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消費者が広告を生成する時代 ─エージェントベースモデリングによる接近─

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1.は じ め に

人工知能(AI)への期待がさまざまなビジネス分野で 高まっており,マーケティングの主要な活動の一つであ る広告も例外ではない.AI という概念で括られる情報 技術のなかで,本稿ではエージェントベースモデリング (Agent-Based Modeling:ABM)あるいはマルチエー ジェントシミュレーション(Multi-Agent Simulation) と呼ばれる技術に注目する.消費者を取り巻くメディ ア環境が激変するなか,消費者生成形広告(Consumer-Generated Ads)と呼ぶべき新たなコミュニケーション 形態が登場している.マーケターがその生態を理解し効 果的な戦略を立案するには,ABM が有効であることを 論じたい. 1・1 消費者生成形広告の登場 メディア環境の変化において最も重要な現象の一つ は,ソーシャルメディアの普及であろう.それによって 消費者が自ら能動的に情報を発信するようになり,また 症状を消費する場面においても,別の消費者が作成した コンテンツの比率が増えている.多数の読者をもつ blog の書き手にはアルファブロガーという呼称が与えられ たが,最近では動画サイトでの再生回数が非常に多い ユーチューバーや画像共有ファイルのなかから発生した ファッションリーダなども注目されている.いずれも市 井の人々がメディア上で一定の影響力をもち始めたこと を示唆している.これは,従来型のマスメディアから消 費者へのエンパワーメント(権限委譲)だと解釈できる. これに対してマーケターは,影響力の強い一部の人々(イ ンフルエンサー)に商品を推奨させたり,彼らのサイ トに広告を掲載したりする,いわゆるインフルエンサー マーケティングを展開している [Agrawal 16]. 消費者へのエンパワーメントという流れに沿った広告 形態の一つがアフィリエイト広告である.アフィリエイ ト*1となった消費者は自身の blog やサイトに第三者の 商品の広告を掲載し,クリックされて商品が購買されれ ば一定の報酬を得る.掲載する広告はアフィリエイトが 選択する場合もあれば,記事に合わせてサーバから配信 される場合もある.前者の場合,どの商品を広告するか はアフィリエイトが決める.後者の場合,投稿記事の内 容が間接的に影響する.サイトへの訪問者がクリックす るだけで報酬が得られる Google の AdSense も,アフィ リエイト広告の一種といえるかもしれない. アフィリエイト広告市場はここ数年,年率 15%ほど で成長し,2016 年には約 2,000 億円の規模に達してい る [矢野経済 16].広告市場全体から見ればまだ小規模 だが,広告マネジメントにおけるパラダイム転換を促す という点で大きなポテンシャルを秘めている.従来,メ ディアのどこにどれだけ広告を掲載するかは広告主(あ るいは彼らから委託された広告代理店やメディア企業の 広告担当者)が決めていた.アフィリエイト広告ではそ の権限が消費者に移る.つまり,メディアにおける消費 者へのエンパワーメントが広告にまで及ぶのである. 広告における消費者へのエンパワーメントはアフィ リエイト広告に限られない.消費者から広告表現の案を 募り,コンペで選んだ優秀作を広告として流すなど,広 告表現(広告素材)を消費者に生成させる試みもある [Thompson 13].前述のインフルエンサーマーケティン グもまた消費者へのエンパワーメントといえる.影響力 の高いブロガーなどに働きかけ,自社に有利になる情報 を流させることは,厳密には広告ではなく PR に分類さ れる [Scott 07]*2.もちろん,インフルエンサーの blog やサイトに企業が広告を掲載する場合は紛れもなく広告

消費者が広告を生成する時代

─エージェントベースモデリングによる接近─

The Age of Consumer-Generated Ads: An Approach of Agent-Based

Modeling

水野  誠

明治大学

Makoto Mizuno Meiji University. [email protected]

Keywords:

advertising, affiliate, user-generated cintents, agent-based modeling, multi-agent simulation. 「広告と AI」

