〈論文〉識別可能資産のオンバランス化に関する研究
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(2) 第 1 4巻 第 1号. 1 はじめに 現行のわが国の会計基準の下では,企業が支配していながら貸借対照表に計上されていない資 産が,企業結合によって識別可能資産として初めて資産計上される場合がある D また ,企業結合 の分類によっては,企業結合後であっても資産計上されない場合もある O このような識別可能資 産を,企業結合以前において企業が資産計上していないのであれば投資家が必要としている投 資のストック情報を明確に開示しているかという点について疑問が生じる O 本稿は,識別可能資産の貸借対照表への計上可能性仁その認識・測定方法について考察する ことを目的とする O 企業結合が行われることによって. 初めて取得企業の貸借対照表に計上され. ている項目を ,企業結合によらずとも,企業の貸借対照表に計上することで,投資のストック情 報をより明確にすることができ,投資家にとってより有用な情報が提供できるものと思われる O 以上の問題意識に基づき,まず,わが国において企業結合が行われた際の会計処理を概観し, そこから識別可能資産に係る問題点を指摘する。次に,日本,米国,国際会計基準 ( I n t e r n a t i o n a l. I n t e r n a t i o n a lF i n a n c i a lR e p o r t i n g A c c o u n t i n gS t a n d a r d s:I A S ) および国際財務報告基準 ( S t a n d a r d s:IFRS) において採用されている無形資産の取扱いを比較したうえで,識別可能資産 として認識し資産計上すべき項目について検討する O さらに,のれんの本質についての現在の解 釈を概観し取得原価と識別可能資産および負債の純額との差額として処理されているのれんか ら,本質的なのれん以外の項目を抽出し. 当該項目の資産計上の可能性について検討する D 最後. に,これらの検討した項目の測定方法について考察し識別可能資産の貸借対照表への計上可能 性を提示する O. 2 企業結合会計の現状ー研究の目的・背景ー 「企業結合に関する会計基準」では,企業結合を,その経済的実態から取得,共同支配企業の 形成,共通支配下の取引に分類しそれぞれについて個別の会計処理を定めている O 取得の場合,被取得企業または取得した事業の取得原価は,原則として取得の対価(支払対 価)となる財の企業結合日における時価で算定される O 取得原価は,被取得企業から受け入れた 資産および引き受けた負債のうち,企業結合日時点において識別可能なもの(識別可能資産およ び負債)の企業結合日時点の時価を基礎として. 当該資産および負債に対して配分される 1)。 こ. の際,受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には,当 該無形資産は識別可能なものとして取り扱われる 2)。 また. 取得原価が受け入れた資産および引. 1 ) 企業会計基準委員会 [ 2 0 1 3 a Jr 企業会計基準第 2 1号 企業結合に関する会計基準J . 第2 8 項。 2 ) 同上基準書,第 2 9 項。. - 18-.
(3) 識別可能資産のオンバランス化に関する研究(谷口). き受けた負債に配分された純額を上回る場合には,その超過額はのれんとして資産の部に計上さ れる 3)。 共同支配企業の形成の場合. 共同支配企業は共同支配投資企業から移転する資産および負債. を,移転直前に共同支配投資企業において付されていた適正な帳簿価額によって計上し,共同支 配投資企業が受け取った共同支配企業に対する投資の取得原価は. 個別財務諸表上,移転した事. 業に係る株主資本相当額に基づいて算定される 4)。 共通支配下の取引の場合,移転する資産および負債は,原則として,移転直前に付されていた 移転後も計上される O 移転された資産および負債の対価として交付さ. 適正な帳簿価額によって れた株式の取得原価は このように,. 当該資産および負債の適正な帳簿価額に基づいて算定される 5)。. I 企業結合に関する会計基準」には企業結合に該当する取引ごとに個別の会計処. 理が定められているのであるが. それぞれについて,資産および負債の評価,取得原価の算定方. 