1 はじめに 平成28年「労働安全衛生調査(実態調査)」において, 現在の仕事や職業生活に関することで強いストレスにな っていると感じる事柄がある労働者の割合が59.5%に上 ることが報告されている1).過去の同調査における割合 は,平成27年で55.7%2),平成25年で52.3%3)と,減少 は見られていない.仕事や職業生活に関する強いストレ スは,メンタルヘルス問題につながる可能性があるため, この対策が必要とされている. その一つとして,職場環境改善があげられる.職場環 境改善とは,職場の物理的なレイアウトだけでなく,労 働時間,作業方法,組織,人間関係などの職場環境を改 善することにより,労働者のストレスを軽減し,メンタ ルヘルス不調を予防しようとする方法のことである4). 職場環境改善の取組みは国内外で試みられており,その 効果の有効性が示されている5-7).例えば,職場のスト レス対策に関する国際的な19の事例研究について比較 ・検討をおこなった国際労働機関の報告5)では,個人に 対するアプローチが十分でなかったのに対し,職場環境 改善のアプローチは効果的であったことを報告してい る.また,川上ら6)は,過去の研究をレビューし,“職 場環境の改善を通じたストレス対策の効果については必 ずしも結論が出ていないが,有効性を示す研究成果が蓄 積されつつあり,またその実施は推奨されている”と報 告している. 一方,職場外・勤務時間外における仕事に関する環境 も,労働者の健康に影響を及ぼすことが報告されている. Arlinghausetal.8)は,勤務時間外の仕事と労働に関連す る健康問題(「仕事が健康に影響しましたか?」という 質問に対して肯定的な回答を行い,「筋骨格系,メンタ ルヘルス,胃腸,循環器系」等の問題リストから,1つ 以上を選択した場合を健康問題のリスクありとしてい る)の関連を検討した.その結果,勤務時間外に仕事に 関する連絡(メールや電話)が全くなかった者と比較し て,ときどきあった者(オッズ比:1.26;95%信頼区間 (CI):1.14-1.39)やよくあった者(オッズ比:1.13; 95%CI:1.02-1.25)は,健康問題のリスクが有意に高 かったことが報告されている.また,勤務時間外に仕事 を全くしなかった者と比較して,ときどきした者(オッ ズ比:1.14;95%CI:1.04-1.24)やよくした者(オッ ズ比:1.60;95%CI:1.47-1.60)は,健康問題のリス クが有意に高かったことを報告している.電子機器や情 報通信技術の発達が著しい現代社会では,通勤中のメー ルの確認ややり取り,自宅での仕事が容易に可能である. 日本で行われた調査によると,通常の労働時間制(1日 8時間以内,週40時間以内)で働く労働者(n=8,062)
職場外・勤務時間外の働き方・休み方からみた職場環境改善の効果
-1年間の縦断調査研究-
池 田 大 樹
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1,久 保 智 英
*
1松 元 俊
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1,新 佐 絵 吏
*
2,茅 嶋 康太郎
*
1,3 本研究では,職場環境改善の取組み時における勤務時間外の仕事に関する行動(メール確認,自宅仕事)が, 労働者の睡眠や疲労,生産性等に及ぼす影響を検討した.製造業の中小企業において,組織体制の変更,勤務 開始時刻の多様化,勤務体制の多様化,作業環境の変更の4つの職場環境改善取組みが実施された.調査は, 職場環境改善の約1か月前(事前調査),3,6,12か月後の計4回実施し,調査の同意が得られた36名を分析対 象とした.調査内容として,基本属性,睡眠の質,勤務時間外における仕事との心理的距離,生産性,疲労回 復状況等を測定した.また,勤務時間外における仕事に関するメールの確認,自宅での仕事に関する設問を設け, その有無により,群分けを行った.線形混合モデル分析を行った結果,生産性に群と調査時期の交互作用が見 られ,自宅仕事が有った群のみ,職場環境改善前と比較して3か月後の生産性が低下したこと,無かった群と 比較して3,6,12か月後の生産性が低かったことが示された.また,調査時期の主効果が睡眠の質と疲労回復 に見られ,職場環境改善後にそれらの改善及び改善傾向が生じたことが示された.また,群の主効果が心理的 距離に見られ,勤務時間外にメール確認が無かった群は,有った群と比較して,勤務時間外に仕事との心理的 距離が取れていたこと,一方,自宅仕事が無かった群は,有った群と比較して,心理的距離だけでなく,睡眠 の質や疲労回復状況も良いことが示された.