Journal of Japan Academy of Diabetes Education and Nursing Vol.24 No.2 pp.127∼134, 2020
資料
診療所に勤務する看護師の糖尿病腎症重症化予防のための
療養支援の実態
―A 県の糖尿病専門医が診療する診療所の看護師への調査―
Actual conditions of medical treatment support for nurses working in the clinic to prevent the
devel-opment of diabetic nephropathy
―Survey on nurses in clinic treated by diabetes specialists in A prefecture―
松本 智美
1古賀 明美
2Tomomi Matsumoto1
, Akemi Koga2
1
活水女子大学看護学部 Faculty of Nursing, Kwassui Women s University 2
佐賀大学医学部看護学科 Institute of Nursing, Saga University
【目的】診療所の看護師が行う糖尿病腎症重症化予防のための療養支援状況を明らかにすることである.【方法】糖尿病専門 医が診療する診療所の看護師を対象に,自記式質問紙調査票を配布し,回収は郵送法とした.【結果】研究対象者 91 名中 77 名を分析対象とした. 糖尿病腎症重症化予防のための療養支援をしている者は 54.5% で,『身体的・心理的・社会的理解への関わり』『薬物治療時の 支援』は,実施割合が高かった.『食事療法時の支援』『運動療法時の支援』では,8 割以上の看護師が聴く姿勢を示すなど食や 運動習慣を把握するために欠かせない看護技術を用いて実践していた.一方で,患者自身の生活に合わせた具体的な支援や副 作用を回避するための具体的支援,患者がセルフモニタリングできるよう支援する内容について実施率が低かった.【考察】診 療所の看護師が行う糖尿病腎症重症化予防のための療養支援内容は,同じ患者に継続して関わることのできるメリットを活か し,糖尿病腎症重症化予防のエビデンスとなる血糖や血圧管理に関連する具体的な療養支援内容について実施率を高める工夫 が必要である. キーワード:糖尿病腎症重症化予防,療養支援,診療所,看護師
I.緒言
わが国の慢性透析患者数は 329,609 名(日本透析医学会 統計調査委員会,2016)であり,近年患者数の延びは鈍化 してきている.しかし,新規透析導入患者の主要原疾患は, 糖尿病腎症が 43.2% と最も多く(日本透析医学会統計調査 委員会,2016),さらに「糖尿病が強く疑われる者」は,約 1000 万人と推計され 1997 年以降増加している(厚生労働 省,2016).つまり糖尿病腎症重症化により透析治療が必要 となる患者が着実に増加していると言える. 糖尿病腎症重症化予防は,2 型糖尿病患者を対象とした 調査 Kumamoto study で,HbA1c 値を 6.5% 以下に保つこ とが有効と推奨しており,また厳格な血糖管理や血圧管理 は糖尿病腎症の発症を抑制する(日本糖尿病学会,2016)と のエビデンスも確立していることから,糖尿病腎症重症化 予防は重要である. 糖尿病性腎症重症化予防プログラム(日本医師会,日本 糖尿病対策推進会議,厚生労働省,2016)において,都道 府県単位で行政,医師会,糖尿病対策推進会議,保険者な ど関係者の役割分担が示されており,A 県では「医師が患 者の保健・栄養指導を必要と判断するが,その病院ででき ない保健・栄養指導を医師に代わり医療保険者が行う」仕 組みを 2015 年度から導入(長崎県後期高齢者医療広域連 合,2015)しているが,その対象は後期高齢者に限られて いる.ハイリスク者対策の基準は,①レセプトから糖尿病 性腎症と思われる者,②HbA1c(NGSP)7.0% 以上または空 腹 時 血 糖 130 mg/dl 以 上 及 び 蛋 白 尿 2+以 上,③HbA1c (NGSP)7.0% 以上または空腹時血糖 130 mg/dl 以上及び血 清クレアチニン検査を行っている場合,eGFR50 ml/分/ 1.73 m2未満のいずれかに該当する者としている.2015 年 度の実施状況は,ハイリスク者対策の基準に該当する対象 者 1839 名中 34 名であり,そのうち 26 名から HbA1c 値と eGFR 値を指導前後で取得できた.