漱石とニーチェ - 『行人』における「所有」の問題を手掛かりに
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(2) 紙 上 に 連 載 さ れ る に 至 る 。 一旦 の連 載 中 止 か ら 再 開 ま で に五 ヶ. いわ ゆ る婚 姻 を 結 ぶと いう こと 。 そ れ が 悪 し き 結 び と な ら ぬ よ. せ る と 思 わ せ る ほど で あ る。 す な わ ち こ う あ る。 ﹁き み た ち の. と こ ろ で、 結 婚 を 曲 げ. た り 、 結 婚 を 偽 装 し た り す るよ り か 、 ま だ し も 結 婚 を 破 壊 す る. 結 婚 の破 壊 が 1. ほうがま しだ11. で、 結 果 す る のだ1. う に、 用 心 せ よ 1 き み た ち は あ ま り に も 急 い で 結 ん だ 。 そ こ. 月 の新 た な 思 索 の時 を 挟 む 。 そ の ﹁塵 労 ﹂ 章 の な か で、 H は 一郎 と の対 話 の 模 様 を 二 郎. あ る い は ﹁自 分 が 絶 対 だ ﹂ と いう 一郎 の主 張 で あ った 。 そ し. わ た し は 結 婚 を 破 壊 し ま し た が 、 し か し 最 初 に結 婚 が わ た し を. に 対 し て回 想 す る 。 そ の核 心 を な す のは 、 ﹁神 は 自 己 であ る ﹂. て H は 二 郎 に こ う 告 げ る の で あ る。 一郎 は 、 か か る 主 張 を お. 日 づ紹 ヨ葺 〇 三 (孤 独 な る も のよ 、 汝 は わ が 住 ま いな り )﹂ 仙 、. 人 へ掛 け 渡 す 橋 は な い)﹂ と ﹁国ぼ墨8 葵 ①搾 αロ8 ① 言Φ自¢一 ヨ鉾. 箴 言 、 ﹁国Φ言①切﹁二〇胃①冨け鳥 く8 竃 ⑦霧 ∩﹃ N二 竃Φロω oず ( 人 から. が 前 景 化 す る 、 前 述 し た ﹁塵 労 ﹂ 章 に これ ま た 突 然 閃 光 のよ う. れ ば な ら な い点 が あ る 。 そ れ は 、 漱 石 と ニー チ ェと の思 想 的 絆. を 駆 動 し て いる 問 い の核 心 にか か わ って、 も う 一つ注 目 し な け. 考 え る う え で、 藤 井 が 挙 げ て いる 諸 点 の他 に、 し か も 、 ﹃ 行人﹄. に よ れ ば 、 こ う し た 注 目 す べき 漱 石 と こー チ ェと のか か わ り を. と こ ろで 、 私 が こ こ で提 起 し た い のは 次 の問 題 な のだ 。 私 見. わ た し を 1﹄﹂。. 或 る女 が わ た し に こ う 語 った。 ﹃な る ほ ど. こ な った と き 、 そ れ は ﹁ニ ー チ ェの や う な 自 我 を 主 張 す る も. 破 壊 し た の です 。1. ヨ. の では な い﹂と いう 断 わ り を 自 分 に お こ な った 、 と 。 ま た H が. 藤 井が指 摘す るよう に、お そらく当時 出版 された 生田長江 編. に 登 場 し て く る ﹁所 有 ﹂ の概 念 であ り 、 そ れ を め ぐ る問 題 な の. 口 に し、 ま た そ れ を 受 け て 一郎 が 口 に す る 二 つ の ド イ ツ 語 の. ﹃ニイ チ ェ語 録﹄ や 山 川 均 編 ﹃ニイ チ ェ美 辞 名 句 集 ﹄ か ら 取 ら. 実 に そ こ に 登 場 す る ﹁所 有 ﹂ の概 念 は 、 自 己 と 世 界 ( ある い. である。. れ たも の な の であ る 。 ま た 、 ﹃ツ ァ ラト ゥ ス ト ラ﹄ で は 、 結 婚 制 度 に 対 す る ニー. は ま た 他 者 ) と の関 係 性 を ど のよ う に問 題 に す べき か と いう 、. チ ェの批 判 が ツ ァラ ト ゥ ス ト ラ の 口を と お し て たと え ば次 のよ う に語 ら れ る が 、 そ こ に出 てく る ﹁ 或 る女 ﹂を 一郎 の 妻 の直 に. ﹃行 人 ﹄ の投 げ か け る 哲 学 的 問 い の 中 核 を な す 鍵 概 念 な の だ 。. し か も 、 二i チ ェ の諸 著 作 を 注 意 深 く 読 め ば 、 そ の ﹁所 有 ﹂ 概. 置 き 換 え れ ば 、 そ の 一節 は そ のま ま 一郎 の自 己 断 罪 の 言葉 に移. ﹃ツ ァ ラ ト ゥ ス ト ラ﹄ 下 、 ニ ー チ ェ. 5. 二 i チ ェ、 吉 沢 伝 三 郎 訳. 岩 波文 庫版. 全 集 10 、 ち く ま 学 芸 文 庫 、 一二 八 頁. ﹃ 行 人 ﹄、 三 八 一頁. 3. 同前 、 三 六 四∼ 三 六 五頁 、後 者 は. ﹃ツ ァ ラ ト ゥ ス ト ラ ﹄ で の. 4. 二i チ ェ全 集 、 ち く ま 学 芸 文 庫 、 七 四 頁 ). 言 葉 であ る。 ( 第 三 部 9 ﹁帰 郷 ﹂ の 冒 頭 、 ﹃ツ ァ ラ ト ゥ ス ト ラ﹄ 下 、. [58].
(3) 念 は 実 に 二i チ ェの 思想 と のあ いだ に多 大 な 共 振 の関 係 を も つ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. し か し な が ら 、 そ の ﹁所 有 ﹂ 概 念 は I l 繰 り 返 せ ば 、 二 i ヘ. ヘ. ヘ. へ. 二i チ ェは 、 自 我 の自 我 た ら ん と す る 存 在 欲 望 の中 核 に、 た ん. 二 i チ ェの自 我 思 想 と 深 く 関 連 す る 。 な ぜ な ら. チ ェか ら の直 接 的 影 響 の有 無 と いう 問 題 と は 別 に、 問 題 の実 質. な る 経済 学 的 11法 学 的範 晦 で は な い実 存 的 な 性 格 を 帯 び た 、 い. に お いて ー. に見 いだ せ ると いえ る か どう か 、 こ れ は確 定 でき な い。後 に 示. わ ば 心 理 的 な 所 有 欲 望 を 置 く か ら で あ る 。 さ ら に こ の概 念 が 担. 果たしてその ﹁ 所 有 ﹂ の 概 念 の登場 に ニー チ ェ の影響 が じ か. も の だと いう こと が わ か る 。. す よう に 、漱 石 にあ って はも とも と ﹁ 自 然 ﹂ に対 す る 人為 が 強. う テ ー マ性 が も つ思 想史 的射 程 に目 を 向 け る な ら 、 こ の テー マ. へ. 制 する社会 的 1 1道 徳 的 秩 序 の抑 圧 性 と いう 問 題 意 識 が 強 く あ. は、そ の後サ ルト ルの ﹃ 存 在 と無﹄ で中心 的役割 を担う ﹁ 存. さ ら にま た こ の サ ル ト ル の議 論 に 明 ら か に イ ン スパ イ ヤ ー さ れ. 在 欲 望 ﹂ の いわ ば 背 面 を な す ﹁我 有 化 碧 只 o罎 算 剛 oづ﹂ 概 念 に 、. ヘ. る。こ の問 題 の 継承 と いう 文 脈 のな か で 、 ﹃ 行 人﹄ に お いて ﹁ 所. り 、 そ の中 核 を ﹁所 有 ﹂ の 概 念 が 担 って いた と いう 事 情 があ. 有 ﹂ の概 念 が 突 然 た だ な ら ぬ緊 張 に満 ち た 光 を 放 ち 出 す 、 と い. て構 築 さ れ て く る 、 レ ヴ ィ ナ ス に お け る ﹁ 存 在 ﹂ 欲望 批 判 の挺. え な く も な い。 と は いえ 、 そ れ に 還元 でき な い問 題 の実 存 的深 さ に お い て、 ﹃ 行 人 ﹄ のな か で ﹁ 所 有 ﹂ の概 念 は 登 場 す る。 私. 以 降 の こ の 実存 的 思索 の文 脈 で は、 自 己 と 世 界 と の関 係 性 のあ. 子と な る 問 題契 機 へと 、受 け 継 が れ て ゆ く 。 そ れ は 、 ニー チ ェ. 藤 井 は 、 先 に見 た と お り 、 ﹃ 行 人 ﹄ に お け る漱 石 と ニー チ ェ. り方 の根 幹 を 問 い直 す 実存 問 題 の中 枢 を かた ち つく る問 題と な る. は あ と で こ の点 を 論 じ るだ ろう 。. と の深 甚 な る関 係 を 指 摘 す る 。 し かし 、そ の場 合 藤 井 の視 野 か. は、 西 欧 哲 学 の な か で ﹁所 有 ﹂ と ﹁ 存 在 ﹂ の 概念 の [対 性 が演. し かも 、 わ れ わ れ は そ こ で さ ら に次 の問 題 にも 出会 う 。 そ れ. 組 も う と し て いる の であ る。. 期 せず し て 、漱 石 は ﹃ 行 人 ﹄ で か か る 人 間 実存 の 問 題 に取 り. のだ 。. ﹃ 行 人 ﹄ に お け る ﹁所 有 ﹂ 概 念 の特 異 な 使 用 法 に つ い て関 心 を. ら は こ の ﹁所 有 ﹂ の 問 題 は 漏 れ て い る 。 他 方 、 確 か に藤 井 は. 抱 き 、 注 解 を 一つこ の概 念 に添 え て い る。 だ が 、 彼 は そ れを 明. に関 す る 議 論 に関 連 づ け るだ け で、 二iチ ェに言 及 す る こと は. 治 四 三 年 に 二木 謙 三 が 雑 誌 ﹁中 央 公 論 ﹂ でお こな った 神 経 衰 弱. じ てき た 世 界 観 的 役 割 を 、期 せず し て漱 石 が東 洋 的 形 而 上学 の. 紹 介さ れ て いる。. う に な らな け れば 本 病 は癒 ら な い﹂ と いう 一節 が 記 され て いた と. さ. な い。. 6. 漱 石全 集第 八 巻 、四九 八頁。 そ こ にはた と えば 、﹁精 神 の能力. な る主 人 公 の支 配 の 下 に此肉 体 が 甘 ん じ て支 配を 受 く ると いふ や. [59].
