財務諸表分析による中小資本漁業の分化のタイプ :
茨城県那珂湊のカツオ・マグロ経営を素材にして
著者
堀口 健治
雑誌名
鹿児島大学水産学部紀要=Memoirs of Faculty of
Fisheries Kagoshima University
巻
19
ページ
135-160
別言語のタイトル
Classification of Different Patterns of Small
and Middle Scale Fishery Enterprises on
Financial Analysis : Taken from the Balance
Sheets of Fishery Enterprises (Bonito and
Tuna) in Nakaminato-shi of Ibaraki Prefecture
URL
http://hdl.handle.net/10232/13806
Mem、Fac・Fish.,KagoshimaUniv・ Vol、19,pp、135∼160(1970)
財務諸表分析による中小資本漁業の分化のタイプ
茨城県那珂湊のカツオ・マグロ経営を素材にして
堀 口 健 治 * ClassificationofDifferentPatternsofSmallandMiddleScaleFisheryEnterprisesonFinancialAnalysis・
TakenfromtheBalanceSheetsofFisheryEnterprises(bonitoandtuna)inNakaminato-shi
oflbarakiPrefecture KenjiHoRIGucHI Abstract Eventhoughlandingoffishvarieslikethepreviousyears,thefisheriesmanagement unitsofbonitoandtunafisheryinNakaminato−shiinlbarakiprefecturehavechancesfor bankruptcy・ Thishasbeenseeninalm6stallfisherymanagementunitsinJapan・ EvenasmalldecreaseinfishlandingorlittledepressionhaveinHuenceinsmalland mediumscaleenterprises・ Thisisduetooverinvestmentinfixedassets・ Sothatinthisarticlefinancialanalysisisusedwiththestatementoffundusageand theclassificationofdifferentpatternsoffisherymanagementunits・ Thebigenterprisesaregoingtofullbankruptcyevenwithoutmakingthemsmallin scale・Thisisbecausetheyareinvestingonfixedassetsandbuyingfishinglicences,with theonlyideaofincreasingtheirprofitwithoutpreparingenoughpersonalcapital・Also thistypeofthingsmaketheseenterprisesunabletorepaytheirloansandinterestandgo tobankruptcy. 1 . は じ め に本稿では茨城県那珂湊カツオ・マグロ経営を素材にして財務諸表分析による中小資本漁業経営の
分化のコースの類型化を行なった.茨城県那珂湊に素材を求めた理由は,那珂湊の経営に関する最近の,比較的よく整った(中小資
本経営にしては整っているという意味で)財務諸表が入手できたことに由る. 当初は各地の中小カツオ・マグロ経営の財務分析を行なうことによって,個別経営での資金繰り の中小資本的特徴,ならびに大臣許可の個別経営における役割をあきらかにすることにあったが, 時間の制約で果たしえなかった. そのため本稿では単なる財務分析による経営のタイプ°分けを行なったにすぎない.ただ中小資本 漁業の経営分析が概して損益計算,収益力の分析に多く限定されていたのに対し,資源が限定され 瀧鹿児島大学水産学部漁業経済学教室(LaboratoryofFisheryEconomics,FacultyofFisheries, KagoshimaUniversity) ■鹿児島大学水産学部紀要第19巻(1970)
漁獲力も平準化された今日の,とりわけ過剰設備投資等のバランスの問題が論議されている現在の
時点で,要求される財務分析の仕方に若干の新しい作業方法(資金運用表ならびに経営のパターン
分類)を提示したことが本稿の存在理由であろう. 2.那珂湊カツオ・マグロ経営の特徴 ここでは次項以下の経営分析を理解するに必要な,那珂湊カツオ・マグロ経営のアウト・ライン だけをおさえておきたい.那珂湊には従来からサンマ棒受・トンポナワ(いわゆるピンチョウの「サグリナワ」あるいは
「オーナワ」)・カツオ−本釣りの3職兼業型が存在していたが,35∼36年頃の遠洋マグロ専業船の
隆盛により,以来那珂湊では3職兼業船(以下兼業船と略)とマグロ専業船(以下専業船と略)が
併存するようになった.経営体としても兼業船経営のタイプ,兼業船・専業船の2種類経営のタイプ,専業船への完全転
化のタイプの3種に分化した.しかし最近のサンマの大不漁を直接の契機として一一内容的には代船建造を主とする資金調達と
資産構成とのバランスが崩れていて財務的には既に経営の悪化は進行していたのだが−兼業型タ
イプの単船経営・複船経営の経営縮少,倒産,さらには今までなかったような大型経営の完全倒産
(兼業船・専業船の多種・複船経営)をもひきおこすような事態があらわれてきた.
