.研究背景及び目的
2030 アジェンダが掲げる「持続可能な開発目標(SDGs):世界を変えるための 17 目標(ゴール)」の一つに「持続可能な生産消費形態を確保する(Ensure sustainable consumption and production patterns)」があり,『つくる責任 つかう責任』と示され ている。責任ある消費や法令遵守など,モラルや倫理観を身につけた消費者市民(事業者, 生産者を含む)の育成は,国際社会が持続可能な開発を実現するために不可欠といえる。 筆者らは,この持続可能な開発につながる「地球環境への配慮」や「人権の尊重」,「いの ちへの責任」,「共生」などの発想に立って,意思決定し,行動するために「法的かつ倫理 的,道徳的なものの見方,考え方」が必要であることを主張し,「リーガルリテラシーを 育む消費者市民教育」のカリキュラム開発(大本ら 2015 2016 2017)や教材作成(大 〔報 文〕
The objective of this study is to propose a moral education curriculum, aimed to nurture “consumer legal literacy” – one of the required literacies for citizen-consumers. The content is partially based on moral education curricula from Korea and Singapore. The educational guidelines from these two countries emphasize principles such as honesty, consideration for others, responsibility, justice, and equality. These principles as well as the requirements for consumer legal literacy were considered when creating this curriculum.
道徳教育(moral education),コンシューマー・リーガルリテラシー (consumer legal literacy),韓国(Korea),シンガポール(Singapore),
学習指導要領(educational guidelines) キーワード:
コンシューマー・リーガルリテラシーの基盤となる
道徳性を育む道徳教育
−韓国とシンガポールの道徳教育からの示唆−
The Moral Education to Nurture Consumer Legal Literacy:
Suggestions from Moral Education in Korea and Singapore
大本久美子
*・鈴木真由子
*(Kumiko Ohmoto) (Mayuko Suzuki)
* 大阪教育大学(Osaka Kyoiku University)
本ら 2017)に関連する研究を継続してきた。その中で,コンシューマー・リーガルリテ ラシー(CLL)を育む消費者教育で重点をおきたい教育課題を提示し,CLL の道徳的概 念を「規範意識・正義公正・権利義務・社会連帯・倫理的配慮」,道徳的要素を「責任感, 配慮,思いやりによって自らの行動に責任を持つ」「道徳,倫理,社会的正義の判断によっ て意思決定し,社会の一員として協働し社会参画できる」とした。このような CLL の基盤 となる道徳性を小・中学校の道徳教育でどのように育むことができるのか,その展望を明 らかにし,小・中学校における学習プログラムを開発することを本研究の目的としている。 そこで海外の道徳教育では,道徳的価値を考える姿勢や態度をどのように育んでいるの か,日本の「道徳」に相当する学習内容を扱う諸外国の教科及びその内容について検討し た。その結果,日本の小・中学校に相当する初等,前期中等教育に教科等を設置して道徳 教育を行っている国は,イギリス,フランス,中国,韓国,シンガポール,オーストラリ アであり(西野 2014),ドイツやアメリカも州によって,「倫理」や「人格(品性)教育」 を実施していた。 韓国は,全教育活動の「要」として道徳教育を位置づけ,我が国の道徳と内容構成が類 似している(関根 2014)。全人的な道徳性の発達や市民性の育成,知識理解や行動にお ける到達基準を示している点などから示唆点を探る。シンガポールは,教育を重要な投資 と位置づける教育先進国である。ナショナルカリキュラムの概念は,その中心に道徳性(市 民性)を配置しており(田中 2015),筆者らが構想しているカリキュラムイメージとの 親和性が高い。 以上の理由から,韓国とシンガポールの教育カリキュラムを参照した。 本稿では,これら 2 カ国のカリキュラムに焦点を当てて,CLL の基盤となる道徳性に 関連する学習内容や道徳的価値の育成方法から示唆を得て,小・中学校の学習プログラム 開発の一助としたい。
