下分離型:13名(30%) 上下一体型:10名(71%) 上下分離型: 4名(29%) 6.4±1.4mm 6.6±1.3mm

25.9±14.5

16.1±11.4

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14(mm) 6.4±1.4mm 9.9mm 最大前方位 前方移動量 AHI AHI

43名

14名

図8. ロジスティック回帰分析に用いた各因子

20201015修正後

(図8全体)

図 8 ロジスティック回帰分析に用いた各因子

(6)

6 閉塞性睡眠時無呼吸症候群用口腔内装置の治療効果とその関連因子 ( 44 ) 口腔内装置で治療を行うことを推奨している.本研究の 結果でも,大部分の症例で AHI の減少を示し,OA 使 用開始前の AHI の平均 23.2 に対し OA 使用時は 7.4 と 有意な減少を認めた.参考として,OA 使用効果をコン トロールと比較した過去の 8 つの文献9〜16)の患者合計 243 人の平均を算出したところ,OA 使用開始前のベー スラインが 23.3 であり,OA 装着後は,12.0 であった. この数値からみても,本研究の OA の成績は良好なも のと考えられた.しかも,軽症,中等症だけでなく,重 症 OSAS 症例でも,大幅な AHI の低下を認めており, OA 治療は重症 OSAS に対しても治療の選択肢の1つ となり得ることが確認された.ロジスティック回帰分析 の結果で,重症度が効果にプラスの要素となる可能性が 示唆されていることからもこのことは推測できる. 前方移動量について,これまで最大前方移動量の 50 〜75 %程度を用いた報告6, 14, 17〜19)が多い.前方での顎 位の決定法に関しては,既製のコネクターを使用した上 下分離型の中には可動式で調整可能なものがあり,移動 量の調整,決定が比較的行いやすい.しかし,そのよう な既製装置を用いない場合に前方位で顎位を静止させ, 前方移動量に対する患者の感覚(許容できるかどうか) を確認しながら最終的な顎位を決定するのは容易ではな い.われわれは方法に記載したように,ゴシックアーチ 描記法を応用して下顎前方移動に伴う患者の感覚や口唇 の閉鎖の可否を確認しながら,咬合挙上量や前方移動量 を調整し,顎位を決定している.この方法を行うと,咬 合挙上量や前方移動量を正確に記録できるため,今回は, その数値を比較することにより,前方移動量や咬合挙上 量とAHIの変化の関係を細かく検討することができた. その結果,前方移動量は全被験者の平均で 7.0 mm(最 大前方移動量の64.2 %),垂直的挙上量が6.5 mmであり, 最大前方移動量の 75 % までの移動を許容できない患者 が少なくないことが示唆された. 前方移動量に関しては,最近のシステマティックレ ビュー20)では, 50 %前方位と 75 %前方位の比較をした 3 つの論文5〜7)を採用している.その比較研究は,前方 位 50〜75 % 間で差なしとした 2 論文5, 7)と apnea index (AI)が 5 未満で AHI が 10 未満に正常化したのは 75 % 前方位のほうが有意に高かったとした重症例対象の 1 論 文6)であった.レビューでは,これら 3 論文の全患者 の AHI を統合して平均値で検討した結果,全体では 75 %前方位での AHI が有意に低かったが,重症度で分 類すると,軽症から中等症では 75 %前方位よりも 50 % 前方位のほうが有利であったとまとめている.前述のよ うに 75 %まで前方に出すことを許容できない患者が存 在することから,50 %前方位と 75 %前方位の中間の前 方移動量と AHI の低減効果を検討することは意味があ ることと思われる.本研究で,減少群の最大前方位に対 する前方移動量の比率の平均値が 64.4 % であった結果 から,75 %前方位まで出さなくても前方位の効果が発 揮できる場合は少なくないことが示唆された. 日本睡眠歯科学会の閉塞性睡眠時無呼吸に対する口腔 内装置に関する診療ガイドライン(装置作製に関するテ クニカルアプレイザル:2020 年版)21)では,前述のシス テマティックレビュー20)を踏まえ,OA 製作時には 75 % 前方位から調整を始めることを推奨し,軽症から中等症 では 50 %前方位から始めても良いとしている.50〜75 % 前方位付近を細かく測定した本研究の結果でも,このガ イドラインの推奨はほぼ当てはまるものと考えられた. しかし,一方で,最大前方移動距離に対する比率表示は, 前方移動量自体よりも AHI 低減効果との関係性が弱い 可能性が,本研究のロジスティック回帰分析から示され た.このことは,例えば最大前方移動距離が極端に小さ い場合は,移動量を % 表示だけで判断すると十分でな い場合もあり得ることを示唆しており,今後,顎位を検 討する際には,最大前方移動距離に対する比率の % 表 示だけでなく,前方移動量自体にも注目することの重要 性を示すものと考えられた. 垂直的挙上量については,過去の論文で,開口するこ とにより下顎が後退し、舌と軟組織も後退して中咽頭径 が減少する22),睡眠中の上下切歯間距離が 15 mm 開口 すると中咽頭が狭窄する23)など,挙上量が大きくなる ことによる気道の狭窄への懸念を示す結果がいくつか報 告されている.OA の治療効果の比較研究では,挙上量 4 mm と 14 mm の OA で効果の違いなしとの報告24) あり,これまでの治療成績の研究で用いられてきたのは, 可及的に小さく平均 5.8 mm25),切歯間距離 9〜12 mm26) 切歯部で 5 mm27)などが報告されているが,ガイドライ ンなどで推奨される明確な至適挙上量はない.本研究で も,垂直的挙上量と AHI の低減効果との関係を示唆す る結果は得られなかった.そのため,患者の違和感,口 唇閉鎖の可否など他の要素を勘案して垂直的挙上量を決 定する対応は,今のところ否定されるものではないと考 えられた. オッズ比 95%信頼区間 P値 年齢 0.91 0.84-0.99 0.032 前方移動量 1.89 1.05-3.40 0.034 治療前AHI 1.09 1.01-1.17 0.021