茨城県全体をぶても漁業の水揚げが120億円,漁業(加工業は含まず)への融資総額は80億円
(農林漁業金融公庫の直貸分は含まず)に達していて,水揚げの約7∼8%を金利の支払いにあて
ており,漁業はいわば金利支払いと返済金のために1年遅れに稼働している.このような借金主義
下の経済ではとりわけ財務分析を詳しく行なう必要があるだろう. 倒産経営はほとんどが資産とのバランスを完全に崩しながらも収益増加をめざして専業船への尼 大な鋼船建造費,許可購入費を支出し,一寸したキッカケで大きく倒産するというコースを歩んで いる.そこでは経営の縮少政策もとりえない位に財務が悪化していて,単に収益力如何では解決し きれない状態にまで立ち至っているといえよう. そのため本稿では財務分析の承を行ない収益力分析は割愛した.那珂湊の現在は200∼300トンのマグロ専業船と170∼190トンの3職兼業船が併存している状態
にある.3職兼業船は那珂湊の特有な漁業形態でありしかも近年は170∼190トンの鋼船を使用しての操業
は全国的にも珍らしい.3職兼業は8∼11月のサンマ棒受網,12月から1月ないし2月中旬迄のトンポナワ,それ以降の
カツオ−本釣りと漁携を続けてゆく.もともと100トン前後で操業していたがウ特にビンチョウを 追って沖合へ足を伸ばすために140∼150トンの木船,さらには170∼190トン鋼船へと発展したも のである.しかし150トン前後になると通常はカツオ専業,マグロ専業へと分化する傾向が一般的 であるが,当地ではとりわけサンマ棒受けを手離すことをしなかった所に特色がある.サンマ棒受 けは経費(特に資財費のうちで餌料がいらないなどの点でカツオ漁業よりも採算がよかった)が, 少ないので依然として3職兼業を続けたのである.従来はサンマで「釣り返す」という期待があ り,事実サンマ棒受けが主体であったが,近年はサンマ不漁のためカツオが漁獲高,稼働日数で主 体になっている.堀口:財務諸表分析による中小資本漁業の分化のタイプ 137 Note:Thissensusistakenonthe31thofDecember. Total 1 2 4 10 15 22 28 33 32 33 27 25 那珂湊にはこの3職兼業をこなすことが可能な労働力が存在していることも強味である.が,今 のようなサンマ不漁が続いた時,依然として3職兼業を続けるか(好漁を待機し最大収益を狙う か),あるいは南方カツオ専業なりマグロ専業へ転換するかどうかの岐路に立たされることになる だろう. 複数の資源を対象とする漁業は漁場がある程度限定され,漁場探牽の点でも消極的になってしま う.もっとも今迄の小さな船型なら3職のうちどれかが当たるなり,3職それぞれのいい所だけを つまみ食いすれば経営を再生産できたであろう.しかし今のような大型鋼船では,サンマ,カツオ, マグロの各々に物置を用意しなければならない位に,3職兼業それぞれ相応の漁具,設備を用意し 漁獲をあげて経営の再生産を維持するのは大変なことのように見える. 一方では35∼36年頃のマグロ遠洋化の波にのって陸続とマグロ専業船へ転換し(従来の3職兼業 に使用していたカツオ,マグロ漁業許可にトン数を補充して),あるいは許可を丸毎購入して3職兼 業船以外にマグロ専業を兼ねる複船経営が出現した.今の所遠洋マグロ漁業の漁獲量の大巾な落ち 込承といった事態はないが,釣獲率の低下,航海日数の増大等によって収益力上昇は鈍化してきて いる.そのため無理な規模拡大・複船多種経営化を図ってきて資金のやりくりに困っている経営体 が縮小ないし倒産に追いこまれてきた.3職兼業は多く単船経営でその浮沈はそれほど大きく目立 つものでもない(もともと倒廃率が高かった)が,複船経営(マグロ専業に早くから手を出すこと が可能であったのはもともと3職兼業船を複船所有していたものが多い)の倒産は社会的にも影響 が大である. マグロ専業船経営の場合はとりわけ財務内容のよしあしが決定的である. Table、1は茨城県のカツオ・マグロ漁業の許可隻数(近海カツオ.マグロは含まれていない 茨城県のカツオ・マグロはほとんど那珂湊に集中しているから本表で那珂湊の動向を承ることがで きよう)の推移をあらわしたものである. 