その結果 HbA1c 値の改 善は 16 名(61.5%),eGFR 値の改善は 12 名(46.2%)であっ 連絡先:松本 智美 [email protected] 論文採択日:2020 年 6 月 22 日た(長崎県後期高齢者医療広域連合,2017).2017 年度には 「A 県糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を県・県医師 会・県糖尿病対策推進会議・県保険者協議会で策定し,新 規透析導入の予防に取り組んでいる.また,2012 年度の診 療報酬改定により「糖尿病透析予防指導管理料」が導入さ れ,施設基準が整った医療機関では医療チームにより糖尿 病腎症重症化予防の指導が行われている.しかし A 県内の 1504 医療機関(基幹病院:149 施設,診療所:1355 施設)の うち「糖尿病透析予防指導管理料」を申請しているのは 24 施設の基幹病院である(厚生労働省九州厚生局,2018).こ れは A 県における医師の地域偏在(特に離島)が影響して いると考えられる.つまり外来通院している全ての糖尿病 患者が,そのサービスを受けられる医療機関に受診してい るとは限らない.糖尿病腎症のように慢性合併症の重症化 を予防するためには,診療所などの幅広い医療機関におい て,糖尿病をもつ患者に対し,早い段階からの生活習慣の 見直しなどの療養支援が必要である.また,患者とかかり つけ医や薬局・病院・行政等との連携を目的とした糖尿病 連携手帳の活用も期待されている.そこで本研究の目的は, 診療所の看護師が行う糖尿病腎症重症化予防のための療養 支援状況を明らかにすることである.
II.研究方法
1.研究デザイン 実態調査研究. 2.用語の操作的定義 糖尿病腎症重症化予防のための療養支援とは,①患者の 身体的・心理的・社会的理解への関わり,②薬物・食事・ 運動療法時の支援,③日常生活行動への支援とする. 3.データ収集方法・期間 1)対象者 A 県内の糖尿病専門医が診療している診療所に勤務す る看護師(正看護師・准看護師・正規・非正規含む)とす る. 2)調査期間 2018 年 11 月∼2019 年 2 月 3)調査方法 A 県内の糖尿病専門医が診療している診療所(21 施 設)の施設長に研究調査の目的,内容,方法を記載した文 書を郵送した.また対象となる看護師の人数を把握するた めに返信用封筒を同封し,対象者の人数が記載された書類 及び承諾書の返信をもって施設長の承認とした.承諾を得 た 15 施設の施設長を訪問し,研究調査の説明書と自記式質 問紙調査票の配布を依頼した.アンケート調査票は無記名 とし,回収は返信用封筒を用いて投函する郵送法とした. 4)調査内容 (1)対象者の背景 性別・年齢・雇用形態・職位・免許の種類・実務経験年 数・現在の職場経験年数・資格の種類・施設内の糖尿病に 関する勉強会の開催頻度・ここ 5 年間での施設外における 糖尿病に関する研修会参加頻度について調査を行った. (2)糖尿病連携手帳の活用状況 糖尿病連携手帳(日本糖尿病協会)の活用の有無・記載 している職種(重複回答)・記載していない理由(重複回 答)について調査を行った. (3)糖尿病腎症重症化予防のための療養支援の状況 糖尿病腎症重症化予防のための療養支援の有無,糖尿病 腎症重症化予防のための療養支援により得られた患者情報 の活用(重複回答),糖尿病腎症重症化予防のための療養を 支援する患者の選択基準(重複回答)について調査を行っ た. (4)糖尿病腎症重症化予防のための療養支援内容 『糖尿病治療ガイド 2016-2017』(日本糖尿病学会,2016)や 『糖尿病診療ガイドライン』(日本糖尿病学会,2016),『糖尿 病に強い看護師育成支援テキスト』(日本糖尿病教育・看護 学会,2008)を参考に,修士の学位をもつ糖尿病看護認定 看護師が糖尿病看護の研究者の意見を得た上で,38 項目 (重複回答)を設定した.糖尿病腎症重症化予防のための療 養支援をしていると回答した対象者のみに質問した.それ ぞれの療養支援内容は,実施の有無で調査を行った. 4.分析方法 対象者の背景,糖尿病連携手帳の活用状況,糖尿病腎症 重症化予防のための療養支援の状況,及び糖尿病腎症重症 化予防のための療養支援内容 38 項目については,それぞれ の実態を示すために,その回答分布を度数と割合で記述し た. 5.