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SDGsの実現に向けたESDのあり方

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Academic year: 2021

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152 日本教育行政学会年報…No.…45(2019)

SDGs時代の「学び」のあり方

 これまでの社会のあり方に疑義が呈され,今日の世界が「持続不可能」に なってしまっているのではないかという懸念が高まり,2015年に国連で「持 続可能な開発目標(Sustainable…Development…Goals…:…SDGs)」が採択された。 このSDGs時代を生きる若者たちにとって,いかなる資質や能力を身につけ ることが大切になってくるのであろうか。すなわち,どのような資質・能力 をもった個人(=市民)を育て,それらの個人(=市民)がいかにして連携 すれば,この世界はより「持続可能」なものになっていくのだろうか。  今日の日本で教育に携わる多くの人が,これらの問いに対して大きな関心 を寄せている。2020年から順次改訂されていく新しい学習指導要領で提示さ れている,「主体的・対話的で深い学び」を通して育むべき資質・能力は, そうした関心に対するひとつの応答であろう。そこで示されている資質・能 力に関する考え方の根底には,体系化された「知識」や「スキル」を身につ けるだけでは,それらは容易に古くなってしまう可能性が高いという問題意 識がある。右肩上がりの「進歩」を前提とした近代的な世界観が通用しない 世界が,今日のSDGs時代である。そうした時代においては,ひとつの「正 解」を求めるだけでは,現実の複雑でダイナミックに変化していく世界を理 解することはできない。このような認識にもとづき,「失敗」も含めて多様 な学びの機会を逃さないことや,知識やスキルそのものというよりは,それ

■公開シンポジウム■

《報告4》

SDGsの実現に向けたESDのあり方

北村 友人

(東京大学大学院教育学研究科准教授)

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日本教育行政学会年報…No.…45(2019) 153 公開シンポジウム らの「学び方」を学ぶといったことが,今後さらに必要となってくる。  また,SDGs時代には,多様で異なる文化を柔軟に理解したり,創造的か つ革新的なアプローチで地球規模の課題などに挑戦していくことが求められ る。こうした時代的背景が「学び」のあり方に変容を迫っており,新学習指 導要領でも新しい学びの形として「持続可能な開発のための教育(Education… for…Sustainable…Development…:…ESD)」の重要性を指摘している。

ESDという教育のアプローチ

 ESDとは,自ら問題を発見し,それをどのように解決すべきかを,座学だ けではなく参加・体験型の学びを通して考えていく教育のアプローチであり, まさにSDGs時代に求められている学びのあり方である。ESDでは,環境, 開発,貧困,平和,人権など,今日の世界各地で人々が直面しているさまざ まな課題に対して,それらを学際的に捉え,体系的な思考で理解し,そこか ら課題解決の方策を導き出し,自己や社会の変容のための行動に繋げること が求められている(曽我,2013)。  こうした考え方にもとづくESDは,社会の課題と身近な暮らしを結びつ け,新たな価値観や行動を生み出すことで,子どもたちが「自立的対応力」 を育むことを目指している。そのためには,単なる知識習得ではなく,学習 者みずからの価値観を見つめ直し,よりよい社会づくりに参画するための力 を育むことが重要である。また,学校のみならず,企業,行政,NPO/ NGO,社会教育機関など,社会におけるさまざまな組織・機関が協働して ESDを実践していくことが欠かせない。  ESDは,新学習指導要領においても基盤となる理念であり,それを通して 育むことが求められている資質・能力(たとえば「多様性」「相互性」「有限 性」「公平性」「連携性」「責任性」といった概念の理解,「批判的に考える 力」「未来像を予測して計画を立てる力」「多面的・総合的に考える力」な ど)は,まさにSDGs時代の「学び」を通して身につけることが期待されて いる資質・能力と共通するものである(中央教育審議会,2016)。

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154 日本教育行政学会年報…No.…45(2019)  また,ESDでは,今日の世界で起こっている多様で複雑な問題を考えるこ とを学び手に促すような,領域横断的な学びが重視されている。すなわち, 環境,経済,社会・文化という3つの領域を別々に学ぶのではなく,それら の領域を「繋げる」ことで,対象となる問題をより深く検討することが可能 になる。そのため,これまでのESDの実践例のなかでは主として総合的な学 習の時間を使って行われてきたものも多いが,実際には教科の枠にとらわれ ることなく,さまざまな教科を結びつけながら行っていくことが必要である。  たとえば,環境破壊の問題を考える際に,その原因を誘発してきた要素と して,企業の生産活動によって放出された二酸化炭素や汚染された水や大気 の影響を無視することはできない。加えて,そうした生産活動を容認してき た行政や,大量生産を礼賛してきた社会の風潮など,環境問題を取り巻くさ まざまな領域の問題を「繋げて」理解することが不可欠である。このように, 「繋げる」ことによって,モノの見方が「広がる」ことが期待されているた め,教科横断型の学習が学校教育のなかでも今後さらに重視されていく。そ うした方向性は,まさに新学習指導要領のなかに見て取ることができる。  さらに,ESDを通して,そうした社会を持続不可能にしてしまうような諸 問題について,私たち一人ひとりが「他人事」ではなく「自分事」として捉 える態度を育むことも重要である。このような教育を実践していくことに よって,社会がより持続可能なものへと変容するように働きかけられる人間 を育てることが目指されている。

今後の展望-ESDという古くて新しいアプローチ

 このようなESDという教育のアプローチであるが,実は最近になって新た に実践されるようになってきたわけではない。たとえば,自由研究や調べも の学習といった形で,あるいは総合的な学習の時間や生活科といった教科を 通して,日本の教育現場ではここで示したような考え方に極めて近い形で教 育実践の積み重ねが行われてきた。そのため,領域横断的な学びのあり方や, それを通して育みたい資質・能力の中身は,日本の教師たちにとってそれほ

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日本教育行政学会年報…No.…45(2019) 155 公開シンポジウム ど目新しいものではないはずである。  しかしながら,「持続可能性」という概念を基軸に,今日の世界の(そし て地球の)持続可能性を脅かしている諸問題に対して,教科横断的な学びを 実践することは,多くの教師たちにとってやはり新しい取り組みになるとも 言える。ただし,そもそも各教科の教科内容が必ずしも十分に系統性をもっ てデザインされているわけではないなかで,無理やり「教科横断ありきのカ リキュラム編成」(阿部,2018)をしてはならないことにも留意する必要が ある。いずれにしても,新学習指導要領が導入されるにあたっては,ESDに 関する理解を現場の教師たちが深めることのできる研修や,ESDを実践する ための教材開発や教授法の検討などを行っていくことが,今後ますます欠か せない。  さらには,SDGsで提起されたさまざまな課題を解決していくうえで,教 育を通した人材育成や知の創出が不可欠である。「地球の限界」に対して, 破滅的な状況を回避し,人々がより「豊か」で安定した生活を送り,自然環 境がこれ以上悪化することなく,さらにはより健全な状況へと回復するため に,教育がどのような役割を果たすことができるのかを,ESDの実践を通し てさらに検討していくことが重要であることを,最後に指摘しておきたい。 〈参考文献〉 阿部昇(2018)「『カリキュラム・マネジメント』と教科教育の系統性-『教科横 断』の重要性と危険性-」「読み」の授業研究会『研究紀要』17,13-22頁 曽我幸代(2013)「ESDにおける「自分自身と社会を変容させる学び」に関する一 考察-システム思考に着目して-」『国立教育政策研究所紀要』第142集,101-115頁 中央教育審議会(2016)「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の 学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」

参照

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