[研究論文]
「基金訓練」から「求職者支援訓練」への移行
―どのような変化が起きたのか―
大木 栄一
〈要 約〉 求職者支援訓練の状況について「各訓練の受講者数」からみると,基金訓練時に比べて「大幅に 減った」と答えている教育訓練プロバイダーが 6 割以上にも達している。さらに,「やや減」とい う回答も含め,基金訓練時から受講者が減っているという回答の割合は実に 9 割弱を占めている。 基金訓練から引き続き求職者支援訓練に取り組んでいる事業所のほとんどが受講者減を経験してお り,そのことが訓練あるいは組織そのものの運営に深刻な影響を及ぼしている可能性は高い。また, 「受講者の受講態度」と「就職支援の取り組み」については,前者は良くなったという回答が約 4 割で,悪くなったという回答の割合を大きく上回る反面,後者は難しくなったという回答が約 4 割 で,2 割弱の容易になったという回答の割合を大きく上回っている。また,「受講者の受講態度」,「訓 練の進行」,「就職支援の取り組み」と「訓練受講後の就職状況」は「受講者数」と密接な関係にあ る。 基金訓練から求職者支援訓練に移行するに際しての受講者数の減少は教育訓練プロバイダーの 認定基準を厳しくしたことと関係している。認定基準を緩くすれば,教育訓練プロバイダーのモラ ルハザードを防ぐことが難しく,これに対して,厳しくすれば,教育訓練プロバイダーの組織運営 が困難に陥る可能性が高くなる。こうした課題を解決するためには,これまでの公共職業訓練と民 間委託の求職者支援訓練の役割分担を大きく変更し,新しい役割分担を構築する必要がある。 キーワード:求職者支援制度,教育訓練プロバイダー,雇用保険,失業給付,非正規労働者Ⅰ はじめに―問題意識
求職者支援制度は,平成 21 年(2009 年)7 月から平成 23 年(2011 年)度末までの時限事業として 実施されていた「緊急人材育成支援事業(雇用保険が受給できない者への職業訓練(「基金訓練」)」 1) と生活保障のための給付制度(「訓練・生活支援給付金」),融資制度(「訓練・生活支援資金融資」) から構成)を見直し,今後は「緊急人材育成支援事業」に代わる恒久的な制度として,平成 23 年 10 月 1 日から新たに施行された「特定求職者の支援に関する法律(「特定求職者支援法」)」に基づいて, 特別な支援が必要とされている「長期失業者,新卒未就職者,ニート状態の若者,母子家庭の母」な ど,雇用保険が適用されないために失業給付が受けられない者などの求職者に対して,職業訓練・給 付・就職支援等を行うための恒久的な制度として創設された 2) 。 職業訓練の内容について,緊急人材育成支援事業の基金訓練で対象となった職業訓練の内容と求職 者支援制度の求職者支援訓練の内容を比較すると,前者では,成長や雇用吸収を見込める介護,福祉, 医療,情報通信等の分野を中心に,地域のニーズ等を踏まえたもので,以下の 3 種類がある。1 つは, 職種に関わりなく再就職に必要な情報技術(文書作成,表計算,図表作成,プレゼンテーション制 作など)を習得するための 3 ヶ月程度の訓練である。2 つは,医療,介護,福祉,情報技術,電気設 所属:経営学部国際経営学科 受領日 2017 年 2 月 1 日備,農林水産業,その他,地域で必要な人材に要求される基本から実践までの能力を習得するための 3 ヶ月程度の訓練である。2 つは,医療,介護,福祉,情報技術,電気設備,農林水産業,その他, 地域で必要な人材に要求される基本から実践までの能力を習得するための 3 ヶ月∼ 1 年程度の訓練で ある。3 つは,社会教育,環境保全などの社会的事業等の分野及び事業の担い手となるために必要な 技能を習得するための 3 ヶ月∼ 1 年程度の訓練である 3) 。 他方,求職者支援制度の求職者支援訓練はより多くの職種に共通する基礎能力を習得するための「基 礎コース」(①労働の意義,社会人としての心構え,責任感等の職業意識,②電話の応対,挨拶,身 だしなみ,態度,言葉づかい等のビジネスマナー,③ビジネスコミュニケーション・チームワーク・ 報告書や企画書などビジネス文書作成,④ IT 活用(ワープロソフト,表計算ソフト)⑤現場見学, 職場体験,職業講話,労働・安全衛生等)と特定の職務に必要な実践能力を習得するための「実践コー ス」(① IT 分野,②営業・販売・事務分野,③医療事務分野,④介護福祉分野,⑤農業分野,⑥林業 分野,⑦旅行・観光分野,⑧警備・保安分野,⑨企画・創作などのクリエート分野,⑩デザイン分野, ⑪輸送サービス分野,⑫エコ分野,⑬調理分野,⑭電機関連分野,⑮機械関連分野,⑯金属関連分野, ⑰建設関連分野,⑱理容・美容関連分野,⑲社会的事業分野,⑳その他の分野)の 2 つに分けられ, 訓練期間は両方に共通して 3 ヶ月から 6 ヶ月の訓練である。 さらに,教育訓練の認定を受ける教育訓練機関(教育訓練プロバイダー) 4) からみた基金訓練と求 職者支援訓練の異同についてみると,基本的には基金訓練の実施要領が受け継がれているが,以下の 4 つの必須項目が新たに付け加えられた。東京都社会保険労務士会(自主研究グループ)公的支援制 度実務研究会編(2012) 5) によれば,1 つは,過去に実施された職業訓練の実績(就職率)に照らして 講師の要件が強化されたことである。2 つは,訓練期間中に成績考査を毎月 1 回以上,修了考査を訓 練修了時にそれぞれ実施し,その結果をジョブ・カードに反映させることである。3 つは,登録キャ リア・コンサルタント(厚生労働省または厚生労働省の委託を受けた登録団体が実施する講習を受講 し,厚生労働省またはその登録団体に登録された者)の資格を有する就職支援責任者を配置し,受講 者に対してキャリア・コンサルティング(個人がその適性,職業能力,職業経験等に応じて自ら職業 生活の設計を行い,これに即した職業選択や職業訓練等の職業能力開発を効果的に行うことができる よう,個別の希望に応じて実施される相談,その他の援助を行うこと)及びジョブ・カードの作成支 援,交付を行うことである。4 つは,地域職業訓練実施計画(地域のニーズに合った効果的な職業訓 練を実施するために,都道府県ごとに行われる訓練の実施計画)に定められた計画数が上限となるた め,その計画数を超える申請があった場合には,認定基準を満たしていても認定されないケースが生 じることである。 上記のような問題意識を踏まえて,本稿では,著者が参加した労働政策研究・研修機構(2014)『求 職者支援制度に関する調査研究』で実施された「「求職者訓練を実施している教育訓練プロバイダー」 を対象にしたアンケート調査」 6) の再分析より,「基金訓練」から「求職者支援訓練」へ移行にするに 伴いどのような変化が起き,その変化はどのような要因に規定するかを明らかにする。最後に,分析 により明らかにされたことを通して,今後の求職者支援訓練の方向性(より効果的な制度にするため にはどのようにすればよいのか)について提案を行い,それをまとめとする。
Ⅱ
「基金訓練」から「求職者支援訓練」へ移行するに際してどのような変化
が起きたのか