(4) 文 脈 (か の ﹁即 天去 私﹂ の ) へと 換 骨 奪 胎 し よう と試 み て いる. 言 いは 理 解 し が た いも ので あ った 。. へ. こ こ で漱 石 が 一郎 に 語 ら せ て いる ﹁所 有 ﹂ と は 、 ニー チ ェの. ヘ. と いう 、実 に 興味 深 い問 題 の環 な の であ る 。 お そ らく こ の 一連. ヘ. 言葉 を 援 用 す る な ら 、 ﹁自 我 感 情 ﹂ そ れ 自 体 に 本 質 的 に 備 わ っ. ヘ. て いる ﹁所有 欲 ﹂ であ り 、自 我 が 己 の存 在 的 強 度 を 得 よ う と し. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. ヘ. ヘ. へ. と イ タ リ アで は いう 。﹂。 あ る い. ヨ. な る か の よ う で あ る。 自 我 感 情 の所 有 欲 に は 切 が な い。 ( 略). の であ る 。 ま る で 、 知 って いれ ば そ れ が す でに自 分 の所 有 物 に. 1 大 て いの 人 々は 、自 分 た ち が 知 って いる事 柄 を 引 き 立 てる も. ヘ. ﹃曙光 ﹄ 断 片 二 八 五 に こう あ る 。 ﹁ 自 我 は ど こ で お し ま いか ?ー. ヘ. て 抱 く ﹁所 有 欲 ﹂ であ る と い いう る 。 ち な み に、 二ー チ ェ の. ヘ. の問 題 群 こ そ 、く だ ん の 五 カ月 に お よ ぶ 病床 で の新 た な る漱 石. ﹃ 行 人 ﹄ に お け る ﹁所 有 ﹂. の ﹁ 深 刻 な思 想 問 題 ﹂を めぐ る格 闘 の核 にあ る 問 題な のだ 。. 二 ま ず 、 ﹁所 有 ﹂ と いう 概 念 が ﹃ 行 人﹄ のな か で 閃 光 を 放 って 登 場 す る次 第 を 跡 付 け る こと か ら始 め よう 。. ヘ. 持 た な いも のは存 在 し な いー. は そ の直 前 の 断 片 二八 一に は こ う あ る。 ﹁自 我 は 一切 を 持 と う. 最終章 ﹁ 塵 労 ﹂ の 三十 六 節 は 次 の よう に始 ま る 。 一郎 は Hと. と す る。 1. 人 間 は 一般 に 、 所 有す る た め に の み 行 為 す る よ う. へ. と も に 山 に 登 り 、 茂 み のな か の百 合 を 眺 め、 ﹁あ れ は 僕 の所 有. に見 え る。 少 な くと も 、 一切 の 過去 の行 為 を あ た か も わ れ わ れ. ヘ. だ ﹂ と 語 る 。 漱 石 は さ ら に こう H に 回 想 さ せ て い る。 ﹁私 に は. が そ れ によ って 何 か を 所 有 し て いる か の よう に 見 な す 言 語 は 、. ヘ. そ れ が 何 の意 味 だ か 解 り ま せ ん で し た ﹂ と 。 山 の頂 上 に出 て、. ヘ. そ こ で 一郎 は ま た も や 下 に見 え る森 や 谷 を 指 し て、 ﹁あ れ 等 も. いう こと は 、私 は今 、 私 の 言葉 、戦 い、 勝 利を 所 有 し て いる と. こ の 考 え を 暗 示 し て い る (﹃ 私 は 語 った 、 戦 った 、 勝 った﹄ と. ヘ. 悉 く 僕 の所 有 だ ﹂ と いう 。 H は こう 続 け る。 ﹁二度 迄 繰 り 返 さ. 9. . . 二 i チ ェ、 茅 野 良 男 訳. 同 前、 二九 二頁. 集 7 、二九 三 頁. 8. ハ ソ. ﹃曙 光 ﹄ ち く ま 学 芸 文 庫 、 二 i チ ェ全. らず それ を 持 と う と す る のだ 1 ﹂。. コ. だ ろう 1過 去 さえ わ が身 か らも ぎ 離 そう と せず 、 ま さ に 相変 わ. いう こ と であ る )。 こ れ と と も に 人 間 は 何 と 貧 欲 に 見 え る こ と. ヘ. れ た 此 言 葉 で、 私 は 始 め て不 審 を 起 し ま した 。 然 し其 不審 は 其 場 です ぐ 晴 ら す 訳 に行 き ま せ ん でし た ﹂ と 。 も ち ろ ん 、 ﹁所 有 ﹂ と いう 言 葉 の 通 常 の意 味 で 、 つま り 経 済. の所 有 物 ・財 産 であ る わ け は な い。 ﹁所 有 ﹂ と いう 言 葉 を 、 最. 的 あ る いは 法 的 な 意 味 で、 野 に咲 く 百 合 や眼 下 の森 や谷 が 一郎. 岩波 文 庫版 ﹃ 行 人﹄、 三六 三頁. 初 こう し た 通 常 の意 味 で受 け 取 って い る H にと っては 一郎 の物. 7. [60].
(5) ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. へ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ゆ. 前 者 を 代 表 す る 言 葉 を 一つ引 用 し よう 。 ﹁ 大 いな る魂 の持 ち. ヘ. 主 た ち にと って 、 な お 、 或 る 自 由 な 生 が 広 々と 開 け て いる 。 ま. ヘ. 右 の 二 つ の 言 葉 の な か に は 、 次 の実 存 的 問 題 に対 す る ニー ヘ. チ ェ の視 点 が は っき り と 示 さ れ て い る。 す な わ ち 、 ﹁持 た な い ヘ. こと に 、 少 し し か 所 有 し な い者 は 、 所 有 さ れ る こと も そ れ だ け. ヘ. 少 な い。 さ さ や か な 貧 困 は ほ む べき か な 1 ﹂。 漱 石 が ﹃ 人間的、. ヘ. へ. も の は存 在 し な い﹂と いう 関 連 のな か で 、 ま た行 為 は そ れ 自身 へ. ヘ. あ ま り に 人 間 的 ﹄ を 読 ん だ か ど う か は いま のと ころ 私 には 知 る. ヘ. ヘ. の 目 的遂 行 の た め に な さ れ る の で は な く 、実 は所 有 増進 に よ る. ヘ. 存 在 増強 の た め のも のだ と いう 関 連 の な か で 、自 我 は 、 通 常 の. ヘ. 由 が な いが 、 そ こ で は 右 の言 葉 にず ば り 重 な る 言 葉 と し て次 の. 有 が 主 人 に な って 、 所 有 者 が 奴 隷 に な る 。 彼 は か か る 奴 隷 と し. ヘ. 言 葉 が あ る 。 ﹁所 有 が 所 有 す る 。 或 る 程 度 ま でな ら 、 所 有 は 人. て 、 所有 のた め に 己 の 時 間 を 、 己 の省 察 を 犠 牲 に し な け れ ば な. ヘ. 物 的 対 象 に対 す る経 済 的 あ る いは 法 的 な所 有 と いう 意 味範 囲 を. 間 を 独 立 的 に し 、 い っそ う自 由 にす る 。 も う 一段 進 む と1. る こと で自 我 の存 在 性 を い っそう の強 度 あ る いは濃 度 に お いて. 所. (た と え ば 、 知 、 過 去 、 等 々) に ま で心 理 的 に 拡 大 し 、 そ う す. 超 え て、 所 有 対 象 を 物 的 な 意 味 で は 関 係 が 成 り 立 た な い対 象. 手 に し よう と す る 、と いう 問 題 への視 点 であ る。. も 、 す べて は お そ ら く 彼 の いち ば ん 内 面 的 な 、 ま た いち ば ん 本. に さ れ 、 国 家 に 同 化 さ れ て し ま った よ う に 感 じ る 。1. それ. ら な い。 そ し て 以 後 は 、 自 分 が交 際 に 拘 束 さ れ 、 場 所 に 釘 、つけ. に こう し た自 我 に か かわ る存 在 論 的 な働 き を も った所 有 の関係. ﹁ 塵 労 ﹂ の章 で 一郎 が 問 題 に し て い る ﹁所 有 ﹂ と は 、 明 ら か. 性 であ る 。. ヘ. ヘ. へ. 質 的 な 欲 求 に 反 し て﹂( 傍 点 、 二i チ ェ﹀ 。 こ の テ ー マは 、 二i. ヘ. と こ ろ で 、 ﹃ツ ァラ ト ゥ ス ト ラ﹄ に は 右 の問 題 に 深 く 関 連 し. ヘ. チ ェと社 会 主 義 と の関 係 性 に つ いて 、 わ れ わ れ の問 題 意 識 を 掻. ヘ. き 立 てざ るを え な い問 題 で あ る 。 ﹁所 有 が 所 有 す る ﹂ と いう 所. ら の社 会 主 義 に 接 近 し て いる よう で い て、 し か し 、社 会 主義 を. 有 の自 己疎 外 メ カ ニズ ム の 認 識 に お い て、 二i チ ェは マ ルク ス. ヘ. れ て いる。 そ れは 、﹁所 有 が所 有 す る ﹂と いう 所 有 の自 己疎 外 、. な が ら、 所 有 を めぐ るも う 一つの 問 題 側面 が鮮 や か に 切 り 取 ら. 主 客 転 倒 の問 題 性 で あ る 。 よ り 正 確 に いう と 、 ﹃ツ ァ ラト ゥ ス. 1ー 二 ー チ ェ、 中 島 義 生 訳 ﹃人 間 的 、 あ ま り に 人 間 的 ﹄ 1 、 二 i チ ェ全 集 6 、 ち く ま 学 芸 文 庫 、 二 = 二頁. 10 吉 沢 伝 三 郎 訳 ﹁ツ ァ ラ ト ゥ ス ト ラ ﹄ 上 、 ニー チ ェ全 集 9 、 ち くま学 芸文 庫 、九 二頁. 彼 の嫌 悪 す る キ リ スト 教 道 徳 の 世 俗 版 と し て 軽 蔑 し 拒 絶 す る 。. ト ラ﹄ に お いて右 の問 題 の連 関 は 、 一方 で は 、精 神 の自 由 と自 己 の最 も 本 来 的 で 固有 な る欲 求 を 忘 れ 、 ひ たす ら な る物 欲 に 狂 う 近 代 資 本 主 義 社 会 の過 剰 化 し た所 有 欲 望 の 孕む 自 己疎 外 性 を 痛 罵 す る視 点 から 言 及 さ れ る 。と 同時 に他 方 で は 、 お よ そ 対象 な り 相 手 な り に、 愛 着 あ る いは執 着 す る精 神 のあ り よう を 浮 か び 上 がら す 関 連 性 と し て語 ら れ る 。. [61].