那珂湊での現在の経営者数,実際の稼働隻数を把握するのはかなり困難である. 短期間に経営の縮小・倒産ならびに許可の移動,許可つきのマグロ船をチャーターに出すなどの Table1.Numberofboats(bonitoandtuna)byyearandtonage inlbarakiPrefecture. 1957 ,58 ,59 ’60 ,61 ,62 ,63 ,64 ’65 ,66 ,67 ,68 50∼99tonllOO∼1991200∼ 53 52 47 39 28 21 22 26 33 38 38 40
471154664174211112222211
812087659229776656788987
行為がしきりに行なわれている事情に由るものである. しかしさしあたり得られるものとしてはTable、1の許可船数があるので,これでトン数階層別 に隻数の動きを追ってふよう. 50∼99トン,100∼199トン層ともに32年から隻数減少しており,200トン以上層はそれと対照 的に増加している.これは29年頃から発生した(それ以前は100トンが主力)136∼149トンクラ スの3職兼業船(木船)と30年位から始まる99トン型3職兼業船(木)が減少し,200トン以上 層のマグロ専業船(鋼船)の切り換えといった傾向をあらわすものである. 50∼99トン型は36年位から早くも再び増勢に転じるが100∼199トン層は37年に底に達する. 200トン以上のマグロ専業船は37年以降も増加を続け39∼41年にピークに達するが,この時期は 県の隻数計でもピークの時期だった.とすると茨城県のカツオ・マグロ漁業においては3職兼業型 からマグロ専業型への切り換えだけでなくカツオ・マグロ漁業許可を県外から購入して更に隻数を ふやした時期があるということだ.38∼41年は兼業,専業船ともに増加するということでその時期 にあたる.この時期は遠洋カツオ・マグロ漁業許可の権利価格が1トン当り40∼45万円の高値を未 だ続けていた時期に当たる. しかし42年以降はマグロ専業が減少し,再び兼業船も増加しているが,この時期は50∼99トン 層も減少している.許可が多く流失していった時期になるだろう.42年以降は許可の権利価格は1 トン当たり25∼30万円前後を低迷する時期だ. 那珂湊はその拡大期にあたっては高く評価された許可を,倒産を迎えた時期は安い許可をもって いたことになる. 兼業船は29年位から始まる136∼149トン型(木)から39年頃に至って165∼190トン型(鋼船) の出現を承るような内部的変化がある.許可の価格の上昇だけでなく,代船建造費の高騰という事 態にも経営者は立ち向かわざるをえなかったのである. なお99トン型兼業船は30年位から木.鋼船ともに存在し現在でも若干残っている. 最も多く発生したのは35∼37年頃であるが,この時期に100∼199トン層と併行的に存在した理 由は定かではない.100∼199トン船から99トン船へと縮小する経営があったり複船経営に99トン 船を1隻含むような事例が多くあったのである.船のトン数の割には漁獲高がよかったということ かもしれない.あるいは特'例法等による許可拡大獲得のひとつの方便として考えられた策かもしれ ない. 3.財務諸表分析(主として資金運用表を使って) アウト・ラインをつかんだのち,ただちに得られたバランス・シートをもととする財務分析に入 いろう. 我々は分析資料として残念ながら倒産に至った経営の実態に関する資料をもちあわせていない. 近年の経営倒産,経営縮小は単に優秀な漁携長を迎えられず漁獲高が低下して経営の倒廃に追いこ まれるような性質のものではない.もちろん直接の契機としてはサンマの不漁やマグロ専業船なら 釣獲率の低下をあげることができるであろう.しかしそれでもなおかつ生残り規模拡大を続ける経 営と大きく倒産する経営に分化している.しかも4杯の大きな複船経営でありながら隻数縮小で 対処しきれず,4隻とも船,許可つきで全部売却してもなお借入金が払いきれないで倒産するとい う,以前では考えられもしない事態がおきている.
