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中国における政府・企業間関係の変化 : 国有大企業を中心に

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中国における政府・企業間関係の変化

─国有大企業を中心に─

任   雲

目   次 1 はじめに 2 国有企業の所有者としての政府と国有企業間関係 3 国民経済管理者としての政府と国有企業間関係 4 政府・企業間関係から見た中国経済の課題 5 まとめに

1 はじめに

 30 年の改革開放を経て、中国は計画経済体制から市場経済体制へと移行し、政府と企業間の関 係も大きく変貌してきた。本稿は、中国の国有大企業と政府間の関係がどのように変化したか、現在、 どのような問題を抱えているのかを分析し、中国経済の課題を考える。  政府と国有企業との関係を考える際に、どこまで線引きをするかは難しいが、政府の二重的身分、 すなわち国有企業の所有者としての政府と、国民経済の管理者としての政府とに分けて考察する必要 があると思う。なぜなら、所有者と国民経済の管理者のそれぞれは、企業との関わりの目的やその目 的達成の手段が異なり、企業との距離も当然違うからである。本稿もそういう二つの側面で政府と国有 企業との関係を考察する。  本稿の構成は以下の通りである。第 2 節において、国有企業及び国有企業管理体制の改革の歴 史を回顧し、所有者としての政府と国有企業との関係の変化を考察する。第 3 節では、中央企業業 績の躍進にどのような政策的支援があったかを分析し、国民経済の管理者としての政府と国有企業と の関係を分析する。第 4 節では、政府と国有企業関係の問題点は、どのような弊害をもたらすのか、 また、中国の市場経済改革にどのような課題が残しているのかを明らかにする。最後に、本稿の結論 及び研究の限界をまとめる。

2 国有企業の所有者としての政府と国有企業間関係

 国有企業の改革は経済改革の中で常に重点課題であった。改革の難点は、いかに政府と企業関 係の是正、所謂政・企分離を実現するのか、言い換えれば、いかに国家の所有権と企業の経営権 とを分離した上、効率的な管理・監督システムを構築するのかということであった。本節では、国 有企業改革の過程を辿りながら、所有者としての政府と国有企業との関係の変化を考察する。

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2-1 1998 年以前の国有企業とその管理体制の改革  計画経済の時代では、国有企業は国営企業と呼ばれ、産業別の中央省庁・地方主管部門の管轄 下の一単位にしか過ぎなかった。改革の初期段階で、政府は国有企業の「放権譲利」の改革を行 い、さらに経営者に授権経営や請負責任制を導入して、政・企一体の管理体制を突破しようとした。 しかし改革では、余剰コントロール権と余剰請求権までが企業側に渡されたため、政府は所有権 の核心を放棄するミスを犯した1。そのため、経営者によるインサイダー・コントロールの問題が 突出した(青木 1995; 呉敬璉 2004; 張軍 2008)。  国有企業の監督体制を強化するため、政府は 88 年に財政部の下に国有資産管理局を設立し、国 有資産査定・資産使用の監督権限などを担わせたが、国有資産管理局は所有者としての権限を持 たず、国有企業の管理職能も従来の主管省庁・党組織に分散したままであった。政府の所有者と しての役割は欠如していた反面、企業経営への不当な行政介入は依然として多かった。  93 年に、中央は社会主義市場経済体制への移行で、国有企業を有限責任会社(「現代企業」)へ 転換させ、財産権を明確にしたうえ所有者である政府と企業のそれぞれの権利・責任を規範化し、 その上政・企分離を図るという改革目標を打ち出して、同年会社法を制定・公表した。政府は 30 社の国有大企業を指定し、さらに 95 年 100 社までと指定対象を拡大し、会社化改革の実験を進め た。それで一部の産業省庁が会社化されたことも含めて、多くの国有大企業が会社に改組されたが、 改組された企業の殆どは所有構造を変更せず、政府の役割と管理手法も従来のままであった。言 い換えれば、看板を換えただけで、経営メカニズムにそれほどの変化はなかった。  その後、国有企業を株式会社に改組・上場させ、所有権の分散と有効なコーポレートガバナン ス制度の構築によって政・企分離を実現するという認識が主流となった。そして、95 年に規模別 の国有企業を区別する改革、所謂「抓大放小」方針と 97 年の産業別の国有経済の構造調整、所 謂「有進有退」の戦略が打ち出され、国有企業改革の重点対象と国有経済集中の重点産業が定め られ、改革の目標と手法は漸く鮮明になった2 2-2 1998 年本格的国有企業改革と管理体制改革  98 年、朱鎔基氏が首相となり、国有企業「三年脱困」の大改革が本格的に展開し、それに伴い 政府の国有企業管理システムの改革も加速した。背景は、90 年代半ばに国有企業の業績が急速的 に悪化したことにある。国有企業が膨大な債務と余剰人員、立ち遅れた技術と設備、重い社会負 担に耐えきれず、市場競争の中に民営企業や外資企業に次々に負けてしまったのである。政府は、 WTO の加盟も控え、危機感が募り、「三年脱困」大改革を断行した3  「三年脱困」目標を達成するため、政府は枯渇した国有鉱山の閉鎖や経営危機に陥った国有企業 の破産、または赤字企業の規模の縮小と民営化等を行った。それに伴い、3 年間累計で約 2100 万 人が国有企業から解雇された。他方、98 年に四大国有銀行に 2700 億元の準備金を注入し、さら に四つの金融資産処理会社を設立して、国有企業への不良資産約 14000 億元を銀行の代わりに処 理した。そのほか、政府は 99 年から 587 社の国有大企業の銀行債権 4050 億元を株式に転換し、

