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1990年以降の奈良県の都市における農業の変化―都市農業振興基本法の施行をふまえて―

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Academic year: 2021

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要 旨  1990年以降,奈良県の都市においては農業経営基盤の脆弱化が確認された。その一方で, 生産緑地面積や専業農家数の減少については,一定程度の減少で収まっていた。主要作目 は稲となっている地域が多く,農業関連事業等への取組は直売を除くとそれほど多くはな いという地域的特性が把握された。生産緑地の指定については,改正生産緑地法施行に伴 う当初指定時に消極的な市が多く,平成の大合併の際に市施行した市も消極的であり,今 後の土地利用計画を策定する上での課題となろう。 キーワード:奈良県,生産緑地,1990年以降,都市農業振興基本法

Keywords: Nara Prefecture, productive green spaces, after 1990, Basic Law for urban agriculture promotion

1990年以降の奈良県の都市における農業の変化

都市農業振興基本法の施行をふまえて

石 原   肇

 

Change of the Agriculture in the City of Nara after 1990:

Investigation into on the Basis of the Enforcement

Basic Law for Urban Agriculture Promotion

ISHIHARA Hajime 

† 大阪産業大学 デザイン工学部 教授  草 稿 提 出 日 6月28日  最終原稿提出日 6月28日

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1 はじめに

 2015年 4 月に「都市農業振興基本法」が公布されてから 2 年余が経過した。都市農地・ 農業は,環境保全や防災,教育等の多面的機能を有することから,都市において極めて重 要なものとなっていることから議員立法により制定された。これまでの間,2016年 5 月に は,同法第 9 条に基づいて政府が定める都市農業の振興に関する施策の総合的かつ計画的 な推進を図るための基本的な計画となる「都市農業振興基本計画(以下,国基本計画とい う)」が閣議決定された(農林水産省・国土交通省,2016)。  国土交通省の報道発表によれば「本計画では,都市農地を農業政策,都市政策の双方か ら再評価し,これまでの「宅地化すべきもの」とされてきた都市農地を,都市に「あるべ きもの」ととらえることを明確にした」としている(国土交通省,2016)。国基本計画では, 都市農業振興基本計画の地方計画(以下,地方基本計画)の策定について,国の基本計画 や新たな都市農業振興制度も参考とし,都道府県および市町村による地方計画が可能な限 り早期に作成され,関連する施策との連携を図りつつ,地域の実情に応じた施策が推進さ れるよう,国から積極的に働きかけるとともに,必要な情報の提供等適切な支援を行うと している(農林水産省・国土交通省,2016)。   この国基本計画の閣議決定をふまえ,2016年11月には兵庫県で,2017年 3 月には埼玉 県と神奈川県,愛知県で地方基本計画が策定されている(石原,2017c)1)。今後,この国 基本計画の策定の後に,同法第13条に基づき,政府および地方公共団体は「土地利用計画」 を策定することとなる。国基本計画では,例えば,市街化区域から市街化調整区域への逆 線引きの促進,老朽化した建物のある土地の農地への転用など,従来にはみられなかった 土地利用に関する記述があり,政府が都市農業に関して根本的な転換を図ろうとしている ことが窺われる(石原,2016b)。今後策定される「土地利用計画」が将来にわたり都市農 地を保全していく上での鍵を握るものと推察される(石原,2015)。  これまで筆者は,三大都市圏の一つである首都圏の中心となる東京都を研究対象地域と して,1990年以降の都市農業の変化を把握した(石原,2014)。また,都市農業振興基本 法の施行をふまえ,近畿圏の中心をなす大阪府(石原,2016a)とそれに連なる京都府(石原, 2016b)や兵庫県(石原,2017b),中京圏の中心をなす愛知県について把握してきている(石 原,2017a)。  近畿圏は大阪府や京都府,兵庫県の他に奈良県も生産緑地法の特定市がある。ここで, 奈良県について地理学研究をみると,藤田・谷川(1978)による奈良県の農家の就業構成 と営農形態からの地域区分に関する研究,北畠による奈良盆地の住宅地化に関する研究(北 畠,1981)や奈良県農業の経済地理学的研究(北畠,2001)がみられる。しかし,都市農

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業振興基本法の制定をふまえての研究はみられない。  そこで,本研究では,日本の三大都市圏の一つである近畿圏を構成する奈良県を研究対 象地域とし,今後,地方公共団体が都市農業振興基本法に基づき策定する「土地利用計画」 のあるべき姿について検討を行う上で必要な基礎資料を得るため,1990年以降の農業の変 化の地域特性を把握することを目的とする。