*1 日本ではアフィリエイターと呼ばれることもある. *2 したがって,正確には消費者生成形マーケティングコミュニ

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である.また,彼らがアフィリエイト広告を導入してい る場合もある. 1・2 消費者生成形広告の基本原理 消費者生成形広告が効果をもつ原理は,マス広告と本 質的には変わらない.どんな広告であれ,そのメッセー ジが商品とターゲットとなる消費者の間にポジティブな 関係を築くことを狙う点で共通する.その原理は,三者 関係に関する Heider のバランス理論で説明できる.図 1 のような「商品」,「消費者」,「メッセージ」の三者関係 では,明示的・暗黙的に商品を推奨する広告メッセージ に消費者が好意をもった場合,同時に商品を選好しない と三者関係はバランスしない [Heider 46]. 広告は本来,商品についての情報を消費者に伝えるこ とを目的とする.しかし,商品とは関係のないユーモラ スなストーリーや感動的なシーンを描いたり,有名なタ レントやキャラクタ,誰も可愛いと思う子供や動物を起 用したりする広告は少なくない.バランス理論にしたが えば,そこではストーリーやキャラクタへの好感が商品 への選好に転移することが期待されている. では,マス広告と消費者生成形広告の違いはどこにあ るのだろうか.マス広告はターゲットとなる消費者の数 が非常に多いので,誰もが好感をもつ素材をメッセージ に登場させる必要がある.しかし,一般受けする素材へ の感情は,往々にして広くて薄くなりがちである.この ことを図示したのが図 2(1)である.一方,消費者生 成形広告は,その blog やサイトを主宰する個人(有名 人の場合もあるが大半は無名の一般人)と強く結び付い た少数の読者をターゲットとする.商品が記事で推奨さ れている場合はもちろん,広告として扱われている場合 でも,ターゲットである読者は情報発信元である個人を 強く信頼しているので,影響を受けやすい(図 2(2)). とはいえ,アフィリエイト広告が広告であることには 変わりなく,読者によっては blog やサイトの記事とは 違う態度で臨むかもしれない.そうなると,バランス理 論のいうように,記事や投稿者に対する好意が商品への 選好に結び付く保証はない.また,アフィリエイトは報 酬を得るため嘘の記事を書いていると読者に思われた場 合,記事への信頼性はなくなり,アフィリエイト広告の 効果が失われるだろう. 広範なターゲットにメッセージを到達させるのに,マ ス広告が有効であることは今も変わらない.しかし,個々 の消費者を動かすには,アフィリエイト広告に代表され る消費者生成形広告がときとして有効である.したがっ て,マス広告と消費者生成形広告をともに補完的に用い, 広い範囲の到達と深い説得をともに実現することが考え られる.問題は,マスメディアが one to many なコミュ ニケーションであるのに対して,ソーシャルメディアは many to many なコミュニケーションであることである [Hoffman 00].いうまでもなく,many to many なコミュ ニケーションほど予測や制御がより難しくなる. 1・3 ABM による消費者生成形広告の理解 マスメディア全盛時代の広告マネジメントは,所与の 広告枠に対して目標を最大化するよう広告費を配分する という一種の最適化問題とみなすことができた(実際に は効果測定や広告枠の確保に無視できない不確実性があ り,最適化には困難があった).しかし,アフィリエイ ト広告では広告枠が多数のブロガーの行動によって変化 するので,企業が一方的に最適化するのはさらに難しい. こうした変化は,集権的計画経済から分権的市場経済 への移行にたとえることができる.したがって,複雑な 市場経済を理解するために ABM を活用した,人工市場 の研究から学ぶことは多い [和泉 00].ABM は,社会現 象を複数の自律的なエージェントの相互作用の帰結とし 図 1 バランス理論に基づく広告効果の理解 図 2 マス広告と消費者生成形広告の比較