倫理的配慮 対象となる医療機関の施設長及び対象者に対し本研究の ①目的,②方法,③研究協力の任意性と撤回の自由につい て,④個人情報の保護について,⑤研究成果の公表予定に ついて,⑥研究への協力に伴う利益及び不利益について, ⑦健康被害等の有害事象が生じた場合の対応について,⑧ 研究資金と利益相反及び研究協力者の費用負担は一切ない ことについて文書で説明した.自記式質問紙の回収は,対 象者に配布された文書に同封した返信用封筒を用いて投函 する方法とし,調査期間内に返送されたことをもって本研 究への同意とした.本研究は,括水女子大学倫理委員会の 承認(18−003 号)を得て実施した.表 1 対象者の背景 N=77 平均値±標準偏差 中央値(最小∼最大) n(%) 性別 女 75(97.4) 男 2(2.6) 年齢 43.8±9.5 44.0(23 ∼ 62) 20 歳代 6(7.8) 30 歳代 19(24.7) 40 歳代 31(40.3) 50 歳代 17(22.1) 60 歳代 4(5.2) 雇用形態 正規 59(76.6) 非正規 18(23.4) 職位 管理者 10(13.0) スタッフ 66(85.7) その他 1(1.3) 免許の種類 准看護師 32(41.6) 正看護師 44(57.1) 保健師(正看護師含む) 1(1.3) 実務経験年数 5 年未満 4(5.2) 5 年以上 10 年未満 11(14.3) 10 年以上 20 年未満 30(39.0) 20 年以上 31(40.3) 無回答 1(1.3) 現在の職場経験年数 5 年未満 28(36.4) 5 年以上 10 年未満 13(16.9) 10 年以上 20 年未満 30(39.0) 20 年以上 5(6.5) 無回答 1(1.3) 資格の種類 糖尿病療養指導士 8(10.4) 内訳 CDEJ のみ 3(3.9) LCDE のみ 1(1.3) 両方 4(5.2) 認定看護師(分野:糖尿病看護以外) 2(2.6) ケアマネジャー 3(3.9) 施設内の糖尿病に関する勉強会の開催頻度 1 回/月 10(13.0) 1 回/3 ヶ月 6(7.8) 1 回/年 5(6.5) 0 回 56(72.7) 施設外の糖尿病に関する研修会参加頻度 6 回以上/5 年 8(10.4) 4 ∼ 5 回未満/5 年 6(7.8) 1 ∼ 3 回/5 年 17(22.1) 0 回/5 年 43(55.8) 無回答 3(3.9)
III.結果
1.対象者の背景(表 1) 研究対象者 91 名中 79 名(回収率 86.8%)から回答を得 た.療養支援の質問内容 38 項目の内 8 割以上に欠損があっ た 2 名を除き 77 名(有効回答率 97.5%)を分析対象とした. 対象者は,女性が 75 名(97.4%),平均年齢が 43.8±9.5 歳,雇用形態は 59 名(76.6%)が正規職員であり,正看護 師は 45 名(58.4%)であった.実務経験年数は 61 名(79.2%) が 10 年以上であった.現在の職場経験年数は,10 年以上 20 年未満が最も多く 30 名(39.0%),次いで 5 年未満 28 名(36.4%)であった.糖尿病療養指導士の有資格者は,8 名(10.4%)であった.施設内の糖尿病に関する勉強会があ ると回答した者は 21 名(27.3%)であり,ここ 5 年間で施 設外の糖尿病に関する研修会に参加した頻度は,全く参加 していない者が 43 名(55.8%)で最も多かった. 2.糖尿病連携手帳の活用状況(表 2) 自施設で糖尿病連携手帳を活用しているかという質問に 対し,72 名(93.5%)が「活用している」と回答があった. 糖尿病連携手帳に記載している職種は,7 割以上が看護師 であった. 3.糖尿病腎症重症化予防のための療養支援の状況 (表 3) 糖尿病腎症重症化予防のための療養支援をしている者 は,42 名(54.5%)であった.療養支援をしてない者は 35表 2 糖尿病連携手帳の活用状況 N=77 n(%) 糖尿病連携手帳の活用 あり 72(93.5) 記載している職種 正看護師 60(83.3) 准看護師 51(70.8) 医師 31(43.1) ナースエイド 9(12.5) 事務員 1(1.4) なし 2(2.6) 記載していない理由 勧めておらず患者が持参していない 1 勧めても患者が持参しない 0 患者が持参しても記載する時間がない 0 糖尿病連携手帳の存在を知らない 0 無回答 2(2.6) その他 わからない 1(1.3) (注)重複回答 名(45.5%)で,その理由として最も多かったのは,「自信 がない」17 名(50.0%),次いで「ツールが っていない」14 名(41.2%),「業務上時間がとれない」11 名(32.4%)であっ た.