1.「基金訓練」と「求職者支援訓練」の比較―実施したコース分野 求職者支援制度の求職者支援訓練の前に同様の趣旨で行われていた「緊急人材育成支援事業」に係 る職業訓練(「基金訓練」)の実施状況(2009 年 7 月から 2011 年 9 月までの期間)についてみると,基 金訓練の見直しに伴い創設された求職者支援訓練を実施している機関のうちの 9 割強が基金訓練を実 施していた。 つぎに,実施した基金訓練のコース分野についてみると,「IT 基礎分野」(55.5%)を挙げる事業所 が半数を超えて最も多かった。以下,「営業・販売・事務分野」(32.8%)を挙げる事業所が 3 分の 1 程度, 「IT 分野」(24.9%)を挙げるところが 4 分の 1 程度,「介護福祉分野」(21.2%)を挙げるところが 5 分 の 1 程度,「医療事務分野」が 15.1%,「デザイン分野」が 9.7%で続いている(図表 1)。 さらに,基金訓練のコース分野とこれまで主に実施してきた求職者支援訓練の実践コース分野を比 較すると,基金訓練では「IT 基礎分野」が最も多くなっているが,「IT 基礎分野」を除けば,コース 分野はほぼ同じ分野がほぼ同じような割合で実施されてきている。 図表 1 実施した基金訓練のコース分野(複数回答)とこれまで実施した求職者支援訓練・実践コース分野 (2 つまで回答) (単位:%) 件数 IT 基礎 分野 IT 分野 営業・販売・ 事務分野 医療事務 分野 介護福祉 分野 農業分野 林業分野 基金訓練 1291 55.5 24.9 32.8 15.1 21.2 1.4 0.2 求職者 支援訓練 1083 ― 23.9 30.2 15.0 22.4 1.1 0.1 旅行・観光 分野 警備・保安 分野 クリエート 分野 デザイン 分野 輸送サービス 分野 エコ分野 調理分野 電気関連 分野 基金訓練 2.6 0.4 3.9 9.7 0.2 0.2 1.1 1.5 求職者 支援訓練 0.6 0.6 1.9 12.0 0.2 0.1 0.7 0.7 機械関連 分野 金属関連 分野 建設関連 分野 理容・美容 関連分野 社会的事業 分野 その他の 分野 無回答 基金訓練 1.5 0.1 4.5 6.7 0.9 5.9 2.8 求職者 支援訓練 0.7 0.2 3.3 7.4 0.3 4.0 9.0 (注 1)基金訓練を実施した 1,291 機関の回答結果を集計。 (注 2)求職者支援訓練については実践コースを実施した経験がある 1,083 機関の回答結果を集計。 2.どのような変化が起きたのか―変化の全体的な特徴 基金訓練時と比較した,現在の求職者支援訓練の状況についてみると,第 1 に,「各訓練の受講者数」 について,基金訓練時に比べて「大幅に減った」と答えている教育訓練プロバイダーが 6 割以上に達 している。そして,「やや減」という回答も含め,基金訓練時から受講者が減っているという回答の 割合は実に 86.1%を占めている。基金訓練から引き続き求職者支援訓練に取り組んでいる教育訓練プ ロバイダーのほとんどが受講者減を経験しており,そのことが訓練あるいは組織そのものの運営に深刻な影響を及ぼしているが可能性は高い(図表 2)。 第 2 に,そのほかの項目はいずれも「変わらない」という回答の割合が最も多くなっているが,そ の中でも,比較的「変わらない」という回答の割合が低いのは,「受講者の受講態度」と「就職支援 の取り組み」であり,前者は良くなった(「非常に良くなった」+「やや良くなった」)という回答が 約 4 割で,悪くなったという回答の割合を大きく上回る反面,後者は難しくなった(「やや難しくなっ た」+「非常に難しくなった」)という回答が約 4 割で,2 割弱の容易になった(「非常に容易になった」 +「やや容易になった」)という回答の割合を大きく上回っている。 図表 2 「基金訓練」から「求職者訓練」に移行するに際してどのような変化が起きたのか (単位:点) 各訓練の 受講者数 大幅増 やや増 変わらない やや減 大幅減 無回答 0.5 2.6 9.2 23.7 62.4 1.7 受講者の 受講態度 非常に良く なった やや良く なった 変わらない やや悪く なった 非常に悪く なった 無回答 7.7 34.6 37.0 16.2 2.6 1.9 訓練の進行 非常に良く なった やや良く なった 変わらない やや悪く なった 非常に悪く なった 無回答 3.6 22.3 58.2 12.2 1.7 2.0 就職支援の 取組み 非常に容易に なった やや容易に なった 変わらない やや難しく なった 非常に難しく なった 無回答 1.9 17.0 40.5 27.3 11.3 1.9 受講後の 就職状況 非常に良く なった やや良く なった 変わらない やや悪く なった 非常に悪く なった 無回答 4.3 26.6 44.0 16.8 6.1 2.2 (注)基金訓練を実施した 1,291 機関の回答結果を集計。
Ⅲ
「基金訓練」から「求職者支援訓練」へ移行するに際して起きた変化の規
定要因
1.「各訓練の受講者数の増減」の規定要因 「各訓練の受講者数」について,基金訓練時に比べて「大幅に減った」と答えている教育訓練プロ バイダーが 6 割以上に達しており,「やや減」という回答も含め,基金訓練時から受講者が減ってい るという回答の割合は実に 86.1%を占めている。基金訓練から引き続き求職者支援訓練に取り組んで いる教育訓練プロバイダーのほとんどが受講者減を経験している。 そのため,本稿では,基金訓練から求職者支援訓練に移行するに際して,「受講者数が減った組織 (事業所)」とは,どのような教育訓練プロバイダーであるのかについて,順序ロジスティック回帰分 析を利用して,明らかにしよう。分析により説明されるのは,「各訓練の受講者数」である。説明す る変数は,第 1 に,組織(事業所)の特性を表している①「事業所を運営している組織形態」,②「事 業所の従業員数」及び③「事業所の所在地域」,第 2 に,組織(事業所)の活動状況を表している①「基 金訓練における延べコース数」及び②「実施した基金訓練のコース分野」である。 各変数に対するデータの取り扱いについて説明すると,被説明変数については,「各訓練の受講者数」 (「大幅減」を 5 点,「やや減」を 4 点,「変わらない」を 3 点,「やや増」を 2 点,「大幅に増」を 1 点)については得点化して被説明変数とした。他方,説明変数については,「事業所の従業員数」及び「基 金訓練における延べコース数」については実数値を使用した。これら以外の変数は,すべてダミー変 数であり,変数名として示された事柄に該当する場合に「1」,そうでない場合を「0」とした。 図表 3 から明らかなように,第 1 に,組織(事業所)の特性では,地域労働市場の状況を表している「事 業所の所在地域」が「各訓練の受講者数の減減」と密接な関係にある。具体的にみると,「南関東(東 京・神奈川・千葉)地域」よりも「東海(愛知・静岡・岐阜・三重)地域」に立地している組織(事 業所)ほど,基金訓練から求職者支援訓練へ移行するに際して,訓練の受講者数を減らしている。こ れに対して,「南関東(東京・神奈川・千葉)地域」よりも基金訓練の受講者数が最も少なかった「四 国地域」に立地している組織(事業所)ほど,訓練の受講者数を減らしていない。 第 2 に,組織(事業所)の活動状況では,基金訓練の受講者数を間接的に表している「基金訓練に おける延べコース数」及び「実施した基金訓練のコース分野」が「各訓練の受講者数の増減」と密接 な関係にある。