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『とりかへばや』についての研究 : 娘の幸せを願う父の物語

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Academic year: 2021

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(1)『とりかへばや』についての研究一姫の幸せを願う父の物語一. 教科・領域教育学専攻 言語系(国語)コース. M10!17I 鴨川なおみ 1.研究の目的.  第一節 『とりかへばや』における父親.  『とりかへばや』は、平安時代末期に作られ.  第二節 他の物語にみる父親. た物語で、古本と今本がある。古本はすでに散 侠しており現存していないため、現在『とりか.  第三節 娘にとっての父親 第二章 宇治と吉野.  第一節 宇治の持っ意味. へばや』と呼ばれているのは、今本の方である。.  第二節 吉野の持つ意味. 本論文では、この今本について検討する。. 第三章 入内と繁栄.  『とりかへぱや』は、父親の二人の子どもた.  第一節 尚侍の位置づけ. ちについての悩みから始まる。それは、そっく.  第二節 尚侍からの立后. りな容貌のきょうだいが、まったく異なる性格 をしており、男君は内気な性格で、女君は活発. な性格であるというものだ。父親はこの二人を rとりかへばや」と願うが、その願いは叶わず、. きょうだいは男女逆転した姿で育つことにな る。このように、『とりかへばや』は、男女が. 逆転した話であるため、先行研究には男と女の 諸問題や、性転換の問題を取り上げたものが多 い。だが、本論文では、物語の始まりに出てく. る父親のrとりかへばや」という願いが物語の 原点であると考え、父親と子どもたちとの関係 に焦点をあてて、とらえ直すことにする。なか でも、父と娘との関係が、父と息子の関係より も多く書かれていることから、『とりかへぱや』. は父と娘の物語であると考えられるため、ここ では、父と娘の関係を中心に見ることで、『と りかへばや』における新たな読み方を模索する。. 2.論文の構成 序章. 第一章 父と娘. 結章. 3.論文の概要  第一章では、父と娘の関係を見た。まずは父 親だが、物語の途中楽観的な面も見られたが、 全体を通じて娘の将来を心配する父親である。. この父親の特徴を、他の物語の父親と比較する ことで明らかにする。『竹取物語』の翁は、娘の. 幸せを願いつつ、欲を棄てきれずに右往左往す る父親。『源氏物語』の明石入道は娘の栄華をひ たすら願い、積極的に行動する父親。朱雀院は、. 娘の幸せを願い行動するが、最後まで子離れで きない父親。『狭衣物語』の捌11大臣は、自分の 果たせぬ夢を、子に託して行動する父親である。. これらの父親に対して、『とりかへばや』の父. 親は、積極的に行動するのではなく、子どもの 意思を最後まで尊重し、いつまでも見守り、好 機の訪れを待っ父親としての特徴が際立ってい る。次に、娘にとっての父親の存在だが、女君 は自分が普通でないことを自覚しており、心配 をさせてはいけないという気遣いが、両親どち. 一226■.

(2) らにも向けられていることが多い。最初は、娘. した意識の表れであるとも考えられる。. にとっての父親の存在は、母親と大きな差はな.  第三章では、尚侍からの立后について見た。. かった。とにかく、不安なことがあると側にい. 史実においては、藤原道長の娘の好子・威子が. たくなるが、相談する対象ではなく、あくまで. 実際に尚侍からの立后していたことを考えると、. も心配をかけたくないと気を遣う相手であった。. 可能性としてあり得るルートである。しかし、. しかし、女性として生活するようになった娘に. 『とりかへばや』では、最初に男君が尚侍とし. は、父親の意向が大切となる。つまり、このよ. て出仕する。これは、かなりイレギュラーな出. うな変化によって強く意識されるのは、『とりか. 仕である。これが可能であったのは、東宮が女. へぱや』の父と娘が、お互いを大切に思い、父. 性であったからである。そこを上手く利用した. 親は娘の幸せを考え、娘は父親に心労をかけな. のが、『とりかへばや』の父親なのである。その. いようにと心配りする関係なのである。. 後、きょうだいは入れ替わり、改めて女君が尚.  第二章では、宇治と吉野について見た。『と. 侍として出仕する。そこで、女君は帝の寵愛を. りかへぱや』における宇治は、女君が京から離. 受け、若君を出産する。このことは、これまで. れ身を隠して、女姿となり出産した地であり、. 世継ぎのいなかった帝に取り重要なことであっ. 宰相中将の訪れを「待つ」地でもある。また、. た。また、前帝の朱雀院にも女春宮以外に御子. 女君が男として生きてきた過去をすべて捨て、. がなく、その春宮も退位している状況では、必. 子どもを含め置き去りにした場所でもある。一. 然的に尚侍の産んだ男御子が立坑することにな. 方の吉野は、古典の伝統の中では、『万葉集』や. る。それに伴い女君は、女御となり、さらに后. 『懐風藻』葛野上r遊竜門山」などからも窺え. となる。このように見ると、立后の条件には、. るが、唐土との繋がりが深く、神仙境のような. 御子の出産が考えられる。そして、それを満た. 雰囲気のある地としてとらえられていた。だか. した女君が后となったのである。. らこそ、この物語でも、渡唐経験があり学識豊.  以上のように見ると、『とりかへばや』の父親. かで、呪術者的・修験者的な力の持ち主である. は、ただ娘の幸せを考えて見守っており、決し. 吉野宮が住むのに相応しい場所として選ばれた。. て先を見据えて策を立てることはなかい。しか. そして、その吉野宮の手助けが得られるからこ. し、このことが、後の幸せに繋がる道を残して. そ、きょうだいが入れ替わる準備をする地とな. いるように感じられた。このように、ひたすら. る。つまり、宇治は過去を清算するための場所. 娘の幸せを願い、ただ流れにまかせ好機を待ち、. であり、吉野は新たな未来を創る準備を整え、. 見守り続けながら、好機の時にはそれを逃さな. 娘と父親ともに、好機を待つための場所なので. い父親であったことが明らかになった。そして. ある。そして、女君が幸福を手に入れるために. そのことにより、辛抱強く機会を待っ父親が娘. は、どちらも欠くことのできない役割を果たし. の幸せを願う物語として、rとりかへばや』を読. ていた。このように、出産の地と入れ替わりの. むことができる。. 他とが分けられているのは、『とりかへばや』作 者が、『源氏物語』における宇治の「憂し」とい. 主任指導教員  山口 眞琴. うイメージから脱却し、それを乗り越えようと. 指導教員 山口眞琴. ^227一.

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