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て捉える.アフィリエイト広告をモデル化するには,閲 読 blog を選択する読者エージェントと掲載する広告を 選択するアフィリエイトエージェントを設定し,彼らの 相互作用をシミュレーションすることが考えられる. 本稿では,このような発想に立って著者が以前行っ た,ABM を用いたアフィリエイト広告に関する研究 [Mizuno 14]の概要を紹介する.そこではエージェント は比較的単純な原理で行動する.ただし,それを特徴付 けるパラメータには,可能な限り実データが反映されて いる.ブロガーや読者のエージェントを特徴付ける選好 や行動上の制約については,実世界の消費者から観測し た情報を用いるのである.具体的には,2011 年にブロ ガー(アフィリエイトを含む)と blog 読者の双方に対 して行った Web 調査の結果を用いている [水野 12]*3 他方,読者と blog のリンクについては実際の行動を 観測できなかったので,仮想的な条件のもとでシミュ レーションを行い「可能な世界」(Could-be World)を 構成する.その結果,読者の blog 選択に関する条件し だいで,アフィリエイト広告市場がどう変化するかを検 討できる.ABM については近年,実データに基づく経 験的妥当性が関心を集めているが,本稿で紹介する手続 きはそれに対する一つの提案になる [Windrum 07]. なお,アフィリエイトプログラムに関する先行研究に は,アフィリエイトの選択 [Papatla 02] や報酬の決定 [Libai 03]を扱った研究があるが,アフィリエイトと読 者の相互作用により,市場がどう成長するかを扱った研 究は見当たらない.その点で,ここで紹介する研究は先 駆的であった.

2.モ  デ  ル

アフィリエイト広告を導入したブロガー(アフィリエ イト)と,blog 上のアフィリエイト広告から商品を購入 する可能性があるユーザ(読者)の 2 種類のエージェン トからなる世界を考える.以下では,エージェントの行 動ルールと相互作用のパターンについて述べる. 2・1 アフィリエイトの行動 このモデルでは,アフィリエイトエージェントは投稿 する話題を固定させたまま,広告する商品カテゴリー(広 告ミックス)だけを更新する.現実には,アフィリエイ トが収入の増加を狙って投稿の話題を変えることがあり 得る.しかし,そうするには一定の情報収集や勉強が必 要で,広告ミックスを変えるのに比べて時間や手間がか かる.そこで,今回はその可能性をないものとした. アフィリエイトエージェント i = 1, …, I の行動は,そ れぞれ以下の二つのベクトルによって特徴付けられる. 掲載広告のカテゴリー(広告ミックス): ait= (ai1t, ai2t,…,aikt,…,aiKt) (1) ここで aiktはアフィリエイト i が t(= 1, 2, …, T)期 に商品カテゴリー k(= 1, 2, …, K)の広告を自らの blog に掲載するなら 1,しないなら 0 をとる.なお,一つの blogで複数の商品を広告することは可能である. 投稿記事の話題(記事ミックス). bi= (bi1, bi2,…,bij,…,biJ) (2) ここで bijは,アフィリエイト i が blog に話題 j(= 1, 2, …, J)に関する投稿を行っている場合は 1,そうでな い場合は 0 をとる.一つの blog で複数の話題に言及す ることは可能とする.上述のように,各 blog の記事ミッ クスは時間によって変化しないものとする. 次に,アフィリエイトはどのように広告ミックスを更 新するかを考える.ABM の嚆こう矢しともいえる [Nelson 93] にならい,アフィリエイトエージェントはアフィリエイ ト収入が減少したとき,広告ミックスをランダムに変え るか,成功者のミックスを模倣するかのどちらかを実行 すると仮定する.広告ミックスの更新ルールの違いに基 づき,次の二つのタイプのエージェントを考える. i)ランダムウォーカー:収入が前期より減少した場合, 代替的な広告ミックスをランダムに探索する.その blogで掲載している広告をランダムに一つ選んで掲 載を中止し,別の商品カテゴリーをランダムに一つ 選んでその広告を掲載する. ii)イミテーター:収入が前期より減少した場合,自 分の blog と投稿記事の話題が最も類似するアフィ リエイトの上位いくつかを選び,そのなかで最も前 期の収入が多かったアフィリエイトの広告ミックス を模倣する(これまでの広告ミックスを置き換え る).話題の類似性は以下の式で計算する. j J SIMLi i, ′=1- =1|bij-bi′j|/ J (3) イミテーターが他のアフィリエイトの収入を知り得 るという設定は非現実的に見えるかもしれない.確かに ほとんどのアフィリエイトが収入を公開していないが, blogの訪問者数が blog 上のカウンタに表示されたり, blog紹介サイトでランキングが紹介されたりすることは 少なくなく,その場合,どのアフィリエイトの収入が多 いかをある程度は知ることができるはずである. 2・2 blog 読者の行動 このモデルでは,各読者が訪れる可能性がある blog は固定されている.そこに記事の話題に対する読者の選 好が反映される程度については,さまざまなケースを考 える(詳しくは 2・3 節で述べる).訪れた blog でアフィ リエイト広告から商品を購入するかどうかは,商品に対 する選好に基づく.したがって読者エージェント h = 1, *3 この調査の実施にあたっては,吉田秀雄記念事業財団の研究 助成を得た.記して感謝したい.