具体的にみると,延べコース数が多い組織(事業所)ほど,つまり,大規模に基金訓 練を展開していた教育訓練プロバイダーほど,実施していた基金訓練のコース分野では,「IT 基礎分 野」,「IT 分野」,「営業・販売・事務分野」及び「介護福祉分野」を実施していた組織(事業所)ほど, 訓練の受講者数を減らしている。これに対して,「医療事務分野」,「デザイン分野」及び「理容・美 容関連分野」については,訓練の受講者の増減と密接な関係にはない。 図表 3 「各訓練の受講者数の増減」の規定要因―順序ロジスティック回帰分析― B Wald 事業所全体の人数 0.002 0.566 株式会社以外の事業主ダミー 専修・各種学校ダミー その他組織ダミー − 0.132 − 0.088 − 0.335 0.654 0.097 2.285 北海道・東北地域ダミー 北関東(埼玉・群馬・栃木・茨城)地域ダミー 甲信越・北陸地域ダミー 東海(愛知・静岡・岐阜・三重)地域ダミー 近畿地域ダミー 中国地域ダミー 四国地域ダミー 九州地域ダミー 0.306 0.154 0.050 1.065 − 0.164 − 0.123 − 0.690 0.039 1.745 0.300 0.029 12.057 0.553 0.138 4.297 0.030 *** ** 基金訓練における延べコース数 0.049 13.489*** 実施した基金訓練のコース分野 IT 基礎分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 IT 分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 営業・販売・事務分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 医療事務分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 介護福祉分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 デザイン分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 理容・美容関連分野ダミー 0.734 0.538 0.531 0.224 0.505 0.096 − 0.138 24.837 10.578 12.809 0.978 7.087 0.174 0.300 *** *** *** *** − 2 対数尤度 NagelkerkeR2 N 2004.377*** 0.157 1131 (注 1)***は 1%水準有意,**は 5%水準有意,*は 10%水準有意。 (注 2)「事業所を運営している組織形態」ダミーのリファレンスグループは「株式会社」。 (注 3)「事業所の所在地」ダミーのリファレンスグループは「南関東(東京・神奈川・千葉)」。
2.「受講者の受講態度の変化」の規定要因 「受講者の受講態度」の変化については,「良くなった」(「非常に良くなった」+「やや良くなった」) と回答する教育訓練プロバイダーの割合が約 4 割を占め,「悪くなった」(「非常に悪くなった」+「や や悪くなった」)という回答の割合(約 2 割)を大きく上回っている。そのため,本稿では,基金訓 練から求職者支援訓練に移行するに際して,「受講者の受講態度が良くなった組織(事業所)」とはど のような教育訓練プロバイダーであるのかについて,順序ロジスティック回帰分析を利用して,明ら かにしよう。 分析により説明されるのは,「受講者の受講態度の変化」である。説明する変数は,第 1 に,組織(事 業所)の特性を表している①「事業所を運営している組織形態」,②「事業所の従業員数」及び③「事 業所の所在地域」,第 2 に,組織(事業所)の活動状況を表している①「基金訓練における延べコース数」 及び②「実施した基金訓練のコース分野」である。第 3 に,基金訓練から求職者支援訓練へ移行する に際して起きた変化を表している「各訓練の受講者数の増減」である。 各変数に対するデータの取り扱いについて説明すると,被説明変数については,「受講者の受講態 度の変化」(「非常に良くなった」を 5 点,「やや良くなった」を 4 点,「変わらない」を 3 点,「やや悪 くなった」を 2 点,「非常に悪くなった」を 1 点)については得点化して被説明変数とした。他方,説 明変数については,「事業所の従業員数」及び「基金訓練における延べコース数」については実数値 を使用し「各訓練の受講者数の減減」(「大幅減」を 5 点,「やや減」を 4 点,「変わらない」を 3 点,「や や増」を 2 点,「大幅に増」を 1 点)については得点化して説明変数とした。なお,これら以外の変数 は,すべてダミー変数であり,変数名として示された事柄に該当する場合に「1」,そうでない場合を 「0」とした。 図表 4 から明らかなように,第 1 に,組織(事業所)の特性よりも組織(事業所)の活動状況(とくに, 実施したコース分野)と「受講者の受講態度」と密接な関係にある。具体的にみると,実施していた 基金訓練のコース分野で「IT 分野」及び「営業・販売・事務分野」を実施していた組織(事業所)ほど, 受講者の受講態度が良くなったと考えている。これに対して,「介護福祉分野」を実施していた組織(事 業所)ほど,受講者の受講態度が良くなったと考えていない。第 2 に,「各訓練の受講者数の増減」と「受 講者の受講態度」と密接な関係にある。各訓練の受講者が減っている組織(事業所)ほど,受講者の 受講態度が良くなったと考えていない。 3.「訓練の進行の変化」の規定要因 「訓練の進行」の変化については,「良くなった」(「非常に良くなった」+「やや良くなった」)と 回答する教育訓練プロバイダーの割合が約 25%を占め,「悪くなった」(「非常に悪くなった」+「や や悪くなった」)という回答の割合(約 15%)を上回っている。そのため,本稿では,基金訓練から 求職者支援訓練に移行するに際して,「訓練の進行が良くなった組織(事業所)」とはどのような教育 訓練プロバイダーであるのかについて,順序ロジスティック回帰分析を利用して,明らかにしよう。 分析により説明されるのは,「訓練の進行の変化」である。説明する変数は,第 1 に,組織(事業所) の特性を表している①「事業所を運営している組織形態」,②「事業所の従業員数」及び③「事業所 の所在地域」,第 2 に,組織(事業所)の活動状況を表している①「基金訓練における延べコース数」 及び②「実施した基金訓練のコース分野」である。第 3 に,基金訓練から求職者支援訓練へ移行する に際して起きた変化を表している①「各訓練の受講者数の増減」と②「受講者の受講態度の変化」で ある。 各変数に対するデータの取扱いについて説明すると,被説明変数については,「訓練の進行の変化」