2.研究方法及び資料
はじめに,平成 29 年 3 月に改訂された小・中学校の新学習指導要領から,CLL の基盤 となる道徳性に関連する学習項目を抽出する。 次にそれらをふまえ,韓国の「道徳 教育課程(2015)」及びシンガポールの 2014 シ ラバス「Character And Citizenship Education(CCE)」を資料とし,CLL の基盤とな る道徳性に関連する学習内容の分析を行う。さらに 2017 年 11 月にシンガポール教育省 (Ministry of Education :MOE)の道徳教育担当者にヒアリング調査を行い,CCE の概要及び達成目標(学習成果)を確認した。
.結果と考察
(1)新学習指導要領における道徳の学習内容
けるための学習指導要領の一部改正が行われ,また平成 29 年 3 月に新学習指導要領が公 示され,小学校は平成 30 年度,中学校は平成 31 年度から「特別の教科道徳」が実施され ることとなっている(文部科学省 2017)。そのため,現在その授業の在り方が活発に議 論されているところである。特別教科化された道徳においては,従来からのテキスト(読 み物教材)を使用した授業形態や在るべき方向性を示唆するような学習ではなく,視野を 広げ,物事を多面的・多角的に捉え,多様な価値観に向き合い,道徳的価値を考える姿勢 や,それらを実現するための資質・能力(態度)を育むような学習が求められている。 学習指導要領においては,学校における道徳教育の目標は,特別の教科である道徳を要 として,全教育活動において,児童生徒一人一人の道徳的な判断力,心情,実践意欲と態 度などの道徳性を養うことが明記されている。小学校 6 年間 ・ 中学校 3 年間に児童生徒が 自己の生き方を考え,よりよく生きる力を育むうえで重要と考えられる道徳的価値を含む 内容項目をA「主として自分自身に関すること」 B「主として人との関わりに関するこ と」 C「主として集団や社会との関わりに関すること」 D「主として生命や自然,崇高 なものとの関わりに関すること」の 4 つに整理し,小学校低学年は 19,中学年は 20,高 学年は 22,中学校は 22 項目挙げている。 その中で,CLL の基盤となる道徳性に関連する内容項目を抜粋し,表 1 に整理した。 その結果,小 ・ 中学校でキーワードが若干異なるが,A「自由と責任,節度,節制」B「思 いやり,感謝,相互理解,寛容」C「遵法精神,公徳心,公正,公平,社会正義,社会参 画,公共の精神」D「生命の尊さ,自然愛護」などに関わる学習として,CLL の基盤と なる道徳性を育む道徳教育が可能であることが確認できた。 表 1 CLL の基盤となる道徳性に関連する学年段階・学校段階別学習項目 小学校1学年及び2学年 小学校3学年及び4学年 小学校5学年及び6学年 中学校 A 主として自分自身に関すること 善悪の判断 自 立 自由と責任 よいことと悪いこと との区別をし,よい と思うことを進んで 行うこと。 正しいと判断したこ とは,自信を持って 行うこと。 自由を大切にし,自 律的に判断し,責任 のある行動をするこ と。 自律の精神を重んじ,自主的 に考え,判断し,誠実に実行 してその結果に責任をもつこ と。 自主 自律 自由と責任 正直 誠実 うそをついたりごま かしたりしないで, 素直に伸び伸びと生 活すること。 過ちは素直に改め, 正直に明るい心で生 活すること。 誠実に明るい心で生 活すること。 節度 節制 健康や安全に気を付 け,物や金銭を大切 にし,身の回りを整 え,わがままをしな いで,規則正しい生 活をすること。 自分でできることは 自分でやり,安全に 気を付け,よく考え て行動し,節度のあ る生活をすること。 安全に気を付けるこ とや,生活習慣の大 切 さ に つ い て 理 解 し,自分の生活を見 直し,節度を守り節 制に心掛けること。 望ましい生活習慣を身につ け,心身の健康の増進を図り, 節度を守り節制に心掛け,安 全で調和のある生活をするこ と。 節度 節制 B 主として人との関わりに関すること 親切 思いやり 身近にいる人に温か い心で接し,親切に すること。 相手のことを思いや り,進んで親切にす ること。 誰に対しても思いや りの心をもち,相手 の立場に立って親切 にすること。 思いやりの心を持って人と接 するとともに,家族などの支 えや多くの人々の善意により 日々の生活や現在の自分があ ることに感謝し,進んでそれ に応え,人間愛の精神を深め ること。 思いやり 感謝
