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研究開発費の会計処理と Value Relevance

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(1)研究開発費の会計処理と Value Relevance 眞 鍋 和 弘. て計上され,その後,対応すべき収益の認識と. 1.はじめに. ともに取り崩され,次期以降の費用として処理. 1998 年 に 企業会計審議会 に よって 公表 さ れ. されることが認められていたのである.. た『研究開発費等 に 係 る 会計基準』は,ソ フ. ま た,繰 延 資 産 で あ る『試 験 研 究 費』と. トウェアに関連する一部の費用を除き,研究. 『開発費』自体 は,費用 を 繰 り 延 べ る た め に. 開発費を発生時に費用として処理しなければ. 擬制された資産であり,経済的な資産の増加. ならないと定めている.当該会計基準は,米国. と直接的な関連性を有するものではない.し. の会計基準である SFAS No. 2「Accounting for. か し,利益計算 を 費用収益 の 対応 に 求 め る. Research and Development Costs」と同様の会. Paton&Littleton(1940)は,「もし正当な基礎. 計処理を求めるものであるが,それまでの日本. に基づいて決定されるのならばこのような費用. における研究開発費に関する会計基準とは大き. (繰延費用…著者)は,工事設備 の 未償却原価. く異なっている.. と全く同程度に,資産残額群の一部として正当. 企業会計原則 は,1949 年 に 設定 さ れ た 当初. である」と述べている.また,ここで対応され. からすでに研究開発支出に関して「開発費」お. る収益は研究開発投資を通じて生み出された無. よび「試験研究費」の項目での会計処理を規定. 形資産が企業活動に用いられることによっても. している.そこでは,研究開発費のうち,繰延. たらされると考えられることから,適切に繰延. 資産の定義を満たし,また「試験研究費」また. べられた研究開発資産は研究開発活動によって. は「開発費」の定義を満たすものに関して,当. もたらされる将来のキャッシュフローのシグナ. 1). 該項目での資産計上が認められていた .その. ルとも解釈される.. 後,1962 年に改定された商法においても, 「試. それに対して,現行の会計基準である『研究. 験研究費」と「開発費」を繰延資産として処理. 開発費等に係る会計基準』は,研究開発費を発. 2). することが認められている .. 生時点に費用処理する論拠の 1 つとして,収益. こうした会計基準の理論的背景には,会計利. 獲得の不確実性を挙げている.確かに,研究開. 益が企業活動の成果を表す収益とそれを得るた. 発投資が実際に将来キャッシュインフローをも. めに費やされた犠牲としての費用を厳密に対応. たらすか否かは,設備投資等の一般的な事業投. づけることを通じて測定されるという対応の原. 資と比べて相対的に不確実性が高い.また,そ. 則が存在する.つまり,研究開発費の中には将. れと同様に研究開発段階における経営者の将来. 来の収益と関連を有するものが存在することか. 収益に関する判断も多分に見積もりに基づいて. ら,研究開発費はその効果が及ぶ数期間に合理. おり,高い不確実性を含んでいる.その結果と. 的に配分されるために,経過的に繰延資産とし. して,研究開発費は期間的対応方式に基づき,.

(2) 36. (388). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). 当該費用が発生した会計年度の収益と対応づけ. 企業の研究開発投資に関しても評価していると. られる.. 仮定されている.このことにより,会計情報と. 以上のことから明らかなように,現行会計基. 企業のファンダメンタルズの関連性の検討が可. 準の下では経営者の見積もりの範囲内におい. 能となると考えられる.. ても研究開発費が合理的に配分されないこと. 本研究 の 特徴 は,研究開発費 の 期間配分. から,利益数値は適切な企業業績を表さず,ま. に 対 す る 経営者 の 裁量 が 会計数値 の value. た研究開発活動によってもたらされる将来の. relevance にどのような影響を与えているかを. キャッシュフローの指標を表わす会計情報とし. 検討している点にある.そのために,本研究は. ての繰延資産である「試験研究費」と「開発費」. 研究開発費の繰延処理が認められていた期間を. も開示されていない.. 標本として選択することによって,実際に報告. Lev&Zarrowin(1999)は,研究開発費 が 発. されている研究開発資産および当該処理後の利. 生時に即時費用処理されることによって,投資. 益の value relevance を研究対象としている.. 家にとっての会計情報の有用性が低下している. これまでの先行研究は,研究開発費が発生時. ことを実証研究を通じて明らかにしている.彼. に費用処理される企業年度を対象とし,あらか. らは,今日では,無形資産が企業価値の Value. じめ研究開発費の将来収益に対する効果の持続. Driver として注目されているのにもかかわら. 期間を仮定することによって,繰延処理を実施. ず,現行の会計制度がそのほとんどを開示して. した場合の修正利益を算出し,当該利益数値の. いない現状を指摘し,依然として研究開発投資. value relevance を検討している.しかし,当. に関する会計制度が改定されないことを問題点. 該方法は研究開発費と将来収益の関係性が全て. として挙げている.. の標本企業年度において同様であると仮定して. 彼らは現制度のもとでは多くの会計情報が経. いること,またそこでの研究開発費用の繰延処. 営者の主観と裁量に基づき作成されるにもかか. 理に関して経営者の裁量が含まれていないこと. わらず,研究開発投資に関しては発生時に費用. から,その実証結果の含意は極めて限定的なも. 処理されることから,経営者の有する優位な情. のであると考えられる.. 報が利益や資本の測定値を通じて市場に伝わる. 本研究 は,こ の 問題点 を 解決 す る こ と に よっ. ことがないと主張しているのである.. て,研究開発費 の 繰延処理 が 会計情報 の value. 本研究の目的は,研究開発費の期間配分に対. relevance に与える影響を明らかにする.. して経営者に裁量が与えられていることが会計. 本研究の発見事項は,以下の通りである.⑴. 数値の value relevance にどのような影響を与. 1974 年から 1997 年までを 4 つの期間に分けた. えるのかを明らかにすることである.具体的に. 場合,各時点において株価と関連性を有する利. は,繰延処理後 の 利益 お よ び 研究開発資産 の. 益変数(具体的には,営業利益,当期純利益に. value relevance を検証することを通じて,当. おいて)は一定ではない.. 該会計数値と企業価値を規定するファンダメン. ⑵研究開発費 の 繰延処理 に よ る 利益調整額. タルズの関連性を検討する.. は,標本期間 3(1987 年 か ら 1992 年)お よ び. また,ここでは資本市場が情報効率的である. 標本期間 4(1993 年 か ら 1997 年)に お い て,. と仮定される.つまり,企業の株式価格は企業. 株式価格との関連性を有する.しかし,一方で. 価値の推定に利用可能な全ての情報を適切に反. 研究開発費の繰延処理による利益調整額は,標. 映していると仮定されている.したがって,こ. 本期間 1(1974 年 か ら 1979 年)お よ び 標本期. こでは,投資家は研究開発投資に関する利用可. 間 2(1980 年 か ら 1986 年)に お い て,株式価. 能なすべての情報を利用し,その限りにおいて. 格との関連性を有さない.ただし,標本期間 4.