(6) だ が 、 こ の 興味 深 い 問題 の論 究 は 別 の機 会. そ こ に はど の よう な 複 層 的 な 問 題 連 関 が 、あ る いはね じ れ が存. こう 。 ﹁依 然 と し て わ た し は、 最も 富 め る者 、 最 も う ら やま れ. 後 者 を 代 表 す る 言葉 と し て ﹃ツ ァラ ト ゥ スト ラ﹄ か ら 二 つ引. セ. 在 し て いる の か ?. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. . ヘ. ヘ. ヘ. ヘ ヘ. へ. と いう の. る べき 者 な のだ 1. 13. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. (孫 引 き ー. ﹃ツ ァ ラ ト ゥ ス ト ラ﹄ 上 、 一九 七 頁. に よ る 注 二 六 五 か ら )。. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. ヘ. ヘ. へ. ヘ. へ. ﹃ツ ァラ ト ゥ ス ト ラ﹄ 上 、. 二 ー チ ェ全 集 9 、 ち く ま 学 芸 文 庫 、 三 六 五 頁 に あ る 、 吉 沢 伝 三 郎. な ︾考 え方 ﹂ と呼 ん で いる. う ち に お い てす ら新 し い諸 戦 争 のた め の手 段 を 尊 ぶ創 造 的な 考 え 方 ﹂を 推 奨す る。 こう した自 分 の見 地を 彼 は、 ﹁人 間 の善 き 諸性 質 と 悪 しき 諸 性 質 と の両者 を 然 るべき 場 所 に、1 両 者 が 相 互 に相 手 を 必 要と す る 場所 に置 くお のれ の力 に自 身 が あ る が ゆえ に、 両 者 を 同様 に偉 大 なも の へと 訓 育 し よう と す る躊 躇 なき ︽非道 徳 的. て 一蹴 す る。 遺稿 のな か で、 彼 は ﹁ 奴 隷 制 度 や多 く の度 合 いの隷 属 が あ ら ゆる 高等 な 文 化 の前 提 だと 信 ず る考 え 方 ﹂を ﹁高貴 な 考 え 方 ﹂と 呼 び 、 し ょせ ん ﹁休息 ﹂ と し て のみ 存 在 しう る に過 ぎ ぬ ﹁ 平 和 ﹂を ﹁世 界 の目 標 とし て措 定 しな い﹂ よう 勧 告 し、 ﹁ 平和 の. 牲 と な り 、 彼 ら に夢 中 に な って自 己を 喪 失 す る ほ ど ま で に 、 彼. を 仕 掛 け た の は 、熱 望 であ った のだ 、自 分 たち の 子 供 た ち の犠. 愛 に鎖 で つな が れ て 、横 たわ って いた。 わた し に そ う いう わ な. ヘ. であ った 。﹂( 傍 点 、 引 用 者 )。 ﹁わ た し は 、 自 分 の 子 供 た ち への. お. た し の所 有 であ る とと も に 、 わ た し がと り こ に な って いるも の. ヘ. つね に、 わ た し が心 の奥 底 か ら 思 いを 寄 せ るも ので あ った 。 わ. お 、 お ま え た ち 最 愛 の者 た ち よ 。 (略 ) け だ し 、 お ま え たち は. し て おま え たち が今 な お わ た し を所 有 し て いる か ら で あ る 。 お. ヘ. は 、 わた し は確 か に おま え た ち を所 有 し て いた か ら で あ り 、 そ. ヘ. 最も 孤独 な 者 で あ る わ た し は 1. に委 ね る こと にし て 、 こ こ で は省 略 し よう 。 12 基 本 と な る問 題 に つい てだ け簡 単 に指 摘 し てお こう 。確 か に 二i チ ェは 資 本主 義 的 近代 が い っそ う 過剰 化 す る所 有 欲 望 の自 己 疎 外性 を 痛 罵 す る にせ よ、 し か し所 有 の欲 望 の攻撃 的 エネ ルギ ! を ﹁ 革 命 ﹂ に よ る社会 の強 制 的 な社 会 主義 的 制 度変 革 に よ って人 間 のな かか ら 除去 でき ると は 、 ま った く のと ころ考 え な い。 た と えば ﹃ 人 間 的、 あ まり に人 間 的﹄ の第 八章 ﹁国 家 への 一瞥 ﹂ のな か の ﹁所 有と 公 正 ﹂ と 題さ れ た 断片 四 五 二 のな か で、 彼 は社 会 主 義 者 を 次 の よう に批 判 し て いる。 現 在 の所 有 の 分 配 が そも そ も ﹁無類 の不公 正 や横 暴 の結 果﹂ ま ったく 不 平等 なも のにな って いる と いう 社 会 主義 者 の批 判 は、 個 々 の結 果だ け を み て、 全体 と し て の過去 の人 類 文 化が これま でそ も そも ﹁暴力 ・奴 隷制 ・欺朧 ・誤 謬 の上 にき ず か れ てき た﹂ も の であ り 、 こ の攻 撃的 な いわば 悪 の エネ ルギ ー の発 揮 な く し て文 化 の維 持 も発 展 も な いと いう 根 源 の 現 実を 見 落 と し て いる。 こう し た いわ ば悪 を 必 須と す る ﹁これ ら す べ て の状 態 の継 承 者、 そ れど こ ろかあ あ し た あ ら ゆる過 去 の癒 着 で あ る わ れ われ 自 身 を 、命 令 で撤 去 す る こ と は でき な い﹂ し 、 ﹁個 々 の 一部 分を 抜 き取 ろう と す る﹂ こと も不 可能 であり 、 だか ら ま た 目標 と す る べき で な い。事 実 激 し い所 有 欲 望 は ﹁ 無 産 者 の魂 にも ま た潜 ん で いる﹂。 した が って、革 命 によ る制 度 変革 に よ って 一挙的 に所有 欲 望 の自 己疎 外 性を 除 去 でき る、 と考 え る彼 ら の革 命主 義 は幻 想 であ る。 ﹁強制 的 な新 し い分 配 では なく 、意 識 の漸 進 的 な改 造 が必 要 であ る、公 正 が 万 人 のな か でも っと 大 き く な り、 無 法 な 本能 がも っと 弱 く な ら な く て は な らな い﹂ と 。 (﹃ 人 間 的、 あ まり に人 間的 ﹄ 1 、 ニー チ ェ全 集 5 、ち く ま 学芸 文 庫、 三 九 二 頁) 。 二iチ ェは 、社 会 主義 者 の反 暴力 の平和 主義 を 、人 間性 の本 質 要素 を なす 暴 力 性と いう 現実 に つ いてま った く無 知 な幻 想 と し. [62]. 4.
(7) み に いえ ば 、 こ こ で いわ れ る ﹁お ま え た ち ﹂ と か ﹁子 供 た ち ﹂. ら を 愛 し よ う と す る 熱 望 であ った のだ ﹂( 傍 点 、 引 用 者 )。 ( ちな. れ ば 、 そ れ は 既 に問 題 の成 立 次 元 を そ も そ も の愛 欲 に おけ る他. 象 に対 す る フ ェテ ィ ッシ ュな 恋 着 的 関 係 性 が問 題 と な る の であ. 鋭 い問 題 を 構 成 す る こと にな る であ ろう 。 否 、 そ も そも 物 的 対. も ので あ る と 同 時 に 、 ま さ にそ れ ゆ え に こそ 既 に私 を 所 有 し て. は 次 の問 題 に気 づ か さ れ る。. にお い て、 い った ん ﹃ 行 人 ﹄ へ戻 って みよ う 。 す ると わ れ わ れ. さ て こ こ で、 二i チ ェか ら 取 り 出 さ れ る こう し た 問 題を 背 景. 移 し て いる のだ と いわ ね ば な るま い。. その代償的倒錯 の問題も含 めて1. 者所有 の欲望 の場面 にー . と は 、 青 年 二ー チ ェを 当 時 心 底 か ら 捉 え て いた と こ ろ のキ リ ス. コ. ト 教 的 諸 価 値 あ る いは イ エ ス像 の こと を 指 し て いる 。) . 熱 望 と な った 愛 着 、 あ る いは 執 着 にお い て私 ( 自我)をとり. いる も ので あ る 。す る と 、 こ の レ ベ ル で の所 有 の自 己 疎 外 性 は 、. こ に す る も のは 、 私 が そ れ を 所 有 し よ う と や っき と な って いる. 資 本 主義 的 な 物 欲 の自 己 疎 外 性 と 、 通 常 人 間 の執 着 的 恋 情 や 嫉. ヘ. ヘ. ヘ. へ. ヘ. ヘ. へ. ま ず 第 一に、 ﹃ 行 人 ﹄ に お い ても 問 題 は こ の ﹁所 有 が 所 有 す. ヘ ヘ. る ﹂ と いう 関 係 性 を め ぐ って設 問 さ れ て い る こと であ る。 当 初. ヘ. 妬 の場 面 に お い て問 題 と な る 他 者 所 有 の醸 し 出 す 自 己 疎 外 の問 ヘ. H は 、 ﹁所 有 ﹂ と いう 一郎 の物 の言 い方 を 理 解 す る こ と が でき. ヘ. 題 と の 両 方 にま た が っ て、 こ の自 己 疎 外 と いう 問 題 を 、 個 人 を ヘ. 個 人 と し て問 題 にす る いわ ば ﹁実存 的精 神 分 析 ﹂ ( サ ルト ル) と. な か った。 だ が 、 よ う や く そ れ が でき る よ う にな る に つれ て、. め. いう 問題 の深 度 に ま で掘 り 下 げ ら れ る べき 問 題と な る であ ろう 。. 今 度 は 松 や 蟹 に忘 我 の面 持 ち で ﹁見 惚 れ て﹂い る 一郎 、 つま り 、 ヘ. と いう のも 、 資 本 主 義 的 な 所 有 競争 の回 転 原 理 が 人 を ﹁所 有. ニ ー チ ェ的 に いえ ば そ れ に と り こ に な って い る 一郎 に 対 し て、. ヘ. が 所 有す る ﹂ と いう自 己 疎 外 へと 追 い込 む 強 力 な 一般 的 土 台 と. の状 態 、 つま り ﹁絶 対 ﹂ の状 態 で松 や蟹 に見 惚 れ て い る こと を. 今 度 は H は こう 指 摘 す る の であ る。 す な わ ち 、 君 が 完 壁 の忘 我. ヘ. 守 銭 奴 的 な 貨幣 と いう 抽 象 的 権 力 への執. な る に せ よ 、 こ の土 台 の上 で そ れ ぞ れ の個 人 が と り わ け 何 の所. 指 し て ﹁所 有 し て いる ﹂ と いう な ら ば 、 そ れ は 同 時 に君 が 松 や. 有 に 執着 す る のか1. 着 、 土 地 、 屋 敷 、 は た ま た 女 、等 々1. の本 格 的 な 批 評 の言 葉 に こ う あ る。 ﹁兄 さ ん の所 謂 物 を 所 有 す. 蟹 によ って所 有 さ れ て いる こと に等 し い、 と 。 一郎 に対 す る H. と いう 問 題 は 、 一般 性. に 還 元 でき な いそ の個 人 の特 有 な 執 着 性 の実 存 的 淵 源 な り 背 景. 15. 岩波 文庫 版. ﹃行 人﹄、 三 九 一頁. る と い ふ言 葉 は 、 畢 寛 物 に所 有 さ れ る と い ふ意 味 では あ り ま せ. を 問 うも ので あ る か ら だ 。 そ し て こ の執 着 の個 別 的 な 独 異 的 性. ﹃ッ ァ ラ ト ゥ スト ラ﹄ 下 、 三 四 頁. 格 の 問 題 は 、愛 欲 に お け る 他 者 所 有 の問 題 にお いて は い っそ う. 14. [63].