堀口:財務諸表分析による中小資本漁業の分化のタイプ 139 我々はこのような事態に至った経営の財務諸表,借入金の動きの資料をとりわけ利用したかった のだが資料収集ができなかった.ためにここでは主として既存の経営の財務分析を通してマグロ専 業船などをチャーターに出さざるを得なくなったような経営,規模を縮小した経営,安定した経営 等のタイプに分けて財務に関ずる諸数値を示し対比してふようとするものである. なお利用する諸数値は次に一括して載せることにする(Table2,3,4,5). なお今迄の那珂湊の倒産経営の多くを承るとそれはほとんど間違いなくマグロ専業船へ手を出し ての失敗が多い.それは遠洋マグロのピークの時に許可も丸毎買い船も建造してのちに遠洋マグ ロのブームの衰退期に向かった時期に大きく倒産している.初期の彪大な資金調達の際,自己資本 の手当もほとんどなく中金・公庫から借入し足りない分を商社なり問屋金融の高利の借入金に負っ ている経営が倒産した者に多い.2銭5厘ないし6厘の資金を借り,とれた魚の一部の値取りをさ れしかも3分の口銭まで取られて彪大な借入金の返済をできなかった者が多い.また遠洋マグロ船 の航海日数の延長のために90日の約手では間に合わず,ついには積荷手形まで出してバタバタいっ た例が多い.そこでは資産とのバランスが完全に崩れているのだ. その他にドンプリ勘定をしているために支出のダウンのための工夫が出来ずジリ貧に陥ってゆく 例もあるようだ. ここでは資金繰り表などの細かい検討は資料が不備で出来ない.資金運用表その他の資料(主に バランス・シート即わち貸借対照表を使って)をみて経営のタイプ別に特徴点をぬき出してゆきた い. (i)危ない経営体 危ない経営体としてはh,iをあげる.h経営は専業船・兼業船各々1杯ずつをもっていたがマ グロ専業船を44年以降チャーターに出したようである.i経営は従来専,兼業船各々1隻ずつ大経 営と同様にもっていたが43年始めにマグロ専業船を兼業船に切り換え,現在兼業船の2隻経営にな っている. なお以下述べるものを先ぎ取りして述べておくと,縮小した経営,ないし不安定な経営体として
gとc,安定した経営体として兼業船単船経営はaとb,安定した複船経営はd,e,f,jをあげ
る. まずi経営.この経営は40年の末に92トン船(鋼)を作り,さらにひき続いてマグロ専業船を 被代船に43年始めに195トン(鋼)の兼業を代船建造しているがこれらの建造が財務構成を悪化さ せ て い る . まず資金運用表について(Table2).始めに40∼41年の代船建造の前年の39∼40年の資金の動 きをゑて承よう.92トン船とはいえ代船建造をするための事前の準備一今迄の借入金の返済,流 動資産の用意一が必要だからである.39∼40年の実数が異なっているから細かい検討は行なえな いが一応資産合計,負債,資本合計はほぼ横パイと考えてよいだろう.そのことはいいのだが内容を 承ると償却費で流動負債(短期借入と支払手形等流動負債の両方)と赤字を埋めるので一杯で,し かも建造の前年にあたりながら流動資産を大きくとり崩していることだ.その用途は実数計が異な るのではっきりしないが少なくとも一部は有形固定資産に回っている.しかし代船建造の40∼41年 はまだそれ程の矛盾は表面化していない40∼41年にかけて28千万円(使途の欄の実数)ないし 7千万円(源泉の欄の実数)の純増分を用意して代船建造を迎えたわけだ.その主なるものは償却 費が42%,流動負債が56%でそれをあげて有形固定資産に充てている(95%).建造費の半分を償鹿児島大学水産学部紀要第19巻(1970)
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18,673113,96611a034125,944169,3601△21,588137,62011,223173,72111M05155,975
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鹿児島大学水産学部紀要第19巻(1970) 39年始めに7822万円かけて193トンのマグロ専業船を作り複船経営にした.そして44年に314ト ンを作り直後に193トン船を繋船している.その点についての事情を財務諸表を利用してふてみよ う.資金運用表によれば39年始めの建造から44年の314トンの代船建造までの間,毎年1200∼
