高付加価値を創造する知財戦略経営 : 日東電工の事例
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(2) 横浜経営研究 第26巻 第工号(2005). 42(42). 平成12年:100. 図表1 消費者物価指数の下落. 生鮮品を除く財. 平成16年9月 959. 平成15年9月 958. 947 ga4 X62. 95.0. 工業晶. うち大企業性財. 、ち中小企業性財. 93B №≠T. 出所:総務雀統計局(2004年10月). ことが出来る.ちなみに,同社の2002年,2003. 2.中間財の高付加価値化. 年,2004年の研究開発投資は,13,053百万円,. 2.1 技術の複合化と吉付加価値化. 13,851百万円,15,822百万円と,増加傾向にあ. 日東電工は代理店をも含めた企業グループで. る.こうした技術複合化は,製品コ」ンセプトを. 一体となった技術経営を志向する研究開発型企. 明確にした上で進められる.以下,同社の技術. 業である.同社は元来「グローバル・ニッチ・. 複合化の内容を概観することとする.. トップ」を標榜するが,これは市場セグメント. 同社では昭和の早い段階から「三新運動」を. を小さく掘り下げた中でNb.1となることを意. 展開する.これは,「新製品」「新開発」「新事. 昧し,いわば企業全体がベンチャー企業の集合. 業」を意味し,継続的な開発と製品化,それに. 体の様相を呈する.現に同社では世界シェア. もとつく新規事業の立ち上げ,という繰り返し. 80%を超える製品を多数もつことで有名である.. と継続を,企業のDNAとして受け継いできた.. 同社の事業ドメインは,エレクト,1iニクス,. たとえば同社はもともと,電気絶縁のための. 光学,エネルギーt環境の4つである.同社の 事業の選択基準は,まず成長市場であること,. 絶縁テープを生産していた.これは,電気絶縁. その中でニッチ分野を選択,独自技術で固有の. 技術を必要とするもので,「絶縁」にプラスし. 差別化を行えるかどうかを検討し,技術的に差. て「もっぱら粘着する」ことを必要とするテー. 別化可能であればそこでNo.1を狙う,という. プである.すなわち,粘着材設計として「ひっ. 姿勢である.. 現在,消費者物価の下落傾向が続Yiている.. 材料用ワニス合成技術を出発点とし粘着材設計. ぱってもはがれない」,というコンセプトに基 づく製品である.. 平成12年9月期を100とすると,生鮮食品以外. その後ユ960年代後半,「接着するが,はがし. の一般財で95.9,工業製品全般で94.7であり,. たいときには容易にはがれる」というコンセプ. とくに大企業性工業製品(93.4)で下落が著し. トの医療用粘着テープに対する需要があり,. い(図表1).. こうした一般的な価格下落にもかかわらず, 同社では価格競争に巻き込まれず,かつ売上原. 「接着」と「剥離」を可能とするテープを開発,. 現在各種の医療用テープ事業に展開する基礎と iなった.. 価が売上に占める比率を継続的に低める.同社. 医療用テープは必要なときには表面を保護し,. の売上原価が売上に占める割合は,2002年度. 接着しているが,いらなくなったときにはがれ. 75.8%,2003年度72.8%,2004年度709%と低下. る必要がある.工業用としては,たとえば高機. 傾向にある.これは,コスト削減によるもので. 能シール材のように,薄い膜で表面を保護し不. はなく,技術の複合化をとおした高付加価値化. 要になったときに簡単にはがれる製晶が,発泡. によるものである.高付加価値化により利幅を. 技術によりすでに可能となっているが,医療用. 多くとる結果,研究開発投資をより多く行なう. としては粘着材の接着技術に加えて,皮膚に付.