(8) ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. へ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. お. ヘ. へ. ﹁自 分 が 絶 対 だ ﹂ と いう 一郎 の主 張 に か か わ っ てだ 、 と 。 こ の. ヘ. ヘ. 彼 の主 張 は ま さ に右 の ﹁絶 対 即 相 対 ﹂ を め ぐ る議 論 のな か で主. ヘ. ん か 。 だ か ら 絶 対 に物 か ら 所 有 さ れ る事 、 即 ち 絶 対 に物 を 所 有 ヘ. 張 さ れ て く る も の な の であ る。 こ の 一郎 の主 張 に か か わ って 、. ヘ. す る 事 にな る のだ ろう と 思 いま す 。 神 を 信 じ な い兄 さ んは 、 其 ヘ. 処 に至 って始 め て世 の 中 に 落 付 け る の で せ う ﹂( 傍点 、引用者). な さ れ る のは 、 そ の背 景 に宗 教 的 救 済 ( 人 間 であ る こと がも た. そ れ は 一見 二ー チ ェの思 想 と 似 て いる よう で違 う と いう 指 摘 が. ら す 根 源 的 な 不安 の解 消 あ る いは 超 克 ) の 展 望 の取 り 方 に か. と。 右 の批 評 の最 後 の 一節 は ﹃ 行 人 ﹄ にお け る ﹁所 有 ﹂ の問 題 を. か わ って次 の事 情 が あ るか ら であ る。 す な わ ち 、 ﹁ 神﹂ ( あるい. パ スペケテ イヴ. 考 え る場 合 実 に意 味 深 長 であ る。 そ こ には 二 つ の問 題 が 示 唆 さ. る 。 つま り 、 百 合 、 森 、 谷 、 松 、 蟹 、 等 々 の個 別 対 象 と のあ い. す ら 消 滅 す る 両 者 の絶 対 的 な 融 合 合 致 の次 元 で問 題 にさ れ て い. 係 性 は 文 字 通 り そ の ﹁絶 対 ﹂ の水 準 、 所 有 者 と 所 有 対 象 の区 別. 悩 の ﹁意 味 ﹂ 了 解 と いう キ リ スト 教 的 な 弁 神 論 的 目標 のな か に. ま た 、 救 済 と いう こと を 創 造 主 の神 的 意 志 への帰 依 、 つま り 苦. 仏 教 的 な 宇 宙 そ のも の の絶 対 的 存 在 性 を 考 え る か、 した が って. 造 主 を 考 え る か 、 そ れ と も そ の よう な 創 造 主 表 象 を 否 定 し て 、. は ﹁絶 対 者 ﹂) と いう 概 念 でキ リ ス ト 教 的 な 人 格 神 的 な 世 界 創. だ に ﹁所 有 が 所 有 す る﹂ と いう 関 係 性 を 築 こう と す る こ と は 、. いう 東 洋 形 而 上 学 的 な 存 在 目標 のな か に見 出 す か、 こ の選 択 が. 見 出 す か 、 宇 宙 的 ﹁絶 対 ﹂ への人 間 的 意 識 の融 解 合 致 "帰 還 と. す な わ ち 第 二 に、 ﹃ 行 人 ﹄ では ﹁所 有 が 所 有 す る﹂ と いう 関. れ て いる 。 そ れ が こ こ で の第 二、 第 三 の問 題 であ る。. こ の 小 説 で は 結 局 宇 宙 大 に ま で拡 大 さ れ て 、 つ いに は そ こ に. こ の点 で、 一郎 11漱 石 は キ リ スト 教 的 展 望 を 拒 否 し て東 洋 形. 置 か れ て い るか ら であ る。. ﹁絶 対 即 相 対 ﹂ の形 而 上 学 的 世 界 が 実 現 さ れ る こと を 期 待 す る. 第 三 に 、 こ の宇 宙 大 の ﹁絶 対 即 相 対 ﹂ の実 現 は 、 一郎 にと っ. 欲 望 へと 高 ま る も のと し て描 か れ て いる 。. ヘ. へ. の際 に 一郎 11漱 石が ニー チ ェの思 想 を 、 世 界 創 造 主 の位 置 に伝. ヘ. 而 上 学 的 展 望 に つく 。 二i チ ェ への違 和 感 が 語 られ る のは 、 そ ヘ. ては 神 への信 仰 が あ った 場 合 には 生 じ る であ ろう ﹁世 の中 に落. 統 的 な ﹁神 ﹂ で は な く 、 近 代 西 欧 的 な ﹁自 我 ﹂ を 据 え る も の. と 、 考 え て い るか ら であ る ( も っと も 、 そ こ に は こー チ ェの思. てく れ る も のと し て問 題 に さ れ て い る。. 付 け る ﹂ と いう 心 的 状 態 を 、 神 を 信 じ な い彼 に、 代 わ り に与 え. 本 稿 の 冒 頭 で私 は こう 指 摘 し た 。 す な わ ち 、 ﹁塵 労 ﹂章 のな. 回 帰 す る カ オ ス的 葛 藤 と み な す 究 極 の形 而 上 学 的 立 場 に お い. ろう 。 と いう のも 、 世 界 の本 質 を 諸 々 の ﹁力 への意 志 ﹂ の永 遠. 想 の特 異 性 に関 す る漱 石 の理 解 の不 十 分 が あ る こと は 明 白 であ. 同前 、 三九 二頁. か で ニー チ ェの名 が 出 てく る のは ﹁神 は 自 己 であ る ﹂ な いし は. 16. [64]. 職.
(9) ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. て、 明 ら か に ニー チ ェは ﹁自 我 ﹂ と いう 近 代 西 欧 的 な 主 観 性 の. しかも無目的的. 立 場 を 超 え て 、 主 観 性 を そ の道 具 と す る と こ ろ の究 極 の実 在 と し て ﹁力 への意 志 ﹂ と いう 一種 生 気 論 的 な ー な 、 仏 教 的 に いえ ば 反 実 体 論 的 で縁 起 の関 係 主 義 に立 った 1. 三. サ ル ト ル の ﹁我 有 化 き ηδ9 魯 oコ﹂ の 視 点 か ら. ﹃ 存 在 と 無﹄ のな か で サ ルト ル が 繰 り 広 げ る ﹁我 有 化 ﹂ の概. ■. か で は 、 こ う し た 二i チ ェの反 西 洋 的 な 立 場 の特 異 性 は 見 落 と. (こ の場 合 も 、 サ ルト ル が ニー チ ェか ら じ か に影 響 を 受 け た か. 念 は、 ほ と ん ど 二 i チ ェと 同 じ と こ ろを 見 て いる と い いう る. の問題照射. さ れ てお り 、 二i チ ェは 西 欧 自 我 主 義 の主 観 性 原 理 の過 激 化 と. 実 在 の運 動 性 を 主 張 す る か ら であ る 。 お そ ら く 漱 石 の理 解 のな. み な さ れ て いる 。 つま り 、 自 我 の主 観 性 を 神 の位 置 に就 け て、. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. ど う か は いま のと こ ろ確 定 で き な い。 問 題 の重 心 は あ く ま で問. ﹁我 有 化 ﹂ の概 念 が 表 わ す 所 有 欲 望 に 関 し て、 サ ル ト ルは た. ヘ. 自 我 の主観 性 の内 に こ と ご と く 宇 宙 を 吸 収 し 、 世 界 と は 自 我 の. 題 の実 質 的 な 重 な り にあ る )。. ヘ. 繰 り 広 げ る 仮象 の総 体 に 他 な ら な いと いう 事 実 上 独 我 論 的 な 立. 第 四 に、 右 に 述 べ てき た 問 題 の連 な り の な か か ら 、﹁世 の中. 係 性 のう ち にあ る の では な く 、 所 有 物 は 所 有 者 の外 部 に位 置 す. お し て、 所 有 者 に 出 会 う ﹂と 。 所 有 物 と 所 有 者 と は外 面 的 な 関. 私 は 、 所 有 者 の所 有 し て いる 対 象 のう ち に、 ま た こ の対 象 を と. と え ば こう いう 。 ﹁所 有 のき ず な は 、 存 在 の内 的 な 絆 で あ る 。. に落 付 け る ﹂と いう 一郎 の自 己 救 済 願 望 の根 源 に あ る 不安 と は. る モ ノ であ り な が ら 、 同 時 に 、 ま る で 所 有 者 が そ れ を 創 作 し. [65]. 場 を 押 し 出 し 、 そ こ か ら ﹁神 は 自 己 だ ﹂ と いう 主 張 を お こ な う. いか な る性 質 のも のか 、 こ の不安 の醸 成 の起 源 に は いか な る実 存. て 、自 分 の作 品 のな か に 自 己 の実 現 11化 体 を 見 出 す よ う に、 そ. 立 場 と み な さ れ て いる 。). だ が 、 こ の点 を 掘 り 下 げ て 考 え て ゆ くう え で 、 二i チ ェが 先. 的 問 題 が横 た わ って いる のか と いう 問題 が 浮 かび 上 が ってく る。. へ. の モ ノ は 所 有 者 の存 在 が そ こ に化 体 さ れ て い ると いう 意 味 を. ヘ. 駆 け 的 に 問 題 に し た ﹁所有 ﹂欲 望 ( 自 己 の存 在 増 強 を 求 め る 自. の の喪 失 な り 重 大 な 棄 損 な り を 意 味 す る ほ ど に、 そ の モ ノは 所. 担 って いる 。 だ か ら 、 そ のモ ノ を 失 う こと は 自 己 の存 在 そ のも. ヘ. 我 感 情 が 必 然 的 に 抱 え る こと に な る も のと し て の) を 、 ﹁ 我有. ヘ. 化 9。薯 ﹃ o只 翼 δ5﹂ と いう 独 自 の 概 念 装 置 へと 継 承 発 展 さ せ た. 松浪 信三郎 訳 ﹃ 存在 と無﹄ 皿 、人文書 院 、 一九 六〇 三 サ 四 ル 六 ト 頁 ル、. サ ル ト ル の議 論 を 参 照 し て お く こと は 実 に有 益 であ る 。 そ こ で. し言 及 し て おき た い。. 議 論 は いさ さ か 迂 路を 辿 る が 、 次 に サ ル ト ル の 視点 に つ いて 少 年17.