法,認識される資産および負債の範囲について,相違点がみられる O これらの相違点を表にした ものが,表 lである O 表 l 企業結合の会計処理. 一 一 一 一 一 一 一. 資産および負債の評価. 取得. 共同支配企業の形成. 企業結合日時点の時価. 共通支配下の取引. 移転直前の帳簿価額. 同左. 取得原価の算定方法. 支払対価の時価. 移転した事業に係る株主 資本相当額. 移転する資産および負債 の帳簿価額. 認識される資産および負 債の範囲. 企業結合前に計上されて いたかどうかにかかわら ず,識別可能な資産およ び負債を計上. 企業結合前に計上されて いた資産および負債を計 上. 同左. これら 3つの相違点からみられるように,企業結合に該当する取引であっても ,取得とされる か共同支配企業の形成または共通支配下の取引とされるかによって. その会計処理は異なること. となる D その中でも,特に異なる点は,のれんや識別可能資産および負債といった,企業結合前 にはいずれの結合当事企業においても計上されていなかったものが,企業結合によって計上され る可能性の有無である O 取得の場合には,のれんや識別可能資産および負債が新たに計上される 可能性があるのに対し,共同支配企業の形成および共通支配下の取引の場合には,これらが計上 されることはない。 しかし識別可能資産が企業結合前から計上されていた場合には,共同支配 企業の形成および共通支配下の取引の場合にも,移転する資産の一部として計上されることとなる O わが国の財務会計の概念フレームワークによれば財務報告の目的は. 投資家による企業成果. の予測と企業価値の評価に役立つような,企業の財務状況の開示にあると考えられている O しか. 3) 同上基準書,第31~32項 。 4) 向上基準書,. 第38~39項 。. 5 ) 同上基準書,第4 1項,第4 3 項。. - 19-.
(4) 第1 4巻 第 l号. し,現在のわが国の会計基準では,識別可能資産の範囲や認識要件が限定的であるために,識別 可能であるにもかかわらず資産計上されていない場合や,識別不可能なものとして,のれんに含 めて計上されている場合がある O このような状況においては,投資家が必要としている企業の財 務状況が明確に開示されているかという点について疑問が生じる 。識別可能資産の範囲や認識要 件を見直すことにより. 企業結合の有無にかかわらず. 企業の投資のストック情報をより明確に. することが可能となると考える D. 3 無形資産に関する会計基準の比較 有形資産が企業結合日前に資産計上されていないとは考え難いことから,被取得企業の企業結 合目前の貸借対照表において計上されていない項目は ,無形資産が大半を占めるものと考えられ るO そこで,以下では識別可能資産の範囲について,無形資産に焦点をあてて検討する O 無形資産は,図 lに示すように,取得取引の有無および識別可能性の有無を指標とすること で,4つのグループに分類される 。 まず無形資産は ,取得取引の有無によって,取得無形資産と 自己創設無形資産に分類される O 企業外部との直接的な取引によって獲得される無形資産は,取 得無形資産に分類され,企業の内部努力によって生成される無形資産は,自己創設無形資産に分 類される O さらに. 識別可能性の有無によって. 識別可能無形資産と識別不能無形資産に分類さ. れる 。識別可能性とは ,のれんと他の無形資産を区別するために設けられた概念であり,企業か ら独立して評価できれば識別可能無形資産に. できなければ識別不能無形資産に分類される 。. (①識別可能取得無形資産. f取得無形資産. ②識別不能取得無形資産 無形資産{ L自己創設無形資産. ③ 識別可能自己創設無形資産 { L④ 識別不能自己創設無形資産. 図 l 無形資産の分類 出所 :佐藤他編著 [ 2 0 1 3 J, 2 2 6頁を一部修正。. 本章では ,のれんとは区別される無形資産,すなわち識別可能無形資産に分類される項目につ いて概観する O わが国では ,無形資産の範囲について,. r 企業会計原則」に, r 営業権,特許権,地上権,商標. Jと定められているほか,研究開発費やソフトウエ 権等は,無形固定資産に属するものとする 6)o. r. 6 )企業会計審議会 [ 1 9 8 2 J 企業会計原則 I 第三4 ( ー) B。. - 20-.