(3) 高付加価値を創造する知財戦略経営(岡田依里). (43)43. 図表2:経皮吸収治療製剤に必要な機能 ポリマー選定. 薬剤安定性. Polymer design. Drug団日品量y. 』叛収の 』 の. イオンフtレーシス !o[甘OPhope団s. 出所1日東電工ホームページ 着させることから,人体に対する影響を勘案す. 同社にはさらに,薬を皮膚から吸収させるテ. る必要がある(特願2001−253579参照).この. ープ製品に需要を見出し,経皮吸収型テープ製. 必要は,次に述べる経皮呼吸型テープでますま. 剤を開発した.これは,医薬品事業としては新. す強まることとなる.. 規の医薬開発を行うのでなく,既存の薬品の形 を変換する(投薬の経路を変える)ことによる. 特願2001−253579. もので,患者,医薬品開発企業の双方にメリッ. (54)医療用粘着組成物及び該組成物を用いて. トがもたらされる.すなわち,患者にとっては. なる粘着テープもしくはシート. 医薬品の効果の持続,副作用の低減,使用の簡. (57)【要約】 L. 便性という機能が付与される.一方,医薬品開. 【課題】皮膚に対し十分固定できる接着性と,. 発企業にとっては,新規の医薬品開発に多額の. 剥離する際の糊残り発生がないような粘着剤層 凝集性とのバランスに優iれ,例えば救急絆創膏,. 投資と多くの不確実性を伴う医薬品業界にあっ て,厩存医薬のバージョンアップをもたらし,. ドレッシング材,ドレープ材などの医療衛生材. 研究開発の成果が経済社会にベネフィットをも. 用途に好適な粘着テープやシートを提供するこ と.. たらす持続期間が長くなる.. 経皮吸収型テープ製剤の開発の途上で発明さ. 【解決手段1炭素数4∼12のアルキル基を有す. れた油性ゲルは,.テープの接着による人体への. るアクリル酸アルキルエステル,(メタ)アク. 影響を和らげる効果をもち,その他の医療用テ ープの高品質化にも役立つこととなった(川崎. リル酸,炭素tw 1 一一 4のアルキル基を有するメ. タクリル酸アルキルエステルを含む、(但し,分. [2004]).これは,アクリル系重合体100重量部. 子内に二個以上の不飽和二重結合を有する多官. と,軟化剤10∼50重量部からなるエマルジョン. 能性単量体を含まfsい)単量体混合物を共重合. 型粘着組成物であり,パツド,カテーテルなど. して得られうるものであって,ゲルーゾル比が. の各種医療用具や医療機器を皮膚面に固定する. 35:65∼55:45,ゾル分の重量平均分子量が3. ために用いることができるものとして開発され. 30∼50万である医療用粘着組成物,および上記 単量体混合物を共重合して得られう1るものであ. って,ゲル分率と膨潤度が35∼55%,50∼90倍 である医療用粘着組成物.. た.一経皮吸収治療システムの例としては,虚血. 性心疾患治療剤,気管支拡張剤,局所麻酔剤, 局所皮膚疾患ステロイド剤などがある.. なお,経皮呼吸治療製剤に必要な機能として, 同社では図表2のとおり考えている..
(4) 44(44). 横浜経営研究 第26巻 第1号{2005). 図表3:熱剥離シートのコンセプト. リパアルブア. ?ラミック部品{切断前).. 加熱禦離. 鋼断(チップ化}. を∬バアルファに貼合せ 出所:村田[2003].. 同社は,医療分野を将来の成長分野として位. 凹凸をつくり,被着体との接着面積を少なくす. 置づける.一方,現在の高収益分野として,エ. ることにより剥離を容易とするものである.. レクトロニクスが位置づけられる.技術複合化.. 「接着」と「剥離」を機能としてもつテープに. の成功事例は,上述の医療分野とともに,エレ. は既存品としてマスキング用テープや半導体ウ. クトロニクス分野でも際立ってみられる.熱剥. エア加工用粘着テープがあった.しかしこれら. 離シートも,そのひとつである.これは,発砲. は剥離するときの接着力がゼロとなるわけでは. 材を加えることにより「常温で粘着しなくなる」,. ない.それに対して商品リバアルファの場合,. という性質のものだが,これはウエハ保護・固. 剥離にあたって接着力がほとんどゼロになり,. 定用テープから発展した.. 自然剥離するという特徴をもつ(村田[2003]).. 熱剥離シートは,同社でリバアルファの商標. 同社の技術開発の方向性「技術の複合化」の. 名で生産される.これは,「よりクリーンな粘. 観点からみると,すでに製品化された高機能シ. 着」と「作業の容易さ」をコンセプトとして開. ール材に,塗工技術の複合化として高分子技術. 