(10) 有 者 の存 在 そ のも のと 一体 化 し て い る。 た と え ば 、 わ れ わ れ が. ド. いう 関係 を築 く こと で 、 両者 が 互 いを そ れ ぞ れ自 分 の存 在 性 を. 所 有 の 絆と は 、所 有 者 と 所 有 対 象と が ﹁ 所 有 が 所有 す る ﹂ と. にあ り た いと いう 欲 求 、 す な わち 存 在 欲 求 に 、還 元 さ れ る ﹂ 。. か ず 、 ま る でそ の喪 失 は己 の存 在 の 一部 の喪 失 のご と く 感 じ ら. こと で 、 一対 的な 存 在 関係 を 構 成 す る こと であ る 。 こ のサ ル ト. 支 え る内 的契 機 と し て領 有 しあ い、ま た そ の よう に依 存 しあ う. 愛 用 の万 年 筆 を 失 く す 。 す ると いか んと も し が たく 心 が落 ち 着. れ 、 そ の万 年 筆 が な け れば 一字 も 書 け な いと 感 じ る ほど に 、自. ル の観 点 は ニー チ ェの観 点 を い っそう 精 細 に述 べ た よう なも の. 分 と 世 界 と の関 係 が 棄 損 さ れ た と 感 じ ら れ る。 こう い った 例 が お. こ の ﹁我 有 化 ﹂ の 日常 的 な 一例 であ る。. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. ヘ. へ. ( ﹁ 対 自 存 在 ﹂) で. 介 し て の自 我 増 強 の論 理を 、自 己意 識 的存 在. ヘ. であ る。 そ し て 、 サ ル ト ル の独 創 はと いえ ば 、 彼 が こ の所 有 を. と で 、 次 の よ う な 見 事 な 総 括 的 定 義 を 下 す 。 ﹁所 有 す る と は 、. あ る人 間 が そ れ ゆえ に本 質 的 に抱 え る こと にな る実 存 的 諸 問 題. サ ルト ルは ﹁我 有 化 ﹂ の関 係 性 の具 体 的 例 を 幾 つか述 べ たあ. 我 有 化 のし るし のも と に、 所 有 さ れ る対 象 と 合 一す る こと であ. に内 在 的 に結 合 し て み せた こと にあ る 。. ヘ. 彼 に よ れ ば 、 人 間 は ﹁対 自 ﹂、 つま り 自 己 意 識 的 存 在 であ る. る。 所 有 し た いと 思 う のは 、 か か る 関 係 によ って或 る所 有 対 象 ヘ. によ って 、存 在 性 と いう 点 で は つね に 己を 不十 分 であ り 存 在 欠. か ら 、 意 識 が本 質 的 に抱 え 込 む ﹁ 無 化 的 後 退 ﹂ の作 用 そ れ自 身. ヘ. と 合 一し た いと 思 う こと であ る 。 そ れ ゆえ 、 或 る個 別 的 な 対 象. い。 そ れ は 、 或 る 内 的 な 関 係 によ って、 い いか え れ ば 、 対 象 と. へ. を 欲 求 す る こと は 、 た だ 単 に、 こ の対 象 に つい て の欲 求 では な. ヘ. 如 を 抱 え 込 む も の と し て 感 じ ざ る を え な い。 自 己 であ り な が ヘ. ら 、 そ の自 己 は既 にそ の自 己 か ら 一歩 距離 を と って そ れを 無 化 ヘ. と も に 、︽所 有 す るも の 1 所 有 さ れ るも の︾ と いう 一体 を 構 成 ヘ. し つ つあ るも う 一人 の自 分 (つま り 自 己意 識 ) を 孕 ん で いる の. ヘ. す る よう なし か た で 、 そ の対 象 と 合 一し た いと いう 欲 求 であ る。. へ. ヘ. へ. ﹃存 在 と 無 ﹄ 1. 同前 、 三四 八頁 20 サ ルト ル 等々. 19. 、. の. へ. 一 二 三 、 一八 〇 、 一九 二 、二 四 四 頁 、. 時 にあ ら ぬ と こ ろ のも ので あ る﹂と は 有 名 な ﹃ 存 在 と 無 ﹄ の定. ヘ. るのである。 ( 自 己 と は ﹁そ れ であ る と こ ろ のも の で な いと 同. ヘ. だ 。 自 己 の無 ( そ れ では な い) に蝕 ま れ欠 如 的 状 態 に陥 って い. ヘ. 持 つ欲 求 は 、 実 のと こ ろ、 或 る 対 象 に 対 し て、 一種 の存 在 関 係. 18 こ の点 で、 バ ルザ ック の ﹃ランジ ェ侯 爵夫 人 ﹄ ( 西 川祐 子 訳、 バ ルザ ック ﹁人 間喜 劇 ﹂ コレ ク シ ョ ン ﹃ 十 三 人組 物 語﹄ 所 収 、藤 原書 店 、 二〇〇 二年 ) は、 こうし た ﹁我有 化 ﹂的 な所 有 の ﹁情 熱﹂ を 中核 に お い て男 女 の愛欲 模 様 を ﹁恋愛 闘 争 ﹂ と し て描 き 出 し、 て いる小 説と し て注 目に値 す る。. 期 せず し て、 後 に取 り 上げ る 二ー チ ェの見 解 のま る で例 示 と な っ. [66].
(11) 義 で あ る )。 こ こか ら 、 ﹁対 自 ﹂ 的 自 己 は 自 分 か ら こ の無 化 作 用 部分 ( 自 己 意 識 性 ) を 除 去 し て、 完 壁 な 存 在 充 実 にお い て己 を 実 感 11実 現 ( ﹁O曽一 一 N的け 一 〇口) し よ う と す る 欲 望 、 つま り 己 を ﹁対. 融 玲 oq①冨㊦﹂ に 取 り 葱 か れ る。 こ の ﹁存 在. 自 ﹂ で あ り な が ら 同 時 に ﹁即 自 ﹂ と し て実 感 11実 現 し よ う と す る ﹁存 在 欲 望 欲 望 ﹂ の裏 面 が ﹁我 有 化 ﹂ 欲 望 な の であ る 。 自 己 の外 な る 或 る 対 象 を 我 有 化 す る こ と は 、 己 を ﹁対 自 か つ即 自 ﹂ 存 在 と し て実 ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. 感 11実 現 し よ う と す る存 在 欲 望 の現 わ れ で あ り 、 そ の自 己 実 現 ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. 回 路 な ので あ る 。 つま り 、 或 る 対 象 と 、 そ れ を 所 有 す る が ゆ え. に そ れ に よ って所 有 さ れ る と いう 一体 性 を 実 現 す る こと で、 対. せ 、 そ れ に よ って自 己意 識 性 を 無 化 し 、自 分 を 即 自 存 在 た ら し. 象 が 対象 で あ る が ゆ え に も つ物 性 (11即自 性 ) を 自 ら に 慧 依 さ. め よ う と す る ので あ る 。 と は いえ 、 こ のサ ルト ル の分 析 は 、 究 極 的 に 彼 の提 唱 す る 一 つの モ ラ ル に 支 え ら れ て いる 。 彼 は 、 か か る ﹁ 存在 欲望﹂に い. 彼 の いう ﹁ 存 在﹂たらんとするこ. か ん とも し が た く 取 り 葱 か れ る 人 間 の事 情 を 直 視 し つ つも 、 そ れ か ら解 放 さ れ た 生き 方 -. を 目指 す 。. ね. と を 捨 て 、 ﹁実 存 ﹂ た ら ん と す る 、 い わ ば ︽脱 自 性 の モ ラ ル ︾ ー. 21 こ こ で レヴ ィ ナ スと サ ルト ルと の深 い関連 に つ いて少 しだ け 言 及 し て おき た い。 レヴ イナ スは 、明 ら か に ﹁存 在欲 望 ﹂ と ﹁ 我 有 化 ﹂ の欲 望 と の相 即 性 に視 点 を 据え た サ ルト ル の考 察 を 引き 継 いで いる。 レヴ ィ ナ ス自 身 は、 ﹁我有 化 ﹂ の欲望 を ︽世 界︾ を意 味. 的 に我が も のとす る 欲望 であ ると 定 義 し なお し た うえ で、自 分 の 存 在を いや がう え に も確 固 と した 充 実 し た存 在 と し て実感 し よ う ヘ ヘ ヘ ヘ へ の の と す る 人 間 の存 在 の仕 方 を 、特 別 に強 調 し た 意味 で ﹁存 在 す る﹂ と いう 存 在 仕方 と 呼 び、 ま た そ れが ︽世 界 ︾ を そ の意 味 理解 と い う点 で自 分 のなか へとす べて 所有 し 吸収 しよ う とす る 欲望 であ る と いう 点を 捉 え て、 ﹁ 内存 在 性 ﹂と 呼 ん で いる。 つま り、 外 にあ る も のを 全 て自 分 のな か に精 神 的 に所 有 し消 化 し て しま い、現 実 の な か にあ っても も は や外 部 ・他 者 に脅 かさ れ て いると は感 じ ず自 分 の内部 に自 足 でき る、 と い った 精神 のあ り方 であ る。. 他方 、他 者 に対 し て鋭 い応答 責 任 の関 縣 牲 に入 り 込も う と す る 人 間 の存 在 の仕 方 は 、 いま 見 たよ う な ﹁存 在 す る﹂ と いう 存 在 の. 仕 方 (11 ﹁ 内 存 在 性 ﹂) と は ま った く異 な る別 な 存 在 の仕 方 で あ る 、と レ ヴ ィ ナ スは主 張 す る。 彼 の主著 の 一つは ﹁ 存在 す る と は 別 の仕 方 で 、あ る いは存 在 す る こと の彼 方 へ﹄ と いう 長 い書 名 を も つが 、こ のタ イト ルは そう した 彼 の主 張を 表 わす 。 彼 が こ の点 で特 に 強調 す る こと は 次 の点 だ 。第 一に、応 答 責任. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. の関係 性 にあ っては、 関 係性 を 誕 生 させ る 根 源 の原 理 は受 動 性 で あ って能 動性 では 瞭 か℃叱 。 、りま り 、応 塔 吋 喝欄 孫 粟 沃 喝汰 澗注 淋 臆、 まず も って他 者 に よ ってそ れ ま で泊 扮 ガ偲 }も 沌な か った 仕方 で呼 び か けら れ 、問 いか けら れ 、そ の衝 撃 のな か で、 そ れ に. 応答 し よう と し て初め て自 分 を応 答 の主 体と し て見 出 し形成 す る。 重要 な のは、 この衝 撃 性 を 衝撃 性 と し てか た ちつ く る要 素 と は何 かと いう 点 であ る 。 そ の衝 撃 は、 言 い換 え る と、 そ の他 者 が自 分. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. へ. だ と いう こ と 、 こ の こ と を 思 い 知 ら さ れ た と いう 経 験 で あ る 。 一. ヘ. 吻立 東弦 でも って 嚇沈物 事 の 理解 の枠組 み 。意味 づ け の枠 組 み吃 臆 琢咄 沌 、 、そ 吻堺部 にあ り 、ま だ全 然 自 分 が 理解 でき て いな い或 る別 な 意味 の連 関 を生 き て いて、 そ こか ら 問 いを 発 し て いる存 在. 言 で いえ ば、 そ の他 者 が ま さ に他 者 とし て自 分 の理 解を 超 え て い ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ ると いう こと の骨 身 に し み た認 識 、 他 者 の他 者 性 の痛 感 で あ る。. [67].