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負債を軽減した(任 2006b、張卓元等 2008)。  「三年脱困」改革と同時に、電力、石油、電信、航空など国有経済の代表部門において、産業再 編と企業の整理合併が行われ、寡占的産業構造が形成された。さらに、電力、電信産業ではその 後政府の主導で産業再・再編も続いた(表 1)4。また、数多くの国有大企業はその後株式会社に 改組・上場し、株式の分散を通じて、所有と経営の分離、ガバナンス制度の構築や経営透明度の 向上に一定の進展が見られた。 表 1 国有独占産業の改組と再編 石油産業 83年中国石化、85年中国海洋石油、88年中国石油設立(石油部撤廃)、能源部管理へ(92年撤廃)、98年中石油、中石化が持ち株会社として改組、業務の相容れで垂直統合の寡占体制が形成、00年以降コア部門上場 電力産業 98年電力部撤廃、発・送・配電垂直統合の国家電力公司設立、02年国家電力公司撤廃、発電5大会社(上場企業を母体として)と送電の国家電網、南方電網の設立で、垂直統合による独占の解消と発電部門の競争を図る 電信産業 94年電子部と電力部など4部は聯通を設立、98年郵電部と情報部が合併、電信産業が会社化、99年7社体制確 立、01年中国電信が分割され、その北部10省及び吉通は網通に吸収(固定電話の独占解消)、6社体制へ、04年 まで全面改組・上場。08年政府主導で3社に統合  他方、国有企業の管理体制も三年脱困の大改革と同時に、大きく変わった。特に、98 年に計画 経済体制の象徴である十数の産業主管省庁と実権のない国有資産管理局が撤廃され、経済貿易委 員会が国有企業を総合的に管理する主要な部門として設立された。その後、国務院は直轄の国有 大企業(以下、中央企業)の監督を強化するために、中央企業に「監事」を派遣する制度を作った。 さらに 99 年末には、共産党中央は党管轄の中央企業工作委員会を設立し、国務院にあった監事派 遣の職能を担わせた。  ただし、その時期の国有企業管理体制では、財政部など多数の省庁が従来と同じ個々の監督管 理職能をもち、権限の分散と責任所在の不明の問題も残されたままであった。また、経済貿易委 員会は一行政管理部門であり、所有者としての役割の発揮に限界があった。 2-3 2003 年以来の国有企業とその管理体制の改革  03 年に、国有企業の大改革が一段落した時点で、温家宝氏の首相就任に伴って、中央政府は中 央企業工作委員会・経済貿易委員会・財政部などの関連部・局計 5 部門を国有資産監督管理委員 会(以下国資委)として統合し、中央企業の一元化管理体制を作った。これにより、従来の多元 的管理で生じた矛盾、または責任所在の不明などの諸問題が解消され、国有企業を巡る委託-代 理関係が簡素化できた。  『国務院の機構設置の通達』によれば、国資委は、出資者として国有企業の資産に対する監督・ 管理、国有資産の維持と増殖、国有企業の改革と国有経済の構造調整の推進、経営者の選抜及び 報酬管理、監事の派遣、地方国資局の指導・監督や全国国有企業改革及び国有資産管理のルール 整備など、計八つの役割を兼ねている。国資委の設立によって、政府の公共管理職能と資産管理 職能が一応分離され、管理の理念も従来の国有企業の経営・運営に対する行政管理から、株主と しての資産管理・資本運営へと変わった。

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 なお、国有企業の「分級管理」原則に従い、各省も国資局を設立し、多くの地方は深圳や上海 の経験にならい、国資局-国有資産運営会社-企業の三層システムを導入した。2010 年 9 月現在、 国資委管轄の中央企業は 123 社(03 年当初は 196 社)で、06 年において省レベル国資委(深圳、 アモイ、寧波市などを含む)の管轄企業数は 1031 社あった。県市レベルでは殆どの中小企業がす でに民営化されたため、国資局の設立が少ない5(図 1)。  03 年以来、国資委は中央企業の「做大做強」及び「国有資産保値増値」を最大な使命として、「三 年間に業界トップ 3 に入らなければ、会社を整理する」、「2010 年に中央企業を 80-100 社まで整理 統合する」と宣言し、中央企業の業績改善に圧力を掛けていた(呉暁波 2008, pp. 219-220)。また、 続き中央企業に監事を派遣する以外に、企業業績考課制度と経営者経営目標考課・報酬連動制度 を導入した。そのほか、07 年まで計 103 名の経営陣ポストを国内外から公開募集し、経営管理者 の人材バンクも作った。また 19 社の企業集団本社の取締役会の設置及び外部取締役員の導入を 主導した(張卓元等 2008, pp. 211-212)。 図 1 国資委による国有資産監督管理システム 出所:座間(2006、 p. 27)参照・作成。     国資委のもう一つ重要な使命は、中央企業の株式会社への改組である。2007 年末に、株式化 された中央企業または傘下企業は 02 年末の 30% から 64.53% まで上昇し、52 社が新たに上場し た。上場企業数も国内で 228 社に上り、香港で 68 社がある。時価総額はそれぞれ全体の 39.26% と 24.15% を占めていた(国資委 2008, pp. 51-52)。そのほか、国資委は「企業国有資産法」をはじ め、国有企業改革と資産管理のルール作りに熱心に取り込んでいる。  しかしながら、国資委の管理のもとでも課題が依然として残されている。まず、社会主義体制 を維持している以上、「党管幹部」の原則が崩せない。中央大企業 50 数社の経営トップは依然と して党中央組織部に任命されるため、国資委の経営者選任の権限が制限されている。次に、国資 委が政府の一部門であるので、他部門からの政治的・行政的指令や計画も、結局国資委を通して 中央企業に流れていくしかない。国資委はどうしても一部の政治的・行政的職能を背負ってしまう。 さらに、国資委は所有者として中央企業を直接に監督・管理すると同時に、国有企業管理の政策・