発されたもので,必要なときに「自然に」はが. にもとつく発泡技術が使われている(特願平. れることが要求され,「接着」「剥離」の同時実. e5−327494).ここでは発泡技術が鍵となってい. 現という意味では医療用テープと同様の経緯を. る.. 経て開発されたといえる.. このシートは,エレクトロニクス分野や半導. 特願平05−327494. 体製造プロセスで「接着」と「剥離」の双方の. この発明が特許番号3327654につながった.. 機能が要求される場面で使われる.たとえば従. レジスト剥離用シート類,及びそれを用いたレ. 来電子部品の製造プロセスにおける仮固定では. ジストの剥離除去方法. ワックスや接着剤,粘着シートが使われていた. (57) 【要約】 ’. が,半導体部品切断後に部品をはがすのに時間. 【目的】本発明は,例えば,半導体,回路,各. と手間がかかり,剥離後にワックスや接着剤を. 種プリント基板,各種マスク,リードフレーム. 洗浄する必要があり,さらに剥離にあたって圧. などの各種微細加工部品の製造時において,不. 力を加えることにより部品を傷つける危険があ. 要となったレジストからなる画像(レジストパ. った.熱剥離シートは接着剤申で発泡する熱膨. ターン上に残したレジスト)を剥離除去するた. 張性マイクロカプセルを加熱発泡させ,表面に. めに,好適に用いられるレジスト剥離用のシー.
(5) 高付加価値を創造する知財戦略経営(岡田依里). (45)45. 図表4:熱剥離シートの構成. 一_一一 jヨィトー・∼一. 一熱翻雛紮着層∼ 基材:琳∬コニ.ステル亨イ’ンム. 片箇精着タイゴ 台慮薩黙着L層一一一一一,. 潔離ラ.イナー一一ノ 両茄欄紗イプ 出所 村田[2003].. トもしくはテープなどのシート類,.及びこれを. 室温で粘着性がなく,引張り試験での引張り弾. 用いたレジストの剥離除去方法に関する.. 性率が1Kg/mm2以上のフィルム物性を有す. 【構成】後発泡性基材の片面に,感圧性接着剤. るブロック型高分子量体を製造する.. 層が設けられてなるレジスト剥離用シート類で あり,好ましくは後発泡性層が,加熱膨張性マ. 図表4は同社の熱剥離シートの構成である. 基材であるポリエステルフィルムは同社の合成. イクロカプセル型発泡剤を含有する.. 技術が展開したものだが,その上に,発泡技術. しかし,発泡技術だけでは自然剥離しない. 自然剥離を可能とするには,加熱膨張に伴う接 着面積の減少が必要で,これには粘着剤の物性. が影響する.接着面積の減少を実現したのは,. と粘着材料設計技術による粘着層が重ねられ, さらに剥離ライナーが重ねられる.また,当然 ながら特許公報には熱剥離シートそのものの出 願はみられないが,これは特願平05−327494の 上に特願2000・286669が重ねられて,自然剥離、. 同社の高分子合成技術,粘着材料技術,塗工技. を実現したものと考えられる.熱剥離シートに. 術などの同社独自技術の蓄積による(村田. ついては早い段階から特許網の構築が意図され. [2003]).. たというが,検索にかかりにくい出願が行なわ れている.. 特願2000−286669. 熱剥離シートは同社の基盤技術たる塗工技術. (54)ブロック型高分子量体とその製造方法. と合成技術が高分子化の方向に展開する技術複. (57)【要約】. 合化の所産であることが,同社の基盤技術の系. 【課題】リビングラジカル重合法で特定のブロ. 譜よりわかる.また,独自技術が幾層にも重ね. ック構造を設計して,フィルム成形材料や塗料. られることにより,他社の参入障壁が高まる・. などに最適な物性を示す高分子量体を製造する、、. これは,同社研究開発部長によると,高機能化. 【解決手段】ガラス転移温度が300K未満の重合. と同時に排他性が図られた結果である、. 体を付与するモノマーと,ガラス転移温度が. 熱剥離シートは現在,電子部品製造プロセス. 300K以上の重合体を付与するモノマーとを,. で,切断・研磨時などの仮固定材,製造プロセ. 遷移金属とその配位子の存在下,重合開始剤を. スにおける搬送材,薄葉材料の輔強紘樹脂封. 用いてリビングラジカル重合することにより,. 止マスキング材などに使われている.今後,さ. ガラス転移温度が300K未満の重合体ブロック. らに,小型セラミック部品の製品化にともなう. Aと,ガラス転移温度が300K以上で数平均分. 用途や半導体ウエハ加ユニにおける超薄型研磨に. 子量が1万以上の重合体ブロックBとからなる,. おける仮癒定材として新たな用途開発が期待さ.