(5) 識別可能資産のオンバランス化に関する研究(谷口). ア制作費に関する「研究開発費等に係る会計基準 jや,企業結合により受け入れた無形資産に関 する「企業結合に関する会計基準」がある O 研究開発費は,発生時に全額費用処理することとされており,ソフトウェア制作費のうち,研 究開発に該当する部分も研究開発費として費用処理される 7)。 ソフトウェアについては. その制作目的により将来の収益との対応関係が異なることなどの理. 由により,制作目的別に会計処理が定められている 8)。そのうち,自社利用のソフトウェアで, 将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合には. 自己創設によるものであっ. ても,取得に要した支出は発生時に費用処理されず資産計上される 9)。 企業結合により受け入れた無形資産については 価を基礎として配分し. 取得原価を識別可能資産および負債にその時. 取得原価が識別可能資産および負債の純額を上回る場合には,差額をの. れんとして無形資産に計上することとしている O この際. 受け入れた資産に法律上の権利など分. 離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には,当該無形資産は識別可能なものとして取り扱う こととしている。 米国の会計基準では. 企業結合が行われた際,被取得企業の取得コストが識別可能資産および. 負債の純額を超過する場合には. 当該超過額をのれんとして認識しなければならないとされてい. る10)。 この際,契約上あるいは他の法的な権利によって発生する無形資産は,のれんと分離し, 資産として認識しなければならず. 無形資産が契約上あるいは他の法的な権利から発生していな. い場合には,当該無形資産を獲得した企業から分離可能であり,それが意図的か否かにかかわら ず,売却・移転・ライセンス・賃貸・交換ができる場合に限り,のれんと分離し,資産として認 識しなければならないとされている 11)。 また,自己創設のソフトウェアについては,開発プロジェクトを初期段階,アプリケーション 開発段階,稼働後段階に分けたうえで,アプリケーション開発段階の内部および外部費用のみが 資産計上される O なお. アプリケーション開発段階であっても. 換費用は資産計上されず. トレーニング費用やデータの転. 発生時の費用とされる 12)。. I n t e r n a t i o n a lA c c o u n t i n gS t a n d a r d sBoard:IASB) による会計基準で 国際会計基準審議会 ( は , IFRS第 3号「企業結合」において,企業結合に伴って認識された識別可能資産および負債 の純額と,支払対価との聞に差額が生じる場合には,当該差額をのれんとして認識することとさ れている 13)。さらに. 企業結合によって取得した無形資産が個別にあるいは他の資産・負債. 7 ) 企業会計審議会[19 9 8 a Jr 研究開発費等に係る会計基準J.三。 8 ) 企業会計審議会日 9 9 8 b J 研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書1 . 三 3( 1 )。. r. 9 ) 向上書,三 3 ( 3 )。. 1 0 ) FASB [ 2 0 1 3 J, A c c o u n t i n gS t a n d a r d sCod がc a t i o n,p訂 .8 0 5 3 0 3 0 -1 . 1 1 )I b i d .,p訂 s .8 0 5 2 0 5 5 2 3 . 1 2 )I b i d .,p訂 s .3 5 0 4 0 2 5 1 6. OJ .I n t e r n a t i o n a lF i n a n c i a lRゆo r t i n gS t a n d a r d sNo. 3,B u s i n e s sC o m b i n a t i o n .par.3 2(企業会計基 1 3 ) IASB [ 2 01 2 0 1 2 Jr 国際財務報告基準 ( I F R S )2 0 1 2 J中央経済社)。 準委員会・財務会計基準機構監訳 [. - 21-.
(6) 第1 4巻 第 1号. と共に企業から分離・分割したうえで,売却・移転・ライセンス・貸与・交換ができる場合や, 企業や他の権利・義務から分離可能であるか否かにかかわらず 生じているような場合には. 契約あるいは他の法的権利から. 当該無形資産は識別可能なものとして. のれんとは区別して認識す. ることとされている 14)。. IAS第 3 8 号「無形資産」では 研究開発を研究と開発に区分したうえで研究に関連する支出 は,発生時に費用処理されるが,開発から生じた無形資産は,一定の要件を満たす場合に限り, 資産として認識しなければならないとされている 15)。 日本基準では,企業結合によって取得した無形資産の識別可能要件として,法律上の権利など 分離して譲渡可能であることが求められているのみである O 他方,米国基準および IFRS第 3号 では,分離可能性,法律上の権利に加え,契約に基づくものも識別可能であるとされている D そ のため,米国基準, IASおよび IFRSにおいて識別可能無形資産に分類される項目は,. 日本基準. よりもかなり広範なものとなっている D わが国においても,識別可能無形資産の範囲として,法 律上の権利など分離して譲渡可能なものに加え,他の会計基準のょっに契約に基づく項目につい ても識別可能無形資産として認識することは可能であると考える D また, 日本基準では,. I 法律上の権利など分離して譲渡可能なもの」として,法律上の権利を. 分離して譲渡可能なものの 1つとして位置づけているが,米国基準 16) や IFRS第 3号17)では, 契約や他の法的権利について. 