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制度整備や全国の国有資産管理部門を監督する立場にある。そのため、所有者と政策策定・実行・ 監督者の身分上の矛盾はしばしば出てくる。これらの諸問題は、中国の政治・行政体制上の問題 と絡み合い、当分解消されそうにもない。  最近、北京・上海では、地方国資委は国有資産運営会社を設立し、国有企業の管理に当たっている。 国務院国資委も資産運営会社の設立を準備し、資産規模が小さくかつ業績も突出しない十数社の 中央企業をその傘下において管理・運営しようとしている。これらの動きには、国資委の行政・監 督役割と所有者の役割を一層分離する狙いがあろう。

3 国民経済管理者としての政府と国有企業間関係

 国民経済管理者としての政府は、マクロ的経済政策だけではなく、産業政策や規制政策などミ クロ経済政策を通して、企業に直接・間接的な影響を与えることができる。本節は国民経済管理 者としての政府と国有企業の関係について考察する。 3-1 国民経済における国有企業の位置付けと国有経済の変貌  計画経済の時代では、国有企業は国民経済の殆どを支配し、社会主義公有制の維持及び重化学 工業化開発戦略実施の重要な担い手であった。政府は経済の発展だけではなく、政治・社会の安 定など多重の目標の実現に国有企業を依拠してきた。しかし改革開放以来、市場経済への転換に 伴い、国有企業と国有経済の位置付けは徐々に変わってきた。とくに前述の「抓大放小」方針と「有 進有退」の戦略が打ち出された以降、国有企業の株式化と民営化が急激に進み、企業の数と従業 員数も大幅に減った(図 2,3)。こうして全体で見れば、国有経済の経済的・社会的役割は縮小し ていると言えよう。 図 2 工業規模企業会社数の推移        図 3 工業規模企業の従業員数の推移 出所:『中国統計年鑑 2009』により作成      出所:『中国統計年鑑 2009』により作成

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 しかし中国の目指している市場経済は社会主義市場経済体制であり、政府は、競争領域におい て効率の悪い国有企業を退出させたものの、国民経済の命脈に関わる分野において国有経済の支 配地位を強く望んでいる。他方、キャッチアップの目標を実現するため、政府は当然産業の振興 及び国際競争力の強化のための産業政策と開発戦略を常に重視している。政府から見れば、資産 規模の大きいかつ重要産業に集中している中央企業は、公有制の性質を維持するのに必要だけで はなく、経済開発政策を実現するためにも不可欠な装置である。そのため政府は、常に国有企業 にさまざまな優遇政策を打ち出して、国有企業の「「做大做強」のための育成に腐心してきた。  90 年代の末まで、政府は国有大企業の育成にさまざまな取り組みを行った。例えば、政府はす でに 80 年代の末から企業集団の編成を促進し、91 年に 55 社の大企業集団を選び、「計画単列」 の優遇などの実験を行った。また、93 年党の 14 回三中全会では、公有制を主体とする一握りの大 型企業集団を発展させ、国際競争力を培うと強い意思を表明した。政府は 95 年に、大企業集団の 「做大做強」の育成目標を具体化し、六つの国有企業を選んで、2010 年までに世界企業 500 社ラ ンキングに入るため、日本の過去の重点産業振興政策を参考にしたほか、韓国財閥育成策を見習っ て技術改造費の支給や金融会社の設立などの優遇策を施した。その後、6 社のうち宝山鉄鋼だけ は 500 社ランキングに入ったが、他の 5 社は製薬や家電など競争の厳しい業種に属しており、目 標は達成されなかった6。さらに、 WTO への加盟による国際競争の熾烈化に備え、政府は行政手 段による国有大企業の合併を推進したが、多くの合併は成功に至らず、その後解消された。総じて、 90 年代末まで、国有大企業の育成策はそれほど奏功しなかった。  しかしこうした状況は、「三年脱困」改革、「選択と集中」による再編成で、大きく変貌した。大 規模の統合が行われたことで、石油、電信、電力分野の巨大企業が誕生した。これらの企業は、 いくとも簡単に世界 500 社ランキング入りに成功した。こうした再編された中央企業は、数だけは 少なくなったが、巨大化したため支配的地位が一段と突出している。07 年に、82.8% の中央企業 の資産は石油、電力、国防、通信、運輸、鉱業、冶金、機械産業に集中していて、中央企業はほ ぼ全部の原油・ガス、電信と送電サービス、そして発電の 55%、空運の 82%、水運の 89%、高 付加価値鉄鋼の 60%、水力発電設備の 70%、火力発電設備の 75%、自動車の 48%を生産・供給 するようになっている(李栄融、 2008)。  とくに、国有セクター全体の利潤総額は 2000 年前後から劇的に改善され、98 年の 213 億元から 07 年の 1.74 兆円に達した。中でも中央企業の業績は際立って好調で、07 年の利潤総額が 1 兆元 強で 02 年の 4 倍を超えた(表 2)。こうして、中央企業は業績の「大躍進」を成し遂げた。当然、 中央企業の念願の世界 500 社ランクイン企業数も急増し、08 年 19 社となり、さらに 2010 年に 31 社に上昇し、03 年に比べ 25 社増えた7