今後どのような環境が整えば実施できるかという質問 に対し,「糖尿病に関連した資格を有する看護師(糖尿病療 養指導士・認定看護師・専門看護師等)の支援体制」と回 答した者が 21 名(60.0%)と最も多く,次いで「医師の指 示」10 名(28.6%)であった.『糖尿病腎症重症化予防のた めの療養支援により得られた患者情報の活用状況』は,「医 師に報告する」31 名(73.8%),「看護記録に残す」30 名 (71.4%),「カンファレンスにて多職種と情報共有する」11 名(26.2%)であった.『糖尿病腎症重症化予防のための療 養を支援する患者の選択基準』は,「医師の指示」が最も多 く 33 名(78.6%),次 い で「HbA1c が 6.5% 以 上」25 名 (59.5%),「早期腎症期(eGFR30 以上・微量アルブミン尿 30∼299 mg/gCr)」が 22 名(52.4%)であった.一方で, 「血圧が 130/85 mmHg 以上」は 20 名(47.6%)であった. 9 名(21.4%)の看護師は,食事の偏りや検査データの悪化 など「基準はないが気になる」と回答していた. 4.糖尿病腎症重症化予防のための療養支援内容(表 4) 糖尿病腎症重症化予防のための療養支援ありと回答した 42 名に対し調査を行った.糖尿病腎症重症化予防のための 療養支援内容の『身体的・心理的・社会的理解への関わり』 では,5 項目全てにおいて約 6 割の看護師が実施していた. 最も多かったのは,「患者の治療法(薬物・食事・運動)に 関する思いを傾聴する」36 名(85.7%),次いで「治療法が 変更(服薬開始・内服からインスリン療法に移行)した時 に関わる」33 名(78.6%)であった. 『薬物療法時の支援』では,最も多かったのは,「インス リン注射導入時自己注射できるように一連の手技を説明す る」36 名(85.7%),次いで「患者が問題に気づき対応でき るように低血糖時の対処法を伝える」35 名(83.3%)であっ た.一方「薬の服用や皮下注射を忘れた場合の対応策につ いて具体的に伝える」23 名(54.8%)が最も低く,それ以外 の 6 項目は全て 60% 以上の看護師が実施していた. 『食事療法時の支援』は,「患者の食習慣を把握するため に話を聴く」38 名(90.5%)が最も多く,次いで「患者の食 事療法に対する思いを傾聴する」34 名(81.0%),「患者が自 らエネルギー摂取の状態がわかるように適正体重を伝え る」27 名(64.3%)であった.8 項目の内「患者がシックデ イ時の対応策について具体的に伝える」,「患者自らが改善 点を見つけられるよう食事内容を一緒に振り返る」,「患者 自らが避けることができるよう糖質の多い食品を紹介す る」,「患者自らが食品を選択できるよう栄養バランスの知 識を提供する」,「患者自らが避けることができるよう塩分 の多い食品を紹介する」の 5 項目においては 60% 以下で あった.その他の支援に「栄養指導につなげる」が 3 名 (7.1%)あった. 『運動療法時の支援』は,「患者の日常生活の活動状況を 把握するために話を聴く」「運動習慣について把握するため に話を聴く」がともに 34 名(81.0%)であった.それ以外 の 6 項目である「無理なく患者が実施できる運動の種類を 伝える」「無理なく患者が実施できる運動の頻度を伝える」 「運動の量を伝える」「薬物の作用を考慮して運動の効果的 な時間を伝える」「患者自らが判断できるように運動を中止 した方がよい状態を伝える」「運動前のセルフチェック方法 について伝える」においては,60% 以下であった. 『日常生活行動への支援』は,「患者のライフスタイルを 把握するために話を聴く」36 名(85.7%)が最も多く,次い で「自分の体調変化に気づけるよう自宅での体重測定を推 奨する」33 名(78.6%)であった.10 項目のうち「血糖自 己測定値から血糖パターンを一緒に振り返る」「測定値(血 圧や血糖等)から体調に応じた生活調整ができるよう助言 する」「患者が予防的行動をとりやすいよう糖尿病腎症の病