以上により,職場環境改善時における仕事関連の行動が労働者の 生産性に影響を及ぼすこと等が示された.今後,職場環境改善の一環として,職場外・勤務時間外における働 き方・休み方の改善も検討していく必要があると考えられる. キーワード:職場環境改善,メンタルヘルス,勤務時間外の仕事関連行動.原稿受付 2018年6月26日(Received date: June 26, 2018) 原稿受理 2019年1月31日(Accepted date: January 31, 2019)
J-STAGEAdvancepublisheddate: February19,2019
*1労働安全衛生総合研究所 *2 *3株式会社浅野製版所株式会社ボーディ・ヘルスケアサポート 連絡先:〒214-8585 神奈川県川崎市多摩区長尾6-21-1 労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センター 池田大樹 E-mail: [email protected] doi: 10.2486/josh.JOSH-2018-0007-GE 原著論文
のうち,「勤務時間外に電話・メール等で仕事関係の連 絡を取る頻度」が「よくある」と回答した者が8.8%,「と きどきある」と回答した者が28.8%に上ること,さらに 「自宅で仕事をする頻度」が「よくある」と回答した者 が2.9%,「ときどきある」と回答した者が12.5%に上る ことが報告されている9).このように,少なくない労働 者が職場外・勤務時間外に仕事に関連する行動をとって おり,そのような人々はメンタルヘルス等の問題が生じ ている可能性が考えられる. 以上のことから,労働者のメンタルヘルスの改善を考 える際,職場環境改善の一環として,職場内・勤務時間 内の環境だけでなく,職場外・勤務時間外の働き方・休 み方に関することも改善していく必要があると考えられ る.そこで,本研究では,中小企業における職場環境改 善の取組みの際の勤務時間外における仕事に関する行動 (メール確認,自宅仕事)が,労働者の睡眠や疲労,生 産性等に及ぼす影響を検討することとした. 睡眠の質は,メンタルヘルス(e.g., 抑うつ10)),循環 器疾患11),死亡率12)等,種々の健康問題と関連するこ とが報告されている.そこで,本研究は睡眠の質を日本 語版Pittsburghsleepqualityindex (PSQI-J) 13) により
測定することとした.また,職務遂行時,メンタルヘル ス等の健康問題があって本来発揮されるべきパフォーマ ンスを発揮できない問題をプレゼンティーズムといい
14),この損失が問題となっている.本研究では,この健
康問題に起因する労働機能障害の程度を測定するWork
functioningimpairmentscale (WFun) 15)により,生産
性について検討した.さらに,勤務時間外(勤務後や休 日)に仕事から心理的距離を取れている者は,ストレス 反応が低く,心身の訴えが少ないこと16),逆に心理的 距離が取れていない者は,1年後の心身の訴えが多かっ たことが報告されている17).このことから,本研究で は勤務時間外における仕事との心理的距離を測定するこ ととした.また,先行研究において,“疲労は,ストレ スが重なって起こる作業能率低下状態であり,ストレス が起因で疲労はその結果の一つの状態である”ことが述 べられており18),本研究ではこの疲労について,睡眠 に よ る 疲 労 回 復 の 程 度 と 疲 労 回 復 要 求(Needfor Recovery)の2側面から検討することとした. 2 方法 1)調査対象者と調査時期 広告製版や販売促進ツールのデザインおよび印刷など を行う東京都内にある製造業の某事業所(職場環境改善 前調査時の従業員数は48名)において調査を実施した. 2016年9月に職場環境改善を実施し,その約1か月前, 約3か月後,約6か月後,約12か月後の計4回調査を実 施した.従業員41名に調査を配布し,同意が得られた 36名(男性21名,女性15名)を分析対象者とした.本 研究は独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総 合研究所の研究倫理審査委員会により承認を得て実施し た(承認番号:H2807). 2)職場環境改善の取組み内容 事前に,各社員の労働に対する考えや能力を把握する ための全社員面談が行われた.