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表 2 国資委管轄の中央企業の経営状況 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 中央企業数 196 196 183 169 161 150 141 129 総資産(兆元) 7.13 8.32 9.15 10.51 12.2 14.92 17.7 21 売上高(兆元) 3.36 4.47 5.6 6.79 8.3 10.03 11.9 12.62 納税額(億元) 2914.8 3563.1 4655.2 5799.9 6822.5 8792.1 9914 11474.8 利潤(億元) 2405 3005.9 4879.7 6377 7681.5 10055.7 6652.9 8151.2 従業員数(万人) n.a. 1002 1001.3 1000.7 1021.8 1050.5 1052.2 1077.4 出所:『中国財政年鑑 2007 年』p.429、国資委(2008, 2010)および国資委 Web による。  中央企業の「大躍進」に、以下の理由が考えられる。まず 2000 年以降、中国経済が新たな好循 環を迎え、重化学工業化・情報化の凄まじい進展により、中央企業の規模の拡大と業績成長の良 い環境ができたのである(張文魁 2008a)8。次に、前述のように、「3 年脱困」改革を経て、大企 業の政策的負担と歴史的負の遺産の大部分が取り除かれ、かつ多くの企業が株式会社に改組・上 場を果たしたため、国有企業の生産力が 90 年代よりかなり解放され、利益追求のインセンティブ も強化されたのである。さらに、国資委新体制のもと、経営業績が考課されるだけではなく、国資 委からの整理・編成の「最後通牒」に迫られ、中央企業が猛烈な規模拡張と利益追求の戦略を展 開したことも一つの理由である。しかしながら、中央企業の大躍進は、やはり中央政府の一貫した 支援なしには考えられない9。以下、近年において政府の支援を便宜上三つに分けて説明する。 3-2 政府の支援①:規制政策による「行政的独占」  中央企業の主な利潤源は、エネルギー・資源産業、自然的独占や特許産業である。これらの産 業においては、国家省庁である発展と改革委員会の投資プロジェクトの許認可や価格規制などの 行政規制で中央企業の特権が保護されている。例えば、石油採掘、電網、電信産業においては、 民営及び外資の参入が禁止されているため、国有企業は十分に独占的地位を利用できる。また、 石油、石炭、ガス及びその他の鉱産資源にかかる資源税が極めて低く、これらの領域の国有企業 は簡単に高収益を得られる10。実際に、07 年には石油、電力、電信数社の利潤だけでも中央企業 全体の利潤総額の 61.3% を占めた。  近年、中央企業が独占的地位を利用し、すでに参入していた民営企業を駆逐するケースが珍し くない。石油産業のケースを取り上げてみると、98 年の採掘・精錬・販売を垂直統合した中央二 大石油企業の発足後、政府は 99 年に 38 号通達で精錬油の卸売り業務をすべて両社に与え、規模 を満たさない精錬所の生産を禁止した。また、中国石油公司が国家利益保護を建前にして、90 年 代初期にすでに地方に委譲した油田の回収を迫り、地方政府との争いのなかで、一部の民営石油 採掘会社が追い出された11。他方、両石油会社はガソリン販売事業においても、激しく争奪戦を 行うだけでなく、垂直統合の地位を利用したり、政府部門と結託し規制を策定したりして、川下 の民営ガソリン販売企業に対して様々な妨害行為を行ったため、かつて製品油販売の 9 割強を占

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めていた民営企業のシェアが急落し、08 年の初めに 4 割以下となった。民営石油卸売り会社数も 663 社から 200 社まで減少し、民営ガソリンスタンド 45064 社の中、1/3 が閉鎖され、さらに 1 万 社以上が赤字状態になった。これによって、納税額も 1000 億元以上から 200 億元まで激減した12  2009 に、14 年間の歳月を経てようやく採択された独占禁止法も、各利益集団の駆け引きで、「国 民経済の命脈と国家安全に関わる国有経済が絶対的支配地位を保つ産業において、合法的経営活 動が保護される」という文言が盛り込まれている。これが国有企業独占の合法性を与えたとの批 判意見も一部の専門家から出ている13 3-3 政府の支援②:構造調整で産業政策による支援  政府は、石油・電信などの産業において中央企業の独占を維持する以外に、国有と民営企業の 競争が激しくなった産業において、産業政策を策定し、政府主導で産業構造調整を推し進めている。 その際、往々にして国有大企業が有利な政策で援助を受けている。  産業政策について様々な定義があるが、小宮(1984)は以下のように分類している。(1)産業 への資源配分に関するもの、例えば産業一般のインフラに関わる政策と産業間の資源配分に関わ る政策、(2)個々の産業組織に関するもの、例えば産業再編成・集約化・生産及び投資の調整等。 この分類に従えれば、中国政府は 90 年代に国有大企業の育成、所謂(1)の産業政策を重点にし たが、2000 年以降、「過当競争」や「過剰生産」を防ぐ目的で、生産規模の調整、企業の整理統合、 つまり(2)の産業構造調整に変えた、といえよう14  構造調整は往々にして規模が一定量に達していない企業の閉鎖、また逆に大きな規模の投資プ ロジェクトの許認可の停止など、どちらといえば、規模が本来小さく、拡張する意向の強い民営企 業にとって不利な行政手段で実施されている。例えば、90 年代後半以来多くの民営企業は地方政 府を盾にして鉄鋼、アルミ精錬産業に参入したが、2004 年発展と改革委員会が主導するマクロ経 済の引き締め政策で、一部の民間投資プロジェクトは政府の強制で閉鎖され、または国有企業に 吸収された。同じ時期に、宝山鉄鋼などの新設プロジェクトが認可され、幾つの国有企業は民間 や地方企業の吸収で生産能力がかなり伸びた(呉暁波, 2008, pp. 222-225, 234-242, 285-287)。  金融危機以降、産業発展戦略及び産業政策の策定・実施を最大な使命として 2008 年に新設さ れた工業・情報化部は、「10 大産業調整及び振興計画」を策定した。「計画」は内需拡大の優遇政 策を出す一方、産業秩序の整理と構造調整を重要な目的としている。例えば、自動車「三大三小」 や船舶産業「二大」(国有企業)を中心にして再編する意向が明記されているし、鉄鋼産業におい ては宝山、鞍山及び武漢三大中央企業を中心とする M&A の具体案まで盛り込まれている。また、 合併を行う場合の優遇政策も制定されている15  これに従い、各重点産業において大企業の再編成が活発になっている。しかし多くのケースでは、 政府主導の色が強く、その中に国有企業が民営企業を吸収するケースも少なくない。例えば、09 年 3 月に宝山鉄鋼は寧波鉄鋼を買収し、56%の民営株を全額退出させた16。山東省では鉄鋼企業 の統合を行う際、政府の強い意向で国有の山東鉄鋼が民営の日照鉄鋼公司を吸収した。2003 年に