表 3 糖尿病腎症重症化予防のための療養支援の状況 N=77 n(%) 糖尿病腎症重症化予防 のための療養支援の有 無 あり 42(54.5) なし 35(45.5) n=34 したいと思っているが,していない理由 自信がない 17(50.0) ツールが っていない 14(41.2) 業務上時間がとれない 11(32.4) 組織文化がない 9(26.5) 患者に時間がない 5(14.7) 医師の指示がない 4(11.8) したいと思わない 1(2.9) n=35 どのような環境なら実施できるか 糖尿病に関連した資格を有する看護師(糖尿病療養指導士・ 認定看護師・専門看護師等)の支援体制 21(60.0) 医師の指示 10(28.6) 施設の組織文化の変化 5(14.3) その他 指導に必要な知識を身につける 5(14.3) 無回答 1(2.9) 糖尿病腎症重症化予防 のための療養支援によ り得られた患者情報の 活用状況 あり 42(54.5) なし 35(45.5) n=42 医師に報告する 31(73.8) 看護記録に残す 30(71.4) カンファレンスにて多職種と情報共有する 11(26.2) 糖尿病腎症重症化予防 のための療養を支援す る患者の選択基準 あり 42(54.5) なし 35(45.5) n=42 医師の指示 33(78.6) HbA1c 値が 6.5% 以上 25(59.5) 早期腎症期(eGFR30 以上・微量アルブミン尿 30 ∼ 299mg/gCr) 22(52.4) 顕性腎症期(eGFR30 以上・顕性アルブミン尿 300mg/gCr 以上) 20(47.6) 血圧が 130/85mmHg 以上 20(47.6) 腎症前期(eGFR30 以上・アルブミン尿 30mg/gCr 未満) 18(42.9) 基準はないが気になる 9(21.4) (気になる内容) 食事の偏り 2(22.2) 検査データの悪化 1(11.1) (注)重複回答 態知識を伝える」「自分の身体状態と検査結果が結びつくよ う検査結果の説明をする」の 4 項目においては,60% 以下 であった.
IV.考察
1.対象者の背景について 本研究は,A 県内の糖尿病専門医が診療する診療所に勤 務する看護師を対象とした.年齢は 30∼40 歳代が 6 割以上 を占めており,全国の看護職員平均年齢 39.6 歳(日本医療 労働組合連合会,看護職員の労働実態調査報告書,2017)と ほぼ同じである.糖尿病療養指導士の有資格者は全体の約 1 割であり,ここ 5 年間での施設外の糖尿病に関する研修 会参加頻度において 5 割以上の者が 0 回であったことは, ライフサイクルからみると既婚,子育て世代にあるため, 休日や勤務時間外を利用し研修会に参加することが厳しい 状況にあることが影響しているとも考えられる.しかし今 回は婚姻や育児の有無は調査していないため不明である. 実務経験年数は,約 8 割の方が 10 年以上であり,実務経験 が豊富な看護師が多い.現在の職場経験年数は,10 年以上 20 年未満が最も多く,全国の看護職員平均勤続年数 9.9 年 (日本医療労働組合連合会,看護職員の労働実態調査報告 書,2017)と比べると勤続年数は長い傾向にある.つまり, 実務経験が豊富で同じ患者に継続的にかかわりやすい環境 にある看護師が多いと考えられる. 2.糖尿病連携手帳の活用状況について 糖尿病連携手帳は 9 割以上の施設が活用していた.糖尿 病連携手帳の所持率についての調査(岸本・ 田・大森他, 2013)はあるが,医療機関の活用状況についての調査はみ あたらなかった.今回,記載内容や活用方法については調 査していないため,他院との連携状況については不明であ表 4 糖尿病腎症重症化予防のための療養支援内容 N=42 n(%) 身体的・心理的・社会的理解への関わり 患者の治療法(薬物・食事・運動)に関する思いを傾聴する 36(85.7) 治療法が変更(服薬開始・内服からインスリン療法に移行)した時に関わる 33(78.6) 患者が初めて糖尿病と診断された時に関わる 28(66.7) 患者の検査データが悪化した時に関わる 28(66.7) 患者の支援者(家族等)との関係性に関する思いを傾聴する 25(59.5) 薬物治療時の支援 インスリン注射導入時自己注射できるように一連の手技を説明する 36(85.7) 患者が問題に気づき対応できるように低血糖時の対処法を伝える 35(83.3) 