1300万の資産の純増をふている.ほぼ一貫して流動資産を増加し続けさせ(Table3の年度比較に
よれば39年時の2倍の流動資産を43年時に有している)次期の代船建造に備えている.39∼40年
にかけては償却費で固定負債を返し(1400万),残り(1千万)を流動資産へ,40∼41年は償却費 で固定負債をまかない2千万円近い純利益を有形固定資産の増加(40∼41年にかけて有形固定資産 が物としてふえているわけではない.41年に過大償却を行なったことによる資金増であるらしい) にあてている.それは流動資産の珍しい取り崩しをも必要とする位だったのである.多分40年∼41 年にかけて借入金を払うための一定の経営操作をやった結果のように思われる. 41∼42年は又前と同様に償却費で固定負債を返し残りを有形固定資産と流動資産に,42∼43年は 償却費では固定負債が返せず支払手形等の流動負債に頼っている.Table4の構成比率で承ると固定負債が39年の78%から43年33%へ,流動負債が43年26%
へと増加している.固定負債は78%に達していたが,逐年固定負債を減じ,43年には流動資産を 41%と他の経営体になかなか例を承ない程度にあげているとはいえ固定負債の比78%は高いもの である. これは主に193トン型の建造によるものでしかも42,43年の固定負債はすべて193トンのもので あって33年に建造した354トン型はすでに返済し終わっている.42∼43年での354トン型の役割 は193トン型の借入金返済のために働らいているようなものだ.ただこの経営は他の経営体に全く ない資本合計40%(42∼43年,他の経営ではbの承)とその資本金の高さを誇っている. だから193トン型は建造の翌年(39年)は償却費の収入に占める比が50%で支出が異常に高く 毎年赤字を出しており,その赤字分を354トン型でカバーしていたという事態があっても財務内容 を悪化させなかったのである.なお50%もの高い比率を示したのはなにもその年に特別償却をした からそうなったのではない.船当期償却費を船の取得原価で除した数値を求めて承るとx経営は40 年2月に建造した178トン船は40年時21.9%,y経営41年1月に建造した179トン船が41年時 21.1%,この9経営の193トン船は建造の直後の39年時に22.6%となっているからである.要す るに償却費に比して水揚高がないということだ.だから金利負担率もg経営体全体ならば5%以下 で優良な経営なのだが193トン船についてだけ取り出すと10∼22%にも及ぶ. このようにして193トン船は船型規模から比してマグロ専業船には向かず,むしろ優良な354トン 型の足をひっぱっていたということで繋船にし許可は賃貸(年間480万円)に出したというわけだ. 不良な型を切り落とし財務構成のより健全化をすすめたのち許可を補充して240トン型を目指す ものと思われる.その意味ではg経営は不安定になりそうになったが不適船船型を切ることによっ て安定化した経営として挙げるべきであったろう. 次にc経営.これは178トン(41年進水)と97トン(母船式サケ・マス独航船)の複船経営で ある.資金運用表を承ると41年始めに進水した178トン船7681万の建造費にあたる純資金増7千 万弱が39∼40年にかけてある.その内訳は1/4が償却費,1/2が固定負債の増加,残りの1/4が 支払手形等の流動負債の増によっている.翌年の40∼41年にかけては償却費32百万の1/3を固定 負債,2/3を支払手形等の流動負債の返済にあてている.そのためさしひきわずか計200万の純増 で し か な い堀口:財務諸表分析による中小資本漁業の分化のタイプ 149
41∼42年にかけては償却費26百万でその大部分を支払手形等の流動負債にあてている.
このように建造年に建造費という固定投資の半分を流動負債に頼ったため償却費の大部分をその
返済にあてざるをえなくなっている.Table4の構成比率をふても建造年の前年は流動負債79%
(漸次低下していくがそれでも43年時51%)と極めて高く,対応する流動資産はわずか22%でし
かないという状態である.固定負債の比率は漸次増加している(建造時以降)点も問題だがそれでも40%台だ.