(12) 彼は ﹃ 存 在 と 無 ﹄ の いわ ば 結 語 にな る ﹁ 道 徳 的 展 望 ﹂ のな か に こう 書 き 留 め る。 ﹁自 己 を 自 由 と し て欲 す る自 由 と は 、 ( 略)自己を取り戻す こ. . 更 に 、わ れわ れ は 、存 在. こ の場 合 、 問題 な の は、 自 己 欺 朧 であ ろう か 、 そ れと も 、別. 欲 す る こ の存 在 、 わ れ われ は これ を 何 と 解 す べき であ ろう か ?. の 一つの根 本 的 な 態 度 であ ろう か ?. れ ば 、 ﹁人 間 と は 、 超 克 さ れ る べき 何 も のか であ る ﹂ (﹃ツ ァラ. ま さ に こ の 問題 の 展 望 にお いては 、 ニー チ ェの言 葉 を 借 り. パ スペクテ ィヴ. の こ の新 た な 様 相 を 生 き る こと が でき る であ ろう か ?﹂と 。. 己 と 合 致 す るこ と を 選 ぶ の では な く 、 つね に自 分 か ら 距 離 を お. ト ゥ スト ラ﹄) と いう こと にな る。 と いう のも 、 ﹁ 存在欲望﹂ に. と を 選 ぶ の では な く て、 自 己 を 逃 れ る こと を 選 ぶ の であ り 、 自. い て存 在 す る こ と を 選 ぶ の であ る。 自 己 と な れ な れ し く し な い. 22. サ ル ト ル ﹁存 在 と 無 ﹄ 皿 、 四 三 二頁. ヘ. へ. 壁 な自 他 の所 有 的 融 合 を 実 現 す る な ど 、 実 は 不 可 能 事 であ るが. 有 化 欲 望 は 不 可 能 性 の欲 望 であ る 。 対 象 の他 者 性 を 無 化 し て完. み 以 上 に経 験 し 、 そ れ に奥 悩 す る 人 間 であ る。 第 二 に、 実 は 我. 分 へと 己 が 自 己 分 裂 し 、 そ のこ と によ って己 の存 在 欠 如 を 人 並. ざ る を え な い人 間 が い る。 自 己 と そ れ を 無 化 す るも う 一人 の自. え 、 人 間 には 、 或 る特 殊 な 実 存 的 事 情 によ ってそ れ を 過 剰 化 せ. ヘ. は 確 か に自 己 意 識 的 存 在 であ る 人 間 の普 遍 的 欲 望 であ ると は い. であ る こと は いう ま でも な い。 第 一に、 存 在 欲 望 11我 有 化 欲 望. 右 の問 題 事 情 が いわ ば 過 激 化 す る の は、 二 つの契 機 にお いて. ら の解 放 11超 克 も な い。. と な る 。 我 有 化 の欲 望 か ら の解 放 11超 克 な く し て、 存 在 欲 望 か. と って我 有 化 の欲 望 も ま た そ こか ら 人 間 が 超 克 さ れ る べき も の. の超 克 が 目 指 され るか らだ 。 だ か ら ま た こ の点 で、 サ ルト ル に. いか ん と も し がた く 取 り 葱 か れ る人 間 の根 源 の事 情 、 そ れ自 体. こと を 欲 す る こ の存 在 、 自 己 か ら 距 離 を お い て存 在 す る こと を. そ れ は裏 返 し に いう と、 こ れま で自 分が わ か った と いう 気 にな っ て安 住 し て いた、 自分 の ︽世 界︾ に ついて の意味 理 解 が傷を 負 い、 激 しく 動 揺 さ せら れ 、裂 け 目が でき 、も は や そ こ に安住 でき な く な ったと いう 経験 であ る。 つま り、 こ れま で自己 中 心 であ った ︽ 世 界 ︾ への かか わ り が 他 者 中心 のも の へと 変 わ った と いう こと だ。 へ. こ れま で の自 分 の ︽世 界 ︾ 理解 を 、自 分 が 応答 す べき そ の他者 の ヘ. 測 療 も 浸 吻弛 渚 粉身 粟 噂 め π考 え よ い つ芝 賦 悔勢 あ ㌧ るた 乏、 で凪 凝、 い、 噸. ㌧ 爪辿咳 唯 す ること を 捨 て、 そ の他 者 の視点 へと 自己 を 超え て いこう とす るも の へと 変 わ ったと いう こと であ る。 レ ヴィ ナ スは、 だか ら こ の応答 責 任 の関 係性 のな か では 、人 間 は ﹁他者 のため に、 他者 の身代 わ り と な って﹂ 思考 す ると いう あり 方 を と ると 強 調 し て いる。 一言 で いう と 、 ﹁ 絶 対即 相 対﹂ の如 き 世界 ・他 者 と自 己と の絶対 的融 解 、他 者 性 の消 滅 を希 求 す る のでは な く、 反 対 に他 者 性 に よ る我 有 化 の挫 折 をむ し ろ他者 と の豊 かな 交 流 へと 自 己を 開 いて い くた め の転 機 と す る、 そう した 生 の展 望 を レヴ ィナ スは 描 こう と す る。 こ の彼 の視点 は 、 そ の根 本的 文 脈 に お い てサ ルト ル への連 帯 であ り、 ま た 継承 な のであ る。従 来 、 サ ルト ルと レヴ ィナ ス の 相 違 点 ば かり が 強 調さ れ 、 こ の肝心 な 継 承性 が 見 逃 され て いた こ と は遺 憾 であ る。. [68].
(13) ヘ. ヘ. へ. す る と いう 関係 性 が 可能 と な る 。 つま り 、 ﹁ 相 対﹂と は、そう. ヘ. し た意 識 と 意 識 対象 と の 距離 化を 前 提 に 置 く 関 係 性 そ のも ので. ヘ. ゆえ に、 必 然 的 に我 有 化 の欲 望 は挫 折 せざ るを え な い。 こ の悲. あり 、ま た意 識存 在 と は 同時 に 必ず 自 己を 意 識 し た存 在 と し て. ヘ. 劇 的 事 情 が剥 き 出 しと な り 、何 にも ま し て痛 感 さ れ 、 人 が そ の. も あ る か ら 、 サ ル ト ル風 に いえ ば 、 同 時 に ﹁対自 存 在 ﹂ でも あ. ヘ. へ. る。 こ の対 象 意 識的 であ ると 同時 に自 己意 識 的 でも あ る自 我 が. ヘ. 挫 折 へと 最 も 悲 劇 的 な 形 で導 か れ る の は、 本 質 的 に物 であ りえ. へ. ぬ 人間 ( 他 人)を 我有化 せんとす る場 面であ る。それ は通常. る。 つま り 、対 象 か ら の 距離 化 は自 己 か ら の距離 化と 相 即 であ. ヘ. ﹁愛 ﹂ と 呼 ば れ る欲 望 の場 面 であ る。 こ こ でサ ルト ル の議 論 と 漱 石 の ﹁絶 対 即 相 対 ﹂ を めぐ る議 論. 的 に転 入 す る。 そ の こと が ﹁ 絶 対 即 相 対 ﹂ と いう 形 而 上 学 的 目. 宇 宙 的 世 界 と 融 合 し て完 壁 に 一体 と な ると いう 境 地 にま で 一挙. 世 界 と 結 ぶ相 対 の 関係 性 が、 そ のま ま ﹁ 絶 対 ﹂ の境 地 、 つま り. Hは 一郎 に代 わ って、 一郎 の希 求 す る ﹁ 絶対即相対﹂ に つい. と を 関 連 づ け てみ よ う 。. て こう 解 説 す る。 コ 度 此 境 界 に入 れ ば 天 地 も 万有 も 、 凡 て の. 標 であ る。. れ は 東 洋 的 形 而 上 学 の立 場 か ら の主 張 であ る か ら 、自 我 の主 観. 既 に指 摘 し た よう に、 一郎 が ﹁ 神 は自 己 だ ﹂ と いう 場 合 、 そ. 対 象 と い ふも のが 悉 く な く な って、 唯 自 分 丈 が 存 在 す る のだ と. いも のだ と 云 ひ ま す 。 ( 略 )すなわち絶 対だと云 ひます。さう. 性 を 世 界 創 造 主 の位 置 に就 け よ う と す るも の では な い。 む し ろ. 云 ひ ま す 。 そ う し て其 時 の自 分 は 有 る と も 無 いと も 片 の付 か な. し てそ の絶 対 を 経 験 し て いる 人 が 、 俄 然 と し て半 鐘 の音 を 聞 く. にし た 主 観 性 の本 質 であ る ﹁無 化 的 後 退 ﹂ 作 用 が いわ ば 過 剰 化. 反 対 に、 一郎 の側 で問 題 と な って い る こと は 、サ ルト ル が問 題 ふ. と す る と 、 其 半 鐘 の音 は 即 ち 自 分 だ と い ふ の です 。 言 葉 を 換 え. 克 服 で あ る。. す る こと で、 彼 のな か に生 ま れ る いわ ば 離 人 症 的 な 苦 悶 と そ の. て 同 じ 意 味 を 表 わ す と 、 絶 対 即 相 対 にな る のだ と い ふ の です ﹂。 いう ま で も な く 、 こ れ は 禅 仏 教 の立 つ東 洋 的 形 而 上 学 の立 場. そ の こと は 、 一郎 の抱 え る ﹁所 有 ﹂ の欲 望 の意 味 にか か わ っ. で あ る。 ﹁相 対 ﹂ と は 自 己 意 識 的 自 我 のあ り 方 の こ と で あ る 。 或 る対 象 を 意 識 す る と は 、 サ ルト ルに と っては 、 同 時 にそ こか へ. て、 ﹃ 行 人 ﹄ に 登 場 し てく る マ ラ ル メ の エピ ソ ー ド を め ぐ る H. ヘ. へ. と 一郎 のや り と り のな か に明 瞭 な 姿 を 現 わ し てく る。. リ. ヘ. ら そ の対象 で は な いも のと し て自 己 を 定 立 し つ つ距 離 を と る こ. 岩 波 文 庫 版 ﹃行 人 ﹄、 三 八 二 ∼ 三 八 三 頁 サ ル ト ル ﹃存 在 と 無 ﹄ 1 、 一〇 六 、 一二 五 頁 、等 々. は 決 し て な か った 。 そ の事 情 を 知 ら な い或 る 新 し い客 が そ の彼. 際 に は い つも 愛 用 の椅 子 に腰 か け 、 そ れ 以 外 の椅 子 に座 る こと. H が 一郎 に語 ると ころ によ れ ば 、 マラ ル メは 自 宅 で の談 論 の. と 、 ﹁無化 的 後 退 ﹂を す る こと であ り 、 そ う し てこ そ 対象 に相 対. 23 忽. [69].