患者が問題を早期発見できるように典型的な低血糖症状を伝える 33(78.6) 患者が問題に気づき対応できるようにシックデイ時の対処法を伝える 30(71.4) 患者が薬物治療の効果を実感できるように身体の調子と関連づける 29(69.0) 患者が薬物治療の効果を実感できるように検査データを一緒にみる 27(64.3) 薬の服用や皮下注射を忘れた場合の対応策について具体的に伝える 23(54.8) 食事療法時の支援 患者の食習慣を把握するために話を聴く 38(90.5) 患者の食事療法に対する思いを傾聴する 34(81.0) 患者が自らエネルギー摂取の状態がわかるように適正体重を伝える 27(64.3) 患者がシックデイ時の対応策について具体的に伝える 22(52.4) 患者自らが改善点を見つけられるよう食事内容を一緒に振り返る 20(47.6) 患者自らが避けることができるよう糖質の多い食品を紹介する 18(42.9) 患者自らが食品を選択できるよう栄養バランスの知識を提供する 16(38.1) 患者自らが避けることができるよう塩分の多い食品を紹介する 16(38.1) その他(自由回答)栄養指導につなげる 3(7.1) 運動療法時の支援 患者の日常生活の活動状況を把握するために話を聴く 34(81.0) 運動習慣について把握するために話を聴く 34(81.0) 無理なく患者が実施できる運動の種類を伝える 24(57.1) 無理なく患者が実施できる運動の頻度を伝える 23(54.8) 無理なく患者が実施できる運動の量を伝える 22(52.4) 薬物の作用を考慮して運動の効果的な時間を伝える 19(45.2) 患者自らが判断できるように運動を中止した方がよい状態を伝える 16(38.1) 運動前のセルフチェック方法について伝える 11(26.2) その他(自由回答)理学療法士と連携 1(2.4) 日常生活行動への支援 患者のライフスタイルを把握するために話を聴く 36(85.7) 自分の体調変化に気づけるよう自宅での体重測定を推奨する 33(78.6) 自分の血糖の状態を客観的に知る為に血糖自己測定の手技を説明する 31(73.8) 自分の体調変化に気づけるよう自宅での血圧測定を推奨する 30(71.4) 喫煙の習慣がある患者には禁煙を勧める 27(64.3) 患者が問題に気づき対応できるようにシックデイについて説明する 26(61.9) 血糖自己測定値から血糖パターンを一緒に振り返る 22(52.4) 測定値(血圧や血糖等)から体調に応じた生活調整ができるよう助言する 22(52.4) 患者が予防的行動をとりやすいよう糖尿病腎症の病態知識を伝える 21(50.0) 自分の身体状態と検査結果が結びつくよう検査結果の説明をする 16(38.1) (注)重複回答 る. 3.糖尿病腎症重症化予防のための療養支援の状況に ついて 糖尿病腎症重症化予防のための療養支援をしていない者 のうち,9 割以上の者が「療養を支援したい」と考えていた. していない理由に,「自信がない」「ツールが っていない」 が上位を占めており,6 割の者が「糖尿病に関連した資格を 有する看護師(糖尿病療養指導・認定看護師・専門看護師 等)の支援体制」を望んでいた.このことから,診療所の 看護師が療養支援をするために,糖尿病に関連した資格を 有する看護師が求められており,糖尿病看護に対して自信 が持てるような支援や診療所で活用できるツールの充実な どの環境を整えることが必要と考えられる. A 県では,「糖尿病患者教育に関する知識及び技術の向 上を図る」「糖尿病の予防教育を進め,地域に貢献する」こ とを目的に,日本糖尿病療養指導士(CDEJ)295 名(2018 年 7 月 30 日現在)に加え,2017 年より医師会や糖尿病対策 推進会議の施策において,地域糖尿病療養指導士(LCDE) の育成を行っており,現在 145 名の LCDE が認定されてい る(長崎地域糖尿病療養指導士認定委員会,2019).今後も 有資格者を増やしていくことは必要である.一方で,幅広 い医療機関において療養支援を充実させていくためには, 有資格者の少ない診療所の看護師への支援体制の検討も必 要と考えられる. 糖尿病腎症重症化予防のための療養を支援する患者の選 択基準については,5 割以上の看護師が,「HbA1c 値が 6.5% 以上」や早期腎症期にある糖尿病患者を療養支援の対象者 として選択していた.このことは,糖尿病専門医の診療す る診療所という環境が看護師の意識の高さに影響している