(「非常に良くなった」を 5 点,「やや良くなった」を 4 点,「変わらない」を 3 点,「やや悪くなった」 を 2 点,「非常に悪くなった」を 1 点)については得点化して被説明変数とした。他方,説明変数につ いては,「事業所の従業員数」及び「基金訓練における延べコース数」については実数値を使用し「各 訓練の受講者数の減減」(「大幅減」を 5 点,「やや減」を 4 点,「変わらない」を 3 点,「やや増」を 2 点, 「大幅に増」を 1 点)及び「受講者の受講態度の変化」(「非常に良くなった」を 5 点,「やや良くなった」 を 4 点,「変わらない」を 3 点,「やや悪くなった」を 2 点,「非常に悪くなった」を 1 点)については 得点化して説明変数とした。なお,これら以外の変数は,すべてダミー変数であり,変数名として示 された事柄に該当する場合に「1」,そうでない場合を「0」とした。 図表 5 から明らかなように,組織(事業所)の特性及び組織(事業所)の活動状況よりも基金訓練 から求職者支援訓練へ移行するに際して起きた変化を表している「各訓練の受講者数の増減」・「受講 者の受講態度の変化」と「訓練の進行」と密接な関係にある。具体的にみると,受講者の受講態度が 良くなった組織(事業所)ほど,訓練の進行も良くなったと考えている。これに対して各訓練の受講 者が減っている組織(事業所)ほど,訓練の進行が良くなったと考えていない。 図表 4 「受講者の受講態度の変化」の規定要因―順序ロジスティック回帰分析― B Wald 事業所全体の人数 − 0.001 0.447 株式会社以外の事業主ダミー 専修・各種学校ダミー その他組織ダミー 0.051 − 0.012 − 0.114 0.122 0.003 0.307 北海道・東北地域ダミー 北関東(埼玉・群馬・栃木・茨城)地域ダミー 甲信越・北陸地域ダミー 東海(愛知・静岡・岐阜・三重)地域ダミー 近畿地域ダミー 中国地域ダミー 四国地域ダミー 九州地域ダミー − 0.314 0.012 − 0.005 − 0.072 − 0.169 − 0.712 0.056 0.142 2.440 0.002 0.000 0.092 0.721 5.965 0.031 0.517 ** 基金訓練における延べコース数 0.009 1.804 実施した基金訓練のコース分野 IT 基礎分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 IT 分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 営業・販売・事務分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 医療事務分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 介護福祉分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 デザイン分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 理容・美容関連分野ダミー − 0.201 0.301 0.541 0.036 − 0.312 0.068 0.220 2.449 4.984 18.934 0.039 3.689 0.127 0.928 ** *** * 基金訓練(受講者数の変化) − 0.300 16.799*** − 2 対数尤度 NagelkerkeR2 N 2914.904*** 0.066 1126 (注 1)***は 1%水準有意,**は 5%水準有意,*は 10%水準有意。 (注 2)「事業所を運営している組織形態」ダミーのリファレンスグループは「株式会社」。 (注 3)「事業所の所在地」ダミーのリファレンスグループは「南関東(東京・神奈川・千葉)」。
4.「就職支援の取り組みの変化」の規定要因 「就職支援の取り組み」の変化については,「難しくなった」(「非常に難しくなった」+「やや難し くなった」)と回答する教育訓練プロバイダーの割合が約 4 割を占め,「容易になった」(「非常に容易 になった」+「やや容易になった」)という回答の割合(約 2 割)を上回っている。そのため,本稿では, 基金訓練から求職者支援訓練に移行するに際して,「就職の取り組みが難しくなった組織(事業所)」 とはどのような組織(事業所)であるのかについて,順序ロジスティック回帰分析を利用して,明ら かにしよう。 分析により説明されるのは,「訓練の進行の変化」である。説明する変数は,第 1 に,組織(事業所) の特性を表している①「事業所を運営している組織形態」,②「事業所の従業員数」及び③「事業所 の所在地域」,第 2 に,組織(事業所)の活動状況を表している①「基金訓練における延べコース数」 及び②「実施した基金訓練のコース分野」である。第 3 に,基金訓練から求職者支援訓練へ移行する に際して起きた変化を表している①「各訓練の受講者数の増減」,②「受講者の受講態度の変化」及 び③「訓練の進行の変化」である。 各変数に対するデータの取り扱いについて説明すると,被説明変数については,「就職支援の取り 図表 5 「訓練の進行の変化」の規定要因―順序ロジスティック回帰分析― B Wald 事業所全体の人数 − 0.002 0.855 株式会社以外の事業主ダミー 専修・各種学校ダミー その他組織ダミー 0.121 − 0.330 − 0.151 0.555 1.573 0.415 北海道・東北地域ダミー 北関東(埼玉・群馬・栃木・茨城)地域ダミー 甲信越・北陸地域ダミー 東海(愛知・静岡・岐阜・三重)地域ダミー 近畿地域ダミー 中国地域ダミー 四国地域ダミー 九州地域ダミー − 0.549 0.245 − 0.598 − 0.192 − 0.073 − 0.379 0.195 0.198 5.849 0.791 4.355 0.515 0.109 1.319 0.313 0.810 ** ** 基金訓練における延べコース数 0.006 0.514 実施した基金訓練のコース分野 IT 基礎分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 IT 分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 営業・販売・事務分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 医療事務分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 介護福祉分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 デザイン分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 理容・美容関連分野ダミー 0.051 0.004 − 0.184 − 0.075 − 0.009 0.059 0.267 0.124 0.001 1.735 0.138 0.003 0.079 1.096 基金訓練(受講者数の変化) 基金訓練(受講者の態度) − 0.183 1.546 5.033 330.642 ** *** − 2 対数尤度 NagelkerkeR2 N 2003.396** 0.374 1125 (注 1)***は 1%水準有意,**は 5%水準有意,*は 10%水準有意。 (注 2)「事業所を運営している組織形態」ダミーのリファレンスグループは「株式会社」。 (注 3)「事業所の所在地」ダミーのリファレンスグループは「南関東(東京・神奈川・千葉)」。