その結果,いくつかの問 題点が浮かび上がり,それに対して主に以下4つの取組 みが実施された. 2-1) 組織体制の変更:職場環境改善前は,管理職にお いて,部下の管理育成,売上,経営等,やるべき業務量 が多かった.そのため,「もともと広告が好きで技術を 極めたくて入社したが,上記業務でいずれもが中途半端 になり結果が出せない」と訴える管理職もいるという問 題があった.職場環境改善として,管理職を管理専門職 と技術専門職に分け,全社員面談の結果等から配置換え を実施した.管理専門職は,入ってくる業務を把握し最 適なスタッフに割り振る,各部署との調整といった業務 コントロール,人と企業の育成を主目的としていた.一 方,技術専門職は,品質と技術の向上,研究開発を主目 的としていた. 2-2) 勤務開始時刻の多様化:職場環境改善前の勤務開 始時刻は,9:00,11:00,14:00の3種であったが,職務 によって繁忙時間が異なるため , 職場環境改善として, 7:00,8:00,9:00,10:00,11:00,12:00,14:00の7種 の勤務開始時刻を採用した.なお,勤務時間はすべて8 時間であり,開始時刻が早いほど勤務終了時刻も早かっ た. 2-3) 勤務体制の多様化:職場環境改善前は1週間ごとの 交代制となっており,毎週勤務開始時刻が変わるため休 日を1日使って睡眠時間を調整しなくてはならないとい う問題があった.職場環境改善として,時間固定,1週 間交代制,2週間交代制の3種を採用した. 2-4) 作業環境の変更:職場環境改善前は,4階建ての事 業所にバラバラに部署が配置されており,移動に時間が かかるほか,相手の作業状況がわからないためコミュニ ケーションがとりづらいという問題があった.職場環境 改善として,関連性の高い職種ごとにフロアやデスクを 集約し,オフィスの配置換えを行うことで無駄な動きを 排除した. なお,本職場環境改善の取り組みは,全て当事業所の 管理監督者と管理部門(経営企画部)が改善イニシアテ ィブの主体者となって行われた.4つの取り組みは,職 場全体で行われ,その順序については,2016年9月上旬 から組織体制の変更が行われ,次に勤務開始時刻,勤務 体制の多様化が行われた.最後に,10月8~10日の間に 作業環境の変更が行われた.それに際して,著者らは効 果評価のために,その前後に観察調査を実施した. 3)調査項目 自記式質問紙により,基本属性(性別,年齢,勤続年 数等),勤務時間外のメールの確認頻度(「最近1カ月の 中で,通勤を含む勤務時間外で,スマートフォンやパソ コンを利用して仕事に関係するメールをチェックするこ と(ただ見るだけの場合)を行った日はどの程度ありま したか?」に対して,以下の4件法で回答を求めた.1: 全くなかった,2:週当たり1~3日程度,3:週当たり4
~6日程度,4:毎日),勤務時間外に自宅で仕事を行っ た日の頻度(「最近1カ月の中で,勤務時間外に自宅で 仕事を行った日はどの程度ありましたか?」に対して, 以下の4件法で回答を求めた.1:全くなかった,2:週 当たり1~3日程度,3:週当たり4~6日程度,4:毎日), 睡眠による疲労回復状況(1:一晩睡眠を取ればだいた い疲労は回復する,2:翌朝に前日の疲労を持ちこすこ とが時々ある,3:翌朝に前日の疲労を持ちこすことが よくある,4:翌朝に前日の疲労をいつも持ちこしてい る)を尋ねた.また, PSQI-Jにより睡眠の質13)を,リ カバリー経験尺度により勤務時間外における仕事との心 理 的 距 離16)を,K6に よ り 精 神 健 康19)を,Needfor recovery (NFR) により疲労回復欲求20)を,WFun15)に より生産性(健康問題に起因する労働機能障害)を調査 した. また,事業所のタイムカードによる勤務記録から4回 の調査の前30日間の実労働時間を算出した. なお,各調査を実施した約1か月後に,各従業員に対 して,個人のPSQI-J,心理的距離,K6,NFR,WFun 得点に関してフィードバックを行い,さらに経営・管理 者には会社全体のそれらの平均得点をフィードバックし た. 4)分析 “勤務時間外のメールの確認頻度”,“勤務時間外に自 宅で仕事を行った日の頻度”の質問に対して,4回の調 査全てで“1:全くなかった”を選択した者をそれぞれメ ール確認が無かった群,自宅仕事が無かった群とし,そ れ以外の者をそれぞれメール確認が有った群,自宅仕事 が有った群とした. PSQI,K6,NFR,心理的距離,WFun,疲労回復状 況に対して,メール確認,自宅仕事の別に線形混合モデ ルを実施した.