2 研究対象地域および研究方法

(1)研究対象地域  1995年農業センサスによる奈良県の地域類 型を図 1 に示した。奈良県北部に都市的地域 が分布している。  つぎに,奈良県における生産緑地法の特定 市について図 2 に示した。1993年時点では, 奈良市と大和高田市,大和郡山市,天理市, 橿原市,桜井市,五條市,御所市,生駒市, 香芝市の10市が生産緑地法の特定市であっ た。その後,2013年においては,生産緑地法 の特定市は上記10市に葛城市と宇陀市の 2 市 が加わり,12市となっている。  このような状況をふまえつ つ,本研究では1990年以降の都 市における農業の変化を把握を 目的とすることから,研究対象 地域は,図 3 に示す奈良県にお ける2013年時点での特定市であ る奈良市と大和高田市,大和郡 山市,天理市,橿原市,桜井市, 五條市,御所市,生駒市,香芝 市,葛城市,宇陀市の12市と, これら特定市の周辺に位置する 平群町と三郷町,斑鳩町,安堵 町,川西町,三宅町,田原本町, 図1 農業センサスの地域類型(1995 年) 資料:農業センサス 1995 年より作成 0 10km 4 3 2中間農業地域 山間農業地域 平地農業地域 都市的地域 図 1  農業センサスの地域類型(1995年) 資料:農業センサス1995年より作成 図2 生産緑地法の特定市(1993 年、2013 年) 資料:奈良県資料より作成 0 10km 1特定市 特定市以外 1993年 2013年 図 2  生産緑地法の特定市(1993年、2013年) 資料:奈良県資料より作成

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上牧町,王寺町,広陵町,河合町,山添村の11町 1 村 とする。 (2)研究方法  各データについては,以下のとおり収集を行ってい る。経営耕地面積,農家数等については1990年,2000 年,2010年の世界農林業センサスのデータを,市別の 生産緑地面積については1993年,2003年,2013年の国 土交通省のデータを,市街化区域内農地面積について は1993年,2003年,2013年の奈良県のデータを用いて いる。これらの情報を図にすることで,1990年以降の 奈良県の都市における農業の変化を把握する。

3 結果および考察

(1)農地面積の推移  本研究対象地域の農地面積の推移 を図 4 に示した。1990年に18,789ha で あ っ た が,2000年 に は15,533ha, 2010年には12,170haと大幅に減少し ている。農地面積の推移の内訳をみ ると,田は 1990 年に14,711ha,2000 年に11,899ha,2010年に8,923ha, 畑は1990年に1,601ha,2000 年に 1,240ha,2010年に965ha,樹園地は 1990年に2,476ha,2000年に2,394ha, 2 0 1 0 年に2,282haとなっており, い ずれも減少しているが,田と畑の減少が著しい。  図 5 に,本研究対象地域における市町村別の農地面積の推移を示した。五條市と山添村 を除くと,いずれの市町も田が最も多く存在している。五條市と山添村は,樹園地が最も 多く存在している。 図3 研究対象地域 0 10km 1研究対象地域上記以外 図 3  研究対象地域 ha 年 図4 研究対象地域における農地面積の推移 資料:世界農林業センサスより作成 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000 1990 2000 2010 田 畑 樹園地 図 4  研究対象地域における農地面積の推移 資料:世界農林業センサスより作成

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(2)生産緑地面積の推移  つぎに,奈良県の特定市における市 街化区域農地面積の推移を図 6 に示し た。1992年に改正された生産緑地法に 基づき指定された本研究対象地域の全 体での生産緑地面積をみると,1993年 には約641haであったが,2003年には 約631ha,2013年には約621haとなって いる。指定から10年間ごとに約10haの 面積が減少する傾向にある。このこと から,生産緑地はほぼ保全はされてい るものの,わずかではあるが減少する 傾向にあるといえよう。  図 7 に,奈良県の特定市別の生産緑地面積と宅地化農地面積の推移を示した。1993年の 生産緑地面積をみると,奈良市が117.3haと最も多く,ついで橿原市の106.9haとなっており, それ以外の市は80haを下回っている。当初指定時に消極的な市が多い傾向にある。2003 年の生産緑地面積をみると,1993年と同様に奈良市が116.6haと最も多く,ついで橿原市 の104.1haとなっており,それ以外の市は80haを下回っている。2013年の生産緑地面積を みると,奈良市が109.3haと最も多く,唯一100haを上回っている。ついで橿原市が86.9ha ha 年 図6 奈良県の特定市の市街化区域内農地面積の推移 資料:国土交通省資料および奈良県資料より作成 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 1993 2003 2013 宅地化農地面積 生産緑地面積 図 6  奈良県の特定市の市街化区域内農地面積の推移 資料:国土交通省資料および奈良県資料より作成 図5 研究対象地域における市町村別の農地面積の推移 資料:世界農林業センサスより作成 2000年 1990年 2010年 0 8km 2,500 500 100 田 畑 樹園地 図 5  研究対象地域における市町村別の農地面積の推移 資料:世界農林業センサスより作成