(14) わ め て類 似 し た 問 題 の コン テキ スト のな か で登 場 す る次 第 を 示. が 抱 え る ﹁所 有 ﹂ の欲 望 が 、 サ ルト ル の ﹁ 我 有 化 ﹂ の議 論 と き. 心 を 乱 し 、 談 論 に身 が 入 ら な か った 。 こ の エピ ソ ード は 、 一郎. 愛 用 の椅 子 に腰 か け てし ま い、 それ が 原 因 でそ の 日 マラ ル メ は. は ゆえ な き こと で はな い。. 神 医 二木 謙 三 が ﹁中央 公論 ﹂ で お こな った議 論 と 関連 づ け た の. 念頭 に ﹃ 行 人﹄ に おけ る ﹁ 所 有 ﹂ 概 念 の独 特 な使 用を 当 時 の精. 稿 の注 4 で指 摘 し た よう に 、解 説 者 の藤 井 淑禎 が 、 こ の 一節 を. 症 的 な 身 体 感 覚 の 不安 ・心 身 一体 感 の喪 失 を物 語 って いる 。本. ﹁椅 子 を 失 って心 の平 和 を 乱 さ れ る マラ ル メは 幸 いな も のだ 。. 化 の苦 悶 が 、彼 の 固有 の実 存 的 事 情 を 拡 大 鏡 と す る こと で 、比. は 、 いわ ば 主 観 性 ( 意 識 ) そ のも の に 原罪 の如 く 纏 い つく 孤立. も の か ら の 自 己 の 分 裂 11孤 独 化 の苦 悶 で あ る 。 一郎 に お いて. り 、 そ れ と 表 裏 一体 の他 者 か ら の分 裂 の苦 悶 であ り 、 世 界 そ の. 示 さ れ て い る の は 、 自 己 の統 合 性 の喪 失 11 分 裂 の苦 悶 であ. す も の であ る。 そし てH が 披 歴 し た こ の エピ ソー ド を 聞 いて、 一郎 は こう 応. 僕 は も う 大 抵 な も のを 失 って い る。 護 に自 己 の所 有 と し て残 っ. 類 な き 鋭 さ で 前 景 化 し 主 題 化 す る と いう 仕 儀 と な って い る の. ず る の であ る。. て い る 此肉 体 さ え 、 ( 此手 や足さえ)遠慮 なく僕を裏 切る位だ. 理 由 を 指 摘 し て こう いう 。 す な わ ち 、 そう な れ ば ﹁ 自分以外 に. Hは 、 な ぜ 一郎 が ﹁絶 対 即 相 対 ﹂ の存 在 状 態 を 渇 望 す る か の. ﹁絶 対 即 相 対 ﹂ の形 而 上 学 的 欲 求 に他 な ら な い。. だ 。 こ の存 在 論 的 な意 義 を 孕 む 孤 立 化 か ら の救 済 、 そ れ が か の. か ら ﹂と 。 こ こ で ﹁大 抵 な も の﹂ と いう 言 葉 で暗 示 さ れ て い るも のは 妻. じ てし ま って いる と いう こと は 、 直 を 失 った と いう こと であ る. 物 を 置 き 他 を 作 って、 苦 し む 必 要 が な く な るし 、ま た 苦 し めら. の直 と の関 係 であ る 。 直 と 自 分 と のあ いだ には 精 神 的 離 断 が 生. が 、 右 に示 さ れ る よ う に、 そ の事 態 は 一郎 によ って ﹁所 有 ﹂ の. れ る 懸 念 も 起 こら な い﹂(ルビ 、 漱 石 ) か ら と いう のが 、 一郎 が. ひと. 喪 失 と し て意 識 さ れ て いる 。. 語 った 理 由 だ 、 と 。 つま り 、 一郎 は 、 ﹁相 対 ﹂、 す な わ ち 関 係 的. ヘ へ. 右 の 一節 は 、 前 節 で立 て た 問 い、 ﹁世 の 中 に落 付 け る ﹂ と い. 存 在 であ ると いう こと 自 体 が 苦 痛 に感 じ る ほど に、 関 係 性 に痛. ヘ. のか 、 と いう 問 い に 一つの答 え を 示 唆 す る も の で も あ る 。 ﹁読. う 一郎 の自 己 救 済 願 望 の根 源 に あ る 不 安 と は いか な る 性 質 のも. め つけ ら れ 、 苦 悩 し て い る人 間 であ り 、 そ こ には 普 通 の平 均 的. 岩波 文庫 版 ﹃ 行 人﹄、三 八三 頁. な 人 間 のも た な い苦 痛 の過 剰 性 が あ る のだ 。. 26. に自 己 の所 有 と し て 残 って いる 此肉 体 さ え ( 略)遠慮なく僕を. 岩 波 文庫 版 ﹃ 行 人﹄、三七 〇頁 。. 裏 切 る ﹂ と いう 一節 は 、 明 ら か に 一郎 が 陥 って いる 或 る 種 離 人. 25. [70].
(15) ヘ. へ. ﹁ ま ず 絶 対 を 意 識 し て ﹂と いう の は 、 ﹁ 絶 対 ﹂ と いう 境位 を い. ヘ. ま だ 実 現 し て いな い目 標 と し て意 識 の 側 か ら出 発 し て 観念 す る. ヘ. も は や許 さ れ なく な ったと いう こ と でも あ る。. 一郎 と 直 と のあ いだ の ﹁相 対 ﹂ の特 殊 な 苦 痛 性 な の であ る。 つ. の苦 痛 の 過 剰 性 を 生 み 出 し た も のは 、 ﹁相 対 ﹂ 一般 で は な く 、. と いう こと だ 。 つま り 、 か か る いまだ 未 実 現 の観 念 に 過ぎ ぬ 目. こ の点 は 何 度 強 調 し ても い いほど 重 要 な 点 であ る。 そ の ]郎. ま り 、 こ こ に前 節 の最 後 に提 示 し た 第 四 の問 題 、 く だ ん の 一郎. 11対 象 化 と いう ﹁ 相 対 ﹂ が 人間 に と って は 不 回帰 点 を なす か ら. こ そ 、 絶 対 は ﹁ま ず 絶 対 を 意 識 し て﹂ と いう 形 で し か 人 間 に. 標と しての ﹁ 絶 対 ﹂ と は実 は既 に ﹁ 相 対 ﹂ で し か な い。意 識化. う 問 いが 浮 上 し て いる の であ る 。 繰 り 返 せ ば 、 そ のよ う な 離 人. で はな いのだ 。 始 めか ら ﹁ 絶対﹂ は ﹁ 相 対 ﹂ 化 さ れ て おり 、意. と って は 問 題 に でき な い。 ﹁絶 対 が相 対 に変 わ る刹 那 ﹂ ど こ ろ. の抱 く ﹁絶 対 即 相 対 ﹂ の存 在 状 態 への渇 望 の起 源 にあ る彼 の根. 症 的 な 世 界 感 覚 が 醸 成 さ れ てき た 根 抵 に、 直 と の関 係 の問 題 性. 源 を な す 不 安 、 あ る いは ﹁存 在 欠 如 ﹂ 感 の淵 源 と は 何 か 、 と い. が 置 か れ て いる のだ 。. 対 ﹂ と いう 救 済 願 望 が 語 ら れ た と いう こと だ け では な い。 こ の. こ の点 で 、 ﹃ 行 人 ﹄ に お い て重 大 な のは 、 た ん に ﹁絶 対 即 相. が 、 自 分 の根 本 的 な 非 宗 教 的 な 世 俗 性 と 軽 薄 さ を 自 認 す る H か. 求 と し て し か 己 を 措 定 で き な く な った 問 い の 原 理 的 な 悲 劇 性. な い のだ 。 いわ ば 始 めか ら挫 折 を 運命 づ け られ 、 不 可能 性 の追. 識 はど んな に転 ん でも ﹁ 絶 対 ﹂ に自 己 を 融 解 す る こと など でき. 救 済 願 望 が 、 にも か か わ ら ず 、 一郎 にお い て実 現 不 可 能 であ る. ヘ へ. 第 二点 は 、 いま し がた 述 べた H か ら の醒 めた 批 判 と いう 問題. ヘ. にかかわる。 ﹃ 行 人 ﹄ は H に ﹁私 は能 く 知 って いま し た 。 考 え. ヘ. ら の醒 めた 批 判 と し て こ こ で語 ら れ て いる のだ 。. て 一郎 に 次 の よ う な 指 摘 を お こ な う 。 ﹁ま ず 絶 対 を 意 識 し て、. て考 え て考 え 抜 いた 兄 さ ん の頭 に は、 血 と 涙 で書 か れ た宗 教 の. ヘ. こ と が 容 赦 な く 示 さ れ る こと であ る。 H は こ の救 済 願 望 に つい. そ れ か ら 其 絶 対 が 相 対 に変 わ る 刹 那 を 捕 え て、 そ こ に 二 つ の統. 二字 が 、 最 後 の手 段 と し て 、踊 り 叫 ん で いる事 を 知 って いま し. ガ. 一を 見 いだ す な ん て、 随 分 骨 が 折 れ るだ ろう 。 第 一人 間 に出 来. た﹂ と いわ せ 、 か つH に 他 方 自 分 の方 は ﹁た だ 教 育 の御 蔭 で そ. ね. の急 所 を 突 く 批 判 で あ る。 そ し てま た これ は 、 洋 の東 西 を 問 わ. る 事 か 何 だ か 夫 さ え 判 然 と し や しな い﹂。 と 。 実 に こ れ は 一郎. う いう 言 葉 を 使 う 事 だ け を 知 って いた ﹂ 人 間 だ と 自 嘲 さ せ る。. 同前 、 三六 九頁. ず 、 いわ ば 実 存 的 不 回 帰 点 と し て西 欧 近 代 的 主 観 性 原 理 が 確 立. 28. そ の こ と で 、 一郎 の抱 え た ﹁所 有 ﹂ の 問 題 の宗 教 性 と 実 存 性 、. 同前 、 三九〇 頁. し てし ま った あ と で の人 間 にと っては 、 か か る 問 い の設 定 し か. 27. [71].