(3) 研究開発費の会計処理と Value Relevance(眞鍋). (389). 37. においても,説明変数を当期純利益とする場合. 1996, Lev and Sougiannis, 1999, Kothari et al.,. には,研究開発費の繰延処理の影響額と株価の. 2002, Healy et al., 2002, 市川・中野,2005,劉,. 関連性は認められない.. 2005,榊 原・與 三 野・鄭・古 澄,2006,徳 賀,. ⑶また,標本期間 3 において,当期純利益が. 3 2006,など). マイナスの時に行われる繰延処理の影響額は,. これらの研究のなかでも,株式価格と会計数. 当期純利益がプラスの時に行われるものと対照. 値の関連性についての主要な先行研究として,. 的な株式価格との関連性を有している.. Le&Sougiannis(1996)が挙げられる.彼らは,. このことは,利益がプラスとマイナス (損失). 研究開発費の会計処理による会計数値の value. の場合では,資本市場が繰延処理による利益調. relevance への影響を次の方法で明らかにしよ. 整額を同質であると見なしていないことを表し. うとしている.まず,第 1 段階は研究開発投資. ていると思われる.ただし,この点を明らかに. と将来収益の関連性を実証研究を通じて明らか. するためには, 追加的な検討を必要とするため,. にし,またその実証結果に基づき修正財務デー. 本稿の研究対象外とする.. タを作成する.次いで,第 2 段階は当該データ. ⑷研究開発資産は,標本期間 2(1980 年から. と株式価格および株式収益率との関連性を明ら. 1986 年)お よ び 標本期間 4(1993 年から 1997. かにする.また,その後の多くの先行研究も,. 年)において,株式価格との関連性を有してい. Lev & Sougiannis(1996)に倣い,2 段階の実. る.しかし,一方で研究開発資産は,標本期間. 証研究を通じて,研究開発費の繰延を仮定した. 1(1974 年から 1980 年)および標本期 3(1987. 場合の会計数値と株価との関連性を明らかにす. 年から 1992 年)において,株式価格との関連. ることを試みている4).. 性を有さない.. これらの研究の特徴は,研究開発費と将来収. 以下,本稿は次のように構成される.第 2 節. 益の関連性を明らかにしたうえで,当該関連性. は先行研究の考察を行い,先行研究の問題点を. に従い,研究開発費が発生時に費用処理されて. 示し,本研究の特徴と意義を明確にすることを. いる利益数値から研究開発費の繰延を仮定した. 試みる.第 3 節は,研究開発費の期間配分に対. 場合の利益および研究開発資産を導いている点. して経営者に裁量が与えられていることが利益. にある.そこでは,研究開発費と将来収益の関. 数値の value relevance にどうような影響を与. 連性に関する研究結果の範囲内において研究開. えるのか,また経営者の裁量によって繰延べ. 発費が合理的に配分され,修正された会計数値. られた研究開発費の累積額である研究開発資産. が導かれる.この研究開発費の繰延処理の期間. の value relevance を明らかにする.第 4 節は,. および償却率は,全ての期間および企業に対し. 本研究の含意および限界を明らかにする.. て同一であるというかなり強い仮定がおかれて. 2.先行研究. いる. これらの先行研究は,修正会計数値である利. こ れ ま で,多 く の 先行研究 は 研究開発費 を. 益数値および研究開発繰延資産が株式価格と高. 発生時に即時費用処理することを要求する現. い相関関係を有することを明らかとすること. 行 の 会計基準 の 下 で,研究開発投資 と 将来収. で,それらがともに投資家が利用するのに役立. 益の 関連性 を 検証し,また当該関連性に従い. つ情報であることを指摘し,研究開発費を発生. 研究開発費 を 将来収益 と 適切 に 関連付 け た 利. 時に費用処理することを求める SFAS No.2 を. 益数値 お よ び 繰延資産 が 株式価格(リ ター. 批判している.. ン)と高い関連性を有することを明らかにし. し か し,多 く の 研究者 は 経営者 に 研究開発. ている(Sougiannis, 1994, Lev and Sougiannis,. 費 の 繰延処理 に 関 し て 裁量 を 認 め る こ と が.