譲渡可能であることや. 企業または他の権利や義務から分離可能. であることは求めていない。これは,契約や他の法的権利から生じるものであれば,たとえそれ が譲渡可能あるいは分離可能でないとしても. のれんとは区別して認識できる無形資産であると. 考えられるからである 18)。 ここまで述べてきたことから. 識別可能要件としては. の lつとして位置づけるのではなく. 法律上の権利を分離して譲渡可能なもの. 企業または他の権利や義務から分離可能であるかどうかにか. かわらず,独立した要件とすることが望ましいと考える。さらに,契約上の権利についても識別可 能なものとして取り扱うことで,識別可能資産の範囲を拡大することにつながるものと考える O. 4 のれんの本質とのれんに内包される無形資産 のれんの本質については,今日に至るまで様々な解釈がなされてきた。代表的なものとして は,潜在的無形資産説,超過利益説,差額説が挙げられる(梅原. [ 2 0 0 0 J,9頁)。その後, 2 1世. 1 4 )I b i d . , AppendixA .par.B31(向上訳書)。 1 5 ) IASB [ 2 0 0 8 J,I n t e r n a t i o n a lA c c o u n t i n gS t a n d a r d sNo.38 ,I n t a n g i b l eA s s e t s , p訂 s .5 4 , 5 7(同上訳書)。 1 6 ) FASB [ 2 0 1 3 J, 。ρ.c i t . , S e c t i o n .8 0 5 2 0 2 0 . ] , 。ρ.c i t . , AppendixA (企業会計基準委員会・財務会計基準機構監訳 [ 2 0 1 2 J,前掲訳書)。 1 7 ) IASB [ 2 0 1 0 1 8 )I b i d . , p訂 .B32( 同 上 訳 書 ) . , FASB [ 2 0 1 3 J, 。ρ.c i t ., P訂 . 8 0 5 2 0 5 5 2 .. - 22-.
(7) 識別可能資産のオンバランス化に関する研究(谷口). 紀になると , これらの解釈に代わって,企業結合によって生じるのれんをいくつかの構成要素に 分解し,そこからのれんの本質と考えられるものを抽出していくという考え方が台頭してくる O 米国の財務会計基準審議会 ( F i n a n c ia 1AccountingStandardsBoard:FASB) が 1 9 9 9年に公 表した公開草案では. これまでのれんとして認識されてきた金額には. 以下の 6つの構成要素が. 含まれていると説明されている 19)。 1.取得日において. 被取得企業の純資産の公正価値が簿価を超えるその超過額。. 2 . 取得日において. 被取得企業が認識していなかった他の純資産の公正価値。. 3 . 被取得企業の既存事業の継続企業要素の公正価値。 4 . 取得企業と被取得企業の純資産および事業が結合することにより期待される相乗効果の公 正価値。. 5 . 提示された対価の価格の決定に付随して生じる誤謬に起因する取得企業が支払った対価の 過大評価。 6 . 取得企業による過大支払や過小支払。. また, IASBによって公表された IFRS第 3号においても. のれんは FASBの1 9 9 9年公開草案. と同様の 6つの構成要素からなるとの説明がなされている 20)。 さらに. それぞれの構成要素に. ついて,次のように説明している O 構成要素 lについては. 被取得企業が純資産に関して認識していなかった利得を反映するもの. であり ,のれんの一部ではなく資産の一部となる O 構成要素 2もまた,のれんの一部ではなく, 基本的には個別の資産として認識される無形資産である D 構成要素1. 2は 共に被取得企業に 関係するものであり. 概念的にはのれんの一部にはならない 21 ) 。. 構成要素 3は,被取得企業の純資産の超過集合価値をいう O これは,被取得企業内部で創設さ れたまたは以前の企業結合によって被取得企業が取得した. 企業結合以前に存在しているのれん. である O 構成要素 4は,企業結合によって生じた超過集合価値であり,事業を結合することで期 待される相乗効果である O 構成要素 3. 4は. コアのれんとして表現される 22)。. 構成要素 5は,測定上の誤謬である O 構成要素 6は,被取得企業に対する入札の過程で価格が. ヲl き上げられる場合に生じる過大支払や,強制売却の場合に生じる過小支払であり,これらは取 得企業の損失または利得である D 構成要素 5,6は共に取得企業に関係するものであるが,いず れも資産ではないため,概念的にはのれんの一部ではない 23)O 上記のように,米国基準および IASBは,のれんを 6つの構成要素からなるものとしたうえ. 1 9 ) FASB [ 1 9 9 9 , ] ExposureD r a f t:ProposedStatemento fF i n a n c i a lAccountingS t a n d a r d s, B u s i n e s s 71 . C o m b i n a t i o n sandI n t a n g i b l eA s s e t s, p訂 . 1 2 0 )IASB [ 2 0 1 0 J.o p .c i t . . p紅 .BC313(企業会計基準委員会・財務会計基準機構監訳 [ 2 0 1 2 J . 前掲訳書)。 2 1 )I b i d . .p a r s. BC313-314(同上訳書)。 2 2 )I b i d . .p a r . BC316(向上訳書)。 2 3 )I b i 瓦. p 訂 s .B C 3 1 3 . BC315(同上訳書)。. - 23-.