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…, H は,以下の二つのベクトルによって特徴付けられ る. 記事の話題への選好. uh= (uh1, uh2,…,uhj,…,uhJ) (4) ここで,uhjは blog 読者 h が話題 j(= 1, 2, …, J)の blog記事を選好するなら 1,そうでないなら 0 をとる. 商品カテゴリーへの選好. vh= (vh1, vh2,…,vhk,…,vhK) (5) ここで,vhjは blog 読者 h が商品 k の広告を選好する なら 1,そうでないなら 0 をとる.記事の話題,商品へ の選好はともに時間によって変化しない. blog読者の行動は以下のように設定される.訪れた blogで広告されている商品すべてについて,購買するか どうかを個別に決める.具体的には,その blog の広告ミッ クス(式(1))と自分の商品カテゴリーへの選好(式(5)) でともに値が 1 となる商品は選択候補になる.候補が一 つのときはそれを購入,複数の場合はどれか一つをラン ダムに選んで購入する.現実には商品によって価格が違 い,消費者によって予算制約が異なるから複数の製品を 購入する可能性があるが,ここでは無視する. 読者がアフィリエイト広告を通じて商品を購買する と,アフィリエイトには一定の報酬が支払われる.商品 の価格や報酬比率に差がないと仮定し,アフィリエイト が得る収入は当該 blog からの購入者数で表す. 2・3 blog─読者間ネットワーク 読者がどの blog を訪問するかは,記事への選好とと もにさまざまな要因が作用する.ここでは blog(アフィ リエイト)と読者のリンクは変わらないとし,ネットワー ク(2 部グラフ)として扱う.本研究が用いた Web 調査 ではブロガーと読者が独立に調査されているので,両者 の関係は直接観察されない.それを観察するには一種の スノーボールサンプリングが必要だが [池田 10],一般 の Web 調査で行うには費用が掛かりすぎる.そこで今 回は,仮想的なネットワークを構成して blog(アフィリ エイト)と読者を結び付けることにした. blog─読者間リンクで一つの極になり得るのは,記事 の話題に対する読者の選好を最大化するリンクである (そのとき生成される blog─読者間ネットワークを話題適 合的ネットワークと呼ぶ).現実には,読者は自分の記 事選好にとって最適な blog を完全に知っているわけで はないので,あくまで理想状態のネットワークである. blog─読者間のリンクのもう一つの極は,広告された 商品に対する読者の選好を最大化させるリンクである (商品適合的ネットワークと呼ぶ).一見非現実的に思え るが,読者のアフィリエイト広告からの購入経験データ に最も適合するという意味での現実性がある. さらに,blog と読者が完全にランダムにリンクされた ネットワークも一つの極になる.現実の blog- 読者間ネッ トワークは,これらの極の中間にあると考えられる.そ こで,blog─読者間のリンクは,話題適合性と商品適合性, そしてランダムネスを考慮した次の指標に基づき行われ るものとする.