(16) ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ へ. こ こ で の ﹁所 有 ﹂ 概 念 は 、 ﹃ 行 人 ﹄ 全 体 の小 説 的 結 構 の な か で. か く て第 三 点 は 、 こ のよ う な 対象 と自 我 と の合 一を 意 味 す る. 一郎 が か か る 苦 悩 を 二郎 に打 ち 明 け る次 の 一節 にわ れ わ れ を 送. ケ ー シ ョン を め ぐ る 一郎 の苦 悩 にあ る 。 こ の明 白 な る事 情 は 、. 小 説 に 即 し て具 体 的 に いえ ば 、 一郎 と 直 と のデ ィ ス ・コ ミ ュニ. は 人 間 問 の コミ ュ ニケ ー シ ョ ン の可 能 性 の問 題 に、 さ ら に こ の. から始まる ﹃ 行 人 ﹄ の ﹁所 有 ﹂ 論 を 駆 動 す る 最 深 の動 因 は 、 実. ヘ. 一郎 の返 答 は は か ば か し いも の では な か った 。 そ う いう 経 過 の. ヘ. な か で、 突 然 、 一郎 は H に こう 問 い か け る 。 ﹁君 の心 と 僕 の心. ヘ. つま り 、 そ れ が心 身 の全 体 性 に か か わ る自 己 の存 在 感 の 問 題 、. と は 一体 何 処 迄 通 じ て い て、 何 処 か ら 離 れ て いる のだ ろう ﹂と 。. ヘ. つま り 生 の実 践 と 一つに な った 存 在 論 的 問 題 であ り 、 一郎 に. ヘ. と って は生 死 に か か わ る 切 実 な生 の 問 題 であ る こ と を 浮 か び 上. こ の展 開 は 、 前 述 し た よ う に、 ﹁所 有 ﹂ と いう 概 念 に よ って. ヘ. が ら せ て いる 。 言 い方 を換 え れ ば 、 一郎 の問 題 は サ ル ト ル の い. いう 問 題 に あ る こと を 示 し て い る。 つま り 、 ﹁塵 労 ﹂ 三十 六 節. 指 示 さ れ る 中 心 的 問 題 が デ ィ ス ・コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン の解 消 と. ヘ. う ﹁ 存 在 欲 望 ﹂ の 場 面 で 立 て ら れ て いる ので あ り 、 直 は 、 そ の. ヘ. 成 就 の 鍵を な す ﹁所 有 ﹂欲 望 の対 象 つま り ﹁我 有 化 ﹂ 対 象 と し. は 、 実 は 、 何 よ り も 妻 直 と 一郎 と の 精 神 的 離 断 、 デ ィ ス ・コ. て 問 題 と な る ので あ る 。. ミ ュ ニケ ー シ ョ ン が 一郎 の な か に生 み 出 す 、 所 有 欲 望 と いう. ﹃ 行 人 ﹄ のな か の有 名 な 一節 ( ﹁兄 ﹂ 章 ・二十 節 ) であ る。 一. り返す。. 郎 は 二郎 に メレ ヂ スと いう 人 物 に つ い て話 し 、 メ レ ヂ スは こう. 問 題 コ ン テ キ ス ト を 中 核 に も つと いう こ と であ る。 百合 、 森 、 谷 、 蟹 、等 々 の物 あ る いは 人 間 以外 の生 物 一般 、 あ る いは 自 分 へ. い って いる と 紹 介 す る 。 ﹁ 自 分 は 女 の容 貌 に 満 足 す る 人 を 見 る. ヘ. 29. 同 前 、 一二九 頁. 同前 、 三六 四頁. つか. の肉 体 の肢 体 、 つま り ﹁対 象 ﹂ 的存 在 を 相 手 にし た ﹁所 有 ﹂ 概 へ. 念 の 問 題 は 実 は前 景 に し か 過ぎ な い。 問 題 の実 質 的 重 心 は 物 な ヘ. と 羨 ま し い。 女 の肉 に満 足 す る 人 を 見 ても 羨 ま し い。 自 分 は ど. ヘ. う あ っても 女 の霊 と い ふか 魂 と い ふか 、 所 謂 スピ リ ット を 撰 ま. ヘ. ら ぬ 、 あ る いは ﹁対 象 ﹂ 的 存在 な ら ぬ 、 人 間 あ る いは マル テ ィ. な け れ ば 満 足 出 来 な い。 そ れ だ か ら ど う し ても 自 分 には 恋 愛 事. ヘ. ン ・ブ ー バ ー 的 に いえ ば ﹁汝 ﹂ 的存 在 を 相 手 にし た ﹁所 有 ﹂ の. 件 が 起 ら な い﹂( 傍 点 、 引 用 者 ) と 。 いう ま でも な く 、 一郎 は メ. ヘ. 問 題 に こ そ あ る 。 そ し て サ ル ト ルに 寄 せ て述 べた よ う に 、 我 有. ヘ. 化 欲 望 が 悲 劇 的 挫 折 に遭 遇 す る 場 面 中 の 場 面 と は 、 こ の ﹁愛 ﹂. レヂ スに 自 分 を 託 し て い る。 こ の 一節 を ﹁塵 労 ﹂ 三十 六 節 以 降. ﹁塵 労 ﹂ 三十 六 節 の展 開 は こ う であ る 。始 め Hは 一郎 の ﹁所. 30. ね. と いう 慾動 と 関 係 性 の場 面 な のだ 。. いう 意 味 で ﹁所有 ﹂ と いう 言 葉 を 使 って いる のだ と 尋 ね て も 、. 有 ﹂ と いう 言 葉 を 聞 いた と き そ の意 味 が わ か ら な か った 。 ど う. [72].
(17) つか. た いと いう 基 本 的 な 欲 求 は 、 も う 一つ のす ぐ れ て人 間 的 な 欲. 彼 は こ う 指 摘 す る 。 ﹁孤 独 の牢 獄 を 抜 け 出 し て 他 の人 と 融 合 し. 求 、す な わ ち ﹃人間 の秘 密 ﹄ を 突 き と め た いと いう 欲 求 と 密 接. に結 び つけ れ ば 、 二 十 節 で の ﹁撰 ま な け れ ば ﹂ と いう 表 現 は. に か か わ って いる ﹂と 。 ま さ に 一郎 を 捕 え て いる のは こ の愛 す. ﹁所 有 ﹂ に置 き 換 え う ると いわ ね ば な ら な い。 あ と でも う 一度 取 り 上 げ る が、 こ の 一節 の前 に は ﹁書 物 の研. る他 者 の秘 密 を 突 き と めた いと いう 欲 求 であ る。 と こ ろ で フ ロ. お. い、 現 在 の自 分 の眼 前 に い て、 最 も 親 し か る べき はず の人 、 そ. 究 と か 心 理 学 の説 明 と か 、そ んな 廻 り 遠 い研 究 を 指 す のじ ゃな. ム に よ れ ば 、 こ の ﹁秘 密 を 知 る﹂ と いう 欲 求 の 前 に は 二 つの. ぬ. の人 の心 を 研 究 し な け れ ば 、 居 ても 立 っても いら れな いと いう. 道 ・方 法 が置 か れ て い る。. いる 欲 望 の何 た る か が 説 明 さ れ て いる 。. ヘ. へ. ヘ. ヘ. へ. る。 そ れ は 、 他 人 を 完 全 に 暴 力 で 抑 え 込 む こ と であ る 。 ( 略). を 知 るた め の可 能 性 が 一つあ る。 ただ し絶 望 的 な 可 能 性 で はあ. 一つは サ デ ィズ ム の道 ・方 法 で あ る 。 彼 は こう いう 。 ﹁秘 密. よ う な 必 要 ﹂と いう 言 葉 が 置 か れ 、 そ れ に よ って 一郎 を 捉 え て. ヘ. こ こで あ ら か じ め 注 意 し てお き た い。 そ こ では ﹁研 究 ﹂ と い ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. ヘ. へ. 他人を ﹃ 認 識 ﹄ す るた め の こ の極 限 の方 法 は サ デ ィズ ム の極 端. ヘ. う 言 葉 が 使 用 さ れ て いる よ う に、 直 の心 は 研 究 対 象 と し て措 定. ヘ. さ れ 、 そ の知 的 解 読 が 問 題 と な って い て、 次 の第 四点 で述 べ る. へ. ヘ. な 形 態 のな か に与 え ら れ て いる。 つま り 、人 を 苦 し め、 拷 問 に. ヘ. か け 、 苦 し ま せ て秘 密 を 白 状 さ せ た いと いう 欲 望 と 、 そ う す る. ヘ. よ う に 、 直 と 一郎 と の関 係 性 は ブ ー バ ー 的 に いえ ば ﹁私 -き. ヘ. 能 力 の のう ち に。 他 の人 間 の秘 密 に 、そ の こと でま た 自 分 自 身. ヘ. み﹂関係性 ではなく、 ﹁ 私 -そ れ ﹂ 関 係 性 と な って いると いう. ヘ. こ と だ 。 そ れ は 、 実 は ﹁通 じ る ﹂ ( 交 流 す る ) と いう 言 葉 が 呼 ヘ. の秘 密 に迫 り た いと いう こ の渇 望 こ そ、 人 間 の残 虐 行 為 の激 し. ヘ. さ と 深 さ を 生 み 出 す 本 質 的 な 動 機 な の であ る﹂と 。. ヘ. へ. 吸 し て いる よ う な 相 互 応 答 的 な 、 か つ心 身 統 合 的 な 直 観 性 に駆. ヘ. 動 さ れ た 全 体 的 性 格 の関 係 性 では な い。 心 身 的 統 合 性 か ら 一面 ヘ. も う 一つ の道 ・方 法 は 、 愛 と いう 一体 化 行 為 によ るそ れ であ. へ. 的 に 分 離 さ れ た と いう 意 味 で 抽 象 化 さ れ 、 過 剰 に反 省 化 さ れ 意 ヘ. る 。 そ れ に つ い て フ ロム は 実 に適 切 に こ う い って いる 。 ﹁愛 と. ヘ. は 、 能 動 的 に相 手 のな か へと 入 って ゆく こと であ り 、 そ の 一体. ヘ. いて推 理 的 に ﹁知 る ﹂ と いう 関 係 性 に 過 ぎ な い。. 33. 同前 、 五三頁. る 文 章 の 翻 訳 は 一部 引 用 者 に よ って 改 め ら れ て いる 。. 32 エ ー リ ッ ヒ ・フ ロ ム、 鈴 木 晶 訳 ﹃愛 す る と いう こ と ﹄ (新 装 改 訳 版) 紀 伊 國屋 書 店、 五 二∼ 五三 頁 、な お こ の本 か ら の引 用 さ れ. 識化され論理 化された ﹁ 知 る ﹂ と いう 関係 性 、 ﹁知 識 ﹂ に 基 づ. た と え ば 、 エー リ ッヒ ・フ ロム は こ の問 題 に つ いて ﹃ 愛 する. 同 前 、 一二 八 頁. と いう こと ﹄ の な か で 次 の的 確 な指 摘 を お こ な って いる 。 ま ず. 31. [73}.
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