可能性はあるが,今回は調査しておらず不明である.一方 で,「血圧が 130/85 mmHg 以上」を基準としている割合は 低かった.糖尿病腎症重症化予防のための療養支援を行う 基準として,今後血圧値を重視してもらえるような工夫が 必要であると考える. 4.糖尿病腎症重症化予防のための療養支援内容につ いて 『身体的・心理的・社会的理解への関わり』の 5 項目のう ち 4 項目,『薬物治療時の支援』は 7 項目のうち 1 項目を除 く 6 項目において 6 割以上の看護師が実践していた.糖尿 病看護に関わる臨床看護師の看護実践評価についての研究 では,有資格者(糖尿病療養指導士,糖尿病看護認定看護 師等)が約 6 割を占めており,「患者との日々のかかわりを 大切にしている」「患者自身の目標が達成できることを目指 している」「患者を身体的側面だけではなく心理・社会的側 面から生活者としてとらえている」項目において得点が高 かった(直成・片田・原島,2014).本研究では,有資格者 は約 1 割であったが,『身体的・心理的・社会的理解への関 わり』については,同様に,全体として高い実施率を示す 結果となった.つまり,『身体的・心理的・社会的理解への 関わり』は,資格の有無に影響されない看護師の専門性の 基盤となる療養支援ではないかと考える.『薬物治療時の支 援』については,「薬の服用や皮下注射を忘れた場合の対応 策について具体的に伝える」以外の 6 項目において実践率 が高かった.これは薬物治療に関連した説明や注意事項, 患者からの相談が多いことなどが影響しているのではない かと考えられる. 『食事療法時の支援』では 8 割以上の看護師が,患者が表 出しやすいよう聴く姿勢を示すなど食習慣を把握するため に欠かせない看護技術を用いて実践していた.また,食事 療法の基本である「患者が自らエネルギー摂取の状態がわ かるように適正体重を伝える」支援を 6 割以上の看護師が 実践していた.一方で,食習慣を踏まえた具体的な目標設 定につながるような支援や好ましい選択ができる情報の提 供などの項目については,実施率が低い傾向にあった.今 後,信頼関係を築けている強みを活かしてさらに患者自身 の生活に合わせた具体的・個別的な支援が実施できるよう 工夫することが課題と考える. 『運動療法時の支援』は 8 割以上の看護師が,患者の運動 習慣を把握するために欠かせない表出しやすい雰囲気づく りや聴く姿勢を示すなどの看護技術を用いて実践してい た.運動療法を決める要素である「無理なく患者が実施で きる運動の種類を伝える」「無理なく患者が実施できる運動 の頻度を伝える」「運動の量を伝える」については,5 割以上 の看護師が実施していた.一方で,低血糖をおこす可能性 のある時間をさけるなど副作用を回避するための具体的な 支援や運動による身体の変化が糖尿病の状態や合併症に悪 影響を及ぼさないように身体チェック方法の具体的な内容 を提供するなどの実施率は低い傾向にあった.これらの内 容は,生活状況を聞き取るための時間が必要であることか ら,業務上時間の確保が難しいことやより専門的な知識を 必要とすることが影響しているのではないかと考える. 『日常生活行動への支援』は,「血糖自己測定値から血糖 パターンを一緒に振り返る」「測定値(血圧や血糖等)から 体調に応じた生活調整ができるよう助言する」項目など, 血糖自己測定値や血圧値,検査値を患者がセルフモニタリ ングできるように支援する項目において実施率が低い傾向 にあった.「自分の身体状態と検査結果が結びつくよう検査 結果の説明をする」項目は,実施率が約 4 割と低い結果で あった.これは「検査結果の説明」が医師の診療時に実施 されており,医師の役割として認識されている結果ではな いかと推測される. 以上のことから『食事療法時の支援』『運動療法時の支援』 『日常生活行動への支援』については,より専門的な療養支 援内容について施設内だけでなく必要に応じた対応ができ るような環境や支援体制の確保も必要ではないかと考え る.診療所の看護師は,資格の有無に影響されない看護師 の専門性の基盤となる看護技術を用いた療養支援をもとに 糖尿病看護を実践している者が多いと考えられる.診療所 の看護師が行う療養支援内容は,同じ患者に継続して関わ ることのできるメリットを活かした療養支援内容を検討し ていくことも必要ではないかと考える.