mih=w1RANDih+w2TOPICih+w3PRODih

(6) ここで RANDih:(0,1)で一様分布する乱数 j J 1 1 bij uhj J = - = TOPICih | - |/ :話題適合性 (7) k K 1 1 1 aik vhk K = - = PRODih :商品適合性 w1+ + ≡w2 w3 - | |/ , w10 , w20 , w30 k K 1 1 1 aik vhk K = - = PRODih :商品適合性 w1+ + ≡w2 w3 - | |/ , w10 , w20 , w3 (8)0 blogの入次数,読者の出次数には,Web 調査に基づ く制約が与えられる(2・4 節).それらを満たし,かつ mijの値が大きな(i, h)間ほどリンクが張られるように 試行錯誤的にネットワークを構成する.そのとき,w = (w1, w2, w3)の値を変えることで,異なる性質の blog─ 読者間ネットワークが生成される.w=(1, 0, 0)のとき ランダムグラフ,w=(0, 1, 0)のとき話題適合的ネット ワーク,w=(0, 0, 1)のとき商品適合的ネットワークに なる. 2・4 実データとの対応 この研究が依拠する実データは,2011 年 12 月に実 施された二つの Web 調査から得られている.調査会社 のパネル(13 歳以上の Web ユーザ)から,月 1 回以上 blogに投稿し,アフィリエイトプログラムに参加してい る者 361 人を抽出した.彼らはアフィリエイトエージェ ントを構成する情報源になる.さらに同じパネルから, 最近 1 か月以内に blog を 1 回以上閲読し,かつ半年以 内に 1 回以上アフィリエイト広告をクリックして購入し たことがある者を 412 人抽出した.読者エージェントの 情報源である.なお,ここでの分析では用いていないが, blogに投稿しているがアフィリエイトでない者,blog の 読者だがアフィリエイト広告から購入したことがない者 にも調査を行っている. 調査で観測された消費者間の異質性を保存するため, 回答を集計するのではなく,各個人に対応するエージェ ントを生成した.回答者を 1 対 1 でエージェントに割り 当てるのではモデルの規模が観察データに拘束されるの で,各調査の回答者から一定数をランダムに復元抽出し, 個々のエージェントに割り当てた.この方法はブートス トラップ法 [Efron 93] と類似しており,分析結果の信頼 区間を求めるような応用も考えられる. 以上のように生成されたエージェントは,Web 調査の 回答者から以下の情報を継承している.

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1)アフィリエイトの場合 ・ 投稿記事ミックス:アフィリエイトが blog で取り 上げる話題(29 項目,複数回答). ・ 広告ミックスの初期値:アフィリエイトが広告掲載 経験のある商品カテゴリー(11 項目,複数回答). ・ blog─読者間ネットワークでの blog の入次数・・・ 全読者の訪問 blog 数を,アフィリエイトが回答し た blog のページビューに比例するよう按分する. 2)blog 読者の場合 ・ 記事の話題への選好:blog 読者がふだん閲読してい る blog の話題(29 項目,複数回答), ・ 商品カテゴリーへの選好:読者がアフィリエイト広 告からの購入経験がある商品カテゴリー(11 項目, 複数回答). ・ blog─読者ネットワークにおける読者の出次数: blog読者がよく訪問する blog 数.

3.シミュレーション

アフィリエイトが広告ミックスを更新するルールと blog─読者間ネットワークの形成原理がアフィリエイト の収入に与える効果を示すため,以下のようなシミュ レーションを行った. 3・1 パラメータ設定と計算手順 2・1 節で述べたように,アフィリエイトエージェント にはランダムウォーカーとイミテーターの 2 類型が存在 する.シミュレーションではランダムウォーカーの混合 比 g について 0.1,0.3,0.5,0.7,0.9 の 5 水準を用意し, それによるアフィリエイトの平均収入の変化を見る. blog─読者間ネットワークは,ランダムネス,話題適 合性,製品適合性の 3 基準を考慮して構成される(2・3 節).その際のウェイト w =(w1, w2, w3)は,表 1 のよ うな七つの組合せが用意される.すなわち,いずれかの 基準だけでネットワークを形成した場合(代替案 1, 3, 7),二つの基準を同等に考慮して形成した場合(2, 4, 6), 3基準を同等に考慮した場合(5)である. シミュレーションの計算手順は以下のとおりである. ①  エージェントの生成:2・4 節で述べた手続きに従 い,アフィリエイトに対する Web 調査の回答(N= 361)から 100 人のアフィリエイトエージェントを, blog読者でアフィリエイトからの購入経験者(N= 412)から 1 000 人の読者エージェントを生成する. この抽出を繰り返して 50 個の(ブートストラップ) サンプルを生成する. ②  ネットワークの生成:w =(w1, w2, w3)の組合 せ(表 1)ごとに,①で生成されたアフィリエイト と読者の間にリンクを張る.w の組合せは 7 通りあ るので,①で生成されたエージェントの各サンプル に対して七つのネットワークが生成される. ③  広告ミックスのルール割当て:エージェントの サンプルと w の組合せのペアに対して,ランダム ウォーカーの混合比 g の 5 水準を試す.所与の g のもと,アフィリエイトエージェントはランダム ウォーカーかイミテーターに割り当てられる.いっ たん一人のアフィリエイトエージェントに割り当て られたルールは,時間によって変化しない. ④  イタレーション:①~③を所与として,⑤の計算 を 20 回繰り返す. ⑤ エージェントの通時的行動:2・1 節,2・2 節で設 定されたルールに基づき,各エージェントは 30 期 にわたって意思決定を繰り返す.アフィリエイト エージェントは,収入が減少したとき割り当てられ たルールに従い広告ミックスを更新する.blog 読者 エージェントはリンクしている blog のどれかを期 ごとに訪れ,広告されている商品から選好に従い購 入するものを選ぶ. 以上の手続きを整理したものが図 3 である. 3・2 収入の時系列推移 上述のような設定でシミュレーションを行い,ネット ワークの性質が変わったとき,アフィリエイトの平均収入 の推移がどう変わるかを比較しよう.図 4 に示されるよ うに,blog─読者間リンクがランダムな場合[ w =(1 0 0)], 初期のアフィリエイトの収入は非常に少ない.収入が前 期より減少したアフィリエイトは広告ミックスを更新 する.ほとんどのアフィリエイトがイミテーターならば 図 3 シミュレーションの流れ 表 1 ウェイト w の値の代替案