組みの変化」(「非常に難しくなった」を 5 点,「やや難しくなった」を 4 点,「変わらない」を 3 点,「や や難しくなった」を 2 点,「非常に難しくなった」を 1 点)については得点化して被説明変数とした。 他方,説明変数については,「事業所の従業員数」及び「基金訓練における延べコース数」について は実数値を使用し「各訓練の受講者数の減減」(「大幅減」を 5 点,「やや減」を 4 点,「変わらない」 を 3 点,「やや増」を 2 点,「大幅に増」を 1 点),「受講者の受講態度の変化」(「非常に良くなった」 を 5 点,「やや良くなった」を 4 点,「変わらない」を 3 点,「やや悪くなった」を 2 点,「非常に悪くなっ た」を 1 点)及び「訓練の進行の変化」(「非常に良くなった」を 5 点,「やや良くなった」を 4 点,「変 わらない」を 3 点,「やや悪くなった」を 2 点,「非常に悪くなった」を 1 点)については得点化して 説明変数とした。なお,これら以外の変数は,すべてダミー変数であり,変数名として示された事柄 に該当する場合に「1」,そうでない場合を「0」とした。 図表 6 から明らかなように,第 1 に,組織(事業所)の特性では,「事業所を運営している組織形態」 と「事業所の所在地」が「就職支援の取り組みの変化」と密接な関係にある。具体的にみると,「株 式会社」よりも「株式会社以外の事業主」及び「専修・各種学校」で,就職支援の取り組みが難しく なったと考えていない。また,「南関東(東京・神奈川・千葉)」よりも「北海道・東北地域」に所在 図表 6 「就職支援の取り組みの変化」の規定要因―順序ロジスティック回帰分析― B Wald 事業所全体の人数 0.001 0.292 株式会社以外の事業主ダミー 専修・各種学校ダミー その他組織ダミー − 0.560 − 0.443 − 0.156 14.212 3.481 0.548 *** * 北海道・東北地域ダミー 北関東(埼玉・群馬・栃木・茨城)地域ダミー 甲信越・北陸地域ダミー 東海(愛知・静岡・岐阜・三重)地域ダミー 近畿地域ダミー 中国地域ダミー 四国地域ダミー 九州地域ダミー − 0.011 − 0.314 − 0.140 0.251 − 0.145 0.033 − 0.136 − 0.112 0.003 1.565 0.294 1.075 0.515 0.012 0.178 0.309 ** ** 基金訓練における延べコース数 0.010 2.011 実施した基金訓練のコース分野 IT 基礎分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 IT 分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 営業・販売・事務分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 医療事務分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 介護福祉分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 デザイン分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 理容・美容関連分野ダミー 0.039 − 0.152 − 0.276 0.475 − 0.249 − 0.401 − 0.334 0.089 1.222 4.738 6.762 2.253 4.264 2.057 ** *** ** 基金訓練(受講者数の変化) 基金訓練(受講者の態度) 基金訓練(訓練の進行) 0.144 − 0.561 − 0.832 3.714 55.701 75.111 * *** *** − 2 対数尤度 NagelkerkeR2 N 2705.092*** 0.275 1123 (注 1)***は 1%水準有意,**は 5%水準有意,*は 10%水準有意。 (注 2)「事業所を運営している組織形態」ダミーのリファレンスグループは「株式会社」。 (注 3)「事業所の所在地」ダミーのリファレンスグループは「南関東(東京・神奈川・千葉)」。
する組織(事業所)ほど,あるいは「甲信越・北陸地域」に所在する組織(事業所)ほど,就職支援 の取り組みが難しくなったと考えていない。 第 2 に,組織(事業所)の活動状況では,「実施した基金訓練のコース分野」が「就職支援の取り 組みの変化」と密接な関係にある。具体的にみると,「医療事務分野」を実施していた組織(事業所) ほど,就職支援の取り組みが難しくなったと考えている。これに対して,「営業・販売・事務分野」 及び「デザイン分野」を実施していた組織(事業所)ほど,就職支援の取り組みが難しくなったと考 えていない。 第 3 に,基金訓練から求職者支援訓練へ移行するに際して起きた変化を表している「各訓練の受講 者数の増減」・「受講者の受講態度の変化」・「訓練の進行」と「就職支援の取り組みの変化」が密接な 関係にある。具体的にみると,各訓練の受講者数が減った組織(事業所)ほど,就職支援の取り組み が難しくなったと考えている。これに対して,受講者の受講態度が良くなった組織(事業所)ほど, あるいは,訓練の進行も良くなった組織(事業所)ほど,就職支援の取り組みが難しくなったと考え ていない。 5.「訓練受講後の就職状況の変化」の規定要因 「訓練受講後の就職状況」の変化については,「良くなった」(「非常に良くなった」+「やや良くなっ た」)と回答する教育訓練プロバイダーの割合が約 3 割を占め,「難しくなった」(「非常に難しくなった」 +「やや難しくなった」)という回答の割合(約 2 割)を上回っている。そのため,本稿では,基金訓 練から求職者支援訓練に移行するに際して,「受講後の就職状況が良くなった組織(事業所)」とはど のような教育訓練プロバイダーであるのかについて,順序ロジスティック回帰分析を利用して,明ら かにしよう。 分析により説明されるのは,「訓練受講後の就職状況の変化」である。説明する変数は,第 1 に, 組織(事業所)の特性を表している①「事業所を運営している組織形態」,②「事業所の従業員数」 及び③「事業所の所在地域」,第 2 に,組織(事業所)の活動状況を表している①「基金訓練におけ る延べコース数」及び②「実施した基金訓練のコース分野」である。第 3 に,基金訓練から求職者支 援訓練へ移行するに際して起きた変化を表している①「各訓練の受講者数の増減」,②「受講者の受 講態度の変化」及び③「訓練の進行の変化」である。 各変数に対するデータの取り扱いについて説明すると,被説明変数については,「訓練受講後の就 職状況の変化」(「非常に良くなった」を 5 点,「やや良くなった」を 4 点,「変わらない」を 3 点,「や や悪くなった」を 2 点,「非常に悪くなった」を 1 点)については得点化して被説明変数とした。他方, 説明変数については,「事業所の従業員数」及び「基金訓練における延べコース数」については実数 値を使用し「各訓練の受講者数の減減」(「大幅減」を 5 点,「やや減」を 4 点,「変わらない」を 3 点, 「やや増」を 2 点,「大幅に増」を 1 点),「受講者の受講態度の変化」(「非常に良くなった」を 5 点,「や や良くなった」を 4 点,「変わらない」を 3 点,「やや悪くなった」を 2 点,「非常に悪くなった」を 1 点) 及び「訓練の進行の変化」(「非常に良くなった」を 5 点,「やや良くなった」を 4 点,「変わらない」 を 3 点,「やや悪くなった」を 2 点,「非常に悪くなった」を 1 点)については得点化して説明変数とした。 なお,これら以外の変数は,すべてダミー変数であり,変数名として示された事柄に該当する場合に 「1」,そうでない場合を「0」とした。 図表 7 から明らかなように,第 1 に,組織(事業所)の特性では,「事業所を運営している組織形態」 と「事業所の所在地」が「訓練受講後の就職状況の変化」と密接な関係にある。具体的にみると,「株 式会社」よりも「株式会社以外の事業主」で,訓練受講後の就職状況が良くなったと考えている。ま