(6) 横浜経営研究 第26巻 第1号(2005). 46(46)’. 図表5 2002年の集中投資と成果 単位:百万円. 2000年. 2001年. 2002年. 2003年. 2004年. 営業利益. 34824. ユ9,314. 33,901. 55,912. 12,423. 13D53. 版478. 26,716. Q61612. R&D投資. @ ぞ 13β51. 15822. ▲13127. 1ao75. 23、041 ,. 34,684. 28,306. 31,731. @10β46 フリーキャッシュフロー. @ 4360 設備投資 Q5,502. れる(村田[2003]).. そのことばを裏付けるかのごとく,2002年度. 同社研究開発部長は,「中聞財だからどのよ. の設備投資が目に付く.2002年度のフリーキャ. うな方向にも飛べる」という.実際,もっぱら. ッシュフローをみると同社はマイナスを記録し. 粘着する絶縁体のテープから,新たなニーズが. ている.その一方で,設備投資は他の年度をは. あるごとに求められる機能やコンセプトを具体. るかに上回る34,684百万円を記録しているが,. 化させるべく基盤技術を展開させてきたことが,. 同社が公開する「企業の沿革」からその年度の. ほんの一例からも読み取れる.同社はその中核. 出来事をみると,同社は2件の会社ないし工場. 技術を現在,高分子合成と塗工技術とおくが,. を設立しており,うち1件はエレクトロニクス. 合成技術,塗工技術のほかに,成膜成形,微細. 会社であり,エレクトロニクス事業に大きな投. 加工技術があり,それぞれ世界シェアNo.1の 製品群を多数生み出している.一般には,中間. その後,2004年現在で同社は,営業利益,ブ. 財だから川下産業から圧迫される,との声が大. リーキャッシュフローともに他の年度を大きく. きい中,独自技術を継続的に横展開させるとと. 引き離した数値を記録する.同社はスピード経. もに高度化・:複合化させ,高付加価値化を実現. 営の具体的目標として研究開発の回収サイクル. している.. 資を行っていることが示唆される.. を3年とおいているが,2001年時点で売上730 億円の液晶部材が現在,1400億円を記録する.. 2.2集中的投資のタイミング. 現在,事業用テープ材料が同社事業利益の25%. ここで,同社の開発成果を財務的に検証する.. 以上を占め,そのうち半導体用材料やプリント. 同社はグローバル・ニッチトップを標榜するが,. 基板,製造プロセスにかかわる製品が18%と大. 分割されたセグメントでもトップであることの. きな位置づけを占めている.ちなみに,前述の. 意義は,同社研究開発部長によると,「市場動. 熱剥離シートも,半導体製造プロセスで必要と. 向が早くつかめタイムリーな投資に結び付ける. される製品である.. ことが可能」とする.これは,良質の顧客をつ. こうした事実より,エレクトロニクスという. かむことができる,良質の顧客や取引先のニー. 成長分野に大型の集中投資を2002年に行ったこ. ズに常に接することのできる,フォーマル・イ. と,その成果が現在の財務的業績となって現わ. ンフ才一マルによい情報を得ることができる,. れているが,早期の集中投資を決断させたのが,. ということを意味すると思われる.これはすな. 特定分野でトップにいることにより得られたフ. わち,「顧客・取引先の知識」を組織内に取り 入れることが容易となることである.. オーマル/インフォーマルな情報であったこと が推定される..