表1. ロジスティック回帰分析結果 (n=57)

表 1 ロジスティック回帰分析結果(n=57) p

(7)

( 45 ) 年齢については,若いほうが OA の効果があるとの 報告28, 29)はこれまでもあり,今回,ロジスティック回 帰分析で多変量を勘案した場合でも,同様の傾向を得ら れたことから,OA の効果への年齢の関与はより確実な ものと考えられた. 上下一体型と開口可能な分離型間の比較について,こ れまでのシステマティックレビュー30〜33)では,OA の 形態に関しての有効性の差までは示唆されていなかっ た.最近のシステマティックレビュー34)では,2 つの 比較研究19, 35)を採用して,対象 24 人で OA 治療後の AHI が分離型 8.7,一体型 7.919),対象 16 人で OA 治療 後の AHI が分離型 9.87,一体型 6.5835)とわずかに一体 型が低い値であったこと,患者の好みや意向は一体型が 多かったことを示している.それを受けて,日本睡眠歯 科学会のガイドライン21)では,分離型よりも一体型を 弱く推奨している.本研究のロジスティック回帰分析で は,分離型と一体型の違いが効果に関与する傾向は認め られなかった.今回の分離型と一体型の選択については, 患者の希望なども踏まえ各症例に合わせて担当医が判断 したため,今後は,分離型と一体型の選択の無作為化な ど,選択の条件を整えた研究デザインが必要と考えられ る.また,分離型は,さらにいろいろな形状,種類に分 類されるため,それらを整理した検討も必要と考えてい る. 睡眠時無呼吸症候群の発症関連因子としては,骨格形 態,BMI,年齢,性別,その他の生活習慣など種々の要 因が考えられている.本研究のロジスティック回帰分析 では,性別,年齢は解析対象とできたが,まだ解析対象 としていない要素は残されている.これら要素を加え説 明変数を増やした多変量解析には,対象症例数の増数が 必要であり,今後の課題である. Ⅴ.結論 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)用口腔内装置 (OA)の治療効果とその関連因子を明らかにするため に, OA 治療を行った OSAS 患者 62 人について検討し たところ,すべての重症度群の OSAS 患者に対する OA 治療の有効性が示され,重症例でも OA が治療の選択 肢となり得ることが示唆された.OA の治療効果の関連 因子として,年齢,OA の前方移動量,治療前 AHI が 挙げられ,今後,OA の適応症や OA の下顎位を検討す るうえで,これらの条件への考慮が必要と考えられた. Ⅵ.謝辞 本研究のデータ集計に関してご協力いただいた岡田和 樹先生,谷内田 渉先生,上北広樹先生,町田友梨先生, 齋藤大嗣先生に深く感謝いたします. 本研究に関して,開示すべき利益相反状態はない. Ⅶ.文献

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(8)

8 閉塞性睡眠時無呼吸症候群用口腔内装置の治療効果とその関連因子

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参照

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