(4) 38. (390). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). earnings management の手段となりうること. 定にとって利用可能なすべての情報が適切に企. を指摘している.彼らは,経営者の見積もりの. 業価値に反映されていることを仮定すれば,適. 範囲内においても研究開発費が合理的に配分さ. 切に研究開発費の繰延処理を行った利益は,そ. れることはなく,結果として会計数値が投資家. れを行わない利益よりも企業価値との相関関係. の意思決定に有用なものとはならないと主張す. が強いと考えられる.また,繰延処理による利. る.. 益の変化額は,繰延処理の影響を受けない部分. ま た,植野(1982)お よ び 北村(1998)は,. と同様に,株価と関連性を有するとおもわれる.. 旧来会計基準の下での研究開発費の繰延処理容. つまり,研究開発費の繰延処理は,当該活動に. 認が本来的な機能である費用収益の対応を達成. 関するキャッシュアウトフローが利益数値に与. せず,むしろ利益操作の余地を与えることにつ. えるノイズを取り除くものと解釈される.した. ながっていると指摘している.. がって,繰延処理の影響額は,ノイズによって. そこで,本研究は,研究開発費の期間配分に. 隠されていた企業成果の一部であると考えられ. 対して経営者に裁量が与えられていることが会. る.. 計数値の value relevance にどのような影響を. また,周知のように,繰延資産はすでに代価. 与えるのかを明らかにする.本研究は,実際に. の支払が完了するか支払い義務が確定し,これ. 研究開発費の期間配分に対して経営者に裁量が. に対応する役務の提供を受けたにもかかわら. 与えられた結果としての会計数値を対象とする. ず,その効果が将来にわたって発現するものと. 点において特徴的である.. 期待されるため,その支出額を効果が及ぶ将来. 3.研究開発費の会計処理と value relevance. 期間に費用として合理的に配分する目的で,経 過的に貸借対照表に資産として計上される項目. 3.1 理論的背景と仮説. である.つまり,研究開発資産は対応の原則に. 本節は,研究開発費の期間配分に関して経営. 基づき,当期の支出額を将来の収益に対応させ. 者に裁量が与えられていることが会計数値,特. て適切な期間利益を算定する目的で計上される. に利益および株主資本の value relevance にど. 資産項目である.. のような影響を与えるのかを実証研究を通じて. したがって,研究開発資産は費用を繰り延べ. 明らかにすることを目的としている.. るために擬制された資産であり,資産の増加と. この実証研究は,次のような考えに基づいて. 直接的な関連性を有するものではない.しかし,. いる. すなわち, 研究開発投資は将来キャッシュ. ここで対応される収益は研究開発活動によって. フローのための長期的な投資であり,当該費用. 創造される無形資産によってもたらされると考. のなかには将来の収益と関連を有するものが存. えられる.したがって,繰り延べられる費用額. 在する.そのため,将来収益に対する効果が及. は,企業の研究開発活動によってもたらされる. ぶ期間にわたって,研究開発費が合理的に配分. 将来収益または将来のキャッシュフローの指標. されることで,利益数値は企業成果を適切に表. を表わすとも解釈できるであろう.この意味に. わすことができると考えられる.. おいて,研究開発資産は,将来キャッシュフロー. 仮に,将来の収益との関連性を有するにもか. をもたらすと考えられる自己創設の無形資産に. かわらず,研究開発費が発生時に一括費用処理. 関連する変数と考えられる.. されたならば,当該期間の業績数値である営業. 仮に,将来の収益との関連性を有するにもか. 利益および当期純利益等を含む利益数値は,適. かわらず,当期の費用として研究開発費が費用. 切な企業成果を表わさないと考えられる.. 処理されたならば,株主資本簿価は過小に報告. 資本市場が情報効率的であり,企業価値の推. され適切な企業実態を表わさないと考えられ.

(5) 研究開発費の会計処理と Value Relevance(眞鍋). る.. (391). 39. DEFit  :i 企業の t 期の研究開発費の繰延処理. 資本市場が情報効率的であり,企業価値の推. の影響額. 定にとって利用可能なすべての情報が適切に株. BVADit:i 企業の t 期の修正株主資本(研究開. 価に反映されていることを仮定すれば,研究開. 発費の繰延資産額を控除). 発資産を含む株主資本簿価は,それを含まない. RDAit :i 企業の t 期の研究開発費の繰延資産. 株主資本簿価利益よりも企業価値との相関関係. 額. が強いと考えられる.また,繰延処理によって もたらされる繰延資産額も株価と相関を有する. また,本研究は研究開発費の繰延処理が認め. と思われる.そこで,本研究は以下の仮説を検. られていた期間において,実際に繰延処理を. 証する.. 行っていた会計年度を標本として選択する.し たがって,研究開発費が発生時に一括費用処理. H:繰延処理による利益の変化額および繰延資 産額は,value relevant ではない. さ れ た 場合 の 利益数値(INADit)は 有価証券 報告書等から直接取得することはできない.そ のため,次の方法により研究開発費用が繰延処. 3.2 リサーチ・デザイン. 理されずに発生時に費用処理された場合の利益. 本研究は,利益および株主資本簿価の value. (INADit)を算出する.. relevance を同時に検証するために,企業価値. まず,本研究は研究開発支出を算出すること. 評価モデルとして利益-簿価モデルを用いる.. か ら 始 め る.あ る 時点(以下「t時点」と す. Kothari & Zimmerman(1995)によれば,利. る)の研究開発資産(RDAit)は,t-1 時点の研. 益-簿価モデルは,一般に次のように表わされ. 究開発資産(RDAit-1)に 当期 の 研究開発支出. る.. (RDEXit)を加算し,それから研究開発資産償 却費(RDDEit)を差し引いたものである.. Pit. D  E1 IN it  E 2 BVit  H it . (a) . Pit : i 企業の t 期の株式価格.   RDAit. RDAit 1  RDEX it  RDDE it  ⒤      . (RDEX ). INit : i 企業の t 期の会計利益. ⒤ 式 を 当期 の 研究開発支出(RDEXt)に つ. BVit : i 企業の t 期の株主資本. いて解けば,次のようにあらわされる.. 本研究は,上記の(a)式における説明変数       RDEX it である利益変数と株主資本に対する研究開発費. RDA it  RDA it 1  RDDE it  ⅱ      . の繰延処理の影響を分離した次のようなモデル. 次に,研究開発費用を繰延処理せずに発生時. を導く.. に費用処理している場合の利益(INADt)は, 繰延処理している利益(INit)に研究開発償却. 額(RDDEt)を加算し,研究開発支出額(RDEXt) Pit D  E1 INADit  E 2 DEFit  E3 BVADit  E 4 RDA  H it  を控除することによって求められる.  E 2 DEFit  E3 BVAD it  E 4 RDA  H it   (b)              INADit IN it  RDDE it  RDEXit   ⅲ Pit :i 企業の t 期の株式価格 INADit :i 企業 の t 期の修正会計利益(研究開 ここで用いられる研究開発資産および研究開 発費を即時費用処理した場合) 発償却費が有価証券報告書からデータを入手可.