さらに,指導計画の作成と内容の取扱いにおいては,(5)・・・問題解決的な学習,道 徳的行為に関する体験的な学習等を適切に取り入れるなど,指導方法を工夫すること。(6) では,・・・例えば,社会の持続可能な発展などの現代的課題の取扱いにも留意し,身近 な社会的課題を自分との関係において考え,それらの解決に寄与しようとする意欲や態度 を育てるよう努めること。・・・等の文言が確認できた。加えて,小・中学校における道 徳教育・道徳科で育てることを目指す資質・能力に注目すると,「道徳的諸価値について の理解を基に,自己を見つめ,物事を多面的,多角的に考え,自己の生き方についての考 えを深める学習」を通して,「自立した人間として他者とよりよく生きる実践的な態度」 の基盤となる「道徳的な判断力や態度などの道徳性」を身につける学習を行うイメージが 提案されている。道徳科や各教科の「学びに向かう力・人間性等」に係る道徳性として, 相互理解 寛容 自分の考えや意見を 相手に伝えるととも に,相手のことを理 解し,自分と異なる 意見も大切にするこ と。 自分の考えや意見を 相手に伝えるととも に,謙虚な心をもち, 広い心で自分と異な る意見や立場を尊重 すること。 自分の考えや意見を相手に伝 えるとともに,それぞれの個 性や立場を尊重し,いろいろ なものの見方や考え方がある ことを理解し,寛容の心を もって謙虚に他に学び,自ら を高めていくこと。 相互理解 寛容 C 主として集団や社会とのかかわりに関すること 規則の尊重 約 束 や き ま り を 守 り,みんなが使う物 を大切にすること 約束や社会のきまり の意義を理解し,そ れらを守ること。 法やきまりの意義を 理解した上で進んで それらを守り,自他 の権利を大切にし, 義務を果たすこと。 法やきまりの意義を理解し, それらを進んで守るととも に,そのよりよい在り方につ いて考え,自他の権利を大切 にし,義務を果たして,規律 ある安定した社会の実現に努 めること。 遵法精神 公徳心 公正 公平 社会主義 自分の好き嫌いにと らわれないで接する こと。 誰に対しても分け隔 てなく,公正,公平 な 態 度 で 接 す る こ と。 誰に対しても差別す ることや偏見をもつ ことなく,公正,公 平な態度で接し,正 義の実現に努めるこ と。 正義と公正さを重んじ,誰に 対しても公平に接し,差別や 偏見のない社会に努めるこ と。 公正 公平 社会主義 勤労 公共の精神 働くことのよさを知 り,みんなのために 働くこと。 働くことの大切さを 知り,進んでみんな のために働くこと。 働くことや社会に奉 仕することの充実感 を味わうとともに, その意義を理解し, 公共のために役に立 つことをすること。 社会参画の意識と社会連帯の 自覚を高め,公共の精神を もって,より良い社会の実現 に努めること。 社 会 参 画 公共の精神 勤労の尊さや意義を理解し, 将来の生き方について考えを 深め,勤労を通じて社会に貢 献すること。 勤労 D 主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること 生命の尊さ 生きることのすばら しさを知り,生命を 大切にすること。 生命の尊さを知り, 生命あるものを大切 にすること。 生命が多くの生命の つながりの中にある かけがえのないもの で あ る こ と を 理 解 し,生命を尊重する こと。 生命の尊さについて,その連 続性や有限性なども含めて理 解し,かけがえのない生命を 尊重すること。 生命の尊さ 自然愛護 身 近 な 自 然 に 親 し み,動植物に優しい 心で接すること。 自然のすばらしさや 不 思 議 さ を 感 じ 取 り,自然や動植物を 大切にすること。 自 然 の 偉 大 さ を 知 り,自然環境を大切 にすること。 自然の崇高さを知り,自然環 境を大切にすることの意義を 理解し,進んで自然の愛護に 努めること。 自然愛護 新学習指導要領を参照して筆者作成