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設立された日照鉄鋼公司は創業 4 年目に鉄鋼生産量が全国のトップ 10 に入り、業績が絶好調であ る。一方の山東鉄鋼は設備の老朽化などの問題で収益が悪化し、買収時点では赤字であった。こ の買収は政府の主導で 09 年 9 月に正式合意に達したものの、民営側の退出を巡って攻防が多く、 社会から多くの批判と関心が寄せられている17。山西省では、国有企業を中心に石炭産業の整理 統合が行われ、地方政府に誘致された多数の民営企業は少ない補償金で強制的に退出させた18 こうして、政府主導で構造調整が進んでいる産業では、国有経済のプレゼンスが大きくなっている。 3-4 政府の支援③:補助金などの経済的支援  90 年代に、政府は国有銀行を通して国有企業に様々な金融支援を行い、また国有企業を優先的 に上場させ、株式市場から資金を調達させた(任 2006a,b)。近年、国有銀行の改革と証券市場の 整備により、金融システムから国有企業への「輸血」が減少したと思う。しかし、政府は以下の 手段で国有企業に対して充実した経済的支援を行っている。  94 年税制改革のとき、政府が国有企業の稼いだ利潤の上納を求めないと約束したため、近 年、中央企業は膨大な利益を稼いだにもかかわらず、政府に配当を納めることがなかった。中央 企業はその分を内部留保として使い、また企業内福祉費用に当てた(World Bank, 2005; 孔善広, 2006)。07 年に、強い世論の圧力もあり、国資委は財政部と共同で「国有資本経営予算」制度を 実施し、06 年の利潤に準じて、中央企業から配当を徴収し始めた。しかし規定した配当率は、1) 石油・石化、電信、石炭、電力、タバコ業種(独占的産業)は 10%、2) その他の競争分野は 5%、3) 研究機関や国防産業などは 3 年間免除となっている。08 年両石油上場会社の年報で公表された一 般株主への配当率は 3、4 割であるものの、国家への配当率は 10%で明らかに低い。  しかも、国資委は早々に中央企業から徴収した配当金を中央企業自身の調整・改組のために使 うと明言した。実際に、07、08 年度国資委が徴収した配当金総額は約 500 億元であるが、その半 分(226.7 億元)は 09 年の 3 月初旬まで経営難に陥った 7 つの会社に資本金として注入された19 なお、08 年度の中央企業に対する予算支出総額の 547.8 億元の中には、中央企業の資本金注入額 が 270 億元(49%)、2008 年自然災害による中央企業被害援助金が 196.3 億元(36%)、中央企業 の産業構造調整や再編などの予算支出が 81.5 億元(15%)あった20。その他、中央政府は政策損 失補償などの名目で、公共財政予算から補助金を出している。例えば、両大石油会社は高い利潤 を得ていたにも関わらず、過去の二年間に 200 億元と 660 億元の政策補償金を得た21  様々な政策的及び経済的支援により、中央企業が極めて潤沢の資金に恵まれ、盲目的拡張が助 長されているとの研究結果が多数ある(魏明海等 2007; 劉星等 2007; 銭雪松 2008)。アメリカ発の 金融危機の中、中央企業による海外金融商品への投資失敗の例が相次ぎ発覚され、国資委は緊急 禁令を出した。そして不動産ブームの中で、中央企業(または関連不動産会社)を始めとする国 有企業は、7 割りほどのケースで北京などの大都市の土地の競売や入札でその地域の最高値で落 札した22。マスコミの猛烈な批判を受けたため、2010 年になって国資委は中央企業の傘下にある 非主業の不動産を売却すると約束した。