(6) 40. (392). 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). 能である. 次に,説明変数である利益変数として,営業 利益,経常利益,および当期純利益のいずれを. 発費を即時費用処理した場合) DEFit  :i 企業の t 期の研究開発費の繰延処理 の影響額. 選択するかについては,適当な利益が必ずしも. BVADit:i 企業の t 期の修正株主資本(研究開. 明らかでないことから,いずれか 1 つを選択す. 発費の繰延資産額を控除). ることは問題を有する.研究開発費の繰延処理. RDAit :i 企業の t 期の研究開発費の繰延資産. は,主に営業費および一般管理費として処理さ れる. したがって, 繰延処理の影響は, 営業利益, 経常利益,当期純利益に等しく影響するように 思われる.また,経常利益および当期純利益は. 額 D1 :i 企業の t 期の当期純利益がマイナス の 場合 を 1,そ れ 以外 の 場合 を 0 と するダミー変数. 営業項目以外の一時的な損益を含むために,当. D2 :i 企業の t 期の営業利益がマイナスの. 該利益に対する繰延処理の影響が歪められるこ. 場合 1,そ れ 以外 の 場合 を 0 と す る. とが考えられる.したがって,営業利益が将来. ダミー変数. 利益の尺度として適切であると考えられる. しかし,研究開発費の繰延処理おいて,旧来. 本研究は,一般的に会計数値は企業間と年度. 制度の下での研究開発資産の償却額のうち,臨. 間にシステマティックな相違があるため,全て. 時的な償却部分に関しては,稀に特別損失とし. の標本企業年度をパネルデータとして認識し,. て処理されていたことが考えられる.したがっ. 企業効果と年度効果を定数ダミーで吸収する固. て,研究開発費の繰延処理の利益数値への全体. 定効果モデルを用いて分析する.. 的な影響をとらえるためには,当期純利益が適. また,本研究は不均一分散の影響を緩和する. 切であるように思われる.. ために,被説明変数の株価と説明変数の会計数. そこで,本研究は,これらの点を考慮して,. 値を前期末株価でデフレートし,t 検定に際し. 営業利益と当期純利益を説明変数とする次のよ. ては,white(1980)の t 値によって判定する.. うな 2 つの回帰モデルを設定する.また,利益 数値がプラスである場合とマイナスである場合. 3.3 サンプル・データ. では,価値関連性が異なることが知られている. 本研究は,東京証券取引所 1 部に上場してい. ために,利益変数に対して利当該変数がマイナ. る企業を対象とする.ただし,業種が金融・保. スの場合 1 それ以外の場合 0 とする係数ダミー. 険業に分類される企業は本研究の標本に含まれ. を推定モデルに組み込む.. ない.分析の期間は,1974 年 1 月から 1997 年. 12 月までの 24 年間である.当該対象企業のな PitPit DD E1EN1 N IAD IAD   E E D D *NIAD *NIAD   E E DEF DEF   E E D D * * DEF DEF   E EBVAD BVAD  E 6ERDA RDA H itHit  it it 2 21 1 it it 3 3 it it 4 41 1 it it かで,研究開発支出を繰延資産として計上して 5 5 it it 6. *NIAD *NIAD E 3EDEF DEF E 4ED41D*1DEF * DEF E 5EBVAD BVAD E 6ERDA RDA  HitHit  ⑴ 1 it it 3 it it it it 5 it it 6. いる企業は 202 社であり,利用可能な企業年度 は 1,133 企業年度であった.また,経済成長と. PitPit D D  E1EO1O I AD I AD  E 2ED2 2D*2 O * IOAD I AD  E 3EDEF DEF  E 4ED4 2D*2 DEF * DEF  E 5EBVAD BVAD  E 6ERDA RDA  HitHit  it it it it 3 it it it it それに伴う企業による会計処理の変更を考慮 5 it it 6. *2 O *O I AD I AD  E 3EDEF DEF  E 4ED4 2D*2 DEF * DEF  E 5EBVAD BVAD  E 6ERDA RDA  H itHit  ⑵ it it 3 it it it it 5 it it 6. するために,分析期間を 4 期間に分割する.標. Pit :i 企業の t 期の株式価格. り,標本期間 2 は 1980 年から 1986 年の期間で. NIADit :i 企業の t 期の修正当期純利益(研究. あり,標本期間 3 は 1987 から 1992 年まで期間. 開発費を即時費用処理した場合) OIADit :i 企業の t 期の修正営業利益(研究開. 本期間 1 は 1974 年から 1979 年までの期間であ. であり,標本期間 4 は 1993 から 1997 年まで期 間とする..

(7) 研究開発費の会計処理と Value Relevance(眞鍋). (393). 41. Table1: descriptive statistics P. NIAD. OIAD. DEF. BVAD. DRD. Mean. 1.093. 0.015. 0.084. 0.000. 0.179. 0.013. Median. 1.017. 0.019. 0.066. 0.000. 0.156. 0.007. Maximum. 5.090. 1.374. 1.736. 0.067. 0.784. 0.281. Minimum. 0.210. -0.816. -0.325. -0.156. -0.023. 0.000. Std. Dev.. 0.421. 0.087. 0.109. 0.009. 0.107. 0.021. Observations. 1133. 1133. 1133. 1133. 1133. 1133. P:期末時点における株式価格 NIAD:修正当期純利益(研究開発費を即時費用処理した場合) OIAD:修正営業利益(研究開発費を即時費用処理した場合) DEF:研究開発費の繰延処理の影響額 BVAD:修正株主資本簿価(研究開発費の繰延資産額を控除) RDA:研究開発費の繰延資産額. Table2: all (year: 1974━1997) ■ Net income (1). C. NIAD. D1*NIAD. DEF. D1DEF. BVAD. RDA. Adj. R2. 0.698. 0.721. 0.099. -1.032. -1.952. 1.851. 4.080. 0.283. (16.470). (1.643). (0.181). (-0.507). (-0.790). (8.334). (5.339). ■ Operating income (2). C. OIAD. D2*OIAD. DEF. D2DEF. BVAD. RDA. Adj. R2. 0.595. 1.935. -2.530. 1.039. -4.220. 1.580. 2.858. 0.330. (12.284). (6.416). (-3.625). (0.688). (-1.840). (7.984). (3.911). PPititPititPitDDDDEE1E N A AD ED22E1D **DN *NN I*IAD INAD IitAD EEEDEF EDEF DEF EEED *DEF DEF * DEF E EBVAD EBVAD BVAD E ERDA ERDA RDA  HHitHitititH ⑴ NEIN IAAIND DID E AD DEF DED**DDEF itit itit itE22 D itit itit itE55 BVAD 55 5 itit itit itE66 RDA 66 6 it 1 11 1 12 11 1 it itit it 33 33 3 itit itit it 44 44114 11 1 PPititPititPitDDDDEE1E O E O I AD O I AD I AD   E  E D E D * D O * O I * AD O I AD I AD   E  E DEF E DEF DEF   E  E D E D * D DEF * DEF * DEF   E  E BVAD E BVAD BVAD   E  E RDA E RDA RDA   H H  H O I AD  E D * O I AD  E DEF  E D * DEF  E BVAD  E RDA  H ⑵ 1 1 it it it 2 2 2 2 2 2 it it it 3 3 3 it it it 4 4 2 4 2 2 it it it 5 5 5 it it it 6 6 6 it it 1 1 it it 2 22 2 it it 3 3 it it 4 42 2 it it 5 5 it it 6 6 it it it Pit:i 企業 の t 期 の 株式価格,NIADit:i 企業 の t 期 の 修正当期純利益(研究開発費 を 即時費用処理 し た 場合),OIADit:i 企 業 の t 期 の 修正営業利益(研究開発費 を 即時費用処理 し た 場合),DEFit:i 企業 の t 期 の 研究開発費 の 繰延処理 の 影響額, BVADit:i 企業の t 期の修正株主資本簿価(研究開発費の繰延資産額を控除),RDAit:i 企業の t 期の研究開発費の繰延資産額, D1:i 企業の t 期が当期純損失の場合 1,それ以外の場合を 0 とするダミー変数,D2:i 企業の t 期が営業損失の場合 1,それ以 外の場合を 0 とするダミー変数,括弧で囲まれた値は white(1980)の t 値である.. 財務諸表本体,注記,付属明細表 の データ は, 『日 経 NEEDS. 3.4 検証の結果. 企 業 財 務 デ ー タ 2002 ─. CDROM 版─』から取得した.また,株価デー. (a)全期間における検証結果. タ は『東洋経済新報社 の 株価 CD-ROM 2001』. 株価 と 利益数値 の 関連性 に 関 す る 回帰結果. から取得した.各変数の記述統計量は Table1. は,Table2 から Table6 に示されている.まず,. にまとめられている.. 全期間での回帰結果を表わす Table2 を見るこ ととする. ⑴式および⑵式の回帰結果は,利益変数が当.