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84 となっており,それ以外の市は80haを下回っている。平成の大合併の際に誕生した葛城 市や宇陀市の2013年の生産緑地面積は,葛城市で31.4ha,宇陀市で8.9haと小さい。 (3)農家戸数の推移と農業の特徴  つぎに,本研究対象地域における農家戸数の推移を図 8 に示した。本研究対象地域にお ける農家戸数の推移をみると,1990年に33,734戸であったが,2000年には27,704戸,2010 年には25,057戸と大幅に減少している。ただし,専業農家についてみると,1990年に3,207 戸であったが,2000年には2,067戸,2010年には2,670戸と一旦減少したものが,反転増加 しており,全体の農家戸数の減少割合 に比して,専業農家の減少割合は小さ くなっている。  また,本研究対象地域における2010 年の市町村別の一位部門別農家戸数を 図 9 に示した。果樹が一位部門である 農家戸数が最も多いのは五條市だけで ある。花き・花木が一位部門である農 家戸数が最も多いのは平群町だけであ る。その他については,稲作が一位部 門である農家戸数が最も多い。本研究 図7 奈良県の特定市別の生産緑地面積と宅地化農地面積の推移 資料:国土交通省資料および奈良県資料より作成 0 8km 400(ha) 200 50 生産緑地 宅地化農地 1990年 2000年 2010年 図 7  奈良県の特定市別の生産緑地面積と宅地化農地面積の推移 資料:国土交通省資料および奈良県資料より作成 戸 年 図8 研究対象地域における農家戸数の推移 資料:世界農林業センサスより作成 0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 1990 2000 2010 自給的農家 第2種兼業農家 第1種兼業農家 専業農家 図 8  研究対象地域における農家戸数の推移 資料:世界農林業センサスより作成

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対象地域では,農地の内訳をみると,五條市と山添 村を除くいずれの市町も田が最も多いが,市町村別 の一位部門別農家戸数の面からみても,ほとんどの 市町が稲作に重点をおいた農業生産を行っていると いえよう。  さらに,本研究対象地域の2010年の市町村別の農 業関連事業を行っている農家の状況を図10に示し た。農業関連事業に取り組む農家戸数は,奈良市が 749戸と最も多く,ついで宇陀市の552戸,五條市の 494戸となっている。いずれの市町村についても, 直売が最も多くなっている。直売以外の取組はそれ ほど多くなく,直売以外の農業関連事業についてみ ると,加工が比較的多く,ついで市民農園・体験農 園,観光農園が行われているものの,農家レストラ ンはあまりみられない。 図9 研究対象地域における一位部門別農家戸数(2010 年) 資料:世界農林業センサスより作成 0 8km 1,500 500 100 稲  作 露地野菜 施設野菜 果 樹 類 花き・花木 その他 図 9  研究対象地域における一位部門 別農家戸数(2010年) 資料:世界農林業センサスより作成 図 10 研究対象地域における農業関連事業を行っている農家の状況(2010 年) 資料:世界農林業センサスより作成 0 8km (%) 70 60 50 40 30 20 10 800 400 100 10 0 8km (%) 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 8km 100 50 10 農産物の加工 貸農園・体験農園 観光農園 農家民宿 農家レストラン 農家の戸数と農業関連事業を行っている割合 直売の割合 特徴的な農業関連事業を行っている農家の戸数 図10 研究対象地域における農業関連事業を行っている農家の状況(2010年) 資料:世界農林業センサスより作成

4 今後の課題

 本稿では,都市農業振興基本法の施行,国基本計画の閣議決定をふまえ,今後の「土地 利用計画」策定の検討を行う上での基礎資料とするため,1990年以降の奈良県の都市にお