現代的課題を問題解決的な学習方法を用いて CLL の基盤となる道徳性を育むことは,道 徳的判断力,心情,実践意欲と態度の育成につながることが確認できた。 そこで,次に韓国の道徳教育で,このCLLの基盤となる道徳性がどのように扱われて いるかみていきたい。 (2)韓国における CLL の基盤となる道徳性 韓国の「教育課程(日本の学習指導要に相当)」は,その教科で何を目指しているのか, 小 ・ 中 ・ 高等学校を通してどのような力を育成しようとしているのかを 1 冊にまとめ,学 校級別に比較できることが,我が国の校種,教科別の学習指導要領と大きく違う点である。 「教育課程」において,道徳科は以下のように定義され,6 つの育成したい力が示され ている。 道徳科は学校において人性(人間性)教育の重要な教科である。道徳的人間で ありながら正義感も強い市民を理想の人間像とし,21 世紀を生きる韓国人とし て持たなければならない人性の基本要素である重要な価値を内面化し,経験から 始めて自分の現状を探究し,内面の道徳性を省察すると同時に,自分の生活の中 で実践する過程を追求する〝doing moral(道徳的に考えるだけでなく実践する ことまでを言う)〟の時間と空間を提供する教科である。 道徳科では,教育課程の総論で追求する重要な力のベースとして, .自分を尊重し愛する自主的な暮らしをし,自分の欲求や感情に打ち勝てる自 己尊重及び管理能力 .日常の問題を道徳的に認識し,道徳的判断及び推論の探究過程を経て妥当な 根拠を持って是非をわきまえることができる道徳的思考能力 .意思疎通過程で他人の道徳的な要求認識及び受け入れと理想的な意思疎通が できる共同体を目指して他人とともに生きていける道徳的対人関係能力 .道徳性を前提とし,自分の及び他人の感情を認識し配慮できる道徳的情緒能 力 .道徳の規範と情緒及び連帯感を根幹として自分が属している様々な共同体の 一員としての帰属意識を持って生きていける道徳的共同体意識 .日常生活で自分の暮らしを倫理的に省察しながら,道徳的価値と規範を持続 的に実践できる倫理的省察及び実践 を身につけようとしている。 (太字は筆者による) 小・中学校の道徳の教育課程に注目すると「誠実,配慮,正義,責任」の重要価値とそ れぞれの内容要素や到達目標が一覧表として整理されている。韓国の道徳教育の詳細は分
量の都合で別稿にまとめているため(大本ら 2018),それらを資料として,表 2 のよう に小・中学校の学習内容を整理した。現行教育課程の一つ前の「教育課程(2012)」では,「誠 実」の代わりに「尊重」が重要価値とされていた。それ以外の「配慮・正義・責任」の 3 つは同じである。CLLの道徳的概念として提案した「規範意識・正義公正・権利義務・ 社会連帯・倫理的配慮」が身につく「誠実・配慮・正義・責任」に関する内容要素を太字 網掛けにした。 学習指導要領の詳細を確認すると,生命倫理,情報倫理,環境倫理などの現代的課題が 扱われ,日々の実践力に繋がる学習方法や評価方法が示され,実効性が追求されていた(大 本ら 2018)。 物語を用いた授業では,価値規範や徳に関する理解を進化させ,道徳的問題解決に必要 な思考力や判断力を高める内容となっていた。偉人たちはどのように感情をコントロール してきたかについての逸話を共有する「模範事例に対する探究」,学級の重要な行事(課 外活動,運動会など)で感じた「感情を 1 人ずつ話す」,相手の感情を対話を通して見つ け出す「感情当てゲーム」などの学習事例が教科書に示されていた。さらに,道徳的な物 語は慈愛深い人間の姿で,学生たちの見本になるものであるため,教師は物語の内容を チェックしなければならないことや,学習者の興味を高めるためにロールプレイングやパ ントマイムなど,多様な方法を適切に活用すること等が学習指導要領の留意事項に明記さ れていた。 表2 小・中学校における韓国の学習内容〔重要価値と内容要素〕 分野 重要価値 内 容 要 素 3∼4学年 5∼6学年 中学校 自 分 誠実 勤勉,正直 時間管理と節約 忍耐 感情表現と衝動調節 自主,自立 正直な暮らし 道徳的な生活 道徳的な行動 自我アイデンティティ 生活の目的 幸せな暮らし 他 人 配慮 孝行,友愛 友情 礼儀 協同 サイバーマナー,遵法 共感,尊重 奉仕 家庭倫理・友情 性倫理 近所の人との生活 情報通信倫理 平和的葛藤解決 暴力の問題 社 会 正義 公益・遵法 公平性・尊重 統一意志・愛国心 人権尊重 公平性 統一意志 尊重,人類愛 人間尊重・文化の多様性 世界の市民としての倫理 道徳的市民・社会の正義 北朝鮮の理解 統一の倫理意識 自 然 責任 生命尊重・自然愛 美しさに対する愛 自我尊重,肯定的態度 倫理的省察 自然観・科学と倫理 命の大切さ・心の平和
(3)シンガポールにおけるCLLの基盤となる道徳性
