「子 ど も を め ぐる現 状 と課 題 」
石 川 洋 子
i.現 代 の子 ど もの 状 況 今 日本 で は、子 ど もに関 わ る さ ま ざま な問 題 が 多発 して い る。子 ど もを め ぐっての大 きな事 件 が マ ス コ ミを に ぎわせ た り、 幼児 ・児 童虐 待 の増 加 、 学級 崩 壊 等 、親 の子 育 て に対 す る疑 問 も大 き くな って い る。 一 方、 発達 心 理 学 の研 究 分 野 で は 、近 年 、特 に認 知 に関 す る発 展 が め ざま しい。乳 児 期 初期 の五 感 覚 や 認 知 の 発 達 、 学 習 に関 す る もの 等 、 実 験 的手 法 を用 い て の成 果 が数 多 い。乳 児 期 の ご く小 さい時 か ら子 ど もは、 周 囲 を認識 し、 学 習 し、 周 囲 の人 と コ ミュニ ケー シ ョ ンを取 ろ う と して い る存 在 で あ る こ とが わ か って きた。 最 近 、 笑 わ な い赤 ち ゃん や抱 っ こを好 まな い赤 ち ゃん の問 題 が取 り上 げ られ る こ とが あ るが 、 周 囲 の人 との 接 触不 足 や コ ミュニ ケー シ ョ ン不足 か ら くる もの と思 われ る。最 新 の発 達 心 理 学 の 知 見 か らは、 乳児 の持 つ さま ざまな能 力 を引 き 出す よ うな、 相 互作 用 的や り取 りの重要 性 が 指 摘 され て い る。 一 方 、 目を世界へ転 じると、いまだに飢 えや 感 染 症 に苦 しみ、 満 足 に教 育 も受 け られ な い子 ど もた ちがい る。 ユ ニ セ フの 「1999年 世 界子 供 白書 」に よ る と、世 界 の人 口の6分 の1に 当た る 推 定8億5500万 人 が非 識 字 の状 態 に あ り、また 開発 途 上 国 で は、1億3000万 人以 上 の子 どもが 基 礎教 育 を受 け られ ず 、そ の3分 の2が 女 の子 で あ る とい う。1997年 、オ ス ロで開 か れた児 童 労 働 国 際 会 議 で は、 開 発途 上 国 にお い て推 定2億 5000万 人 の子 ど もが労 働 を強 い られ て お り、そ の多 くが 学校 教 育 を受 けて いな い こ とが 報告 さ れ て い る。 1990年 に タイ の ジ ェ ム テ ィエ ンで 開 か れ た 「万人 のた め の教育 世 界 会議 」で 、質 の 高 い基礎 教 育 を世 界 全 体 で 実施 す る こ とを 決 め た。 そ し て この会議 で、 教 育 が貧 困 を克 服 し、死 亡 率 を 下 げ 、 また人 口増 加 を 抑制 し、 女 性 の人 権 を 守 り、環 境 保護 につ なが る とい う コ ンセ サ ス を得 た と言 われ る。 や は り1990年 に発 効 、国 際法 と な った 「子 ど もの権 利 条 約 」 に お いて も、子 ど もに と って最善 の利 益 とな る こと をす べ き こと や教 育 を受 け る権 利 等 が大 き く謳 わ れ て い る。 子 ど もへ の基 礎教 育 や幼 児 教育 の重 要 性 が 、世 界 レベ ル で よ うや く共 通 認 識 され る よ う にな っ て きた 。 子 ど もを め ぐる世界 の状 況 を 見 る と、発達 心 理 学 の研 究 の 目覚 ま しい進 歩 を も とに 、 よ り よ い子 育 て と教 育 を 目指 す こ とと同 時 に 、人 権 の 保護 や基 礎教 育 の レベ ル を ど う引 き上 げ るか と い う こと とが併 存 して い る現 状 と言 え よ う。 