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4 政府・企業間関係から見た中国経済の課題

 第 2 と第 3 節で分析したように、国有企業の改革で、所有者としての政府と国有企業との関係 が改善されたが、一方の国民経済の管理者としての中央政府と国有大企業との癒着関係は依然改 善していない。以下、この政府と企業関係の二つの側面に生じているねじれの問題点、そして中 国経済の課題をより詳しく分析する。 4-1 「国進民退」 現象と中国経済の課題  政府・国有企業間関係において、政府の所有者としての役割の改善と国民経済管理者としての 旧態依然の状況は、まさに中央企業に虎に翼を提供したようである。なぜなら、前者の改善により、 中央企業の生産力がそれなりに解放され、利益追求の動機が強化されている。他方、後者の問題 により、中央企業は従来と変わらない政策的優遇を享受している。これにより、中央企業は凄まじ い力を得て、Tirole(1988, p.327)の用語を借りて言えば、怠けな fat cat から、攻撃的な勝利者 top dog に変貌している。  こうして変貌した中央企業は、一部の産業において民営企業を駆逐している。前述した石油産 業は典型的であるが、ここで中国建材集団拡張の例を取り上げよう。建材集団は競争領域にある 会社であり、07 年の下半期だけで数十社の民間企業や地方国有企業を買収し、06 年 2100 万トンだっ たセメントの生産能力をわずか一年で一気に 1 億トンまで伸ばした(尹中立 2008)。08 年には、こ の会社の生産能力はさらに 1.5 億トンに達すると社長が見込んでいる。総じて、近年の新聞報道な どを総合してみれば、石油、石炭、鉄鋼・アルミなどの冶金工業、電力(特に風力、太陽光発電 など新エネルギー部門)、航空、建材などの産業においては、少数の中央企業の勢力は大幅に伸び、 他方、同業種で競合する民営企業はさまざまな巧妙な規制で制約され、資金力も規模も劣ってい るため、時には撤退を余儀なくされ、「国進民退」の現象が生じていると言われている23  勿論、3-1 で説明した通り、国民経済全体における国有企業の比重は低下していて、全般的には「国 退民進」が確実に進んでいる。しかし表 3 をみる限り、規模以上の国有企業の産出が 30% 以上を 占めている産業の中に、電力及びタバコなど国有独占の強い産業では、国有の比重は一貫して上 昇している。石油と天然ガス採掘業における国有の割合も一旦減少したものの、05 年以降に再び 上昇している。そのほか、石炭採掘、石油加工及び鉄鋼、運輸機械、ガス・水道の国有比重も 05 年以降それほど下降せず、09 年の産業再編成以降、石炭、運輸機械産業における国有企業の比重 はむしろ上昇している。データの変化はすべて「国進民退」の直接的な結果とはいえないものの、「国 進民退」は一つの要因だと考えられる。  本来、市場経済の中で、いかなる所有制の企業にせよ、その参入と退出は、市場競争で行われ るならば、問題にならないと思う。しかし中国の「国進民退」が問題視されるところは、その「民 退」の結果よりむしろ「国進」の理由と手段にある。つまり国有企業が様々な面での優遇政策と 有利な立場を利用して勝ちぬくのである。30 年の改革開放を通じて、中国は市場経済システムを 初歩的に確立し、国有・民営・外資は天下三分で、混合経済の特徴も鮮明になっている。しかし、

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政府と国有企業の癒着により、中国では国有と民営企業が公平的に競争する土台さえも基本的に できていないと言わざるを得ない。これこそが中国の市場経済体制の構築にとって最大な課題で あると思われる。 表 3 国有工業企業の生産高対国有・非国有工業全体の割合の推移 2000 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 対全産業の割合 0.473 0.333 0.312 0.295 0.284 0.267  石炭採掘等 0.819 0.678 0.660 0.633 0.591 0.592  石油天然ガス採掘 0.945 0.905 0.989 0.969 0.961 0.946  タバコ産業 0.983 0.990 0.993 0.995 0.994 0.993  石油加工等 0.910 0.796 0.756 0.755 0.724 0.704  鉄鋼 0.738 0.473 0.431 0.420 0.415 0.386  運輸機械 0.670 0.518 0.502 0.498 0.448 0.464  電力・熱力生産供給 0.854 0.893 0.900 0.908 0.916 0.916  ガス生産・供給 0.716 0.564 0.547 0.518 0.488 0.440  水道水の生産・供給 0.878 0.757 0.695 0.668 0.683 0.641 出所:『中国統計年鑑』関係各年版の工業関連データにより算出。 4-2 政府と国有企業関係の問題点再考  政府と国有大企業との癒着は、様々な弊害をもたらしている。第一に、政府は本来、国有企業 に依拠して経済開発と社会安定の目標を実現しようとしてきた。国有企業に対する過保護による 不公正競争は、かえって経済成長と社会的公平を損なう。行政的独占の地位にある国有企業は川 下の民営企業に不利益をもたらし、消費者余剰を減少させる。一方国有大企業の高賃金や高福祉も、 所得分配の公正さを侵害し、社会の安定、政府の内需拡大による経済成長の維持という戦略の実 現を妨げている24。第二に、中央企業は too big to fail だけではなく、too big to hold になりかね

ない。中央大企業の経営トップが党に管理された幹部で、経済省庁の閣僚になるケースが多い25 そして経済省庁は産業政策や規制を策定するとき、中央大企業との交渉で時折弱い立場に立って いる26。これらの理由により、政府は大企業に「捕獲」され、意思決定に歪みが生じる恐れが高い。 第三に、政府と国有大企業との癒着は公平な市場競争を歪めて、不利の環境に晒される民営企業 の投資意欲と創造能力を低下させる。他方国有企業が「温室」の中で育てられ、本当の競争力も 付けられない。そのため、長期的には中国の経済の活力が著しく損なわれる27  明らかに、政府は企業を差別化する規制・産業政策から競争政策を重視する方向に転換しなけ ればならない28。つまり、政府は国民経済の管理者として中立的立場に立ち、国有企業に対する 優遇政策をできるだけ撤廃し、参入面での規制緩和と独占企業に対する規制の強化などで、より 公平な市場経済システムを構築することが必要不可欠である。  しかし、こうした政策転換は至難であろう。なぜなら、第一に、現実には、中国政府はイデオロ ギーの堅持で、どうしても国有企業と国有経済を優遇する政策を取りがちである。第二に、政府