(7) 高付加価値を創造する知財戦略経営(岡田依里). (47)47. 図表6 日東電工の研究開発効率 1.2. 0.B 0.6. 田R&D効率. 0.4 O.2. 2000年 2002年 2004年 注:研究開発効率は,直近営業利益/過去4年の累積研究開発投資で求めた.. なお,同社が2002年度に行った集中投資とス tf 一一ド経営,技術の複合化がもたらした実績は,. ・ 上記レーザーエッチング後に,上記発泡剥 離性シート5を加熱剥離する.. 2003年以降の研究開発効率の向上ともなって現. ・ 熱処理で容易に接着力を低下できて被着体. われている(図表6).また同社では,スピー. の剥離性に優れ,種々の被着体に適用できて. ド経営を趣旨とするが,一方で,半導体関連の. 作業性に優れる加熱剥離性接着剤,ないし粘. 剥離シートなどエレクトロニクスを意識した出. 着部材を得ること. ・. 願は1990年初頭からみられる.つまり,エレクト. ・ 冷却固化による再接着等の問題を生じずに. ロニクスを高収益事業と位置づけるのに10年の. 任意な時に接着状態を糊残りなく容易に解け. 歳月をかけている.スピード・研究開発効率を. て,分離後に被着体を洗浄処理する必要がな. 趣旨とするとしても,発明を幾重にも複合化さ. い接着手段を得ること.. せて大きな事業とするのには,歳月をかけている.. 3.技術開発との一体性と知的財産. ・ 被着体に対する発泡前の接着力を高く設定 した場合にも,加熱処理による接着力の低下. 性に優れて被着体に対する接着力とその容易. 同社の研究開発の60%は,事業の要請による もので,残り40%が将来性をみた調査にあてる.. な剥離性とが両立した加熱剥離型粘着シート. 将来性をみた調査も事業と関連のないものでは. ・ 応答性よく速やかに接着強度を低下でき,. なく,たとえば前述の経皮吸収型製剤も,その. 被着体から効率よく剥離できる加熱剥離型粘. シーズは年月を潮った調査研究に求めることが. 着シートを提供する.. を得ること.. できる.また,2000年初頭のヒット製品たる熱 剥離シートも,その原型となる出願は90年代初 頭にみられる.. 同社の知的財産で特徴的なのは,研究開発課. 同社では特許出願が活発である.特許の出願. 題設定にあたって描くパテントマップに「コス. 件数を月ごとに管理しているが,これは独自技. ト」に対する考慮を明記することである.同社. 術を幾層にも重ねて製晶の付加価値を高めると. では事業部門ごとにパテントマップがつくられ,. ともに他社の参入障壁を築くことを重視するこ. それぞれ,「コスト」の項が盛り込まれる、こ. とに由来する.熱剥離シートの出願をみると,. れは,製造技術があってはじめて,製品化が可. 出願されるごとに複合度が高まっていることが. 能となる,’製造コストが現実的なものとならな. わかる.. ければ製品化されない,という極めて当然の理.