しか しま た、同 じユ ニ セ フ の 厂世 界子 供 白書 」 で 日本 の こ とが取 り上 げ られ て い るが 、 そ こで は、「日本 の子 ど もは幼稚 園 の 時か ら、よ りよ い 社 会 的地 位 を求 め て の果 て しの な い競 争 の 中 で 成 長 す る」 と指 摘 され て い る。 日本 で は、 幼稚 園 か保 育 所 等 何 らか の幼 児 教 育 を受 けて い る5 歳児 が9割 を越 え て お り、就 園率 で み る限 り、日 本 の教 育 は トップ レベ ル とな って い る。 ユ ニ セ フの指 摘 が 日本 の 幼 児 の 全体 像 を 表 す もの と は 言 い が た いで あ ろ うが 、 これ は、 教育 の先 進 国 であ る我 々 に、教 育 と は何 か 、子 ど もを育 て る とは何 か 、子 ど もに と って最 善 の利 益 とは何 か を再 考 す る こ とを 求 め て い よ う。 我 々 はそ れ に 答 えな け れ ば な らな い。 一4一2.少 子社 会 と子 ど も 「世 界 人 口 白書 」 に よ る と、1999年 の 世界 人 口は60億 人 に達 して お り、毎 年7800万 人 ずつ 増加 して い る とい う。1969年 以来 、ア ジア、ア フ リカ、 ラ テ ンア メ リカの諸 国 で ヘ ル スケ ア や 教 育 が 向上 し、子 ど もの数 は少 な い方 が い い と 考 え られ る よ うに な り、人 口増 加 の速 度 は抑 え られ て は い るが 、最 貧 国 の 国 々、特 に サハ ラ以 南 のア フ リカ と南 ア ジ ア、西 ア ジ アの一 部 で は 依 然 高 い 出生 率 で あ り、人 口増 加 の速 度 も最 も 速 い。 一方 同時 に、世 界61の 国 で は低 い 出生率 で あ り、 長期 的 に は人 口減 少 に転 じる こ と もあ り得 る ため 、 出生 率 を上 げ る政策 の見 直 しが必 要 と さ れて い る。 日本 で も少 子 化 が予 想以 上 に進 ん で い る。1997年 の合計 特 殊 出生 率 は、1.39と 低 い 値 の ま ま 推 移 して い る。 こ の少 子 化 の現 象 は、 高齢 化 社 会 の到 来 とセ ッ トに され 、社 会経 済 的な観 点 か ら論 じ られ る こ とが多 い が 、子 ど もた ち 自身 へ の影響 が大 きい こと は忘 れ られ が ち で あ る。 日本 の子 ど もの 問題 を、 少子 化 に焦 点 を当 て て考 え て み た い。 親 が 子 ど もを 暖 か く育 て た り、教 育機 関 で教 育 す る こ とは重要 では あ るが、 これ だ け が 大 き な割 合 を 占 め る わ け で は な い。 子 ど もは 周 囲 の人 々 と の関 わ りや模 倣 の 中 で、 見 よ う見 まね で学 び 、考 え 、 育 って い く。子 ど もに と って の最 大 の模 倣 の対 象 は 、子 ど もで あ る。 少 子 化 で 周囲 に子 ど もが 少 な い とい うこ と は 、 モ デル が少 な い とい う こ とで あ り、行 動 の し方 を学 ん だ り、 さま ざま な タイ プ の人 間 を知 るこ と も少 な くな る とい う こ とで あ る。 外 で遊 ばな くな って い る こ とや 、近 隣 との人 間 関係 の希 薄化 もこれ に拍 車 を か け て い る。 ま た 、友 人 と関 わ る こ との楽 しさを知 った り、子 ど もの世 界 を共 有 で き る機 会 も減 るの で、人 間 関係 の わず らわ しさだ けを感 じるよ うにな って しま い、 人 間 そ の もの に対 す る信頼 感 も得 に く 一5一 くな るで あ ろ う。 ま た、 子 ど もだけ で 自 由 に遊 ぶ こ とで 、エ ネ ル ギ ー発 散 を は か った り、 ス トレス発 散 がで き る こ と も重要 で あ る。 