V.研究の限界と今後の課題
本研究は,A 県の糖尿病専門医が診療する施設に限られ ている.また糖尿病の地域連携制度においては地域の特性 を踏まえ様々な方法があるため,結果を一般化することに は限界がある.今後は,糖尿病専門医が診療する施設以外 の診療所の検討も必要である.VI.結論
糖尿病患者への関わりに関する調査を行い,糖尿病腎症 重症化予防のための療養支援状況を明らかにすることを目 的に,糖尿病専門医が診療する診療所に勤務する看護師 77 名に対して自記式質問紙調査を行った. 糖尿病腎症重症化予防のための療養支援をしている者は 54.5% で,『身体的・心理的・社会的理解への関わり』『薬物 治療時の支援』の項目は,実施割合が高かった. 『食事療法時の支援』『運動療法時の支援』では 8 割以上の 看護師が,患者が表出しやすいよう聴く姿勢を示すなど食 事や運動習慣を把握するために欠かせない看護技術を用いて実践していた.一方で,患者自身の生活に合わせた支援 や副作用を回避するための具体的な支援,運動による身体 の変化が糖尿病の状態や合併症に悪影響を及ぼさないよう に身体チェック方法の具体的な内容を提供するなどの支援 内容は実施率が低かった.『日常生活行動への支援』は,血 糖自己測定値や血圧値,検査値を患者がセルフモニタリン グできるように支援する項目において実施率が低い傾向に あった. 診療所の看護師が行う糖尿病腎症重症化予防のための療 養支援内容は,同じ患者に継続して関わることのできるメ リットを活かし,糖尿病腎症重症化予防のエビデンスとな る血糖値や血圧管理に関連する具体的な療養支援内容につ いて実施率を高める工夫が必要である. 謝辞 本研究への参加に快く承諾し,ご協力くださいました対 象者の方々に心より感謝申し上げます.また,研究をご支 援くださいました,たきの内科クリニック院長 瀧野博文 先生ならびに施設長の皆様に深くお礼申し上げます. 本論文の内容の一部は,第 57 回日本糖尿病学会九州地方会に おいて発表した. 文献 小泉順二,多崎恵子,相川泉,稲垣美智子(2014),日本糖尿病療養指導士資 格と看護職のセルフエフィカシー.糖尿病,57(1), 10-15. 厚生労働省(2016),平成 28 年国民健康・栄養調査結果の概要.2018 年 7 月 30 日ア ク セ ス,https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10 904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou_7.pdf 厚生労働省九州厚生局,届出受理医療機関(2018),糖尿病透析予防指導管理. 2018 年 8 月 1 日アクセス,https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/gy omu/gyomu/hoken_nagasaki_ika.pdf 岸本一郎, 田康宏,大森洋子,西洋壽,萩原泰子,藤本年朗他(2013),大 阪府豊能医療圏における糖尿病実態と連携手帳所持率調査.糖尿病,56 (8), 543-550. 草間恵理,西澤千文,石津美紀,村井健太郎,小山貴夫,原口育美他(2016), 中信地域糖尿病療養指導士育成講習会を受講した看護職の背景と受講 後の活動.長野県看護研究学会論文集,36, 64-66. 長崎地域糖尿病療養指導士認定委員会(2019),概要.2019 年 9 月 14 日アク セス,https://lcde-nagasaki.jp/history 日本糖尿病学会(2016),糖尿病診療ガイドライン 2016.195-204, 南江堂. Shichiri M, Kishikawa H, Ohkubo Y, Wake N(2000), Long-term results of the
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