調査時期(事前,3,6,12か月後),勤 務時間外の仕事に関する行動の有無(有った群・無かっ た群)を固定効果因子とし,参加者を変量効果因子とし た.また,年齢,性別,タイムカードによる調査前30 日間の実労働時間,勤務年数を共変量とした.多重比較 はBonferroni法により補正を行った.調査時期の主効 果の多重比較は,事前調査時を参照カテゴリとして,3, 6,12か月後調査時と比較した.交互作用の多重比較は, 全ての組み合わせで比較を行った.統計的有意水準はp < 0.05とし,p < 0.10を有意傾向とした. 3 結果 1)参加者の基本属性 表1は,4回の調査時の参加者の基本属性を示してい る.参加者の内,約6割が男性であり,平均年齢は事前 調査時で33.8歳であった. “ 勤務時間外のメールの確認 ” に関して,メール確認 が無かった群は16名,有った群は20名であった.また, “ 勤務時間外の自宅での仕事 ” に関して,自宅仕事が無 かった群は21名,有った群は15名であった. 2)職場環境改善と勤務時間外のメール確認の影響 図1の左側は,勤務時間外のメール確認に関する群別 の各調査時におけるPSQI-J,心理的距離,WFun,睡眠 による疲労回復,K6,NFRの得点を示している. 調査時期×群(メール確認の有無)の線形混合モデル 分 析 の 結 果,WFunに 交 互 作 用 が 認 め ら れ た [F(3, 73.8)= 2.969, p=0.037].下位検定の結果,メール確認 が無かった群と比べて,有った群の方が3か月後の WFun得点が高く (p<0.05),12か月後は高い傾向にあ った (p<0.10).つまり,勤務時間外に仕事に関するメ ールがあった群は,無かった群より生産性が低いことが 示された.一方,PSQI-J,心理的距離,疲労回復,K6, NFRに有意な交互作用は認められなかった(allp > 0.10). 次に,調査時期の主効果がPSQI-J [F(3, 70.3)=5.924, p=0.001] に, 主 効 果 の 傾 向 が 疲 労 回 復 [F(3, 83.1)=2.408, p=0.073]に認められた.下位検定の結果, PSQI-J得点は,事前調査時よりも3,6,12か月後で低 く(allp<0.01),疲労回復得点は事前調査よりも12か月 後で低かった (p<0.05).一方,心理的距離,WFun, K6,NFRに 時 期 の 主 効 果 は 認 め ら れ な か っ た(all p>0.10). ま た, 群 の 主 効 果 が 心 理 的 距 離 に 認 め ら れ [F(1, 24.3) = 4.624, p = 0.042],メール確認が無かった群と 比べて,有った群は,勤務時間外に仕事との心理的距離 表1 各調査時における参加者の特性 調査時期 事前調査 3ヶ月後調査 6ヶ月後調査 12ヶ月後調査 (n=36) (n=35) (n=36) (n=33) 性別 (男性)a 21(58%) 20(57%) 21(58%) 20(61%) 年齢 (歳)a 33.8(8.9) 34.2(9.2) 34.2(9.0) 35.2(9.1) 勤務年数 (年)a 7.6(6.8) 7.7(6.7) 8.2(6.6) 8.7(6.7) 実労働時間 (調査前30日)b 151.1(22.2) 188.1(21.8) 211.8(25.8) 165.3(20.2) 実労働時間 (時間/日)b 9.1(0.8) 9.2(0.9) 9.5(1.0) 9.3(0.8) 勤務間インターバルa 13.3(1.2) 12.8(1.5) 12.9(1.4) 13.3(1.3) 睡眠時間 (勤務日)a 6.5(1.2) 6.6(0.9) 6.5(1.2) 6.6(1.1) 睡眠時間 (休日)a 7.9(1.8) 8.8(1.6) 8.8(1.9) 8.3(1.9) 仕事関連のメール確認 (有った者)a 19(53%) 18(51%) 20(56%) 15(45%) 自宅での仕事 (有った者)a 7(19%) 8(23%) 10(28%) 9(27%) 表中の数値は,n (%) または 平均値 (標準偏差)を示す. a 自記式調査の回答により算出. b タイムカードにより算出. Vol. 12, No. 1, pp. 51 59, (2019)
図1 4回の調査における各指標得点の群別の変化.左側は勤務時間外における仕事に関するメール確認の有無別に,右側は自宅で の仕事の有無別に群分けを行っている.図内は推定値±標準誤差.