この経営は流動負債に頼ったために(頼らざるをえなかったのだろうが)それ以降の資金繰りが
極めて苦しく財務構成が悪化している.しかも更に状態を悪くしているのは42∼43年にかけて11
百万強の固定負債の増加(内容は1375万の権利を購入したこと)による一層の財務内容の悪化であ
る.その資金繰りのために返済にあてるはずの償却費,更には利益金,固定負債の増加もし,流動
資産を半分も取り崩している.その結果流動比率(Table5)は25∼30%台の極めて低位な状態に
ある.そのためサケ・マス独航船のような資財費が収入に占める比率が15%前後,労務費が28%前後と低くその結果収益性の非常に高い漁種(1人1日当たり水揚額が2千∼3千円にもなる)を
併有しているにもかかわらず経営総体としての財務内容はより悪化の道をたどっているといえよ う . (iii)安定した単船(兼業船)経営まずb経営.この経営の強味はTable4の構成比率でわかるように資本合計,とりわけ資本金
の圧倒的高さ(41∼43年は40∼50%)である.資本金の大きさは利益金項目の通年の赤字なら充
分にカバーできるだけのものである. 固定負債も建造年時の39年(165トン,7119万)の62%から漸次低下しその結果負債合計もその比率が低下してきている.もともと高かった自己資本比率が更に高まったことになったわけだ.
Table3の年度比較(推移)を承ると資産計,負債,資本計は建造年から低下してゆき,その主た るものが固定負債(39年を100として43年19)であり,流動負債は指数としては極めて高くなっ ている(43年926).がそれをおさえて負債計を39年77と低下させているのだ.そして一方では資 本合計の39年時のそれはずっと保合である. そのため固定比率も135∼297位で自己資本で固定資産の3/4位をまかなっており,他経営には 見られない安定さを示す.負債比率も42年時は110とほぼ負債合計字資本合計の安定した状態を 示す.金利負担率も6%以下であり41年時は3.4%にまで至っている. 流動負債に対しては自己資本が充分に見合い,固定負債については有形固定資産が充分に対応す る.漁具・船具を含めて漁船を主とする有形固定資産の償却残は43年時45百万円だが実際に売れ るのは3千万円位(許可を入れずに),これで固定負債残11百万円充分カバーできる. 資金運用表でこの間の資金の使途,源泉をみると,39∼40年は資本金が大きく減少した(理由は 不明)ため783万の償却費(この経営は定額償却法を採用しているらしい)では足りず固定負債増 加と利益金処分によって穴埋めしている.40∼41年は固定負債の返済のために,そして同時に資本 金を増加させるために償却費と支払手形等の流動負債増加を行なっている.それに見合って流動資 産が増加しているが41∼42年には大巾な赤字,固定負債と支払手形等の流動負債返済のために 2121万位の短期借入金を増加させている.42∼43年時も償却費は固定負債の返済で一杯で530万 近い利益金減少を流動負債の増加によっている.このように資金運用表を承ると資金繰りそのもの はかなりメマグノししく行なわれていて不安な面を感じさせるが,それが経営の財務構成に響いてこないのは着実な固定負債返済,一貫した資本金,準備金,積立金の増加による自己資本比率の上昇 によるためである.単船経営であっても赤字になった時は自己資本で対処し償却費で着実に固定負 債を返し,44年時には長期固定負債は残り800万となってあと2回(1年)で返してしまうとい う.船が建造して6年目のまだ償却未了中に債務が終わるわけだ. このような資産のバランスのとれた経営になるためにはひとつの契機があった.37年8月の「遠 洋カツオ.