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(g = 0.1),平均収入は単調に増加し,ある水準に収束 する.一方,ほとんどのアフィリエイトがランダムウォー カーならば(g = 0.9),収入は一時的に急増し,変動を 繰り返しながら一定の水準(g = 0.1 のときよりも高い) に収束する.図では省略したが,g > 0.1 でもほぼ同じ パターンになるので,ランダムウォーカーが一定比率以 上いれば,アフィリエイトの平均収入は高くなる. では,blog と読者が話題適合的ネットワークで結ばれ ているときはどうなるか [ w=(0 1 0)].アフィリエイ トのほとんどがランダムウォーカーならば(g = 0.9), ランダムなネットワークのときに比べ平均収入の変動が 大きくなり,最終的に収束する水準が低くなる.しかし, 見た目の変動パターンはさほど変わらない.blog と読者 の関係がランダムか話題適合的であるかは,今回のデー タを前提にする限り,アフィリエイト収入の推移に顕著 な差を生み出さない. 顕著な違いが見られるのは,blog と読者が商品適合的 ネットワークで結ばれるときである [ w=(0 0 1)].こ のとき,アフィリエイト収入は最初の段階で高くなる. これは,blog の広告ミックスに合う商品選好の読者とリ ンクさせているので,当然の結果といえよう.しかし, 収入を減らしたアフィリエイトが広告ミックスを更新す る結果,アフィリエイトの平均収入は大きく変動し,最 初より低い水準に収束していく.イミテーターがほとん ど(g = 0.1)なら収束は早い.しかし,ランダムウォー カーが多い(g = 0.9)なら変動がしばらく続く.収束 した水準は,後者のほうが高い. 三つの基準を均等に考慮して構成されたネットワーク では [ w=(1/3 1/3 1/3)],アフィリエイトの平均収入は 初期と収束後でさほど変わらない.ただし,イミテーター がほとんど(g = 0.1)なら収入はいったん低下して収 束に向かうが,ランダムウォーカーが多い(g = 0.9) なら変動がしばらく続く.ランダムウォーカーは解の探 索範囲が広いので,彼らが一定比率いると収入の変動は 大きくなるが,最終的により高い水準に到達する. 3・3 平均累積収入の比較 アフィリエイトの収入は最初は大きく変動したとして も,広告ミックスの更新を経ていずれ定常状態に収束す る.したがって,アフィリエイト収入への総合的なイン パクトを評価するには,一定期間の収入を累積したほう がよい.図 5 は,30 期までの累積収入の平均を w と g ごとに比較したものである.商品適合性を一定程度考慮 した(w2> 0)ネットワークほどアフィリエイトの平均 累積収入が高くなるのは,前述のように自明といえる. 興味深いのは,商品適合的ネットワーク [ w =(0 0 1)] よりも,ネットワークにランダムネスが加わり [ w =(1/2 0 1/2)],かつアフィリエイトにランダムウォーカーが多 い(g = 0.9)ほうが累積収入が平均して高くなること だろう.ランダムネスがあるネットワーク(w1> 0)では, いずれもランダムウォーカーが多いほうが累積収入が増 える.また,どのネットワークでも,ランダムウォーカー が少ない(g = 0.1)と,累積収入が小さくなる.したがっ て,blog と読者のリンクにおいても,アフィリエイトが 広告ミックスを更新するルールにおいても,ランダムネ スが大きいほうがアフィリエイト市場は拡大するのであ る. 3・4 収入のエージェント間格差 前節ではアフィリエイトにランダムウォーカーが多く いると,アフィリエイトの平均収入が増加することを見 た.ということは,個々のアフィリエイトにとっても, ランダムウォーカーのルールを採用していたほうが,最 終的な収入を高くすることができるのだろうか.図 6 は, ランダムウォーカーの期ごとの平均収入をイミテーター のそれで割った比を示す(累積収入が大きくなる w= 図 4 アフィリエイト一人当たり収入の推移 図 5 一人当たり累積収入の比較