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の国有企業所有者の身分と国民経済管理者の身分は、そもそも調和し難い。前者の身分では、政 府は結局、営利目的の国有企業に対して、私的所有者と同じ、利益を第一目標として求める。他 方、後者の身分では、明らかに政府が公共目的、国民全体の福祉厚生を追求することが求められる。 このように、前者の局所的利益志向と後者の全体的利益志向の間に利害相反が生じている。こう した所有者と管理者の両方の身分を兼ねることは、嘗て批判された「政府が試合にプレーヤーと して出場しながらも同時に審判を兼担する」というジレンマと本質的に変わっていない。  この第一の問題について、イデオロギーの束縛を突破し、国有企業の株式分散、民営企業の参 入を促進する勇気が必要である。政府は 2005 年に「非公有制経済促進に関する意見 36 条」を公 表したが、殆ど実行性はなかった。2010 年 5 月に、政府は民営企業促進の新 36 条を再び提出し、 民営企業が石油採掘などの資源産業や電力、電信産業、さらに金融や鉄道など、従来国有企業が ほぼ独占している産業への参入も明白に推奨するようになっている。しかし民営資本が参入した 場合、圧倒的優位を示している国有企業の存在で、公平で自由な競争を保証できるかどうかは、 やはり大いに疑わしい29  第二の問題について、政府の二重身分のジレンマを解消するためには、国有企業の所有者の役 割を果たす国資委を、政府の管轄から国会に当たる全国人民代表大会の直接な監督と管理の下に 置くことも一つのやり方である。これで少なくとも形式上国有資産の所有者である国資委と国民経 済の管理者としての政府がもう一歩進んで分離され、国民による国有企業への監督の強化や国有 企業の利益が国民に還元できる可能性も増えるであろう。しかし問題の解決には、最終的に中国 の経済発展と経済体制に見合った政治システムの改革は必要であると思われる。要するに、国有 企業の所有者の身分を超越できる中立性・公共性を保つ政府、そして国有企業の利益を真の所有 者である国民に還元できる国民主権の政治仕組みが必要となってくる。

5 まとめに

 本稿は改革開放以来の中国国有企業と政府間関係の変化を分析した。本稿の基本的結論は、90 年代後半以来の国有企業の改革を経て、所有者としての政府と国有企業との関係が改善され、所 有と経営の分離が進んでいる。また、国有企業の政策的負担が軽減され、企業の利益追求のイン センティブが高まり、生産力も解放されたと言える。一方、経済管理者としての政府は中央企業に 対する政策的優遇を維持しつつ、経済的サポートも行っている。これは中国の公平かつ競争的市 場経済の建設にとって最大の課題である。この問題の複雑さは、イデオロギーの束縛のほか、政 府にとっては所有者の身分と国民経済管理者の身分の間に利益相反が生じていて、矛盾を抱えて いることにある。従って、イデオロギーの束縛を突破し、国有企業の株式分散、民営企業の参入 を促進するなど経済面の改革を行う上、所有者と管理者の身分の両立不可能の問題を解決するた めに、経済発展と経済体制の改革に見合った政治システムの改革が必要であると思われる。  本稿は、紙幅の制約で、中央政府と国有大企業の関係だけを論じたが、地方政府と国有及び民 営企業の関係の変化を考査していない。中央と地方の駆け引きの中、また国有と非国有企業の競

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争の中で、中央政府と国有大企業の関係が変わっていくと考えたほうが自然である。こうした各利 益集団のゲーム的状況を分析することで、中央政府と国有大企業との関係をより一層認識できる し、中国の市場経済における本質的な問題をより立体的、ダイナミックに理解できるだろう。この ような視点での分析を今後の課題としたい。 謝辞:本稿は桜美林大学産業研究所定例研究会(2009 年 5 月)での報告、及び比較経済体制学 会第 49 回全国大会(国学院大学、2009 年 6 月)共通論題での報告内容に基づいて修正を施した ものである。座間紘一、酒井正三郎、堀江典生、金山権、小松出、劉敬文氏等から有益な教示を 受けたことに感謝する。 1 Hart(1995)は、余剰コントロール権と余剰請求権が、所有権の本質的権利であると定義している。政府がこ れらの権利を放棄したことは、当時の国有企業改革が行き詰まった最大の要因であると言えよう。 2 「抓大放小」とは、国有大企業を掴み、競争力を高める一方、中小企業を手放し、民営化で企業を活性化させ ることである。「有進有退」とは、産業別で国有企業の選択と集中を行い、国有経済の産業分布を調整するこ とである。 3 「3 年脱困」の詳しい内容については、座間(2006)、張文魁・袁東明(2008)に参照されたい。 4 石油産業に関しては中国石油網(http://www.cnoil.org.cn/News/3/3170.html)を参照。電力改革に関しては、 任(2006c)が詳しく分析している。電信産業の再編の動きについては、高鶴(2009)が詳しい。 5 国資委の報道(http://www.sasac.gov.cn/n1180/n3123702/n3123747/3364073.html)によれば、2006 年末、全 国では 237 の地区(市)、107 の県(市)が国資局を設立した。 6 5 社は、家電の海尓と長虹、IT産業の北大方正、製薬産業の華北医薬、造船業の江南造船である。選ばれた理由は、 国有企業で、国内の市場競争に勝ち抜き、企業家も有能などである(呉暁波 2008, p.73)。 7 その他に、中央管轄の金融機関は 8 社で、国有地方企業は 2 社で、民営企業は 2 社がランクされている。詳し くは http://money.cnn.com/magazines/fortune/global500/2010full_list/ を参照。 8 鄭玉歆等(2007)は、98 年~ 2005 年までのデータで計算したところ、工業全体の利潤増加に対する重化学工 業の寄与度が 70%超で、採掘業と原材料資源産業の利潤が価格の上昇によるものだと明らかにしている。 9 Tian and Estin(2008)は、国有株の支配的保有により、国有大企業の企業価値が高まったという実証研究を