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ける農業の変化を把握した。その結果,以下のことが明らかとなった。  1990年以降,奈良県の都市において農地の減少,特に田と畑の減少が顕著となっている。 特に面積の大きい田の減少を抑えることは急務といえよう。市街化区域内で減少した農地 の多くは宅地化農地であるが,生産緑地はほぼ保全はされているものの,わずかではある が減少する傾向にある。奈良県では農地や農家の減少などの農業経営基盤の脆弱化が確認 されたが,その一方で,生産緑地面積や専業農家数の減少については,一定程度の減少で 収まっており,今後の都市農業を振興する上での核となるものと考えられる。農業関連事 業等に取り組む農家の多くは直売であり,他の取組はそれほど多くはない傾向にある。  今後,奈良県においては,このような地域的特性をふまえた上で,都市農地を保全する ための「土地利用計画」を検討していく必要があるものと考えられる。また,生産緑地が 多く残る地域では,生産緑地をこれ以上減らさないですむような「土地利用計画」を検討 していく必要があるであろう。奈良県は総じて市街化区域内農地面積のうち宅地化農地面 積が占める割合が大きく,ことに新たに市となった場合,この傾向がより顕著にみられる。 国の都市農業振興基本計画では,市街化区域から市街化調整区域への逆線引きの促進との 記述もある。奈良県では「土地利用計画」の前段となる地方基本計画が策定されておらず, 都市農業振興基本法の規定に基づき策定を検討していく必要があるであろう2) 1 ) 埼玉県に地方基本計画の策定の見込みを問い合わせたところ 2017年 3 月末時点では, 2016年度内に地方基本計画を策定できるとの回答を得ていなかった。このため,石原 (2017c)では,地方基本計画の策定が確認できた神奈川県と愛知県,兵庫県を研究対 象としている。 2 ) 奈良県に地方基本計画の策定の見込みを問い合わせたところ,2017年 3 月末時点では, 策定の見込みがない旨の回答を得ている。 付記  本稿は,2016年度日本地理学会秋季大会(東北大学)で口頭発表した内容を修正・加筆 したものである。本研究は科研費(研究活動スタート支援)15H06741の助成を受けたもの である。 参考文献 石原 肇「1990年以降の東京都の都市における農業の変化」『地球環境研究』第16巻,

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2014年 3 月,21-36ページ。 石原 肇「東京の農業 この10年,これからの10年 -都市農業振興基本法の制定もふま えて-」『地理』第60巻第 7 号,2015年 7 月,14-22ページ。 石原 肇「1990年以降の大阪府の都市における農業の変化 -都市農業振興基本法の制定 をふまえて-」『日本都市学会年報』第50巻,2016年 5 月,307-314ページ。 石原 肇「1990年以降の京都府の都市における農業の変化 -都市農業振興基本法の制 定をふまえて-」『大阪産業大学学会論集 人文・社会科学編』第28号,2016年10月, 113-123ページ。 石原 肇「1990年以降の愛知県の都市における農業の変化 -都市農業振興基本法の制 定をふまえて-」『大阪産業大学学会論集 人文・社会科学編』第29号,2017年 3 月, 77-86ページ。 石原 肇「1990年以降の兵庫県の都市における農業の変化 -都市農業振興基本法の制 定をふまえて-」『大阪産業大学学会論集 人文・社会科学編』第30号,2017年 6 月, 51-60ページ。 石原 肇「神奈川県・愛知県・兵庫県の都市農業振興基本計画の比較」『日本地域政策学 会大会要旨集』第16号,2017年 7 月,32-33ページ。 北畠潤一「奈良盆地の北西部丘陵における住宅地化-1965 ~ 1976年-」『地理学評論』第 54巻第 8 号,1981年 8 月,437-447ページ。 北畠潤一「奈良県農業の経済地理学的研究」『奈良産業大学産業研究所報』第 4 号,2001 年 3 月,27-49ページ。 国土交通省「『都市農業振興基本計画』を閣議決定 ~農地を都市に「あるべきもの」へ と転換~」『国土交通省報道発表資料』,2016年 5 月。  (http://www.mlit.go.jp/report/press/toshi07_hh_000095.html 2017年 6 月28日確認) 農林水産省・国土交通省『都市農業振興基本計画』,2016年 5 月。 藤田佳久・谷川加余子「奈良県における農家の就業構成と営農形態からみた地域区分」『奈 良大学紀要』第 7 号,1978年12月,89-120ページ。

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