(8) 42. 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). (394). Table3: Sample1 (year: 1974━1979) ■ Net income ⑴. C. NIAD. D1*INAD. DEF. D1*DEF. BVAD. RDA. Adj. R2. 0.445. 1.792. -1.136. 2.546. -8.039. 2.242. 4.496. 0.226. (3.366). (3.233). (-1.766). (0.756). (-1.694). (3.881). (1.531). ■ Operating income ⑵. C. OIAD. D2*IOAD. DEF. D2*DEF. BVAD. RDA. Adj. R2. 0.185. 1.887. -3.191. -0.083. -6.735. 2.435. 3.903. 0.308. (1.520). (6.997). (-3.395). (-0.034). (-1.569). (4.708). (1.457). Pitit D  E11 NIADitit  E 22 D11 * INADitit  E 33 DEFitit  E 44 D11 * DEFitit  E 55 BVADitit  E 66 RDA  H itit ⑴ Pitit D  E11 OIADitit  E 22 D22 * IOADitit  E 33 DEFitit  E 44 D22 * DEFitit  E 55 BVADitit  E 66 RDA  H itit ⑵ Pit:i 企業 の t 期 の 株式価格,NIADit:i 企業 の t 期 の 修正当期純利益(研究開発費 を 即時費用処理 し た 場合),OIADit:i 企 業 の t 期 の 修正営業利益(研究開発費 を 即時費用処理 し た 場合),DEFit:i 企業 の t 期 の 研究開発費 の 繰延処理 の 影響額, BVADit:i 企業の t 期の修正株主資本簿価(研究開発費の繰延資産額を控除),RDAit:i 企業の t 期の研究開発費の繰延資産額, D1:i 企業の t 期が当期純損失の場合 1,それ以外の場合を 0 とするダミー変数,D2:i 企業の t 期が営業損失の場合 1,それ以 外の場合を 0 とするダミー変数,括弧で囲まれた値は white(1980)の t 値である.. 期純利益の場合には利益変数が統計的に有意で ないのに対して,利益変数が営業利益の場合に. (b)Sample1(year: 1974━1979)に お け る 検 証結果. は利益変数が統計的に有意であることを示して. 次に,1974 年から 1979 年までの期間におけ. いる.また,利益変数が営業利益の場合に限っ. る回帰結果を表わす Table3 を考察し,その結. て,修正利益のダミー変数も統計的に有意であ. 果を解釈する.. る.. ⑴式および⑵式の回帰結果は,利益変数が当. また,これらの回帰結果は,利益変数が当期. 期純利益および営業利益のいずれの場合におい. 純利益および営業利益の場合において,研究開. ても,統計的に有意であることを示している.. 発費の繰延処理の影響額が統計的に有意でない. また,利益変数が営業利益の場合に限って,修. ことを示している.このことを,営業利益に限. 正利益のダミー変数も統計的に有意である.. 定して解釈すれば,営業利益に含まれている繰. また,この回帰結果は,利益変数が当期純利. 延処理の影響額がその他の営業利益の要素と価. 益および営業利益のいずれの場合においても,. 値関連性を有さないという点において同質性を. 研究開発費の繰延処理の影響額が統計的に有意. 有していないと思われる.. でないことを示している.このことは,繰延処. さらに,これらの回帰結果は,利益変数が当. 理の影響額がその他の営業利益の要素と価値関. 期純利益および営業利益の場合において,研究. 連性を有さないという点において同質性を有し. 開発費の繰延資産が統計的に有意であることを. ていないと思われる.また,繰延処理の影響額. 示している.そのことは,研究開発費の繰延資. のダミー変数は,いずれのモデルの回帰結果に. 産が株価と関連性を有していることを示してい. おいても統計的に有意でない.. る.. さらに,これらの回帰結果は,利益変数が当 期純利益および営業利益の場合において,研究.