マグロ漁業の許可等に関する取扱方針」によって,29年より136トン(本船)船を使っ ていたこの経営は木船を8年使った実績で240トンの許可を無補充でとれ,この許可をうまく売却 して今迄の借金返済と定期預金にあてている. 37年に一応240トンの古船を購入し240トンの許可を受けてから60トンを1500万円で売却し, 借金にあてた後の残金1200万を定期へ入れてそれ以降現金取引に転じたという,しかも現在は180 トン建造出来るが165トン船を作ってその差20トンを有している. 次 に a 経 営 Table4で構成比率を承るとb経営と同じく41∼42年に33%の資本合計をもっている.ただ43 年には17%もの赤字が出たので資本金は増加したにもかかわらず資本合計は20%を割っている. その分だけ短期借入を主とする流動負債の増加をぷている. 償却は5年の定額によっているがTable3の年度比較をゑてもわかるように有形固定資産合計 の低下によって資産の合計も動いているからTable4の構成比では有形固定資産の占める比率は 保合であり,また流動資産も同様である.ただ流動負債が固定負債の減少にかわって伸びているか らTable5経営各指標の流動比率は43年時37%と流動資産が流動負債の約1/3である状態にな っている. 資金運用表を承ると41∼42年は資本金を増加させたが償却費だけでは大巾な赤字(約1千万)と 固定負債返済(約400万)をまかないきれず短期借入を行なっている.42∼43年にかけてはやはり 同様の傾向があり,しかも赤字が更に拡大されたため短期借入だけでは間に合わず流動資産を崩す ことによって切り抜けている.ただこの経営はあと船を5年使う予定(既に3年使用)であり固定 負債も着実に返しているから赤字巾をへらす努力をすれば経営としては再生産してゆくであろう. ただ問題は,バランス・シートの上にあらわれていないがこれから兼業船の2杯経営を目指して 43年に1200万の許可を購入していることだ.そのため借入金15百万(1千万の借入金と600万の 月払い)が増加している.今の所,建造の際の借入金返済が進んでいるペースに合わせて徐々に規 模拡大の途を歩むこと自体は正しいであろう.但し新船建造→2杯船主の時期については財務につ いての悪化をもたらさないような自己資本比率を少なくとも低めない条件で考慮する必要があるで あろう. (iv)安定した複船経営 まずマグロ専業船2杯経営のf経営体について.この経営は28年位迄は100トンの兼業船3杯 経営を29年130トン兼業船と31年354トンのマグロ専業船の2隻経営にし,このマグロ専業船が あたったので36年には130トンの兼業船を800万で売却,50トンの権利補充(2千万円)して専業 船をもう1隻289トン(9610万の建造費)作った.38年には31年の354トンを3千万で売却(6 年間使用)369トンを12798万で建造,に続いて43年には289トンを3500万で売却(7年間使用), 315トン船を16千万で建造した.38年と43年の建造時はほぼ1/4の建造資金を6∼7年の使用古 船を売却することによって得ている.また経営体にとって資金繰りの大変な建造が所有の2隻をズ
堀口:財務諸表分析による中小資本漁業の分化のタイプ 151 うすことによって4∼5年毎に1回ずつの代船建造になるよう仕組んでいる. 安定したマグロ専業船の2杯経営を定着化させたこの経営の財務内容をみてみよう. Table3の指数の動きを承ると43年の建造までに固定負債。短期借入金の返済,減少支払手形
等の流動負債も増加しているがそれを上廻っての流動資産の増加が承られる.しかも資本合計がマ
イナスからプラスに転じ増加している.これは資本金の増減によるものでなく準備金,積立金がそう変化しているものでもなく,利益金の増加によるものである.利益金が赤字から黒字へ転化,上
昇したことによって資本合計がふえたのだ(Table4の構成比で承ると42年時資本合計は9%).