が 取 れ て い な い こ と が 示 さ れ た. 一 方,PSQI-J, WFun,疲労回復,NFRに群の主効果は認められなかっ た(allp>0.10). 3)職場環境改善と勤務時間外の自宅での仕事の影響 図1の右側は,勤務時間外の自宅仕事に関する群別の 各調査時におけるPSQI-J,心理的距離,WFun,疲労回 復,K6,NFRの得点を示している. 調査時期×群(自宅仕事の有無)の線形混合モデル分 析の結果,WFunに交互作用が認められた [F(3, 74.0)= 3.183, p = 0.029].下位検定の結果,自宅仕事が有った 群のWFun得点は,事前調査時と比べて3ヵ月後で高か った (p<0.05).また,3,6,12ヵ月後の得点は,自宅 仕事が有った群の方が無かった群より高かった (all p<0.05).つまり,自宅仕事が有った群は,職場環境改 善後に生産性が低下しており,自宅仕事が無かった群と 比べて改善後の生産性が低かったことが示された.一方, PSQI-J,心理的距離,疲労回復,K6,NFRに有意な交 互作用は認められなかった(allp > 0.10). 次に,調査時期の主効果がPSQI-J [F(3, 69.2)=4.393, p=0.007] に, 主 効 果 の 傾 向 が 疲 労 回 復 [F(3, 82.5)=2.172, p=0.097] に認められた.下位検定の結果, PSQI-J得点は,事前調査時と比べて,3,6か月後で低 い 傾 向 に あ り (all p<0.10),12か 月 後 で 低 か っ た (p<0.01).また,疲労回復得点は事前調査時と比べて 12ヵ月後で低い傾向にあった (p<0.10).一方,心理的 距離,WFun,K6,NFRに調査時期の主効果は認めら れなかった(allp>0.10). また,群の主効果が心理的距離 [F(1, 30.2)=25.116, p<0.001],WFun [F(1, 28.7)=5.155, p=0.031],疲労回 復 [F(1, 29.6)=5.604, p=0.025] に, 主 効 果 の 傾 向 が PSQI-J [F(1, 28.9)=3.598, p=0.068] に認められた.つ まり,自宅仕事が無かった群と比べて,有った群は,心 理的距離が取れておらず,生産性が低く,疲労回復状況 が悪く,睡眠の質が悪い傾向にあることが示された.一 方,K6,NFRに群の主効果は認められなかった(all p>0.10). 4 考察 1)職場環境改善と勤務時間外の仕事の交互作用 本研究のメール確認有り群,自宅仕事有り群には,4 回の調査で1度でもそれら仕事関連行動があった者が分 類されていた.そのため,それらの群には,職場環境改 善の取り組みにより仕事に関連する行動が変化した者が いた可能性が考えられる.その上で,改善前も含めいず れかの時点で職場外・勤務時間外に自宅仕事が有った群 のみ,職場環境改善前と比べて,3ヵ月後のWFun得点 が増加(生産性が低下)した.また,勤務時間外に仕事 に関するメール確認が有った群は職場環境改善3,12か 月後(傾向)で,自宅仕事が有った群は,3,6,12ヵ 月後で無かった群と比較してWFun得点が高かった(生 産性が低い).想定として,職場環境改善はメンタルヘ ルス問題への対策として有効である事から4),職場環境 改善により生産性が改善する,一方で勤務時間外の仕事 関連の行動がメンタルヘルス問題につながることも報告 されていることから8),仕事関連行動がある群は職場環 境改善による生産性の改善効果が阻害される事が考えら れた.しかし,本研究の結果からは,仕事関連の行動が 無い者に職場環境改善による生産性の改善は見られず, 一方で勤務時間外に自宅仕事がある者は職場環境改善後 に生産性が悪化し,職場環境改善後では無い者と比較し て生産性が低かったことから,当初の想定が支持されな かったといえる.つまり,職場環境改善と仕事関連行動 の交互作用から,職場環境改善時における勤務時間外の 仕事関連の行動は,生産性の改善を阻害するのではなく, 生産性を悪化させるという形で影響を及ぼすことが示さ れたといえるだろう. 勤務時間外に仕事関連行動が無かった群において職場 環境改善前後で生産性が改善しなかった原因として,介 入前のWFun得点が高くなかった(生産性が悪くなか った)点があげられる.WFunの得点範囲は7~35点で あり,カットオフ値はないものの,参考値として,7~ 13点が問題なし,14~20点が軽度の,21~27が中等度の, 28~35点が高度の労働機能障害との参考値がある21). 本研究の職場環境改善前のWFun平均得点は,自宅仕 事無し群で15.3点(標準誤差1.8),メール確認無し群 で15.7点(標準誤差2.1)となっており,分類の上では 軽度となるものの,得点は高くないといえるだろう.こ のため,改善の余地が少なく,職場環境改善の効果が生 産性に認められなかったと考えられる.今後,WFun得 点が高い労働者を対象に職場環境改善の効果を検討する 必要があるだろう. 