自分 の 周 囲 に 、 自分 と同 じよ うな 、或 い は 自分 と全 く異 な った行 動 や 意 志 表 示 を す る子 ど もが い る こ と を 知 る こ と等 も、 子 ど も に と って は大 切 な教 育環 境 で あ る。 子 ど もに と って の教 育 とは、 子 ど もに与 え る こ と と同時 に、 子 ど もの 周囲 にい る もの 、 あ る も の す べ て を含 ま な けれ ば な らな いで あ ろ う。 子 ど もが 関 わ る大 きな事 件 に驚 か され る こ と が多 い が、 事 件 を 引 き起 こす 個 人 的 な背 景 と 同 時 に 、 この よ うな少 子 社会 の持 つ さま ざま な デ メ リッ トの 中で 、親 が子 ど もを育 て 、子 ど もた ちが 育 って い る とい う社会 的バ ック グ ラ ウ ン ド を も っ と知 るべ き で あ ろ う。 現 代 の 子 ど もに関 わ る問題 に は、 この少 子化 と人 間 関 係 の希 薄 化 が 、 大 き な背 景 を な して い る と思 わ れ る の で あ る。 3.少 子 化 に対 す る施 策 少 子化 の要 因 と して は従来 か ら、 晩婚 化 に よ る出産 年 齢 の上 昇 、経 済 的要 因 、住 環 境 の問 題 、 共 働 きの増 加 等 が指 摘 され て い る。 また子 ど も を持 つ こ とに対 す る意 識 の変 化 や負 担感 等 もあ ろ う。 しか し、夫 婦 の理 想 子 ど も数 は2.53人 で あ り、20年 間 ほ とん ど変 化 して い な い点 を考 え る と、子 ど もを生 め な いで い る状 況 が改 善 さ れ れ ば、少子 化 傾 向が と どま るこ とが予 想 され る。 少 子 化 の歯 止 め 策 は 、 さ ま ざま に考 え られ て い る。1997年 の人 口問題審 議 会 で少 子化 に関す る報 告書 が取 りま とめ られ た が、そ の中 で 、「少 子 化 の要 因 へ の政 策 的対 応 は、労 働 、 福 祉 、保 健 、 医 療 、社 会 保 険 、教 育 、住 宅 、 税 制 そ の他 多 岐 にわ た るが、 中核 とな るの は、 固定 的 な男 女 の役 割 分業 や雇 用 慣行 の是 正 と、 育 児 と仕 事 の両 立 に 向 けた 子育 て 支援 で あ る。」 と して い る。 これ らの要 因 や 是正 策 は従来 か ら指 摘 され
て い る こ とで は あ るが 、 社 会 的施 策 と 同様 に 、 男女 の役 割 分 業等 に対 す る意 識 の変 革 もな か な か進 ん で い な い。 1994年 か らは10年 間 を め どに 、 エ ンゼル プ ラ ン と呼 ば れ る子 育 て支 援 の施 策 が 実施 され 、 子 育 て と仕事 の両 立支 援 、家庭 での子 育 て支 援 、 子 育 て の た め の住 宅 や生 活 環 境 の整 備 、 ゆ と り あ る教育 の実 現 と子 ど もの健 全 育成 、子 育 て 費 用 の軽 減 が 目指 され た。1999年 度 か ら2004年 度 まで を 、新 た に 「新 エ ンゼ ル プ ラ ン」 と して、 少 子 化 対 策 が 策定 さ れて い る。 労 働 省 は 、1994年 か ら始 め られ た地 域住 民 参 加型 の事 業 で あ る、仕 事 と育 児 両 立 支援 事 業 の フ ァ ミリー ・サ ポ ー トセ ンター を広 げ よ うと し て い る。 また1997年 には、児 童福 祉法 の一部 を 改 正 す る法 律 が施 行 され、 保 護者 が保 育所 を選 択 で き る等 の保 育 制 度 の見 直 しが な され た。 児 童 手 当 等 も改 善 され よ う と して い る。 