(8) 第1 4巻 第 l号. で,そのうち構成要素 3,4がコアのれんであるという考えを採っている O 現在の米国基準および IASBでは,のれんを 6つの構成要素からなるものとしたうえで,それ ら構成要素のうち,. I 被取得企業の既存事業の継続企業要素の公正価値」と「取得企業と被取得. 企業の純資産および事業が結合することにより期待される相乗効果の公正価値」を本質的なのれ んと捉えている D このような現在の米国基準および IASBにおけるのれんの解釈によれば,のれんは本質的な のれん(構成要素 3,4) と,のれんに内包されている項目(構成要素1, 2,5,6) に分類さ れ,さらに,のれんに内包されている項目は,のれん以外の資産とされるもの(構成要素 1,. 2)と,そもそも資産ではないもの(構成要素 5,6) に分類される O 構成要素 5,6について は,そもそも資産ではないと考えられていることから,のれんから区別されたとしても,識別可 能資産として計上されることはないものと思われる O また. 構成要素 lは 被取得企業の純資産. の公正価値と簿価との差額であることから,被取得企業において既に認識されている項目に関係 するものである O 他方,構成要素 2は,被取得企業が認識していなかった項目であり,無形資産 として個別に認識されるべきものであるとされている O つ ま り , の れ ん を 細 分 化 し 構 成 要 素. 3,4を本質的なのれんとすることで 構成要素 2はのれんとは区別され個別の資産として認 識されることとなる O し か し 構 成 要 素 2を個別に認識するためには識別可能性が求められるため,構成要素 2に該 当する項目であっても,個別に資産計上されていないものが存在することとなる O それらが資産 計上されていない最も大きな理由は,当該資産が信頼性をもって測定できないためであると考え られる O 構成要素 2は,基本的には個別の資産として認識される無形資産であると説明されてい ることから,資産の定義は満たしているものと解することができる。しかし. その価値を信頼性. をもって測定できないために,被取得企業において認識されておらず,企業結合後も個別に資産 計上されない項目が構成要素 2には存在するのである O このような項目について,信頼性をもっ て測定することが可能であれば,識別可能資産として個別に計上される項目はより拡大するもの と思われる。. 5 識別可能資産の評価 無形資産の方法としては,一般に,コスト・アプローチ,マーケット・アプローチ,インカ ム・アプローチの 3つの方法が考えられる O これらの方法を. 資産の特性などにより併用または. 選択して,合理的な価額を算定することとなる 24)。 2 4 ) 企業会計基準委員会 [ 2 0 1 3 b Jr 企業会計基準適用指針第 1 0 号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関 ,第 5 3 項 ( 2 )。企業会計基準委員会 [ 2 0 0 9 Jr 企業会計基準適用指針第 6号 固定資産の減損に する適用指針J 0 9 項 。 係る会計基準の適用指針J . 第1. - 24 ー.