一方,自宅仕事が有った群で職場環境改善後に生産性 が低下した明確な原因及び職場環境改善前に群間差がな く,職場環境改善後のみで生産性に有意な群間差があっ た原因は明らかではない.考えられる理由としては,例 えば,勤務開始時刻を選択できるようになったことで帰 宅が早まり,自宅で仕事をする時間が長くなった,職場 の環境が変わったことにより一時的に自宅で仕事をする 内容の変化が生じた,あるいは時間が長くなった等が考 えられる.今後,勤務時間外の自宅仕事の内容や時間等 の情報も調査することで,これを明らかにしていく必要 があるだろう.なお,メール確認の有無の比較よりも, 自宅仕事の有無の比較の方が多くの時点で生産性の低下 が生じていた.これは,勤務時間外のメール確認よりも, 自宅での仕事の方が時間的にも行動的にも負担が大き く,健康問題も多かったことに起因すると考えられる. これらのWFun得点における交互作用から,職場環 境改善に関連し,職場外・勤務時間外の仕事関連行動が 生産性に影響を及ぼすことが考えられる.一方,WFun 得点以外の指標(睡眠の質,疲労,心理的距離,精神健 康)について,有意な交互作用はみられなかった.つま り,職場外・勤務時間外の仕事に関連する行動は,職場 環境改善におけるそれら指標の変化に影響しない可能性 が考えられる.以上のように,職場環境改善時における Vol. 12, No. 1, pp. 51 59, (2019)
職場外・勤務時間外の仕事に関連する行動の影響は,少 なくとも本研究では生産性のみにしか認められなかった が,自宅仕事が有った者は,職場環境改善後に生産性が 低下すること,さらに職場外・勤務時間外の仕事に関連 する行動がある者の職場環境改善後の生産性が低いこと は,職場環境改善によって生じた睡眠の質や疲労回復の 改善の利点を損ねる問題であるといえよう.つまり,メ ンタルヘルス対策として職場環境改善を行った場合にお いても,職場外・勤務時間外に仕事に関連する行動を行 う者には職場環境改善の効果が十全に発揮できない可能 性がある.職場環境改善の際には,その一環として職場 外・勤務時間外の働き方・休み方も考慮することで,メ ンタルヘルス対策としての職場環境改善の有用性を高め ることができると考えられる. 2)職場環境改善及び勤務時間外の仕事に関連する行動 の影響 職場環境改善単体の効果について,職場環境改善によ り,睡眠の質の改善と疲労回復の改善傾向が認められた. 本研究では,4つの改善取組みが実施されたため,これ らの成因を特定することは難しいものの,先行研究にお いて,勤務時間の裁量権(Work timecontrol)の増加 が睡眠や疲労の改善につながったことが報告されている 22).本職場環境改善における勤務開始時刻や勤務体制の 多様化は,この勤務時間の裁量権の増加につながるもの であり,自身のライフスタイルにあった労働・私生活を 送れるようになったことで,睡眠の質や疲労回復の改善 につながったことが考えられる. また,職場環境改善前の全社員面談時における従業員 (管理職から技術専門職へ変更)の内省報告として,広 告が好きで入社したが,管理職になり,売り上げや部下 の育成,経営等を考えながら広告作成を行わなければな らなくなり,管理職は向いていないと感じるとの訴えが あった.その後,組織体制の変更を行った結果,「自分 のやりたいことに専念できるようになり,慣れない仕事 に悩むことが少なくなった」という内省報告があった. つまり,この取組みによって,仕事に関する不安や悩み が減ったことが考えられる.先行研究において,翌日の 仕事への不安が睡眠の質を悪化させることが報告されて おり23),このような不安や悩みが減ったことにより睡 眠の質が改善し,さらにそれが疲労回復の改善傾向につ ながった可能性も考えられる. 次に,職場外・勤務時間外における仕事に関連する行 動単体の効果について述べる.なお,本研究のメール確 認有り群,自宅仕事有り群は,4回の調査で1度でもそ れら仕事関連行動があった者が分類されていた.そのた め,それらの群には,測定した指標等の状況が勤務時間 外の仕事に関連する行動に影響を及ぼした可能性が考え られる(例えば,生産性が低かった者が,途中でそれを 補うために仕事に関連する行動をするようになったな ど).その上で,いずれかの時点で勤務時間外に仕事に 関するメール確認が有った群は,無かった群と比べて, 勤務時間外に仕事との心理的距離が取れていないことが 示された.先述の通り,勤務時間外(勤務後や休日)に 仕事から心理的距離を取れていない者は,心身の訴えが 多いことが報告されている16, 17).また,勤務時間外に仕 事の連絡(メールや電話)がない者と比較して,時々あ るいはよくある者は健康問題のリスクが高いことが報告 されている24).このリスクを予防するためにも,可能 な限り勤務時間外の仕事に関する連絡を控え,勤務時間 外に仕事との心理的距離を確保したほうがいいことが考 えられる.なお,フランスでは,勤務時間外に仕事に関 する連絡を制限するつながらない権利 (Therightto disconnect) が2017年1月から施行されている.