さ ま ざま な面 か ら少子 化 対 策 が は か られ て は い るが 、早 急 に効 果 を あ げ る の はむ ず か しい よ うで あ る。 少 子 化 に対 す る歯 止 め 策 と同時 に、親 へ の サ ポ ー トも重 要 とな っ てい る。少 子 化 で親 自身 に も、親 と して の モ デ ルが 少 な い時 代 とな って い る。親 自身 が 少 な い き ょうだ い の 中で育 ち、 子 ど もを知 らな いま ま親 にな り、近 隣 に子 育 ての 経 験者 も少 な い中 で 、育 児 雑誌 等 の マニ ュアル に頼 りな が ら、 子育 て に孤 軍 奮 闘 しな けれ ば な らな くな って い る。 この ため 、子 育 ての援 助 に 向 け た子 育 て支 援 セ ンタ ー の設 置 や地 域 の子 育 て ネ ッ トワー ク作 りへ の援 助 等 も、徐 々 にな さ れ る よ う にな って きて い る。 4.こ れ か ら の 子 育 て 今 後 共 少 子 社会 が続 き、 周 囲 に子 ど もが少 な く、 また子 育 て の経 験 者 が 少 な い教 育環 境 の 中 で 子 育 て をせ ざ るを得 ない の で あれ ば 、乳 児 期 の初 期 か ら、子 ど も同士 、 或 い は親 同士 が関 わ りを持 て る環 境 を意 図 して 作 って いか な かれ ば な らな い。 若 い親 た ちへ の批 判 の言 葉 は、 いつ の 時代 に も聞 かれ る もの で あ るが 、 もは や子 育 て は 、親 が 個人 単 位 で して い くもの で は な くな って い る の で は な いだ ろ うか。 子育 て を して い る母親 た ち に、 うつ病 等精 神 的 トラブ ル を持 つ 人 が増 え て い る こと は、 この こ とへ の警 鐘 で あ ろ う。現 代 の子 育 て は、 開 かれ た社 会 の 中 で、 援 助 で き る人 が そ れ ぞれ の場 所 で 援助 しあ う時代 とな っ て い る。子 育 て を共 有 で き る機 関 や人 、 集 い あ え る場所 等 の整 備 が早 急 に求 め られ て い る。 また 、最 新 の発達 心 理 学 の 知見 を子 育 て に フ ィ ー ドバ ッ ク して い くた め の 人 材 も必 要 で あ る。 幼 児教 育 に携 わ る人 材 の 重 要 性 もさ る こ と な が ら、 乳児 期 初 期 か らの子 ど も との 関 わ り方 を伝 え、 また親 の精 神面 で のケ ア もで き る人 材 の確 保 とそ の場 が必 要 で あ る と思 わ れ る。 そ して 、 とに か く今 、子 ど もに と って最 善 の こ とは何 か を常 に振 り返 り、 試 行 錯 誤 して い く 努 力 が必 要 で あ ろ う。 子育 て や教 育 は、結 果 が す ぐに は見 え な い世 界 で あ る。 ま た親 や そ の周 囲 の人 々、 つ ま り人 間 その もの も、 理 屈 通 りに は いか な い存 在 で もあ る。結 果 をす ぐに求 め よ う とせ ず 時間 を か け て待 った り、 理 屈 通 りに い か な い相 手 をお 互 い に許 し合 った り、補 い合 っ た りす る こ とが 望 ま れ る。 今 の子 育 て の状 況 を 見 て い る と、我 々 自身 が、 何 とか互 い に もう少 し許 容 的 になれ な い もの か と思 う。 〈 引 用 文 献> 1.rl999年 世 界 子 供 白書 」 一教 育 一 ユ ニ セ フ 2.「1999年 世 界 人 口 白書 」UNFPA国 連 人 口 基 金 3.厂平 成10年 版 厚 生 白 書 」 厚 生 省 4.「平 成11年 版 厚 生 白 書 」 厚 生 省