(9) 識別可能資産のオンバランス化に関する研究(谷口). 無形資産を外部から個別に取得した場合,. 日本基準,米国基準, IASBいずれの会計基準にお. いても,当該資産の評価方法として,コスト・アプローチが採用されているものと考えられる O そのため,契約上の権利に基づく無形資産について ,わが国においても資産計上を求める場合に は,コスト・アプローチで評価することになるであろう。これは,契約は他者との間で行われる ものであることから,契約上の権利に基づく無形資産は,他者との契約によって外部から取得す るものと考えられるためである O そこで,以下では識別可能資産のうち,自己創設による無形資産,すなわち識別可能自己創設 無形資産に焦点をあてて検討する O なお. 資産の特性などによって選択される最適な評価方法は. 異なるものと考えられるが外部から個別に取得した場合には た評価方法が用いられているわけではなく. 資産の特性などによって異なっ. 共通してコスト・アプローチが採用されているた. め,本稿では識別可能自己創設無形資産の評価方法について,個別に検討するのではなく,識別 可能自己創設無形資産全般に採用される評価方法を検討する O 識別可能自己創設無形資産全般に 採用される評価方法を提示することで. 企業結合によらずとも当該資産が貸借対照表に計上され. ることとなる O その結果,前章で述べたのれんの構成要素 2は企業結合以前から既に減少してい ると考えられ,企業結合が行われた場合に認識される識別可能取得無形資産の評価にも資するも のと思われる 25)O まず, 3つの評価方法からいずれか l つを選択する場合について検討する O マーケット・アプローチは,市場を通じた第三者間の実際の取引価格を用いて評価するため, 最も直接的であり,極めて客観性が高い方法ではあるが,無形資産の多くは市場が未発達である か,そもそも市場が存在していないことが多いため,ごく一部の無形資産には適用可能であって も,識別可能自己創設無形資産全般に採用することは不可能であると考える O インカム・アプローチは,活発な市場が存在しない場合であっても適用可能であるが,無形資 産が生み出す将来キャッシュ・フローの金額,期間,割引率などを予測する必要があり , また, それらを予測することは困難な場合が多いことから. 評価額の信頼性に欠ける O すでに述べたよ. うに,ある資産が認識可能であっても貸借対照表に計上されていない最も大きな理由は,当該資 産が信頼性をもって測定できないことであり,信頼性をもって測定可能であることが,資産計上 の重要な課題であると思われる O そのため,インカム・アプローチを単独で採用することは困難 であると考える O コスト・アプローチは,無形資産に対する投資金額または再調達原価で評価するため,インカ ム・アプローチに比べて信頼性や客観性は高い 。 さらに,取得原価主義との整合性も高いため , 無形資産を外部から個別に取得した場合との整合性も確保される O また,自己創設無形資産のう. 2 5)構成要素 2とは, I 取得日において被取得企業が認識していなかった他の純資産の公正価値」であり ,のれんと は区別して個別に認識されるべき資産であるが信頼性をもって測定できないために 項目をいう 。. - 25-. のれんに含まれている.
(10) 第1 4巻 第 1号. ち,わが国の会計基準において資産計上が認められているソフトウェアは. 取得原価で計上され. ていることからも , コスト・アプローチを識別可能自己創設無形資産全般に採用できる可能性は 高いと考える O しかし,無形資産のほとんどは. 投資金額と価値金額がかけ離れる可能性が高い. ため,コスト・アプローチによる評価には限界がある 。無形資産に多額の投資を行ったにもかか わらず,当該無形資産からわずかな利益しか得られないのであれば. それは無形資産の過大評価. となり,わずかな投資から期待以上の利益が生まれれば,それは過小評価となる 。 では,これら 3つの評価方法を併用するとどうであろうか。マーケ ッ ト・アプローチは,利用 できる市場の未発達または不存在という問題から採用は不可能であると考える O そうなると,考 えられるのはコスト・アプローチとインカム・アプローチの併用である 。 コスト・アプローチの 限界は,無形資産に対する投資金額とその価値金額の議離であるが,インカム ・アプローチは , 無形資産が生み出す将来キャッシュ・フローを割ヲ│いて評価する方法であるため,両者を併用す ることで識別可能自己創設無形資産全般の合理的な評価は可能であると考える O 具体的には , コスト・アプローチで投資金額を,インカム・アプローチで価値金額をそれぞれ 測定し,そこで算定された金額のうちいずれか低い方の金額をもって. 対象資産の評価額とする. のである O 通常,企業はある資産に投資をする際,投資対象となる資産の価値と同等またはそれ よりも低い支出であれば,当該資産に対する投資を実行し. 当該資産の価値よりも高い支出とな. る場合には,投資を行わないか中断すると考えられる O そのため. 投資金額が価値金額を上回る. 場合に ,投資金額で資産を評価することは当該資産の過大評価につながるため,価値金額で評価 する O この場合,投資金額が価値金額を上回っているため. 