利益金の発生・増加は漁獲高の上昇によるものではなく償却費の年次的低下によって発生したもの である.償却費の収入に占める割合をみて承ると39年(38年369トン船が出来ている)は25%, 40年19%,41年12%,42年9%となっている.資財費,労務費の収入に占める割合はほとんど 変化していない. だから39,40年の赤字も見かけ上のものでもある.ともあれ建造に向かって借入金の返済,流動 資産の増加,自己資本の増大化の行動をこの経営は着実に準備したのである. 構成比率をTable4によって承れば39年時は固定資産70%,流動資産はわずか12%であった が建造の前年の42年には流動資産が50%をこえている. 資金運用表をみると建造した翌年の39∼40年は償却費で固定負債返済をしたが赤字(償却費が定 率償却のため大きい故に計算上利益が出てこない)1400万位と850万の支払手形等流動負債返済 額のためにこの時期は投資,繰延資産を減少させている.40∼41年,41∼42年にかけては利益も 出,償却費もあって流動資産を大きく増加させ43年の建造に備えている. 41∼42年時は4800万の流動資産を作っている.42∼43年の建造時は13千万円の資金を調達し てこれをすべて建造費にあてている.このような安定した複船経営でさえも建造年にあっては固定 負債の返済の負担などを早くから軽減しておき借入金(固定と短期)を大きく調達しなければなら ぬ.そのための資金調達の信用力を流動資産を大きく備えておくことによってつけるというわけ だ.そのように準備万端しておいた上で調達した資金をすべて代船建造にあてているのである.安 定した複船経営にとっても代船建造の時期は資金繰りの点から’慎重に準備されなければならぬ. Table5の経営各指標を承ると固定比率は自己資本の充実とともに数値が低下し42年度は自己 資本の約3.5倍が固定資産だという状態になっている. 自己資本の充実という点ではもっとも優良なのはa,b経営だ.jも兼業船4杯経営で188と低 く自己資本の充実率が高いが,もともと漁獲が資源の変動性を受けて不安定だという兼業船の事情 で自己資本比率を高めておくのは当然であろう.収益が安定しているマグロ専業船よりひときわ要 求されるのである.マグロ専業船は漁場を拡大する性格が強いから漁獲高も一定で収益力は強い. そこでは有形固定資産が早く償却される(定率法を採用しているために)ので固定比率は代船建 造の時に向かって大きく低下してゆくのが通例である(例えばf経営が代表的). なお流動比率について触れておけばe経営の41年度105(ほぼ流動資産幸流動負債)で概して安 定したマグロ専業船の方が安定した兼業船のそれより高い.兼業船bの43年71,aの37∼63の状 態だ.もっともb経営の39,40年の552,1073,のように途方もなく流動資産が大きい例はおくと しても安定した4杯兼業船経営jも122でマグロ専業船と同様だ.兼業船はマグロ専業船のように 航海日数が長くないからそれほどの流動資産を用意しておかなくてもよいということなのだろう. しかし不安定な経営体にいくとマグロ専業船をもつ複船経営でもi経営30∼15,cは34∼5,hIま85∼56と低いのが特徴的だ. 減価償却率をみるとf経営のそれは45∼41%,他の安定したマグロ専業船をもつ複船経営はほぼ 40%をこえているようだ.兼業船単船経営のそれはせいぜい30%以下で償却の仕方は遅い,もっ とも4杯兼業船経営のjは64∼43%で高いが,このようにマグロ専業船ないし複船経営は償却が早 く(早くしても純益が出るないしは少しの赤字ですむということを逆に意味しているが)そのため 負債の返済も早く古船の売却価格も高く,代船建造を経営の有利な時期に意識的計画的に設定でき るというメリットをもつ. 負債比率についてはf経営は自己資本の増減に応じて変化しているが,自己資本比率が更に高い より安定した複船経営としてd,e経営を検討して承よう. まず始めにd経営.Table6はd経営の隻数変化をあらわしたものである.35年から兼業と平 行してマグロ専業船を始めた.その後も更に1隻増加させ現在は5杯の専業船・兼業船の複船経営 となっている.いずれも権利・船ともに購入しており35年の時は船が9600万,許可がトン35万だ ったから約1億,計2億円近くの資金調達を行なった.ただ,マグロ専業船に乗り出していった当 時の資料は入手することが出来なかったので,主として現在の状況からゑて判断するしかない 2 8 年 7 月 -141トン(W) Table6.Historyof「D」enterprise. 31年5月− 173トン(W) 4 0 年 2 月 -178トン(S) 7,112万円 41年10月− 193トン(S) 8,794万 36年7月−−39年8月一?37年8月− 99トン(S)99トン(W)161トン(W) 4,522万4,500万 → 現 在 − シ − シ 3 5 年 6 月 − 339トン(S) 9,660万 4 4 年 2 月 → 314トン(S) 1,555万 3 7 年 3 月 -289トン(S) 9,654万 43年9月− 315トン(S) 1,545万 − > Table4の構成比率で承るとこの経営の特徴は自己資本比率が高くしかも安定している(18%を