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(0 0 1)と w =(1/2 0 1/2)のネットワークの場合だけ を取り上げた).いうまでもなく,平均に差がなければ 比は 1 になる. この図を見ると,比較的早い時期にはランダムウォー カーの平均収入はイミテーターのそれを上回るが,最終 的にその差はなくなることがわかる.イミテーターは, 初期に成功したランダムウォーカーの広告ミックスを模 倣するので,最終的に平均収入の差は消えてしまう.もっ とも,累積収入には初期の差は残っているはずである.

4.議   論

以上のようなシミュレーションから得られた知見を整 理してみよう.第一に,アフィリエイト市場は今後,ど のような条件のもとで拡大するだろうか.blog と読者の ネットワークが商品適合的でない場合,そのままではア フィリエイト広告は購買にさほどつながらない.しかし, 少なからぬアフィリエイトが望ましい広告ミックスをラ ンダムに探索する結果,全体として収入は増加する.こ れは,読者の blog 選択に,記事への選好以外の諸要因 が影響し,ランダムネスが加わることで加速される.ア フィリエイト広告市場の成長には,個々のエージェント のローカルな試行錯誤が重要であることがわかる. 収入を増加させたいアフィリエイトにとって,成功し ているアフィリエイトを模倣して,一般に購入可能性の 高そうな商品を広告することは一見有効そうに見える. しかし,シミュレーションが示したのは,そうしたアフィ リエイトばかりだと市場は全体として活性化しない.模 倣は,問題について満足のいく解が,すでにかなり探索 されているときのみ有効なのである.そうでない場合は, 本来可能であった成長の芽を摘むおそれがある. 多くのアフィリエイトは,自分の blog を訪れる読者 の記事への選好について,ある程度想像できるはずであ る.したがって,記事の話題と関連する商品を広告す るのが常識的な戦略である.しかし,冒頭で言及した Heiderのバランス理論は,別の可能性を示唆している. 読者が記事への選好に基づいて blog を選択している限 り,その blog に好意をもっているのは間違いない.し かし,そこで記事とはあまり関係のない広告を掲載した としても,バランス理論の予言どおり,blog への選好が 商品へと転移する可能性がある.それが結果として,記 事と商品に関する一筋縄ではいかない結び付きを生み出 したかもしれない.それを掘り起こすのに,ランダムな 試行錯誤が有効だった可能性がある. シミュレーションの結果を眺めると,アフィリエイト 全体の平均収入は,初期に拡大した場合ほど収束したあ とも相対的に高い水準で推移することがうかがえる.つ まり,初期の成功は持続効果をもつのである.もっとも, 個人レベルで見ると,早い時点で収入を増やしたアフィ リエイトが,その後もその優位性を維持できるわけでは ないことがわかる.累積収入の差は,早い時点での差が 残ったものだといえる. 多くのアフィリエイトが高い収入をもたらす広告ミッ クスに到達したとすれば,それはネットワークが商品適 合的になったことに等しい.こうした状態への移行を, アフィリエイトの個人的努力ではなく,アフィリエイト プログラムを提供する企業のサポートとして行うことが できれば,アフィリエイト広告市場はこれまでとは違う, 新たな段階を迎えることになるだろう. 本稿で紹介したモデルは,アフィリエイト広告につい てかなり単純化された設定に基づいている.アフィリエ イト広告のメカニズムをより包括的に把握するには,モ デルの拡張が必要なことはいうまでもない.例えば,こ のモデルではアフィリエイトの意思決定は広告ミックス の更新に限定されているが,アフィリエイトに投稿する 記事の話題を変えることを許すことも今後の拡張として はあり得る.そうなると読者が訪れる blog を変える可 能性が生まれ,blog─読者間ネットワーク事態が動的に 変化する.その結果,よりダイナミックな変化をシミュ レーションすることができるだろう. アフィリエイトが広告ミックスを更新するルールにつ いてランダムな探索と模倣の 2 類型を考えたが,それら の混合戦略やより複雑なルールを導入することが考えら れる.模倣に限って見ても,参照するエージェントの範 囲を広げるなど,さまざまな修正が可能である.現在, 各アフィリエイトは収入が前期より減少したら即座に広 告ミックスを更新しているが,そのスピードについても さまざまな設定が考えられる. 他方,blog の読者についてもモデルの拡張を検討する ことができる.現在のモデルでは,記事と商品への選好 が時間で変化しないとしているが,Heider のバランス 理論に依拠して,それらの関係がバランスするよう動的 に変化する可能性を認めるべきかもしれない.また,自 分の選好に合った商品が広告されれば購入するという設 定以外に,購買の要因を考えることもできる.例えば, ブロガーが知己であり,有用な知識を得た返礼として広 告商品を購入するといった,一種の社会的交換が起きて いる可能性もある.他方,Facebook などの SNS にア フィリエイト広告のような消費者生成形広告がほとんど 図 6 ランダムウォーカー対イミテーターの収入比