シンガポールでは,21 世紀を生き抜くために必要な資質・能力を「21 世紀型コンピテ ンシー」とし,この 21 世紀型コンピテンシーを習得することで,学習者は教育期待目標 を達成することができると考えられている。教育省(Ministry of Education : MOE)が カリキュラムを策定し,各教科のシラバスを初等・中等教育別にカラー冊子にまとめてい る。以下は,2014 シラバス「Character And Citizenship Education(CCE)」初等・中 等の共通部分からの引用である。
21 世 紀 型 コ ン ピ テ ン シ ー は, 図 1 に 示 す 通 り,「Core Values( 価 値 )」,「Social and Emotional Competencies( 社 会 的・ 情 緒 的 コ ン ピ テ ン シ ー)」,「Skills Related to Citizenship Competencies(市民性コンピテンシーに関連するスキル)」の 3 つから構成 され,コンピテンシーをどういう価値の基に活用するのかということがわかりやすく示 されている。21 世紀型コンピテンシーの核として 6 Core Values 「RESPECT(尊敬)・ RESPONSIBILITY(責任)・RESILIENCE(回復力)・INTEGRITY(誠実)・CARE(配慮) HARMONY(調和)」を,Social and Emotional Competencies(社会的・情緒的コンピ テンシー)として「Self-Awareness(自己認識)・Self-Management(自己管理)・Social Awareness(社会的認識)・Relationship Management(他者との関係構築)・Responsible Decision-Making(責任ある意思決定)」の 5 つが示されている。
「Skills Related to Citizenship Competencies」の一つである「Civic Literacy,Global Awareness and Cross-cultural Skills(公民リテラシー・グローバル化の認識・異文化理 解能力)」をCCEで育成したい資質・能力として,その要素の具体を解説し,CCEの
学習成果として,以下の 8 つを提示している。紙面の都合で CCE の詳細には触れること ができないが,これら 8 つの Learning Outcomes や 21 世紀型コンピテンシーをカラー版 の観音折リーフレットにまとめるなど,道徳教育の目指す学習成果をすべての教員が共通 認識できる工夫もみられた。 以上のことから,シンガポールのナショナルカリキュラムの中核に道徳教育が位置づけ られ,6 Core Values を基本としてCCEカリキュラムが構成され,CLLの基盤となる 道徳性が教育の中心概念となっていることが明らかとなった。
.まとめと今後の課題
CLL の基盤となる道徳性が身につく学習の可能性を日本と韓国とシンガポールの学習 指導要領を中心に検討した結果,次のことが明らかになった。 ① 日本の小・中学校においては,道徳的諸価値についての理解を基に自己を見つめ, 物事を多角的・多面的に考え,自己の生き方についての考えを深める学習を通して, 道徳的な判断力,心情,実践意欲と態度を育てることが目指されている。CLL の基 盤となる道徳性を育むことは,道徳的判断力の育成に繋がる。学習内容にも「公正, 公平,社会主義」「規則の尊重」などが含まれ,道徳教育としての展開の可能性が確 認できた。 ② 韓国の道徳教育においては,生命倫理や環境倫理などの現代的課題が扱われ,学習 方法や評価方法が「教育課程」に盛り込まれて実効性が追求されている。「誠実・配慮・ 正義・責任」を 4 つの重要価値として位置づけ,それぞれの学年ごとに育成したい資 質・能力を明記していた。LO1 Acquire self-awareness and apply self-management skills to achieve personal well-being and effectiveness LO2 Act with integrity and make responsible decisions that uphold moral principles
LO3 Acquire social awareness and apply interpersonal skills to build and maintain positive relationships based on mutual respect LO4 Be resilient and have the ability to turn challenges into opportunities