(9) 研究開発費の会計処理と Value Relevance(眞鍋). (395). 43. Table4: Sample2 (year: 1980━1986) ■ Net income ⑴. C. NIAD. D1NIAD. DEF. D1DEF. BVAD. RDA. Adj. R2. 0.386. 0.348. 0.393. -3.591. 1.450. 3.832. 6.101. 0.210. (2.886). (0.892). (0.616). (-0.969). (0.400). (5.482). (2.793). ■ Operating income ⑵. C. OIAD. D2OIAD. DEF. D2DEF. BVAD. RDA. Adj. R2. 0.330. 2.056. -2.050. 2.343. -3.728. 2.991. 5.238. 0.263. (2.556). (4.321). (-2.011). (0.697). (-1.141). (5.389). (2.783). PititPititPitDDDE11EN11EN I1AD N IAD IAD *NIAD NIAD  EEDEF EDEF DEF  EEDED*D*DEF *DEF DEF  EEBVAD EBVAD BVAD  EERDA ERDA RDA  H it H H it  EEDED*D*NIAD itit itit it 22 22 112 11 1 itit itit it 33 33 3 itit itit it 44 44 114 11 1 itit itit it 55 55 5 itit itit it 66 66 6 it itit ⑴  EEDED*DO PititPititPitDDDE11EO11EO I1AD O I AD I AD *O *I AD O I AD I AD  EEDEF EDEF DEF  EEDED*D*DEF *DEF DEF  EEBVAD EBVAD BVAD  EERDA ERDA RDA  H it H ititH it itit itit it 22 22 222 22 2 itit itit it 33 33 3 itit itit it 44 44 224 22 2 itit itit it 55 55 5 itit itit it 66 66 6 it ⑵ Pit:i 企業 の t 期 の 株式価格,NIADit:i 企業 の t 期 の 修正当期純利益(研究開発費 を 即時費用処理 し た 場合),OIADit:i 企 業 の t 期 の 修正営業利益(研究開発費 を 即時費用処理 し た 場合),DEFit:i 企業 の t 期 の 研究開発費 の 繰延処理 の 影響額, BVADit:i 企業の t 期の修正株主資本簿価(研究開発費の繰延資産額を控除),RDAit:i 企業の t 期の研究開発費の繰延資産額, D1:i 企業の t 期が当期純損失の場合 1,それ以外の場合を 0 とするダミー変数,D2:i 企業の t 期が営業損失の場合 1,それ以 外の場合を 0 とするダミー変数,括弧で囲まれた値は white(1980)の t 値である.. 開発費の繰延資産が統計的に有意でないことを. でないことを示している.このことは,繰延処. 示している.そのことは,研究開発費の繰延資. 理による変化額が株式価格と関連性を有さない. 産が株価と関連性を有さないことを示してい. ことを示している.また,ダミー変数は,利益. る.. 変数が当期純利益であるか営業利益であるかに. 当該期間には,利益に含まれる繰延処理の影. かかわらず,統計的に有意でない.. 響額および株主資本簿価に含まれる研究開発資. さらに,これらの回帰結果は,利益変数が当. 産がともに株式価格と関連性を有していない.. 期純利益および営業利益の場合において,研究 開発費の繰延資産が統計的に有意であることを. (c)Sample2(year: 1980━1986)に お け る 検 証結果 次に,1980 年から 1986 年までの期間におけ. 示している.そのことは,研究開発費の繰延資 産が株式価格と関連性を有していることを示し ている.. る回帰結果を表わす Table4 を考察し,その結 果を解釈する. ⑴式および⑵式の回帰結果は,利益変数が営. (d)Sample3(year: 1987━1992)に お け る 検 証結果. 業利益の場合に利益変数が統計的に有意である. 次に,1987 年から 1992 年までの期間におけ. ことを示している.また,利益変数が営業利益. る回帰結果を表わす Table5 を考察し,その結. の場合に限って,ダミー変数も統計的に有意で. 果を解釈する.. ある.. ⑴式および⑵式の回帰結果は,利益変数が当期. また,この回帰結果は,利益変数が当期純利. 純利益であるか営業利益であるかにかかわら. 益および営業利益のいずれの場合においても,. ず,利益変数が統計的に有意であることを示し. 研究開発費の繰延処理の影響額が統計的に有意. ている.また,利益変数が当期純利益の場合に.

(10) 44. 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). (396). Table5: Sample3 (year: 1987━1992) ■ Net income ⑴. C. NIAD. D1NIAD. DEF. D1DEF. BVAD. RDA. Adj. R2. 0.214. 18.986. -17.313. 25.655. -29.308. 6.254. 3.686. 0.533. (1.936). (3.658). (-2.482). (2.238). (-2.183). (5.910). (0.611). ■ Operating income ⑵. C. OIAD. D2OIAD. DEF. D2DEF. BVAD. RDA. Adj. R2. 0.232. 6.784. -2.592. 25.834. -26.708. 6.360. 0.949. 0.483. (2.487). (5.798). (-0.355). (2.468). (-1.860). (5.152). (0.116). PititPititPititD DDDEE11EN N11EIN I11AD AD N IAD IAD D ED**DN N *N *IIAD AD N I AD I AD DEF EDEF DEF D ED**DDEF *DEF *DEF DEF BVAD EBVAD BVAD RDA ERDA RDA H H itit P itEE33EDEF itEE4E itEE5E itEE6E  HHit itEE2E 2D 4D 5BVAD 6RDA it itit ⑴ itit itit it 22 1122 11 11 itit itit it 33 33 itit itit it 44 1144 11 11 itit itit it 55 55 itit itit it 66 66   P P D  D E  O E I AD O I AD E D E * D O * I O AD I AD  E  DEF E DEF  E  D E * D DEF * DEF  E  BVAD E BVAD  E  RDA E RDA  H H ititH itit   P P D D   E E O O I AD I AD E E D D * O * O I AD I AD   E E DEF DEF   E E D D * * DEF DEF   E E BVAD BVAD   E E RDA RDA   H itit itit it it 11 11 11 itit itit it it 22 22 2222 22 22 itit itit it it 33 33 33 itit itit it it 44 44 2244 22 22 itit itit it it 55 55 55 itit itit it it 66 66 66 itit ⑵ Pit:i 企業 の t 期 の 株式価格,INADit:i 企業 の t 期 の 修正当期純利益(研究開発費 を 即時費用処理 し た 場合),OIADit:i 企 業 の t 期 の 修正営業利益(研究開発費 を 即時費用処理 し た 場合),DEFit:i 企業 の t 期 の 研究開発費 の 繰延処理 の 影響額, BVADit:i 企業の t 期の修正株主資本簿価(研究開発費の繰延資産額を控除),RDAit:i 企業の t 期の研究開発費の繰延資産額, D1:i 企業の t 期が当期純損失の場合 1,それ以外の場合を 0 とするダミー変数,D2:i 企業の t 期が営業損失の場合 1,それ以 外の場合を 0 とするダミー変数,括弧で囲まれた値は white(1980)の t 値である.. Table6: Sample4 (year: 1993━1997) ■ Net income ⑴. C. NIAD. D1NIAD. DEF. D1DEF. BVAD. RDA. Adj. R2. -0.059. 