日本に おいても,勤務終了後や長期休暇中の社内メールを自粛 するなど,会社単位でそれに準ずるものを実施している 企業もある25).現実場面では,商取引上の慣行や顧客 要求などもあるため,勤務時間外の仕事・メール等の一 律制限を行うことは難しいかもしれない.しかし,例え ば上記のように社内の緊急でないメール連絡を制限する などその会社に合うような工夫を行い,職場環境改善の 一環としてそれを取り入れることで,労働者のメンタル ヘルスの向上につながる可能性も考えられる. さらに,いずれかの時点で自宅仕事が有った群は,無 かった群と比べて,心理的距離が取れていないだけでな く,睡眠の質が悪い傾向にあり,睡眠による疲労回復状 況が悪かった.勤務時間外の自宅での仕事,つまり持ち 帰り残業は,先行研究においても,労働者の疲労蓄積に つながることや26),その頻度の多い者は無い者と比べて, 健康問題のリスクが高いことが報告されている24).し かし,過去に行われた調査によると,労働者の15.4% (n=8,062)9)が勤務時間外に自宅で仕事をしていること が報告されており,少なくない割合の労働者において疲 労の蓄積や睡眠の質の悪化が生じている可能性がある. このようなリスクを予防するためにも,可能な限り勤務 時間外の自宅での仕事を控えたほうがいいことが示唆さ れる.一方,どうしても勤務時間外の連絡や自宅での仕 事を行わなければならない職場もあるかもしれない.こ のような場合,例えば,ノー残業デーのように週に数日 勤務時間外に仕事を行わない日を設けるなど,その職場 で可能な対応を話し合い,改善を実施していくことが望 まれる. 3)限界点と結論 本研究にはいくつかの限界点がある.第一に,本職場 環境改善の取組みは会社全体で行われたものであり,職 場環境改善の効果評価において統制群を設定できなかっ た.今後,統制群を設定しての比較が望まれる.第二に, 本研究では,4つの職場改善取り組み自体の直接的な効 果や影響について検討していなかった.例えば,“作業 環境の変更”の取り組み原因となった移動時間の短縮や コミュニケーションの改善等,取り組みに直接的に関連 する調査項目設定が必要であったと考えられる.第三に, 本研究では,勤務時間外のメールの確認,自宅での仕事 が4回の調査で1度でも有ったと報告した者を,それぞ
れメール確認有り群,自宅仕事有り群とした.しかし, この群には,勤務時間外に仕事を一貫して行っていた者 や,特定時点のみ行っていた者が混在しており,後者に は勤務時間外に仕事を行っていなかった際の影響が生じ ている可能性が考えられる.今後,従業員が多い会社で 調査を実施するなど,サンプルサイズを増やすことでよ り細かい群分けを行い,この問題を解消する必要がある だろう.第四に,本研究では1年における複数の指標の 変化を報告したが,その間に改善が生じなかった指標も あった.職場環境改善実施の1年後27)及び3年後28)に効 果評価を行った先行研究において,1年後には見られな かった効果が3年後に認められたものもあった.そのた め,本研究における職場環境改善の効果が認められなか った指標に関しても,1年以上経過した後に変化してく る可能性も考えられる.今後さらなる調査を行い,本点 を明確にする必要があるだろう.第五に,本研究では質 問紙調査のみで検討を行ったが,今後,睡眠ポリグラフ や活動量計による客観的睡眠の質,コルチゾール等のス トレスホルモンなど,客観的指標を用いた検討が必要で あるだろう. 以上のような限界点はあるものの,本研究により,職 場環境改善時における仕事関連の行動が労働者の生産性 に影響を及ぼすことが示された.職場外・勤務時間外に おいて仕事に簡単にアクセスできる現代社会において, 職場環境改善の一環として職場外・勤務時間外における 働き方・休み方に関することも検討していく必要がある だろう.また,上記事業所における職場環境改善の取組 みが睡眠の質の改善や疲労の改善傾向といった効果を持 つこと,一方で,勤務時間外の仕事に関連した行動が全 くなかった者と比較して,改善前も含めいずれかの時点 であった者は,心理的距離が取れておらず,睡眠による 疲労回復状況が悪い可能性が示された.今回の職場環境 改善は,本事業所の課題を改善するための取組みであっ たが,同様の課題を抱える企業であれば水平展開が可能 であることも考えられ,一つの好事例として他の事業所 等に広く周知されることも重要であると考えられる. 謝 辞 本研究に際しまして,ご協力いただきました企業およ び従業員の皆様に心よりお礼申し上げます. 本研究は,労災疾病臨床研究事業費補助金(150903 -01)の研究資金を受けて実施された. 文 1) 厚生労働省. 平成28年「労働安全衛生調査(実態調査)」. 2017. 2) 厚生労働省. 平成27年「労働安全衛生調査(実態調査)」. 2016. 3) 厚生労働省. 平成25年「労働安全衛生調査(実態調査)」. 2014. 4) 厚生労働省. こころの耳. 2018 [cited201802/14]; Available from: http://kokoro.mhlw.go.jp/manual/.