LO5 Take pride in our national identity , have a sense of belonging to Singapore and be committed to nation-building LO6 Value Singapore’s socio-cultural diversity, and promote social cohesion and harmony
LO7 Care for others and contribute actively to the progress of our community and nation
LO8 Reflect on and respond to community, national and global issues, as an informed and responsible citizen
個人の幸福と力を得るために、自己を認識し、自己管理能力を身に付ける 道徳的原理で意思決定し、誠実に行動する 社会的認識を獲得し、対人関係能力を使って相互的信頼関係に基づいた良い関係を獲得、維持する 柔軟で臨機応変に対応できる能力を持つ 自分たちの国民性に誇りを持ち、シンガポールへの帰属意識を持って国づくりにコミットする シンガポールの社会文化的多様性を評価し、社会的結束と調和を促進する 他を労り、我々の地域社会や国家の発展に積極的に貢献する 知識・責任ある市民として地域をはじめ国内外の問題について考え、応答する
③ シンガポールのナショナルカリキュラムの中核に,道徳教育が位置づけられ,「尊敬・ 配慮・責任・誠実・回復力・調和」の 6 Core Values を基本として,CCEカリキュ ラムが構成されていた。 つまり,韓国とシンガポール 2 カ国の道徳教育では,日本の道徳の新学習指導要領に見 られる「誠実・配慮・責任・正義・公正」など,CLLの基盤となる道徳性と共通する概 念が確認できた。このことは,日本においても学校教育全体でCLLの基盤となる道徳性 の育成が可能であることの証左ともいえる。 消費者教育は学習内容が,家庭科や社会科などの教科内容に関連することが多く,これ らの教科で扱われることが多かった。しかし,今回の学習指導要領の改訂では,コンテン ツからコンピテンシーベースのカリキュラムに移行しようとしている。このタイミングを うまく捉えて,学校教育全体で教科指導をはじめとするあらゆる教育活動のなかで,CL Lの基盤となる道徳性を育むことが重要であることを強調しておきたい。つまり消費者教 育は,特定の教科のみで行うのではなく,道徳科はもちろん,学校教育全体で取り組む道 徳教育として各教科のなかで展開できることを本研究で確認した。 今後,小中学校の学習プログラムの開発に向けて,今回整理した学習内容や方法に加え, 評価方法なども参照し,実効性のあるカリキュラムを提案したい。 なお,本研究は科学研究費補助金【課題番号 17K04861】による研究成果の一部である。 引用・参考文献 中央教育審議会『諸外国における道徳教育の状況について』 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/096/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2013/05 /07/1334068_07.pdf(2017.12.20 閲覧) 韓国教育部「道徳 教育課程」2015,第 2015-74 号(別冊6)
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シ ン ガ ポ ー ル 教 育 省(MOE)2014,SYLLABUS CHARACTER AND CITIZENSHIP EDUCATION SECONDARY 鈴木真由子・大本久美子(2015),高等教育機関における“法教育”としての消費者教育,生活 文化研究,52,大阪教育大学家政学研究会,53 ∼ 59 鈴木真由子・大本久美子(2016),コンシューマー・リーガルリテラシーを育む消費者教育の検 討−オーストラリアのナショナルカリキュラムからの示唆−,生活文化研究,53,大阪教育大 学家政学研究会,49 ∼ 55 田中義隆(2015),第 8 章 シンガポールの挑戦―自ら学ぶ学習者の育成―,21 世紀型スキルと 諸外国の教育実践 求められる新しい能力育成,明石書店,173 ∼ 193