出している。Chen et al.(2009)も中央企業の経済的効率性が最も高いと実証している。しかし、王兵(2009) はこれらの研究と逆の結果を出している。筆者から見れば、国有大企業の場合、国有株の集中的保有によって コーポレートガバナンスが改善され、利潤が増えたとの説明より、やはり政策的優遇で利益が増えたという要 因が大きい。 10 中国で採掘された石油トン当たりの資源税は 24-30 元で、国際的な 10-50%の従価税より遥かに低い(盛洪 2008)。なお、財政部 72 号通達によれば、06 年 3 月から徴収する石油特別収益金は、本国採掘原油に国際価 格 1 バーレル 40 ドルを超えたら、45 ドルまでの分で 20%を、60 ドルを超えたら超過分の 40%を徴収するとなっ ている。 11 陝西省北部では、中国石油と地方政府が採掘権を巡って争奪を行い、省政府は 03 年に 15 の県の民営油田約 70 億元資産を没収し、6 万人の投資者が被害させた。鳳凰テレビ 05 年 7 月 14 日『社会能見度:陝北油田之争』 を参照。 12 『第一財経日報』08 年 10 月 13 日(http://ccnews.people.com.cn/GB/8160800.html)による。呉暁波(2008, pp.152-155)、呉木銮(2008)も、両大石油企業の垂直統合の問題点を分析している。 13 独占禁止法の問題点について、『新浪財経』特集(http://finance.sina.com.cn/focus1/gzfldf/index.shtml)を参照。 14 実証研究では、この意味での産業政策は、日本では基本的に機能しなかった(小宮等 1984)。中国でも、紡績や 電子産業の産業政策が機能せず(田島等 2003)、鉄鋼産業の計画調整政策も殆ど失敗した(江飛濤等 2007)。

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15 各振興政策の詳細について、『新浪財経』特集を参照(http://finance.sina.com.cn/focus/10chanye/index. shtml)。 16 『中国経営報』2009 年 3 月 9 日付け「工業振興 鋼鉄業「国進民退」」及び『中国企業家』2009 年 4 月 20 日付「弁 析国進民退」(http://finance.jrj.com.cn/opinion/2009/04/2017414177383.shtml)を参照。 17 『新浪財経』「山東鋼鉄重組日照鋼鉄」 (http://finance.sina.com.cn/focus/sdgtjgrzgt/)及び注 21 参照。 18 石炭産業の編成について、『鳳凰財経』「山西煤炭大重組」を参照(http://finance.ifeng.com/topic/news/ sxmqcz/)。 19 内訳は、南方航空 30 億元、東方航空 70 億元、国家電網 87.3 億元、南方電網 33.4 億元である。その他、発電 三社も資本注入を受けた。詳しくは『中国経営報』2009 年 3 月 9 日「央企大救援」を参照。 20 国資委ホームページ (http://www.sasac.gov.cn/n1180/n1566/n259730/n264168/5872247.html)による。 21 『 北 京 晨 報 』2009 年 3 月 30 日 付(http://finance.sina.com.cn/chanjing/gsnews/20090330/07056039711. shtml)。 22 中国社会科学院『中国房地産発展報告 2010 年』による。 23 アルミ精錬産業については、陳信元等(2006)、 呉暁波(2008)などを参照。 発電産業特に最新の風力発電競 争については、『中国企業家』2009 年 4 月 20 日付「弁析国進民退」の報道を参照。 24 韓康(2008)によれば、中央独占企業の従業員総収入は全国平均の 14.06 倍である。中国統計年鑑を見ても、 独占国有部門の賃金が平均より 1.5 - 3 倍位高い。 張原等(2007)は国有企業の非賃金収入の高さを分析して いる。 25 筆者の調べでは、国務院工業省の大臣は中国石化の出身で、筆頭副大臣の 2 人はそれぞれ東風公司と中国電 信の経営者であった。 なお、今井(2008)は、中国石化と党・政府の人事関係を詳しく纏めている。 26 劉小玄(2009, p.296-298)は、政府と国民が独占企業に「捕獲」されていると分析している。例えば、資源税 を高く設定すれば、独占企業が反対し、また消費者にそのコストを転嫁しやすい。しかし資源税を殆ど取らな い現状では、資源の過度採掘などの問題が解決できない 27 筆者が政府の役割を否定するつもりは毛頭ない。差別化的産業政策ではなく、「基礎的条件整備に関する政策」 や「市場促進的」政策、所謂「中立的産業政策」(黒岩 2004, pp. 25-27)が必要であろう。 28 後藤・鈴村(1999, p.9)によれば、産業政策は規制手段によって個々の経済単位の選択機会に裁量的な行政権 限を行使するミクロの経済政策であるが、競争政策は公正で自由な競争環境という「公共善」を供給すること によって、個々の経済単位にその目標を自律的に追求する機会を公平・透明に保証する政策に他ならない。 29 新・旧 36 条については、『新浪財経 』の報道特集を参照(http://finance.sina.com.cn/focus/mjtz/index. shtml)。 参考文献 今井健一 (2008)「国有資本のプレゼンスと経営支配の変革」ナズール他編『中国の再興と抱える 課題』勁草書房 黒岩郁雄(2004)「制度能力と産業政策」(黒岩編)『国家の制度能力と産業政策』アジア経研 後藤晃・鈴村興太郎編(1999)『日本の競争政策』東京大学出版会 小宮隆太郎他編(1984)『日本の産業政策』東京大学出版会 座間紘一(2006)「改革の現段階と諸側面」(座間編)『中国国有企業の改革と再編』学文社 田島俊雄・江小涓・丸川知雄(2003)『中国の体制転換と産業発展』東京大学社会科学研究所 任 雲(2006a)「株式会社化と証券市場」(座間編)『中国国有企業の改革と再編』学文社 任 雲(2006b)「銀行の役割」(座間編)『中国国有企業の改革と再編』学文社 任 雲(2006c)「電力産業」(座間編)『中国国有企業の改革と再編』学文社

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表 2 国資委管轄の中央企業の経営状況 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 中央企業数 196 196 183 169 161 150 141 129 総資産(兆元) 7.13 8.32 9.15 10.51 12.2 14.92 17.7 21 売上高(兆元) 3.36 4.47 5.6 6.79 8.3 10.03 11.9 12.62 納税額(億元) 2914.8 3563.1 4655.2 5799.9 6822.5 8792.1 9914 11474.8

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