た,「南関東(東京・神奈川・千葉)地域」よりも「北関東(埼玉・群馬・栃木・茨城)地域」に所 在する組織(事業所)ほど,訓練受講後の就職状況が良くなったと考えている。 第 2 に,組織(事業所)の活動状況では,「実施した基金訓練のコース分野」が「訓練受講後の就 職状況の変化」と密接な関係にある。具体的にみると,「IT 分野」,「デザイン分野」,「医療事務分野」 及び「介護福祉分野」を実施していた組織(事業所)ほど,訓練受講後の就職状況が良くなったと考 えているおり,とくに,その傾向は「医療事務分野」及び「介護福祉分野」でより顕著に見られる。 第 3 に,基金訓練から求職者支援訓練へ移行するに際して起きた変化を表している「受講者の受講 態度の変化」・「訓練の進行」と「訓練受講後の就職状況の変化」が密接な関係にある。具体的にみる と,受講者の受講態度が良くなった組織(事業所)ほど,あるいは,訓練の進行も良くなった組織(事 業所)ほど,訓練受講後の就職状況が良くなったと考えている。 図表 7 「訓練受講後の就職状況の変化」の規定要因―順序ロジスティック回帰分析― B Wald 事業所全体の人数 0.002 0.825 株式会社以外の事業主ダミー 専修・各種学校ダミー その他組織ダミー 0.511 − 0.231 0.305 11.628 0.936 2.054 *** 北海道・東北地域ダミー 北関東(埼玉・群馬・栃木・茨城)地域ダミー 甲信越・北陸地域ダミー 東海(愛知・静岡・岐阜・三重)地域ダミー 近畿地域ダミー 中国地域ダミー 四国地域ダミー 九州地域ダミー 0.059 0.439 0.253 − 0.041 − 0.002 − 0.148 − 0.063 − 0.057 0.082 2.988 0.940 0.028 0.000 0.240 0.037 0.078 * 基金訓練における延べコース数 0.001 0.043 実施した基金訓練のコース分野 IT 基礎分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 IT 分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 営業・販売・事務分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 医療事務分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 介護福祉分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 デザイン分野ダミー 実施した基金訓練のコース分野 理容・美容関連分野ダミー 0.038 0.231 − 0.194 0.738 0.496 0.398 − 0.143 0.081 2.761 2.274 15.645 8.675 4.098 0.370 * *** *** ** 基金訓練(受講者数の変化) 基金訓練(受講者の態度) 基金訓練(訓練の進行) − 0.040 0.923 0.408 0.282 136.226 18.768 *** *** − 2 対数尤度 NagelkerkeR2 N 2639.003*** 0.273 1119 (注 1)***は 1%水準有意,**は 5%水準有意,*は 10%水準有意。 (注 2)「事業所を運営している組織形態」ダミーのリファレンスグループは「株式会社」。 (注 3)「事業所の所在地」ダミーのリファレンスグループは「南関東(東京・神奈川・千葉)」。
Ⅳ おわりに―今後の求職者支援訓練の方向性を考える―
以上の分析で明らかにしたことを整理すると以下のようになる。第 1 に,基金訓練のコース分野と これまで主に実施してきた求職者支援訓練の実践コース分野を比較すると,基金訓練では「IT 基礎 分野」が最も多くなっているが,「IT 基礎分野」を除けば,コース分野はほぼ同じ分野がほぼ同じよ うな割合で実施されてきている。 第 2 に,基金訓練時と比較した,現在の求職者支援訓練の状況についてみると,「各訓練の受講者数」 について,基金訓練時に比べて「大幅に減った」と答えていると教育訓練プロバイダーが 6 割以上に 達している点である。「やや減」という回答も含め,基金訓練時から受講者が減っているという回答 の割合は実に 9 割弱を占めている。基金訓練から引き続き求職者支援訓練に取り組んでいる教育訓練 プロバイダーのほとんどが受講者減を経験しており,そのことが訓練あるいは組織そのものの運営に 深刻な影響を及ぼしているが可能性は高いことが伺われる。また,「受講者の受講態度」と「就職支 援の取り組み」については,前者は良くなったという回答が約 4 割で,悪くなったという回答の割合 を大きく上回る反面,後者は難しくなったという回答が約 4 割で,2 割弱の容易になったという回答 の割合を大きく上回っている。 第 3 に,「基金訓練」から「求職者支援訓練」に移行するに際して,「受講者数が減った組織(事業所)」 とはどのような教育訓練プロバイダーであるのかについてみると,「南関東地域(東京・神奈川・千 葉)」よりも「東海地域(愛知・静岡・岐阜・三重)」に立地している事業所ほど,基金訓練から求職 者支援訓練へ移行するに際して,訓練の受講者数を減らしている。これに対して,「南関東地域」よ りも基金訓練の受講者数が最も少なかった「四国地域」に立地している事業所ほど,訓練の受講者数 を減らしていない。また,延べコース数が多い事業所ほど,つまり,大規模に基金訓練を展開してい た教育訓練プロバイダーほど,実施していた基金訓練のコース分野では「IT 基礎分野」,「IT 分野」,「営 業・販売・事務分野」及び「介護福祉分野」を実施していた教育訓練プロバイダーほど,訓練の受講 者数を減らしている。 第 4 に,基金訓練から求職者支援訓練に移行するに際して,「受講者の受講態度が良くなった組織(事 業所)」とはどのような教育訓練プロバイダーであるのかについてみると,コース分野では「IT 分野」 及び「営業・販売・事務分野」を実施していた事業所ほど,受講者の受講態度が良くなったと考えて いる。これに対して,「介護福祉分野」を実施していた事業所ほど,受講者の受講態度が良くなった と考えていない。また,各訓練の受講者が減っている事業所ほど,受講者の受講態度が良くなったと 考えていない。 第 5 に,基金訓練から求職者支援訓練に移行するに際して,「訓練の進行が良くなった組織(事業所)」 とはどのような教育訓練プロバイダーであるのかについてみると,受講者の受講態度が良くなった事 業所ほど,訓練の進行も良くなったと考えている。