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Vol. 12, No. 1, pp. 51 59, (2019)
Effect of work-related behaviors during off-job time on workers’ mental health in
the context of improving the workplace environment:
Longitudinal research over a year
by
Hiroki Ikeda*
1, Tomohide Kubo*
1, Shun Matsumoto*
1, Eri Shinsa*
2, Kotaro Kayashima*
1,3This study examined the effects of work-related behaviors (checking e-mails and overtime work at home) during off-job time on workers’ sleep quality, fatigue, and functional impairment at work in the context of improving the workplace environment (IWE). A manufacturing company conducted the IWE, and 36 workers participated in surveys conducted one month before and 3, 6, and 12 months after the IWE. The survey contained questions about demo-graphic data, sleep quality, psychological detachment during off-job time, fatigue, functional impairment at work, and checking e-mail and overtime work at home during off-job time. Results revealed that functional impairment at work significantly deteriorated 3 months after compared with that one month before the IWE for only the workers engag-ing in overtime work at home, and they had significant severe functional impairment at work at 3, 6, and 12 months after, compared with the workers who did not engage in overtime work at home. Additionally, IWE significantly improved sleep quality and tended to improve fatigue. The checking e-mail had low psychological detachment, but those engaging in overtime work at home had not only low psychological detachment but also significant severe fatigue and tended to have poor sleep quality, compared to workers not engaging in these behaviors. These results suggest that work-related behaviors during off-job time affects functional impairment at work in the context of IWE. Therefore the work and rest style during off-job time may be key targets for IWE.
Key Words: improving the workplace environment, mental health, work-related behaviors during off-job time. *1 National Institute of Occupational Safety and Health, Japan
*2 Asano seihanjyo co., ltd. *3 Bodhi Health Care Support Inc.