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導入されていないことは,親密な人間関係に一種の商行 為が導入されるとトラブルが生じやすいことを示唆して いる.アフィリエイト広告の背後にある blog 読者の心 理について,より深く掘り下げることが望まれる. 今回紹介した研究では,アフィリエイトと読者につい てそれぞれ独立にデータを収集したが,両者のリンクに 関してより直接的な情報を得ることは,今後に向けた大 きな課題である.Web 上の質問紙調査であればスノー ボールサンプリングが一つの候補になるが,Web 上の行 動データから推測していくことも候補になる.例えば, blogの特徴をテキストマイニングによって把握する一 方,blog への訪問をクリックストリームデータによって 測定する,といったデータ収集である. モデルの拡張においてはアフィリエイトによる記事 ミックスの更新を許し,また読者の選好が変化するプロ セスを扱おうとするのであれば,データ収集においても それに対応して,アフィリエイトや読者の行動を長期に 捕捉する必要が出てくる.現実にはアフィリエイト広告 がスパム広告の一種とみなされ,データが十分収集され てこなかったという問題もある.しかし,消費者へのエ ンパワーメントがますます進行する時代においては,ア フィリエイト広告に限らず広義での消費者生成形広告が ますます重用されるはずである.マーケティング研究も それに取り残されないよう,最新の技術を導入していか なくてはならない.

◇ 参 考 文 献 ◇

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http://jasss.soc.surrey.ac.uk/10/2/8.html(2007) 2017年 5 月 7 日 受理

著 者 紹 介

水野  誠 2000年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取 得退学.1980 ~ 2003 年株式会社博報堂勤務.2003 年筑波大学社会工学系専任講師.2008 年同大学院シ ステム情報工学研究科准教授.2008 年 9 月明治大 学商学部准教授.2014 年同大学商学部教授となり現 在に至る.その間 2015 年ニューヨーク市立大学客 員研究員,2016 年ニューヨーク大学客員研究員.博 士(経済学).マーケティングサイエンス専攻.主な著書に『マーケティ ングは進化する』(同文舘出版,2014)など.

参照

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