0.757. -0.189. 1.645. -8.792. 5.751. 9.750. 0.517. (-0.439). (2.097). (-0.285). (0.573). (-1.033). (7.963). (2.189). ■ Operating income ⑵. C. OIAD. D2OIAD. DEF. D2DEF. BVAD. RDA. Adj. R2. -0.125. 2.715. -2.203. 4.804. 7.391. 5.541. 9.963. 0.545. (-0.952). (3.769). (-1.549). (2.242). (0.363). (7.886). (2.535). P ENIAD NIAD EED2E2D *D N *1 N *IIAD N I AD I AD it  EEDEF EDEF DEF it  EED4E4D *D *DEF *DEF DEF it itEE5E5BVAD EBVAD BVAD it  EERDA ERDA RDA HHitHit ititH ⑴ it  PititPititPitD DDDEE1E1NIAD NIAD AD BVAD 11 1 itit it itE22 D 112* 11 N itit it itE33 DEF 33 3 itit it itE44 D 114* 11 DEF 1 itit it 55 5 itit it itE66 RDA 66 6 it    P P P D D  D  E  E O E O I AD O I AD I AD E E D E D * D O * O * I AD O I AD I AD   E  E DEF E DEF DEF   E  E D E D * D * DEF * DEF DEF   E  E BVAD E BVAD BVAD   E  E RDA E RDA RDA HHitHit ⑵ H  P D  E O I AD E D * O I AD  E DEF  E D * DEF  E BVAD  E RDA itit itit it 11 11 1 itit itit it 22 22 222 22 2 itit itit it 33 33 3 itit itit it 44 44 224 22 2 itit itit it 55 55 5 itit itit it 66 66 6 itit it Pit:i 企業 の t 期 の 株式価格,NIADit:i 企業 の t 期 の 修正当期純利益(研究開発費 を 即時費用処理 し た 場合),OIADit:i 企 業 の t 期 の 修正営業利益(研究開発費 を 即時費用処理 し た 場合),DEFit:i 企業 の t 期 の 研究開発費 の 繰延処理 の 影響額, BVADit:i 企業の t 期の修正株主資本簿価(研究開発費の繰延資産額を控除),RDAit:i 企業の t 期の研究開発費の繰延資産額, D1:i 企業の t 期が当期純損失の場合 1,それ以外の場合を 0 とするダミー変数,D2:i 企業の t 期が営業損失の場合 1,それ以 外の場合を 0 とするダミー変数,括弧で囲まれた値は white(1980)の t 値である.. 限って,ダミー変数も統計的に有意である.. であることを示している.このことは,繰延処. また,この回帰結果は,利益変数が当期純利. 理の影響額がその他の利益の要素と価値関連性. 益および営業利益のいずれの場合においても,. を有するという点において同質性を有している. 研究開発費の繰延処理の影響額が統計的に有意. と思われる.また,ダミー変数は,利益変数と.

(11) 研究開発費の会計処理と Value Relevance(眞鍋). (397). 45. して当期純利益を用いる⑴式の回帰結果におい. ような影響を与えるのかを明らかにすることで. て統計的に有意である.. あった.. さらに,これらの回帰結果は,利益変数が当. 本研究は,実際に研究開発費の期間配分に対. 期純利益および営業利益の場合において,研究. して経営者に裁量が与えられた結果としての会. 開発費の繰延資産が統計的に有意でないことを. 計数値を対象とする点において特徴を有してい. 示している.そのことは,研究開発費の繰延資. る.本稿は次のように展開された.第 2 節は先. 産が株価と関連性を有していないことを示して. 行研究 の 考察 を 行 い,先行研究 の 問題点 を 示. いる.. し,本研究の特徴と意義を明確にすることを試 みた.第 3 節は,研究開発費の期間配分に対し. (d)Sample4(year: 1993━1997)における検証 結果. て経営者に裁量が与えられていることが利益数 値の value relevance にどうような影響を与え. 最後に 1993 年から 1997 年までの期間におけ. るのか,また経営者の裁量によって繰延べら. る回帰結果を表わす Table5 を考察し,その結. れた研究開発費の累積額である研究開発資産の. 果を解釈する.. value relevance を有するかについて明らかに. ⑴式および⑵式の回帰結果は,利益変数が当. した.. 期純利益および営業利益のいずれの場合におい. 本研究の発見事項は,以下の通りである.⑴. ても,利益変数が統計的に有意であることを示. 1974 年から 1997 年までを 4 つの期間に分けた. している.また,⑴式および⑵式において,ダ. 場合,各時点において株価と関連性を有する利. ミー変数は統計的に有意でない.. 益変数(具体的 に は,営業利益,当期純利益). また,この回帰結果は,利益変数が営業利益. は一定ではない.⑵研究開発費の繰延処理によ. の場合において,研究開発費の繰延処理の影響. る調整額は,標本期間 3(1987 年から 1992 年). 額が統計的に有意であることを示している.こ. および標本期間 4(1993 年から 1997 年)にお. のことは,繰延処理の影響額が株式価格と関連. いて,株式価格との関連性を有する.しかし,. 性を有していることを意味している.また,ダ. 一方 で 繰延処理 に よ る 調整額 は,標本期間 1. ミー変数は,いずれのモデルの回帰結果におい. (1974 年から 1979 年)および標本期間 2(1980. ても統計的に有意でない.. 年から 1986 年)において,株式価格との関連. さらに,これらの回帰結果は,利益変数が当. 性 を 有 さ な い.た だ し,標本期間 4 に お い て. 期純利益および営業利益の場合において,研究. も,説明変数を当期純利益とする場合には,研. 開発費の繰延資産が統計的に有意であることを. 究開発費の繰延処理の影響額と株価の関連性は. 示している.そのことは,研究開発費の繰延資. 認められない.⑶また,標本期間 3 において,. 産が株価と関連性を有していることを示してい. 当期純利益がマイナスの時に行われる繰延処理. る.. の影響額は,当期純利益がプラスの時に行われ 4.結びにかえて. るものと対照的な株式価格との関連性を有して いる.⑷研究開発資産は,標本期間 2(1980 年. 本研究は,わが国の東京証券取引所 1 部上場. から 1986 年)および標本期間 4(1993 年から. 企業を対象として,研究開発費の繰延資産およ. 1997 年)において,株式価格との関連性を有. び繰延処理後の利益の value relevance に関し. している.しかし,一方で研究開発資産は,標. て検証を行った.本研究の目的は,研究開発費. 本期間 1(1974 年 か ら 1980 年)お よ び 標本期. の期間配分に対して経営者に裁量が与えられて. 3(1987 年 か ら 1992 年)に お い て,株式価格. いることが会計数値の value relevance にどの. との関連性を有さない..

