社会科教育研究の動向
社会系教育講座原田智仁
1. 全国学会レベルの研究動向 ここでは,日本社会科教育学会および全国社会科教育学会の研究動向を,過 去3か年の全国研究大会の発表テーマを手がかりに考察する。 なお,90年・91 年は両学会がそれぞれ別個に,92年は合同で研究大会を開催している。 1. 1. 自由研究発表テーマから 研究領域別区分 1990年 1991年 1992年 授業研究 . 教材開発 78 47 54 歴史的研究 12 17 16 比較研究 . 外国研究 6 12 12 哲学的研究 . 評価研究 12 17 18 謝査研究 . 実証的研究 8 6 4 計 (総数) 116 99 104 この表からもわかるよ うに,近年の研究動向の 特色として,授業研究や 教材開発研究がさかんな ことが指摘できる。その 理由として考えられるの は,第-に歴史的研究や 外国研究の対象が枯沸し 始めたこと,第二により 穫極的な理由として,研究者自身が「授業」に正面から取凍み始めたことであ る。教科教育研究の理論と実践を結ぶものはr授業」をおいて他にないことか らすれば,当然と言えるかもしれない。 なお,数的にはまだそれほど多くはないが,評価研究が着実に増えているの も近年の特質のひとつである。 具体的なテスト問題の作成法から,関心・意欲 などの観点別評価に至るまで,従来の研究の立ち遅れを回復するための努力が, 漸く始まりつつあると言える。 その中にあって,謝査研究・実験実証的研究は, その重要性が指摘されながらもかえって減少傾向にあるのが気にかかる。 大変 な時間と労力を要する都に,明快な成果がなかなか得られないことがその最た る理由であろう。 1. 2. 課題研究のテーマから 謙患研究には,文字通りその時々の教育的諌題や社会的要請が反映されてい ると解される。過去3か年の課題研究テーマを分類し,その発表数を示すと次170-のようになる。
①教育諌種の改訂に伴う新設教科に関わるもの ・社会科と生活科の関連,生活科の実践課題 ・高等学校社会科の再絹(地理歴史科,公民科の実践課題) ②教育課程の改訂に伴う既設教科目の新しい学習内容に関わるもの ・小学校人物学習の検討 ・地域社会の変貌に応える地域学習 ・産業構造の変化に応える産業学習 ・世界的な視野に立つ歴史学習 ③教育課程の改訂に伴う大学教育に関するもの ・教員免許法と教師教育 11 1 2④社会の変化に対応した学習内容に関するもの
・国際化社会における社会科教育のあり方,社会科と国際理解2
・社会科と環境教育,環境問題と社会科 ⑤社会の変化に対応した学習指導・評価方法に関するもの ・社会科における望ましいテスト問題の作成 ・学力観の変容に対応した社会科評価の方法 ・社会科における情報リテラシー ⑥社会の変化に対応した社会科の役割に関するもの ・生涯学習社会における社会科の役割 ・個性重視の社会科 ①社会科研究のあり方に関するもの ・社会科教育史研究の現状と課題一方法論を中心にして ・世界の教育改革と社会科教育 ・社会科教育における校内研究と研修 ・社会科における授業 111 1111 1989年の教育謙程の改訂により,小学校低学年の社会科が廃止され,高等学 校の社会科も解体した。 それを受けて,新しい生活科と地理歴史科・公民科に どのように理論的・実践的に対処したらよいのかが最大の課題となった。 また, 社会の変化に伴う社会科の内容や方法の見直しも要請されている。 そうした申-71-で,社会科の教科としての成立根拠が今最も問われていると言えそうである。 2. 動向研究の方法 ここでは,社会科教育研究の動向を明らかにする研究方法について,過去10 か年の事例を紹介する。 対象は,全国社会科教育学会(前日本社会科教育研究 会)の年報『社会科教育論叢』に見られる動向研究に限定する。 2. 1. 森分孝治氏の方法(第29集,1982年) 森分氏は授業レベルでの社会科教育研究に着目し,①方法主義的研究,⑧内 容主義的研究,③規範的超越的研究,⑧実践追随的研究,⑧経験主義的研究に 区分する。 ①は既存の教科目の日額・内容を前提とし,それらのもとでより効 果的な教授法を探るものであり,⑧は既存の教科目の枠を前提としながらも, そのもとで何を教えるべきかを,すなわち内容の取扱い方を研究するものであ る。③は理論が実践から超越し実践に追随を求めるものであり,⑧は逆に研究 者が優れていると判断する授業を取り上げその優秀性を諮るように,理論が実 践に追髄する研究である。 ⑥は研究者自らが授業構成に取組み,よりよい授業 計画書を作成することで,経験主義的に理論と実践の相即的発展削まかるもの である。 森分氏は⑤の研究の意義を認めながらも,r授業を創る理論」よりも「授業 を説明する理論」を提示することが現段階の研究者には求めらると結論づける。 2. 2. 吉川幸男氏の方法(第30集,1983年) 昔川氏は,社会科教育研究の目的を「よりすぐれた社会科教育実践を生み出 すための理論の構築」にあるとした上で,動向叙述の方法を①理論の創造,⑧ 理論の検証,③理論の批判,⑧理論の連用の四つに分類する。 このうち①と③ の方法では,諸研究において展開されている社会科理論の生成,転変を引き起 こす「心理」が,また⑧と⑧の方法では諸研究において展開されている社会科 理論が,より誤りの少ない理論へと発展する「論理」が叙述されるという。 2. 3. 木村博一氏の方法(第33集,1986年) 木村氏は,動向研究の分析視点として二種類の方法を設定する。 第一に社会 科教育研究の領域として,広義の授業構成研究,教科書研究,評価研究,意識 研究の四つに分類する。 第二に,社会科教 育研究の研究対象のレベルと研究方法につ いて回のようなマトリクスを作成する。 そ して,この二つの分析観点を組み合わせて