(8) 48(48). 横浜経営研究 第26巻 第1号(2005). 図表7 コスト意識を伴う技術開発一体型研究開発とパテントマップ. 機能A. 機能B A. 機能C. X社 Y社 z社 自社. 由によるが,現実にはパテントマップにコスト. 循環が得られている.. の項を盛り込む企業は,あまりみられない.. 4.インインプリケーション. コスト削減は一般に,後ろ向きのイメージが 付きまとう.それは,人員削減などを想起させ. 以上,日東電工の技術開発と知的財産に対す. るからかもしれないが,それだけがコスト削減. る考え方を概観し,中間財の高付加価値化と知. ではない.製造コストへの配慮は,「研究開発 と技術開発との一体化」ひいては,「研究開発. 財戦略経営について検討した.その結果,同社 の場合,高付加価値化は次の諸点を源泉とする. による良質化」をも含意する.日東電工がパテ. ことがわかった.. ントマップに「コスト」の項を盛り込むことか. 1)技術の複合化. ら,同社のコスト削減は徹底した研究開発によ. 技術の複合化を趣旨とし,独自技術を展開. るコスト削減が志向されているのがわかる.. させるととも.に何層にも重ねることにより,. 同社のパテントマップの概略は図表7のとお. 顧客の要望により一層答えようとするだけ. りである.. でなく,継続的特許出願とも相まって他社. 同社は研究開発に関係する指標として,特許. の参入障壁を築く.また,たとえば高分子. 出願件数のほか,全売上高に占める新製品の割. 技術による発泡と粘着の物性とを組み合わ. 合(過去x年に上市された新製品による売上/. せ,エレクトロニクス,医療,へと飛ぶよ. 全売上)p単一製品にかかる研究開発投資(単. うに,異分野の技術の複合化により事業と. 一・. サ品/研究開発)に着目するt同時に撤退基. しての成長分野を継続的に追求する.. 準の遵守を徹底させており,営業利益率10%を. 2)特定分野のトップへの固執と顧客・取引先. ラインとおいている.10%というのは,2番手,. の知識. 3番手製品の営業利益率がユ0%程度であるため. 同社のグローバル・ニッチトップは,特定. である.. 出願件数や売上高に占める新製品割合は,技. .セグメントでトップをとることにより良質 顧客に常に接し,顧客や取引先から良質の. 術複合化とともに革新め勢いを示すものとして. 情報を得ることが可能となることを意味す. マネジメントされている.一一一.方で,製品にかけ. る.. る研究開発投資を管理することにより,研究開. 3)パテント≒ップと「コスト」項目一製造技. 発効率の向上と再投資が可能となると考える.. 術開発との一体化 ’. さらに撤退基準の徹底により,グローバル・ニ. パテントマップに,「機能」と並んで「コ. ッチトップの死守が図られ,トップに固執する. スト」の項を明記,研究開発による良質化. ことにより顧客・取引先から良質な情報がもた. を伴うコスト削減を実現するとともに,製. らされ,生存領域の確定・集中投資≒という好. 造技術開発との一一体化を推進..
(9) 高付加価値を創造する知財戦略経営(岡田依里). {49)49. 財務的観点からみると,1)により値崩れが. こうして同社の技術複合化は,参入障壁の構. 防がれるとともに,用途開発により市場拡大が. 築,研究開発と製造技術開発との一体化,良質. 見込める,たとえ価格下落に見舞われても,3). の情報入手によるタイムリーな集中投資を伴い,. により利幅の維持・拡大が可能となる.経費の. 技術への執着と高収益体質とを同時実現する.. 節減によるコスト削減とニュアンスが異なり,. また,同社の技術への執着は,たとえば「接着. 顧客の要望を入れ研究開発による良質化を伴っ. するとともに,必要なときに剥がれる」など,. た形のコスト削減,ないし製造技術開発との一. 必要とされる機能や製品コンセプトとの一体性. 体化が可能となる.. が確保されていることに留意が必要である.技. 実際に,過去3年をみると同社の売上に占め. 術への執着が高収益体質と矛盾する,と一般に. る製品原価の比率は継続的に下がっている.こ. 考えられている中で,大きな方向性を指し示す. れは,さらなる研究開発投資を行いやすくする.. 事例と考える.. さらに2)により良質の情報を入手,成長性が 見込める分野への集中投資が行いやすくなる.. 参考 文 献. 現に,同社は中間財という,川下企業の影響を. 川崎隆志「日東電工のメディカル関連事業の展開」. 受けやすい業界にありながらROE15%という. 『日東電工技報』85号,2004年.. 高収益体質を確保し,研究開発投資と営業利益,. 工技報』84号,2003年、. という相反する項目q双方を継続的に伸ばして いる.. 村田秋桐「熱剥離シートfリバアルファ』」『日東電 Mansfield, E., M. Schwarts and S. Wagner,“Imitation. Costs and Patents:An Empirical Study.” 『’ie Econθmic Jtti’iiat, Vol.9‘No.364(Dec.1981). [おかだ えり』横浜国立大学大学院国際社会科学研究科教授〕. 〔2005年6月30日受理〕.
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