これに対して各訓練の受講者が減っている事業所 ほど,訓練の進行が良くなったと考えていない。 第 6 に,基金訓練から求職者支援訓練に移行するに際して,「就職の取り組みが難しくなった組織(事 業所)」とはどのような教育訓練プロバイダーであるのかについてみると,「株式会社」よりも「株式 会社以外の事業主」及び「専修・各種学校」で,就職支援の取り組みが難しくなったと考えていない。 また,「南関東地域」よりも「北海道・東北地域」に所在する事業所ほど,あるいは,「甲信越・北陸 地域」に所在する事業所ほど,就職支援の取り組みが難しくなったと考えていない。さらに,「医療 事務分野」を実施していた事業所ほど,就職支援の取り組みが難しくなったと考えている。これに対 して,「営業・販売・事務分野」及び「デザイン分野」を実施していた事業所ほど,就職支援の取り組みが難しくなったと考えていない。最後に,各訓練の受講者数が減った事業所ほど,就職支援の取 り組みが難しくなったと考えている。これに対して,受講者の受講態度が良くなった事業所ほど,あ るいは,訓練の進行も良くなった事業所ほど,就職支援の取り組みが難しくなったと考えていない。 第 7 に,基金訓練から求職者支援訓練に移行するに際して,「受講後の就職状況が良くなった組織(事 業所)」とはどのような教育訓練プロバイダーであるのかについてみると,「株式会社」よりも「株式 会社以外の事業主」で,訓練受講後の就職状況が良くなったと考えている。また,「南関東地域」よ りも「北関東地域」に所在する事業所ほど,訓練受講後の就職状況が良くなったと考えている。さら に,「IT 分野」,「デザイン分野」,「医療事務分野」及び「介護福祉分野」を実施していた事業所ほど, 訓練受講後の就職状況が良くなったと考えており,とくに,その傾向は「医療事務分野」及び「介護 福祉分野」でより顕著に見られる。最後に,受講者の受講態度が良くなった事業所ほど,あるいは, 訓練の進行も良くなった事業所ほど,訓練受講後の就職状況が良くなったと考えている。 以上のように,基金訓練から引き続き求職者支援訓練に取り組んでいる事業所のほとんどが受講者 減を経験しており,そのことが訓練あるいは組織そのものの運営に深刻な影響を及ぼしているが可能 性は高い 7) 。それは基金訓練から求職者支援訓練に移行するに際して,教育訓練プロバイダーの認定 基準を厳しくしたことと関係している。認定基準を緩くすれば,教育訓練プロバイダーのモラルハザー ドを防ぐことが難しく,これに対して,厳しくすれば,教育訓練プロバイダーの組織運営が困難に陥 る可能性が高くなる。こうした課題を解決するためには,これまでの公共職業訓練と民間委託の求職 者支援訓練の役割分担を大きく変更する必要がある。 公共職業訓練機関とそれ以外の機関(とくに,民間の教育訓練プロバイダー)との新しいすみわけ が必要である。公共職業訓練は「モノづくり分野」,それ以外の教育訓練プロバイダーが行う訓練分 野は「モノづくり以外の分野」というこれまでの役割分担の見直しが迫られている8)。求職者のなか でも多くの支援を必要とする者が受ける訓練(求職者支援訓練)を公共職業訓練が担い,あまり支援 を必要としない者が受講する訓練(学卒者訓練や在職者訓練など)を公共訓練機関以外の機関(民間 教育訓練プロバイダー)が担うという新しい仕組みを構築することが求められている。つまり,公共 職業訓練がセーフティネットとしての役割を果たし,障がい者の職業訓練・就労支援と同様に,多く の支援が必要な者(求職者支援制度)については,行政が責任を持って,訓練・就労支援を行う必要 がある。 注 1 ) 基金訓練と公共職業訓練の「役割分担」については木村(2011)が詳しい分析を行っている。公共職業 訓練の概要については,田中・大木編(2007)を参照。 2 ) 求職者支援制度の創設に関しては,塩田(2011),丸谷(2011)及び濱口(2011)が詳しい。また,求 職者支援制度の課題については金井(2015)を参照。 3 ) 「基金訓練の実施体制」と「求職者支援訓練の実施体制」の比較については富田(2013)を参照。 4 ) 教育訓練プロバイダーに関する代表的な調査研究としては。日本労働研究機構(1996),労働政策研究・ 研修機構(2005)・(2006)・(2007)・(2010),連合総合生活開発研究所(2011),藤波・今野(2008),藤 本(2012),大木(2013)がある。 5 ) 詳しくは,東京都社会保険労務士会(自主研究グループ)公的支援制度実務研究会編(2012)の第 1 章 を参照。 6 ) アンケート調査は 2012 年 11 月から 12 月にかけて行われ,調査の対象となったのは 2012 年 4 月から 9 月
の間に終了した全訓練コースの実施機関であり,1,376 機関から回答を得た(有効回収率:53.7%)。回答 した機関の概要は以下の通りである。機関を運営する組織は,「株式会社」が 66.6%を占め,以下,有限会社, 個人事業主などの「株式会社以外の事業主」(18.9%),「専修学校・各種学校」(6.5%)と続く。これまで 主に実施してきた教育関連事業の分野は,「OA に関する分野(パソコン・ワープロ操作)」(28.8%)とい う機関が最も多く,次いで「医療・看護・介護・福祉に関する分野」(14.3%),「IT 関連分野」(7.6%)となっ ている。また,機関のスタッフ総数は,「5 ∼ 9 人」というところが 32.9%,「10 ∼ 19 人」というところ が 25.1%,「1 ∼ 4 人」というところが 19.1%であり,小規模機関が多数を占めている。また,これらスタッ フの半数以上が正社員以外(=パート・アルバイト,嘱託・契約社員,他組織からの出向者,業務を委託 している個人など)であるという機関が,約 6 割に達している。詳しくは労働政策研究・研修機構(2014)『求 職者支援制度に関する調査研究─訓練実施機関についての調査・分析』(労働政策研究報告書 No. 163)を 参照されたい。 7 ) 厚生労働省(2015)「求職者支援制度の今後のあり方について(職業能力開発分科会(第 93 回)資料)」 (平成 27 年 10 月 22 日)の中で,「求職者支援訓練から訓練実施機関の撤退が相次いでおり,特に,地方に おける訓練実施機関の不足が深刻な状況」にあることを課題の 1 つと指摘している。 8) 見直しの方向性を考えるに際して,欧米諸国の公共職業訓練が参考になる。フランスについては日本労 働研究機構(1997),アメリカについては日本労働研究機構(1999),ドイツについては日本労働研究機構 (2000)を参照。 