価値金額に相当する投資は行われて. いることから,信頼性や客観性は確保される 。他方,投資金額が価値金額を下回る場合,価値金 額による評価は信頼性に問題があるため. 信頼性や客観性が確保されている投資金額で評価す. るO この場合,投資金額と価値金額が議離していれば,資産の過小評価となる可能性があるが, 将来キャ ッシュ・フローに基づいて算定された価値金額には不確実性が伴うことから ,投資金額 と価値金額の話離をただちに過小評価と判断することは適切ではないであろう 以上の見解から,識別可能自己創設無形資産全般の評価は. O. コスト・アプローチとインカム・. アプローチを併用して行う方法が最適であると考える O 識別可能自己創設無形資産全般の評価方法として. コスト・アプローチとインカム・アプロー. チを併用することで,当該資産の評価額に一定の信頼性をもたせることができる O その結果,こ れまで認識要件を満たしていながら資産計上されてこなかった無形資産が貸借対照表に計上さ れ,投資のスト ック情報をより明確にすることができる O また,そのような資産が企業結合前か ら個別に計上されていれば,取得とされる企業結合の場合のみならず,共同支配企業の形成およ び共通支配下の取引に該当する企業結合においても. 当該資産が計上されることとなる O. なお,識別可能取得無形資産,すなわち外部から個別に取得した無形資産は,コスト・アプ ローチに基づき ,取得に要した支出額で当初認識時に資産計上される O 識別可能自己創設無形資. - 2 6ー.
(11) 識別可能資産のオンバランス化に関する研究 ( 谷口). 産全般について,本稿で提唱するコスト・アプローチとインカム・アプローチを併用して評価す る方法は , コスト・アプローチで算定した投資金額とインカム・アプローチで算定した価値金額 のうち,いずれか低い方の金額で資産を評価するため,いずれの金額で評価した場合であって も,当該金額に相当する支出は行われている O そのため,この方法は無形資産を外部から取得し た場合の評価方法とも整合性が保たれると考える O また,識別可能自己創設無形資産のうち, 日本基準,米国基準, 資産計上が求められているソフトウェアは. I A Sおよび I F R Sで共通して. いずれの会計基準においても ,当該ソフトウェアの. 取得に要した支出額に基づいて評価することとされている O さらに 産計上するのではなく. その支出額のすべてを資. 支出額のうち一定の要件を満たした部分が資産計上される 26)。 コスト・. アプローチとインカム・アプローチの併用による評価方法は. 投資金額が価値金額を上回る場. 合,投資金額のすべてを資産計上するのではなく,価値金額に相当する金額で資産を評価するた め,ソフトウェアの評価に用いられている方法とも ,非常に近いものであると思われる O このように,識別可能自己創設無形資産を,コスト・アプローチとインカム・アプローチを併 用することで,信頼性をもって評価し,貸借対照表に計上することは可能であると考える O 識別可能自己創設無形資産が計上されるということは,資産の増加を意味するため,会計処理 上,資産の増加に対する相手勘定を決定する必要が生じる(真田 [ 2 0 0 9 J,2 0 1頁 )0資産の増加 の相手勘定としては. 資産の減少負債の増加. 純資産の増加,収益の増加,費用の減少が考え. られるが,識別可能自己創設無形資産の資産計上に伴う資産の増加の相手勘定としては,費用の 減少が適切であると考える D 相手勘定を費用の減少とする会計処理は,現在,自己創設のソフトウェアや める社内発生研究開発費のうち. I A S第 3 8 号が定. 開発段階の支出を無形資産として計上する際に行われているも. 2 0 0 9 J,2 0 2頁 )0 ソフトウェアなどの研究開発に要した支出は,発生時に全額 のである(翼団 [ 費用処理されるが. 一定の要件を満たした場合には. 支出額の一部は発生時の費用とはされず,. 資産として計上される O つまり,支出時の費用が減少しそれに相当する金額が資産の増加とし て処理されるということであり. 実際の支出額の一部が資産計上されることとなる D また , 自己. A S第3 8 号における開発段階の無形資産は,識別可能自己創設無形資産 創設のソフトウェアや ,I に該当することを考慮すると,費用の減少を相手勘定とするのが妥当であろう. O. さらに , これら. の資産が支出額に基づいて計上されていることから,費用の減少を相手勘定とする会計処理は , コスト ・アプローチとインカム・アプローチの併用による評価方法との整合性も高いと考えられる 。. 2 6 ) 日本基準では,将来の収益獲得または費用削減が確実で、 あると認められる状況にな った時点から ,実質的に制 作作業が完了したと認められる状況にな った時点までの支出が資産計上 される 。 米国基準では,ソフトウエアの開発プロ ジェクトを初期段階,アプリケー シ ョン開発段階,稼働後段階に分け たうえで,アプリケーション開発段階の内部および外部費用のみが資産計上される 。 IAS第 3 8 号では,研究開発活動を研究局面と開発局面に分類し,開発か ら生 じた無形資産 について,企業が 6 つの要件すべてを立証できる場合に限り 資産計上される 。. - 2 7ー.