(12) 46. 横浜国際社会科学研究 第 12 巻第 3 号(2007年 9 月). (398). 以上 の 結果 を 総合的 に 判断 す る と,繰延処 理による利益の変化額および延繰延資産額が value relevant で な い と い う 仮説 は,そ れ が relevant な会計年度があったことから棄却され る. 本研究の限界は,旧来制度の下で研究開発費 の繰延処理を採用している企業を標本として 選択 し,当該会計処理 を 採用 し て い な い 企業 を標本として含めていない点にある.この標本 選択は,繰延処理を行う企業と繰延処理を行わ ない企業の相違を調整できない.つまり,繰延 処理を行わなかった企業は,何らかの動機によ り意図的に繰延処理を採用しなかったと考えら れる.仮にそれらの企業が繰延処理を行った場 合に同様の結果になったか否かは明らかではな い.この点において,本研究は限界を有してい る. しかし,本研究は,実際に繰延処理を採用し た企業の財務データを用い,当該財務データの value relevance を検討した点において,また その結果が先行研究と必ずしも一致しないこと を明らかにした点において,意義を有している と思われる.. 注 1)ここでの繰延資産は,『本来的には費用たる性 質をもつ支出であるが,期間損益計算の必要上 当期の費用から控除されて,経過的に資産とし て繰延処理されたもの』をいう. ま た,『試験研究費』お よ び『開発費』の 定 義は,財務諸表規則に従い,次のように定義づ け る.つ ま り ,『試験研究費』は「新製品又 は 新技術のために行う試験研究のため特別に支出 した費用をいい,企業が現に生産している製品 又は採用している製造技術の改良のため常時行 う試験研究のための費用を含まないもの」であ る.また,開発費とは,新技術又は新経営組織 の採用,資源の開発,市場の開拓等のため支出 した費用,生産能率の向上または生産計画の変 更等により,設備の大規模な配置替を行った場 合等の費用をいう.ただし,経常費の正確を持 つものを含まないもの」である. 2)研究開発費に関する制度の変遷および会計実. 務の動向に関しては,植野(1982)を参照され たい. 3)徳賀(2006)における研究開発投資と将来収 益との関連性に関する実証研究は,田中伸氏と の共同研究として脚注に開示されているのみで あり,本論文を見る限りにおいて実証方法に関 する詳細は明らかでない. 4)先行研究の中には,第1段階である研究開発 投資と将来収益の関連性に関して,当該関連性 に関する実証研究の結果に依拠するものも存 る.また,理論的考察による研究として,濱本 道正(2006)が挙げられる.. 参考文献 Bens, D. A., J. D. Hanna.,and X. F. Zhang (2002), “Research and Development, Risk,and Stock Returns”, Working paper. Financial Accounting Standards Board (1974), Statement of Financial Accounting Standards No.2: Accounting for Research and development cost, Financial Accounting Standards Broad. Healy, P. M., S. C. Myers, and C. D. Howe (2002), “R&D Accounting and the Tradeoff Between Relevance and Objectivity,” Journal of Accounting Research, 40, pp. 677─ 710. Kothari, S. P., T. E. Laguerre, A. J. Leone (2002), “Capitalization versus Expensing: Evidence on the Uncertainty of Future Earnings from Capital Expenditures versus R&D Outlays”, Review of Accounting Studies, 7, pp. 355─382. Kothari, S. P. and J. L. Zimmerman (1995), “Price and return models”, Journal of Accounting and Economics, 20, pp, 155─192. Lev, B. (2001), Intangibles: Management, Measurement, and Reporting, Washington, D. C, Brookings Institution. L e v , B . a n d T . S o u g i a n n i s ( 1 9 9 6 ) , “T h e capitalization, amortization, and valuerelevance of R&D”, Journal of Accounting and Economics, 21, pp. 107─138. Lev, B. and T. Sougiannis (1999), “Penetrating the Book-to-Market Black Box: The R&D Effect”, Journal of Business Finance and Accounting, 26, pp. 419─449. Lev, B. and P. Zarowin (1999), “The Boundaries of Financial Reporting and How to Extend Them”, Journal of Accounting Research, 37, pp. 353─385. Paton, W. A. and A. C. Littleton (1940), A Introduction to Corporate Accounting Standard,.

(13) 研究開発費の会計処理と Value Relevance(眞鍋). American Accounting Association Monograph No. 3. Penman, S. H. and X. J. Zhang (2002), “Accounting Conservatism, the Quality of Earnings, and Stock Returns”, The Accounting Review, 77, pp. 237─264. Ryanburn, J. (1986), “The Association of Operating Cash Flow and Accruals with Security Returns”, Journal of Accounting Research, 24, pp. 112─133. Sougiannis, T. (1994), “The Accounting Based Valuation of Corporate R&D”, The Accounting Review, 69, pp. 44─68. White, H. (1980), “A heteroskedasticity-consistent covariance matrix estimator and a direct test for heteroskedasticity”, Econometrica, 48, pp. 817─838. Wooldridge J. M. (2005), Introductory Econometrics, Third Edition, Thomson South-Westen. 市川朋治・中野誠(2005)「研究開発投資 と 企業 価値 の 関連性─日本 の 化学産業 に お け る 実 証分析─」『経営財務研究』第 24 巻 第 2 号 133─146 頁 . 植野郁太(1982) 『研究開発費会計』関西大学出版. 大日方隆(2006)「負債 の 概念 と 利益 の Value Relevance 」『会 計』第 169 巻 第 1 号 20─33 頁.. (399). 47. 加賀谷哲之(2003) 「無形資産 の 開示 と IR 」 『一 橋 ビ ジ ネ ス レ ビュー』第 51 巻 第 3 号 冬号 86─101 頁 . 企業会計審議会(1998) 『研究開発費等 に 係 る 会 計基準』 . 北村敬子(1998) 「 「研究開発費等に係る会計基準 の設定に関する意見書」の経緯と概要」 『企 業会計』第 50 巻 第 7 号 71─76 頁 . 榊原茂樹・與三野禎倫・鄭義哲・古澄秀男(2006) 「企業の研究開発費と株価形成」 『証券アナリ ストジャーナル』第 44 巻 第 7 号 48─58 頁 . 中央経済社(2006) 『会計法規集[第 24 版] 』中 央経済社. 徳賀芳弘(2006) 「研究開発投資 の 価値関連性 と オンバランス問題」 『会計』第 169 巻 第 5 号 31─44 頁 . 日本会計学会 特別委員会(2005) 『無形資産会計・ 報告の課題と展望(最終報告) 』 . 濱本道正(2006) 「研究開発のファンダメンタル ズと会計測定」 『企業会計』第 58 巻 4─12 頁. 劉慕和(2005) 『研究開発投資 の 会計処理 と 市場 の評価』同文舘出版 . [ま な べ か ず ひ ろ 横浜国立大学大学院国際社 会科学研究科博士課程後期].

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