参考文献 大木栄一「認定職業訓練(共同職業訓練)が提供するサービスの規模・構造と課題―再編・強化の方向性を 探る」『日本労働研究雑誌』No. 631,2013 年 金井郁「雇用保険の適用拡大と求職者支援制度の創設」『日本労働研究雑誌』No. 659,2015 年 木村保茂「わが国の公共職業訓練の新たな展開―基金訓練,ジョブ・カード制度,「義務付け・枠付け」の見直し」 北海学園大学開発研究所『開発論集』第 88 号,2011 年 塩田晃司「求職者支援制度の創設に向けて─職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律 案」『立法と調査』315 号,2011 年 田中萬年・大木栄一編『働く人の「学習」論(第 2 版)―生涯職業能力開発論』学文社,2007 年 東京都社会保険労務士会(自主研究グループ)公的支援制度実務研究会編『見直された教育訓練制度をやさ しく解説した最新版:人材育成と給付金制度のすべて』労働調査会,2012 年 富田義典「求職者支援制度の政策的意義について」『佐賀大学経済論集』45 巻 5 号,2013 年 濱口桂一郎「求職者支援制度の成立」『季刊労働法』235 号,2011 年 藤波美帆・今野浩一郎「教育訓練プロバイダーの現状と個人の能力開発行動」『日本労働研究雑誌』 No. 577,2008 年 藤本真「民間教育訓練プロバイダーにおける教育訓練サービスの改善活動─サービス改善に向けた活動を規 定する要因」No. 619,2012 年 日本労働研究機構『民間教育訓練機関の組織と事業─個人主導型の職業能力開発のあり方に関する総合的研 究より』(調査研究報告書 No. 87),1996 年 日本労働研究機構『フランスの職業教育訓練―公共職業訓練の国際比較』(資料シリーズ No.75),1997 年 日本労働研究機構『アメリカの職業訓練―公共職業訓練の国際比較』(資料シリーズ No.96),1999 年 日本労働研究機構『ドイツの職業訓練―公共職業訓練の国際比較』(資料シリーズ No.103),2000 年
丸谷浩介「職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律」『ジュリスト』1430 号,2011 年 労働新聞社編『求職者支援制度の解説』労働新聞社,2013 年 労働政策研究・研修機構『教育訓練プロバイダーの組織と機能に関する調査─教育訓練サービス市場の第一 次調査』(労働政策研究報告書 No. 24),2005 年 労働政策研究・研修機構『教育訓練プロバイダーの組織と機能に関する調査─教育訓練サービス市場の第二 次調査』(労働政策研究報告書 No. 43),2005 年 労働政策研究・研修機構『教育訓練サービス市場の需要構造に関する調査研究―個人の職業能力開発行動か らみる』(労働政策研究報告書 No. 54),2006 年 労働政策研究・研修機構『教育訓練サービス市場の現状と課題』(労働政策研究報告書 No. 80),2007 年 労働政策研究・研修機構『社会人を対象とした教育関連活動・事業の運営と品質管理』(調査シリーズ No. 73),2010 年 労働政策研究・研修機構『求職者支援制度に関する調査研究─訓練実施機関についての調査・分析』(労働 政策研究報告書 No. 163),2014 年 労務行政研究所編『新版雇用保険法(コンメンタール)』労務行政研究所,2004 年 連合総合生活開発研究所『日本の職業訓練及び職業教育事業のあり方に関する調査研究報告書』 ,2011 年 OECD(濱口桂一郎翻訳)『日本の労働市場改革』明石書店,2011 年
Transition from “Vocational Training Provided by the
Japan Vocational Ability Development Association”
to “Support Training for Job Seekers”
: What kind of
change has occurred?
Eiichi OHKI
AbstractMany training provider s who continue to work on“Support Training for Job Seekers” from “Vocational Training Provided by the Japan Vocational Ability Development Association” are experiencing a decrease in the number of trainers. This has a serious effect on “Private Training Provider” ‘s management. It is relates to “Private Training Provider” making stricter criteria for doing “Support Training for Job Seek-ers” in transitioning from “Vocational Training Provided by the Japan Vocational Ability Development Association” to “Support Training for Job Seekers” . It is difficult to prevent moral hazard of “Private Training Provider” if the standard is relaxed. On the other hand, if the criteria are strict, there is a high possibility that “Private Training Provider” ‘s organization management will be difficult. In order to solve these problems, it is necessary to greatly change the role sharing of “Public Vocational Training” and “Support Training for Job Seekers” so far. In particular, for training areas and training subjects, a new
cor-nerstone of “Public Vocational Training” and “Support Training for Job Seekers” is necessary.
It is possible to review the assignment of training areas so far that “Public Vocational Training” is a manufacturing field and “Support Training for Job Seekers” is a field other than manufacturing. It is nec-essary to establish a mechanism whereby “Public Vocational Training” carries out training that persons who need a lot of support in “Job Hunter”, and “Private Training Provider” takes charge of training that persons who do not need much support will take.
Keywords: Support System for Job Seekers, Private Training Provider, Employment insurance, Unem-ployment Benefits, Non-regular Workers