(12) 第1 4巻 第 l号. 6 おわりに このように,識別可能自己創設無形資産をコスト・アプローチとインカム・アプローチの併用 によって評価し,費用の減少を相手勘定とする会計処理を行うことで,当該資産が貸借対照表に 個別に計上されることとなる O そして. 当該資産が個別に計上されることで,企業結合によらず. とも個別に当該資産を取引の対象とすることが可能となる O そのような取引が行われれば,識別 可能自己創設無形資産は識別可能取得無形資産として買手の貸借対照表に計上される O また,企 業結合が行われた際,識別可能自己創設無形資産が企業結合日以前から計上されていれば,取得 とされる企業結合の場合にのみ新たに当該資産が計上されるのではなく. 共同支配企業の形成お. よび共通支配下の取引に該当する企業結合の場合にも,当該資産が計上されることとなる D 以上のことから,識別可能自己創設無形資産をコスト・アプローチとインカム・アプローチの 併用によって評価し,資産計上を行うことで,企業内部で自己創設した無形資産のみならず,外 部から取得した無形資産を含む識別可能資産全般の貸借対照表への計上可能性は高まるものと考 える O. 引用文献. r. 梅原秀継 [ 2 0 0 0 J のれん会計の理論と制度一無形資産および企業結合会計基準の国際比較 - j 白桃書房。. r 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針』。 r 企業結合に関する会計基準J 。 [ 2 0 1 3 b Jr 企業会計基準適用指針第 1 0 号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に. 企業会計基準委員会 [ 2 0 0 9 J 企業会計基準適用指針第 6号. 2 0 1 3 a J 企業会計基準第 2 1号 企業会計基準委員会 [ 企業会計基準委員会. 関する適用指針』 。. r r 1 9 9 8 b Jr 研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書J 。 企業会計審議会 [ 2 0 1 3 Jr スタンダードテキスト財務会計論 Iく 基 本 論 点 編 > 第 7版』中央経済社。 佐藤信彦他編著 [ 2 0 0 9 JI 実 務 家 論 孜 自 己 創 設 無 形 資 産 に 関 す る 財 務 会 計 上 の 諸 問 題J r 税経通信』第 6 4 巻第 5号 , 翼団久雄 [ 8 2 J 企業会計原則』。 全 業 会 計 審 議 会 日9. 9 8 a J 研究開発費等に係る会計基準J。 企業会計審議会[l9. 1 9 4 2 0 3 頁 。 FASB [ 1 9 9 9 J . ExposureD r a f t:ProposedStatemento fF i n a n c i a lAccountingS t a n d a r d s .B u s i n e s s C o m b i n a t i o n sandI n t a n g i b l eA s s e t s . FASB [ 2 0 1 3 J .A c c o u n t i n gS t a n d a r d sC o d i f i c a t i o n . IASB [ 2 0 0 8 J .I n t e r n a t i o n a lA c c o u n t i n gS t a n d a r d sNo. 3 8 .I n t a n g i b l eA s s e t s(IFRS財団編 [ 2 0 1 2 J 国際財 I F R S )2 0 1 2 j 中央経済社) 務報告基準 ( IASB [ 2 0 1 0 J.I n t e r n a t i o n a lF i n a n c i a lR e p o r t i n gS t a n d a r d sNo. 3 .B u s i n e s sC o m b i n a t i o n( I FRS財団編 [ 2 0 1 2 J 『国際財務報告基準 ( I F R S )2 0 1 2 j 中央経済社). r. - 28-.
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